遺産分割協議書はどこでもらえる?どこで作る?弁護士が徹底解説!

遺産分割協議で相続人全員が合意できたら、後の「言った・言わない、決めた・決めてない」を避けるためにも、遺産分割協議書を作成する必要があります。
ところで、遺産分割協議書はどこでもらえるのか、どこで作るのかをご存知でしょうか。
金融機関や法務局で遺産分割協議書の提出を求められた際に、初めて「作成しておく必要があったことを知った」というケースも見受けることがあります。
あらかじめ、どこで作ることができるのか知っておかなければ、せっかく話し合いがまとまっても、今度は「遺産分割協議書の作成」で躓くことになってしまいかねません。
そこでこの記事では、遺産分割協議書をどこでもらえるのか、どこで作るのが一般的なのかといった基本的な知識について、弁護士がわかりやすく解説させていただきます。
相続手続きをスムーズに進めるためにも、事前に正しい情報を押さえておくことが大切です。初めて相続に関わる方にも参考になる内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
遺産分割協議書はどこでもらえる?
遺産分割協議書は、どこでもらえるものなのでしょうか。さっそく確認していきましょう。
決まった入手方法はない
結論から申しますと、遺産分割協議書は「どこかでもらうもの」ではありません。特定の役所などで配布されている書類ではなく、どこか決まった場所で「もらう」ものではありません。
遺産分割協議書は、相続人全員で遺産の分け方について合意し、その内容を文書にして全員が署名・押印することで成立します。あくまで当事者間で用意しなければならない書類なのです。
なぜかというと、遺産分割協議書の重要な目的が、「相続人全員の合意内容を明確に記録するため」だからです。
そもそも遺産分割は、相続人全員で協議し、合意することで成立します。
誰にどの財産をどのように分けるかという合意内容は、それぞれの遺産相続で異なるため、あらかじめ内容が決められた定型の書式は存在しません。そのため、当事者である相続人が、遺産分割協議の結果に基づいて、自分たちで作成する必要があるのです。
なお、定型の書式はありませんが、以下のような理由から、基本的には遺産分割協議書を作っておくべきだとされています。
- 誰がどの財産をどのように相続するのか、後になって内容に食い違いが生じることを防ぎやすくなります。
- 時間が経つにつれて記憶が曖昧になり、誤解や思い違いが起きやすくなりますが、無用な対立が生じるのを避けやすくなります。
- 名義変更や払い戻し、相続税の申告といった手続きで遺産分割協議書が必要です。
そして、遺産分割協議書を「実際に作る」人は、必ずしも相続人である必要はありません。弁護士や司法書士といった専門家に、遺産分割協議書の作成を依頼することが可能です。
ただし、この場合も遺産分割協議は必ず相続人全員で行い、合意しておく必要があります。
遺産分割協議書の必要書類
また、遺産分割協議書を作成する際には、一般的に以下の書類が必要になります。
- 被相続人が出生してから亡くなるまでの戸籍謄本類
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票(または戸籍附票)
- 相続人全員の印鑑登録証明書(相続放棄者を除く)
- 遺言書(ある場合)
- 検認済み証明書(検認を受けた場合)
- 相続放棄申述受理証明書
- 財産目録
必要書類の用途や入手方法につきましては、こちらの関連記事をご覧ください。
さて、参考までに、一般的な遺産分割協議書のひな形を見ておきましょう。
遺産分割協議書
本籍地 〇県〇〇市〇町〇丁目〇番〇号
最後の住所地 〇県××市×町×丁目×番×号
被相続人 甲野太郎 (令和〇年〇月〇〇日死亡)
上記の者の相続人全員は、被相続人の遺産について協議を行った結果、次のとおり分割することに同意した。
1.相続人甲野一郎は次の遺産を取得する。
【土地】
所 在 〇県〇〇市〇町〇丁目
地 番 〇番〇〇
地 目 宅地
地 積 〇〇〇.〇〇平方メートル
【預貯金】
○○銀行○○支店 定期預金 口座番号○○○○○○○
2.相続人乙野花子は次の遺産を取得する。
【現金】
金5,000,000円
【預貯金】
××銀行××支店 普通預金 口座番号×××××××
3.本協議書に記載のない遺産及び後日判明した遺産については、相続人甲野一郎がこれを取得する。
以上のとおり、相続人全員による遺産分割協議が成立したので、本協議書を2通作成し、それぞれに署名押印のうえ、各自1通ずつ所持する。
令和×年×月××日
〇県〇市〇〇1丁目23-4
甲野 一郎 ㊞
△△県△△市△5丁目6-7
甲野 花子 ㊞
個別の遺産相続の遺産分割協議書をもらえるわけではありませんが、このように参考となる書式や記載例は、法務局や国税庁のホームページからダウンロードすることも可能です。本記事とあわせて、ぜひご参照ください。
参考:登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)(法務局)
参考:(参考) 相続税の申告の際に提出していただく主な書類(国税庁)
遺産分割協議書はどこで作る?
遺産分割協議書は、相続人が自分で作成することも可能ですし、専門家に依頼することもできます。
遺産分割協議書を作成できる専門家4選
遺産分割協議書を作成できる専門家は、行政書士・司法書士・税理士・弁護士の4士業です。
遺産分割をめぐってトラブルが発生している場合や、遺産に不動産が含まれており手続きが複雑になる場合、遺産が多い・相続人が多い場合などには、遺産分割協議書の作成を専門家に依頼することをお勧めいたします。
そして、4士業にはそれぞれ以下のような特徴があります。
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遺産分割協議書の作成を依頼できる専門家 |
専門家の特徴 |
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行政書士 |
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司法書士 |
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税理士 |
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弁護士 |
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行政書士の特徴
行政書士は、遺産分割協議書の作成を行うことができます(行政書士法第1条の2第1項)。
(業務)
行政書士法第1条の2第1項 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
行政書士への依頼が向いているのは、以下のような場合です。
- 相続人の話し合いがまとまっていて争いがない場合
- 話し合って合意した内容を、ただ遺産分割協議書にまとめたい場合
一方で行政書士は、不動産の相続登記や相続税の申告、遺産分割協議での交渉や代理といった業務を行うことはできません。
遺産分割協議書の内容についてのアドバイスを受けることはできませんが、他の専門家に遺産分割協議書の作成を依頼する場合よりも安価な費用で依頼できる傾向があります。
司法書士の特徴
司法書士は、登記の専門家で、登記業務に関して、法務局に提出する書類の作成を行うことができます(司法書士法第3条1項2号)。
(業務)
司法書士法第3条1項 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第四号において同じ。)を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。
そのため、以下のような場合には司法書士への依頼がお勧めです。
- 相続人間で遺産分割の話し合いは整っており、トラブルはない場合
- 遺産に不動産が含まれていて、名義変更(相続登記)が必要な場合
相続財産に土地や建物などの不動産が含まれる場合には、遺産分割協議書の作成とあわせて、法務局への登記申請も司法書士に依頼すると効率的です。ただし、司法書士も、遺産分割の内容に関するアドバイスや、相続人の代理人として他の相続人と交渉することはできません。
税理士の特徴
税理士は、税務署に提出する書類の作成を行うことができます(税理士法第2条1項2号)。そのため、相続税の申告に必要となる場合に限り、税理士が遺産分割協議書を作成することが認められています。
(税理士の業務)
税理士法第2条1項 税理士は、他人の求めに応じ、租税(印紙税、登録免許税、関税、法定外普通税(地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第十条の四第二項に規定する道府県法定外普通税及び市町村法定外普通税をいう。)、法定外目的税(同項に規定する法定外目的税をいう。)その他の政令で定めるものを除く。第四十九条の二第二項第十一号を除き、以下同じ。)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 (略)
二 税務書類の作成(税務官公署に対する申告等に係る申告書、申請書、請求書、不服申立書その他租税に関する法令の規定に基づき、作成し、かつ、税務官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下同じ。)で財務省令で定めるもの(以下「申告書等」という。)を作成することをいう。)
そのため、以下のような場合には税理士への依頼がお勧めです。
- 相続人間で遺産分割の話し合いは整っており、トラブルはない場合
- 相続税の申告が必要な場合
- 相続税のシミュレーションをしてもらいたい場合
一方で、相続税申告を行わない場合には、税理士が遺産分割協議書を作成することはできません。
また、税理士も行政書士や司法書士と同様に、遺産分割協議の内容に関するアドバイスをしたり、代理人として交渉をしたりすることは許されません。
弁護士の特徴
弁護士は、相続に関する業務をほとんどすべて取り扱うことができます(弁護士法第3条、同第72条)。
(弁護士の職務)
弁護士法第3条 弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。
2 弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士法第72条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
遺産分割の紛争において、代理人として他の相続人と交渉したり、交渉で決着がつかない場合には調停や裁判を代理したりすることのできる、唯一の専門家が弁護士です。そのため、次のようなケースに向いています。
- 遺産分割協議がうまくまとまらず、相続人同士でもめている場合
- 遺産の内容が複雑で、遺産分割協議をめぐってトラブルになりそうな場合
- 遺産分割協議の交渉から不動産の名義変更まで、相続手続きを一括で依頼したい場合
ですので、相続人同士の対立がある場合や、多額の財産が絡むような複雑なケース、話し合いがなかなか進まないといった問題があるときには、遺産分割協議書の作成を弁護士に依頼するのがお勧めです。
以下の通り、誰に依頼すべきか、簡単なフローチャートを用意しましたので、専門家への依頼を検討する際に、目安にしていただければと思います。
遺産分割協議書を作る費用負担は誰になる?
遺産分割協議書の作成費用について、法律で誰が負担するかを具体的に定めた規定はありません。そのため、誰がどのように負担するかは、相続人全員の協議によって決めることになるでしょう。
例えば、遺産分割調停における費用負担では、「申立人の負担とする」「各自の負担とする」「当事者全員が各3分の1の割合で負担する」など、当事者の合意によって柔軟に費用負担について定められています。遺産分割協議書の作成費用についても、相続分に応じて負担したり、特定の相続人が負担したりと、相続人間の話し合いで自由に決めることが一般的です。
ところで、遺産分割協議書の作成を専門家に依頼した場合、誰が費用を負担するのかで悩んでしまうこともあるかと思います。自分たちで作成するよりも、費用が高額になることが通常だからです。
この点、一般的にはその専門家に依頼した人が支払うものと考えられていますが、全てのケースでそうなるわけではありません。
例えば、弁護士とその他の3士業とで、次の通り異なります。
弁護士以外の専門家に遺産分割協議書の作成を依頼する場合の費用は、基本的には誰が支払っても構いませんが、相続人同士で話し合い、負担割合を決めるケースが一般的です。
代表者がまとめて支払うケースもあれば、相続人同士で分割して費用を払うケースもあります。また、遺産分割の相続分(相続割合)に応じて負担費用を調整することもあるでしょう。
一方で、弁護士に遺産分割協議書の作成を依頼したときは、費用を支払うのは基本的には依頼人です。弁護士へ依頼するケースの場合、トラブル解決とセットで依頼することが多く、弁護士は依頼人の利益を重視して交渉などにあたります。したがって、直接的な利益を受けるのは依頼人であるため、依頼人による弁護士費用の支払いが当然と考えられているのです。
なお、あまりないケースではありますが、もし遺産分割協議書の作成だけを弁護士に依頼した場合は、各相続人の相続分に応じて費用を按分することも考えられます。
【Q&A】遺産分割協議書はどこでもらえる?
Q1.遺産分割協議書はどこでもらえるの?
A:遺産分割協議書は、「もらえる」ものではありません。役所や法務局、金融機関などでもらえるといった書類ではないため、相続人が作成する必要があります。
Q2.金融機関で遺産分割協議書の書式をもらえますか?
A:金融機関に用意されている相続手続きの書式は、金融機関独自の「相続手続依頼書」や「預金払戻請求書」といった書式です。遺産分割協議書とはあくまで別物なので、注意してください。
Q3.弁護士に頼めば遺産分割協議書を作ってもらえますか?
A:はい、可能です。内容に不備があると金融機関や法務局で受理されないこともあるため、相続人間での争いが懸念される場合や複雑な相続内容である場合には、弁護士に作成をご依頼いただくことをお勧めいたします。
まとめ
遺産分割協議書は相続人自ら作成するもので、どこかでもらえるものではありません。
遺産分割協議書に不備がある場合、相続手続きができなくなってしまうこともあるため、自分で作る際には特に注意が必要です。
もしご自身で遺産分割協議書を作成するのが難しい場合には、専門家に依頼して代わりに作成してもらうことも可能です。遺産分割協議書を作成できる専門家は、行政書士・司法書士・税理士・弁護士の4士業となります。
その中でも、弁護士は遺産分割協議書を作成できるほか、相続手続き全般について対応することができます。そのため、相続手続きを一括して任せたい場合には、弁護士への依頼をお勧めいたします。
遺産分割協議書の作成にお悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人あおい法律事務所までご相談ください。当事務所では、弁護士による法律相談を初回無料で行っております。対面だけでなく、お電話によるご相談もお受けしておりますので、お気軽にお問合せいただければと思います。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。








