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婚姻費用を払わない方法は?払えない時は?払わなくていい場合も解説

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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離婚を前提として別居を始めたときには、婚姻費用を分担しなければならないことがあります。
特に、支払を受ける方にとっては、婚姻費用を支払ってもらえるのか、いくら受け取ることができるのかも気になるでしょう。

また、婚姻費用を支払う側としても「払わない」と言えるのかなど、疑問や不安は少なくないかと思います。
たとえば自分の収入では自分ひとりが生活するのが精一杯というとき、別居中の配偶者に「生活費は払わない」と主張することは可能なのでしょうか。

本記事では、婚姻費用を払わないとどうなるのか、どういったリスクがあるのかについて、ご説明させていただきます。罰則や法的な制裁があるのか、収入の問題で支払いが難しい場合には、どのような対応が考えられるのか。また、「払わない」と言われてしまった場合にはどうすればいいのかなど、詳しく見ていきましょう。
婚姻費用を払わないことで発生するトラブルについて、本記事の解説がご参考になりましたら幸いです。

目次

婚姻費用を払いたくない!払わない方法はありますか?

収入に余裕がない、離婚するほど揉めている相手にお金を渡したくない、自分が住んでもいないマンションの家賃を支払いたくない。
別居中の婚姻費用の支払いに関しては、このような感情的な面から、しばしばトラブルが発生しがちです。
そんなとき、「婚姻費用を払わない」という選択はできるのでしょうか。

婚姻費用の支払いは義務

婚姻費用とは、夫婦が別居している際の日常の生活費のことを意味します。専業主婦など、収入の少ない方が、収入の多い他方配偶者から支払ってもらうのが基本です。

夫婦は婚姻関係にある以上、民法第752条の規定によって、互いの生活を維持するために協力し合う義務があります。その結果として、婚姻費用を分担する義務が生じるのです(民法第760条)。

婚姻関係にある期間なので、離婚が成立するまで婚姻費用の分担義務は生じます。
つまり、義務である以上、原則として「払いたくないから払わない」ということはできないのです。

それでは、婚姻費用を払わないことで生じるリスクや罰則について、具体的にご説明していきます。

婚姻費用を払わないとどうなる?罰則はあるの?

 

婚姻費用を払わないことへのリスク・罰則

 

さて、婚姻費用を支払わないことで、どのようなリスクや罰則があるのでしょうか。

払わないと過料に処される

婚姻費用支払わない配偶者に対して、婚姻費用分担請求調停が申し立てられることがあります。こうした調停や、調停から移行した審判において、婚姻費用の支払いに関する取り決めがなされた場合に、それでもなお払わないとなれば、裁判所から履行勧告や履行命令が出される可能性があります。
履行勧告や履行命令については後述しますが、家事事件手続法は、履行命令に従わない者に対しては、10万円以下の過料を支払わせることが可能となっています(家事事件手続法第290条第5項)。

(義務履行の命令)
第290条
義務を定める第39条の規定による審判をした家庭裁判所は、その審判で定められた金銭の支払その他の財産上の給付を目的とする義務の履行を怠った者がある場合において、相当と認めるときは、権利者の申立てにより、義務者に対し、相当の期限を定めてその義務の履行をすべきことを命ずる審判をすることができる。この場合において、その命令は、その命令をする時までに義務者が履行を怠った義務の全部又は一部についてするものとする。
第5項 第1項(第3項において準用する場合を含む。)の規定により義務の履行を命じられた者が正当な理由なくその命令に従わないときは、家庭裁判所は、10万円以下の過料に処する。

このように、家庭裁判所は、婚姻費用を支払わない義務者に対して、10万円以下の過料に処することができると定められているのです。

なお、過料は刑罰ではないため、前科にはなりません。行政上の義務違反に対して科される金銭的なペナルティーです。
過料を無視して支払わないでいると、財産を差し押さえられる可能性がある上に、支払った過料は婚姻費用にあてられるわけではありません。
婚姻費用以外にも出費が増えてしまうだけなので、最初から婚姻費用を支払っておくべきでしょう。

払わない場合には強制執行されてしまう

履行命令を無視して婚姻費用や過料を支払わなかったり、調停の取り決めや審判の決定も無視したり、強制執行認諾文言を付した離婚公正証書で合意しているのに支払いを拒否していると、強制執行によって財産を差し押さえられてしまう可能性があります。
婚姻費用の差し押さえに関しては、単に未払い分を差し押さえるだけでなく、将来の支払い分に関しても、差し押さえの対象となってしまいます。

また、一般的に差し押さえの対象は給与等預貯金ですが、婚姻費用の場合の差し押さえでは給与の2分の1までの金額を差し押さえることができるため、一度の強制執行でかなりの金額を支払うことになってしまいかねません。

さらに、会社の給与を差し押さえられたとなると、勤務先にも、離婚について争っている最中であることや、婚姻費用を支払っていないことが露呈してしまいます。
なお、給与や預貯金の他にも、不動産や古美術品なども、差し押さえ対象の財産となります。

調停を申し立てられることも

話し合いではどうにもならないと相手が判断すれば、婚姻費用分担請求調停が申し立てられてしまう可能性があります。

裁判官や調停委員が中立的な立場から介入し、夫婦双方の意見や要求を取りまとめ、適切な婚姻費用の額や支払い方法などの提案を行います。
婚姻費用分担調停は、あくまで「裁判所で行われる夫婦間の話し合い」にすぎないため、夫婦双方が納得する形での合意を形成することができなければ、調停は不成立となります。
調停不成立となった場合は、審判手続に移行します。審判になると、裁判官が夫婦双方の事情を詳細に検討し、最終的な判断を下すことになりますので、婚姻費用を支払わずに済むことはほとんどありません。

なお、調停が成立したときの調停調書や審判の決定は、強制執行に必要な債務名義の一種です。調停を申し立てられた時点で、強制執行されるリスクも生じることになります。

裁判所から支払いを促されるリスクもあります

「過料」においての説明で出てきた、「履行勧告」と「履行命令」によって、裁判所から婚姻費用の支払いを促されることも考えられます。
履行勧告は、裁判所がある行為の履行を勧告するものです。これは「命令」ではなく、「勧告」なので、法的な強制力は持ちません。しかし、この勧告が無視されると、続く履行命令が発されることになります。

履行命令は、裁判所が、婚姻費用の支払いなど、特定の行為の履行を命じるもので、これには法的な強制力が伴います。命令に従わない場合、制裁措置として過料や強制執行が行われる可能性があります。
勧告だから強制力はない、と思って払わないでいると、履行命令が下され、命令を無視して払わないでいると、過料や強制執行によって財産を差し押さえられてしまうのです。

婚姻費用を払わないと「悪意の遺棄」で不利になる?

婚姻費用を払わないことのリスクについてご説明しましたが、それだけではありません。
たとえ調停を申し立てられたり、強制執行を申し立てられたりしなくても、婚姻費用を払わないことで、離婚時に不利になる可能性があるのです。

悪意の遺棄

悪意の遺棄とは、民法第752条に定められた「夫婦の同居義務・協力義務・扶助義務」に正当な理由なく違反することです。
「払いたくないから払わない」など、正当な理由なく婚姻費用の支払いを拒否することは、「悪意の遺棄」とみなされる恐れがあります。
この悪意の遺棄は、法定離婚事由(裁判によって離婚が認められるための、民法に定められた離婚事由)のひとつとされています。

ですので、離婚したくないのに、婚姻費用も払わないでいると、婚姻費用の支払い拒否が悪意の遺棄とみなされてしまい、裁判によって離婚が認められることになってしまう可能性があるのです。つまり、離婚の協議や調停・裁判において、非常に不利になってしまいかねません。
さらに、不利になって離婚に至ってしまうだけではなく、悪意の遺棄によって夫婦関係を破綻させたとして、慰謝料を請求されてしまう恐れもあります。

他にも、婚姻費用を負担せずに離婚しようとしても、有責配偶者となり、婚姻費用を負担していない方からの離婚請求が認められない可能性もあります。

もし配偶者が離婚を求めて別居を始めたときには、悪意の遺棄とならないよう、婚姻費用を正当な理由なく支払わないことのないようにしてください。

払えない時は支払い拒否できる?払わなくて良い場合とは

さて、原則として支払わないとならない婚姻費用ですが、払わなくて良い場合や、金額を減額できるケースもあります。

1.支払いを受ける側が有責配偶者

婚姻費用の支払いを受けようとしている側が、離婚原因を作った有責配偶者である場合には、権利を濫用しているとみなされ、婚姻費用の金額が減額されたり、払わないことが認められることがあります。

実際に、東京高裁平成29年9月4日では、「配偶者以外の者と男女関係を持つことは,夫婦間の信頼関係を破壊する背信的行為といえ,そうした背信的行為に及んだ者が,別居中の配偶者に対し,婚姻費用として,監護している子の養育費分にとどまらず,自らの生活費に係る部分を加えて,婚姻費用の支払を請求することは,信義に反し,権利濫用に該当する行為というべきである。・・・したがって,抗告人には,相手方の生活費に係る部分を分担する必要はなく,相手方は,抗告人に対し,婚姻費用として,長男を監護養育する費用部分に限り請求できることになる。」と判示しました。すなわち、裁判所は、不貞行為に及んだ相手方に対する相手方の分に関する婚姻費用の負担をしなくてもよいと判断しました。

2.請求金額が相場を上回っている

婚姻費用は、夫婦の収入や子どもの数と年齢など、さまざまな事情を考慮した上で、裁判所が公開している「婚姻費用算定表」を参考にして金額が決まることが一般的です。
請求された金額が、婚姻費用算定表に照らして、あまりにも相場の金額を上回っている場合などには、減額交渉することをおすすめいたします。

3.収入の変化

婚姻費用を支払う側の収入の変化だけでなく、受ける側の収入にも変化があれば、減額や免除ができる可能性があります。
婚姻費用というのは、そもそも、収入の少ない方も、収入の多い配偶者と同等の水準の生活を保持できるように、という趣旨で設けられた制度ですので、離婚後の夫婦がそれぞれ等しい収入を得ていたり、離婚後に収入が上回ったりすれば、婚姻費用を見直すことになるでしょう。

反対に、支払う側が無職になったり、収入が少なくなるなど、支払いが難しくなるような事情が発生したときにも、婚姻費用の見直しが必要となります。

目安として、婚姻費用分担金を定めた時よりも収入が3割程度減った場合には、婚姻費用分担金の減額が認められる可能性があります。

しかし、「働きたくないから」、「婚姻費用を支払いたくないから」といった理由で、意図的に収入を減らすような場合は、減額や支払い免除が認められない可能性が高いため、注意してください。

4.突発的な出費

婚姻費用を支払う側が、事故で長期の入院治療が必要になり、医療費がかかる上に、当分収入が減ってしまうなど、突発的な出費がある場合にも、減額や支払い免除が認められる可能性があります。
こういった際には、診断書や入院治療費の領収書などを用意して、なるべく早く、相手方に理由を説明して交渉しましょう。
減額や支払い免除が認められない場合も、収入が再び安定するまで支払いを待ってもらえないか、交渉してみることが大切です。

勝手に減額するのはNG!

本記事で前述しました通り、婚姻費用の支払いは夫婦の婚姻関係に基づいた義務です。したがって、「払わないことが許される場合もあるんだ」などと、勝手に支払いをやめてしまったり、相手の同意もなしに減額してしまうことは許されません。
そうした義務違反は、過料や強制執行などの法的な措置を受けることになってしまいます。十分に気を付けましょう。

払ってくれない相手にできること

婚姻費用を支払わない相手に対して、支払いを受ける側はどういった法的な措置や請求ができるのでしょうか。簡単にご紹介いたします。

1.話し合い

夫婦間の直接の話し合いは、婚姻費用の額を設定する基本的な方法です。合意した内容は書面に記載し、双方の署名や捺印で確認することが推奨されます。別居前の段階で話し合いを進め、弁護士などの専門家の協力を得て、離婚協議書や離婚公正証書を作成しておくことをおすすめいたします。

2.内容証明郵便による請求

相手が合意しない場合、内容証明郵便で正式に婚姻費用を請求する方法があります。この手法は、将来的な訴訟の際の証拠として役立ちます。弁護士の協力で請求内容を正確にまとめることが勧められます。

3.家庭裁判所での婚姻費用分担請求調停

直接の話し合いや内容証明郵便が効果を示さない場合、家庭裁判所の調停を検討することが考えられます。中立的な立場の裁判官や調停委員が介入し、適切な婚姻費用の提案を行います。

4.家庭裁判所の審判

調停で合意が成立しない場合、家庭裁判所の審判を申し立てることができます。この結果は法的効力を持ちます。

5.履行勧告、履行命令

家庭裁判所に対して、履行勧告や履行命令を申し立てることが可能です。
履行勧告は強制力こそありませんが、申立ての手続きは簡単で、申立てに手数料も必要ありません。裁判所からの勧告ですので、相手に心理的な圧力を与えることが期待できます。
履行命令には申立て手数料が必要ですが、命令に従わない相手には10万円以下の過料に処すことができるため、支払い義務履行の効果が期待されます。

6.強制執行

離婚協議書や判決に基づく婚姻費用が未払いの場合、強制執行を請求して相手の資産を差し押さえる手段を取ることが考えられます。

Q&A

Q1.婚姻費用を払わないと、法的な罰則はあるのでしょうか?

婚姻費用の支払いを怠ると、まず相手方から婚姻費用を支払うよう、請求を受ける可能性があります。
裁判所が婚姻費用の支払いを命じた場合、その命令を無視すると、強制執行や賠償請求などの法的な制裁を受けるリスクがあります。
特定の事情があって支払いが難しい場合は、早急に裁判所や法律の専門家と相談するようにしてください。

Q2.収入の減少や、入院治療による突発的な出費といった、婚姻費用を簡単に払えない理由がある場合、どう対応すればいいですか?

婚姻費用の支払いが困難な場合は、まず相手方やその代理人との間で、話し合いを試みることが重要です。
話し合いに際しては、収入の減少や突発的な出費など、支払が難しいことを証明できる書類を準備しましょう。収入であれば給与明細を、入院治療費であれば病院の領収書が証明資料になります。
具体的な状況を示すことで、減額や支払い時期の変更などの合意を試みることが望ましいです。

Q3.婚姻費用の支払いを一時的に免除してもらうことは可能ですか?

一時的な免除の要求は可能ですが、これも相手方との合意が必要です。無断で支払いを勝手にやめてしまうことのないようにしてください。
免除してもらう際には、その理由などを客観的な資料によって証明し、後日必ず支払いを再開する意向を示すことが、相手方との円滑な合意につながります。

まとめ

婚姻費用払わないというトラブルは、多くの夫婦が離婚を前提とした別居期間中に直面する可能性のある問題です。
婚姻費用を適切に支払わないと、相手方からの請求や法的な制裁のリスクが考えられます。特に、裁判所から支払いを命じられた場合にも、それでもなお支払わないとなると、強制執行による差し押さえや、過料に処されてしまうなど、重大な結果が生じる可能性があります。

しかし、収入の減少や予期せぬ出費など、支払いが困難になる事情は誰にでも生じうるものです。そのような場合、払わないで済むケースや、減額してもらえる可能性もありますので、早めに相手方やその代理人との協議を試みることが推奨されます。

具体的な状況を示し、たとえば給与明細や医療費の領収書などの証拠を準備して、減額や支払い方法の変更を提案することで、双方の合意を目指すことが重要です。
また、一時的な支払い困難の場合、婚姻費用の一時的な免除や延期も考えられますが、これも相手方との十分な協議が必要となります。相手に無断で、勝手に減額することのないようにしてください。

最後に、婚姻費用の支払いに関する問題は、話し合いに基づく信頼関係と相互理解の上で円滑に解決するのが最善な方法です。
法的手段を取る前に、まずは双方の話し合いから始めることをおすすめします。
婚姻費用を払わない・支払ってもらえないことで、何らかのトラブルが発生した際には、早めに弁護士にご相談いただければと思います。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

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