略奪婚とは?慰謝料を請求されるリスクや対処方法を弁護士が解説
浮気や不倫をした末に、元いた恋人や配偶者から略奪して結婚してしまう略奪婚。
芸能人の略奪婚のニュースが度々世間を賑わせたり、ドラマなどフィクションの題材になったりすることも多いですが、現実の略奪婚は単なるエンタメでは終わりません。
お互いに独身で略奪するならまだしも、すでに結婚している夫婦の仲を壊しての略奪婚は、倫理的な問題だけでなく、法的な問題も生じます。
そこでこの記事では、略奪婚の基本的な意味に加えて、独身者の略奪のケースと既婚者の略奪のケースの違いや、慰謝料請求などの法的リスクについて、弁護士がわかりやすく解説させていただきます。
また、子持ちの夫婦の一方が略奪婚した場合に、子供に与える影響や、略奪婚したその後の生活は幸せなのか、後悔することになるのか、といったことについてもご説明いたします。
配偶者を略奪された場合の対処方法についても軽く触れていますので、ぜひ最後までご一読ください。
目次
漫画やドラマだけじゃない・・・略奪婚とは?
恋人のいる男女や既婚の男女を別れさせて結婚すること
漫画やドラマの題材としても少なくない略奪婚。フィクションとして見る分には楽しいのかもしれませんが、現実の略奪婚はエンタメの範疇にはおさまりません。
略奪婚(りゃくだつこん)とは、すでに恋人のいる男女や既婚の男女を別れさせて、結婚することを意味しています。
「略奪する」という言葉自体に、「暴力的に奪い取って自分のものにすること」という意味があるので、略奪婚という言葉にもあまり良いイメージはないかと思います。
この略奪婚について、相手がまだ結婚していない場合、「恋人のいる相手を奪うのは倫理的にどうなのか」という問題はありますが、独身同士では自由恋愛からの結婚なので、法的には問題はありません。
ですが、相手が既婚者だったのを離婚させて略奪婚したような場合や、婚約関係にあった男性・女性を婚約破棄させたような場合には、倫理的問題のほかに、法的問題が生じる可能性があります。
この記事では、主に既婚の男性・女性の略奪婚に注目し、その法的リスクについて解説いたします。
既婚の男性・女性との略奪婚の法的リスク
略奪が原因で夫婦が離婚した場合、慰謝料を請求されることも
さて、結婚している男性・女性と恋愛関係になり、結果として夫婦を離婚させてしまった場合、配偶者のいる相手と肉体関係になったことで、「不貞行為」という不法行為(民法第709条)に該当する可能性があります。
(不法行為による損害賠償)
民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
不貞行為による略奪婚によって、相手の配偶者が「夫婦として平穏に安定した婚姻生活を維持する」という利益を侵害されることになるため、民法第710条の規定により、損害賠償する責任を負うことになるのです。
(財産以外の損害の賠償)
民法第710条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
一般的に、不倫慰謝料の相場は50万円から300万円程度です。そのため、略奪婚の場合も50万円から300万円ほどの慰謝料を支払わなければならないリスクが生じます。
また、婚姻期間の長短や、子供の有無、略奪婚の態様などによっても慰謝料の金額は増減するでしょう。
なお、独身でも相手が婚約関係にあった場合は、浮気が原因で婚約破棄に至ったことに対して、慰謝料請求などの法的な問題が生じる可能性があります。ですが、婚約関係にあったことを証明し、不貞行為があったことを証明しなければならないため、既婚者の不貞行為の慰謝料請求よりも難しくなることが多いです。
また、既婚のケースよりも婚約関係のケースの方が、慰謝料の金額が低くなる傾向にあります。
ところで、略奪婚のリスクは、慰謝料の支払いだけにはとどまりません。略奪婚をしたその後の生活や人間関係、子供との関わり方においても、略奪婚は少なくない影響を及ぼすのです。
考えられる略奪婚のリスクは、主に次の5つあります。
5つのリスク
略奪婚のリスク1.慰謝料の支払いなどで金銭的に厳しくなる
略奪婚を行うことで生じる慰謝料の支払いなど、大きな出費が原因で、その後の生活が経済的に厳しくなる場合があります。
さらに、略奪婚してからの新生活を始めるにあたって、引越し費用、家具や家電の購入にかかる費用、新居の敷金・礼金など、さまざまな出費も想定されます。
また、略奪婚をした相手に未成年の子供がいる場合は、略奪婚後も子供の養育費を支払わなければなりません。
こうした多額の出費によって、略奪婚後の生活が経済的に苦しくなる可能性があります。
略奪婚のリスク2.仕事を辞めざるをえなくなる
既婚者から略奪婚した場合、仕事を辞めざるをえなくなるリスクがあります。
略奪婚に伴う社会的な非難やスキャンダルは、職場での信頼や評価を大きく損なう可能性があります。特に、公的な立場にある人や、社会的な影響力が大きい職業に就いている場合、略奪婚が原因で職を失うことも考えられます。
また、略奪婚によって生じたストレスや精神的な負担は、仕事のパフォーマンスにも影響を与える可能性があり、その結果、自ら退職を選択することになるかもしれません。
さらに、職場での人間関係が悪化することで、居心地が悪くなり、転職を余儀なくされるケースもあります。
このように、略奪婚は自分のキャリアプランや人生設計にも影響を及ぼすのです。
略奪婚のリスク3.自分や相手の家族との仲が悪くなる
既婚者から略奪婚をした場合、自分や相手の家族との関係が悪化するリスクがあります。
略奪婚は、元配偶者とその家族にとってはひどい裏切り行為です。特に、略奪婚のための離婚に子供を巻き込んでしまう場合、元配偶者や子供に多大な精神的影響を及ぼすことになってしまいます。
また、略奪婚をした相手の家族からも、略奪婚による結婚は祝福されない可能性があります。略奪婚を理由に縁を切られてしまうこともあり、その後の結婚生活で孤立したと感じることが多々あるかもしれません。
こうした家族関係・親族関係の悪化は、精神的なストレスを増大させ、生活の質を低下させることにもつながります。
略奪婚のリスク4.略奪婚により交友関係が変化する
既婚者から略奪婚をした場合、交友関係が変化するリスクがあります。略奪婚は、周囲の人々からの見方や評価に大きな影響を与える可能性があり、友人や知人との関係が悪化することが考えられます。
特に、略奪婚した相手とその元配偶者に共通の友人がいた場合、友人側としては略奪婚された側より、略奪婚をした側との交友関係を断ち切る可能性が高いです。
また、略奪婚の事実が広まると、社会的な評判が落ち、新たな交友関係を築いていくことが難しくなる場合もあります。
略奪婚に関わったことで、以前は親しかった友人から避けられたり、批判されたりすることがあり、孤立することになるかもしれません。仲間内の集まりやイベントへの招待が減ることも考えられ、社会的なつながりが希薄になることがあります。
このように、略奪婚は交友関係に大きな変化をもたらすリスクがあるのです。
略奪婚のリスク5.略奪婚後に仲が冷え切ってしまう
既婚者から略奪婚をした場合、その時の一時的な盛り上がりや勢いによって略奪婚に至ることが多いですが、略奪婚後に関係が冷めてしまうことも少なくありません。
最初はお互いに強い愛情を感じていても、時間が経つにつれて、略奪婚によるストレスや、経済的な問題、人間関係の変化などが、二人の関係に影響を及ぼすことがあります。
略奪婚をした後、結婚生活が始まると、以前は見えなかった相手の欠点が次第に明らかになることがあります。お互いに良い側面ばかり見せていた不倫中の頃とは異なり、常に一緒にいる共同生活になると、お互いの悪い側面も見えてくることがあるでしょう。
また、略奪婚の相手の元配偶者に対する優越感や、不倫をするスリルや背徳感を味わいたくて不倫をしていたような場合には、略奪婚で相手を手に入れてしまうと、とたんに気持ちが冷めてしまうこともあります。
こうした相手に対する気持ちの変化というリスクもあるのです。
子持ち夫婦の略奪婚が子供に与える影響
略奪した相手に子供がいる場合や、子持ち夫婦同士が不倫をして略奪婚をした場合などには、略奪婚は子供にも影響を与えます。また、略奪婚後の子供との関わり方にも、影響を及ぼすことになります。
子供に疎まれたり、会えなくなったりする可能性があります
子持ち夫婦の略奪婚は、子供に深刻な影響を与える可能性があります。特に、略奪婚によって家庭が崩壊すると、子供は精神的に多大なストレスを感じることになります。
また、両親が離婚した理由が不倫による略奪婚であると知った場合、子供は略奪婚をした親に対して強い反感を持つようになることも考えられます。そうなると、子供は略奪婚をした親を疎むようになり、略奪婚後の親との交流に消極的になったり、略奪婚をした親との交流を拒絶するようになることもあります。
子供自身は略奪婚をした親に対してそこまでの嫌悪感を抱いていない場合でも、元配偶者やその家族が、子供への悪影響を心配して、子供と略奪婚をした親との交流を制限しようとすることもあるでしょう。
通常、未成年の子供がいる夫婦が離婚すると、どちらか一方が親権を獲得し、子供を監護しない親は面会交流で子供と関わっていくことになります。
ですが、略奪婚が原因で離婚に至った場合は、不倫をした元配偶者に対するネガティブな感情から、「子供に関わってほしくない」と考え、面会交流に消極的になったり、子供と連絡を取ることを制限するようになることも少なくありません。
さらに、略奪婚をした親が子供を監護することになった場合、略奪婚後の新しい共同生活の中で、子供が新しい親に馴染めず、疎外感を覚える可能性もあります。
このように、子持ち夫婦の略奪婚は、子供に対して深刻な影響を及ぼす可能性が高く、略奪婚後の子供との関わり方にも深く影響を及ぼすことがあるのです。
略奪したその後は幸せ?
略奪婚をしたその後に幸せになるかどうかは、一概には言えません。
既に元配偶者との夫婦関係が破綻していたり、元配偶者が不倫のあったことを知らずに離婚に至ったりしたような場合には、略奪婚に際して慰謝料請求や交友関係の変化などが生じず、スムーズに幸せな新生活を始められるかもしれません。
ですが、略奪婚の場合は幸せになれるケースよりも、後悔するケースを見受けることの方が多いです。
身内の反応、因果応報・・・略奪後の現実に後悔することも
本来、通常の結婚は家族や友人から祝福されるべき慶事ですが、略奪婚の世間一般のイメージは良いものではありません。身内の反応も世間一般の略奪婚に対するネガティブな反応と同じことが多く、自分の家族や相手の家族といった身内の反応には、強い拒否感や抵抗感を示すものもあるでしょう。
また、略奪婚をした男性や女性は、不倫に対するハードルが下がり、不倫を繰り返す可能性もあります。
人はよい行いをすればよい報いがあり、悪い行いをすれば悪い報いがあるという意味の「因果応報」の言葉通り、略奪婚によって夫婦となった相手が、再び他の男性や女性と不倫をする恐れがあるのです。
略奪婚してから冷静になって、略奪婚をしたことの罪悪感に苦しむことになったり、略奪婚後の生活がうまく行かずに「失敗した」と感じることになったりと、略奪婚の現実に後悔する人は少なくありません。
配偶者が略奪された場合の対処方法
配偶者が不倫をして略奪されてしまった場合、夫婦としてやり直すか、離婚や慰謝料請求を考えることになるでしょう。p
略奪婚されたくない場合
まず、「離婚届不受理申出書」を提出しておきましょう。離婚届不受理申出をしておくことで、配偶者が勝手に離婚届を提出するリスクを防ぐことができます。この申出書を提出すると、申出人の意思確認ができない限り、役所は離婚届を受理しなくなるため、知らないうちに離婚届が提出される心配がなくなります。
また、もし配偶者が不倫相手に対して、高額の不倫慰謝料を支払ってでも不倫相手と再婚したい、と思っていないのであれば、あえて高額の不倫慰謝料を請求し、「お金を支払うくらいなら離婚しない」という考えに誘導するのもひとつの方法です。
しかし、不倫慰謝料をある程度だったら支払っても仕方ない、などと思っているような場合は、高額の不倫慰謝料を請求することで、相手が弁護士を立てて不倫慰謝料の減額交渉をしてくるかもしれません。
そのため、離婚・略奪婚を回避したい場合に高額の不倫慰謝料請求をするかは、慎重に見極める必要があります。
そして、配偶者に「二度と不倫しない、離婚しない」と約束させたら、念書や誓約書といった書面にしておおくことも重要です。
不倫に関する念書や誓約書を作成する場合は、不倫をしたという事実と、不倫関係を断ち切るという旨の文言を記載し、再度不倫相手と不倫するようなことがあれば不倫慰謝料を支払う、といった内容についても明記しておきましょう。
離婚と不倫慰謝料の請求をする場合
相手に不倫をやめる意思が見られない場合や、不倫した配偶者と夫婦でいたくない場合は、主に次の3つの方法によって、離婚請求と不倫慰謝料の請求をすることになるでしょう。
- 夫婦で話し合う
- 弁護士に依頼して、示談交渉を行う
- 裁判所で調停又は訴訟を提訴する
不倫をした配偶者に対する離婚請求や不倫慰謝料請求については、こちらの関連記事もご一読ください。
【まとめ】略奪婚に関するQ&A
Q1.略奪婚とは何ですか?
略奪婚とは、すでに恋人のいる男女や既婚の男女を別れさせて、結婚することを意味しています。
相手がまだ結婚していない場合、「恋人のいる相手を奪うのは倫理的にどうなのか」という問題はありますが、独身同士では自由恋愛からの結婚なので、法的には問題はありません。
ですが、相手が既婚者だったのを離婚させて略奪婚したような場合や、婚約関係にあった男性・女性を婚約破棄させたような場合には、倫理的問題のほかに、法的問題が生じる可能性があります。
Q2.略奪婚にはどういったリスクがありますか?
略奪婚には、慰謝料の支払いや新生活の費用で経済的に厳しくなる、社会的な非難や精神的な負担により仕事を辞めざるをえなくなる、元配偶者や両家族との関係悪化、友人や知人との関係悪化による社会的な孤立、そして一時的な感情が冷めることによる関係の冷却化といった複数のリスクがあります。
Q3.略奪婚をすると法的な責任は発生するのでしょうか。
結婚している男性・女性と恋愛関係になり、結果として夫婦を離婚させてしまった場合、配偶者のいる相手と肉体関係になったことで、「不貞行為」という不法行為(民法第709条)に該当する可能性があります。
不貞行為による略奪婚によって、相手の配偶者が「夫婦として平穏に安定した婚姻生活を維持する」という利益を侵害されることになるため、民法第710条の規定により、損害賠償する責任を負うことになるのです。
夫や妻の不倫に関するお悩みは弁護士にご相談ください
この記事では、略奪婚とは何か、略奪婚で法的責任やリスクはあるのか、といった内容について、弁護士が解説いたしました。
また、配偶者が略奪された場合、夫婦としてやり直すための対処方法についても簡単に触れさせていただきました。
略奪婚には、経済的な負担、職業的なリスク、家族や交友関係の悪化などといった、多くのリスクをともないます。略奪婚をした場合に一時的に幸せを感じるかもしれませんが、略奪婚をした後の現実の生活は厳しいことが多く、略奪婚をしたことを後悔する人も少なくありません。
配偶者が不倫をしている場合や、略奪婚されそうに感じている場合は、なるべく早く弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
当法律事務所では、初回無料相談も行っておりますので、ぜひお気軽にお問合せください。
この記事を書いた人
雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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