絶縁した兄弟との遺産相続|法律上どうなる?対策は公正証書遺言がおすすめ

遺産分割

更新日 2026.05.13

投稿日 2024.07.05

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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価値観が合わない、不仲、過去にトラブルがあった、などのさまざまな事情から、絶縁状態にある兄弟姉妹がいる、という方もいらっしゃるかと思います。絶縁状態にある兄弟で遺産相続が発生すると、分割方法や割合などをめぐって新たな争いが生じかねません。

また、絶縁状態でお互いに連絡先を知らずに、遺産相続があることを連絡できないといったケースも少なくないでしょう。そうした場合に、どのように遺産相続が発生したことを伝え、手続きを進めていけばよいのでしょうか。

そこでこの記事では、絶縁した兄弟との遺産相続について弁護士がわかりやすく解説させていただきます。絶縁状態にある兄弟姉妹がいる場合の遺産相続の基本から、どういったトラブルが生じる可能性があるのか、といった点についても触れていきます。また、絶縁状態の兄弟との遺産相続の進め方については、相手と連絡が取れる場合と連絡先を知らない場合とに分けて、詳しくご説明いたします。

絶縁した兄弟がいる場合にも、遺産相続を円滑に進めていけるよう、本記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。

目次

絶縁した兄弟との遺産相続

1.「絶縁」は法律上どういう効果がある?

「絶縁」とは、人間関係において交友関係などを断つことをいいます。これは世間一般的に使われている言葉で、法律上に「絶縁」という言葉が定義されているわけではありません。したがって、絶縁という法的な手続きもありません。

絶縁と似た法制度としては、法的な親子関係を将来に向かって終了させる「離縁」、実親との法的なつながりを断絶させることになる「特別養子縁組」などがあるものの、一般的に言われる「絶縁」は事実上関係を断っている状態のことですので、離縁や特別養子縁組のような特段の法的効果はないのです。

そのため、兄弟姉妹と絶縁することになっても、当事者の意思で日頃の関係を断っているに過ぎません。

2.絶縁した兄弟も法律上は相続人

自身の親や兄弟姉妹が亡くなり遺産相続が発生したとき、兄弟姉妹の仲が良好であれば、連絡を取り合って遺産分割協議を行い、相続手続きをスムーズに進めていけるでしょう。ですが、兄弟姉妹が不仲、あるいは長期間疎遠で音信不通になっているなどで、絶縁状態にあることも考えられます。

「ずっと連絡もせず親とも疎遠だった兄弟に、親の遺産を渡したくない。」「仲の良かった姉とは兄の遺産を分け合うのに問題ないが、不仲の弟には兄の遺産を相続させたくない。」などと思うこともあるかもしれません。あるいは、「絶縁状態で連絡を取れないのだから、遺産相続を知らせずに相続手続きを進めても問題はない。」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、絶縁状態にある兄弟姉妹も、法律上は相続人になり得ます。

前述のとおり、「絶縁」というのは法律に規定された制度ではありません。一般的に「絶縁」と呼ばれる状態は、関係性が断絶している事実上の状態のことを意味します。ですので、親子や兄弟が絶縁状態にあるからといって、法律上の親子関係・兄弟関係が消滅しているわけではありません。法律上の親子関係や兄弟関係が存在する以上は、相続人になる条件(相続順位等)を満たせば絶縁している兄弟姉妹も相続人になるのです。

なお、遺産相続が始まると、被相続人の遺産は相続人全員の共有状態となります(民法第896条、同第898条)。

(相続の一般的効力)
民法第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

(共同相続の効力)
民法第898条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
2 相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。

遺言による指定などが無い限り、基本的には遺産分割協議を行い、相続人全員が合意した内容で遺産を分割することになります。協議による遺産分割は相続人全員の合意が必要で、相続人が1人でも話し合いに参加していなかったり合意していなかったりすると、協議は成立しません。遺産分割協議の成立前に共有状態にある遺産を利用・処分するためには、他の共有者である相続人全員の同意が必要です(民法第251条、同第264条)。

(共有物の変更)
民法第251条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
2 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。

(準共有)
民法第264条 この節(第二百六十二条の二及び第二百六十二条の三を除く。)の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。

そのため、絶縁状態にある兄弟がいたとしても、必ずその兄弟と遺産分割協議を行い、合意を得る必要があるのです。

また、引き継いだ不動産の相続登記手続きや銀行での預金の払い戻し手続き等には、相続人全員の実印を押印した遺産分割協議書が必要とされています。実務上も、絶縁した兄弟を無視して遺産相続を進めることは不可能ということです。

絶縁した兄弟も相続人としての権利を持っていること、本人の協議への参加や合意がなければ遺産分割は進められないこと、を理解しておくことが重要です。

兄弟間での遺産相続の具体的な進め方などについては、こちらの関連記事でも解説しておりますので、本記事とあわせてぜひご覧ください。

なお、他の相続人の同意を得ずに勝手に預貯金を引き出してしまった場合、他の相続人から財産の返還を請求される可能性や、不当利得(民法第703条、同第704条)や不法行為(民法第709条)に基づいて損害賠償請求される可能性がありますので、注意してください。

3.絶縁した兄弟姉妹間での遺産相続は難しい?

絶縁した兄弟姉妹がいる場合の遺産相続は、兄弟間で絶縁している相続人がいない遺産相続に比べて難しいと考えられています。

まず、絶縁状態にあることで相続人の連絡先がわからないために、遺産分割協議を始められない・進まないといった問題が生じます。前述のとおり、遺産分割協議を行うには相続人全員の合意が必要です。絶縁しており連絡が取れないと、「遺産相続が発生したこと・遺産分割協議を行うこと」を伝えることができないため、遺産は共有状態となったまま相続手続きを進めていくことができません。

また、仮に絶縁中の兄弟姉妹の生死も不明で、失踪宣告や不在者財産管理人の選任といった法的手続きをする必要が生じた場合、さらに遺産相続が長引いてしまう可能性が高いです。

あるいは、絶縁状態の兄弟姉妹の居場所や連絡先を知っていたとしても、以下のように遺産分割協議や相続手続きに非協力的であることも考えられます。

  • 連絡をしても返信が遅い、日程調整に応じないなど、話し合い自体に積極的に関与しない。
  • 特定の方法でしか連絡を受け付けない、あるいは途中で連絡を絶つなどして、円滑なやり取りを妨げる。
  • 些細な事で反対意見を出すなど、故意に話し合いを遅滞させる。
  • 把握している遺産の情報を共有しない、資料の提出を拒む。
  • 法定相続分を大きく超える取り分を主張するなど、現実的でない条件を提示する。
  • 感情的に発言する、過去の不満やトラブルを持ち出すなどして、建設的な議論ができない。
  • 内容に大きな問題がなくても、遺産分割協議書への署名や押印をしないことで、手続きを進めさせない。

遺産分割協議が円滑に進まないと、遺産分割調停をせざるを得なくなり、最終的に遺産分割審判に移行することになりかねません。調停や審判は裁判所での手続きですので、時間や費用がさらに必要となる上に、審判では裁判所が法定相続分で遺産分割することが原則なので、全員が納得いく結果を得られるとは限らないのです。

このように、絶縁した兄弟姉妹がいる遺産相続はスムーズに進めていくことが難しいことが多いです。なるべく円満に遺産分割ができるよう、絶縁状態の兄弟姉妹との遺産相続のやり方について以下で確認していきましょう。

絶縁状態の兄弟姉妹との遺産相続の進め方

それでは、絶縁状態にある兄弟姉妹との遺産相続の進め方を見ていきましょう。

1.兄弟姉妹の連絡先が分かる場合

兄弟姉妹の連絡先が分かる場合は、以下のいずれかの方法によって連絡を取ることになります。

1-1.直接対面せずにメールや電話で話し合いをする

遺産分割協議は必ずしも対面で行う必要はないため、メールや電話、手紙などで連絡を取る方法が考えられます。ただし、文字だけではお互いの意思が十分に伝わらないこと、誤解を招く可能性があるため、文面はしっかり考えましょう。

また、近年は携帯やパソコンを使って画面を共有しながら通話することも簡単になっています。直接対面することはできない場合でも、テレビ電話や通話アプリなどを活用し、お互いの表情等を確認しながら話し合うことも検討してみましょう。

1-2.他の相続人を間にはさんで話し合いをする

相続人が複数人おり、「長男と長女は絶縁状態にあるが、次男は長男・長女のどちらとも良好な関係を築いている」といった場合もあるかと思います。こうしたケースでは、長男と長女が話す際には次男に間に入ってもらい、直接やり取りすることを避けるのも1つの方法です。

しかし、直接やり取りする精神的負担や手間を軽減できる一方、第三者を介すことで主張がうまく伝わらなかったり、ニュアンスの違いから誤解が生じてしまったりする恐れもあります。他の相続人に仲介を頼む場合は、そうしたリスクも考慮しておくことが重要です。

1-3.弁護士に依頼する

他の相続人では利害が対立する恐れがあったり、相続人全員が絶縁状態にあったりするケースもあるかと思います。こうした場合に直接のやり取りを避けたい場合は、弁護士に依頼することも検討してみてください。

弁護士は遺産分割協議に代理人として参加できるほか、法的に有効な遺産分割協議書の作成も行え、その後の銀行や法務局での相続手続きも進めることができます。遺産相続に関する法律や制度を熟知していますので、依頼者にとって不利な合意内容とならないよう交渉します。法的なトラブルを回避し、遺産相続の手間やストレスを軽減したい場合には、有効な手段となるでしょう。

2.不仲で連絡先がわからない場合

次に、不仲や疎遠といった事情から相手の連絡先がわからない場合の遺産相続の進め方を確認していきます。

2-1.まずは所在を特定する

絶縁状態の兄弟姉妹と連絡が取れない場合、まずはその所在を特定しなければなりません。連絡先の確認には、「戸籍の附票」が有効です。

戸籍の附票とは、新しい戸籍が作成されたとき・その戸籍に入ったときから、現在に至るまでの「住所の移り変わり」が記載された公的書類です。相続人の戸籍謄本そのものには住所が記載されていないため、住所を確認するためには戸籍謄本ではなく戸籍の附票が必要です。戸籍の附票は、兄弟姉妹の本籍地の市区町村役場で取得することができます。

ただし、プライバシー保護のため、兄弟姉妹であっても戸籍の附票を自由に取得できるとは限りません。

原則的に請求が認められる人としては、「戸籍の附票に記録されている本人、その配偶者、直系尊属(父母・祖父母)、または直系卑属(子・孫)」が挙げられます(住民基本台帳法第20条1項)。

(戸籍の附票の写しの交付)
住民基本台帳法第20条1項 市町村が備える戸籍の附票に記録されている者(当該戸籍の附票から除かれた者(その者に係る全部の記載が市町村長の過誤によつてされ、かつ、当該記載が消除された者を除く。)を含む。次項において同じ。)又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属は、当該市町村の市町村長に対し、これらの者に係る戸籍の附票の写し(第十六条第二項の規定により磁気ディスクをもつて戸籍の附票を調製している市町村にあつては、当該戸籍の附票に記録されている事項を記載した書類。次項及び第三項並びに第四十六条第二号において同じ。)の交付を請求することができる。

兄弟姉妹は直系の血族に該当しないため、法律が規定する以下の要件のいずれかに該当する場合に、戸籍の附票の交付請求が認められることとなります(住民基本台帳法第20条3項)。

住民基本台帳法第20条3項 市町村長は、前二項の規定によるもののほか、当該市町村が備える戸籍の附票について、次に掲げる者から、戸籍の附票の写しで第十七条第二号から第六号までに掲げる事項のみが表示されたものが必要である旨の申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、当該申出をする者に当該戸籍の附票の写しを交付することができる。
一 自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために戸籍の附票の記載事項を確認する必要がある者
二 国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある者
三 前二号に掲げる者のほか、戸籍の附票の記載事項を利用する正当な理由がある者

住民基本台帳法第20条3項1号の「自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために戸籍の附票の記載事項を確認する必要がある者」としては、遺産分割協議を行う必要がある相続人による交付請求や、債権回収のために相手の所在を確認する必要がある場合などが考えられます。同項2号の「国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある者」とは、裁判所や行政機関に提出するための疎明資料として必要な場合があります。同項3号の「戸籍の附票の記載事項を利用する正当な理由がある者」としては、単に「絶縁した兄弟の居場所を知りたい」という理由では不十分とされる可能性が高く、「遺産分割協議を行うために他の相続人を捜索する」といった具体的な理由が必要とされています。

相続人自身で戸籍の附票を取得することが難しい場合は、弁護士に依頼することも検討してみてください。弁護士は職務上の必要がある場合に他人の戸籍の附票等を取得することのできる職務上請求の権利を有していますので、こうした手間のかかる手続きを一任することができます。

ただし、戸籍の附票を取得しても、引っ越しの際に住民票の転出届や転入届を提出していない場合などには、戸籍の附票に最新の住所が記載されていないため、以下の方法を取る必要があります。

2-2.行方がわからない場合は不在者財産管理人の選任が必要

戸籍の附票を取得しても住所がわからない場合は、不在者財産管理人の選任が考えられます。不在者財産管理人とは、所在不明な人がいる場合に、その人の財産を管理するために家庭裁判所が選任する人のことです(民法第25条)。

(不在者の財産の管理)
民法第25条 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
2 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。

所在不明な相続人がいるために遺産分割協議ができない場合、他の相続人が家庭裁判所で所在不明者の不在者財産管理人選任の申立てをします。裁判所が選任した不在者財産管理人が、所在不明の相続人の代わりに遺産分割協議に参加することになるため、遺産分割協議を行い相続手続きを進めることが可能となるのです。

ところで、不在者財産管理人が選任された後、絶縁した兄弟と連絡が取れて本人が遺産分割協議に参加できることになった場合はどうなるのでしょうか。

不在者財産管理人の職務については、不在者本人が自ら財産を管理することができるようになった場合、不在者、管理人若しくは利害関係人の申立てまたは職権により、不在者の財産の管理に関する処分の取消しの審判がされることになっています(家事事件手続法第147条)。

(処分の取消し)
家事事件手続法第147条 家庭裁判所は、不在者が財産を管理することができるようになったとき、管理すべき財産がなくなったとき(家庭裁判所が選任した管理人が管理すべき財産の全部が供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、不在者、管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、民法第二十五条第一項の規定による管理人の選任その他の不在者の財産の管理に関する処分の取消しの審判をしなければならない。

つまり、行方不明だった兄弟が現れたというだけで直ちに不在者管理人から本人へ変わるわけではありません。なお、実際には本人がいる場合にまで不在者財産管理人が財産管理をする必要はほとんどないと思われますので、本人の財産管理能力を見極めた上で、管理人が審判を申し立てることになるでしょう。

2-3.生死不明の場合は失踪宣告を申し立てる

絶縁状態の兄弟が生死不明の場合には、失踪宣告を申し立てることで遺産相続人から除外する方法があります。失踪宣告とは、生死が不明な人物を法的に亡くなったものとして扱う手続きです(民法第30条)。これにより、長期間放置されていた財産の整理が可能になります。

(失踪の宣告)
民法第30条 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。

(失踪の宣告の効力)
民法第31条 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。

失踪宣告には、生死不明な場合の「普通失踪(民法第30条1項)」と、戦地に臨んだ・沈没した船舶にいた・死亡の原因となる危難に遭遇した場合の「特別失踪(民法第30条2項)」とがあります。兄弟と絶縁したケースで想定されるのは、前者の普通失踪です。

普通失踪の場合は、行方不明の期間が7年経過すると、失踪宣告が認められ、行方不明の兄弟は死亡したものとみなされます(民法第31条)。これにより、実は兄弟が生きていたという場合でも、遺産相続に影響を与えることはなくなるのです。

もし絶縁した兄弟に子や孫がいる場合は、子や孫が代襲相続人として遺産相続に参加することになります。子や孫と連絡を取って、遺産分割協議を進めていきましょう。

ところで、行方不明の兄弟が生存していた場合は、失踪宣告取消しの申立てをして取消しの審判を得ることで、失踪宣告の効果がなくなります(民法第32条1項)。

(失踪の宣告の取消し)
民法第32条 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。

宣告による死亡の効果が「最初からなかったもの」になるため、相続の開始もなかったことになります。そのため、既に遺産分割が終わり預貯金等を分配していたら、相続人は受け取った財産を返還しなければならないのです。ただし、その範囲は「現に利益を受けている限度」に限定されています(民法第32条2項ただし書)。相続した預貯金等を浪費した場合は返還する必要はありませんが、生活費に充てた場合は「自分の財産からの必要な出費を免れた」という利益があるとみなされるため、返還義務が生じます。

なお、「その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。(民法第32条1項)」とあるように、善意でした行為については、取消しの影響を受けません。たとえば、土地を相続した相続人が第三者に土地を売却した場合、もし取消しの効果が及ぶと土地を購入した第三者は土地を返還しなければならなくなってしまいます。これでは取引の安定性を損なうため、相続人と取引相手の両方が善意である(生存を知らなかった)場合などには、その取引は有効に成立したものとして保護されるのです。

 

絶縁した兄弟との遺産相続に向けた対策

絶縁した兄弟姉妹がいる場合は、生前のうちに遺産相続に向けて対策を講じておくことも大切です。

1.遺産相続させたくない絶縁した兄弟がいた場合

1-1.相続人廃除

一般的に、特定の相続人を遺産相続から除外したい場合、「相続人廃除」の申立てをすることが考えられます(民法第892条)。

(推定相続人の廃除)
民法第892条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

ただし、廃除の対象となるのは、遺留分を有する推定相続人に限られます。被相続人の兄弟姉妹に遺留分は認められていないため、相続人廃除の対象とはなりません。そのため、「親の遺産相続」について被相続人である親が子を相続廃除することによって、「共同相続人である絶縁した兄弟姉妹」を廃除することはできますが、「被相続人が絶縁した兄弟姉妹の1人である場合に、相続人である絶縁した兄弟姉妹」を廃除することはできませんので、注意してください。

被相続人の生前であれば、被相続人が相続人廃除を家庭裁判所に申し立てます。被相続人が存命中に相続人廃除の申立てをしていない場合でも、遺言書にその旨を記載しておくことで、遺言執行者を通じて相続人廃除の申立てを行うことが可能です。

1-2.相続欠格

「相続欠格」に該当する場合も、絶縁した兄弟姉妹が相続権を失うことになります。相続欠格とは、特定の事由に該当する場合に相続権を自動的に失う制度です。被相続人の意思は関係なく、法律上の事由に該当することで相続権が剥奪されます(民法第891条)。

(相続人の欠格事由)
民法第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

たとえ遺言書に相続させる旨が記載されていても、相続欠格によって相続権を失った者について、遺産相続は認められません。

ただし、相続欠格者が相続権を失った場合でも、その欠格者が被相続人より先に死亡していた場合は、代襲相続が発生します。欠格者本人は相続できませんが、その子孫は代襲相続人として相続権を持つことになります。

2.絶縁した兄弟に公正証書遺言は有効?

絶縁状態にある兄弟姉妹に遺産を相続させたくない場合、遺言書を作成しておくことは有効なのでしょうか。

仮に、兄弟と絶縁した旨を記載した公正証書遺言を作成していても、前述のとおり「絶縁」に法的効力はありません。そのため、他の兄弟姉妹などに特定の遺産を相続させる旨の遺言書を作成することで、実質的に絶縁した兄弟を遺産相続に関わらせないようにすることになるでしょう。

被相続人の兄弟姉妹には法律上の最低限の取り分である遺留分が認められていないため、たとえば遺言書で「次女に全財産を相続させる」としておくことで、次女以外の兄弟姉妹の相続権を事実上奪うことが可能となります。

ただし、被相続人が「親」の場合は、絶縁した兄弟は被相続人の「子」となるため、遺言書で相続させないようにしても遺留分を奪うことはできません。

3.絶縁した兄弟と遺産相続で関わりたくない場合は相続放棄を

絶縁した兄弟姉妹と遺産相続で関わりたくない場合の対処法としては、相続放棄も考えられます。

プラスの財産もマイナスの財産も、一切について相続する権利を失うことになりますが、自分の意思で絶縁した兄弟との相続問題から距離を取ることが可能となります。自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所に対して相続放棄の申述を行い、受理されれば相続放棄が認められます(民法第938条)。

あるいは、絶縁した兄弟に相続放棄してもらうことも考えられますが、相続放棄は相手に強制することができません。相手が任意で相続放棄することが望めない可能性が高いでしょう。

絶縁した兄弟との遺産相続に関するQ&A

Q1.絶縁中の兄弟姉妹が相続人である場合に、行方がわからなかったらどうすればよいですか?

A:絶縁中の兄弟姉妹も相続人になるため、相続が発生したときには遺産分割協議に必ず参加してもらう必要があります。連絡先や行方がわからない場合は、居場所や連絡先を特定することから始めましょう。

兄弟姉妹の所在は、戸籍の附票や住民票を取得して調べることができます。もし戸籍の附票等でも行方がわからない場合は、不在者財産管理人の選任が必要です。不在者財産管理人は、行方不明の相続人のかわりに相続財産を管理します。選任された不在者財産管理人と他の相続人とで、遺産分割協議を進めていくことになるでしょう。

また、兄弟姉妹が生死不明で7年経過している場合は、失踪宣告の申立てをすることで、絶縁した兄弟姉妹は死亡したものとして遺産相続から除外させることが可能です。行方不明の兄弟と連絡がつけられなくても、残った相続人で遺産相続をすることができます。

Q2.絶縁した兄弟姉妹がいる場合、遺産分割で何に注意すべきですか?

A:絶縁した兄弟姉妹との遺産分割では、できるだけ感情を抑えて冷静・事務的にやり取りをすることが重要です。どうしても冷静でいられない場合は、弁護士に代理人として間に入ってもらうことも検討しましょう。

また、遺産相続手続きが完了するまでは、遺産は相続人全員の共有状態です。相続人全員の同意がない限り、遺産を勝手に処分してはいけません。絶縁した兄弟姉妹とのやり取りを避けたいからといって安易に遺産を処分してしまうと、後でトラブルになる可能性が高いので、必ず全員で遺産分割協議を成立させてから遺産を分割するようにしましょう。

Q3.絶縁した兄弟姉妹に前もって相続放棄させることはできますか?

A:相続放棄は相続開始後にしかできません。また、相続放棄をする本人の意思によって行う手続きですから、相手が反対していれば不可能ですし、強制することはできません。

まとめ

この記事では、絶縁した兄弟との遺産相続について弁護士が解説させていただきました。

絶縁して音信不通になってしまうと、遺産分割協議を始めるために所在を確認しなければならず、スムーズな交渉も難しいため、一般的な兄弟姉妹間での遺産相続よりも複雑になりがちです。そのため、絶縁した兄弟姉妹がいる遺産相続は、弁護士にご相談いただければと思います。

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この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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