遺産分割協議書は必要か?│不要な場合や作らないとどうなるかなども解説

遺産分割

更新日 2024.11.03

投稿日 2024.01.25

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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「遺産分割協議書は必要か?」「どんなケースで不要なのか?」などの疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。

遺産分割協議書は、一般的に、遺産分割協議で合意した内容をまとめた書類ですが、必ずしも作成が必要な書類ではありません。

本記事では、遺産分割協議書が必要な場合や不要な場合、作らないとどうなるかなどについて解説しますので、必要かどうかわからずお困りの方は、ぜひ参考にしてください。

目次

遺産分割協議書は必ず必要か?│必要な場合とは

 

遺産分割協議書が必要か否か

 

必ず必要なわけではない

遺産分割協議書は遺産相続の手続きで必要になることが多いですが、全員が必ず作成しなければならないものではありません。

遺産分割協議書はなぜ必要か?

遺産分割協議書は、法的に有効な遺言書がなく、法定相続分とは異なる分割を行う場合や、名義変更などの相続手続きを行う場合などに必要となります。
法的な作成義務はありませんが、相続内容を対外的に証明する書類となりますので、相続手続きの際には便利に活用することができます。

また、遺産分割協議書には次のようなメリットがあります。

遺産分割協議書のメリット

  • のちの「言った言わない」のトラブルを未然に防ぐことができる。
  • 相続者全員が合意した遺産分割の内容の詳細を、書面で正確に保存することができる。
  • 相続手続きの際に、遺産分割協議の結果を対外的に証明できる。

では、具体的に、どのようなケースにおいて、遺産分割協議書が必要となるのでしょうか。

遺産分割協議書が必要な場合

遺産分割協議書が必要な場合は、主には以下の4つです。

  1. 遺言書がなく、相続人が複数いるケース
  2. 相続登記の手続きが必要なケース
  3. 相続税申告の手続きが必要なケース
  4. のちのトラブルを防ぎたいケース

遺産分割協議書が必要な場合① 遺産を法定相続分のとおりに分割しない場合

亡くなった方が遺言書を残しておらず、相続人が複数人いる場合には、法定相続分どおりに分割する場合を除き、どのように遺産を分割するかを相続人間で話し合う必要がありますので、遺産分割協議書が必要になります。

遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があり、一人でも除外して行えば、協議は無効となってしまいます。

遺産分割協議をすることになった場合、相続人間でどのように協議を進めたらよいのか、悩んでしまう方も多くいらっしゃるでしょう。お悩みの内容によって、弁護士や税理士、司法書士などの専門家にご相談いただくことも可能ですので、不安な方はぜひご検討ください。

遺産分割協議書が必要な場合② 相続登記の手続きが必要なケース

不動産や自動車などの名義変更(相続登記)をする際にも、遺産分割協議書が必要になる場合があります。不動産や自動車などを相続したら、被相続人の名義から相続人の名義へ変更する必要があります。名義変更をしないと、売却や廃車などの手続きを進めることができません。

ただし、前述したとおり、法定相続分で共有取得する場合は、遺産分割協議書がなくても相続登記が可能です。

また自動車の名義変更については、被相続人名義の普通自動車の査定額が100万円以下の普通自動車であれば、遺産分割協議書は不要です。軽自動車の相続の場合も、名義変更の際に遺産分割協議書は不要となります。

なお、不動産の相続登記は2024年4月から義務化されました。これにより、相続により(遺言による場合を含む)不動産を取得した相続人は、「相続の開始および所有権を取得したと知った日から3年以内」に相続登記をしなければならないこととされました。
相続により取得した不動産を正当な理由なしに3年以内に登記しなかった場合、10万円以下の過料を求められる可能性がありますので、注意しましょう。

遺産分割協議書が必要な場合③ 相続税申告の手続きが必要なケース

相続税を申告するときも、多くのケースにおいて遺産分割協議書が必要になります。
通常、相続税申告書に、遺産分割協議書の写しを添付します。

相続税の計算では、まずその総額を計算し、これを各相続人がそれぞれ取得する財産価額の比に応じて按分する仕組みになっています。そのため、遺産分割協議書で決められた分割方法に基づいて各相続人がが負担する相続税額を計算することになりますので、その根拠資料として遺産分割協議書が必要となるのです。

また、相続税の申告では、相続税を軽減するため、特例などを活用できるケースがあります。その際には、遺言書もしくは遺産分割協議書の提出が必要になりますので、遺言書がない場合は遺産分割協議書を用意することになります。

なお、課税価格の合計額が基礎控除額に満たず、かつ、配偶者の税額の軽減や小規模宅地等の特例の適用を受けない場合は、相続税の申告は不要ですので、遺産分割協議書は必要ありません。

遺産分割協議書が必要な場合④ のちのトラブルを防ぎたいケース

このケースの場合は、手続き上で遺産分割協議書が必須、というわけではありませんが、遺産分割協議書を作成しないで口約束で済ませてしまうと、のちに、「やはり納得できない」「気が変わった」と言い出す相続人が出てくるケースもあります。

こうなると、「言った・言わない」の水掛け論となってしまい、トラブルに発展したり、相続人同士が不仲になったりしてしまうこともあるでしょう。

相続手続きで特に必要がなかったとしても、相続人全員が話し合って合意した内容についての証明として遺産分割協議書を作成しておけば、後の無用なトラブルを防ぐことができます。

遺産分割協議書が不要な場合とは

まず、遺産分割協議書が不要なケースから解説いたします。

遺言書があれば遺産分割協議書はいらないか?

相続が発生したら、そもそも遺産分割協議書の作成が必要か不要かを判断するためにも、まず遺言書があるかどうかを確認します。
法的に有効な遺言書があり、遺言書に書かれた内容どおりに遺産を分ける場合は、遺産分割協議書は不要です。

遺産分割協議書と遺言書はどちらも、遺産の割合や分け方について記載するものです。遺言書により、すべての遺産について、誰が何を取得するのか漏れなく指定されていれば、そもそも遺産分割協議を行う必要がなく、当然、遺産分割協議書も不要になるということです。

ただし、相続人全員が合意すれば遺言書と異なる内容の遺産分割ができるほか、遺留分侵害や遺言無効を主張する余地もあります。

自宅などで遺言書が見つからなかった場合は、近くの法務局や公証役場に問い合わせをして、遺言書があるかどうか調べてみましょう。令和2年(2020年)7月から自筆証書遺言書の保管制度が始まり、法務局に手書きの遺言書を保管してもらうことができるようになりました。公正証書遺言の場合は、公証役場で遺言書の原本が保管されています。

遺産分割協議書が不要な場合

そのほか、遺産分割協議書が不要なケースは、主には以下の3つです。

  1. 相続人が1名しかいないケース
  2. 法定相続分どおりに遺産分割する場合
  3. 遺産が現金・預金だけの場合

遺産分割協議書が不要な場合① 相続人が1名しかいないケース

相続人が1名しかいない場合は、その人がすべての遺産を相続しますので、遺産分割協議書は不要です。

たとえば、被相続人の配偶者がすでに亡くなっており、子どもが一人っ子のケースなどがこれに該当します。また、相続人がもともと2人いたが、そのうちの1人が相続放棄した結果、相続人が1人になることもありますが、この場合も遺産分割協議書は不要です。

遺産分割協議書が不要な場合② 法定相続分どおりに遺産分割する場合

遺言書がない場合でも、法定相続分どおりに遺産を分割するようであれば、遺産分割協議書は不要です。法定相続分とは、民法で決められている遺産相続の目安となる割合です。

物理的に分けることが不可能な不動産などの場合も、複数の相続人で共有し、法定相続分どおりに共有持分を設定するということもできます。

ただし、不動産を共有持分にすると、将来の相続の際にさらに複雑になったり、後々の手間やトラブルにつながるリスクがあるため、一般的にあまりおすすめはされていません。したがって、遺産分割協議の際に相続人同士の意見がまとまらないからといって「とりあえず共有」にするのは避けましょう。

遺産分割協議書が不要な場合③ 遺産が現金・預金だけの場合

相続財産に不動産などが含まれておらず、遺産が現金や貯金だけの場合も、遺産分割協議書は不要です。

銀行などの金融機関のホームページを見ると、相続の手続きに必要な書類として遺産分割協議書が記載されていることがあります。

しかし実際は、遺産分割協議書がある場合は提出が求められるもので、銀行などの金融機関の口座を解約するためだけに、遺産分割協議書を作成する必要はありません。

被相続人の預金口座の解約手続きは、遺産分割協議書がなくても可能ですが、その場合は通常、銀行が用意する「相続手続き依頼書」に、相続人全員の署名と実印での押印が必要となります。法定相続人全員が手続きに協力してくれれば、預金口座を解約して払い戻ししたうえで、分割することができます。

もっとも、被相続人が複数の預金口座を所有していた場合は、口座を解約するたびに相続人全員の署名・捺印が必要となり、非効率です。遺産分割協議書があったほうが効率的に手続きが進みますので、作成しておいてもよいでしょう。

遺産分割協議書がない場合│作らないとどうなる?

分割すべき遺産がない場合は作成する必要はありません

そもそも被相続人が遺産を全く持っておらず、遺産分割協議によって分割すべき遺産がない場合には、遺産分割協議書を作成する必要はありません。
そのため、このようなケースでは、遺産分割協議書がないことに問題はありません。

分割すべき遺産があるのに作成しない場合弊害が生じる可能性があります

分割すべき遺産があるにもかかわらず、相続人同士の話し合いがまとまらずに難航したまま放置した結果、遺産分割協議書がないという方もいるかもしれません。

被相続人が遺産を持っていたにもかかわらず遺産分割をしておらず、遺産分割協議書がない場合には、下記のように、さまざまなリスクが生じるおそれがあります。
遺産分割協議が終了していたとしても、法的に遺産分割協議書を作成する義務はないため、なかには遺産分割協議書を作らない人はいます。

しかし、相続人が複数存在し、かつ遺言書で分け方が指定されていない遺産があるにもかかわらず、遺産分割協議書を作成しない場合、以下のような弊害が生じるおそれがあります。

名義変更(相続登記)手続きが滞ってしまう

不動産・自動車などの名義変更(相続登記)手続きは、遺言書や法定相続分どおりに相続する場合を除いて、遺産分割協議書がなければ手続きを行うことができません。
遺産分割協議書の作成が遅れると、これらの遺産の名義変更手続きも滞ってしまうことになります。

相続税の申告期限を過ぎるおそれがある

相続税の申告は、相続開始の翌日から10か月以内に行う必要があります。10ヶ月は長いようでいて、実はあっという間に到来してしまいます。

前述のとおり、相続税を申告するときも、多くのケースにおいて遺産分割協議書が必要になります。もし遺産分割協議書の作成が遅れると、相続税申告の期限に間に合わないおそれが生じてしまいます。期限を過ぎれば延滞金なども発生してしまうことになるでしょう。

なお、遺産分割協議書の作成が期限に間に合わない場合、ひとまず法定相続分に従って遺産分割を行ったものと仮定して、相続税申告を行います。

その後に遺産分割協議書を作成し、更正の請求や修正申告を行う際に税務署へ提出すれば、正しい相続税額による申告・納付を行うことができます。しかし、更正の請求や修正申告は手間と時間がかかる作業ですので、遺産分割協議書を早い段階で作成しておくに越したことはありません。

相続人同士のトラブルの原因となる

遺産分割協議書を作成しないと、遺産分割の内容や結果を客観的に証明する資料が存在しないことになります。
法律上、口約束でも遺産分割は成立しますが、のちに「言った・言わない」の水掛け論となり、相続人同士が不仲になったり、トラブルに発展したりするケースもあります。

遺産分割の不要な蒸し返し・トラブルを防ぐためにも、遺産分割協議書を確実に作成しておくことをお勧めいたします。

相続税申告で遺産分割協議書がないとどうなる?

相続税申告で遺産分割協議書は必要か?

法定相続分どおりに遺産分割を行う場合、相続税申告などの手続きを行う際に、遺産分割協議書を提出する必要はありません。

一方で、法定相続分とは異なる割合で遺産分割を行った場合は、相続税の申告時に、遺産分割協議書を添付する必要があります。相続税額が、実際の相続割合に応じて各相続人に分配されるためです。

遺産分割協議書がないと、相続税の申告時に特例の適用が受けられない

相続税の申告では、相続税を軽減するため、特例などを活用できるケースがあります。
相続税の申告時に特例の適用を受けるには、遺産分割協議が完了していることが適用の前提となります。

つまり、遺産を相続税の申告期限(相続開始の翌日から10か月以内)までに分割することで、相続税を申告する際に、特例によるメリットを受けることができます。

その中でも、特に利用する方が多い特例は以下の二つです。

相続税の申告時に受けられる特例

  • 配偶者の税額軽減の特例:配偶者の遺産取得額が1億6,000万円もしくは法定相続分以下であれば、相続税が0円になる
  • 小規模宅地等の評価減の特例:被相続人が住居として使っていた不動産を相続する場合に、相続税評価額を最大で80%減額できる

「配偶者の税額軽減の特例」や「小規模宅地の特例」は、相続税額を大きく減額できる特例です。

これらの特例を受ける場合と受けない場合では、相続税の納税額に大きく差が生じることがありますので、相続が発生した場合は、相続税の申告期限内に遺産分割を終えて、遺産分割協議書を作成されることをおすすめします。

申告期限までに遺産分割が行われていない場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出

申告期限までに遺産分割が行われていない場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出を検討しましょう。

「申告期限後3年以内の分割見込書」とは、相続税の申告期限までに遺産分割が間に合わなかった場合に、その後3年以内には遺産分割が完了する見込みである旨を税務署に申告するための書類です。

つまり、これを相続税の申告期限までに提出しておくことで、相続税の申告期限から3年以内に未分割の財産が分割された場合には、遡って特例の適用を受けることができます。

特例の適用を受けるには、遺産分割協議がまとまった日の翌日から4ヶ月以内に「更正の請求」を行う必要があります。「更正の請求」とは、収めすぎた分の税額分の還付を受けるための申告です。

3年以内に分割が終えられなかったらどうなる?

3年以内に分割が終えられなかった場合には、原則として、特例の適用は受けられなくなります。
ただし、以下のような要件を満たす場合には、例外的に特例の適用を受けることができます。

・やむを得ない事情があること。

やむを得ない事情の具体例としては、次のようなものが挙げられます。

(例)相続に関して裁判中である場合、
   海外に居住する相続人がいて、容易に帰国できない状態である場合、
   相続人に行方不明者がいて、かつ、財産管理人が選任されていない場合、など。

ただ単に協議が進んでいないという状態は、やむをえない事情には該当しませんので、注意が必要です。

・税務署長の承認を受けていること。

上記のやむを得ない事情がある場合は、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、所轄税務署長の承認を受ける必要があります。この申請書は、相続税の申告期限後、3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに提出が必要です。

やむを得ない事情があったとしても、期限内にこの申請書を提出しなければ、相続税の特例の適用を受けることはできませんので、注意しましょう。

このような救済策が用意されてはいますが、修正申告や更正の請求の手続きには手間がかかることや、税務調査となることを避けるためにも、遺産分割協議は10ヶ月以内にまとめ、遺産分割協議書を作成することを目指して進めてください。

遺産分割協議書の必要性に関するQ&A

Q.遺産分割協議書は必ず必要ですか?

遺産分割協議書は、法的に有効な遺言書が残されておらず、法定相続分とは異なる分割を行う場合や遺産の名義変更の手続きが必要な場合などに必要です。

法的な作成義務はありませんが、対外的に相続内容を証明する書類となりますので、相続手続きの際には便利に活用することができます。

Q.遺産分割協議書が不要なのはどんなときですか?

法的に有効な遺言書があり、遺言書に書かれた内容に沿って遺産を分ける場合は、遺産分割協議書は必要ありません。

ただし、相続人同士で話し合った結果、遺言通りに遺産分割しないという選択をした場合は、もちろんその内容を記した遺産分割協議書が必要になります。

Q.遺産分割協議書を作らないとどうなりますか?

相続人が複数存在し、かつ遺言書で分け方が指定されていない遺産があるにもかかわらず、遺産分割協議書を作成しない場合、名義変更手続きが滞ってしまったり、相続税申告の期限を過ぎてしまったり、相続人同士のトラブルの原因となったりするおそれがあります。

まとめ

遺産分割協議書は、有効な遺言書がなく、法定相続分とは異なる分割を行う場合や、名義変更などの相続手続きを行う際に必要となります。

全員が必ず作成すべきものではありませんが、相続内容を対外的に証明する書類となりますので、相続手続きの際には便利に活用することができます。

遺産分割協議書の作成でお悩みの場合は、ぜひ専門家に相談しましょう。
ご自身で作成が難しい場合は弁護士に依頼することも可能ですので、まずは一度当事務所の弁護士にご相談ください。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。