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同居義務違反|勝手に別居されたら?民法752条の夫婦の同居義務を解説!

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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同意のない別居とは、夫婦の一方が他方の同意を得ずに行う別居を指します。

夫婦が別居する理由はさまざまですが、「夫がストレスになるから顔を見たくない」といった感情的なものや、DVやモラハラをする配偶者から逃れるために別居するものまで多岐に渡ります。

特に感情的な理由から別居する場合、相手の同意を得ずに一方的に家を出て行ってしまうことがあります。ですが、相手の同意を得ない一方的な別居は、法律上の夫婦の義務に違反する場合もあり、慰謝料を請求されかねないケースもあるため、注意が必要です。

そこでこの記事では、配偶者の同意のない別居が法律上、どういった点で問題になるのかを解説させていただきます。

また、勝手に家を出て行った配偶者に同居を求める方法や、慰謝料を請求する手段があるのか、といったことについても弁護士が解説いたします。
この記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。

目次

同居義務違反

夫婦の法律上の義務(民法752条)

婚姻により、夫婦にはさまざまな法律上の権利や義務が生じることになります。中でも重要なのは、配偶者としての3つの義務「同居義務、協力義務、扶助義務」です。

 

配偶者としての3つの義務

同居義務、協力義務、扶助義務は、夫婦が遵守すべき基本的な義務であり、夫婦は一緒に住むこと、互いに協力し合って結婚生活を営むこと、及びお互いを助け合って同じレベルの生活を維持することが求められます。

この3つの法律上の義務については、民法第752条に以下の通り定められています。

(同居、協力及び扶助の義務)
民法第752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
もっとも、大抵の場合、日本では結婚した夫婦は同じ家で同居し協力し合って生活するので、夫婦の義務として意識し同居している夫婦はそういないでしょう。

さて、夫婦の3つの義務についてもう少し詳しく解説いたします。
民法第752条には、夫婦は「同居」し、互いに「協力」し「扶助」しなければならないと規定されています。

①同居義務

夫婦は通常、共同生活を営むことが求められます。しかし、双方の合意による別居や、単身赴任、出産のための一時的な帰省など、正当な理由がある場合は、この同居義務の例外となります。

②協力義務

結婚した夫婦には、お互いに支援し合い、協調して生活を築く義務があります。協力義務の内容について法律上の明確な規定はありませんが、一般的に夫婦の共同生活で求められるさまざまな事柄(たとえば家事や子育ての共同作業、介護、社会的なイベントへの参加など)が含まれると考えられています。

③扶助義務

夫婦は、お互いの生活を支え合うことが期待されており、これを扶助義務と呼びます。これは、経済的な援助だけでなく、感情的なサポートや日常生活の面倒を見ることも含まれます。夫婦の収入や生活状況が異なるため、必ずしも費用を均等に分担する必要はありませんが、お互いの生活水準を維持するための相互支援が求められます。

このように、婚姻して夫婦になった以上は、同居・協力・扶助の義務に従って、共同生活を営むことになります。

そのため、単身赴任や里帰りといった理由もなく、配偶者の同意のないまま一方的に別居を始めてしまうと、上記の同居義務違反となり、「悪意の遺棄」とみなされ、法律上の問題が発生する可能性があるのです。

勝手に別居されたら

さて、同居義務違反となる配偶者の同意のない別居をした配偶者に対して、同居するよう求めることはできるのでしょうか。

基本は話し合いで同居を求める

基本的に、まずは話し合いで直接相手に対して同居するよう求めることになるでしょう。ですが、相手の同意なく勝手に別居するような夫婦関係では、そもそも話し合いをすること自体が難しい場合が多いですし、話し合っても拒否されてしまえば、相手の身柄を無理やり拘束して同居を強制することもできません。

話し合いで同居を求めても進展のない場合は、調停や審判といった裁判所の手続きを利用する方法になります。

同居調停を申し立てる

同意がないのに別居した相手に対して同居を求める審判・調停については、家事事件手続法という法律に定められており、家事事件手続法別表第2に挙げられている事項について、調停や審判を申し立てることができます。

家事事件手続法別表第2の1には、「夫婦間の協力扶助に関する処分」と明記されています。これは民法第752条を根拠としているので、この家事事件手続法別表第2の1を根拠にして、同居義務違反に関する調停や審判を申し立てることができると考えられています。

なお、別表第2の事項に関しては、調停前置主義は適用されないため、同居を求める調停を申し立てずにいきなり審判を申し立てることが可能です。そのため、同意していないのに別居してしまった配偶者に同居を求めたいとき、調停を経ずに審判を申し立てることができます。

調停の場合も審判の場合も、成立した際の効力は同じです(家事事件手続法第268条)。

(調停の成立及び効力)
家事事件手続法第268条 調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、確定判決(別表第2に掲げる事項にあっては、確定した第39条の規定による審判)と同一の効力を有する。

この調停や審判の手続きにおいて、夫婦間のさまざまな事情を総合的に考慮し、裁判所は同居を命じるかを決めることとなります。

ですが、調停や審判が成立して裁判所が同居を命じたとしても、同居は強制できるものではありません。同居という行為の性質上、同居を拒否し別居したがる相手を、強引に家に連れ戻すことは裁判所にも不可能です。

そのため、同意のない別居をした相手が任意で同居に応じることに期待するしかなく、この調停や審判に相手が従わなかったとしても、同居を強制することはできません。

以上の通り、調停や審判といった手続きで同居を求めることはできるものの、同意なく別居した相手に対して同居を強制することまではできないため、「あまり意味がないのではないか。」と思われるかもしれません。

しかし、後に離婚裁判に発展したり、慰謝料を請求されたりした場合に、同居を求める調停や審判に従わなかったことが、離婚裁判や慰謝料請求において斟酌されるひとつの事情になることがあります。そのため、同居を求めること自体には実効性に乏しいのですが、決して無意味な手続きではないでしょう。

同意していないのに配偶者が一方的に別居を始めてしまい、同居を求める調停や審判を申し立てることをご検討されている場合は、ぜひ一度、弁護士に事前にご相談いただければと思います。

同意のない別居をした配偶者に同居を求める方法は?

同意のない別居の慰謝料

配偶者の同意がないのに勝手に別居した場合、別居した相手に対して慰謝料を請求したり、離婚を請求したりすることは可能なのでしょうか。

同居義務違反の場合の慰謝料

そして、民法第752条の夫婦の3つの義務(同居の義務、協力の義務、扶助の義務)を守らない悪意の遺棄は、「不法行為」に該当することになります(民法第709条)。

(不法行為による損害賠償)
民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

不法行為には、暴力や窃盗といった精神的な損害を相手に与える行為だけでなく、誹謗中傷やストーカー行為などの精神的な損害を相手に与える行為なども含まれます。

したがって、配偶者の同意がないのに別居をして放置するような行為によって、相手に精神的損害を与える同居義務違反行為は、民法第709条の不法行為に該当するため、慰謝料の請求が認められる可能性があるのです。

配偶者の同意のない別居を理由とした慰謝料請求は、それだけでもできますが、離婚請求の中で慰謝料を請求することが一般的です。

配偶者の同意がないのに勝手に別居した場合

そのため、まずは離婚協議の話し合いの中で慰謝料を請求し、話し合いがまとまらなければ離婚調停で、離婚調停が成立しなければ離婚裁判で離婚請求とともに慰謝料を請求することになります。

慰謝料請求の具体的な請求金額は、個々の事情や同意のない別居の態様などによって異なりますが、一般的な相場は数十万円から100万円ほどとされています。

同居義務違反の場合の婚姻費用

また、慰謝料を請求されることになったり、離婚が難しくなったりするだけでなく、別居期間中の生活費である「婚姻費用」に関しても問題が生じる可能性があります。

別居中でも法律上は夫婦であるため、本来は夫婦のうち収入の低い方が、他方に婚姻費用を請求できるとされています。ですが、同居義務違反になる別居をしてしまうと、同意なく別居をした側からの婚姻費用の請求が制限されてしまう可能性もあるのです。

なお、別居中の生活費である婚姻費用の基本的な知識については、こちらの関連記事もご参考いただければと思います。

同居義務違反の場合の離婚

配偶者が同意していないのに一方的に別居を始めた場合、民法第752条の同居義務違反となり、「悪意の遺棄」として離婚原因になる可能性があります。

「悪意の遺棄」とは、離婚裁判において離婚が認められる原因(法定離婚事由)のひとつです。

正当な理由がないのに、民法第752条の夫婦の3つの義務(同居の義務、協力の義務、扶助の義務)を守らなかった場合に、「悪意の遺棄」に該当するとみなされると、離婚裁判において悪意の遺棄を理由とした離婚請求が認められることになります。

悪意の遺棄に該当するのは、主に次のようなケースです。

  • 配偶者に無断で一方的に別居をする(同居義務違反)。
  • 働く能力があるにもかかわらず働かない、家事や育児に一切関与しない(協力義務違反)。
  • 働いて収入を得ているのに、生活費を支払ってくれない(扶助義務違反)。

そのため、配偶者が同意していないのに一方的に別居を始めた場合、同居義務違反として悪意の遺棄に該当し、相手からの離婚裁判における離婚請求が認められることになる可能性があるのです。

配偶者の同意のない別居が悪意の遺棄に該当すると認められることになると、同意なく別居した側が「有責配偶者」となってしまいます。

有責配偶者になると、有責配偶者からの離婚請求が制限されることもあり、離婚したくて勝手に別居を始めたのに、かえって離婚が難しくなってしまう場合があります。

ただし、同意がないのに別居を始めた場合でも、全てのケースが悪意の遺棄に該当することになるわけではありません。

配偶者の同意がない別居でも、その別居をすることになった原因に相手からのDVやモラハラがあり、相手に別居後の居場所を知られないために無断で別居したなどの理由がある場合には、悪意の遺棄に該当しない可能性があります。

同居義務違反の判例

ここまで、同意のない別居について、基本的な知識をご説明させていただきました。最後に、同居義務違反を原因として同居を求めた実際の裁判例をご紹介させていただきたいと思います。

同居を命じることは相当でないとした事例

 

【事案の概要】

夫が妻以外の女性と不貞を働き、妻の肩書住所地である自宅を出て不貞相手の居宅に再三宿泊しており、妻に対して自宅から退去するよう求めていました。これを原因として、妻が夫に対して、民法第752条に基づき、(1)夫は妻と同居すること、(2)夫は不貞相手の居宅に立ち入ってはならないこと、(3)夫は妻の現住居(自宅)居住継続を尊重することによって妻の生活を扶助すること、を求めました。

この妻からの請求に対して夫は、妻との性格の不一致により婚姻関係が破綻し、婚姻継続し難い状況にあり、このような状況の中で同居する意思も必要性もない、などとして、争いました。

 

原審判は、現時点では、夫婦間の信頼関係が失われているとし、次のように判断しました。

  • 請求(1)については家庭裁判所が公権的に同居を命じても、円満な同居生活の実現が期待できないため、請求を却下しました。
  • 請求(2)については、不貞の事実を認めるに足りないため、請求を却下しました。
  • 請求(3)については、妻の自宅は夫の所有建物ではない上、夫が自宅から退去するように妻に迫っている事情も認められないことから、これも請求を却下しました。

この審判の結果を受けて、妻が抗告した事案をご紹介いたします。

【裁判所の判断】

裁判所は、夫婦の同居義務と同居の申立てについて、まず次のように述べました。

夫婦の同居義務は、夫婦という共同生活を維持するためのものであるから、その共同生活を維持する基盤がないか又は大きく損なわれていることが明白である場合には、同居を強いることは、無理が避けられず、したがって、その共同生活を営むための前提である夫婦間の愛情と信頼関係が失われ、裁判所による後見的機能をもってしても円満な同居生活をすることが期待できないため、仮に、同居の審判がされ、当事者がこれに従い同じ居所ですごすとしても、夫婦が互いの人格を傷つけ又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が高いと認められる場合には、同居を命じるのは相当でないと解される。

その上で、以下のような本件事実について考慮し、判断しました。

夫は妻らの海外旅行中にさしたる理由もなく転居して別居し、妻以外の女性と不貞関係にあることを秘した上で、性格の不一致を理由として東京家庭裁判所に夫婦関係調整調停事件を申立て、妻との離婚を求めたことなどの事実にかんがみれば、不貞行為が別居理由と大きく関わっていると認められるから、別居に至った責任は、夫にあるというべきである。

しかし、夫は、不貞関係を清算して同居に応じる意思はなく、別居後、妻が、別居の事実や生活費を大幅に減額した事実を夫の母に告げたことや、妻が友人をして夫の不動産の仮差押えをさせたことに立腹し、妻や子供らと同居する意思を完全に喪失し、離婚を求めて調停を申し立て、また、離婚訴訟の準備をしていると認められる。

これに対し、妻は夫が不貞関係を清算して妻らとの同居に応じれば、夫と和解したい旨を表明しているが、他方、このような事態を作出した上、婚姻費用を大幅に減額するなどの兵糧攻めをしてでも離婚をしたいと望む夫に対する非難の感情は大きなものがあると推認される。

夫が妻らを自宅から立ち退かせようとしているのではないかとの強い疑念を抱いており、夫に対し強い不信感を抱いているものと認められる。

以上のような妻と夫との関係、互いの感情等に徴すると、夫に対し同居を命ずる審判がされたとしても、妻と夫とが、その同居により互いに助け合うよりも、むしろ一層しきりに互いの人格を傷つけ又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が極めて高いと認められるので、夫に対し、同居を命じることは相当でないといわざるを得ない。

(東京高等裁判所平成13年4月6日判決)

同居義務違反に関するQ&A

Q1.夫婦の法律上の義務について教えてください。

婚姻した夫婦には、民法第752条に規定されている「同居義務、協力義務、扶助義務」という3つの義務が生じます。

Q2.配偶者の同意がないのに別居をしてしまった相手に対して、同居を求める方法はありますか?

基本的に、まずは話し合いで直接相手に対して同居するよう求めることになります。話し合いで同居を求めても進展のない場合は、調停や審判といった裁判所の手続きを利用して、同居を求めることになります。

Q3.配偶者の同意がないのに別居をしてしまった相手に対して、離婚の請求や慰謝料の請求をすることはできますか?

配偶者の同意がないのに別居をしてしまった相手に対して、離婚の請求や慰謝料の請求をすることは可能です。

配偶者が一方的に別居を始めると、民法第752条の同居義務違反となり、「悪意の遺棄」に該当する可能性があります。これは離婚裁判における法定離婚事由の一つで、正当な理由がない場合に夫婦の義務(同居、協力、扶助)を守らなかったとみなされます。その結果、離婚請求が認められる可能性があります。

そして、配偶者が同意なく別居し、それにより精神的損害を与える行為は、民法第752条と709条に基づき「悪意の遺棄」に当たると判断されることになり、悪意の遺棄は不法行為に該当するため、慰謝料請求の対象となる可能性があります。慰謝料請求は離婚協議、離婚調停、離婚裁判の過程で行われ、請求金額は事情によりますが、一般的に数十万円から100万円程度とされています。

まとめ

この記事では、配偶者の同意がないのに一方的に別居をした場合に、どういった法律上の問題が生じるのかについて、弁護士が解説させていただきました。

相手に詮索されたくない、説明するのが面倒、などといった理由で配偶者に対して何も告げずに別居をしてしまう人も見受けられますが、この記事でご説明しました通り、一方的な別居は同居義務違反に当たります。そして、同居義務違反はその態様によっては不法行為の一種である「悪意の遺棄」に該当し、離婚裁判における離婚請求の原因となったり、慰謝料の請求原因になったりする可能性があります。

そのため、離婚するにしても関係修復するにしても、まずは配偶者にきちんと別居する旨を伝え、合法的に別居を始めることが重要です。

別居のやり方について不安な点がある時には、法律の専門家である弁護士にご相談ください。また、同意していないのに配偶者が一方的に別居を始めてしまったような場合などにも、ぜひお早めにご相談いただければと思います。

同意のない別居は、離婚請求や慰謝料請求、婚姻費用の請求など、さまざまな法律上の問題が生じます。弁護士にご相談いただければ、こうした一方的な別居に関する問題に対して、適切に対応いたします。

弁護士にご相談いただく際には、当法律事務所の初回無料法律相談を、ぜひお気軽にご利用ください。ご相談者様にとって利益となるよう、弁護士が徹底的にサポートいたします。

配偶者の同意のない別居のお悩みは、ぜひ弁護士法人あおい法律事務所にご相談ください。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。

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