遺産分割協議書を自分で作成!本人以外に作成できる人は?弁護士が解説

相続人同士の話し合いがまとまったあと、「遺産分割協議書は自分で作成してもいいの?」「専門家に頼まないといけないの?」と疑問を抱く方は少なくありません。
実際、遺産分割協議書には公的な様式が決まっているわけではなく、法的な要件を満たしていれば、基本的には自分で作成することが可能です。
とはいえ、「書類に何を書けばいいのかわからない」「誰が作成しても有効なのか不安」といった声も多く、形式の不備や内容の不正確さが原因で、金融機関や法務局の手続きが進まないケースも見受けられます。
また、自分で作成する場合であっても、実際の作業をサポートしてくれる専門家がいれば心強いものです。しかし、遺産分割協議書を「本人以外が作る」ことには法律上の制限や注意点もあるため、依頼する側として正しく理解しておく必要があります。
そこで本記事では、遺産分割協議書を自分で作成する際の基本的なルールや注意点に加えて、行政書士や弁護士などの専門家がどこまで関与できるのかについても、わかりやすく解説させていただきます。
ぜひ最後までご一読いただけましたら幸いです。
目次
遺産分割協議書を自分で作成
相続人同士の話し合いがまとまり、「いざ遺産分割協議書を作ろう」となったとき、「遺産分割協議書は自分で作っていいのか?」「専門家に頼まないと無効になるのでは?」と戸惑う人は少なくないでしょう。
遺産分割協議書の内容に不備があると、金融機関や法務局で相続手続きを受け付けてもらえないこともありますので、適切に作らなければなりません。
それでは、遺産分割協議書を自分で作成できるのか、まずは基本的な知識について確認していきましょう。
遺産分割協議書は自分で作成できる?
遺産分割協議書は自分で作れる
遺産分割協議書は、作る人が法律で決められているわけではありません。その形式も自由なので、自分で作成することができます。
ただし、自分で作成した遺産分割協議書に不備があった場合、法務局での不動産の相続登記や、金融機関での預貯金の払い戻し手続きなどの相続手続きができなくなるおそれがあります。
法律上、遺産分割協議書の作成義務はないため、決まった書式などはありませんが、その後の相続手続きのことを考え、注意点をおさえてきちんと作成しておくことが重要です。
遺産分割協議書を自分で作成するために、まずは遺産分割協議書を作成するまでの流れを理解しておきましょう。通常、遺産分割協議書は、次のような流れで作成します。
- 相続開始(被相続人の死亡)
- 相続人の確定・相続財産の調査
- 遺産分割協議の実施
- 遺産分割協議書の作成
① 相続開始(被相続人の死亡)
相続開始日は、被相続人の死亡日となります。
② 相続人の確定・遺産の調査
遺産分割協議に参加する必要のある相続人を確定させる必要があります。あわせて相続財産の調査を行い、相続財産の範囲を確定させなければなりません。
③ 遺産分割協議の実施
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの遺産を相続するかについて、相続人同士で話し合います。
相続人のうち、誰か一人でも遺産分割協議に合意しなければ、遺産分割協議は成立しません。
④ 遺産分割協議書の作成
遺産分割協議が成立したら、合意した内容を証明するための「遺産分割協議書」を作成します。
さて、遺産分割協議書は自分で作ることができますが、メリットだけでなく、いくつかのデメリットもあります。自分で作る前に、メリットとデメリットを確認しておくようにしましょう。
遺産分割協議書を自分で作成するメリット
遺産分割協議書を自分で作るメリットには、次のようなものがあります。
- 重要な個人情報を他の人に知られずに済む
- 金銭的な負担が少なくなる
① 重要な個人情報を他の人に知られずに済む
遺産分割協議書を自分で作成せず、専門家に依頼する場合は、相続人や相続財産の内容などの情報を提供する必要があります。
相手は専門家ですが、ご自身の情報を提供することに抵抗のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
遺産分割協議書を自分で作れば、相続財産の内容などの重要な個人情報を他人に知られずに済むでしょう。
② 金銭的な負担が少なくなる
遺産分割協議書の作成を専門家に依頼する場合、ある程度の費用が発生します。
遺産分割協議書を自分で作成すれば、依頼料や報酬といった費用を支払わずにすむため、金銭的な負担を軽減することができます。
遺産分割協議書を自分で作成するデメリット
さて、以上のようなメリットの一方で、次のような遺産分割協議書を自分で作成するデメリットがあります。
- 相続人間のトラブルに発展するリスクがある
- 遺産分割協議書に不備があり、無効となるリスクがある
- 財産調査が不十分となることがある
- 必要書類の収集に時間がかかることがある
① 相続人間のトラブルに発展するリスクがある
弁護士などの専門家が第三者として介入せず、相続人だけで話し合いを行っていると、次第に相続人同士の対立が激しくなってしまうことがあります。
その結果、遺産分割の方法が決まらず、遺産分割協議書を作成することができないといった事態になってしまいかねません。
② 遺産分割協議書に不備があり、無効となるリスクがある
専門家でない人が作成する遺産分割協議書の場合、何かと不備が生じやすいです。
もし作成した遺産分割協議書に不備があった場合、その後の相続登記や名義変更などの相続手続きができなくなるおそれがあります。
③ 専門知識がないために損をする可能性がある
相続にまつわる法律は複雑ですので、専門知識がないと、損をしてしまう可能性もあります。
後から「納得いかない」と思ったとしても、一度相続人全員が合意して遺産分割協議書を作成した以上、原則として遺産分割協議のやり直しはできません。
④ 必要書類の収集に時間と労力がかかる
遺産分割協議書を自分で作成する場合は、自分自身で必要書類の収集を行う必要があります。
例えば、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類、相続人の印鑑証明書などを漏れなく収集しなければなりません。
必要書類が不足していた場合には、後から重要な事実が判明するなどして、遺産分割協議をやり直す必要性が出てくる可能性があります。
遺産分割協議書を自分で作成する場合は、これらメリット・デメリットを踏まえ、総合的に判断することが重要です。
遺産分割協議書を自分で作成するポイント
次に、遺産分割協議書を自分で作成するときのポイントを押さえておきましょう。
ポイント① ひな型や書式の活用
遺産分割協議書を白紙の状態から作成しようとすると、なかなか手間のかかる作業になるかと思います。そこで、下のような遺産分割協議書のひな型を活用することをお勧めいたします。
遺産分割協議書
本籍地 〇〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇〇号
最後の住所地 〇〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇〇号
被相続人 甲野太郎 (令和〇〇年〇〇月〇〇日死亡)
上記の者の相続人全員は、被相続人の遺産について協議を行った結果、次のとおり分割することに同意した。
1.相続人甲野一郎は次の遺産を取得する。
【土地】
所 在 〇〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目
地 番 〇〇番〇〇
地 目 宅地
地 積 〇〇〇.〇〇平方メートル
【建物】
所 在 〇〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目
家 屋 番 号 〇〇番〇〇
種 類 木造
構 造 瓦葺2階建
床 面 積 1階 〇〇.〇〇㎡
2階 〇〇.〇〇㎡
2.相続人乙野花子は次の遺産を取得する。
【現金】
金〇,〇〇〇,〇〇〇円
【預貯金】
○○銀行○○支店 定期預金 口座番号○○○○○○○
○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○○
【株式】
○○株式会社 普通株式 ○○○株
3.本協議書に記載のない遺産及び後日判明した遺産については、相続人甲野一郎がこれを取得する。
以上のとおり、相続人全員による遺産分割協議が成立したので、本協議書を2通作成し、それぞれに署名押印のうえ、各自1通ずつ所持する。
令和×年×月××日
〇〇県〇市〇〇1丁目23-4
甲 野 一 郎 実印
△△県△△市△5丁目6-7
甲 野 花 子 実印
遺産分割協議書のひな型の詳細やダウンロードについては、こちらの関連記事をご覧いただければと思います。
ポイント② 注意点をおさえておく
遺産には、不動産や預貯金などの高額な資産が含まれるケースが多いです。その分、相続手続きも煩雑になります。不動産の相続登記や預貯金の払い戻しなどの相続手続きにおいて、遺産分割協議書を有効的に活用するためにも、作成にあたっては以下の注意点を押さえておきましょう。
- 書式は自由
- 被相続人の情報を記載する
- 相続人・財産を明確に特定する
- 新たに遺産が見つかった場合の取り扱いを決めておく
- 住所は住民票や印鑑証明書に記載されたとおりに記載する
- 実印で押印をする
- 相続人分の遺産分割協議書を作成する
1.書式は自由
遺産分割協議書の書式は自由です。縦書きでも横書きでも問題ありません。また、署名以外はワープロで作成しても問題ありません。
2.被相続人の情報を記載する
誰が財産を残したのか分かるよう、被相続人の名前、生年月日、逝去日、最後の住所、本籍地などの情報を記載しましょう。
3.相続人・財産を明確に特定する
誰がどの財産を取得するのか、相続人や財産の内容を明確に特定しましょう。財産の特定とは、具体的には次のようなものが挙げられます。
不動産(土地)
- 所在
- 地番
- 地目
- 地積
不動産(建物)
- 所在地
- 家屋番号
- 種類
- 構造
- 床面積
預貯金
- 預貯金
- 金融機関名
- 支店名
- 種類
- 口座番号
遺産分割協議書を作成する前に、あらかじめ手続きを予定している各機関へ記載方法を確認しておくのもよいでしょう。
4.新たに遺産が見つかった場合の取り扱いを決めておく
遺産分割協議が成立した後に、新たに遺産が見つかることがあります。
このような場合に、新たに見つかった遺産をどのように処理するのか、あらかじめ遺産分割協議書に記載しておくことが重要です。
新たに遺産が見つかった場合、通常は次のいずれかの方法によって処理することになります。
- 遺産が新たに見つかった場合、あらためて相続人全員でその遺産の分割方法について協議する、という条項を記載しておく。
- 「特定の相続人が新たに見つかった遺産を取得する」ことをあらかじめ定め、記載しておく。
5.住所は住民票や印鑑証明書に記載されたとおりに記載する
相続手続きで遺産分割協議書を法務局や金融機関に提出する際に、遺産分割協議書の記載内容に不備があると、修正や再提出を求められる可能性があります。
遺産分割協議書を改めて作成するのは、非常に手間のかかる作業です。
このようなリスクを避けるため、住所に関しては住民票や印鑑証明書に記載されたとおりに、正確に記載しましょう。
細かい部分ですが、算用数字か漢数字か、「丁目・号・番・番地」の表記か「-(横棒)」表記か、マンションなどの建物表記はあるかなど、面倒に思っても必ず正確に明記しましょう。
6.相続人全員が署名と実印を押印し、相続人全員の印鑑証明書を添付する
遺産分割協議書には、相続人全員が署名し、実印で押印しましょう。そして、相続人全員の印鑑証明書を添付します。
なお、遺産分割協議書に使用する印鑑は、実印でなければならないといった決まりはありません。認印で押印した場合であっても、遺産分割協議書自体の効力が失われることはありません。
ですが、不動産の相続登記や、預貯金口座の解約・払い戻しなどの手続きを行う際に、法務局や金融機関では、相続人全員の実印が押印された遺産分割協議書と、相続人全員の印鑑証明書をあわせて提出することが求められるのが一般的です。
認印を使用してしまうと、こうした相続手続きが滞ってしまうおそれがあるため、必ず実印で押印しましょう。
7.相続人分の遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議書は、相続人の数だけ作成し、相続人全員が同じ内容の遺産分割協議書を各自1通ずつ保管しましょう。
遺産分割協議書に記載された内容が異ならなければ、遺産分割協議書は何通作成しても問題ありません。
例外的に、遺産分割協議書を1通のみ作成するケースもありますが、「遺産の種類が多い」などの場合、相続手続きの際に1通の協議書を使いまわすのは非効率的です。
相続人の人数分の遺産分割協議書を作成しておくことをお勧めいたします。
遺産分割協議書を作成できる人
遺産分割協議書は、相続人が自分で作成することができますが、専門家に依頼することもできます。
遺産分割協議書を作成できる専門家は、行政書士・司法書士・税理士・弁護士の4士業です。
遺産分割協議書は、基本的には相続人が自分で作成可能な書類ですが、遺産分割をめぐってトラブルが発生している場合や、遺産に不動産が含まれているケースの相続や、遺産が多い、相続人が多い場合など、相続手続きが複雑になることが予想されるケースの相続では、遺産分割協議書の作成を専門家に依頼したほうが安心です。
遺産分割協議書の作成を依頼できる専門家とそれぞれの特徴は、下記のとおりです。
遺産分割協議書の作成を依頼できる人は?
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遺産分割協議書の作成を依頼できる専門家 |
専門家の特徴 |
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行政書士 |
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司法書士 |
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税理士 |
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弁護士 |
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それぞれの向き・不向きについては、こちらの関連記事でも解説しておりますので、ぜひ本記事とあわせてご覧いただければと思います。
Q&A
Q1.遺産分割協議書を自分で作成することはできますか?
A:遺産分割協議書の作成者に制限はありませんので、自分で作成することができます。
Q2.遺産分割協議書の作成ができる人は誰ですか?
A:遺産分割協議書を作成できる専門家は、行政書士・司法書士・税理士・弁護士の4士業です。それぞれ依頼できる業務やメリット・デメリットが異なりますので、自分のケースに合う人に依頼することが重要です。
Q3.遺産分割協議書を自分で作成する場合、作成方法に決まりはありますか?
A:遺産分割協議書の書き方は基本的に自由で、明確な規定はありません。
ですが、相続財産に不動産や預貯金が含まれる場合、通常はその後に相続登記手続きや預貯金の相続手続きが控えていますので、これらの手続きが問題なく行えるよう正確・具体的な記載がなされているか、注意が必要です。
まとめ
本記事では、遺産分割協議書を自分で作成する場合の注意点や作成におけるポイントなどについて、弁護士が解説させていただきました。
遺産分割協議書は自分で作成することができますが、不動産の相続登記や預貯金の相続手続きなどで問題なく使用することができなければ、作成のために割いた時間や労力が無駄になってしまいます。
遺産分割協議書を正しく作成るために、専門家に作成を依頼することも検討してみてはいかがでしょうか。
弁護士は、遺産分割の紛争において、代理人として他の相続人と交渉したり、交渉で決着がつかない場合には調停や裁判を代理したりすることのできる唯一の専門家です。
遺産分割協議書の作成だけでなく、遺産分割協議の内容に関するアドバイスの提供・他の相続人との交渉などを、一括して依頼することが可能です。
遺産分割協議書の作成にお悩みの際には、ぜひお気軽に当法律事務所の弁護士にご相談ください。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。







