被相続人とは?相続人との違い│相続に意思を反映させる方法も解説!

相続手続き

更新日 2024.10.17

投稿日 2024.01.25

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

弁護士法人あおい事務所の相続専門サイトをご覧いただき、ありがとうございます。当サイトでは、相続に関する法的な知識を分かりやすくお届けしております。皆様のお悩みの解消に少しでもお役立ちできましたら幸甚です。

相続には、さまざまな関係者が登場します。その中でも、「被相続人(ひそうぞくにん)」は、相続における主要人物の一人です。

ところで、この被相続人とは、厳密にはどういった人のことを意味するのでしょうか。相続といえば「相続人」もいますが、被相続人とは何が違うのでしょうか。

この記事では、相続の登場人物である「被相続人」について、「相続人」との違いをご紹介しながら、弁護士が解説させていただきます。また、被相続人は相続の中で何を行うのか、相続人とはどういった関係性にあるのか、といったことについても、具体的にご説明させていただきます。

相続を正しく理解するためには、相続手続きの登場人物についても理解しておくことが重要です。

相続の疑問や不安が、この解説で少しでも解消できましたら幸いです。

目次

被相続人ってどういう人?

被相続人とは相続財産を遺して死亡した人のこと

被相続人とは、相続財産を遺して死亡した人のことをいいます。つまりは、「相続において自分の財産をあげる側」です。

「被相続人」の「被」という字には、文法的な意味として「~される」「受ける」という、受け身の意味があります。この「被」という字は、他から何らかの影響を受ける立場にあることを示しています。

ですので、「被相続人」の場合、「相続をされる人=自分の財産を相続人に相続される人」という意味になるわけです。

この被相続人は、自分の財産を相続人に引き継ぐ権利と義務を持ちます。

被相続人が亡くなり相続が開始すると、被相続人の持っていた財産、権利、義務などが、相続人に移転することになります。

「相続人」とは何が違うの?

相続人とは、被相続人が死亡した後、被相続人が遺した相続財産を受け継ぐ権利を持つ人のことです。

相続人といっても、無制限に誰もがなれるというわけではなく、その範囲や相続人になることのできる優先順位などが、民法によって定められています。

つまり、被相続人と相続人の大きな違いは、被相続人が遺産を「残す側」、相続人が遺産を「受け継ぐ側」であるということです。

なお、相続人には「民法によって相続人になることを定められている法定相続人」と、「遺言によって相続人になることを指定された指定相続人」がいます。

被相続人との続柄により相続人や相続分は決まる

それでは、被相続人と相続人の関係性について、もう少し詳しくご説明いたします。なお、相続人は大きく法定相続人と指定相続人の2つに分けられますが、指定相続人に関しては個々の遺言によって内容が異なりますので、ここでは法律で一律に定められている法定相続人について解説させていただきます。

法定相続人の相続順位は続柄によって決まります

法定相続人の相続順位は、被相続人との関係性、つまり「続柄(つづきがら)」によって決まります。

続柄とは、主に家族関係や親族関係において、特定の人と他の人との間にどのような関係があるかを表す言葉です。確定申告書や住民票に記載されているため、ほとんどの人が一度は目にしているのではないでしょうか。

具体的には、被相続人を中心に見ると、被相続人の続柄は「本人」、被相続人の配偶者の続柄は「夫、妻」、被相続人の親の続柄は「父、母」と記されることになります。

この続柄によって、法定相続人の相続順位は下の表の通り定められているのです。

相続順位

法定相続人の続柄

常に相続人

配偶者(民法第890条)

第1順位

子や孫など直系卑属(民法第887条1項・2項)

第2順位

親や祖父母など直系尊属(民法第889条1項1号)

第3順位

兄弟姉妹(民法第889条1項2号)

原則として、民法第890条により、被相続人の死亡時に婚姻関係にあった配偶者は、常に法定相続人となります。

(配偶者の相続権)
民法第890条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

配偶者以外の法定相続人については、民法第890条・第889条で定められた順位で、相続する権利が与えられることになります。

(子及びその代襲者等の相続権)
民法第887条
1項 被相続人の子は、相続人となる。
2項 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。

(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
民法第889条1項 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹

なお、自分より順位の高い人がいる場合は、法定相続人になれません。

被相続人の配偶者がいる場合は「配偶者」と「最も順位の高い人」が法定相続人になり、配偶者が既に死亡している場合は「最も順位の高い人」だけが法定相続人になります。

第1順位から第3順位までの相続人がおらず、被相続人の配偶者しかいない場合は、配偶者だけが法定相続人になります。

法定相続人については、こちらの関連記事にて詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。

相続の割合「法定相続分」も被相続人との続柄で決まります

民法第900条では、法定相続人がどれだけの割合で遺産を受け取ることができるのか、相続の割合についても法定相続人ごとに定めています。民法によって決められたこの相続の割合を「法定相続分」と呼びます。

それぞれの法定相続人がどれくらいの割合で遺産を受け取るのか、次の通り表にまとめてみました。

相続人の状況

配偶者の法定相続分

子や孫など直系卑属の法定相続分

親や祖父母など直系尊属の法定相続分

兄弟姉妹の法定相続分

配偶者と子供

2分の1

2分の1(複数人いれば均等に分ける)

配偶者と親

3分の2

3分の1(複数人いれば均等に分ける)

配偶者と兄弟姉妹

4分の3

4分の1(複数人いれば均等に分ける)

配偶者のみ

全て

子供や孫のみ

全て(複数人いれば均等に分ける)

親や祖父母のみ

全て(複数人いれば均等に分ける)

兄弟姉妹のみ

全て(複数人いれば均等に分ける)

例えば、もし配偶者と3人の子供が相続人だった場合、配偶者は遺産の半分を受け取ることができ、残りの半分は3人の子供で分けることになります。つまり、子供一人あたりが受け取る割合は、遺産の6分の1になります。

 

配偶者と子供3人が相続人の場合

 

なお、これはあくまで遺言による相続分の指定がない場合や、遺産分割協議で合意できない場合に、参考とされる基準にすぎません。ですので、相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる割合で遺産分割をすることもできます。

法定相続分について、こちらの記事で詳細に解説しておりますので、ぜひご一読ください。

被相続人の財産を相続できない人

さて、ここまでは、被相続人との続柄を基準に、誰がどれくらいの割合で遺産を相続できるのか、基本的な内容を見てまいりました。それでは反対に、被相続人の遺産を受け取ることができない人とは、どういった人でしょうか。

以下に、法定相続人として遺産を受け取る資格がない、あるいは遺産を受け取る資格を失った人の、具体的な例をご紹介いたします。

1.法定相続人に含まれない人

被相続人と親しい間柄であっても、そもそも民法が法定相続人として想定していない人は、法定相続人として遺産を受け取ることはできません。例えば、常に法定相続人となる被相続人の配偶者は、被相続人の死亡時に法律上の婚姻関係にあった人を意味しているため、被相続人の死亡時に既に婚姻関係が終了している元配偶者や、法律上の婚姻関係にない内縁の夫や妻、愛人などは、法定相続人にはならないのです。

ただし、遺言で「内縁の妻に預貯金500万円を相続させる。」など指定があった場合は、法定相続人にはなれない人も、遺言によって指定された相続人になる可能性があります。

したがって、法定相続人に含まれない人に遺産を残したい場合、遺言で指定したり、養子にしたり、正式に認知するなどの方法を検討する必要があります。

2.欠格事由のある人(民法第891条)

民法には、法定相続人や指定相続人であっても、特定の行為をした場合に相続権を失う制度が定められています(民法第891条)。これを相続欠格といい、次の行為をした人は、相続人としての資格を失うことになります。

  • 被相続人や他の相続人を故意に殺害し、または殺害しようとした場合
  • 被相続人が殺害されたことを知っていながら、故意に告訴や告発をしなかった場合
  • 被相続人に対して詐欺や脅迫を用いて、遺言の作成、撤回、取り消し、変更するのを妨げた場合
  • 被相続人に対して詐欺や脅迫を用いて、遺言を作成、撤回、取り消し、変更させた場合
  • 被相続人の遺言を不正に妨害、偽造、変造、隠匿、または破棄した場合

3.相続廃除となった人(民法第892条)

被相続人は、相続が開始した場合に相続人となるべき人(推定相続人)に関して、次のような行為があった場合には、相続人から廃除するよう、家庭裁判所に請求することができます(民法第892条)。

  • 被相続人を虐待した
  • 被相続人に重大な侮辱行為をした
  • その他著しい非行

被相続人の生前に家庭裁判所に請求するか、遺言書で廃除の意思を示しておくことで、家庭裁判所が推定相続人について審査を行います。相続廃除が認められると、推定相続人は相続する権利を失うことになります。

4.相続放棄をした法定相続人(民法第915条)

被相続人や法律によって相続権を失うこともあれば、法定相続人自ら相続権を放棄することもあります。

その場合、相続人は相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所で相続放棄の申述という手続きを行い、相続権を放棄します。相続放棄をすると、最初から相続権がなかったものとみなされるので、後から遺産を受け取ることはできません。

被相続人の意思を相続に反映させる方法とは?

さて、ここまでは被相続人を中心とした相続手続きの基本的事項について、簡単に解説させていただきました。被相続人は相続開始時には亡くなっているため、その後の実際の相続手続きには関与できないと思われるかもしれません。

ですが、被相続人の意思を相続に反映させることは可能です。

被相続人の意思を反映させる方法としては、主に以下の4つの方法があります。

1.遺言書の作成

最も一般的な方法は、遺言書を作成しておき、誰に何をどれくらい相続させるかを指定しておく方法です。

遺言書を活用することで、具体的には次のようなメリットがあります。

  1. 法定相続分以外の割合での相続:遺言がない場合は、法律で定められた割合(法定相続分)での相続が行われますが、遺言があれば、法定相続分以外の割合で遺産を相続させることが可能になります。ある特定の家族や親族に、他の相続人よりも多くの遺産を受け継がせたいときなどには、遺言書が役立ちます。
  2. 法定相続人外への遺贈:長く親しくしてきた友人や、特定の団体、研究機関など、法定相続人でない人に遺産を遺したい場合に、遺言書に指定しておくことで、法定相続人以外への遺贈が可能となります。
  3. 遺産内容の指定:相続人で全ての遺産を均等に分配させるのではなく、「家については相続人Aに、宝飾品は全て相続人Bに。」といったように、特定の遺産を特定の人に遺贈することを指定できます。

遺言書の大きなメリットは、こうした具体的な被相続人の希望や意向を、正確に反映させることができる点です。さらに、遺言書が法的にも適切に作成されていると、被相続人が亡くなった後、家族間や相続人間でのトラブルを防ぐことが期待できます。

遺言書の書き方などは、被相続人の意思を正確に形にするため、弁護士などの法律の専門家からアドバイスを受けることがお勧めです。

2.生前贈与

生前贈与とは、被相続人が生きている間に、特定の人へ自分の財産を「あげる」契約のことです。法定相続人以外の人にも確実に財産を渡したい場合や、あらかじめある程度の財産を贈与しておき、死後の相続手続きをシンプルにしたい場合などに、生前贈与が活用されます。

生前贈与をすると、その財産の所有権は即時に移転し、被相続人の死亡後の相続財産からは除外されます。

なお、莫大な相続税を回避するために生前贈与が利用されることもありますが、生前贈与でも贈与額が一定を超えると贈与税が発生するため、国の控除や減税制度を利用して、うまく生前贈与を活用することが重要です。

相続税申告の際に予期せぬトラブルが生じることも多いため、生前贈与の際には、税法の知識を持った専門家の助言を求めると良いでしょう。

3.家族信託の活用

家族信託とは、自分の財産を家族や信頼できる人に託して、管理や運用をしてもらう制度のことです。相続において家族信託を活用する場合、財産管理を委託する被相続人が委託者となり、財産を預かる人が受託者となります。被相続人は、財産を管理してもらうことで財産の利益を受けることになるため、委託者であると同時に受益者となるのが通常です。

この信託契約では、財産の管理・運用方法や、被相続人が亡くなった後の財産の分配方法をあらかじめ細かく定めることができるため、被相続人の意思を反映した柔軟な財産承継が可能です。

家族信託の大きなメリットは、遺言よりも柔軟に財産の承継や管理を設定できる点でしょう。遺言は、基本的に遺産分割の方法を指定するだけのものであり、被相続人が亡くなった後に効力を発揮します。一方、家族信託では、被相続人が生前に設定することで、生前の財産管理から死後の財産承継までを一貫してコントロールできるため、より広範な管理が可能です。

さらに、信託契約により、被相続人(委託者)が亡くなった後、次の相続人(例えば子供)を受益者にし、子供の後さらに孫を受益者に指定するなど、代々家族に財産を受け継ぐ仕組みを作ることができ、長期にわたって資産を保全しながら、被相続人の意思を実現し続けることができるのです。

4.相続廃除(民法第892条)

相続人の資格を失う場合について前述した際にも出てきた「相続廃除」も、被相続人の意思を反映させる方法の一つです。

自分を虐待した人や、侮辱行為をしてきた人に対して、自分が築き上げた財産を喜んで渡す、という人はいないでしょう。虐待や侮辱行為や非行といった特定の行為があることが条件とはなりますが、被相続人が財産を渡したくない人を相続人から廃除できる制度なので、被相続人の「この人には遺産を遺したくない」という意思を反映させられます。

なお、相続廃除の請求手続きは、被相続人が生前に自ら行うもので、被相続人が亡くなった後に他の家族や相続人が代わりに請求することは認められていません。

相続廃除の請求を成功させるためには、不適切な行為の事実やその影響をしっかりと証明する必要がありますので、弁護士などの専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。

被相続人に関するQ&A

Q1: 相続人と被相続人の違いは何ですか?

A1: 被相続人は相続が発生する原因となる人、つまり財産を遺す側の人です。一方、相続人はその財産を受け取る側の人物、つまり遺産を受け継ぐ人を指します。

Q2: 被相続人が生前に遺言を残していない場合や、遺言の内容が不明確な場合、相続はどのように進行しますか?

A2: 遺言がない場合、民法に定められている相続順位と相続分に従って相続が行われます。配偶者や子など、被相続人との続柄に基づいて法定相続人が決定され、法定相続分を基準に相続財産が分割されます。また、 遺言の内容が不明確な場合、その解釈について相続人間で協議を行います。協議による合意が得られない場合は、裁判所の判断を仰ぐことも考えられます。

Q3: 被相続人が外国籍であった場合、日本の相続法は適用されますか?

A3:相続に関しては、被相続人の最後の住所があった国の法律が原則として適用されます。したがって、被相続人が外国籍であっても、最後の住所が日本であれば、日本の相続法が適用されることになります。

まとめ

本記事では、「被相続人」の意味や役割について、対になる「相続人」との関係性もまじえながら、弁護士が解説させていただきました。

被相続人とは、相続において財産を譲り渡す立場にある、亡くなった人のことを指します。

相続が開始するときには、被相続人は亡くなっているため、実際の相続手続きに被相続人はそこまで影響を与えられない、と思っている人もいるかもしれません。

ですが、本記事でご紹介した通り、生前のうちに被相続人の意思を反映させる方法はあります。遺言書の作成や家族信託契約などを適切に行うことができれば、被相続人の意思は尊重され、被相続人の希望通りの遺産分割が実行されることでしょう。

相続に関する手続きや法律は複雑であり、性格な法的知識がなければ、思わぬ問題が発生することもあります。弁護士法人あおい法律事務所にご相談いただけましたら、弁護士が依頼者の状況に合わせた適切なサポートを行い、円滑な相続手続きをフォローいたします。

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この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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