離婚時に財産分与しない方法は?貯金は渡したくないけど拒否できる?
離婚時には財産分与が問題となりますが、その支払い額はとても高額になることがあります。
そのようなことから、当事務所でも、相手方に財産を分配しない方法を知りたいなどのお悩みが寄せられることもあります。
確かに、財産分与は離婚時に必ずしなければならない義務的なものではありません。財産分与をしないという合意をすることもできます。
しかし、相手方から財産分与を求められた時には、「分けたくないから、財産分与しない。」と感情的な理由で拒否することはできません。仮に拒否したところで、相手方から調停の申立や訴訟提起されるなどし、強制執行で給与を差し押さえられる可能性もあります。
本記事では、財産分与をしなくても良いケースや財産分与をしなくても良い場合、財産分与額を減額する方法について、簡単にご説明させていただきます。また、反対に、請求に応じない相手への対処法についても解説いたします。
本記事が財産分与でお困りの方のご参考になれば幸いです。
目次
離婚時に財産分与しない方法はある?
婚姻期間中に夫婦で協力して築き上げた共有財産を離婚時に分配する「財産分与」ですが、財産分与をしたくない旨のご相談は少なくありません。
一方が専業主婦(主夫)である場合などには、「会社で働いて得た給与は自分の財産なので、相手には分与したくない。」と考える方も少なくありません。
とはいえ、財産分与は配偶者が専業主婦(主夫)であろうが、共働きであろうが、共有財産を夫婦で2分の1ずつ分配するという方法が原則となっています。
財産分与の原則を知っていても、払いたくないと思う人もいることでしょう。
それでは、財産分与をしない方法の有無や拒否できるケースについて、本記事でご説明させていただきます。
貯金を渡したくない!払わないとどうなる?
そもそも、貯金などの財産分与で支払を拒否することに何か法的なリスクはあるのでしょうか。払わないとどうなるのでしょうか。
財産分与は、離婚する夫婦が必ずしなければならない義務ではありません。民法第768条1項には「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。」と財産分与について定められているとおり、離婚時に「財産分与を請求することができる」権利なのです。
したがって、離婚時に財産分与をしなくても違法ではありません。
ただし、相手方から、離婚の時から2年経過する前に、財産分与を請求された場合は、理由なく、これを拒否すべきではありません。
拒否した場合には、相手方から財産分与の調停の申立をされたり、場合によっては、財産を差し押さえられるなどして、強制的に相手方に財産が分配される場合があります。
以上のとおり、財産分与請求をされた場合には、拒否すべきではなく、分与額について、真摯に話し合うべきといえます。
感情的に請求を拒否したりせずに、まずは減額を求める交渉を行ったり、弁護士に相談することをご検討ください。
もっとも、相手方から除斥期間(離婚の時から2年)を経過する前に、財産分与を請求された場合には、これを拒否すべきではなく、交渉等を行うべきです。
離婚財産分与しない!と拒否できるケース
財産分与を拒否できる方法は、大きく次の5つが考えられます。
- 相手方が財産分与の請求権を放棄した場合
- 離婚から2年の除斥期間が経過したことにより、財産分与の請求権が失われた場合
- 所有する財産全てが、婚姻前からの財産や婚姻中に個人で得た財産(特有財産)である場合
- 婚姻の届出前に結んだ夫婦財産契約で、離婚時に財産分与を行わないと定めていた場合
- 財産分与の対象となる財産があっても、その財産に対する借金が多い場合
これらの5つの離婚財産分与をしない方法について、見ていきましょう。
方法1.相手方配偶者が離婚財産分与の請求権を放棄した場合
財産分与の請求権は、あくまでも権利であることは前記のとおりです。そのため、「財産分与は請求しない。」と夫婦間で合意する判断をすることも自由だということです。
したがって、相手方配偶者が、財産分与をしないことに合意して、財産分与請求権を放棄した場合には、相手方から財産分与請求権を行使された場合であっても、拒否することができます。
相手方が財産分与をしないことに合意する場合には、次のような理由が考えられます。
- 財産分与はしない代わりに、とにかく早く離婚を成立させたい場合。
- 十分な資産があるので、財産分与をする必要はないと考えている場合。
- 財産分与はしないが、子どもの親権が欲しいなど、離婚条件の交渉材料にする場合。
なお、口頭だけで「財産分与はしない。」と合意するのはリスクがあります。離婚後に、「財産分与をしないとは言っていない。」などと言って、財産分与請求をした場合には、相手方が財産分与の請求権を放棄したことを立証できない限り、請求を拒否できません。
そのため、相手方と財産分与請求権を放棄する旨の合意をした際には、その旨を離婚協議書や離婚公正証書などで明らかにして証拠とすることで、後日の紛争に備えることができます。
方法2.離婚財産分与の請求権の除斥期間が経過した場合
財産分与請求権は、離婚の時から2年が経過したときは消滅するので、この場合も財産分与を拒否することができます。このことは、民法768条第2項但書に定められています。
民法第768条第2項但書
前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
前記のとおり、離婚財産分与について請求できるのは、「離婚の時から2年経過する前」とされています。
この「離婚の時」がいつなのかは、離婚の方法によって異なります。
- 協議離婚の場合は、役所で離婚届が受理された日が基準時となります。
- 調停離婚では、調停が成立した日が基準時となります。
- 審判離婚の場合は、審判が確定した日が基準時となります。
- 裁判離婚の際には、判決が確定した日が基準時となります。
- 裁判離婚で和解が成立した場合は、和解が成立した日が基準時となります。
財産分与における時効や除斥期間については、こちらの関連記事にて詳しく解説しておりますので、ぜひご一読ください。
方法3.所有する財産全てが「特有財産」である場合
財産分与の対象となる財産は、夫婦が婚姻期間中に協力して形成した財産、いわゆる「共有財産」です。そのため、これに該当しない財産を「特有財産」と言いますが、特有財産は財産分与の対象とはならないため、財産が特有財産だけの場合には、請求を拒否することができます。
離婚時の財産分与において、「特有財産」は、夫婦のどちらかが婚姻前から所有していた財産や、婚姻中に個人で獲得した特定の財産のことを指します。
たとえば、以下の財産が離婚財産分与をしない「特有財産」になります。
- 結婚前に個人が所有していた現金や預貯金。
- 結婚前に購入した不動産、自動車、家具や家電などの動産。
- 結婚前に所有していた株式や債券などの有価証券。
- 結婚後に相続や遺贈によって得た、不動産や金銭、株式など。
- 結婚後に両親や親族から贈与された財産。
- 個人の名義で受け取った賞金や特許料など、個人の努力や才能による収益。
夫婦の間に共有財産がなく、特有財産しかないのであれば、そもそも財産分与をする対象財産がないため、財産分与できません。
方法4.婚姻の届出前に「夫婦財産契約」を締結していた場合
財産分与をしない方法として、婚姻の届出前に行う「夫婦財産契約」です。
夫婦財産契約とは、婚姻の届出前に、財産の取扱いを決める合意のことをいいます。夫婦財産契約は、民法755条に定めがあります。
民法755条
夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。
婚姻の届出前に「離婚時に財産分与をしない。」旨の夫婦財産契約を締結した場合、財産分与を拒める可能性があります。
なお、夫婦財産契約を結ぶことができるのは、婚姻の届出前とされています。結婚後、離婚を検討するようになってから夫婦財産契約を結ぶことはできません。
さらに、結婚した後は、締結した夫婦財産契約の内容を変更したり、取り消すこともできません(民法758条1項)。
また、夫婦財産契約を夫婦の承継人や第三者に主張できるようにするためには、登記をしなければなりません(民法756条)。
以上のように、夫婦財産契約を締結すると、婚姻後に変更することができなくなるなど制約が大きいため、事前に弁護士にご相談することをおすすめします。
方法5.共有財産に対して借金や負債が多い場合
このような場合には、夫婦の共有財産の総額から、夫婦が共同で負担するべき借金の金額を差し引いた金額が、最終的な財産分与の対象とされます。
この差引きの結果、財産分与するに足る財産が残らない場合は、財産分与ができません。
たとえば、夫婦が所有する不動産や預貯金に対して、それ以上の金額の住宅ローンや借金などのマイナスの財産がある場合、分割可能な財産がないと判断されて、財産分与ができなくなることがあります。
退職金を分配しないための手段はありますか?
「せめて退職金は取られたくない。」というご相談を受けることが少なくありません。
退職金は、多くの場合、給与の後払的性格があるため、財産分与の対象となります。
特に、退職金受領済みのケースでは、退職金を既に受領済みである以上、現金や預貯金と同様に扱われるため、財産分与の対象とされるのです。
なお、退職金が財産分与の対象財産とはならないケースがあります。
例えば、退職金の支払が不確実な場合です。
たとえば、企業の経営状態が不安定な場合、退職金が不支給となることもあり、財産分与の対象とはならない可能性があります。
こういった要因により、退職金の受給が不確実な場合は、配偶者の退職金を離婚財産分与の対象財産にしないことが考えられます。
退職金が財産分与の対象となるかどうかは、ケースバイケースですので、必ず弁護士に相談するようにしましょう。
財産分与したくない場合、離婚しないと主張することは可能ですか?
離婚を求められたとき、「財産分与をしたくないので、それを理由に離婚しない。」などと言う方もいらっしゃいます。
基本的に、協議離婚や調停離婚においては、離婚が成立するためには夫婦双方の合意が必要なので、財産分与をしたくないことを理由に、離婚を拒否することは可能です。
ですが、離婚したいと思っている場合には、この方法は最善とは言えません。
また、相手方の財産分与請求意思が強い場合には、これを拒否し続けることで、長期間、離婚できない恐れがあります。最初は離婚協議だったのに、拒否し続けた結果、裁判にまで発展していた、というケースも考えられます。
一方で、相手方に財産分与請求意思がそれほど強くはない場合、相手方は、離婚成立を優先して、「離婚さえしてくれるのであれば、財産分与はしないことで合意する。」と、財産分与請求権を放棄してくれる可能性もあります。
減額交渉もご検討ください
財産分与をしないことは無理でも、その支払金額を減らすことができる可能性はあります。
財産分与を請求されて、財産分与しないことに合意してもらえない場合は、減額できないか交渉してみましょう。
減額を求める際には、ただ「財産分与をしたくないから」といった感情的な理由ではなく、説得的な事情を伝えてみましょう。
そして、減額交渉は、冷静に対応すべきです。
相手方もご自身も感情的になってしまうと、まとまるはずの減額交渉も、まとまらなくなってしまいかねません。
財産分与の減額交渉に関するお悩みがございましたら、弁護士にお気軽にお問合せください。
財産分与しないと拒否する人への対処法
財産分与をしないと拒否する配偶者への対処方法として、次の方法が考えられます。
方法1.夫婦間での話し合い
まず取り得る対処方法として、夫婦間での話合いが考えられます。この方法は、夫婦の任意のタイミング、場所で行えるため、決められた期日に裁判所に出向くなどの手間もかかりません。
また、下記のような法的手段にでるよりも、解決までの時間や費用が少なくなる場合があります。
一方で、当事者での話合いでは、お互いが感情的になりやすく、交渉が難航することも少なくありません。
そうした場合には、弁護士に依頼して、話合いを任せるか、下記の手段を検討していくことになります。
方法2.調停を申し立てる
夫婦間での話合いがうまくいかない場合には、家庭裁判所に調停の申立をする方法があります。
調停では、裁判所の調停委員が介入し、夫婦の双方が受け入れることのできる解決策を見つけるために、中立的な立場から手助けを行います。
調停委員等を介した夫婦間の話合いになるため、柔軟な解決が図りやすいです。
また、調停は、裁判(訴訟)よりも手軽で、費用も比較的安価で済みますし、調停期日も、3回から6回ほどで終わることが一般的です。
調停が不成立となった場合は、審判手続に移行し、審判では裁判所により「決定」が下されることになります。
方法3.審判による解決
調停で解決しない場合には、裁判所の審判という手段も視野に入ります。
裁判所は、財産分与の範囲や割合を決定し、必要に応じて、強制的に財産分与を実現させることができます。
審判では、双方当事者が提出した資料などに基づいて、裁判所が妥当な結論を下します。
裁判所が出した審判に不服がある場合には、即時抗告という不服申し立て手続きがあります。それにより高等裁判所が判断を変えることもありますが、多くのケースでは、一審の判断が維持されますので、初めからすべての資料を出し尽くすことが大切です。
財産分与をしないと相手方に拒否された場合の最終的な対処方法と考えておきましょう。
方法4.強制執行を申し立てる
調停が成立するとか、審判が確定したにもかかわらず、相手方が支払をしない場合には、強制執行の申立をすることができます。
なお、協議により離婚時の財産分与を合意した場合について、強制執行認諾の文言を記載した離婚公正証書を作成しておくとよいでしょう。義務を履行しない配偶者に対して、調停や裁判といった裁判所での手続を経ることなく、強制執行手続をすることができます。
離婚公正証書と強制執行の詳細については、当事務所の関連記事をご一読いただけますと、より詳しくご理解いただけるかと思います。
本記事のまとめ
さて、本記事で説明した財産分与をしないための5つの方法を改めて記載します。
- 相手方が財産分与の請求権を放棄した場合や相手方が財産分与をしないことに合意した場合は財産分与を拒むことができます。しかし、口頭の合意だけではリスクがあるため、合意を書面化することをおすすめします。
- 離婚の時から2年の除斥期間が経過した場合、財産分与請求権が消滅します。「離婚の時」は、離婚の種類によって異なります。
- 財産全てが特有財産である場合です。婚姻前からの財産や婚姻中に個人で得た財産は、共有財産に含まれず、分与の対象外となります。
- 婚姻の届出前に夫婦財産契約で財産分与しない旨の合意をしていた場合です。
- 共有財産に対して借金や負債が多い場合です。共有財産があっても、それに対する借金が多い場合、それらを差引きすることで分与対象の財産がなくなる場合には、財産分与をすることができません。
以上のようなケースでは、財産分与請求をされた場合であっても、これを拒むことができます。
Q&A
Q1.財産分与しないことはできますか。しない方法はありますか?
財産分与請求をされた場合、原則として、それに応じなければなりませんが、次のようなケースでは、財産分与請求を拒むことができます。
- 相手方が財産分与の請求権を放棄した場合、財産分与を拒否できます。
- 離婚の時から2年が経過すると、財産分与請求権が消滅するため、財産分与請求を拒むことができます。
- 婚姻の届出前に締結した夫婦財産契約において「離婚時に財産分与を行わない」旨定めていた場合には、財産分与を拒むことができます。
- 所有する財産全てが「特有財産」(婚姻前からの財産や婚姻中に個人で得た財産)の場合、財産分与の対象となる財産がないため、請求を拒否できます。
- 財産分与の対象となる財産があっても、その財産に対する借金が多く、共有財産から差し引くことになると、財産分与の対象となる財産がなくなって、財産分与できなくなることがあります。
Q2.離婚時に財産分与を行わないと決めた場合、将来的に再交渉することは可能ですか?
離婚時に財産分与を行わないという合意があった場合には、原則として、相手方が再交渉に応じなければ、再交渉するのは難しいです。
しかし、場合によっては、再交渉の余地がある場合もあります。
たとえば、合意後に著しい事情の変化などがあった場合には、再交渉や法的な見直しが可能な場合があります。
詳細については、弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
Q3.財産分与を放棄することによるリスクは何ですか?
財産分与請求権を放棄すると、本来取得できる財産を放棄することになりますから、結婚期間中にキャリアを犠牲にしたり、子育てに専念したりした方の場合には、将来的な収入や退職後の生活に影響を受ける可能性があります。
また、後々、後悔することもあるので、財産分与請求権を放棄するかどうかの決定は、慎重に行うべきです。
離婚財産分与のお悩みは当法律事務所の初回無料相談をご利用ください
本記事では、財産分与をしない方法について、いくつかのケースや注意点をご説明いたしました。
本記事に記載した財産分与の請求を拒否するための方法を改めてまとめると、次のとおりです。
- 相手方が財産分与の請求権を放棄した場合
- 離婚の時から2年を経過したことにより、財産分与請求権が消滅した場合
- 所有する全財産が、婚姻前からの財産や婚姻中に個人で得た財産(特有財産)である場合
- 婚姻の届出前に締結した夫婦財産契約において、離婚時に財産分与を行わない旨定めていた場合
- 財産分与の対象となる財産があっても、その財産に対する借金が多い場合
なお、財産分与する義務がないからといって、財産分与請求された場合に、理由なく拒むべきではありません。
もっとも、財産分与の問題は一概には言えないことが多いため、夫婦の個々の事情によっても、適切な方法が異なります。
離婚時に財産分与をしない方法について、ご不安やご心配がある方は、ぜひ弁護士にご相談いただければと思います。
当法律事務所では、初回の法律相談は無料となっておりますので、お気軽にお問合せください。
この記事を書いた人
雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。