遺産分割協議書と預金の分け方|預貯金の分け方と書き方を記載例で解説

金融機関で預金の相続手続きをする場合には、遺言書や遺産分割協議書などが必要となります。
このうち、遺産分割協議書で預金の相続手続きをする際には、預金の分け方によって遺産分割協議書に書くべき内容が変わってきます。そのため、遺産分割協議書を作成する段階で、どのように預金を分けるのかを十分に話し合い、正しく記載しておかなければなりません。
そこでこの記事では、遺産分割協議書に預金の分け方について、弁護士が詳しく解説させていただきます。
預金の分け方ごとの記載例や、端数や利息についてはどう書くのかといったことについても、具体的にご説明いたします。
本記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。
目次
遺産分割協議書と預金の分け方
1.預貯金のみの遺産相続に遺産分割協議書は必要?
遺産相続といえば、預貯金の相続が一般的です。
ところで、相続する財産が預貯金や現金だけの場合、「お金を分けるだけだし、わざわざ遺産分割協議書を作成する必要はない。」と考える方もいらっしゃるようです。
たしかに、預貯金のみの遺産相続はシンプルに思えます。
しかし実際には、相続財産が預貯金だけであっても、遺産分割協議書が必要になることがあります。
というのも、相続手続きでは「誰がどの財産を受け取るのか」を第三者に対して明確にする必要があるからです。
実際に銀行で口座の解約手続きをする場合、銀行としては、「本当にその遺産分割の内容で合意しているのか」を確認しなければなりません。この際に、合意の証明として、相続人全員の実印が押された遺産分割協議書の提出が求められるのです。
また、煩雑な預貯金の相続手続きをスムーズに進めることが可能になります。本来銀行ごとに相続人全員の署名と実印での捺印が必要になるところ、きちんとした遺産分割協議書があれば、預貯金を相続する代表相続人の署名と実印の捺印のみで手続きを完了できる場合が多いのです。
2.遺産相続における預貯金の分け方
それでは、遺産相続における預貯金の分け方について見ていきましょう。
2-1.代表相続人が預貯金を受け取り分配する
代表相続人を指定し、代表相続人が金融機関で相続手続きを行ってから、他の共同相続人にそれぞれの相続割合に応じて預貯金を分配する方法があります。
金融機関における相続手続きは原則、相続人全員で窓口に出向く必要があるのですが、代表相続人を指定すれば、煩雑な手続きを簡略化し、効率よく進めることができます。
この方法で預貯金を分ける場合、代表相続人は、相続人全員を代表して預金の解約(払い戻し)などを行い、解約後の現金を「代表受取人」として受領します。受領した現金は、代表相続人から相続人へ、それぞれの割合に応じて分配されます。
ただし、口座や金融機関が複数ある場合、代表相続人にとっては少々負担となります。預貯金はその口座ごとに相続人に分配しなければならないため、口座が多いとその分手間がかかるのです。
なお、代表相続人を決めて相続手続きを進める場合は、代表相続人が誰であるかを、遺産分割協議書に明記しておきましょう。
代表相続人から他の相続人への分配について、後で税務署に贈与ではないか?と疑われないためにも、「全員を代表して預貯金の解約手続きをした」ということを記しておくことが重要です。これによって、遺産分割による財産の分配であるという証明になります。
2-2.預金を現金にして分ける
遺産分割によって預金を分ける方法として、預貯金口座をすべて解約し、現金にしてから分けるという方法があります。
払い戻し後の預貯金を各相続人の口座に振り込んでくれる金融機関もありますが、そのような対応をしていない金融機関の場合は、代表相続人がすべての預金口座の払い戻し手続きを行い、各相続人への振り込み手続きを行う必要があります。
金融機関によって相続人による預貯金の払戻しに関する取扱いや手続き、必要書類が異なりますので、被相続人が口座を保有していた銀行に直接問い合わせすることをおすすめします。
手続きが複雑化するケースもありますので、できるだけ早期に弁護士にご相談されることをおすすめします。
2-3.代償分割で預金を分ける
預貯金を分ける際に、「代償分割」という方法を利用することも考えられます。
代償分割とは、特定の相続人が財産を現物で取得して他の相続人には代償金を支払うことによって清算する遺産分割の方法です。
通常、代償分割は不動産などの物理的に分けにくい財産の分配で行われますが、預貯金等の分配でも行われることがあります。
代償分割によって預貯金を分ける場合は、相続人の一人がすべての預金を相続する代わりに、その相続人が、他の共同相続人に代償金を支払います。
代表相続人が相続手続きをして他の共同相続人に分配する方法と似ているかもしれませんが、代償分割の場合は「口座ごとに相続人に預金を分配する」必要がないため、代表相続人の手間を減らせるでしょう。
2-4.預金を口座ごとに分ける
被相続人が生前に複数の口座を保有していた場合、口座ごとに相続人を振り分けて預金を分けるという方法も考えられます
例えば、A銀行の口座については長女に、B銀行の口座については次女に相続させる、といった方法です。
しかし、口座ごとに預金を分ける場合、預金口座によって残高が異なるため、相続人の間で不公平な分配になってしまうこともあります。
口座ごとに振り分ける方法ですと、遺産分割協議がなかなかまとまらない可能性もありますので、口座の残高がほぼ同じ金額の場合に検討するのがおすすめです。
また、預金に不公平が生じる分を、その他の相続財産によって調整する、といったやり方も合わせて検討しましょう。
3.遺産分割協議書で預金を分ける流れ
預貯金の分け方について遺産分割協議書に記載したら、いよいよ相続手続きを進めていきます。具体的には、以下の流れとなっています。
① 被相続人の預貯金口座を確認する
まずは、被相続人の遺産に含まれる預金の金額を把握する必要があります。
被相続人がどの金融機関に預金口座を保有しているかを調査しましょう。被相続人の自宅にキャッシュカードや預貯金通帳などがあれば、それらを手がかりにして金融機関を確認することができます。
こうした手がかりがない場合には、被相続人が利用していたかもしれない金融機関に問い合わせをして、預貯金口座の有無について確認をしてみましょう。
② 銀行に相続発生を伝え口座を凍結
被相続人の預貯金口座を把握したら、口座があるすべての金融機関に「預貯金口座の名義人が亡くなった」ことを伝えます。
合わせて、口座の「残高証明書」を取得しましょう。残高証明書を取得することで、被相続人が亡くなった時点での正確な預金残高を確認することができます。
なお、被相続人の死亡の届出を行うと、被相続人の口座は凍結され、出入金ができなくなります。これは、遺産分割協議がまとまる前に勝手に預金が引き出されてしまうことのないよう、相続人同士のトラブルを防止するためです。
③ 遺産分割協議で預金の分け方を決める
預貯金の相続手続きをする際には、遺言書がない限り、遺産分割協議書の提示が求められます。
預貯金を含む被相続人の相続財産の調査が完了した後は、調査で明らかになった相続財産を対象とし、相続人全員で遺産分割協議を行います。
遺産分割協議では、預貯金をどのように分けるのか決めることになります。具体的には、上記の「預金を分ける3つの方法」をご参照ください。
④ 遺産分割協議書を作成する
話し合いがまとまったら、その合意内容を記載した「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員で署名・押印をします。遺産分割協議書が複数ページになる場合は、改ざん防止に契印を押しましょう。
⑤ 預貯金を分ける
遺産分割協議書を作成したら、その他の必要書類も添付して金融機関へ提出し、遺産分割協議で成立した内容に従って、預貯金の分配を行います。
金融機関によって必要書類が異なることもありますので、必ず該当の金融機関に確認するようにしましょう。
預貯金の払い戻しを受けてから現金で分ける場合には、相続人の中から払い戻しを行う代表者を決めて、代表相続人が手続きを行います。
各相続人が口座ごとに分ける場合は、相続人が各自で払い戻しの手続きを行うことになります。
預貯金がある場合の遺産分割協議書の書き方
さて、預貯金の分け方について、実際に遺産分割協議書にどのように書けばいいのか、確認しておきましょう。
1.遺産分割協議書に金額を書かないのはOK?
預金の金額の記載は遺産分割協議書の必須条件ではないため、残高を遺産分割協議書に記載する必要はありません。
ただし、ケースによっては、遺産分割協議書に預金の分け方を記載する際に、預金額を記載した方がよい場合もあります。以下のメリットとデメリットを検討し、預金の金額を記載するか決めるとよいでしょう。
1-1.残高を記載するメリット
金額を記載するメリットは、「遺産分割協議書を見れば、誰がどのくらいの預金を取得したのか明確に分かる」という点です。
口座の金額を具体的に書いておくことで、「誰がどの預金をいくら受け取ったのか」がはっきりし、後から「そんなに残っていたとは知らなかった」「自分の取り分が少ないのではないか、本当は隠しているんじゃないか」と争いになるのを防止できます。
また、相続税申告の根拠資料として遺産分割協議書を活用できるため、金融機関や税務署に対しても説明がしやすくなり実務面でもスムーズな対応が可能になるのです。
1-2.残高を記載するデメリット
一方で、遺産分割協議書に預金の残高を正確に記載することには、次のようなデメリットがあります。
預金口座の残高は日々変動するため、遺産分割協議書を作成した時点の金額と、実際に払戻し等の手続きを行う時点の残高が一致しない可能性があります。
利息の加算や公共料金の引き落としなどによって金額に差異が生じた場合、金融機関での取り扱いに支障が出たり、場合によっては遺産分割協議書の修正や再作成が必要になったりすることもあるのです。
また、すべての口座残高を正確に把握するためには、金融機関ごとに残高証明書を取り寄せるなど、事前の準備に手間や時間がかかることもあります。そのため、柔軟性を重視する場合には、預金の金額は記載せず、「〇〇銀行の当該口座の全額を取得する」といった形式にとどめておく方法もあります。
どこまで正確に記載するべきか、状況に応じて慎重に判断することが大切です。
このようなリスクが想定される場合には、銀行名や口座番号など、金額以外の必要最低限の情報を記載しましょう。
2.端数・利息がある場合の書き方
2-1.端数がある場合
預金を分ける際に、1円未満の端数が生じた場合、端数の取り扱いについては相続人同士で自由に決めて構いません。また、相続人同士で端数の取り扱いについて承諾が取れており、揉めるおそれがないようであれば、特に遺産分割協議書に記載する必要もありません。
例えば、1000万円の預金を相続人A、B、Cの3名で3分の1ずつ分けるケースでは、割り切れないので端数が発生します。このようなケースでは、相続人同士で端数の取り扱いを決めて、「1円未満の端数は相続人Aが取得する。」などと遺産分割協議書に記載することで対応できます。
2-2.利息がある場合
手続きに時間がかかったり、遺産分割協議をしてから実際に預金を解約するまでに時間が空いたりすると、預貯金の利息が生じることがあります。
この場合、あらかじめ遺産分割協議書に、利息が生じた場合の取り扱いについて記載しておくと安心です。方法としては、主に以下の2つがあります。
- 遺産目録や相続財産を記載する際に、預貯金の項目に「残高金〇万円及び相続開始後に生じた利息その他の果実」と明記しておく。
- 遺産分割協議書の条項本文に、「相続開始から払戻しまでの利息は相続人〇〇が取得する。」といったように、利息を取得する相続人を具体的に指定しておく。
3.名義預金がある場合の遺産分割協議書の書き方
名義預金とは、例えば子供の名義で親が預金しているような、実際の預金者とは異なる名義の預金のことです。
名義預金がある場合の遺産分割協議書の書き方に特段の決まりはありませんが、主に以下のいずれかの書き方が考えられます。
- 預貯金として記載する
被相続人の預貯金と同じように、名義預金の金融機関名、支店名、預金の種類、口座番号、口座の名義人、残高を記載します。ただし、被相続人の名義ではないことで、本当に被相続人の相続財産なのかを調査される可能性があります。 - 名義人に対する預け金として記載する
名義預金の口座の残高を、その名義人に対する預け金として遺産分割協議書に記載します。この場合には、特段名義預金の口座の特定をする必要はありません。
4.定期預金がある場合の遺産分割協議書の書き方
被相続人の財産に満期前の定期預金があり、相続後にこの定期預金を解約するときは、解約日までに発生した利息を把握しておく必要があります。
この利息を経過利息(または既経過利息)といい、金融機関に請求すれば、経過利息の計算書を発行してもらえます。請求する際には、被相続人との関係がわかる戸籍謄本や、本人確認書類などが必要です。また、2千円程度の発行手数料がかかります。
請求時の必要書類は金融機関によって異なりますので、事前に確認しておきましょう。
5.現金がある場合の遺産分割協議書の書き方
故人の財布やタンス、自宅などから現金が発見されることがあります。当然のことながら、現金も相続財産の一部です。
現金を遺産分割するのに、銀行や法務局などでの相続手続きは不要です。そのため、現金が少額であれば、わざわざ遺産分割協議書に金額を書かなくても問題ありません。
ただし、現金が高額のときは、トラブル防止の観点から、遺産分割協議書に具体的な金額を記載しておくのがよいでしょう。
遺産分割協議書の書き方は自由です。例えば、以下の通りに記載します。
金額を書かない場合
Aは、被相続人の現金をすべて取得する。
金額を書く場合
Aは、被相続人の現金1,000万円を取得する。
預貯金がある場合の遺産分割協議書【記載例】
さて、預金の分け方別に、遺産分割協議書の具体的な記載例を確認しておきましょう。
1.預貯金すべてを一人の相続人が相続する場合
預貯金のすべてを1人の相続人が相続する場合、遺産分割協議書には以下のように記載します。
1.相続人Aは以下の遺産を取得する。
(預貯金)
○○○○銀行 ○○○支店 普通預金 口座番号 ○○○○○○○
口座名義人 ○○○○○
残高 ○○○○○円および相続発生後に生じた利息とその他の果実
上記では預金の金額を記載していますが、前述の通り、預金の金額を記載しなくても構いません。
預金の金額を記載する場合は、銀行で取得した残高証明書を確認し、必ず正確な金額を記載しましょう。
最後の一文にある「果実」とは、遺産分割協議の後に発生する可能性のある利息や株式配当金などのことです。遺産分割協議の後に利息が発生することによって金額が変動する可能性がある場合は、最後の一文を記載しておきましょう。
2.一つの預金口座を複数の相続人で分ける場合
預金を複数人で分ける場合、各相続人の口座にそれぞれの取得分を銀行が振り込んでくれる場合もありますが、銀行によっては対応していないことがあります。その場合は、相続人の中から代表者を定めて、ひとまず預金の全額を代表相続人に振り込み、その後代表相続人から他の相続人に分ける分配する流れとなります。銀行から各相続人に直接振り込みしてもらいたい場合は、銀行が対応しているか事前に確認しましょう。
代表相続人を定めて、一つの預金口座を複数の相続人で分ける場合の記載例は以下の通りです。
1.以下の遺産については、相続人Aが3分の2、相続人Bが3分の1の割合で取得する。
なお、以下の遺産について、Aは相続人を代表して解約および払い戻しの手続きを行い、Bの取得分については、Bが指定する口座へ振り込んで引き渡すものとする。
このときの振込手数料については、Bの負担とする。
(預貯金)
○○○○銀行 ○○○支店 普通預金 口座番号 ○○○○○○○
口座名義人 ○○○○
3.預金を一人が相続して代償分割する場合
預金を一人が相続して代償分割する場合、遺産分割協議書の書き方の例は、次のようになります。
1.相続人Aは以下の遺産を取得する。
【預貯金】
○○○○銀行 ○○○支店 普通預金 口座番号 ○○○○○○○
口座名義人 ○○○○
△△△△信用金庫 △△△支店 普通預金 口座番号 △△△△△△△
口座名義人 △△△△
2.相続人Aは上記の預金を取得する代償金として、Bに対し、100万円をXX年XX月XX日までに支払う。
遺産分割協議書と預金の分け方に関するQ&A
Q1.預貯金しか遺産がない場合でも、遺産分割協議書は必要ですか?
A:法律上、必ず作成しなければならないという決まりはありません。ですが、実際の相続手続きでは、金融機関から遺産分割協議書の提出を求められることが多いため、用意しておくのが望ましいです。特に、相続人が複数いる場合、誰がどの預金を取得するかを明確にする必要がありますので、実質「遺産分割協議書が必要とされることが多い」といえるでしょう。
Q2.預金の分け方を相続人同士で口頭で決めた場合、遺産分割協議書の作成は省略できますか?
A:話し合いで合意できていても、多くの金融機関では文書による裏付けが求められるため、遺産分割協議書の提出が必要になります。口頭の合意だけでは金融機関が払い戻しに応じてくれないことがほとんどです。
Q3.預金を法定相続分どおりに分ける場合は、遺産分割協議書を省略できますか?
A:金融機関によっては、法定相続分どおりであることを前提に、専用の「相続手続依頼書」などを使って遺産分割協議書を省略できる場合もあります。ただし、相続手続依頼書に相続人全員の署名・押印が必要になることが一般的です。
まとめ
本記事では、遺産分割協議書に預金の分け方を記載する方法について、弁護士が解説させていただきました。
遺産分割協議書によって金融機関で預金の相続手続きをする際には、適切に記載しておかなければ、相続手続きを進められない可能性もあるため、作成には注意が必要です。
遺産分割協議書における預金の分け方の記載方法など、ご不明点やお悩みがあるときには、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
弁護士法人あおい法律事務所では、弁護士による法律相談を初回無料で行っております。対面でのご相談だけでなく、お電話によるご相談もお受けしておりますので、ぜひお気軽にお問合せください。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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