遺留分とは?最低限の遺産を請求できる相続人の範囲や割合と請求方法
親や配偶者が亡くなり、いざ遺言書を見てみると、想定外の内容が書かれていることも少なくありません。他の兄弟たちに比べて自分の相続分が少ない、など納得できない遺産分割がなされる場合もあることかと思います。
このように、相続人にとって不公平な遺産分割がなされた場合、特定の相続人には遺留分を請求する権利があります。
遺留分とは、遺言によっても侵すことのできない、特定の相続人に法律で保証された最低限の遺産取得割合のことをいいます。この遺留分は、亡くなった人の意思と相続人の経済的安定のバランスを取るための制度です。特に、社会的・経済的に弱い立場に置かれることの多い妻や子どもなどが、故人亡き後生活できないようになってしまうことを避けるために、この制度が設けられました。
ですが、「相続なんて自分にとってはまだ先のことだから。」と考え、遺留分について具体的には知らない、という人も少なくはないでしょう。
そこでこの記事では、遺留分についての理解を深めていただけるよう、遺留分が認められる相続人の範囲、遺留分の割合、そして遺留分を請求する方法について、弁護士がわかりやすく解説させていただきます。
遺留分についての正しい知識を得ることで、相続が発生した際に自分の権利を守ることができます。また、遺言を作成する際にも、遺留分を考慮することで、より公平で納得のいく遺産分割を行うことが可能になります。本記事が皆さまのご参考となりましたら幸いです。
目次
遺留分とは
遺留分とは、亡くなった人(被相続人)の兄弟姉妹を除く法定相続人に対して、法律で保障される最低限の遺産取得分を指します。
被相続人は遺言による遺贈や生前贈与を自由に行うことができますが、それによって残された相続人が生活できなくなるなどの事態を防ぐために設けられた制度です。
つまり、遺言で全財産を特定の人に譲るよう指定されていたとしても、兄弟姉妹を除く相続人は、遺留分を請求することで、必ず一定の財産を取得できるよう保証されています。
法定相続分との違い
法律で保障されている最低限の取得分と聞くと、「法定相続分のことか。」と思われるかもしれません。
ですが、遺留分と法定相続分は、似ているようで異なるものです。
「法定相続分」とは、民法で定められた相続財産(遺産)を分ける際の、基本的な割合のことです。これは、遺言がない場合に、相続人間で遺産をどのように分けるべきかの目安となるものです。ただし、遺言書や遺産分割協議によって、この割合を変更することも可能です。つまり、法定相続分は相続財産を分けるための指針になるもので、必ずしも強制力を持つわけではありません。
一方で、「遺留分」とは、兄弟姉妹を除く相続人について、最低限保証されるべき相続財産の割合を指します。これは、遺言書で指定された相続分が少ない場合、つまり遺留分に満たない場合に、相続人が自身の遺留分を請求できる権利です。遺留分は、最低限受け取るべき遺産を保障するものですが、この権利を行使するかどうかは相続人の自由です。もし遺留分を侵害されていても、権利を行使しない限り、相続の内容は変わりません。
遺留分を請求できる相続人の範囲
それでは、この遺留分を請求できるのは誰なのでしょうか。遺留分を請求できる人とできない人については、民法で明確に定められています。
認められるのは一部の法定相続人のみ
遺留分を請求できる相続人のことを「遺留分権利者」といいますが、この遺留分権利者の範囲は、民法第1042条1項に「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。」と規定されています。
ですので、具体的な遺留分権利者はこのようになります。
- 配偶者
- 子や孫などの直系卑属
- 親や祖父母などの直系尊属
以上の通り、遺留分権利者は被相続人の配偶者、子、および直系尊属である親や祖父母となります。
なお、注意していただきたいのは、直系尊属である親や祖父母は、常に遺留分権利者になるわけではない、ということです。直系尊属である親や祖父母は、第一順位の相続人である子がいない場合に限り相続人となりますので(民法第889条1項1号)、遺留分の請求権に関しても、子がいない場合に限って認められることになります。
また、子が亡くなっている場合には、孫が代襲相続によって相続人となりますので(民法第887条2項)、代襲相続人である孫が、亡くなった子と同等の遺留分を取得する権利を持つことになります。
認められない相続人
一方で、民法第1042条1項は「兄弟姉妹以外の相続人は」と規定しているため、被相続人の兄弟姉妹には、遺留分は認められません。そのため、兄弟姉妹が先に亡くなっている場合の代襲相続人(甥や姪)にも遺留分は認められません。
これは、遺留分の制度が意図するものが、「被相続人の死亡後に、配偶者や子ども、親といった生活基盤を失う可能性がある家族の保護」であるからです。兄弟姉妹は、被相続人の配偶者や子、親とは異なり、被相続人の生活を直接支えていたり、その経済的な依存度が高いわけではありません。そのため、遺留分として法律で最低限保障する必要まではない、と考えられているのです。
また、兄弟姉妹の他にも、以下のような人は遺留分の請求が認められないこととされています。
- 相続欠格者(民法第891条)
- 相続廃除された人(民法第892条)
- 相続放棄した人
相続欠格や廃除、相続放棄によって相続権を失った人は、遺留分の権利も失います。ただし、相続欠格や廃除の場合は、その人の子(直系卑属)が代襲相続人になるため、代襲相続の結果、遺留分権利者になることがあります(民法第1042条、同887条2項・3項)。
遺留分の割合
遺留分の割合は、相続人の構成によって変わります。
配偶者や子どもなどの直系卑属が相続人に含まれる場合、配偶者や子が請求できる遺留分は、遺産の2分の1です。一方、親や祖父母などの直系尊属のみが相続人である場合、遺留分は遺産の3分の1とされています(民法第1042条)。
民法第1042条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 3分の1
二 前号に掲げる場合以外の場合 2分の1
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第900条及び第901条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
遺留分権利者 |
相続財産に占める遺留分の割合 |
直系尊属(父母など)のみ |
3分の1 |
配偶者または直系卑属(子など)がいる場合 |
2分の1 |
遺留分は、相続人それぞれの法定相続分に応じて分配されます。例えば、配偶者と子どもが相続人の場合、遺留分の全体の割合は相続財産の2分の1です。配偶者と子どもの法定相続分がそれぞれ2分の1なので、遺留分の割合は次の通りになります。
- 配偶者の遺留分割合:1/2×1/2=1/4
- 子どもの遺留分割合:1/2×1/2=1/4
その他のケースについては、以下の表に遺留分の割合をまとめましたので、参考にしてください。この表は、相続人の構成に応じて、配偶者、子、親の遺留分の割合を示しています。
相続人の構成 |
全体の遺留分割合 |
配偶者の遺留分割合 |
子どもの遺留分割合 |
親の遺留分割合 |
兄弟姉妹の遺留分割合 |
---|---|---|---|---|---|
配偶者のみ |
2分の1 |
2分の1 |
– |
– |
– |
配偶者と子 |
2分の1 |
4分の1 |
4分の1 |
– |
– |
配偶者と親 |
2分の1 |
3分の1 |
– |
6分の1 |
– |
配偶者と兄弟姉妹 |
2分の1 |
2分の1 |
– |
– |
なし |
子どものみ |
2分の1 |
– |
2分の1 |
– |
– |
親のみ |
3分の1 |
– |
– |
3分の1 |
– |
兄弟姉妹のみ |
なし |
– |
– |
– |
なし |
もし子や親が2人以上いるなど、同順位の相続人が複数いる場合は、それぞれ均等に分けます。例えば、配偶者と子ども2人が相続人の場合、遺留分は以下のようになります。
- 配偶者の遺留分割合:1/2×1/2=1/4
- 各子どもの遺留分割合:1/2×1/2×1/2=1/8
直系尊属(親や祖父母など)のみが相続人の場合に注意
直系尊属、すなわち親や祖父母などの遺留分割合は、相続人の構成によって異なります。特に注意が必要なのは、直系尊属のみが相続人である場合です。以下で、直系尊属のみが相続人である場合における遺留分の割合について、詳しく見ていきましょう。
親のみが相続人の場合
親のみが相続人の場合、父母は合わせて遺産の3分の1を遺留分として相続する権利があります。これは、直系尊属だけが相続人である特殊な状況で適用される割合です。
配偶者と親が共に相続人の場合
配偶者と親が共に相続人の場合、配偶者と親が、それぞれ遺産の2分の1を遺留分として相続する権利があります(民法第1042条1項2号)。
配偶者の法定相続分は3分の2であるため、これに2分の1を乗算します。1/2×2/3=1/3となるため、配偶者は遺産の3分の1を遺留分として請求できることになります。
親の法定相続分は3分の1ですから、1/2×1/3=1/6となり、親は遺産の6分の1の遺留分を請求できることになります。
もし父と母の2人がいる場合、「親の遺留分」を父と母の2人で均等に分け合うことになるため、1/2×1/6=1/12となり、父母それぞれの遺留分は遺産の12分の1ということになります。
このように、直系尊属のみが相続人の場合は、他の相続人構成の場合と比べて、遺留分の割合が異なってくるため、特に注意が必要です。
遺留分の割合については、下記記事でも詳しく解説しております。ぜひ本記事とあわせてご一読ください。
実際の遺産の取得分は?│計算方法を事例を用いて解説
それでは、実際に遺留分としてどれくらいの遺産を取得できるのかを考えてみましょう。
遺留分の計算は、基本的に次の手順で行います。
①相続財産の総額を求める
まず、相続財産の総額を計算します。相続財産には、不動産、預金、株式など、被相続人のすべての資産が含まれます。ここで重要なのは、相続財産には遺贈によって得た財産だけでなく、亡くなる1年前までの生前贈与や、相続開始前10年以内の特別受益も含まれるという点です。また、被相続人の債務(借金など)は、この総額から差し引かれます。
②相続財産の総額に遺留分割合を適用する
次に、算出した相続財産の総額に、各相続人の遺留分割合を乗算します。この割合については、上でご紹介した表を参照してください。
例として、被相続人が残した財産が1,000万円、生前贈与が200万円、債務が100万円のケースで考えましょう。相続人は、配偶者と子ども1人です。
まずは相続財産の総額を算出します。
相続財産の総額 = 1,000万円 + 200万円 – 100万円 = 1,100万円
続いて、算出した財産の総額に、配偶者と子どもそれぞれの遺留分の割合と法定相続分の割合を乗算し、遺留分の金額を計算します。
配偶者の遺留分 = 1,100万円 × 全体の遺留分割合1/2 × 配偶者の法定相続分1/2 = 275万円
子どもの遺留分 = 1,100万円 × 全体の遺留分割合1/2 × 子どもの法定相続分1/2 = 275万円
以上から、このケースでは、配偶者と子どもはそれぞれ最低275万円を遺留分として請求できることが分かりました。したがって、このケースの配偶者と子どもは、遺言書や遺産分割協議があろうと、275万円の遺産は最低でも保障されるのです。
遺産に不動産がある場合は遺留分の計算に注意
遺産に土地や建物などの不動産が含まれている場合、その遺留分の計算には特別な注意が必要です。なぜなら、不動産の価値の評価は相続財産の総額に大きな影響を与えるからです。
不動産の価値は、相続が開始された時点での市場価値に基づいて算定されます。しかし、不動産の市場価値は、地域の経済状況、物件の状態、立地条件など多くの要因によって変動します。したがって、正確に市場価値を把握することが遺留分計算の鍵となるのです。
遺留分侵害額請求ができる
遺留分が侵害されていることが判明した場合は、相続人は「遺留分侵害額請求」を行うことができます。
これは、被相続人による贈与や遺言によって、相続人が本来受けられるべき最低限の遺留分を満額受けられなかった場合に、遺産を多く受け取った人に対して、侵害された遺留分相当の金額を請求することができる、というものです(民法第1046条1項)。
民法第1046条1項 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
重要なのは、遺留分侵害額請求が現物(例えば不動産や株式など)の返還請求ではなく、金銭での請求であるという点です。つまり、遺留分が侵害された相続人は、遺留分に相当する金額を請求することができるのです。
「遺留分減殺額請求」が「遺留分侵害額請求」に│相続法の改正
さて、このような遺留分侵害額請求ですが、実はこのような金銭請求の形になったのは、比較的最近のことでした。2019年7月1日に施行された改正相続法以前の遺留分侵害額請求は、「遺留分減殺請求」というものでした。
「遺留分減殺請求」は、侵害された遺留分について、金銭ではなく遺産そのものを取り戻すことによって請求する手続きでした。そのため、被相続人から特定の相続人に遺贈された不動産や株式などの財産は、他の相続人が遺留分減殺請求請求をすることで、共有状態になることがあったのです。
減殺請求の制度では、金銭での解決も可能ではありましたが、減殺請求された側が金銭による解決に応じない場合、トラブルが長期化することもありました。特に、不動産が共有状態となる場合、その不動産が自宅である場合には売却しなければならなくなるなど、現実的に困難な状況に陥るケースも見られたのです。
こうした状況を改善すべく、2019年改正の相続法における「遺留分侵害額請求」では、請求方法が金銭請求に一本化されました。これにより、遺留分を侵害された相続人は、遺贈や贈与を受けた人に対して、金銭での補償を直接請求できるようになりました。
この改正により、不動産などの共有に関連する複雑な問題や、トラブルの長期化を避けることが可能になり、相続における紛争解決がよりスムーズに行えるようになったのです。
遺留分侵害額請求の請求手続きの流れなどについては、下記記事でさらに詳しく解説しております。こちらもぜひご参照ください。
遺留分侵害額請求には時効がある│時効を止める方法も
遺留分侵害額請求権の時効は、相続開始の事実と遺留分が侵害された事実を知った日から1年以内に適用されます。相続人は、被相続人の死亡と、その結果として生じた不公平な遺言や贈与について知った後、1年以内に遺留分の請求を行わなければならない、ということです。もし1年間、何も行動を起こさない場合、遺留分の請求権は失われてしまいます。
さらに、相続開始の事実や遺留分侵害の事実を知らなかったとしても、相続開始から10年が経過すると、除籍期間により遺留分の請求ができなくなります。
請求の方法には特に定めはありませんが、証拠として残すために内容証明郵便の活用が推奨されます。口頭や普通郵便での連絡では、相手方が「知らない」と主張し、時効が成立してしまうリスクがあるためです。
遺留分の時効、請求期限については、こちらの関連記事もご参考ください。
遺留分を請求する方法と流れ
遺留分侵害額請求には、主に次の3つの方法があります。
- 直接交渉による解決
- 裁判所の調停手続きを利用した解決
- 裁判による解決
それぞれについて、詳しく解説していきます。
直接交渉による解決
1つめの方法は、直接相手方に交渉する方法です。
まず、相続人と財産を調査します。相続人の数は遺留分の割合に影響を与えるため、被相続人の離婚歴や子どもの有無などを確認する必要があります。また、財産の調査は遺留分の金額を決定する上で重要です。
相続人や財産の調査が終わったら、遺留分侵害額請求を相手方に通知します。通知方法に決まりはありませんが、内容証明郵便の利用が一般的です。内容証明郵便は、いつ、誰が、どのような内容の書面を誰に送付したか、ということが記録されるため、被請求人が「請求を受けていない」などの主張をするリスクを防ぎ、請求内容の存在やその正確な日時を後から証明できるという大きなメリットがあります。
また、内容証明郵便は送付日時が公的に証明されるため、期限内に請求したことを確実に証拠として残すことができ、消滅時効の主張を防ぐことができます。
内容証明郵便を送って相手方が話し合いに応じた場合、日程を調整し、実際に話し合いを行います。この際、遺留分の金額や支払い時期など、双方が納得できるよう、冷静に話し合いましょう。
最終的に合意に至った場合は、「遺留分侵害額に関する合意書」を作成します。
相手方が遠方に居住していたり、感情的な対立があったりと、直接交渉するのが難しい場合は、弁護士にご相談ください。弁護士を通じて交渉することで、有利かつスムーズに遺留分侵害額請求の交渉を進めることが期待できます。
裁判所の調停手続きを利用した解決
内容証明郵便等による遺留分侵害額請求に対して相手方が応じない場合や、当時者同士では話し合いが成立しなかった場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。
調停の申立ては、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に必要書類を提出することによって行います。必要書類の準備など、遺留分侵害額請求の調停手続きは煩雑ですので、なるべく早めに弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
申し立てが受理されると、裁判所は第1回の期日を指定し、申立人と相手方に通知します。調停では、裁判所が指名した調停委員が中立的な立場で話し合いを進めていくため、申立人と相手方が直接顔を合わせることはありません。これにより、感情的な対立を避け、冷静な話し合いとスムーズな進行が可能となります。
話し合いにより合意に至ると、調停調書が作成されます。調停調書には裁判の判決と同様の効力があるため、違反があった場合には、強制執行によって相手方の財産を差し押さえることもできます。
裁判による解決
調停での話し合いがまとまらず、合意に至らない場合は、遺留分侵害額請求訴訟を行います。
この訴訟では、裁判所が遺産の価値を評価し、遺留分の正確な金額を算出します。その後、相手方に対してその金額の支払いを命じる判決を下します。訴訟では、当事者間の合意は必要なく、裁判所の判断により決定されます。
訴訟においては、法的に正当な主張と、その主張を支持する証拠や資料の提出が重要です。これには専門的な知識と経験が必要となるため、必ず弁護士に依頼することをお勧めいたします。
遺留分の請求対象には順序がある
遺留分の侵害が発生した場合、相続人はその侵害を取り戻すために、遺留分侵害額請求を行いますが、請求の対象となる財産には優先順位が存在します。この順序は、主に次の3つの種類の財産処分(遺贈、死因贈与、生前贈与)に基づいて決定されます。それぞれについて、詳しく解説させていただきます。
遺贈
遺贈とは、被相続人が遺言によって行う贈与のことです。遺贈は、被相続人の最終意志を反映するものであるため、原則として遺言書の内容に基づいて相続が実行されます。しかし、この遺贈が法定相続人の遺留分を侵害している場合、相続人は遺留分侵害額請求を通じて、その侵害された部分を取り戻すことができます。
遺留分の請求において、まず遺贈が優先的に請求の対象となるのは、被相続人が死亡後に財産を譲渡する行為であり、遺留分を侵害している可能性が最も高いためです。例えば、遺言によって全財産が特定の第三者に遺贈された場合、相続人はその財産を請求対象として遺留分を主張することになります。
死因贈与
死因贈与とは、被相続人の死亡を条件に行われる贈与契約です。死因贈与により、多額の贈与が行われた結果、法定相続人の遺留分が侵害される場合、遺留分の請求が可能になります。
死因贈与は契約であるため、遺言による遺贈とは異なりますが、実質的には死亡後に財産が移転するという点で類似しています。死因贈与は遺贈と同等に扱われるため、遺贈と同じように遺留分侵害額請求の対象として優先的に考慮されるのです。
生前贈与
生前贈与は、被相続人が生前に行う贈与契約を指します。遺留分の請求対象としては、遺贈と死因贈与に次いで、生前贈与が次の優先順位となります。ただし、生前贈与はすべてが請求の対象になるわけではありません。
遺留分の請求対象となる生前贈与は、原則として相続開始前1年間に行われたものに限定されます。しかし、贈与を行った被相続人と受け取った人が、贈与によって遺留分が侵害されることを認識していた場合、相続開始から1年以上前の贈与であっても遺留分の請求対象となることがあります。
また、法定相続人への生前贈与が特別受益とみなされる場合、相続開始前10年以内に行われた贈与も遺留分の請求対象に含まれます。
遺留分にも相続税が課税されます
さて、遺留分と税金の関係についても確認しておきましょう。
相続税は、被相続人から相続または遺贈によって財産を受け取った場合に課税されます。遺留分に関しても、これは相続財産の一部とみなされるため、相続税の課税対象となります。
ただし、返還された額を含めた遺産の総額が相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば、相続税はかかりません。
相続税の申告方法ですが、遺留分の金額が確定するタイミングによって、異なる対応が必要です。
相続税申告期限前に額が確定した場合
相続税申告前に遺留分の額が確定した場合は、請求した人と請求された人は、それぞれ受け取った遺産の額に応じて相続税申告を行う必要があります。
遺留分侵害額請求した人は、受け取った遺留分に対する相続税を加算して申告します。
遺留分侵害額請求された人は、遺留分を支払ったことによる相続税の減額を申告します。遺留分侵害額を返還した場合、その分だけ受け取った財産が減少するため、過剰に支払った相続税が還付される可能性があります。
相続税申告期限後に額が確定した場合
遺留分申告期限までに遺留分の額が確定しなかった場合は、遺留分を除いた状態で相続税申告を行います。その後、遺留分の額が確定した際には、納め過ぎた税金や不足した税金を調整するための手続きが必要になります。
具体的には、遺留分を請求した人は修正申告または期限後申告を行い、遺留分を請求された人は更生の請求を行います。ただし、税務署にとって納められる相続税の総額が変わるわけではありませんので、必ずしも手続きをしなければならないわけではありません。そのため、当事者間で精算することも可能です。
詳しい手続き方法については、弁護士などの専門家にご相談ください。
遺留分は放棄できる
以上にご説明してきました遺留分ですが、遺留分を侵害されたからといって、相続人は必ず遺留分の侵害額請求をしなければならない、というものではありません。遺留分を請求する権利を、相続人は放棄することもできます。
例えば、被相続人が自分の事業を継がせたい子どもに大部分の遺産を遺したい場合、他の相続人が遺留分の放棄をすることで、事業を継ぐ子どもが遺産の大部分を受け取ることが可能になります。これにより、遺産分割に伴う複雑な手続きや相続人間のトラブルを避けることができます。
遺留分の放棄は、被相続人の死後だけでなく、被相続人の生前にも行うことが可能です。ただし、生前に放棄する場合には、裁判所の許可が必要となります(民法第1049条1項)。
ところで、「遺留分の放棄」と「相続放棄」は、全く違うものですのでご注意ください。相続放棄は、法定相続人が相続人としての地位を全て放棄することを指し、これにより相続する資産だけでなく負債も一切相続しません。相続放棄をするためには、相続開始と自分が相続人であることを知った後3か月以内に家庭裁判所で手続きを行う必要があり、生前の放棄は認められていません。
一方で、遺留分の放棄は、遺留分の権利のみを放棄することを指します。これにより、遺留分の請求権を失いますが、相続権自体は失わないので、遺言によって他の相続人に集中された遺産以外の他の財産は相続することができますし、負債も相続します。
また、遺留分は請求してはじめて権利が有効になるものです。被相続人の死後に遺留分を放棄するときは、そもそも遺留分を請求しなければ良いので、裁判所での手続きは不要です。
遺留分の放棄については、こちらの関連記事もぜひご一読ください。
遺留分に関するQ&A
Q: 遺留分とは何ですか?
A: 遺留分は、法律によって保護された最低限度の相続分のことです。これは、被相続人の直系血族(子どもなど)と配偶者、直系尊属(父母や祖父母)に保証されています。被相続人が遺言で遺産の分配を決めても、遺留分は侵害されないように法律で守られています。遺留分の割合は、相続人の数や関係によって異なります。
Q: 兄弟にも遺留分はありますか?
A: 兄弟姉妹には原則として遺留分はありません。被相続人に子や両親、配偶者がいない場合に、兄弟姉妹が法定相続人となることがありますが、この場合でも遺留分の権利は発生しません。
Q: 遺留分侵害額請求とは何ですか?
A: 遺留分侵害額請求は、遺留分が侵害されたときに行う請求です。遺言などによって特定の人に遺産が多く行き、他の相続人が法定の遺留分を確保できない場合、相続人が侵害された遺留分を取り戻すために行う手続きです。この請求は、遺留分が侵害されたと認識した日から1年以内、または相続開始から10年以内に行う必要があります。
Q: 遺留分を放棄することはできますか?
A: はい、遺留分は放棄することが可能です。遺留分の放棄は、相続人が自らの遺留分の権利を手放すことを意味します。これは、被相続人の生前または死後に行うことができます。遺留分を放棄すると、その相続人は遺留分侵害額請求を行うことができなくなりますが、通常の相続権は保持します。
Q: 遺留分を放棄した場合、後で取り消すことはできますか?
A: 遺留分の放棄は原則として取り消すことができません。遺留分の放棄は重要な法的行為であり、一度行われるとその効果は確定的です。ただし、放棄が詐欺や重大な誤解に基づいている場合など、特別な事情がある場合には取り消しや無効を主張することが可能です。しかし、これは非常に例外的なケースであり、通常は放棄した遺留分を取り戻すことはできません。
まとめ
遺留分侵害額請求は、民法によって保障された相続人の正当な権利です。多くの人が親族間の争いを避けるために請求をためらうことがありますが、適切な対応をすれば不要な争いをすることなく解決することができます。早期に法律の専門家である弁護士に相談することで、親族関係を損なわないような解決策を見つけることができます。
遺留分侵害額請求を先延ばしにすると、相続財産が減少したり、時効によって請求権を失ったりするリスクがあります。また、不公平な相続をそのままにしておくと、将来的に親族間の不仲の原因となることもあります。そのため、遺留分が侵害されたと感じたら、早めに弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けてください。
弁護士は遺留分請求の手続きだけでなく、親族関係を維持しつつ問題を解決する方法を提案いたします。当法律事務所の弁護士も、相続問題を取り扱っておりますので、ぜひお気軽に初回無料相談をご利用ください。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。