遺留分の割合は?子供・配偶者・親ケースごとに詳しく解説!
遺産相続において、亡くなった人が「一人の子にすべての遺産を残す」といった不公平な遺言を残していた場合でも、法定相続人は遺言によって影響されない最小限の遺産取得分、すなわち「遺留分」を請求する権利を持っています。ただし、被相続人の兄弟姉妹に遺留分はありません。
では、自分の遺留分は具体的にどれくらいになるのでしょうか。遺留分の割合は民法で規定されており、通常は「法定相続分の1/2」です。しかし、相続人が直系尊属(親など)のみの場合、この割合は「法定相続分の1/3」になります。さらに、子供や親が複数いる場合は、全体の遺留分を等分することで各自の割合を算出します。
遺留分の割合は相続人の構成によって変わります。まずはどのような相続人が存在するのかを把握することが重要です。この記事では、遺留分の割合を異なる7つのケースに分けて詳しく解説していきます。
目次
遺留分の割合
遺留分とは、特定の法定相続人が保証される最小限度の遺産を取得する権利のことをいいます。この遺留分が侵された際には、不足している部分を他の相続人に対して請求することができます。
遺留分の割合は、誰が遺産を相続するのかによって変わります。まずは、誰に遺留分が認められるのかについて解説いたします。
なお
「遺留分とは」について、詳しくは下記記事で解説しております。あわせて参照してください。
請求できるのは兄弟以外の法定相続人
遺留分を請求できる相続人は、以下の人だけです。
- 配偶者
- 子や孫などの直系卑属
- 親や祖父母などの直系尊属
これらの相続人は「遺留分権利者」と呼ばれます。子が亡くなっている場合は、その子の代わりに相続する孫(代襲相続人)も、亡くなった子と同じく遺留分を請求することが可能です。
一方、被相続人の兄弟姉妹やその子(甥や姪)などは遺留分の権利を持ちません。また、相続欠格者、相続廃除された人、相続放棄した人も遺留分の権利を失います。ただし、相続欠格や廃除の場合は、その人の子(直系卑属)が代襲相続人として遺留分権利者になることがあります。
遺留分の割合│7つのケース
直系尊属(親など)のみが相続人である場合は、遺留分は「法定相続分×1/3」になります。一方、配偶者と直系尊属など、直系尊属のみ以外の場合は、遺留分は「法定相続分×1/2」になります。
つまり、全体の遺留分割合(1/2または1/3)に各遺留分権利者の法定相続分を掛けることで、その人の実際の遺留分の割合を計算します。遺留分の基礎となる法定相続分は以下のとおりです。
相続人の構成 |
配偶者の法定相続分 |
子供の法定相続分 |
親の法定相続分 |
---|---|---|---|
配偶者と子供 |
1/2 |
1/2 |
– |
配偶者と親 |
2/3 |
– |
1/3 |
遺産相続において、法定相続人の構成は以下のように7つのケースが想定されます。それぞれの遺留分割合を表にまとめましたので、自分に該当する割合を参照してください。
相続人の構成 |
全体の遺留分割合 |
配偶者の遺留分割合 |
子どもの遺留分割合 |
親の遺留分割合 |
兄弟姉妹の遺留分割合 |
---|---|---|---|---|---|
配偶者のみ |
1/2 |
1/2 |
– |
– |
– |
配偶者と子 |
1/2 |
1/4 |
1/4 |
– |
– |
配偶者と親 |
1/2 |
1/3 |
– |
1/6 |
– |
配偶者と兄弟姉妹 |
1/2 |
1/2 |
– |
– |
なし |
子どものみ |
1/2 |
– |
1/2 |
– |
– |
親のみ |
1/3 |
– |
– |
1/3 |
– |
兄弟姉妹のみ |
なし |
– |
– |
– |
なし |
以下では、7つのケースについて、どのように遺留分の割合を計算するのかを具体的にわかりやすく解説していきます。
①相続人が配偶者のみの場合
相続人が被相続人の配偶者のみの場合、その配偶者の遺留分は遺産の1/2となります。
これは、被相続人に子ども、親、兄弟姉妹がいない、またはこれらの相続人がすでに亡くなっているか、相続を放棄している場合が考えられます。例えば、被相続人に3億円の遺産があるとします。遺言で「遺産3億円を全て生前一緒に住んでいた女性に渡し、婚姻関係にある妻には何も残さない」と遺言していた場合でも、妻は遺留分として1億5千万円を請求する権利があります。
計算式:配偶者の遺留分=3億円×1/2=1億5千円
②相続人が配偶者と子供(2人)のみの場合
相続人が配偶者と子供2人の場合、配偶者の遺留分は遺産の1/4、子供たちの遺留分も合わせて遺産の1/4となります。
この場合、子供一人あたりの遺留分は子供たちの合計遺留分を均等にわけるため、1/4×1/2=1/8ずつになります。
例えば、遺産総額が3億円だった場合、配偶者には7500万円の遺留分があり、子供たちにも合わせて7500万円(子供一人あたり3750万円)の遺留分があります。
たとえ被相続人が「全遺産をある団体に寄付する」と遺言していたとしても、配偶者と子供たちはそれぞれ遺留分として合計で1億5000万円を遺贈された団体に対して請求する権利があります。
なお、子供がすでに亡くなっており、その子の子(孫)がいる場合、孫は亡くなった子供と同じだけ遺留分を請求する権利があります。
計算式:
配偶者の遺留分=3億円×1/4=7500万円
子供1人当たりの遺留分=3億円×1/4×1/2=3750万円
③配偶者と親(父母)の場合
相続人が配偶者と父親、母親の場合、配偶者の遺留分は遺産の1/3です。一方、親たちの遺留分は、2人合わせて遺産の1/6となります。
この場合、親1人あたりの遺留分は遺留分の合計を均等にわけるため、1/6×1/2=1/12ずつになります。
例えば、遺産総額が3億円の場合、配偶者には1億円の遺留分があり、親たちにはそれぞれ2500万円の遺留分があります。
たとえ被相続人が「全財産を特定の団体に寄付する」と遺言していたとしても、配偶者は遺留分として1億円、親たちは合計で5000万円を遺贈された団体に対して請求する権利があります。
なお、親がすでになくなっているが祖父母は生存している場合、祖父母は親と同じように遺留分を請求することができます。
計算式:
配偶者の遺留分=3億円×1/3=1億円
親1人当たりの遺留分=3億円×1/6×1/2=2500万円
④相続人が配偶者と兄弟の場合
相続人が被相続人の配偶者と兄弟姉妹の場合、配偶者は遺産の1/2を遺留分として請求できますが、兄弟姉妹には遺留分の権利はありません。
兄弟姉妹は、被相続人に子供や直系尊属(親や祖父母)がいない状況で法定相続人となることがありますが、遺留分の権利は与えられていないので注意してください。
例えば、遺産総額が3億円の場合、配偶者には1億5000万円の遺留分があります。
計算式:配偶者の遺留分=3億円×1/2=1億5千円
⑤相続人が子供(3人)のみの場合
被相続人の配偶者がすでに亡くなっており、相続人が子供3人のみの場合、子供たちの遺留分の合計は遺産の1/2になります。この遺留分は子供たちの人数で等分されるため、子供が多いほど一人当たりの遺留分は少なくなります。
例えば、遺産総額が3億円で、相続人が子供3人のみの場合、子供たちの遺留分の合計は1億5千万円(遺産の1/2)です。したがって、子供たちはそれぞれ5000万円を遺留分として請求することができます。
計算式:子供1人当たりの遺留分=3億円×1/2×1/3=5000万円
⑥相続人が親(父母)のみの場合
被相続人の父親と母親が相続人である場合、直系尊属の遺留分の合計は遺産の1/3になります。親が両方ご存命の場合は、それぞれ1/3×1/2=1/6の遺留分があります。
例えば、遺産総額が3億円で、相続人が父母のみの場合、父母の遺留分の合計は1億円(遺産の1/3)です。したがって、親はそれぞれ5000万円を遺留分として請求することができます。
計算式:親1人当たりの遺留分=3億円×1/3×1/2=5000万円
⑦相続人が兄弟姉妹のみの場合
被相続人に配偶者、直系卑属(子供や孫)、直系尊属(親や祖父母)がいなく、兄弟姉妹のみが残されている場合、通常は兄弟姉妹が法定相続人となり、遺産を相続することになります。ただし、遺言書が存在する場合は、その内容が優先され、兄弟姉妹には遺留分の権利は認められません。
例えば、「遺産を全額特定の友人に譲る」という遺言が残されていた場合、兄弟姉妹はその友人に対して遺留分を請求することはできません。このように、兄弟姉妹は遺留分の権利がないため、遺言書による指定がある場合はそれに従う必要があります。
遺留分割合の計算方法を詳しく解説
ここでは、遺留分の割合の厳密な計算方法について説明していきます。
遺留分割合の計算は以下の2つのステップで行います。
①総体的遺留分を計算する│全体の割合
総体的遺留分とは、遺留分算定の基礎となる財産額に占める遺留分全体の割合のことです。遺留分算定の基礎となる財産額とは、被相続人が相続開始時に有していた財産に、相続開始前1年以内になされた贈与や特別受益などを加え、相続債務を差し引いたものです。総体的遺留分の割合は、相続人の組み合わせによって異なりますが、原則として1/2とされています。ただし、相続人が直系尊属(父母や祖父母など)のみの場合は1/3となります。
②個別的遺留分を計算する│相続人ごとの割合
次に、各相続人の「個別的遺留分」を計算します。個別的遺留分とは、遺留分権利者である法定相続人がそれぞれ受け取るべき遺留分の割合のことです。
これは、「総体的遺留分」に各相続人の「法定相続分」を掛け合わせることで求められます。
具体的な計算例を見てみましょう。被相続人が亡くなったとき、相続人は妻と子供2人でした。この場合、総体的遺留分の割合は、相続人が妻と子なので1/2です。妻の法定相続分が1/2、子供2人の法定相続分がそれぞれ1/2×1/2(2人で等分)=1/4であるため、個別的遺留分の割合は、配偶者は1/2×1/2=1/4、子はそれぞれ1/2×1/4=1/8です。
対象となる財産
遺留分を計算する際は、まず遺留分の基礎となる相続財産を確認酢する必要があります。相続財産には以下のようなものが含まれます。
- 現存遺産:これは、被相続人が亡くなった時点で保有していた財産です。現金、不動産、株式など、被相続人名義の全資産が含まれます。
- 債務:被相続人が負っていた借金やその他の負債も、相続財産の計算において考慮されます。
- 生前贈与:被相続人が亡くなる1年以内に行った贈与も、相続財産に含まれます。これは、相続の直前に財産を減らすことで遺留分を不当に低くすることを防ぐためです。
- 特別受益:これは、被相続人から特定の相続人が結婚、養子縁組、生計の支援などの目的で受け取った不動産や金銭などを指します。特別受益は、相続開始前10年以内に行われたものが対象となります。
相続財産の価額の計算式は以下のとおりです。
相続財産の価額=(現存遺産-債務)+生前贈与+特別受益分
このように、遺留分の計算は単に被相続人の死亡時点での財産だけでなく、その前の一定期間に行われた贈与や特別受益も含めて行われることが重要です。これにより、相続の公平性が保たれ、遺留分の正確な算出が可能になります。
相続財産の価額に遺留分割合を掛ける
遺留分割合と相続財産の価額がわかったら、つぎに遺留分の金額を計算しましょう。
遺留分=相続財産の価額×遺留分の割合
上で計算した相続財産の価額に、それぞれの相続人の状況に応じた遺留分の割合を掛けることによって、具体的な遺留分の金額を計算することができます。
遺留分の計算方法については下の記事で詳しく解説していますので、こちらをご覧ください。
侵害されているとわかったら請求を
遺留分の金額がわかったら、その遺留分が侵害されていないかどうかを確認しましょう。
遺留分が侵害されている状態とは、遺言や贈与によって法定相続人が受け取るべき最低限の財産(遺留分)を得られない状況を指します。
侵害されている場合には「遺留分侵害額請求」を行う必要があります。
なお遺留分侵害額請求には以下の2つの時効があります。
- 相続の開始があったことを知った日から1年以内
- 相続開始から10年以内
したがって、遺留分を請求する場合は、期限内に適切な手続きを行うことが重要です。
遺留分侵害額請求の手順は以下のとおりです。
- 財産調査:まず、遺留分侵害額を特定するために、相続財産に関する詳細な調査を行います。
- 内容証明郵便の送付:遺留分の請求は、相続開始から1年以内に行う必要があります。請求を行う際には、内容証明郵便で相続人に通知することが一般的です。これにより、遺留分請求の時効を停止させることができます。
- 調停の申し立て:相手方が請求に応じない場合などは、裁判所に調停を申し立てることができます。調停では、裁判所が指名した調停委員が中立的な立場で話し合いを進め、合意に至ると調停調書が作成されます。
- 訴訟の提起:調停での話し合いがまとまらず、合意に至らない場合は、最終手段として訴訟を提起することになります。裁判所が遺産の価値を評価し、遺留分の正確な金額を算出します。訴訟では、当事者間の合意は必要なく、裁判所の判断により決定されます。
遺留分侵害額請求の請求手続きの流れなどについては、下記記事で解説しております。あわせて参照してください。
遺留分の割合に関するQ&A
Q: 遺留分の請求ができる相続人は誰ですか?
A: 遺留分の請求ができる相続人には限りがあり、主に故人の配偶者、子供、直系尊属(親など)が該当します。兄弟姉妹は遺留分の請求権を持ちません。また、相続放棄をした相続人や相続欠格者、相続廃除された人も遺留分の請求権を失います。
Q: 遺留分の割合はどのようにして決定されますか?
A: 遺留分の割合は、相続人の種類によって異なります。配偶者、子供、親が相続人の場合、遺留分は遺産の2分の1です。直系尊属のみが相続人の場合は、遺留分は遺産の3分の1になります。この割合は、相続人の法定相続分に基づいて計算されます。
Q: 遺留分の計算において、生前贈与はどのように扱われますか?
A: 遺留分の計算において、故人が生前に行った贈与は、遺留分算出の基礎となる相続財産に加算されます。特に、相続開始前1年以内に行われた贈与や、特別受益に該当する贈与は、遺留分の計算において重要な要素となります。これにより、故人が生前に特定の相続人に対して行った贈与が、他の相続人の遺留分に影響を与えることを防ぐことができます
Q: 遺留分の請求をする際に必要な手続きは何ですか?
A: 遺留分の請求をする際には、まず遺産の総額と相続人の法定相続分を確認し、自分の遺留分を計算します。その後、遺留分が侵害されていると判断した場合、遺留分侵害額請求の通知を他の相続人や遺贈受者に送付します。通常、この通知は内容証明郵便で行われます。解決に至らない場合は、調停や訴訟を通じて請求を進めることになります。
まとめ
この記事では、相続における「遺留分」の割合に焦点を当て、相続人の構成に応じた7つの異なるパターンを詳細に解説しました。遺留分の割合は、表を用いて一目で理解できるように整理されていますが、実際の遺留分の計算には、遺留分の基礎となる財産の総額を正確に把握することが不可欠です。
相続財産の評価は、特に不動産や株式などの価値が市場状況によって変動する場合、複雑になることがあります。また、生前贈与や特別受益なども考慮する必要があります。これらを正確に評価し、遺留分を適切に計算するには専門的な知識が求められるため、専門家である弁護士に相談することを強くお勧めいたします。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。