遺産分割協議書と自動車│車の相続における遺産分割協議書の書き方なども解説

遺産相続というと、預貯金や家の相続をイメージする方が多いと思いますが、忘れてはならないのが「自動車」です。
自動車も相続財産に含まれますので、自動車の所有者が亡くなった場合は、名義変更等の相続手続きを行う必要があります。
車の名義変更といった相続手続きにおいて、自動車を相続したことを証明するためには、「遺産分割協議書」が重要です。
そこで本記事では、自動車の相続時に遺産分割協議書が必要となるケースや、自動車を相続する場合の遺産分割協議書の書き方、必要書類などについて、弁護士が詳しく解説させていただきます。
相続財産に自動車があるものの、遺産分割協議書が必要か分からない方や、車を相続する場合の遺産分割協議書の書き方が分からない方は、ぜひ最後までご一読ください。少しでもご参考となりましたら幸いです。
目次
遺産分割協議書と自動車
被相続人(亡くなった人)が自動車を所有していた場合、自動車も相続財産として扱われるため、遺産分割の対象となります。
自動車の所有者が亡くなると、車はいったん相続人全員の共有財産となります。
ですが、共有財産のままにしておくと、後に売却や廃車手続きができないなどの不便が生じてしまいます。そのため、なるべく早めに特定の相続人の名義に変更することが推奨されます。
ですので、相続財産に自動車が含まれる場合、遺産分割協議で誰が自動車を相続をするのかを取り決め、その内容を「遺産分割協議書」にまとめることになるのが一般的です。
車の相続手続きに遺産分割協議書は必要?
自動車の相続は、「自動車を受け取って終わり」というわけにはいきません。「自動車の名義変更」手続きが必要になってきます。相続による自動車の名義変更自体は法律上の義務ではありませんが、名義を相続人に変更しておかなければ、自動車の利用・処分ができなくなってしまうのです。
自動車の名義変更は、変更があった日から15日以内に移転登録の申請をしなければなりません(道路運送車両法第13条)。
(移転登録)
道路運送車両法第13条 新規登録を受けた自動車(以下「登録自動車」という。)について所有者の変更があつたときは、新所有者は、その事由があつた日から十五日以内に、国土交通大臣の行う移転登録の申請をしなければならない。
そして、この名義変更手続きの際に、「自動車の相続を対外的に証明する為」に、原則として遺産分割協議書が必要となるのです。
さて、以下では、遺産分割協議書が必要となるケース、不要となるケースについて、具体的に確認していきましょう。
(1)査定額100万円超の普通車の相続で遺産分割協議書が必要
「査定額が100万円を超える普通車の相続(名義変更)」をする場合、遺産分割協議書が必要となります。
普通車とは、正式には「普通自動車」といい、自動車の種別について定めている道路運送車両法施行規則上、以下の通り定義されているものです。
| 自動車の種別 | 自動車の構造および原動機 | 自動車の大きさ | ||
| 長さ | 幅 | 高さ | ||
| 普通自動車 | 小型自動車、軽自動車、大型特殊自動車及び小型特殊自動車以外の自動車 | ― | ― | ― |
| 小型自動車(四輪等) | 四輪以上の自動車及び被けん引自動車で、軽自動車・大型特殊・小型特殊以外のもの(※内燃機関で軽油・天然ガス除くものは総排気量2.00L以下に限る) | 4.70m 以下 | 1.70m 以下 | 2.00m 以下 |
| 小型自動車(二・三輪) | 二輪自動車(側車付を含む)、三輪自動車で、軽・大特・小特以外のもの | ― | ― | ― |
| 軽自動車(四輪等) | 二輪自動車以外の自動車および被けん引自動車で、大特・小特以外のもの(※内燃機関の場合は総排気量0.660L以下) | 3.40m 以下 | 1.48m 以下 | 2.00m 以下 |
| 軽自動車(二輪) | 二輪自動車(側車付を含む)で、大特・小特以外のもの(※内燃機関の場合は総排気量0.250L以下) | 2.50m 以下 | 1.30m 以下 | 2.00m 以下 |
| 大型特殊自動車 | 次の①②に該当する自動車(小型特殊を除く)①建設・産業機械(ショベル・ローダ等19種)または国交大臣が指定する構造を有するもの②ポール・トレーラ、その他特殊構造 | ― | ― | ― |
| 小型特殊自動車(①) | 上記①に掲げる自動車で、最高速度15km/h以下、かつ下記サイズ以内のもの | 4.70m 以下 | 1.70m 以下 | 2.80m 以下 |
| 小型特殊自動車(②) | 上記ロ(農耕用)のうち、最高速度35km/h未満のもの | ― | ― | ― |
参照:道路運送車両法施行規則「別表第一(第二条関係)」(e-Gov 法令検索)
この普通車の中でも、査定額が100万円を超えるものについては、相続による名義変更の際に、誰が相続するのかを示す資料として、遺産分割協議書の提出を求められることになります。
特に、相続人が複数いる場合には「誰がその車を引き継ぐのか」をはっきりさせておく必要があります。話し合いで決まった内容を、遺産分割協議書という形で書面にしておかないと、運輸支局での名義変更がスムーズに進まないこともあるのです。
車の情報や取得者の氏名などをきちんと記載した遺産分割協議書をあらかじめ用意しておくことで、手続きも滞りなく進みますし、相続人同士のトラブル予防にもつながります。査定額が高い車ほど重要な財産とみなされやすいため、事前準備が重要です。
なお、遺産分割協議書を含め、査定額100万円超の普通車の相続手続きの必要書類は、こちらの表の通りとなります。
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普通車 |
※管轄の運輸支局によって別の書類が必要となることがあります。 |
普通車の相続手続き(名義変更)を行う場合は、陸運局または運輸支局への届け出が必要となります。
上記の書類をそろえて、管轄の陸運局または運輸支部で名義変更の手続きを行いましょう。
運輸支局は、以下のサイトから検索することができます。
「査定額100万円以下の普通車」を相続する場合は?
さて、反対に、「査定額が100万円以下の普通車」の相続(名義変更)手続きをする場合には、遺産分割協議書は必須ではありません。というのも、遺産分割協議書ではなく「遺産分割協議成立申立書」を提出すれば、名義変更手続きができるからです。
「遺産分割協議成立申立書」とは、査定額が100万円以下の自動車を相続する場合に、「遺産分割協議書」の代わりに提出することによって、手続きを簡略化できる書類です。
なお、遺産分割協議成立申立書を使用する場合は、「相続する自動車の価格が 100万円以下であることを確認できる査定証」または「査定価格を確認できる資料の写し」等の資料の添付が必要です。
また、下表に記載の書類が必要となります。
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普通車(査定額が100万円以下) |
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普通車の名義変更時の「遺産分割協議書」の要否
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自動車の種類 |
査定額 |
車の名義変更時の「遺産分割協議書」の要否 |
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普通車 |
100万円超 |
「遺産分割協議書」が必要 |
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100万円以下 |
「遺産分割協議書」または「遺産分割協議成立申立書」が必要 |
(2)車の売却に遺産分割協議書が必要
自動車を売却したい場合も、その車を名義を相続人に変更する必要があります。
車は登録制度によって管理されており、車検証に記載された名義人が法的な所有者と扱われます。たとえ相続人が実際に車を管理していても、名義が亡くなった人のままでは、その車を売却する法的な権限がないのです。
そのため、売却手続きを進めるには、まず相続人のうち誰がその車を取得するかを明確にし、相続による名義変更を済ませておく必要があります。
前述の通り、自動車の名義変更手続きは陸運局または運輸支局で行いますが、当然ながら窓口の担当者はその車の遺産相続がどのように行われ、誰が相続人になったかを知りません。そのため、第三者に対し「車を正当に遺産相続した者はだれか」を客観的に証明するため、遺産分割協議書が必要となるのです。
なお、名義変更後に車を売却する場合は、下記のような書類が必要となります。
- 車検証(自動車検査証)
- 自動車納税証明書
- 自動車損害賠償責任保険証(自賠責保険証)
- 印鑑登録証明書(軽自動車の場合は不要)
- 印鑑(実印/軽自動車の場合は認印も可)
- 自動車リサイクル券
(3)車の廃車手続きで遺産分割協議書が必要
廃車とは、「永久抹消登録」のことで、自動車を処分し、自動車登録そのものを完全に抹消するための手続きをいいます。
そして、車を廃車処分したい場合も、車の権利者である名義人でなければ手続きができないため、車の名義変更をする必要があります。
車を廃車にする際にも、車検証に記載された所有者が誰であるかが重要です。被相続人が名義人のままでは、相続人であっても手続きを進めることはできません。廃車の手続きは、所有者本人が申請することが原則ですので、まずは相続人の名義に変更し、正式な所有者として登録しておく必要があります。この名義変更を経なければ、運輸支局でも廃車の受付をしてもらえないのです。
そして、名義変更後に車を永久抹消登録(廃車)する場合、以下の書類が必要になります。
- 永久抹消登録申請書(第3号様式)
- ナンバープレート
- 車検証
- 印鑑証明書(発行後3か月以内のもの)
- 自動車税および自動車取得税申告書
以上の通り、自動車の相続手続き(名義変更)では、原則として遺産分割協議書が必要になります。ただし、例外的に遺産分割協議書が必要ないケースがあるのです。
(4)軽自動車を相続する場合は遺産分割協議書は必要ない
軽自動車の相続(名義変更)手続きでは、査定額にかかわらず、「遺産分割協議書」・「遺産分割協議成立申立書」いずれも不要です。
軽自動車とは、道路運送車両法上、「排気量660㏄以下、長さ3.4m以下幅1.48m以下、高さ2.0m以下の三輪および四輪自動車」と定義されています。
被相続人が所有していた自動車が、普通車か軽自動車か判断できない場合は、車検証の「自動車の種別」欄の記載を確認しましょう。
軽自動車の名義変更時の「遺産分割協議書」の要否
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自動車の種類 |
車の名義変更時の「遺産分割協議書」の要否 |
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軽自動車 |
「遺産分割協議書」・「遺産分割協議成立申立書」いずれも不要 |
軽自動車の相続手続き(名義変更)を行う場合は、軽自動車協会への届け出が必要となります。
下表に記載の必要書類をそろえて、管轄の軽自動車協会事務所で名義変更の手続きを行いましょう。
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軽自動車 |
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自動車を相続する場合の遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議書の書き方に法律で決められた様式はありませんが、一般的には、遺産分割の内容すべてを記載します。
ただし、手続きしたい財産だけを記載して遺産分割協議書を作成することも可能ですので、自動車の名義変更手続き用に、「自動車のみ」の遺産分割協議書を作成することができます。
下記では、「自動車のみ」の遺産分割協議書のひな形を使用して、自動車を相続する場合の具体的な書き方・注意点を解説します。
遺産分割協議書には、自動車登録番号などの記載が必要になるため、必ず車検証(自動車検査証)を準備しましょう。
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遺産分割協議書
①【令和○年○月○日】、②【所有者○○○○】の死亡により相続を開始し、相続人全員で遺産分割協議を行った結果、次の自動車を③【○○○○】が相続することに協議が成立しました。
自動車登録番号:④【○○○○○○○○】
車台番号:⑤【○○○○○○○○】
相続人
⑥【住所 ○○県○○市○○区○○町○丁目○-○○】
⑦【氏名 ○○○○○ 実印】
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①被相続人の戸籍(除籍)謄本に記載されている死亡日を記入します。
②車検証に記載されている、亡くなられた所有者の氏名を記入します。
③自動車を相続する人の氏名を記入します。
④車検証に記載されているとおりに自動車登録番号を記入します。
⑤車検証に記載されているとおりに車台番号を記入します。
⑥、⑦自動車を相続する人を含めた相続人全員の住所・氏名を記入し、相続人全員が実印を押印します。
遺産分割協議書の書き方の注意点
自動車を相続する人(③に氏名を記入する人)の住所・氏名は、戸籍謄本等や印鑑証明書に記載されている内容と書き方に相違がないように、注意しましょう。
また、それ以外の相続人の住所・氏名も、戸籍謄本等に記載されている内容と相違がないよう注意してください。
陸運局(運輸局)の遺産分割協議書のひな形【ダウンロード】
自動車専用の遺産分割協議書のひな形は、陸運局(運輸局)のホームページからダウンロードすることができます。
陸運局が提供する遺産分割協議書のひな形は、自動車についてのみ記載されているため、簡素な様式で書き方がわかりやすくなっています。自動車のみの遺産分割協議書を作成したい場合は、陸運局のひな形を使うとよいでしょう。
自動車の相続における遺産分割協議書に関するQA
Q1.自動車を相続する場合は、遺産分割協議書が必要ですか?
A:遺産分割協議書が必要となるのは、「査定額が100万円を超える普通車」の相続(名義変更)手続きをする場合です。
また、軽自動車の場合は、名義変更手続きにおいて、遺産分割協議書は不要です。
Q2.査定額100万円以下の普通車を相続する場合は、遺産分割協議書は不要ですか?
A:相続する普通車の査定額が100万円以下であれば、遺産分割協議書は不要です。
「査定額が100万円以下の普通車」の場合は、「遺産分割協議書」に代えて「遺産分割協議成立申立書」を提出すれば、名義変更手続きを行うことができます。
Q3.自動車を相続する場合の遺産分割協議書の書き方は?
A:遺産分割協議書の書き方に法律で決められた様式はありません。
すべての財産について記載することもできますし、自動車の名義変更手続き用に、「自動車のみ」を記載することもできます。
まとめ
自動車は相続財産として扱われるため、遺産分割が完了するまでは相続人全員の共有財産となり、名義を変更しない限り、車の売却手続きや廃車手続きを行うことができません。
自動車を相続する場合に遺産分割協議書が必要かどうかは、自動車の種類や査定額によって異なります。遺産分割協議書が必要となるのは、「査定額が100万円を超える普通車」の名義を変更する場合です。
また、遺産分割協議書の作成時には、すべての相続財産を記載することもできますし、自動車の名義の変更手続き用に、自動車のみを記載することもできます。
遺産分割協議書の書き方に不安がある方や、書類収集の時間確保が難しい方は、相続手続きに精通した弁護士へご相談いただくことをおすすめします。弁護士法人あおい法律事務所では、弁護士による法律相談を初回無料で行っておりますので、ぜひお気軽にお問合せください。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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