遺産分割協議書は必要か│作らないとどうなる?必要ない場合も解説

相続人同士で話し合いをして遺産分割を進める場合、合意内容を遺産分割協議書にまとめておくことが推奨されています。当法律事務所でも、遺産分割協議が終わったら遺産分割協議書を作成することをお勧めしております。
ところで、なぜ遺産分割協議書の作成が推奨されているのでしょうか。
この記事では、遺産分割協議書はなぜ必要か、という疑問について、遺産分割協議書の弁護士が詳しく解説させていただきます。
遺産分割協議書が必要とされる場合に加え、反対に遺産分割協議書が必要ない場合や、遺産分割協議書を作らないとどうなるか、といった点についても確認しておきましょう。
また、話し合いをせず遺贈による遺産分割をするケースで、遺言書があれば遺産分割協議書はいらないのか、といった点についても触れていきたいと思います。
遺産分割協議書の作成に迷われているとき、本記事をご参考に検討していただければと思います。
目次
遺産分割協議書は必要か
遺産分割協議書は遺産相続の手続きで必要になることが多いですが、全員が必ず作成しなければならないものなのでしょうか。
(1)遺産分割協議書はなぜ必要か?
そもそも遺産分割協議書に、法的な作成義務はありません。ですので、作成が必須ではありませんが、相続内容を対外的に証明する書類となりますので、スムーズに相続手続きを進めていくために重要な書類とされています。
一般的に遺産分割協議書が必要とされるケースとしては、法的に有効な遺言書がなく、法定相続分とは異なる分割を行う場合や、名義変更などの相続手続きを行う場合などです。
では、具体的にはどういった場合に遺産分割協議書が必要となるのでしょうか。
(2)遺産分割協議書が必要な場合
遺産分割協議書が必要なケースとして、主に以下の4つの場合が考えられます。
- 遺産を法定相続分どおりに分割しない場合
- 相続登記の手続きが必要な場合
- 相続税申告の手続きが必要な場合
- 将来的なトラブルを防ぎたい場合
①遺産を法定相続分どおりに分割しない場合
亡くなった人(被相続人)が遺言書を残しておらず、相続人が複数人いる場合には、どのように遺産を分割するかを相続人間で話し合う必要があります。
遺産を法定相続分どおりに分割しない場合に遺産分割協議書が必要になるのは、相続人全員の意思を明確にし、その内容を証明するためです。
口頭で合意しただけでは、後になって合意の有無や内容について食い違いが生じてしまいかねません。ですが、遺産分割協議書という書面を残すことで、後から相続人が「そんな合意はしていない」「合意内容が違う」といった主張をすることを防ぐことができます。
また、遺産の中に不動産や預貯金がある場合には、名義変更手続きの際に相続人の意思を証明する必要があります。特に、法定相続分以外の割合で分割するときには、この遺産分割協議書の提出が不可欠となるのです。
ですので、法定相続分どおりに分割する場合を除き、遺産分割協議書が必要と考えられています。
②相続登記の手続きが必要な場合
不動産や自動車などの名義変更(相続登記)をする際にも、遺産分割協議書が必要になる場合があります。
不動産や自動車などを相続したら、被相続人の名義から相続人の名義へ変更する必要があります。名義変更をしなければ、対外的に真の所有者を証明することができないため、売却や廃車などの手続きを進めることができなくなってしまいます。
ただし、法定相続分に従って相続人全員で共有取得する場合は、遺産分割協議書がなくても相続登記が可能です。
なお、被相続人名義の普通自動車の査定額が100万円以下の普通自動車である場合と、軽自動車の相続の場合には、名義変更の際に遺産分割協議書は不要とされています。
相続により取得した不動産について、正当な理由なしに3年以内に登記しなかった場合、10万円以下の過料を求められる可能性がありますので、注意しましょう。
③相続税申告の手続きが必要な場合
相続税を申告するときも、遺産分割協議書が必要とされるケースが多いです。
相続税を申告する際、申告書に遺産分割協議書の写しを添付することが一般的です。
相続税の計算では、まずその総額を計算し、これを各相続人がそれぞれ取得する財産価額の比に応じて按分する仕組みになっています。そのため、遺産分割協議書で決められた分割方法に基づいて、各相続人が負担する相続税額を計算することになります。その根拠資料として、遺産分割協議書が必要となるのです。
また、相続税の申告では、相続税を軽減するため、特例などを活用できるケースがあります。その際には、遺言書もしくは遺産分割協議書の提出が求められるため、遺言書がない場合は遺産分割協議書を用意することになります。
なお、課税価格の合計額が基礎控除額に満たず、かつ、配偶者の税額の軽減や小規模宅地等の特例の適用を受けない場合は、相続税の申告は不要となるため、遺産分割協議書も必要ありません。
④将来的なトラブルを防ぎたい場合
上記の場合に当てはまらなくても、将来的なトラブルを防ぎたい場合や、正確な記録として残しておきたいような場合には、遺産分割協議書を作成しておくことが望ましいです。
遺産分割協議書があれば、相続人全員の合意内容を明確に記録できるため、記憶違いや誤解による争いを事前に防止できます。
また、相続後に別の財産が見つかった場合や、相続人の状況が変化した場合にも、協議の経緯や内容を客観的に確認できる証拠として役立ちます。遺産相続においては、予測しきれない問題が後々生じることも少なくありません。
書面での記録があることで、安心して相続手続きを進めることができ、円満な関係を保つことにつながるのです。
遺産分割協議書のメリット
さて、以上のような遺産分割協議書の用途や必要性をまとめますと、遺産分割協議書には次のようなメリットがある、といえるでしょう。
- のちの「言った言わない」のトラブルを未然に防ぐことができる。
- 相続者全員が合意した遺産分割の内容の詳細を、書面で正確に保存することができる。
- 相続手続きの際に、遺産分割協議の結果を対外的に証明できる。
遺産分割協議書が必要ない場合
それでは反対に、遺産分割協議書が必要ない場合はどういったケースが考えられるのでしょうか。
(1)遺言書があれば遺産分割協議書はいらない?
通常、遺産相続が発生したら、被相続人が遺言書を残しているかを確認することになります。遺言書が見つかればその指示に従って遺産の分配が行われますし、遺言書がなければ相続人同士で話し合うことになるでしょう。
法的に有効な遺言書があり、遺言書に書かれた内容どおりに遺産を分ける場合は、遺言書によって遺産分配の方法や内容が示されているため、遺産分割協議書は不要です。
遺産分割協議書と遺言書はどちらも、遺産の割合や分け方について記載するものです。遺言書により、すべての遺産について、誰が何を取得するのか漏れなく指定されていれば、そもそも遺産分割協議を行う必要がなく、当然、遺産分割協議書も不要になるというわけです。
ただし、相続人全員が合意すれば、遺言書と異なる内容の遺産分割ができます。また、法律上最低限受け取れる財産(遺留分)を遺言によって侵害されたと主張する相続人が出てくることも考えられます。中には、そもそも遺言が無効であると争う相続人もいるかもしれません。
このように、遺言書による遺産相続自体が確実に被相続人の指示どおりにはならない可能性もあることに、留意していただければと思います。
(2)遺産分割協議書が必要ない場合
遺言書がある場合のほかにも、以下のケースでは遺産分割協議書が必要ないとされています。
- 法定相続分どおりに遺産分割する場合
- 相続人が1名しかいない場合
- 遺産が現金・預金だけの場合
①法定相続分どおりに遺産分割する場合
遺言書がない場合でも、法定相続分どおりに遺産を分割するのであれば、遺産分割協議書は不要です。
法定相続分とは、民法で決められている相続割合のことです(民法第900条)。
(法定相続分)
民法第900条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
条文の通り、相続人が被相続人とどのような関係の人だったかによって、遺産を相続する割合が法律で決められています。そのため、法定相続分どおりに遺産を分割する場合、法律に基づく当然の割合なので、わざわざ相続人間で話し合って改めて合意を確認する必要がないことから、原則として遺産分割協議書は不要とされています。
ただし、法定相続分どおりの分割であっても、「相続人全員が法定相続分どおりであることを確認した」という内容を文書化すること自体は有効です。
実務上は、法定相続分どおりの場合でも、銀行や法務局が手続きに際して、相続人の合意や意思を明確に確認するために遺産分割協議書の提出を求めるケースがあります。そのため、相続手続きをスムーズに進める観点からは、法定相続分どおりであっても遺産分割協議書を作成しておくことが推奨されています。
②相続人が1名しかいない場合
相続人が1名しかいない場合は、その1人の相続人がすべての遺産を相続しますので、遺産分割協議書は不要です。
代表的なケースですと、被相続人の配偶者がすでに亡くなっており、子どもが一人っ子の場合などが考えられます。
また、相続人がもともと2人いたが、そのうちの1人が相続放棄した結果、相続人が1人になることもあります。相続放棄は裁判所で相続放棄の申述という手続きを行うため、わざわざ「長男は相続放棄することにした。」などと書類を作成する必要はありません。
③遺産が現金・預金だけの場合
相続財産に不動産などが含まれておらず、遺産が現金や貯金だけの場合も、遺産分割協議書は不要です。
銀行などの金融機関のホームページを見ると、相続の手続きに必要な書類として遺産分割協議書が記載されていることがあります。
しかし実際は、遺産分割協議書がある場合は提出が求められる、という運用にすぎません。ですので、銀行などの金融機関の口座を解約するためだけに、わざわざ遺産分割協議書を作成する必要まではありません。
被相続人の預金口座の解約手続きは、遺産分割協議書がなくても可能です。その場合は通常、銀行が用意する「相続手続き依頼書」に、相続人全員の署名と実印での押印が必要となります。法定相続人全員が手続きに協力してくれれば、預金口座を解約して払い戻した上で、分割することができます。
もっとも、被相続人が複数の預金口座を所有していた場合は、口座を解約するたびに相続人全員の署名・捺印が必要となり、非効率です。遺産分割協議書があったほうが効率的に手続きが進みますので、作成しておくことがお勧めです。
遺産分割協議書を作らないとどうなる?
ところで、被相続人が遺産を全く持っておらず、遺産分割協議によって分割すべき遺産がない場合には、遺産分割協議書を作成する必要がありませんし、そもそも遺産分割協議書がないことで生じる問題はありません。
ですが、分割すべき遺産があるにもかかわらず、遺産分割協議書がない場合、遺産相続はどうなってしまうのでしょうか。
(1)遺産分割協議書がない場合どうなる?
相続人が複数存在し、遺言書で分け方が指定されていない遺産があるにもかかわらず、遺産分割協議書を作成していない場合、以下のようなリスクが生じる恐れがありますので、注意してください。
①名義変更の手続きが滞ってしまう
不動産・自動車などの名義変更(相続登記)手続きは、遺言書や法定相続分どおりに相続する場合を除いて、遺産分割協議書がなければ手続きを行うことができません。
遺産分割協議書の作成が遅れると、名義変更手続きも滞ってしまうことになります。
②相続税の申告期限を過ぎるおそれがある
相続税の申告は、相続開始の翌日から10か月以内に行う必要があります。10ヶ月は余裕があるように感じられますが、仕事や家事・育児などの日常生活に追われていると、あっという間に到来してしまいます。
法定相続分どおりの割合以外で遺産相続する場合の相続税の申告では、一般的に遺産分割協議書が必要になります。そのため、もし遺産分割協議書の作成が遅れると、相続税申告の期限に間に合わなくなってしまいます。申告期限を過ぎれば、延滞金なども発生してしまうことになるでしょう。
なお、どうしても遺産分割協議書の作成が期限に間に合わない場合、ひとまず法定相続分に従って遺産分割を行ったものと仮定して、相続税申告を行います。
その後に遺産分割協議書を作成し、更正の請求や修正申告を行う際に税務署へ提出すれば、正しい相続税額による申告・納付を行うことができます。
ですが、更正の請求や修正申告は手間と時間がかかる作業ですので、なるべく早めに遺産分割協議書を作成しておきましょう。
③相続人同士のトラブルの原因となる
遺産分割協議書を作成しないと、遺産分割の内容や結果を客観的に証明する資料が存在しないことになります。
法律上、口約束でも遺産分割は成立しますが、のちに「言った・言わない」の水掛け論となり、相続人同士が不仲になったり、トラブルに発展したりするケースもあります。
(2)相続税申告と遺産分割協議書の必要性
法定相続分どおりに遺産分割を行う場合、相続税申告などの手続きを行う際に、遺産分割協議書を提出する必要はありません。
一方で、法定相続分とは異なる割合で遺産分割を行った場合は、相続税の申告時に、遺産分割協議書を添付する必要があります。相続税額が、実際の相続割合に応じて各相続人に分配されるためです。
また、相続税の申告では、相続税を軽減するためのさまざまな特例などを活用できることがあります。その中でも、特に利用者の多い一般的な特例は、以下の2つです。
- 配偶者の税額軽減の特例:配偶者の遺産取得額が1億6,000万円もしくは法定相続分以下であれば、相続税が0円になる
- 小規模宅地等の評価減の特例:被相続人が住居として使っていた不動産を相続する場合に、相続税評価額を最大で80%減額できる
こうした特例の適用を受けるには、相続税の申告の際に、遺産分割協議が完了していることが前提となります。
つまり、遺産を相続税の申告期限(相続開始の翌日から10か月以内)までに分割することで、相続税を申告する際に、特例によるメリットを受けることができるようになるわけです。
もし相続税の申告期限までに遺産分割が行われていない場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出を検討しましょう。
「申告期限後3年以内の分割見込書」とは、相続税の申告期限までに遺産分割が間に合わなかった場合に、その後3年以内には遺産分割が完了する見込みである旨を税務署に申告するための書類です。
これを相続税の申告期限までに提出しておくことで、相続税の申告期限から3年以内に未分割の財産が分割された場合には、遡って特例の適用を受けることができます。
3年以内に分割が終えられなかったらどうなる?
3年以内に分割が終えられなかった場合には、原則として、特例の適用は受けられなくなります。
ただし、「やむを得ない事情がある」場合には、例外的に特例の適用を受けることができます。
やむを得ない事情の具体例としては、次のようなものが挙げられます。
(例)相続に関して裁判中である場合、
海外に居住する相続人がいて、容易に帰国できない状態である場合、
相続人に行方不明者がいて、かつ、財産管理人が選任されていない場合、など。
ただし、ただ単に協議が進んでいないという状態は、やむをえない事情には該当しませんので、注意が必要です。
そして、やむを得ない事情がある場合は、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、所轄税務署長の承認を受ける必要があります。この申請書は、相続税の申告期限後、3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに提出が必要です。
なお、やむを得ない事情があったとしても、期限内にこの申請書を提出しなければ、相続税の特例の適用を受けることはできませんので、注意しましょう。
以上の通り、このような救済策が用意されてはいますが、修正申告や更正の請求の手続きには非常に手間がかかります。相続が開始したら、10か月以内に遺産分割協議書を作成することを目指し、遺産分割協議を進めるようにしてください。
遺産分割協議書の必要性に関するQ&A
Q1.遺産分割協議書は必要ですか?
A:遺産分割協議書は、法的な作成義務はありませんが、対外的に相続内容を証明する書類となりますので、相続手続きの際には便利に活用することができます。法的に有効な遺言書が残されておらず、法定相続分とは異なる分割を行う場合や、遺産の名義変更の手続きが必要な場合などに必要です。
Q2.遺産分割協議書が必要ない場合はありますか?
A:法的に有効な遺言書があり、遺言書に書かれた内容に沿って遺産を分ける場合は、遺産分割協議書は必要ありません。
ただし、相続人同士で話し合った結果、遺言通りに遺産分割しないことで合意した場合は、その内容を記した遺産分割協議書を作っておくことが推奨されます。
Q3.遺産分割協議書を作らないとどうなりますか?
A:相続人が複数存在し、かつ遺言書で分け方が指定されていない遺産があるにもかかわらず、遺産分割協議書を作成しない場合、名義変更手続きが滞ってしまったり、相続税申告の期限を過ぎてしまったり、相続人同士のトラブルの原因となったりするおそれがあります。
まとめ
遺産分割協議書は、有効な遺言書がなく、法定相続分とは異なる分割を行う場合や、名義変更などの相続手続きを行う際に必要となります。
全員が必ず作成すべきものではありませんが、相続内容を対外的に証明する書類となりますので、相続手続きの際には便利に活用することができます。
ご自身での作成が難しい場合は、遺産分割協議書の作成を弁護士に依頼することも可能ですので、まずは一度、当法律事務所の弁護士にご相談ください。法律相談は初回無料で行っておりますので、お気軽にご利用いただければと思います。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。