寄与分とは?長年の介護などが認められる要件、計算方法、裁判例などを解説
被相続人の財産の維持や増加に貢献した家族がいる場合、その貢献をどう評価して公平に相続分を決めるかが問題になります。ここで重要な役割を果たすのが「寄与分」という制度です。寄与分とは、被相続人の財産に対して特別な貢献をした相続人が、相続財産を多くもらえるようにする制度です。例えば、長年にわたる介護や、事業の成功に貢献した場合などがこれに当たります。
しかし、寄与分の認定は簡単ではありません。どのような行為が寄与分として認められるのか、相場はどれくらいなのか、また裁判例ではどのように判断されているのかを知ることが重要です。
この記事では、寄与分の基本的な概念から、認められる要件、相場、そして具体的な裁判例まで、わかりやすく解説します。これを読めば、あなたの貢献が寄与分として認められるかや、どう主張すべきかがはっきりするでしょう。遺産相続で損をしないためにも、寄与分について知っておくことが大切です。
目次
寄与分とは
「寄与分」(読み方:きよぶん)とは、被相続人が亡くなる前に、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人が、どのくらい貢献したかに応じて相続財産を多く受け取ることができる制度です。
この制度は、遺産分割において、貢献した相続人に法定相続分を超える額の財産を取得させることによって、相続人間の公平を図ることを目的としています。
「寄与」とは、一般的には「貢献すること」や「役立つこと」を意味します。遺産相続においては、被相続人の財産に対して何らかの形でプラスの影響を与えた行為を指します。
民法904条にて、寄与分について以下のとおり定められています。
第九百四条の二 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
(引用:e-GOV「民法904条の2」)
例えば、長女が被相続人である父親の介護を長年やってきて、その健康の維持や生活の質の向上に大きく貢献したとします。他の兄弟は仕事や自身の家庭の事情で介護にほとんど関われなかったとします。この場合、長女の介護によって母親の財産が維持されたり、介護費や医療費の節約につながったりしたことが評価され、寄与分として長女に相続分以上の遺産をもらうことができる可能性があります。
このように、寄与分は、貢献の程度に応じて公平な遺産分割を実現するための重要な制度です。
寄与分を請求できるのは共同相続人のみ
共同相続人とは、相続が開始された後に、遺産を複数の相続人が共同で相続している状態にある相続人のことを指します。寄与分を請求することができるのは相続人に限られます。
つまり、内縁の配偶者や子どもの嫁など相続人以外の人に、寄与分は認められません。
なお、2019年7月1日から施行の相続法の改正により、相続人以外の親族による特別の寄与があった場合は、貢献度に応じた金銭を請求できるようになりました。
これを特別寄与料といいます。なお、これについても親族のみが請求できるので、内縁の配偶者には認められませんのでご注意ください。
これについては、下記記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
寄与分が認められる要件
寄与分が認められる要件は、「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与」があることです。
これについて、詳しく解説していきます。
「寄与分の主張を検討する皆様へ」(東京家庭裁判所第5民事部)記載の要件
東京家庭裁判所第5民事部発行のパンフレットの前文「寄与分の主張を検討する皆様へ」に、寄与分が認められるための条件が以下のとおり、記載されています。
①主張する寄与行為が相続開始前の行為であること
被相続人が亡くなった後の行為、例えば、遺産不動産の維持管理・違算管理・法要の実施などは、寄与分の対象になりません。
②寄与分が認められるだけの要件を満たしていること
※要件とは、
「その寄与行為が被相続人にとって必要不可欠であったこと」、
「特別な貢献であること」
「被相続人から対価を得ていないこと」
「寄与行為が一定の期間あること」
「片手間ではなくかなりの負担を要していること」
「寄与行為と被相続人の財産の維持又は増加に因果関係があること」
などで、その要件の一つでも欠けると認めることが難しくなります。
③客観的な裏付け資料が提出されていること
寄与分の主張をするには、誰が見ても、もっともだと分かる資料を提出する必要があります。主張の裏付けとなる資料のないまま主張すると、解決を長引かせてしまうだけです。
(引用:東京家庭裁判所第5民事部「寄与分の主張を検討する皆様へ」)
以下では、各要件について詳しく説明します。
寄与行為が相続開始前の行為であること
被相続人が亡くなった後に行われた行為、例えば、遺産である不動産の維持管理、遺産管理、法要の実施などは、寄与分の対象にはなりません。これらの行為は、相続開始後の行為であり、被相続人の財産の維持や増加に貢献したとはいえないためです。
寄与分を主張する場合は、その寄与行為が被相続人の生存中に行われたものであることが重要なポイントとなります。
寄与行為が被相続人にとって必要不可欠であったこと
単に被相続人のために何らかの行為をしただけでは不十分で、その行為が被相続人の財産の維持や増加において欠かせないものであったことが重要です。
例えば、被相続人が高齢で病気がちで、家族の献身的な介護がなければ生活が成り立たなかった場合、介護を行った家族の行為は、被相続人にとって必要不可欠であったと評価される可能性があります。
一方で、被相続人が自立して生活できている間に、家族が日常的な家事を手伝ったとしても、この行為が被相続人の財産の維持や増加に必要不可欠であったとは通常見なされません。そのため、このような行為は寄与分の対象として認められる可能性が低いです。
特別な貢献であること
被相続人と相続人の間の通常の身分関係に基づいて期待される程度を超える貢献でなければならないということを意味します。
例えば、ある家族で、息子が被相続人である父親の事業を手伝い、その結果、事業が大きく発展し、財産が大幅に増加したとします。息子の貢献が、単に親子間の通常の扶養や互助の範囲を超え、事業の成功に決定的な役割を果たした場合、この貢献は「特別な貢献」とみなされる可能性があります。
一方で、夫婦間の協力扶助義務(民法752条)や親族間の扶養義務・互助義務(民法877条1項)の範囲内で行われた行為は、特別の寄与とはみなされません。
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
例えば、被相続人が高齢になってから、買い物や病院への送迎を週に何回か行っていたケースや、配偶者が仕特別の貢献と認められない事例として、例えば、同居している兄弟のうち、弟が年老いた父親の日常の世話をしていたとします。弟が父親の食事を準備したり、洗濯をしたり、病院への送り迎えをしていたとしても、これらの行為は同居している家族間で一般的に期待される範囲内のものと見なされるため、特別の貢献とは認められない可能性が高いです。
一方で、特別の貢献と認められる事例としては、たとえば、娘が自宅での介護が必要な母親のために、自分の仕事を辞め、昼間や夜間も介護をしていた場合などが挙げられます。この場合、娘の行為は通常の家族の範囲を超えており、母親の健康状態の維持や生活の維持に直接貢献しているため、特別の貢献として認められる可能性があります。
以上のように、特別の貢献と認められるかどうかは、行為の内容や被相続人との関係、どの程度貢献したかなど、具体的な状況に応じて判断されます。そのため、寄与分の主張をする場合は、その貢献が通常の家族関係を超えるものであることを明確に示す必要があります。
被相続人から対価を得ていないこと
寄与行為が無償であることは、寄与分を受けるための必須条件です。ただし、直接的な報酬を受け取っていなくても、例えば「感謝の気持ちとして海外旅行の費用を支払われた」など、他の形の対価を受け取っている場合は、これも報酬とみなされる可能性があります。
また、寄与行為に対する報酬が一般的な水準に比べて明らかに低額である場合、無償ではなくても寄与分が認められることがあります。例えば、相続人が被相続人の家業を手伝い、相場よりもはるかに低い給与で長期間働いた場合、その貢献は寄与分として評価される可能性があります。
寄与行為が一定の期間あること
寄与行為が寄与分として認められるためには、一時的なものではなく継続的に行われたことが必要です。具体的な期間の基準は定められていませんが、通常は数年単位の長年にわたる行為が求められることが多いです。
片手間ではなくかなりの負担を要していること
寄与行為が相続人にとって相当な労力、時間、精神的な負担を伴うものである必要があることを意味します。
例えば、被相続人の介護や事業の手伝いが毎日数時間以上に及び、相続人の日常生活に大きな影響を与えている場合などが該当します。
寄与行為と被相続人の財産の維持又は増加に因果関係があること
寄与分の要件として、相続人の行為が被相続人の財産の維持または増加に直接的な影響を与えていることが重要です。つまり、相続人の行為によって、被相続人の財産が減るのを防いだり、または財産が増えた事実がないと寄与分は認められません。
たとえば、相続人が被相続人である親の長期間の介護を行い、その結果、高額な介護サービスや医療費の支出が抑えられた場合、この行為は財産の維持に貢献していると認められる可能性があります。
一方で、財産上の効果がない精神的な援助や協力は、寄与行為として認められません。なぜなら、財産上の効果がない行為は数値的な評価が難しく、主観的な評価になりがちで、公平性を損なう恐れがあるためです。
客観的な証拠が提出されていること
寄与分を主張する際には、寄与行為が実際に行われたことを証明する客観的な資料が必要です。これは、遺産分割協議の場や、話し合いがまとまらず家庭裁判所に調停や審判を申し立てる際に、寄与行為の事実を裏付ける証拠として提出しなければなりません。そのため、証拠となる書類は必ず保管し、提出できるように整理しておくことが大切です。
寄与行為の事実があったとしても、それを証明する資料がなければ、寄与分が認められる可能性は低くなります。また、寄与分が認められたとしても、証拠資料が不十分な場合は、認められる寄与分の額が少なくなる可能性があります。
具体的にどのような証拠が必要となるのかについては、寄与行為の内容によって異なります。
以下では、寄与分として認めれる行為にはどのような行為があるのか、それぞれについて具体的な要件と証拠としてどのようなものを提出すればよいかについて解説いたします。
寄与分が認められる5つの類型
寄与分が認められる行為には、以下の5つの類型があります。
- 療養看護型
- 家業従事型
- 金銭出資型
- 財産管理型
- 扶養型
以下ではそれぞれについて詳しく解説していきます。
①療養看護型│介護を行っていたケース
「療養看護型」は被相続人の介護を行っていたことにより寄与分が認められるケースです。
療養看護型として寄与分が認められる要件は、以下の6つです。
1.療養看護の必要性(原則要介護2以上)
病気や障害により介護が必要な状態にあること、また原則として要介護2以上であることが必要です。
要介護2以上であれば、日常生活を周りの人の援助を受けなければ1人で生活できない状態、療養看護の必要性がある可能性が高いからです。
なお、入院中の期間や施設に入所していた期間がある場合、その期間の寄与分は原則として認められません。
2.特別な貢献
自分の仕事や生活を犠牲にして、長期間にわたる病気や障害の介護をしていた場合などがこれに該当します。
親族として通常期待される範囲の家事援助や身の回りの世話や精神的な支えなどでは認められません。
3.無償性
介護を無償でしていた場合のみ認められます。ただし、寄与行為に対する報酬が一般的な水準に比べて明らかに低額である場合、無償ではなくても寄与分が認められることがあります。
4.継続性(1年以上)
介護が少なくとも1年以上継続して行われていたことが必要です。
5.専従性
例えば、昼は会社に勤務しながら夜は被相続人の介護をしていたような場合は、専従性の要件を満たしていないため認められません。ただし、たまにパートをする程度であれば認められ宇可能性があります。
6.財産の維持・増加との因果関係
介護したことにより、介護費や医療費の出費を免れたという事実が必要です。
証拠資料の例
寄与分を主張する場合は以下のような証拠を提出する必要があります。
- 要介護認定通知書・要介護認定資料等(どういう症状だったかの証明する資料)
- 介護サービス利用票・ケアプラン・施設利用契約書・介護利用契約書等(どういう介護が必要とされたかを証明する資料)
- 医療記録等(対象期間を証明する資料)
- 報告書(具体的にどういう介護をしたのかの証明する資料)
- 写真・日記・手紙・家計簿等(具体的にどういう介護をしたのかの証明する資料)
②家業従事型│事業の手伝いをしていたケース
「家業従事型」は被相続人の事業を手伝っていたことにより寄与分が認められるケースです。
家業従事型として寄与分が認められる要件は、以下の5つです。
1.特別な貢献
「被相続人との身分関係に基づき通常期待される程度」を超える寄与であることが必要です。
特に配偶者や、同居している相続人などは、「特別」の基準が高くなります。
また、被相続人からの依頼によるものか、自ら志願して行ったものか、または他に仕事がなくやむを得ず家業を継いだのかなどの経緯も重要です。
2.無償性(無償か著しく低い給与)
たとえ完全な無償ではなくても、もし労働に対する報酬が一般的な水準に比べてかなり低い場合、寄与分として認められる可能性があります。
一方で、報酬がないか、非常に少ない状態であっても、もし被相続人の財産や収入に依存して生活していた場合、寄与分として認められないこともあります。
3.継続性
明確な基準はありませんが、少なくとも3年以上継続している必要があります。
4.専従性
専任である必要はないが、片手間でないことが必要です。週1、2回土日に仕事が休みの日に家業を手伝ったとなどの場合は寄与分は認められません。
5.財産の維持・増加との因果関係
労働して被相続人の事業を成功に導いたなどでは直接的な因果関係が証明できないため、寄与分は認められません。
あくまでも、給料を支払わずにすみ、その分支出を免れた、という点で寄与分が認められる可能性があります。
証拠資料の例
寄与分を主張する場合は以下のような証拠を提出する必要があります。
- 確定申告書等経営内容のわかる資料(事業の収支性を明らかにするための資料)
- 給与台帳、給与明細書、確定申告書等、給与の支払状況がわかる資料
- 報告書
・家計の状況
・他の相続人の労務提供状況
・家業に従事するに至った経緯、労務の内容
などを記載したもの
③金銭出資型│お金を出していたケース
「金銭出資型」は被相続人に対して財産上の利益を提供したことにより寄与分が認められるケースです。
金銭出資型として寄与分が認められる要件は、以下の3つです。
1.特別な貢献
扶養の範囲を超える程度であることが必要です。
例えば、所有する賃貸マンションに無償で住まわせた場合や、家の高額なリフォーム代を支払った場合などがこれに当たります。
2.無償性
例えば、貸付をしていた場合などは、長年放置しており返還してもらえなかった場合であっても寄与分に当たる行為ではないので寄与分は認められません。
3.財産の維持・増加との因果関係
被相続人の財産を維持または増加させる必要があります。金銭の出資が被相続人が営む事業に対するものであれば、法人の財産を増加させるもので、寄与分は認められません。
証拠資料の例
寄与分を主張する場合は以下のような証拠を提出する必要があります。
- 寄与主張者の預金通帳、振込通知書(寄与分の主張者が金銭等を給付したことを証明する資料)
- 被相続人の預金通帳、振込受領書、不動産売買契約書、増改築や入院費用等の明細書、被相続人の家計簿等(被相続人が寄与分の主張者から金銭等を受領したことを証明する資料)
- 相続人の非課税証明書、年金額改定通知書など(被相続人が要扶養状態にあったことを証明する資料)
④財産管理型│所有する財産の管理をしていたケース
「財産管理型」は被相続人の財産を管理することで財産の維持した場合に寄与分が認められるケースです。
財産管理型として寄与分が認められる要件は、以下の5つです。
1.財産管理の必要性
管理会社に財産の管理を依頼していたような場合は、たとえ管理がいい加減なものであったとしても財産管理の必要性があったとはいえません。
2.特別な貢献
「被相続人との身分関係に基づき通常期待される程度」を超える寄与であることが必要です。
例えば管理するアパートの賃借人の数や不動産の面積等も考慮して、相当な規模であった場合、原則として、「扶養の範囲」を超えるとして寄与分が認められます。
例えば、部屋数が8室程度のアパート1棟の管理などでは寄与分が認められない可能性が高いでしょう。
3.無償性
寄与行為が無報酬またはほとんど無報酬で行われていることが必要です。しかし、通常の管理報酬などと比較してかなり少ない報酬であれば、寄与分として認められることがあります。一方で、報酬がほとんどない状態でも、もし被相続人の資産や収入に頼って生活していた場合は、寄与分として認められないこともあります。
4.継続性
専従性は要件ではありませんが、継続性は必要です。例えば、被相続人が入院した数か月間財産管理をしただけでは、寄与分は認められません。
5.財産の維持・増加との因果関係
被相続人の財産を維持または増加させる必要があります。
例えば、立ち退き交渉などに努力し土地の売買価格を「増加」させた場合でも、財産の維持・増加と因果関係が証明できないので、寄与分は認められなません。
証拠資料の例
寄与分を主張する場合は以下のような証拠を提出する必要があります。
- 管理していた財産の賃貸借契約書・売買契約書・預金通帳・領収書
- 賃貸人や不動産業者とのメールや書類、手紙等
⑤扶養型│資金援助などで被相続人の出費を防いだケース
「扶養型」は被相続人の財産を管理することで財産の維持した場合に寄与分が認められるケースです。
扶養型として寄与分が認められる要件は、以下の5つです。
1.扶養の必要性
療養看護型と異なり、疾病等の存在は要件でありませんが、扶養の必要性があるかどうかが問題です。扶養の必要性がない被相続人に対して、引き取って生活の面倒をみた場合や、小遣いを渡していたという場合などで寄与分は認められません。
2.特別な貢献
被相続人との関係で通常期待される程度を超える特別な貢献が必要です。単に同居して家事手伝いをしたり、小遣いを渡した程度では「特別」とはいえません。
3.無償性
扶養が無報酬またはほとんど無報酬で行われていることが必要です。しかし、通常の扶養の対価と比較してかなり少ない報酬であれば、寄与分として認められることがあります。
4.継続性
数カ月程度のわずかな期間の扶養では寄与分は認められません。
5.財産の維持・増加との因果関係
扶養行為によって被相続人の財産を維持または増加させる必要があります。
証拠資料の例
寄与分を主張する場合は以下のような証拠を提出する必要があります。
- 被相続人の非課税証明書、年金額決定・改定通知書、被相続人の収支がわかる預金通帳(要扶養状況を証明する資料)
- 家計簿、被相続人の預金通帳、被相続人の生活に関わる各種証明書、領収書、金銭出納帳、振込明細等(扶養に要した費用を証明する資料)
- 寄与分の主張者の預金通帳等(扶養料の給付を証明する資料)
- 報告書
・被相続人の当時の生活状況と必要とされた扶養の内容
・被相続人との身分関係や扶養開始事情・扶養の内容
・扶養の時期・期間
・報酬の有無と内容
・他の相続人らの費用義務と能力・同居の有無と期間や生活費の負担割合
などを記載したもの。
寄与分が認められた裁判例と認められない裁判例
介護による寄与分が認められた判例│神戸家裁豊岡支部平成4年12月28日審判
被相続人が持病の悪化と老衰で寝たきりとなり、相続人である息子とその妻が自宅での看護を担いました。
しかし、被相続人の病状が悪化し、息子の妻はほとんど外出できない状態になり、昼夜を問わず看護する必要が生じました。その結果、彼女は寝不足と疲労のため自律神経失調症を発症しました。
家庭裁判所は、息子の妻の大きな献身と負担を認め、看護期間である2年4ヶ月に相当する120万円の寄与分を認定しました。
なお、当時「特別寄与料制度」が存在しなかったため、息子の妻は息子の代理として看護を行ったと見なされ、その寄与分は息子のものとして認められました。
扶養による寄与分が認められた判例│東京高等裁判所平成22年9月13日決定
相続人が、約15年にわたって被相続人の家計管理を担い、自身の給料をすべて家計に入れていました。
この事例において、裁判所は相続人の行為を特別な寄与とみなし、扶養型の寄与分として認定しました。家計へ入れていた額から相続人の生活費や小遣いを差し引いた残りの金額が、寄与分として認められました。
この判例は、相続人が被相続人の経済的な困難を支えるために給料全額を家計に回した行為が、家族間で通常期待される支援を大きく超えていると判断された例です。
介護による寄与分が認められないかった判例│静岡家庭裁判所沼津支部平成21年3月27日審判
相続人の妻は、10年以上にわたり被相続人の通院の付き添いや入浴のサポートなど、日常の世話を担ってきました。
相続人と被相続人は長期間同居していましたが、被相続人は退院後も一日中の付き添いを必要とする状態ではありませんでした。裁判所は、被相続人が自力でトイレに行ったり、箸を使って食事をしたりできたことを考慮し、相続人の妻の行為が同居家族として通常期待される扶養義務の範囲を超える療養看護であったとは判断できないとして、寄与分を認めませんでした。
この判例は、日常の世話が長期間にわたって行われたとしても、被相続人の状態や同居家族としての通常の扶養義務の範囲内であれば、寄与分として認められない可能性があることを示しています。
扶養による寄与分が認められなかった判例│大阪高等裁判所平成27年3月6日決定
相続人が被相続人の近くに住んでおり、18年間にわたって食事の世話を行っていました。相続人は、被相続人の食費を1日1,000円として計算し、合計657万円もの費用を負担したと主張しました。
しかし、裁判所は、提出された証拠が不十分であると判断し、さらに、相続人の行為が通常の扶養の範囲を超えるものであるとは認められないとして、寄与分の主張を認めませんでした。
この判例は、長期間にわたる扶養行為があったとしても、それが通常の家族間の扶養を超えるものであることを明確に証明できなければ、寄与分として認められない可能性があることを示しています。
寄与分額の計算方法
寄与分の内容によって、それぞれ計算方法が異なります。それぞれの計算式は以下のとおりです。
寄与行為 |
計算方法 |
---|---|
療養看護型 |
療養看護の報酬日当額×療養看護日数×裁量的割合 |
家事従事型 |
受け取るべき年間給付額×(1-生活費控除割合)×寄与年数 |
金銭等出資型 |
贈与額×貨幣価値変動率×裁量的割合 |
財産管理型 |
管理等を第三者に委任した場合の報酬額×裁量的割合 |
扶養型 |
負担した扶養額×期間×(1-寄与相続人の法定相続分割合) |
ただし、計算した金額がそのまま認められるわけではありません。これらの計算式はあくまで一例であり、実際の寄与分額は家庭裁判所が寄与の時期、方法や程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して決定します。
寄与分は相続人間の話し合いで決定されるため、提案された金額に異議を唱える相続人が現れることも珍しくありません。さらに、特別受益、遺留分、遺贈などが関係する場合、計算式に従った金額がそのまま認められるとは限りません。
なお、「裁量的割合」についてはケースごとに異なります。自身の状況における寄与分額や計算方法を知りたい方は弁護士にご相談ください。
相続分の計算方法
寄与分が確定した場合、それを相続分に反映させるための計算式は以下の通りです。
- 寄与分がある相続人の相続分:(遺産総額 – 寄与分)× 法定相続分 + 寄与分
- 寄与分がない相続人の相続分:(遺産総額 – 寄与分)× 法定相続分
具体的な例で考えてみましょう。相続人が子どもAと子どもBの2人で、遺産総額が5000万円、子どもAの寄与分が800万円の場合、それぞれの具体的相続分は以下のように計算されます。
- 子どもAの具体的相続分:(5000万円 – 800万円)× 1/2 + 800万円 = 2900万円
- 子どもBの具体的相続分:(5000万円 – 800万円)× 1/2 = 2100万円
この例では、子どもAの寄与分が考慮された結果、子どもAは2900万円、子どもBは2100万円を相続することになります。寄与分がある場合、その分だけ寄与者の相続分が増え、他の相続人の相続分が減少することになります。
寄与分の上限は「相続財産-遺贈」
寄与分の上限については、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額」と定められています(民法第904条の2第3項)。これは、寄与分が支払われるのは残った相続財産からなので、それを超える額を請求することはできないという意味です。
寄与分の相場
寄与分の額は、一般的に相続人同士の話し合いによって決定されるため、特に決まった相場はありません。相続人全員が寄与行為を認めて全財産を取得することで合意した場合は、全財産を相続することも可能です。
裁判所で判断される場合の寄与分の相場についても、具体的なケースによって大きく異なり、貢献の内容や程度、期間などに基づいて個別に判断されます。一般的には、相続財産の2~3割程度、多くても5割程度が認められる寄与分の相場といえるでしょう。
ただし、特別な貢献があったことを認めてもらうのは非常に難しく、扶養の範囲内の行為であった場合、寄与分をまったく認めてもらえない可能性も高いです。
寄与分に時効はない
寄与分に関しては、消滅時効が存在しないと解されています。つまり、寄与分を求める権利自体には時効はありません。ただし、全相続人の合意により遺産分割が行われた場合、原則としてその後遺産分割の内容を覆すことはできません。したがって、実質的に寄与分を主張できるのは、遺産分割の合意が成立するまでの間です。
寄与分の主張は、遺産分割協議の出来るだけ早い段階で行うことが望ましいです。協議の終結間近で初めて寄与分を主張すると、他の相続人から不満が生じる可能性が高くなります。
寄与分には時効がないため、何十年前の行為であっても証明できれば有効です。ただし、古い行為を証明するのは難しいため、実際に寄与分が認められるケースは少ないです。
また、特別寄与料に関しては、寄与分とは異なり、消滅時効と除斥期間が設定されています。特別寄与料の支払いを請求できるのは、特別寄与者が相続の開始および相続人を知った時から6カ月間です。さらに、相続開始の時から1年を経過すると、特別寄与料請求権の除斥期間が経過し、裁判による請求が一切できなくなります。
遺産分割協議で主張できる期間は相続開始から10年│令和5年4月1日法改正
寄与分を主張できるのは、相続が開始されてから10年以内という制限があります。これは、令和5年4月1日に施行された民法の法改正によって定められたもので、亡くなってから10年が経過してしまった場合、その後に寄与分を主張してもその主張は認められません。
寄与分と遺留分と関係
遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた、相続できる遺産の最低保障額です。遺留分割合は、直系尊属のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は法定相続分の2分の1とされています。
寄与分は、相続分の計算に影響を与えますが、遺留分を計算する際には考慮されません。そのため、特定の相続人に高額な寄与分が認められた場合、他の相続人の相続分が遺留分を下回る可能性があります。
遺留分を侵害する寄与分については、法律上は特に問題ありません。
寄与分の上限は「相続財産の総額-遺贈の価額」とされており、遺留分を侵害する寄与分は認められないというルールはありません。
しかし、遺留分侵害額請求に対して、寄与分を主張して拒否することはできません。遺留分侵害額請求の対象は「遺贈」と「贈与」であり、寄与分とは基本的に無関係です。
寄与分と遺留分の関係は複雑であり、具体的なケースによって異なるため、弁護士に相談することをお勧めします。
寄与分を認めてもらうには
遺産分割協議で主張する
通常、まずは遺産分割協議の中で自分の寄与分を主張します。
具体的な寄与分の額を含めて、全ての相続人が寄与分について合意すれば、その内容に基づいて遺産分割協議を進めることができます。
ただし、遺産分割協議は全員の同意が必要なため、一人でも反対する相続人がいると協議は成立しません。
相続人間での協議がうまくいかず、合意が得られなかった場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
家庭裁判所に調停を申し立てる
寄与分に関する問題は、なかなか遺産分割協議では解決できないのが一般的です。
相続人間での協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。この調停には主に以下の2種類があります。
- 遺産分割調停: これは、遺産分割の方法について相続人間で話し合う調停です。寄与分は、遺産分割に関する話し合いの中で取り上げられます。
- 寄与分を定める処分調停: これは、寄与分の額などを決定するための調停です。寄与分が主な争点となる場合、この調停が必要となることが多いです。寄与分のみを対象として話し合います。
「寄与分を定める処分調停」は、「遺産分割調停」の一部として行うことも、それ自体で単独で申し立てることも可能です。また、「遺産分割調停」が先に申し立てられている場合でも、後から「寄与分を定める処分調停」を申し立てることができます。
寄与分を巡る問題は複雑で感情的なものになりがちですので、調停を通じて合意に達することが望ましいです。調停を利用することで、相続人間の対立を解消し、公平な解決を図ることができます。
「寄与分を定める処分調停」の申立て方法
「寄与分を定める処分調停」の申立て方法について、簡単にまとめると以下の通りです。
- 申立人: 特別の寄与を行ったと主張する相続人が申立人となります。相手方は、申立人以外の相続人全員です。
- 申立先: 申立先の家庭裁判所は、申立人以外の相続人のうちの1人の住所地を管轄する裁判所、または全員が合意で定める裁判所です。
既に遺産分割調停が行われている場合は、その調停が行われている裁判所に申し立てます。 - 必要書類:
1.申立書とその写し(相手方の人数分)
2.被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
3.相続人全員の戸籍謄本
4.相続人全員の住民票または戸籍附票
5.遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写しや残高証明書、有価証券の写し等)
6.寄与分を証明するための資料や証拠
「寄与分を定める処分調停」の詳しい申立て方法については、裁判所HP「寄与分を定める処分調停 」に掲載されていますので、こちらをご覧ください。
調停では、寄与分を証明するための資料や証拠の準備が非常に重要です。具体的にどのような資料や証拠が有効であるかについては、弁護士にご相談ください。
寄与分に関するQ&A
Q: なぜ寄与分が認められにくいのですか?
A: 寄与分が認められにくい主な理由の一つは、特別の寄与の要件が厳しいことにあります。特に重要なのが、「被相続人と相続人の身分関係から通常期待される程度を超える行為であること」という要件です。
例えば、同居している親子であれば、法律上、歳を取った親の面倒を見ることが当然とされています。例えば、同居する親子間での日常的な世話、「親の食事の世話をずっとしていた」や「病院の送り迎えをずっとしていた」といった行為は通常期待される範囲とみなされ、特別の寄与として認められにくいです。
一方で、通常では期待されないような行為、例えば自分で全ての介護を行ったり、仕事を辞めて家業を無償で手伝ったりした場合には、特別の寄与として認められる可能性が高くなります。
しかし、寄与分を主張する際には、通常期待される範囲を超える特別な貢献を証明する必要があり、これが大きなハードルとなります。
Q: 寄与分の計算方法はどのようになっていますか?
A: 寄与分の金額は、まず相続人間の協議によって決定されますが、合意に至らない場合は裁判所が判断します。民法は寄与分の算定方法について具体的な規定を設けておらず、「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して」定めるとされています。裁判例によりいくつかの類型について具体的な算定方法が示されていますが、実際には期待した金額よりも少ない場合が多いです。
具体的な計算はケースごとに異なります。寄与分を具体的に計算したい場合には、弁護士に相談することをお勧めします。
Q: 寄与分を認めてもらうためにはどうすればよいですか?
A: 寄与分を認めてもらうためには、以下のステップを踏むことが一般的です。
- 遺産分割協議で主張する: まず、遺産分割協議の中で自分の寄与分を主張します。具体的な寄与分の額を含め、全ての相続人が寄与分について合意すれば、その内容に基づいて遺産分割協議を進めることができます。ただし、遺産分割協議は全員の同意が必要なため、一人でも反対する相続人がいると協議は成立しません。
- 家庭裁判所に調停を申し立てる: 相続人間での協議がうまくいかず、合意が得られなかった場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。この調停には「遺産分割調停」と「寄与分を定める処分調停」の2種類があります。寄与分が主な争点となる場合、後者の「寄与分を定める処分調停」が必要となることが多いです。
まとめ
寄与分は、しばしば争いの種となる複雑な問題です。相続人間での話し合いがスムーズに進むことは稀であり、多くの場合、調停や裁判所を通じて寄与分を認めてもらう必要があります。
その際は、単に事実を列挙するだけでは不十分で、法律に基づいた適切な主張と立証が求められます。
また、寄与分の要件は複雑で厳しく、認められるケースは多くはありません。自分で寄与分の主張をするには限界があるでしょう。
相続に精通した弁護士であれば、寄与分に関する有効な主張と立証を行うことができ、必要な証拠を準備するためのアドバイスも提供できます。
弁護士法人あおい法律事務所では、寄与分に詳しい弁護士が在籍していますので、寄与分に関する悩みや疑問がある場合は、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。