遺産分割協議書の製本時の割印の押し方│押印の場所や失敗したときの押し直し方法も解説

遺産分割

更新日 2024.01.25

投稿日 2024.01.25

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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ご自身で遺産分割協議書を作成するような場合、割印をどのように押したらいいのか、よく分からないという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

遺産分割協議書は、相続の手続きなどの際に提出が求められ、相続財産を引き継ぐ相続人を対外的に証明する重要な書類となります。割印を正しく押すことで、遺産分割協議書の信頼性を高めることができます。

本記事では、割印の押し方や押す場所、失敗したときの押し直し方法ついて、弁護士が解説いたします。

目次

遺産分割協議書で押印に使う印鑑│実印でないといけない?

遺産分割協議書に押す印鑑は実印でなくてもよい

法律上、遺産分割協議書で使用する印鑑は実印でなければならないという決まりはありません。
そのため、認印で押印されたとしても、遺産分割協議書は有効に成立します。

相続手続きでは実印の押印が必要

しかし、不動産の相続登記や預貯金の払い戻しなどの相続手続きにおいては、相続人全員の実印が押された遺産分割協議書と印鑑証明書をセットで求められることがほとんどです。
したがって、遺産分割協議書に押印する際は、認印ではなく実印を使用されることをおすすめします。実印とは、市区町村役場に登録した、公的に認められている印鑑のことです。

遺産分割協議書は、「遺産分割協議の内容に同意したのが間違いなく相続人本人であること」が非常に重要な要素となる書類です。

そのため、不動産の相続登記の手続きや、被相続人名義の預貯金口座の解約・払い戻しの手続き、相続税の申告手続きにおいては、法務局や金融機関、税務署の窓口で、相続人全員の実印が押された遺産分割協議書とあわせて、相続人全員の印鑑証明書が確認されるのです。
印鑑証明書(印鑑登録証明書)とは、市区町村役場に登録された印鑑を公的に認める証明書です。

このように、認印を使用したとしても、遺産分割協議書自体の効力に影響はありませんが、相続手続きがスムーズに進まないおそれがあるため、遺産分割協議書には実印での押印をおすすめいたします。

割印も実印で押印するべきか?

では、遺産分割協議書の割印に使用する印鑑も実印で押すべきなのか、疑問を持たれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

割印に使用する印鑑は、必ずしも遺産分割協議書の署名捺印の際に使用した実印である必要はありません。

しかし、わざわざ割印だけ他の印鑑を使用することはありませんので、通常の場合、同じ実印を使用して割印を押します。

遺産分割協議書が複数部の場合「割印」を押す│なぜ必要なのか?

遺産分割協議書を複数部作成する場合は割印を押す

遺産分割協議書を2部以上、複数部作成する場合は、割印の押印が必要です。
遺産分割協議書は、相続人の数に応じて、複数部作成されるケースが多く見られます。

内容が同じであれば、遺産分割協議書は何通作成しても問題ありませんので、各相続人がそれぞれ原本を保管したい場合は、同じ内容の遺産協議書を相続人の人数分、複数作成するケースが一般的です。 内容が同じ遺産分割協議書を複製し、相続人ごとに所持して保管することで、後々のトラブルを防ぐことになります。

なぜ割印が必要なのか?

遺産分割協議書に割印を押印する目的は、不正や改ざんを防止するためです。
複数部の遺産分割協議書がある場合、すべての遺産分割協議書にまたがるように割印を押すことによって、複数の遺産分割協議書が同一の内容であることを保証することができます。

これにより、遺産分割協議書の内容が勝手に書き換えられたり、勝手に複製されてしまうなどのトラブルを防止することができます。

このように、割印は、遺産分割協議書の信頼性を高めるために押印されるものですので、必ずしも押印しなければならないというものではありません。

しかし、後の無用なトラブルを防止するという観点からは、遺産分割協議書を複数部作成する場合は、割印を押印しておくことをおすすめします。

遺産分割協議書の「割印」の押し方や場所は?

押印する場所に決まりはない

遺産分割協議書のどこに割印を押すのかということに、明確な決まりはありません。
法律上、左右の位置や、押す順番などに指定はありません。

割印の押し方

割印は、一般的には、遺産分割協議書の上の部分に押印します。
割印の押し方は、以下の通りです。

  1. 作成した複数の遺産分割協議書を縦や横に少しずつずらして重ねて置く。
  2. すべての遺産分割協議書にまたがるように、相続人全員が実印で押印する。

遺産分割協議書が3通ある場合の割印の押し方

遺産分割協議書が3通ある場合の割印の押し方は、以下の通りです。

  1. 遺産分割協議書を相続人分の3通作成し、3通の遺産分割協議書を少しずつずらして重ねて置く。
  2. 3通全ての文書にまたがるように、割印を押す。

また、遺産分割協議書のそれぞれの末尾に、相続人3全員の印鑑登録証明書を添付しましょう。

遺産分割協議書

遺産分割協議書が4通ある場合の割印の押し方

遺産分割協議書が4通ある場合の割印の押し方は、以下の通りです。

  1. 遺産分割協議書を相続人分の4通作成し、4通の遺産分割協議書を少しずつずらして重ねて置く。
  2. 4通全ての文書にまたがるように、割印を押す。

また、遺産分割協議書のそれぞれの末尾に、相続人4全員の印鑑登録証明書を添付しましょう。

遺産分割協議書

 遺産分割協議書が2枚以上の場合「契印」を押す

契印は2枚以上の複数ページになるときに押す

契印とは、2枚以上の書類が1つの連続した文書であることを証明するために押すものです。

契約書や遺産分割協議書などが複数ページにまたがる場合に、すべてのページのつなぎ目に、各相続人が実印を使って押印します。製本テープを使用して製本した場合には、製本テープの上に各相続人が実印で押印をします。

契印がない場合、各相続人の押印があるページ以外は偽造が可能となってしまい、遺産分割協議書の内容を書き換えられたとしても、それに気付くことができません。また、本来の遺産分割協議書ではなかったページが追加されたり、逆に途中のページが丸ごと抜き取られたりする可能性もあります。

そのため、遺産分割協議書が複数ページの場合には、各ページが連続したものであることが分かるように契印を押しましょう。

契印の押し方

契印の押し方は、遺産分割協議書がホチキスで綴じられている場合と製本テープで綴じられている場合で以下のように異なります。

遺産分割協議書の枚数が少なくホチキスで綴じられている場合

下記のイメージ図のように、遺産分割協議書の左右両ページにまたがるように、すべてのページのつなぎ目に、相続人全員が実印で契印を押します。

遺産分割協議書が製本テープで綴じられている場合

下記のイメージ図のように、表表紙と製本テープ、裏表紙と製本テープそれぞれにまたがるように、相続人全員が実印で契印を押します。

割印・契印を失敗したときに押し直す方法は?

割印がずれてしまったり滲んでしまったりして失敗した場合、どのように押し直したらよいのか、疑問を持たれる方は多いのではないでしょうか。

以下では、割印・契印を失敗したときの押し方す方法について解説いたします。

割印を失敗したときに押し直す方法

遺産分割協議書の割印を失敗したときに押し直す方法は、下記の通りです。

 

割印失敗時の訂正方法

 

  1. 失敗した印影の一部に被せるように、実印を訂正印として押印する。
  2. 訂正印のすぐ近くに、新たに実印で割印を押し直す。

なお、失敗した割印を二重線で消して、隣に押印し直す方法は、遺産分割協議書では控えるのが無難です。
二重線で消す方法の場合、さらに二重線で消されて異なる印鑑を押されてしまうリスクがあるためです。

契印を失敗したときに押し直す方法

遺産分割協議書の契印を失敗したときも、少しずらして実印を訂正印として押印し、その隣に新たに実印で押印し直します。

押印に何度も失敗してしまい、遺産分割協議書が見づらくなってしまうような場合は、改めて遺産分割協議書を作り直したほうよいでしょう。

遺産分割協議書の製本・綴じ方は?

以下では、実際に遺産分割協議書を製本する際の方法について解説いたします。

遺産分割協議書の必要部数は?

遺産分割協議書の作成部数に、法律的な決まりはありません。
一般的には、遺産分割協議書は、相続人の人数分の部数を作成します。

なお、遺産分割協議書を複数部作成しておくと、相続手続きの際に便利です。

遺産分割協議書は、不動産の名義変更(相続登記)の手続きの際には法務局に提出し、預貯金口座の解約手続きの際には金融機関に提出します。その際に原本還付の手続きをしておくと、通常、遺産分割協議書の原本は返却されますので、1通の遺産分割協議書を使いまわすという方法も考えられます。

しかし、1通の遺産分割協議書を使いまわすのは非効率ですので、作成時に、あらかじめ遺産分割協議書の予備の部数を作成しておくことにより、スムーズに相続手続きを行うことができます。

遺産分割協議書の製本の仕方

遺産分割協議書の製本の仕方は、「遺産分割協議書の枚数が少ない場合」、「遺産分割協議書の枚数が多く、製本テープを使用する場合」によって、方法が少し異なります。

下記では、それぞれのケース別に、製本の仕方を解説します。

遺産分割協議書の数枚が少ない場合

遺産分割協議書の枚数が少なく、2枚、3枚程度であるときには、以下の方法で製本します。

  1. 横書きなら左側(縦書きなら右側)をホッチキスで綴じる。
  2. 全てのページの見開きの部分に、左右の両ページにまたがるように、相続人全員が実印で契印を押す。
  3. 契印を押した遺産分割協議書を相続人の人数分製本し、割印を押す。

遺産分割協議書の枚数が多く、製本テープを使用する場合

遺産分割協議書の枚数が多いときには、すべてのページの見開きに契印を押印するのは手間のかかる作業ですので、製本テープを使用して「袋とじ」にする方法をおすすめいたします。

製本テープを使用して袋とじにする場合、以下のように製本します。

  1. 書きなら左側(縦書きなら右側)をホチキスで綴じる。
  2. ホチキスで綴じた部分に製本テープを貼る。
  3. 遺産分割協議書の紙面と製本テープにまたがるように、表表紙と裏表紙の両方に相続人全員が実印で契印を押す。
  4. 契印を押した遺産分割協議書を相続人の人数分製本し、割印を押す。

製本テープを使用して袋とじにした場合は、遺産分割協議書の紙面と製本テープにまたがるように、表表紙と裏表紙の両方に実印で契印を押すことで、各ページの見開きの部分にに契印を押す必要はありません。

相続人全員の印鑑証明書を添付する

遺産分割協議書には、押印されている印鑑が実印であることを証明するために、印鑑証明書(印鑑登録証明書)を必ず添付しましょう。

割印や契印を含め、すべて実印で押印されていなければ、遺産分割協議書の法的な効力が認められず、無効となる可能性があります。

相続人の中に実印の登録をしていない方がいる場合は、その相続人の住所地を管轄する役所において、ご本人に印鑑登録手続きをおこなっていただく必要があります。なお、15歳未満の未成年者の場合は印鑑登録ができませんので、その場合は特別代理人を選任する必要があります。

A3用紙で作成しても問題ない

遺産分割協議の効力は、遺産分割協議書の用紙サイズとは無関係ですので、どの用紙サイズで作成しても、法律上は問題ありません。
A4用紙2枚だと契印が必要になるため、遺産分割協議の内容がA3用紙1枚で収まるなら、契印が省略できるので便利です。

遺産分割協議書をA3用紙1枚で作成した場合、契印をする必要はありません。

印紙を貼る必要はない

遺産分割協議書は、印紙税法に定める課税対象書類に該当しないため、印紙税の対象ではありません。
したがって、印紙税がかかりませんので、遺産分割協議書を何通作成しても印紙を貼る必要はありません。

割印なし、契印なしでも登記はできる?無効?

割印なし、契印なしでも登記はできます。

法務局で相続登記手続きをする際に、割印なし、契印なしの遺産分割協議書では不安の方もいるかもれません。

結論としては、割印なし、契印なしでも、問題なく登記することができます。

なぜなら、遺産分割協議書の割印や契印がなくても、合意していることの証明は可能であるからです。
法務局も問題なく登記に応じられます。

割印なし、契印なしでも無効になりません。

割印なし、契印なしでも、遺産分割協議書が無効となることはありません。

もっとも、すでに解説させていただいた通り、割印や契印を押印することにより、後々のトラブルを防ぐことができますので、割印や契印は極力押すようにした方が良いでしょう。

遺産分割協議書の割印のQ&A

Q.遺産分割協議書の押印に使用する印鑑は?

遺産分割協議書の押印に使用する印鑑に、法律上の決まりはありません。

認印が使用されたとしても遺産分割協議書としての効力を失うわけではありませんが、認印を使用した場合、不動産の相続登記や預貯金の払い戻しなどの相続の手続きがスムーズに進まないおそれがあります。

したがって、実印での押印をおすすめいたします。

Q.遺産分割協議書の割印の押し方は?

割印は、左右の位置や押す順番などに法律的な指定はありませんが、一般的には、遺産分割協議書の上の部分に押印します。

遺産分割協議書の割印の押し方は、以下の通りです。

  1. 作成した複数の遺産分割協議書を縦や横に少しずつずらして重ねて置く。
  2. すべての遺産分割協議書にまたがるように、相続人全員が実印で押印する。

Q.遺産分割協議書の割印に失敗したときの押し直し方法は?

遺産分割協議書の割印を失敗したときに押し直す方法は、下記の通りです。

  1. 失敗した印影の一部に被せるように、実印を訂正印として押印する。
  2. 訂正印のすぐ近くに、新たに実印で割印を押し直す。

まとめ

遺産分割協議で相続人全員が合意したとしても、その内容をしっかりと遺産分割協議書にまとめなければ、意味がありません。

遺産分割協議書には、必ず相続人全員の署名と、実印の押印が必要となります。また、遺産分割協議書には、押印された印鑑が実印であることを証明する印鑑証明書の添付も必要です。

遺産分割協議書の原本を複数部作成する場合は、それぞれの遺産分割協議書の内容が同一であることを証明するために「割印」、また、遺産分割協議書が複数枚となった場合は、ページの抜き差しが行われていないことを証明するために「契印」を押印しましょう。

遺産分割協議書に割印や契印がない場合でも、法務局や金融機関などに提出すること自体は可能ですが、相続人同士や提出先との無用なトラブルを防ぐためにも、押印しておくことをおすすめします。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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