養育費の決め方と離婚後の裁判所内外での請求方法とは?弁護士が解説
離婚後の生活を考える上で、重要な要素の一つに「養育費」があります。養育費とは、離婚後に子どもを監護していない親が、子どもの生活費や教育にかかる費用を支援するために、子どもを監護する親に対して支払うお金のことです。
日本では、離婚時に、さまざまな理由から養育費の取り決めが行われていないことも多く、さらに離婚後に支払いが途絶えてしまう未払い問題に悩む親も少なくありません。
さて、この記事では、養育費とはそもそもどういった法律を根拠とする、誰のための権利なのか、といった基本的な知識について、弁護士が分かりやすく解説いたします。
また、支払い方法や金額などの具体的な条件について、どのように取り決めるのかということについても解説いたします。そして、養育費を合意したとしても、離婚後に養育費が未払いになった場合に、未払い養育費を請求する方法とは何があるか、といったことについても、詳しく解説させていただきます。
本記事が、離婚後の養育費のお悩みを解決するためのご参考となりましたら幸いです。
目次
離婚時の養育費とは?定義や分担の根拠となる法律を解説
まずは、そもそも養育費とは何か、という基本的な事項について見ていきたいと思います。
養育費の支払い義務は法律上の「扶養義務」が根拠
養育費とは、離婚後に、親が子どもの生活費や教育にかかる費用を支援するために支払うお金のことです。
この養育費の支払い義務は、法律上の「扶養義務」に基づいています(民法第877条1項)。
「扶養」とは、家族や親族が、その人の生活のために必要な支援を提供することを意味しています。扶養義務者について規定した民法第877条1項では「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と明記されています。
(扶養義務者)
民法第877条1項 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
直系血族とは、親と子ども、祖父母と孫など、直接的な親族関係にある者を指します。離婚後の養育費は、この直系血族の扶養義務を根拠とするものです。親の子どもに対する扶養義務は、夫婦が離婚した場合でも変わりません。なぜなら、離婚しても非親権者との親子関係は継続するため、親としての扶養義務も続くからです。
そして、「扶養」の内容には、子どもの生活費や教育にかかる費用、医療費など、子どもが健全に成長するために必要な全ての費用が含まれます。これらの費用を養育費として適切に分担することが、親としての義務なのです。
さらに、離婚時の養育費に関しては、民法第766条1項も重要な法律です。
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
民法第766条1項 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
民法第766条1項とは、離婚後の子の監護に関する事項を取り決めることを定めた法律です。
この条文では、夫婦が協議上の離婚をする際に、子どもの監護をすべき者、親と子どもとの面会やその他の交流、子どもの監護に要する費用の分担などについて協議で定めることが求められています。
監護とは、子どもの日常生活や健康、教育などを含む全般的な世話をすることを指します。したがって、「子の監護に要する費用の分担」とは、子どもの養育に必要な費用(=養育費)を、親が公平に負担することを意味します。養育費などの分担(支払い金額)は、親の収入や生活状況に応じて決定されます。
ここで重要なのは「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」という点です。「子の利益」とは、子どもが健全に成長し、幸福な生活を送るために最も優先されるべき考慮事項です。子どもの福祉と幸福を最優先に考えることで、子どもが健全に成長できる環境を確保するため、この点が特に重要だと考えられているのです。
さて、養育費の支払いは親としての扶養義務でもある一方で、子どもの権利でもあります。
離婚によって夫婦の関係が終わっても、親子関係は続きます。そのため、子どもは引き続き両親からの経済的支援を受ける権利があります。養育費は単に親が支払うべき義務ではなく、子どもが当然に享受すべき権利なのです。
離婚時に夫婦間で争いが生じたとしても、その原因や責任の所在は子どもには関係ありません。たとえ元配偶者に、離婚原因となる不倫やモラハラなどの行為があったとしても、元配偶者の非と、子どもの権利である養育費とは、切り離して考える必要があります。
たとえば、妻の不貞行為が原因で離婚し、子供(3歳)の親権が妻にある場合で考えてみましょう。この場合に、養育費を5万円で合意した場合には、夫は、離婚後に元妻に対して、養育費として5万円を支払うことになります。このとき、夫が「妻の不貞で離婚したし、5万円も払いたくないな。養育費は2万円にしてしまいたい。」と思ったとしても、養育費は、妻の不貞行為とは切り離して考えなければならないのです。
したがって、養育費は子どもの権利ですから、子どもは親の行動や決定に関係なく、生活費や教育にかかる費用を受け取る権利があるのです。
養育費の定義と、法律上の支払い義務については以上となります。続いて、養育費の具体的な内容や、離婚時に取り決めるべき養育費の条件について、詳しく見ていきましょう。
養育費の使い方と取り決めるべき条件は?
養育費の主な内容は子どもの生活費・教育にかかる費用
養育費と一言でいっても、その内容は幅広いです。特に、養育費を支払う側としては、養育費が想定した使い方をされているのか、子どもに全く関係のない使い方をされていないか、気になるところでしょう。養育費の使い方と取り決めるべき条件について、確認しましょう。
養育費の使い方ですが、一般的には、主に子どもの生活費と教育にかかる費用に充てられます。具体的には、次のような使い方をされています。
生活費
子どもの生活費としての養育費には、食費、衣料費、住居費、日常生活に必要な雑費などが含まれます。これらの費用は、子どもが日常生活を健全に送るために不可欠なものであり、親が負担するべき基本的な支出です。
- 食費(子どもが栄養バランスの取れた食事を取るための費用です。成長期には特に必要な栄養素が多く、食費もかさみます。たとえば、朝食、昼食、夕食に加え、学校や保育園に持参するお弁当やおやつも含まれます。)
- 衣料費(季節ごとに必要な服や靴、成長に伴ってサイズが変わるため定期的に購入する必要があります。特に学校の制服や運動着、冬用のコートなども含まれます。)
- 住居費(子どもが安全で快適に生活できる環境を提供するための住居費です。具体的には、家賃や住宅ローンの返済、光熱費、家具や家電の購入費用などが含まれます。)
教育にかかる費用
教育にかかる費用には、学費、教材費、制服代、通学費、習い事や部活動の費用などが含まれます。
- 学費(公立学校や私立学校、塾や予備校の費用が含まれます。私立学校や特別な教育プログラムに通う場合は、より高額な学費が必要です。)
- 教材費(教科書や参考書、文房具などの学習に必要な物品の費用です。特に進学に伴って必要となる教科書や学習資料は重要です。)
- 制服代(学校指定の制服や体育着、靴などの費用です。これらは年に数回の購入が必要な場合もあります。)
- 通学費(学校までの交通費や通学定期券の費用が含まれます。遠距離通学の場合は特に重要な項目です。)
- 習い事や部活動の費用(子どもの興味や才能を伸ばすために必要な費用です。ピアノやバレエ、スポーツクラブの会費、道具代、試合や発表会の参加費などが含まれます。)
医療費
医療費も養育費に含まれる重要な内容です。
- 定期的な健康診断(子どもの健康を維持するためには定期的な健康診断が必要です。学校や保育園での健康診断も含まれます。)
- 予防接種(病気の予防のためのワクチン接種費用です。風邪、インフルエンザやその他の伝染病に対する予防接種が含まれます。)
- 治療費(病気や怪我の際の診療費、処方薬の費用、入院費などです。眼科や歯科の治療費も含まれます。子どもは成長期にあり、骨折や虫歯などの治療も多く、その都度費用が発生します。)
日常生活に必要なその他の費用
- 交通費(学校や習い事、病院への移動に必要な費用です。公共交通機関の定期券やバス代などが含まれます。)
- 通信費(子どもの学習や友人とのコミュニケーションに必要なインターネット代や携帯電話代です。特にオンライン学習が普及している現代では、通信費も重要な項目です。)
- 娯楽費(子どもの心身のリフレッシュや社会性を育むための費用です。映画やテーマパークの入場料、玩具やゲームの購入費用などが含まれます。)
養育費の具体的な内容としては、このような内容になります。
離婚時に養育費を請求する前に、子どもの養育にどういったお金が必要になるのかを、正しく把握しておくと安心です。
取り決めるべき条件1.算定表、収入などから毎月支払う金額を決める
養育費の毎月支払う金額を決める際には、両親の収入や子どもの人数と年齢などから、具体的な金額を算出することが一般的です。
なお、離婚時に養育費の金額を取り決める際に、具体的に細かくいくら必要になるのかまで計算して取り決めることは少ないです。一般的には、家庭裁判所が公開している「養育費算定表」を基準にして、離婚後の養育費の金額を取り決めることになります。
養育費算定表は、家庭裁判所が提供する標準的な養育費の相場の金額を記載した早見表です。この養育費算定表は、両親の収入や子どもの年齢、生活費などを考慮して作成されています。これにより、養育費について、公平で適正な金額が導き出されます。
まず、夫と妻それぞれの収入を確認します。収入は、給与明細、課税証明書や税務申告書などの公式な書類で確認することが一般的です。それらの公式な書類を見て、お互いの収入(年収)を確認しましょう。
次に、家庭裁判所が提供する養育費算定表を使用します。養育費算定表は、親の収入と子どもの年齢に基づいて、標準的な養育費の金額を示しています。算定表を見て、妻と夫それぞれの年収の部分を確認すると、標準的な養育費の金額がわかります。この算定表を用いることで、夫婦間で養育費の金額について客観的な基準に基づいた取り決めを行うことができます。
養育費の金額について取り決める過程では、弁護士に相談することも有効です。弁護士は法律の専門家として、養育費の金額や取り決めについてのアドバイスを提供します。弁護士の助けを借りることで、適正な金額を算出し、公平な取り決めを行うことが期待できます。
取り決めるべき条件2.支払い期間
養育費の支払い期間を取り決めることは、子どもの生活の安定にとって非常に重要です。
支払い期間は、一般的には、「子どもが20歳になるまで」とされています。しかし、20歳に達しても大学に通っていて、経済的に自立していないケースもあれば、18歳未満でも既に働いているケースもあるため、一概には決めることはできないでしょう。
そのため、子供の大学進学の可能性が高い場合には「大学卒業まで」と取り決めるなど、子どもの学業と経済的自立を考慮した上で、支払い期間を取り決めることが一般的です。たとえば、子供が高校2年生(17歳)で、大学進学を希望している場合には、子供の大学進学の可能性が高い場合といえるため、「大学卒業まで」と取り決めることを検討しても良いでしょう。
支払い期間の取り決めにおいて考慮すべき条件には、親の収入状況や子どもの将来の教育計画が含まれます。たとえば、親の収入が安定している場合は、長期間の支払いが可能ですが、収入が不安定な場合は、調整が必要です。さらに、子どもが大学進学を希望している場合、その費用を見積もり、支払い期間を設定することが求められます。これには、学費だけでなく、教材費や日々の生活費も考慮する必要があります。
また、支払い期間中に親の収入状況や子どもの生活環境が変化することもあります。たとえば、親が転職したり、子どもが特別な教育プログラムに参加したりする場合です。このような場合には、支払い期間や金額の見直しが必要になることもあります。
養育費の支払い期間は、子どもの生活と教育の安定を確保するために重要です。適切な期間を設定することで、子どもが必要な教育を受け、健全に成長するための環境を整えることができます。
取り決めるべき条件3.支払い方法・時期
養育費の支払い方法と時期を適切に取り決めることは、養育費の確実な受け取りと、支払い義務者が計画的に支払いを行うために重要です。以下に、具体的な支払い方法と時期の取り決めについて詳しく説明いたします。
養育費の支払い方法は、原則として夫婦間で協議の上、最も適した方法を選択しましょう。一般的な支払い方法には、以下のようなものがあります。
銀行振込
最も一般的な支払い方法です。銀行振り込みを利用することで、毎月決まった日に養育費が自動的に支払われるため、確実性が高く、トラブルを避けることができます。また、振込記録が残るため、支払いの有無が明確になり、養育費の支払いの証拠としても有効です。これにより、支払いが滞った場合にも証拠を基に強制執行を申し立てることが可能になります。
なお、銀行振込の方法によって養育費を支払う場合は、振込手数料の負担をどうするのかについても、忘れずに話し合っておくと、離婚後のトラブルを防止できます。一般的には、養育費を支払う側が振込手数料も負担することが多いでしょう。
現金手渡し
直接的な方法ですが、トラブルや証拠不足の原因となる可能性があります。たとえば、養育費の支払いがなく養育費の支払いを求めた場合に、「もう払った!」と相手から言われるリスクがあるのです。現金手渡しで、何も記録を残していない場合には、トラブルになったときに、支払いの有無を証明することが困難になるのです。
そのため、現金手渡しを選ぶ場合は、受け取ったことを証明する領収書を発行するなどの対策が必要です。現金手渡しは手間がかかりますが、振込手数料がかからないため、円満離婚で離婚後もお互いが近距離に住んでいる場合などには、双方の合意により採用されることもあります。
自動引き落とし
銀行の自動引き落としサービスを利用することで、指定された口座から毎月自動的に養育費が引き落とされます。これにより、支払いの忘れや遅れを防ぐことができます。自動引き落としは、手続きが簡単であり、毎月の支払いが確実に行われるため、安定した支払いを実現できます。
そして、養育費の支払い時期も明確に取り決めることが重要です。具体的な支払い時期を設定することで、支払いの遅延や未払いを防ぐことができます。一般的な支払い時期には以下のようなものがあります。
毎月の任意の固定日
毎月の〇日といった固定日を設定します。たとえば、毎月の1日や15日など、支払い義務者と受け取り側が合意した日を設定します。固定日に設定することで、受け取り側は計画的に生活費や教育費を使うことができ、安定した生活が可能になります。
給与支給日後
給与支給日後の数日以内に支払う方法です。たとえば、給与支給日の翌日に支払うことで、支払い義務者が確実に収入を得た後に養育費を支払うことができます。これにより、支払い義務者が経済的に困ることなく、確実に支払いが行われることを保証します。
ただし、給与支給日が変更になった場合や、転職した場合などには、養育費の支払い日も変更する必要性があるため、トラブルとならないように、取り決めの内容を注意しましょう。
毎月初め
月初めに支払う方法です。これにより、月の生活費や教育費の計画を立てやすくなります。月初めに支払うことで、受け取り側が計画的に生活費を使うことができ、子どもの生活を安定させることができます。
支払い時期を決定する際には、両親の収入のタイミングや生活費の支出計画を考慮することが大切です。
また、支払いが遅れた場合の対処方法についても取り決めておくことが望ましいです。たとえば、支払いが数日遅れた場合の遅延利息や、支払いが滞った場合の強制執行の手続きについて、離婚協議書や離婚公正証書に明記しておくと良いでしょう。
取り決めるべき条件4.特別費用
特別費用とは、養育費の通常の範囲を超えた、一時的に発生する大きな出費を指します。養育費の取り決めにおいて、この特別費用をどう扱うかを明確にすることは重要です。特別費用には、以下のような項目が含まれます。
進学時の費用
子どもが進学する際には、入学金や授業料、制服代、教材費などの一時的な費用が発生します。公立学校の費用は通常の養育費に含まれることが多いですが、私立学校や大学への進学となると、それ以上の費用が必要になります。例えば、私立学校の入学金や年間授業料は公立学校と比べて高額であり、これらの費用をどのように分担するかを取り決める必要があります。
医療費
子どもが病気や怪我をした際に発生する高額な医療費も特別費用に含まれます。通常の医療費(風邪の治療など)は養育費に含まれますが、長期の入院や手術、専門的な治療が必要な場合には、追加の費用が必要です。また、定期的な治療や特別な医療機器の購入が必要な場合もあります。こうした医療費をどのように分担するかを事前に取り決めておくことが重要です。
特別な教育費
障害を持つ子どもや特別な教育が必要な子どもの場合、通常の教育費では賄えない特別な支出が発生します。例えば、専門の教育機関への通学費用や、特別支援教育のための教材費、補助具の費用などが挙げられます。これらの費用についても、どのように分担するかを明確にすることが重要です。
その他の一時的な出費
その他にも、子どもの生活において一時的に発生する大きな出費として、留学費用や留学に伴う生活費、特定のイベントや活動に伴う費用(たとえば、子供の部活、スポーツ大会や文化活動の遠征費用)などが含まれます。これらの費用も事前に取り決めておくことで、突然の出費に対応するための準備ができます。
また、以上のような取り決めるべき養育費の条件の他にも、ケースに応じて取り決めるべき条件もありますので、過不足なく養育費の条件について取り決めをしたい場合には、弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
養育費の決め方は協議・調停・審判・裁判の4つの方法があります
以上のような養育費の条件について取り決める場合、以下の4つの方法があります。日本では協議離婚が最も多いため、養育費についても協議で取り決めることが一般的です。
決め方1.協議
養育費の決め方の第一段階として、協議があります。協議は、離婚する夫婦が直接話し合い、子どもの養育費について合意を得る方法です。この方法は最も迅速で費用もかからないため、多くの夫婦がまず試みる方法です。
協議の際には、夫と妻それぞれの収入と生活費を正確に把握することが必要です。これにより、どの程度の養育費を負担できるかを判断できます。収入は給与明細や税務申告書などの公式な書類で確認します。また、生活費についても、家賃や光熱費、食費などの具体的な支出項目を洗い出し、現実的な支払い可能額を計算します。
先ほどご紹介した家庭裁判所が提供する養育費算定表を参考にすることで、公平な養育費の金額を算出することができます。この算定表は、両親の収入と子どもの年齢、生活費などを基にして標準的な養育費の金額を示しています。算定表を利用することで、客観的な基準に基づいた協議が可能になります。
子どもの将来の教育費や特別な支出も考慮することが重要です。特別な支出としては、たとえば、大学進学や習い事の費用、医療費などが含まれます。これらの費用についても、事前に話し合い、どのように分担するかを取り決めることが望ましいです。
協議で合意に達した内容は、公正証書にすることが重要です。公正証書は、公証役場で公証人が作成する正式な文書であり、法的効力を持ちます。これにより、養育費の支払いが確実に行われることを保証します。万が一、支払いが滞った場合には、公正証書を基に強制執行を申し立てることが可能です。
決め方2.調停
養育費の決め方の第二段階として、調停があります。調停は、夫婦間で直接合意に至らなかった場合(話合いでの合意が難しい場合など)に、家庭裁判所の調停委員を介して話し合いを行う方法です。調停は、公平な第三者が間に入ることで、冷静で客観的な視点から解決策を見つけることが期待されます。
調停は、まず家庭裁判所に調停の申し立てを行うことで始まります。申し立てを行う際には、養育費に関する具体的な請求内容や金額、支払い条件などを記載した書類を提出します。これには、夫と妻それぞれの収入や支出の状況、子どもの生活費や教育にかかる費用などの詳細な情報が含まれます。これらの情報を基に、調停委員が話し合いを進めるための資料とします。
調停は、家庭裁判所で行われ、調停委員が夫と妻の双方から話を聞き、合意点を見つけるためのサポートをします。調停委員は、法律の専門知識を持ち、公平な立場から助言や提案を行います。調停の目的は、夫と妻が互いに納得できる形で養育費の取り決めを行うことです。調停では、養育費の金額だけでなく、支払い方法や時期、特別費用の取り決めなど、養育費に関するあらゆる条件について話し合いが行われます。
調停の結果、夫と妻が合意に達した場合、その内容は調停調書として記録されます。調停調書は、公正証書と同じく法的効力を持ち、養育費の支払いが確実に行われることを保証します。調停調書に基づいて養育費が支払われない場合、強制執行を申し立てることができます。強制執行により、給与の差し押さえや財産の差し押さえが行われ、養育費の支払いが履行されます。調停で合意に至らなかった場合は、審判に移行することになります。
決め方3.審判
審判は、夫婦間の協議や調停で合意に至らなかった場合に、家庭裁判所が最終的な決定を下す方法です。審判は、家庭裁判所が養育費の金額や支払い条件を法的に確定するための手続きであり、夫婦が直接話し合う調停とは異なり、裁判所の判断に委ねられます。
審判では、家庭裁判所の裁判官が夫と妻の主張を聞き、証拠を検討します。裁判官は、養育費算定表を参考にしながら、両親の収入や生活費、子どもの年齢や必要な費用を考慮して、養育費の適正な金額を決定します。
また、特別費用や支払い期間、支払い方法についても裁判官が判断します。審判の過程では、双方が証拠を提出し、必要に応じて証人を呼び出すこともあります。
審判で決定された内容は、家庭裁判所が発行する審判書に記載されます。審判書は法的効力を持ち、養育費の支払いが確実に行われることを保証します。審判書に基づいて養育費が支払われない場合、強制執行を申し立てることができます。強制執行により、給与の差し押さえや財産の差し押さえが行われ、養育費の支払いが履行されます。
決め方4.裁判
裁判は、協議や調停で合意に至らなかった場合に、家庭裁判所が最終的な決定を下すための方法です。裁判は、夫婦が直接話し合うのではなく、裁判官が法律に基づいて公平な判断を下すため、最も正式かつ厳格な方法とされています。
裁判を開始するには、家庭裁判所に対して養育費請求の訴えを提起します。訴えを提起する際には、養育費に関する具体的な請求内容や金額、支払い条件を記載した訴状を提出します。夫と妻それぞれの収入状況や生活費、子どもの生活費や教育にかかる費用など、詳細な情報を提出することが求められます。これらの情報を基に、裁判所は公正な判断を下すための材料とします。
裁判では、夫と妻がそれぞれの主張を裁判官に提出し、証拠を基に審理が行われます。裁判官は、養育費算定表を参考にしながら、両親の収入や生活費、子どもの年齢や必要な費用を考慮して、養育費の適正な金額を決定します。
また、特別費用や支払い期間、支払い方法についても裁判官が判断します。裁判の過程では、双方が証拠を提出し、必要に応じて証人を呼び出すこともあります。
裁判は、家庭裁判所が最終的な判断を下すため、公平で確実な養育費の決定が行われます。しかし、裁判に至るまでの手続きは時間と費用がかかるため、可能であれば協議や調停で合意に至ることが望ましいといえるでしょう。
未払い養育費の請求方法
離婚時に養育費の内容や支払い方法・金額といった条件について取り決めを行っても、離婚後確実に支払いが履行されるとは限りません。
養育費の支払いが途絶えてしまった場合は、養育費の取り決めの状況や、現在の状況に応じて、最適な方法で未払い養育費を請求しましょう。
請求方法1.協議・交渉で請求する
まず考えられる請求方法は、相手に直接連絡を取り、請求する方法です。感情的にならず、相手の状況を理解しながら進めることが、円滑な解決につながります。
たとえば、相手が一時的に支払いが難しい場合には、分割払いの提案や支払い期限の延長など、柔軟に対応することで、未払いの養育費を回収しやすくなります。
直接連絡することが難しい場合には、内容証明郵便で請求する方法も効果的です。
通常、日常生活では内容証明郵便を受け取る機会が少ないため、その特別な形式が相手に「早急に対応しなければ」と思わせ、養育費の支払いが期待できるのです。すぐには養育費の支払いがされない場合にも、「内容証明郵便を受け取った。今は支払いが厳しいので、減額をお願いしたい。」などと反応を引き出せるため、養育費の交渉が可能となります。
このように、未払い養育費を請求する際には、まず協議・交渉を試みることが効果的です。直接交渉が難しい場合や相手が応じない場合には、内容証明郵便を利用することで、より強力な手段を取ることが可能です。
請求方法2.履行勧告や履行命令
未払いの養育費を請求する方法として、履行勧告や履行命令があります。
履行勧告とは、家庭裁判所が審判や調停で定められた義務の履行状況を調査し、義務者に対してその義務の履行を勧告する方法です(家事事件手続法第289条1項)。履行勧告の申し立て手続きには手数料はかかりません。書面での申し立てだけでなく、口頭でも可能です。
履行命令とは、養育費の未払いなど、金銭の支払いを怠った者に対して、その義務を履行するように命じる申立てです(家事事件手続法第290条)。家庭裁判所が義務者に対して金銭の支払いを命じることで、養育費の支払いを確実に行わせます。履行命令が出されたにもかかわらず、正当な理由なく命令に従わない場合には、10万円以下の過料が科せられることとなります(家事事件手続法第290条5項)。この制裁があるため、履行命令は履行勧告よりも効果的です。
履行命令の申し立てを受けた家庭裁判所は、義務者の未払いの程度や理由、支払い能力、生活状況などを総合的に判断して、相当と認めた場合に履行命令を発します。
なお、履行勧告や履行命令を利用するためには、養育費の支払いに関して、審判や調停、調停に代わる審判によって定められていることが必要です。
請求方法3.公正証書などによる強制執行
未払いの養育費を確実に回収するためには、公正証書などを根拠とした強制執行が有効です。
強制執行は、相手の給与や預貯金といった財産を強制的に差し押さえて、請求債権を回収する方法です。
まず、相手の財産を明確にすることが重要です。相手の給与、銀行口座、不動産など、差し押さえる対象となる財産を特定する必要があります。
そして、強制執行の申し立てを行います。公正証書といった債務名義や、強制執行申立書など、必要な書類を準備し、家庭裁判所に提出します。強制執行の申し立てが認められると、家庭裁判所から差し押さえの命令が出され、可能な範囲で養育費が回収されます。このように、財産があるのに、養育費の支払いが未払いの場合には、
強制執行の手続きに関しては、複雑な場合があるため、弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
なお、未払い養育費の請求については、こちらの関連記事にて詳しく解説しておりますので、ぜひご一読ください。
養育費に関するQ&A
Q1.養育費は離婚後も支払う義務がありますか?
養育費は離婚後も支払う義務があります。たとえ夫婦が離婚しても、子どもとの親子関係は続くため、子どもの生活費や教育費を支援するために、養育費を支払う扶養義務があるのです、
Q2.養育費の金額はどのように決められますか?
養育費の金額は、夫と妻の収入、子どもの年齢や生活費などを主に考慮して決められます。一般的には、裁判所が作成した養育費算定表を参考にして算出されることが多いですが、協議や調停によって、相場とは異なる金額で合意することも可能です。
Q3.養育費の支払い期間はどのように決められますか?
養育費の支払い期間は、20歳までとするのが一般的ですが、具体的な期間は協議や調停、家庭裁判所の審判で決定されます。子供が大学進学を希望している場合や大学に進学する可能性が高い場合には、「子供が大学を卒業するまで」など、子どもが経済的に自立するまで支払いが続くこともあります。
弁護士法人あおい法律事務所の弁護士にご相談ください
養育費の問題は、離婚後の生活に大きな影響を与える重要な問題です。養育費は、子どもの生活費や教育にかかる費用を支えるために支払われるお金であり、親としての義務です。
養育費の金額や支払い方法の取り決めについては、協議、調停、家庭裁判所での決定、そして公正証書の作成など、さまざまな方法があります。
また、養育費についての協議や調停が難航したり、未払いの養育費が発生したりした場合には、弁護士に相談することが推奨されます。弁護士は、強制執行の申し立てや履行勧告、履行命令の手続きをサポートし、適切な金額の養育費を確実に回収するための助けとなります。また、養育費の請求に関する法的手続きや家庭裁判所での対応についても、専門的なアドバイスを提供します。
弁護士法人あおい法律事務所では、経験豊富な弁護士が、養育費に関するさまざまな問題に適切に対応いたします。離婚や養育費の請求についてお悩みの方は、ぜひ当法律事務所にご相談いただければと思います。
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この記事を書いた人
雫田 雄太
弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。