相続放棄の期間は3ヶ月!延長する方法や期限が過ぎた場合の対処法

相続放棄

更新日 2024.02.05

投稿日 2024.02.05

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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相続放棄の期間には制限が設けられており、被相続人の死亡を知った日から3ヶ月以内(「熟慮期間」)に行う必要があります。この期限を過ぎてしまった場合でも、特別な事情があれば相続放棄を申し立てることができることがあります。例えば、被相続人の死亡を知らなかった場合や、相続財産の詳細が明らかになるのが遅れた場合などです。

この記事では、相続放棄の期間を延長する方法や期間制限を過ぎた場合の対処法などについて弁護士がわかりやすく解説いたします。

目次

相続放棄の手続き期間は「相続開始から3ヵ月」

 

相続放棄の手続き期間は「相続開始から3ヵ月」

 

相続放棄は、被相続人の財産を一切受け取らないことを家庭裁判所に申述する手続きです。
この手続きを行うことで、被相続人からプラスの財産(例えば現金や不動産など)を受け取らない代わりに、借金やその他の負債も引き継がなくて済むようになります。特に、被相続人の負債が財産の総額を上回っている場合によく利用されます。
相続放棄を行いたい場合は、被相続人の死亡を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。

相続放棄の期間は、民法915条1項において次のように定められています。

(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

熟慮期間とは│3ヵ月以内に相続の方法を選択

「熟慮期間」とは、相続の開始を知った時から3ヶ月以内の期間を指し、この期間内に相続人は相続方法を選択する必要があります。この選択には、単純承認、限定承認、または相続放棄の3つがあります。

  1. 単純承認:被相続人のプラスの財産とマイナスの財産全てを相続する方法です。この選択をすると、被相続人の預金や不動産などの財産だけでなく、借金やその他の負債も全て相続人が受け継ぐことになります。
  2. 限定承認: 被相続人のプラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産、つまり負債を相続する方法です。これにより、相続人自身の資産を使って被相続人の借金を返済する必要がなくなります。ただし、相続人全員が一緒に申請する必要があるため、相続人全員がこの方法を選ばなければならないということです。
  3. 相続放棄: 被相続人のプラスの財産とマイナスの財産全てを一切受け継がない方法です。

相続放棄しなかった場合│3カ月を過ぎた場合は自動的に単純承認となる

この熟慮期間内に、相続放棄または限定承認の申立てを行わなかった場合、法律により相続人は自動的に「単純承認」をしたものとみなされます。
単純承認となると、被相続人の負債が財産を上回る場合、相続人は自分の資産を使ってこれらの債務を返済することになりかねません。

(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

このため、相続発生を知ったら、速やかに財産や債務の状況を把握し、最善の選択を行うことが重要です。不明な点があれば、この期間内に弁護士に相談することをお勧めします。
なお、相続財産の内容が明確でない場合には、家庭裁判所に熟慮期間の延長を申し立てることが可能です。

相続放棄の期間はいつから3ヶ月?起算点は「相続開始を知った時」

相続放棄の期間の起算日は、「相続開始を知った時」です。この「知った時」とは、相続人が被相続人が亡くなったという事実を初めて知った時点です。
通常は、死亡の事実を知った時ですが、特定の状況では異なる場合があります。

たとえば、相続順位が先行する人(先順位者)が相続放棄した結果自分が相続人となった場合は、この「先順位者の放棄を知った時」が起算点となります。
例を挙げると、被相続人の子が相続を放棄した場合、その子の放棄を知った時点から被相続人の父母(その次に相続人となる権利を持つ人)の相続放棄の期間が始まります。

相続開始を知った時を証明する方法

通常、親などの被相続人の死亡日を知った日が相続開始日となります。この死亡日は、戸籍謄本や除籍謄本で証明可能です。
しかし、死亡日以降に相続の事実を知った場合、戸籍謄本だけでは「相続開始を知った日」を証明するのが難しい場合があります。このような状況では、以下のような書類が証明になります。

  1. 金融機関や消費者金融からの督促状
  2. 固定資産税などの滞納通知
  3. 親族や知人からの死亡を知らせる手紙
  4. 弁護士からの遺産分割協議の通知書

また、先順位の相続人が相続放棄した場合、その事実を知った日を証明するためには、「相続放棄受理通知書」が有効です。この通知書を受け取った日が、相続開始を知った日となります。

3ヶ月以内に裁判所へ書類の提出を!審査が完了する必要はない

この3ヶ月という期限内に相続放棄の全ての手続きを完了させなければいけないわけではなく、期限内に申述書や他の必要書類を裁判所に提出する必要があるということです。
つまり、相続放棄を行いたい場合、裁判所の最終的な承認が3ヶ月以内に得られる必要はなく、必要書類の提出が期限内に完了していれば、その後の裁判所の審査が期限を超えても問題ありません。

3ヶ月の期限に迫っている場合は、まず最優先で家庭裁判所へ「相続放棄の申述」に必要な書類を提出しましょう。家庭裁判所に提出する必要がある書類は、例えば以下のようなものです。
戸籍謄本などの取得に時間がかかる場合は、「相続放棄の申述書」だけでも裁判所に提出しましょう。そのうえで、他の書類の準備に時間が必要である旨を伝えてください。

  • 相続放棄の申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

提出先の家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所となります。
また、申立てにかかる費用は、相続人1人あたり800円分の収入印紙と、連絡用の郵便切手です。郵便切手の総額と内訳は裁判所によって異なるため、事前に管轄の家庭裁判所に問い合わせて確認してください。

詳しい手続き方法については裁判所ホームページ「相続の放棄の申述」をご覧ください。申立書のひな形や記載例も掲載されています。

期間を延長できる可能性も│相当の理由が必要

何らかのやむを得ない事情があって熟慮期間内に決断ができない場合、特別にこの期間を延長することが可能です。
この期間の延長を求める手続きは「期間伸長の申立て」と呼ばれ、この申立ては相続が発生してから3ヶ月以内に行う必要があります。つまり、相続放棄を検討しているが、何らかの理由で迅速な決定が困難な場合は、期限内に家庭裁判所に延長申請を提出することが必須となります。

ただし、期間伸長の申立てが必ずしも認められるわけではなく、裁判所の判断によります。延長される期間も裁判所によって異なりますが、一般的には最大で1ヶ月から3ヶ月程度とされています。
裁判所は、申し立て内容を検討して、相続放棄の決定に追加の時間が必要かどうかを判断します。裁判所の審査基準は厳しいわけではありませんが、「単に忙しいから」といった一般的な理由では通常は延長が認められません。

具体的に期間を延長できる状況としては、以下のようなケースがあります。

延長が認められる場合│期限を「知らなかった」では延長できない

以下のようなやむを得ない事情があった場合にのみ延長の申請が可能です。単に、相続放棄に3カ月の期間があることを知らなかったという理由などでは、受け入れられません。

①相続財産の調査に時間がかかる場合

相続放棄の期間延長が認められる主なケースは、相続財産の調査に時間がかかる場合です。
これには、被相続人が複数の銀行や証券会社に口座を持っている、不動産を多地域に渡って所持している、または多重債務状態で債権者の特定が難しいといった状況が含まれます。これらの場合、全体の財産や負債を適切に評価するためには、3ヶ月の熟慮期間を超える時間が必要になることがあります。

加えて、被相続人から相続財産に関する事前の情報がほとんど、または全くない場合も、期間延長の有力な理由となります。特に、財産目録が作成されていないうえに財産の内容が不明確な場合は、その調査と評価には相当の時間が必要となります。

これらのような状況では、家庭裁判所は期間の延長を認めることが一般的です。重要なのは、相続財産の詳細な調査が必要な事情を適切に説明し、合理的な理由をもって期間延長を求めることです。

②相続人の所在が不明の場合

相続放棄の期間延長が認められるケースの一つに、相続人の所在が不明である場合があります。
たとえば、被相続人の戸籍を調べた際に、これまで知られていなかった相続人(隠し子など)がいることが判明したり、長期間連絡が取れていない兄弟姉妹の住所や生死が不明な場合、または相続人が海外に居住しており連絡が取れない場合などです。

このような状況では、家庭裁判所は相続放棄の期間延長を認めることがあります。不明な相続人を探すための時間を提供し、すべての相続人が適切な相続手続きを行えるようにするためです。

この申し立てを行う際には、相続人の所在不明が原因で相続放棄が難しいという事情を裁判所に明確に伝える必要があります。

「期間伸長の申立て」方法

相続放棄の期間延長の申立ては、各相続人が個別に行う必要があります。たとえ全員が相続放棄を希望していても、一人が他の全員を代表して申し立てることはできません。
申し立て先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。申立て書類は、直接持参するか、郵送で提出します。

申立てにかかる費用は、相続人1人あたり800円分の収入印紙と、連絡用の郵便切手です。郵便切手の総額と内訳は裁判所によって異なるため、事前に管轄の家庭裁判所に問い合わせて確認してください。
申立ての際の必要書類には以下のような書類が含まれます。なお、申立人と被相続人の関係に応じて、追加の戸籍謄本が必要になることがあります。

  1. 申立書(以下の裁判所のホームページにひな形が提供されいますのでご確認ください。)
    相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立書」(裁判所HP)
  2. 被相続人の住民票の除票または戸籍附票
  3. 申立てを行う相続人自身の戸籍謄本

期間を過ぎた場合も条件を満たせば相続放棄できる

相続放棄には法律上「3カ月」という期限が設定されていますが、この期限を超えても相続放棄が認められることがあります。ただし、期限経過後の相続放棄が認められるかどうかは、家庭裁判所の裁量に委ねられており、一定の条件を満たす必要があります。

裁判所のHPの記載を引用すると以下のとおりです。

「相続放棄の申述は、相続人が相続開始の原因たる事実(被相続人が亡くなったこと)及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知ったときから3か月以内に行わなければなりません。ただし,相続財産が全くないと信じ,かつそのように信じたことに相当な理由があるときなどは,相続財産の全部又は一部の存在を認識したときから3か月以内に申述すれば,相続放棄の申述が受理されることもあります。」(「相続の放棄の申述」)

つまり、期限後の相続放棄が認められるケースとして、以下の3つの要件が重要とされます。

①財産・債務の存在を知らなかったこと

相続人が相続放棄の動機となる財産や債務の存在を、熟慮期間内に知らなかった場合、期限後の相続放棄が認められる可能性があります。

②知らなかったことに相当な理由があること

相続人が財産や債務の存在を知らなかったことについて、合理的な説明ができる必要があります。例えば、借金が期間経過後に判明した場合などが該当します。

③知ってから3カ月以内に申述をしたこと

財産や債務の存在を知った後、速やかに、つまり知った日から3カ月以内に相続放棄の申述を行った場合、期限後であっても相続放棄が認められる可能性が高まります。

これらの要件を満たす場合、裁判所は期限経過後でも相続放棄を認めることがあります。

しかし、これらはあくまで傾向であり、裁判所の最終的な判断によるため、慎重な対応が求められます。期限後の相続放棄を考えている場合は、要件に該当するかどうか弁護士に相談されることをお勧めいたします。

期限切れでも相続放棄が受理された判例│借金を知らなかった場合

上で解説したとおり、相続人が被相続人の債務の存在を知らなかった場合は、相続開始から3ヵ月の期間を過ぎていても相続放棄が認められることがあります。
例えば、下記の判例では、相続人が相続開始の事実を知った後、3カ月以内に限定承認や相続放棄をしなかった場合でも、相続財産の存在を知らなかったことに正当な理由があれば、その財産の存在を知った時から熟慮期間が新たに起算されると判断されました。(最高裁昭和59年4月27日判決・家庭裁判月報36巻10号82頁)。

「熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知つた時から起算すべきものであるが、相続人が、右各事実を知つた場合であつても、右各事実を知つた時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があつて、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知つた時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。」(裁判所HP:「昭和59年4月27日最高裁判所第二小法廷判決」)

具体的な事案では、被相続人が亡くなった際、相続人は父親とほとんど交流がなく、父親の生活状況や財産状況について何も知りませんでした。そのため、相続財産がないと信じていた原告は、相続放棄を行いませんでした。しかし、約1年後に父親の借金が発覚し、驚いた原告は直ちに相続放棄を申し立てました。

最高裁は、被相続人と原告との間に長年の交流がなく、財産状況を知ることが困難であった点を考慮し、原告が財産の存在を知らなかったことに正当な理由があると判断しました。その結果、財産の存在を知った日から新たな熟慮期間が設定され、期限切れ後であっても相続放棄が認められました。

その他の期限にも注意│相続税申告および納税手続きは10か月以内

相続が発生した際、相続放棄の手続きだけでなく、他にも相続において注意すべき期限があります。
主なものとして、相続税の申告および納税手続きがあります。相続税の申告および納税の期限は、被相続人の死亡から10ヶ月以内と定められています。この期間内に、相続税の申告を行い、必要に応じて納税を完了させる必要があります。

相続税申告は、被相続人の財産を正確に評価し、その上で課税額を計算するというとても複雑な手続きです。適切な申告と納税を行うためには、不動産の評価、預金や株式などの財産の把握、負債の控除など、多くの要素を考慮する必要があります。

特に、相続税の申告には多くの書類が必要となるため、準備に時間を要することが一般的です。そのため、被相続人の死亡を知った際には、速やかに相続税の申告と納税の準備を開始することをお勧めいたします。期限を過ぎると、遅延税や加算税が課される可能性があるため、期限内の申告と納税が非常に重要です。

相続税の申告および納税に関して不明な点がある場合は、弁護士に相談することをお勧めします。

相続放棄に関するQ&A

Q: 相続放棄の手続きはどのような流れで行われますか?

A: 相続放棄の手続きは以下の流れで進みます。まず、被相続人の死亡を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄申述書を提出します。必要書類を添えて提出後、裁判所が書類を審査し、受理するかどうかを決定します。受理されれば、相続放棄が正式に成立し、手続きが完了します。

Q: 相続放棄の期間を延長することは可能ですか?

A: 通常、相続放棄の期間は被相続人の死亡を知った日から3ヶ月以内ですが、特別な事情がある場合には期間延長の申立てが可能です。例えば、相続財産の全容が不明で調査に時間がかかる場合や、相続人の所在が不明な場合などが該当します。この申立ては、相続財産や相続人の特定に必要な追加時間を求めるものです。

Q: 相続放棄の申立てをするための期限が近づいているが、まだ準備が整っていない場合、どうすればよいですか?

A: 期限が迫っている場合でも、まずは相続放棄申述書を期限内に提出することが重要です。他の書類が揃っていない場合でも、申述書の提出を優先し、その後で残りの書類を提出することが可能です。書類が揃わない理由を裁判所に説明し、追加書類の提出期限を相談することが推奨されます。

Q: 相続放棄の申立てが受理された後、どのようにして手続き完了が確認できますか?

A: 通常、裁判所は相続放棄が受理されたことを示す「相続放棄受理通知書」を申立て人に郵送します。この通知書には、相続放棄が受理された日付が明記されています。
この受理通知書は、相続放棄の手続きが法的に認められ、正式に完了したことを証明する重要な文書です。受理通知書を受け取ったことで、相続放棄が有効に行われたことが確定し、相続人としての責任や権利が放棄されたことになります。

まとめ

相続放棄を考えている場合、最も重要なのが「熟慮期間」とされる3ヶ月の期間です。この期間内に、相続放棄申述書を家庭裁判所に提出する必要があります。
しかし、正当な理由がある場合、この熟慮期間は伸長される可能性があります。たとえば、相続人が相続の事実を知らなかった、または相続財産の全貌が明らかになるのが遅れた場合などが該当します。期間伸長の申立ても家庭裁判所で行われます。

重要な注意点として、相続放棄をする際には、遺産を処分したり隠したりする行為は避ける必要があります。これらの行為は相続放棄の無効を招く可能性があるからです。相続放棄の手続きは複雑で、法的な知識が必要となるため、自分一人で手続きを進めるのが難しい場合は、弁護士に相談することをお勧めします。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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