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離婚財産分与の時効とは?2年の請求期限についても弁護士が解説

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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離婚時には財産分与の合意をせずに、離婚後にあらためて財産分与について協議されることがあります。

財産分与の手続きの煩雑さに、つい請求を先延ばしにしてしまうかもしれませんが、離婚後の財産分与請求権は永遠に行使できるものではありません。離婚から2年という請求期限が過ぎてしまうと、離婚後の財産分与請求の権利は消滅してしまいます。

一方で、2年以内に財産分与の合意に至った場合、その結果生じた財産請求権には、5年又は10年の時効が適用されることになります。

このような、離婚後の財産分与請求の請求期限については、離婚を検討するにあたって、正しく理解しておかなければなりません。

本記事では、離婚後の財産分与請求の請求期限について、基本的な知識や注意点などを分かりやすく解説していきます。本記事が離婚後の財産分与請求の請求期限でお悩みの方の一助となれば幸いです。

目次

財産分与請求の権利に時効はある?

財産分与の請求には2年の除斥期間があります

財産分与とは、婚姻中に形成した夫婦の実質的な共有財産を離婚時に清算することです(民法第768条第1項)。

(財産分与)
民法第768条第1項 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。

なお、離婚時の財産分与の詳細につきましては、当事務所のこちらの関連記事をご覧いただければと思います。
離婚時の財産分与とは?共有財産の意味や家・車・貯金などの分与方法を弁護士が解説!

さて、この財産分与の請求権には、権利を行使できる「2年」という期間が定められています(民法第768条第2項)。

民法第768条第2項 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。

上記の通り、民法第768条第2項の規定によりますと、夫婦間で離婚財産分与についての協議が成立しない場合や、そもそも離婚財産分与についての協議が不可能な状況のときは、当事者は家庭裁判所に協議に代わる裁定を求めることができます。
しかしながら、離婚した時から2年間が経過すると、この離婚財産分与の請求権は行使できなくなります。

なお、この2年間というのは、厳密には「時効」とは異なり、「除斥期間」と呼ばれるものです。
除斥期間とは、ある特定の権利や請求を行うことができる法律上定められた限られた期間を指します。この期間内に権利を行使または請求しなければ、その権利は失われ、法的な主張をすることができなくなります。
したがって、この2年という期間内に離婚財産分与の請求権を行使しなければ、離婚財産分与を請求する権利そのものが失われてしまうことになります。

財産の分与請求権の期限は時効と何が違うの?

内容だけ聞くと、除斥期間は時効と似ていると思われることでしょう。ですが、除斥期間と時効は異なる概念です。除斥期間と時効の主な違いは、時効が中断や延長が可能なのに対し、除斥期間は中断や延長が認められないことです。

まず、「除斥期間」には中断という概念が適用されません。中断(時効の中断)とは、債務者が債務の存在を認めたり、債権者が差し押さえを行ったりすることで、進行していた時効の期間が効力を失い、再び時効のカウントがゼロからになることです。簡単に言いますと、中断は時効の進行を止める制度です(なお、改正民法では、中断ではなく、時効の更新といいます。)
除斥期間には、この「中断」の概念がありませんので、離婚成立のときから2年を過ぎると、離婚財産分与の請求が不可能になってしまいます。

さらに、後述する財産分与の権利に関する消滅時効では、権利を失わせるためには時効の「援用」が必要ですが、除斥期間は相手方が何もしなくても権利は自動的に消滅します。
そのため、除斥期間の2年を経過してしまうと、自動的に権利が消滅し、その後裁判で離婚財産分与の請求をすることができなくなってしまうのです。

◆除斥期間と時効について相違点の表

ですので、離婚後はこの2年間という期限を念頭に置いて、離婚財産分与を求める場合には、迅速な行動が求められることになるのです。

財産分与が確定した後は5年又は10年の消滅時効

 

財産分与の訴求期間

 

さて、財産分与協議により合意が確定した場合、財産分与請求権は「一般的な債権」となります。
これによって、財産分与で合意した内容の財産の引き渡しを請求するという一般債権は、2年という「除斥期間」から、5年又は10年という「消滅時効(時効)」に変わることになります。

したがって、離婚から2年以内に協議や裁判手続きを利用して、財産分与による財産請求権を確定させれば、5年又は10年間はその権利が失われないことになります。

消滅時効とは?

それでは、消滅時効についてご説明させていただきます。

消滅時効(民法第166条)とは、一定期間権利を行使しなかった場合に、その権利が消滅する制度のことです。

(債権等の消滅時効)
第166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
②権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

消滅時効という制度は、長期間にわたって不確定なままの法律関係を維持しないようにすることで、社会の安定と秩序を保つことを目的としています。
たとえば、離婚後20年以上経っても相手方に財産分与を請求できるとすれば、相手方を20年間も「いつ財産分与の請求が来るのか分からない」という不安定な状態に置くことになります。
このような状態では、社会の法的関係が不明確・不安定だと考えられるため、公平な法秩序の維持のためにも、5年間あるいは10年間という期間を定めているのです。

このような消滅時効が完成するには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 権利を行使しないこと
  2. 消滅時効の援用があること

たとえば、A(債権者)がB(債務者)に100万円を貸していたとします。Bは返済せず、10年間、AもBもお互いに何も行動を起こさずに、この問題を放置していました。そして10年を過ぎた後に、AがBに対して100万円の返済を求めましたが、Bが「時効だから払わない。」と主張したため、消滅時効が完成してしまいました。
10年の消滅時効の完成によって、AはBに対して100万円を請求することができなくなってしまうのです。

時効の「中断」と「援用」

なお、離婚財産分与の2年の除斥期間についてのご説明の際にも触れましたが、消滅時効には「中断」と「援用」という考え方があります。

消滅時効の期間のカウントは、債権の請求や、強制執行などの差押え、債務者が債務の存在を認める債務の承認、といった事由によって、中断されることがあります。
中断された消滅時効はリセットされて、新たにゼロから消滅時効のカウントが進行することになります(なお、改正民法では、中断ではなく、時効の更新といいます。)。

消滅時効の援用とは、債務者が債権者に対して、消滅時効の制度を利用する意思表示をすることです。分かりやすく言いますと、「時効が完成したので債務がなくなりました。」と、債権者に対して主張することです。
時効の援用の方法は2つあり、文書や口頭で消滅時効を主張する「明示的な援用」と、裁判所に「消滅時効が完成している。」旨を主張する答弁書を提出するなどの「黙示的な援用」があります。
時効の援用が行われると、債権者はその債権を行使できなくなり、債務者はその義務から解放されることになります。

時効の期間は「5年」もしくは「10年」

消滅時効の期間ですが、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間」、もしくは「債権者が権利を行使することができる時から10年間」のどちらかになります。
そして、財産分与合意後の一般債権は、前者の5年間が適用されることになります。なぜなら、財産分与の合意をした時点が「権利者が権利を行使することができることを知った時」にあたるからです。

もっとも、裁判所で取り決めをした場合(調停、審判、判決、裁判上の和解等で決めた場合)は、10年の消滅時効にかかります。

第百六十九条 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。

この点、公正証書は強制執行ができる点で確定判決と似ていますが、公正証書を作成している場合の消滅時効の期間は、5年とされていますので注意が必要です。

2年を経過してしまった後の請求は絶対に無理ですか?

財産分与の請求期限が経過してしまうと、通常は財産分与を求めることはできなくなりますが、特別な状況下では請求が可能な場合もあります。
その例としては、次の2つのケースが考えられます。

  1. 相手方との間で財産分与の請求について合意ができる場合。
  2. 相手方が財産を隠していた場合。

まず、相手方との間で合意ができる場合です。
財産分与の期限とは、家庭裁判所への請求期限を指すため、当事者である夫婦双方が合意すれば、2年を超えた後でも財産分与を行うことは、法的には問題ありません。
ただし、相手方が財産分与に応じる動機がない場合、合意に至るのは困難でしょう。

次に、相手方が財産を隠していた場合が挙げられます。
2年を経過した後であっても、相手方の財産隠しによって財産分与の正当な請求が妨げられたときは、不法行為を根拠とする損害賠償請求が可能です。
しかし、相手方が財産を隠した事実を証拠で明らかにする必要があります。

このように、除斥期間の2年を過ぎてしまうと、財産分与の請求は非常に難しくなります。
財産分与の請求が時効によって困難になることは、当事者にとっては大きな損失です。特に、財産分与が経済的な安定や今後の生活に大きく影響を与える可能性がある場合、このような除斥期間の存在を知らずに、請求期限が過ぎてしまうことは、絶対に避けなければなりません。

離婚が成立したときには、離婚後の財産分与請求については速やかに行動を起こすようにしましょう。離婚や財産分与についての協議を進める前に、法律の専門家である弁護士にご相談していただくことをおすすめいたします。

内縁関係の場合はどうなるの?

内縁関係にある男女が内縁関係を解消した際にも、財産分与を請求することが考えられます。その際の時効はどのように考えられるのでしょうか。
内縁関係とは、婚姻届を提出せずに、夫婦としての生活を営むことです。このような関係は正式な婚姻とは区別されますが、婚姻に準じた関係としてある程度の法的な保護を受けています。
そのため、内縁を解消する際には、しばしば財産分与の問題が発生することがあります。

結論としては、内縁解消時にも財産分与請求が認められています(民法768条1項類推適用)。また、内縁関係解消後の財産分与の請求は、離婚の場合と同様に2年以内に請求しなければならないとされています(同条2項類推適用)。

なお、内縁関係の場合は、いつが内縁関係を解消したときになるのか、という基準時の問題が生じます。この点、内縁状態というのは夫婦に準ずる共同生活のことなので、共同生活が解消された時点、つまり別居をしたときが、内縁関係を解消したとき、と考えられています。

したがって、内縁関係にある場合の財産分与請求は、別居をしたときから2年以内に行う必要があります。

また、離縁後に財産分与について合意ができた場合は、財産の引き渡しを請求する権利も、5年又は10年の消滅時効にかかることになります。

内縁関係では、離婚届を提出して成立する離婚の場合と異なり、財産分与が複雑になることが少なくありません。離婚財産分与請求をする場合には、時効や請求期限を意識しながら、適切な手段を選んで進めましょう。

Q&A

Q1.離婚後の財産分与の請求に期限はあるのでしょうか?

離婚財産分与には請求期限があります。財産分与を請求できる期間は、離婚が成立した日から2年間です。
この期間が過ぎてしまうと、財産分与を求める権利は消滅してしまいます。この2年間は、法律上「除斥期間」と呼ばれており、時効とは異なり、中断や延長といった手続きを行うことはできません。

Q2.除斥期間の2年が過ぎた後でも、財産分与を請求できることはありますか?

法定の除斥期間を過ぎてしまうと、原則として財産分与の請求権は失われますが、相手方が任意で応じる場合に限り、財産分与を請求することができます。
これは法的な強制力はなく、双方の合意によってのみ可能になるため、具体的には、相手方との交渉や協議を通じて合意を形成する必要があります。
そのため、交渉に際しては、相手方に合理的な動機を提供するか、または両者にとって受け入れ可能な代替案を提示することが望ましいでしょう。

Q3.財産分与の権利が確定した後、その権利を行使するのに期間はありますか?

財産分与に関する権利が一度確定すると、その権利を行使するための時効は5年又は10年となります。この期間は消滅時効と呼ばれ、期間が経過すると、債権そのものが消滅することになります。
この時効の期間内であれば、いつでも財産の引き渡しを請求することが可能です。しかし、この時効期間が終わる前に、権利を行使するための手続きを開始することが必要です。

時効期間が迫っている場合には、裁判所に訴訟を提起することで時効の中断を図ることができます。
時効を中断させると、新たな時効期間が開始されるため、権利を保持し続けることができます。これは、権利者が適切な手続きを取ることで、自身の権利を有効に守るための重要な手段です。

離婚時の財産の請求は弁護士にご相談ください

本記事では離婚財産分与の請求にともなう消滅時効と除斥期間について、ご説明させていただきました。
この記事の内容を簡単に離婚に際しての財産分与の請求には、離婚後2年という請求期限があります。まとめると、以下の通りとなります。

この期間を過ぎると、通常は財産分与の権利が消滅してしまうため、迅速な行動が求められます。
また、離婚財産分与の請求についての合意が確定した後は、離婚財産分与の財産の引き渡しを請求する権利は一般債権として扱われ、10年の消滅時効が適用されることになります。

離婚後2年間、離婚財産分与の請求を行わないと、基本的に離婚財産分与の請求は不可能となりますが、次の2つの例外的なケースもあります。

  1. 相手方との間で財産分与の請求について合意ができる場合。
  2. 相手方が財産を隠していた場合。

しかし、このようなケースはたいへん珍しいため、離婚してから離婚財産分与の請求を行おうと考えている場合は、必ず2年以内に離婚財産分与の請求をして、合意を確定させましょう。

以上の通り、離婚後の財産分与には「2年の除斥期間」と「5年又は10年の消滅時効」という、性質の異なる2つの考え方が関係しているため、迅速に手続きを進めていく必要があり、なかなか煩雑です。
離婚財産分与についてのお悩みやご不安は、ぜひ弁護士にご相談いただければと思います。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

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