遺留分の時効はいつまで?遺留分侵害額請求の期限と時効を止める方法

遺産分割

遺留分

更新日 2024.10.02

投稿日 2024.01.25

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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遺留分を侵害されたら、時効に注意が必要です。相続が始まってから、そして遺留分が侵害されたことを知った日から、1年以内に行動を起こさなければなりません。この期限を過ぎると、遺留分侵害額を請求する権利を失ってしまいます。

また、遺留分を請求する通知を送った後にも、金銭債権の消滅時効が適用される点に注意が必要です。
時効を過ぎると遺留分はもらえなくなりますので、侵害されたことがわかった場合には、期限内に適切な手続きを取ることが求められます。

この記事では、遺留分の時効に関する基本的な知識や、時効を止める方法について、弁護士がわかりやすく解説します。時効について正しく理解し、適切に対応することが、相続人の権利を守る鍵となります。

目次

遺留分侵害額請求の時効とは│期限内に請求しないと権利は消滅する

遺留分とは、民法によって定められた、一定の相続人が最低限受け取るべき遺産の取得割合を指します。これは、被相続人の遺言によっても奪うことができない民法で保障された権利です。遺留分の権利者は兄弟姉妹以外の法定相続人であり、配偶者や子ども、親などがこれにあたります。

「遺留分とは」について、詳しくは下記記事で解説しております。あわせて参照してください。

一方、遺留分侵害額請求とは、被相続人の遺贈や贈与の結果、遺留分が侵害された場合に、侵害された相続人が財産を受け取った人に対して適正な遺産分配を求める法的な手続きです。具体的には、遺留分に相当する金銭の支払いを請求することができます。このような権利を遺留分侵害額請求権といいます。

遺留分侵害額請求の請求手続きの流れなどについては、下記記事で解説しております。あわせて参照してください。

時効とは、法律上の権利や義務に関して、一定の期間内にこれを行使または履行しなかった場合、その権利が消滅し、または義務が免除されるという法的な仕組みのことをいいます。
遺留分侵害額請求にも時効が適用されます。この時効により、遺留分侵害額請求権を守るための期限が設定され、期限内に行動を起こさなければその権利を失うことになります。

時効についての具体的な内容は、下で詳しく解説いたしますが、遺留分の権利を行使する際には、この時効の存在を常に意識する必要があります。

遺留分の3つの時効│1年・10年と5年

遺留分を受け取るためには「3つの時効」に注意が必要です。以下は、これらの時効についての概要を表にまとめたものです。

時効の種類

適用条件

説明

消滅時効

相続開始と遺留分侵害を知ってから1年

相続開始と遺留分侵害を知った日から1年以内に遺留分侵害額請求権を行使しなければ、時効により権利が失われる。

除斥期間

相続が開始してから10年

相続開始から10年が経過すると、遺留分侵害額請求権が除斥され、使用できなくなる。

金銭債権の消滅時効

遺留分侵害額請求を行使してから5年

遺留分侵害額請求権を行使した後、5年間金銭請求を行わなければ、その金銭債権が時効により消滅する。

これら3つの時効は、遺留分の権利を守る上で非常に重要です。遺留分の請求を考えている相続人は、これらの時効を理解し、適切な時期に必要な手続きを行うことが求められます。
以下では、この3つの時効について詳しく解説していきます。

①相続開始と遺留分侵害を知ってから1年

遺留分の時効について、民法で以下のとおり定められています。

第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
(出典:民法1048条 遺留分侵害額請求権の期間の制限)

いつから始まる?起算点は

遺留分の時効は、

  • 相続人が相続の開始を知った時(被相続人の死亡と自分が相続人であることを知った時)
  • 遺留分が侵害されていることを知った時

から始まります。
ここで重要なのは、単に相続が始まったり、遺贈や贈与があったことを知るだけでなく、これらの行為が実際に遺留分を侵害しているという事実も認識している必要があります。たとえば、遺産のほとんどが特定の人物に遺贈されている場合、その行為が遺留分権利者の取り分を不当に減少させていることを知っていることが求められます。

遺留分侵害額請求権は1年で請求相手の主張により消滅する

遺留分侵害額請求権の時効は、「相続開始と遺留分侵害を知ってから1年」と定められています。(消滅時効)

この1年間という時効期間は、遺留分権利者が自分の遺留分が侵害されていることを認識し、それに基づいて法的な手続きを開始するための猶予期間です。この期間内に遺留分侵害額請求権を行使しないと、時効によってその権利は消滅し、後になってから権利を主張することはできなくなります。
したがって、遺留分の権利を守るためには、相続の開始と遺留分が侵害されたことを知った日から1年以内に適切な手続きをとることが極めて重要です。

ただし、1年が経過した後も請求権が自動的に消滅するわけではありません。この時効消滅は、請求される側、つまり遺産を受け取った相続人や受遺者が、時効を主張したときにのみ成立します。
もし請求される側が時効を主張しなければ、時効の1年を過ぎても遺留分の請求は有効になる可能性があります。そのため、時効期間が経過してからでも遺留分の請求を試みることは可能です。
ただし、通常は時効を主張するので、迅速に手続きを進めましょう。

②相続が開始してから10年(除斥期間)

いつから始まる?起算点は

もう1つの遺留分の時効は、
・相続を開始した時(被相続人が死亡した時)
から始まります。
重要なのは、この時効は遺留分権利者が相続開始や遺留分の侵害に気づいているかどうかに関わらず進行するということです。

遺留分侵害額請求権は10年で消滅する

遺留分侵害額請求権の時効は、「相続が開始してから10年」と定められています。(除斥期間)
除斥期間は、権利が発生したときからその期間が進行し、期間が経過すると権利が自動的に消滅します。すなわち、除斥期間が経過すると、相続人が相続の事実を知っていたかどうかにかかわらず、遺留分侵害額請求権は自動的に消滅します。

特筆すべきは、この10年間の期限は上の消滅時効とは異なり、途中で停止や延長が許されない点です。遺留分権利者にとって、この10年間は遺留分の請求を行う最終的な期限となり、この期間が過ぎるとたとえ正当な請求であっても、請求が認められることはありません。
遺留分を確保するためには、この10年間という除斥期間に注意を払い、必要な法的手続きを迅速に行う必要があります

③遺留分侵害額請求を行使してから5年│金銭支払請求権の時効

遺留分侵害額請求権を行使すると、これにより「金銭債権」が発生します。この金銭債権とは、遺留分侵害額を金銭で支払うよう請求する権利です。ただし、この金銭債権には5年間の消滅時効が適用されます(民法166条1項1号)。

第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
(出典:民法166条 債権等の消滅時効)

時効の起算点は、遺留分侵害額請求権の行使時に設定されます。つまり、相続人が遺留分の侵害があったと認識し、それに基づいて遺留分侵害額の請求を行った時点がこの時効の開始点となります。
これは、請求権者が遺留分に相当する金銭の支払いを求める権利を行使してから5年間という期限内に、具体的な請求または法的措置を取らなければ、その金銭債権が時効により消滅してしまうことを意味します。

そのため、遺留分に相当する金銭を確実に受け取るためには、5年以内に裁判上の請求など具体的な手続きを行い、時効を中断または停止させる必要があります。

民法改正で時効はどうなる?

減殺請求権から侵害額請求権へ変更で金銭債権化│2019年7月1日改正

2019年7月1日施行の相続法改正により、「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額請求権」への変更が行われ、遺留分の請求が金銭債権化されました。
以前は、遺留分権利者が財産自体を直接取り戻すことができましたが、法改正後は金銭での補償を請求する形に一本化されました。
遺留分の請求が金銭債権化されたことにより、遺留分侵害額請求権には金銭債権の消滅時効である5年の期限が新たに適用されるようになりました。

金銭債権の消滅時効が10年から5年に│2020年4月1日改正

2020年4月1日施行の相続法改正により、消滅時効のルールが変更されました。
この改正によって、遺留分侵害額請求権の時効が変更され、時効の計算方法も更新されました。
具体的には、改正前のルールでは遺留分侵害額請求権の金銭債権としての時効は10年でした。しかし、改正後はこの時効期間が以下の二つの条件のいずれか早い方に基づいて計算されるようになりました。

  • 権利を行使できることを知った時から5年間
  • 権利を行使できる時から10年間

です。

改正後に請求を行う場合、特に権利を行使可能と知った時からの5年間という時効期間が新たに設定されたことに注意が必要です。これは、改正前の10年間と比較して、時効期間が短くなっているため、権利行使のタイミングを見逃さないよう注意する必要があります。

遺留分侵害額請求権の時効を止める方法

まずは、遺留分侵害額請求権の1年の消滅時効を止める方法について解説いたします。
遺留分侵害額請求の方法については、下記記事をご参照ください。
<内部リンク:遺留分侵害額請求とは?調停・訴訟の手続きなど請求の流れも解説>

配達証明付きの内容証明郵便で通知書を送付する

遺留分侵害額請求を行うには、まず請求書面(通知書)を作成します。この書面には、以下のような内容を記載します。

  • 請求者(あなた)の名前
  • 請求先(相手名前と送付先)
  • 請求の対象となる遺贈・贈与・遺言の詳細
  • 遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する旨
  • 請求の日時

書面の形式は自由で、手書きでもパソコンで作成したものでも構いません。
作成した書面は、配達証明付きの内容証明郵便を使用して送付します。内容証明郵便は、送付された文書の内容と日時が正式に証明されるため、後になって請求の事実が争われた場合の証拠となります。また、配達証明により、書面がいつ相手に届いたかが確認できます。

大切なのは、時効完成前、つまり権利を行使できることを知ってから1年以内に上記の手続きを行うことです。複数の相手に対して遺留分侵害がある場合は、全ての関係者に対してこの手続きを行う必要があります。判断が難しい場合は、弁護士にご相談ください。

10年の除斥期間は止めることができない

除斥期間は、時効のように中断、停止、または更新することができない期間です。
このため、遺留分の権利者は、相続が始まってから10年以内に必ず遺留分侵害額請求を行う必要があります。この10年間の期限を過ぎてしまうと、遺留分に関する請求権はどんなに正当であっても行使することができなくなります。

金銭債権の時効を中断する方法

 

債務の承認による時効の更新(中断)

 

内容証明郵便で通知書を送付することで時効を停止したとしても、金銭債権の消滅時効として5年の期限があることに注意が必要です。
2020年4月1日に民法が改正される以前は、請求を行うことで時効を停止することができました。さらに、その後裁判所に請求を提起することにより、時効を中断させることが可能でした。この時の時効期間は10年でした。

改正後のルールでは、「時効の完全猶予」と「時効の更新」という二つの新しい概念が導入されました。一時的に時効を止める「完全猶予」とは、ある特定の行動を起こすことで時効の進行を一時停止させることを意味します。一方で、「時効の更新」は、時効期間を一度リセットし、ゼロから再カウントすることを指します。
具体的には、裁判所に請求を提起した時点で時効が完全猶予され、その後の裁判で権利が確定した場合に時効が更新されます。

裁判を起こして中断する

金銭債権の消滅時効を中断または更新する主な方法としては、裁判を起こすことが有効です。裁判を起こすことによって、時効の進行が一時的に止まり、判決が確定した後、新たに5年間の消滅時効が開始されます。

また、債務者(請求される側)が遺留分侵害額請求権の存在を認めた場合も、時効は中断されます。この場合も、債務の認知を受けてから新たに5年の消滅時効が進行します。
このように、改正後のルールでは、遺留分侵害額請求権に関する金銭債権の時効を適切に管理し、必要な手続きを行うことが重要です。交渉が長期化する場合や複雑なケースでは、弁護士に相談し迅速に対応することをお勧めいたします。

公正証書遺言の無効について争う場合に注意

遺留分権利者が公正証書遺言の無効を主張する場合、遺言が無効なのだから、遺留分が侵害されているとは認識はなく、時効も進行しないと考えがちです。しかし、最高裁判所は、特定の事情がない限り、遺留分侵害額請求権に関する時効は通常通り進行すると判示しています。これは昭和57年11月12日の判決において明らかにされています。

この判決によると、遺留分権利者が遺言の無効を信じ、遺留分減殺請求権を行使しなかったとしても、法律上または事実上の「特段の事情」がなければ、時効は進行します。特段の事情とは、例えば遺留分権利者が遺言の無効性について知らなかったり、誤解していたりするなど、権利行使を妨げる合理的な理由がある場合を指します。

遺言の無効を争う際には、予備的に遺留分侵害額請求権を行使することが賢明です。もし遺言の無効が認められなかった場合、遺留分侵害額請求権の時効が成立してしまい、権利を行使できなくなるリスクがあります。

遺留分の時効に関するQ&A

Q1: 遺留分の時効はいつから始まるのですか?

A1: 遺留分の時効は、相続が開始し、かつ相続人が自分の遺留分が侵害されていることを知った時点から始まります。通常、相続開始は被相続人の死亡時点です。遺留分が侵害されていることを知った日から1年以内に遺留分請求を行わないと、時効により請求権が消滅する可能性があります。

Q2: 遺留分請求の時効期間はどのくらいですか?

A2: 遺留分請求の時効期間は、相続人が遺留分侵害を知った日から1年です。ただし、改正民法では、権利を行使できることを知った日から5年、または権利を行使できる時から10年のいずれか早い時点までとされています。

Q3: 遺留分侵害額請求権の時効を止めるにはどうすればいいですか?

A3: 遺留分侵害額請求権の時効を止めるには、期限内に具体的な請求を行う必要があります。これには、内容証明郵便により遺留分の請求を行ったり、必要であれば裁判所に訴えを提起することが含まれます。裁判所に訴えを提起することで、時効は中断され、新たな時効期間が始まります。

Q4: 生前贈与が遺留分を侵害している場合、時効の起算点はどうなりますか?

A4: 生前贈与があった場合、遺留分侵害額請求権の時効は、相続開始後に贈与を知った時点から始まります。生前贈与が遺留分を侵害している場合、時効期間内に遺留分侵害額請求を行う必要があります。

Q5: 遺言書の無効が争われている場合、遺留分請求の時効にどのような影響がありますか?

A5: 遺言書の無効が争われている場合でも、一般的には遺留分請求の時効が進行します。遺留分権利者が遺言の無効を信じているだけでは、時効の進行を停止することはできません。例外として、法律上または事実上の特段の事情がある場合にのみ、時効の進行が停止される可能性があります。

まとめ

この記事では、遺留分に関する3つの時効について、それぞれ詳しく解説してきました。
遺留分侵害額請求権には時効があり、期限を過ぎてしまったら、遺留分侵害額を取り戻すことができなくなってしまいます。また、時効を止めるためには法的手続きが必要となり、時効の起算点の判断が難しいケースもあります。
時効の止め方や遺留分侵害額請求の方法がわからない方は早めに弁護士に相談することをお勧めいたします。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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