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接近禁止命令とは?保護命令の申し立て手続きや内容を解説

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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配偶者のDV被害を受けている被害者の心身を保護するための制度のひとつに、接近禁止命令というものがあります。

接近禁止命令が発令されると、加害者は被害者に一定の距離内に接近することや、直接的なコミュニケーションを取ることが禁止されます。

しかし、こうした接近禁止命令に関して、その具体的な内容や要件、申し立ての手続きなどについてきちんと理解している人は多くありません。

そこでこの記事では、接近禁止命令とは何かという基本的な知識に加えて、誰が申し立てを行えるのか、申し立ての手続きには何が必要で、どのように行えばいいのか、申し立てたことによって、どのような効力が生じるのかといった具体的な事項について、弁護士が詳しく解説いたします。

配偶者のDV行為にお悩みの方にとって、この記事が少しでもご参考になりましたら幸いです。

目次

接近禁止命令とは

接近禁止命令とはDV防止法に基づく保護命令です

接近禁止命令とは、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)」の規定に基づく保護命令のひとつです(DV防止法第10条1項1号)。

(保護命令)
DV防止法第10条1項
被害者(配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫(被害者の生命又は身体に対し害を加える旨を告知してする脅迫をいう。以下この章において同じ。)を受けた者に限る。以下この章において同じ。)が、配偶者からの身体に対する暴力を受けた者である場合にあっては配偶者からの更なる身体に対する暴力(配偶者からの身体に対する暴力を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力。第12条第1項第2号において同じ。)により、配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた者である場合にあっては配偶者から受ける身体に対する暴力(配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力。同号において同じ。)により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者(配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者。以下この条、同項第3号及び第4号並びに第18条第1項において同じ。)に対し、次の各号に掲げる事項を命ずるものとする。ただし、第2号に掲げる事項については、申立ての時において被害者及び当該配偶者が生活の本拠を共にする場合に限る。
1 命令の効力が生じた日から起算して6ヶ月間、被害者の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この号において同じ。)その他の場所において被害者の身辺につきまとい、又は被害者の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないこと。

つまり、配偶者や元配偶者から身体的暴力(DV)や生命・身体等に対する脅迫を受けた被害者の身の安全を保護するために、配偶者や元配偶者の接近を禁止するという制度になります。

DV防止法に基づく接近禁止命令をはじめとする保護命令は、この記事で詳しく後述しますが、裁判所に申し立てることによって行います。

裁判所が公開している「司法統計」を見ると、令和元年には保護命令の申し立て件数が1998件、令和2年には1855件あったことがわかります。

毎年2000件近く、配偶者からのDV等を原因とした保護命令が申し立てられているのです。

参照:令和元年度司法統計(第90表 配偶者暴力等に関する保護命令既済事件数―終局区分別)
参照:令和2年度司法統計(第90表 配偶者暴力等に関する保護命令既済事件数―終局区分別)

ストーカー規制法による禁止命令との違い

DV防止法に基づく接近禁止命令をはじめとする保護命令と類似した制度に、ストーカー規制法に基づく禁止命令(ストーカー行為等の規制等に関する法律第5条)があります。

両者は似ていますが、簡単に説明いたしますと、以下のような違いがあります。

DV防止法に基づく保護命令は、DV被害者からの申し立てを受けて裁判所が発令します。一方で、ストーカー規制法に基づく禁止命令は、国家公安委員会(警察)が発令します。そのため、命令が発令されるまでの手続きや流れも異なります。

DV防止法に基づく保護命令の適用対象は、婚姻関係にある配偶者や、婚姻関係にあったが離婚した元配偶者等に限られます。対して、ストーカー規制法に基づく禁止命令の場合の適用対象は、ストーカー行為を受けている被害者とされています。配偶者や元配偶者に限定されません。

この記事では、配偶者や元配偶者からDV等を受けた被害者が取り得る手段としての、DV防止法に基づく保護命令について、弁護士が詳しく解説いたします。

裁判所の保護命令の5つの内容と効力

 

裁判所の保護命令の5つの内容と効力

 

それでは、接近禁止命令をはじめとする、5つの保護命令の具体的な内容について見ていきましょう。

裁判所が出す保護命令には、次の5つの命令があります。

  1. 接近禁止命令
  2. 電話等禁止命令
  3. 子への接近禁止命令
  4. 親族等への接近禁止命令
  5. 退去命令

それぞれについて、詳しく解説させていただきます。

1.接近禁止命令(つきまとい禁止)

まずひとつ目の保護命令は、本記事のテーマでもある「接近禁止命令」です。冒頭でも述べた通り、配偶者や元配偶者からのDV被害者を保護するため、保護命令の効力が生じた日から6ヶ月間、申立人であるDV被害者に接近・接触することを禁止することを、相手方である加害者に命じるものです(DV防止法第10条1項1号)。

この接近禁止命令が裁判所によって発令されると、被害者につきまとったり、被害者の自宅や職場、その他被害者が通常所在する場所をはいかいすることが禁止されます。

また、裁判所は接近禁止命令を発令するとともに、その旨を警察に通知するため(DV防止法第15条3項)、接近禁止命令の発令後につきまといがあったときなどに、警察へのスムーズな相談や迅速な対応が期待できます。

DV防止法第15条3項
保護命令を発したときは、裁判所書記官は、速やかにその旨及びその内容を申立人の住所又は居所を管轄する警視総監又は道府県警察本部長に通知するものとする。

なお、接近禁止命令は、被害者へのつきまといや、生活圏内でのはいかいを禁止する旨の保護命令なので、それ以外の行為を禁止するものではありません。そのため、相手方からの連絡を一切絶ちたいという場合や、DV被害者だけでなく、子供や家族・親族等への接触も禁止したいという場合には、以下にご紹介する他の保護命令の発令を申し立てることになります。

ただし、以下にご紹介する電話等禁止命令、子への接近禁止命令、親族等への接近禁止命令については、それ単独では申し立てることはできないため、接近禁止命令を申し立てていることが前提となります。

2.電話等禁止命令(電話・メール連絡等の禁止)

上述の接近禁止命令の実効性を確保するために有効な保護命令が、電話等禁止命令です。DV被害者の生命や身体を保護するために、配偶者や元配偶者に対して、電話連絡等の行為を禁止するよう命じます(DV防止法第10条2項)。

DV防止法第10条2項
前項本文に規定する場合において、同項第一号の規定による命令を発する裁判所又は発した裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日以後、同号の規定による命令の効力が生じた日から起算して6ヶ月を経過する日までの間、被害者に対して次の各号に掲げるいずれの行為もしてはならないことを命ずるものとする。
1.面会を要求すること。
2.その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
3.著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
4.電話をかけて何も告げず、又は緊急やむを得ない場合を除き、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールを送信すること。
5.緊急やむを得ない場合を除き、午後十時から午前六時までの間に、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、又は電子メールを送信すること。
6.汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
7.その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
8.その性的羞恥心を害する事項を告げ、若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し、若しくはその知り得る状態に置くこと。

電話等禁止命令と言いますが、DV防止法第10条2項の1号から8号までに定められている通り、電話以外にもFAXやメール、物の送付などが禁止されます。

3.子への接近禁止命令(子供へのつきまとい禁止)

子への接近禁止命令は、子供へのつきまといや、子供が通う学校などの近辺をはいかいする行為を禁止する保護命令です(DV防止法第10条3項)。

この子への接近禁止命令は、相手方による子の連れ去り防止や、被害者が相手方と会わざるを得なくなってさらに暴力を振るわれる恐れがある場合に被害者を保護することを目的としています。

DV防止法第10条3項
第1項本文に規定する場合において、被害者がその成年に達しない子(以下この項及び次項並びに第12条第1項第3号において単に「子」という。)と同居しているときであって、配偶者が幼年の子を連れ戻すと疑うに足りる言動を行っていることその他の事情があることから被害者がその同居している子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があると認めるときは、第1項第1号の規定による命令を発する裁判所又は発した裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日以後、同号の規定による命令の効力が生じた日から起算して6ヶ月を経過する日までの間、当該子の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この項において同じ。)、就学する学校その他の場所において当該子の身辺につきまとい、又は当該子の住居、就学する学校その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないことを命ずるものとする。ただし、当該子が15歳以上であるときは、その同意がある場合に限る。

なお、子への接近禁止命令は、DV防止法第10条3項ただし書にあるように、子供が15歳以上である場合には、接近禁止命令の発令に子供の同意が必要です。

4.親族等への接近禁止命令(親族等へのつきまとい禁止)

親族等への接近禁止命令とは、相手方が被害者の親族や、その他被害者と社会生活において密接な関係を有する者の身辺につきまとったり、勤務先等その通常いる場所の付近をはいかいすることを禁止する保護命令です(DV防止法第10条4項)。

DV防止法第10条4項
第1項本文に規定する場合において、配偶者が被害者の親族その他被害者と社会生活において密接な関係を有する者(被害者と同居している子及び配偶者と同居している者を除く。以下この項及び次項並びに第12条第1項第4号において「親族等」という。)の住居に押し掛けて著しく粗野又は乱暴な言動を行っていることその他の事情があることから被害者がその親族等に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があると認めるときは、第1項第1号の規定による命令を発する裁判所又は発した裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日以後、同号の規定による命令の効力が生じた日から起算して6ヶ月を経過する日までの間、当該親族等の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この項において同じ。)その他の場所において当該親族等の身辺につきまとい、又は当該親族等の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないことを命ずるものとする。

なお、親族等への接近禁止命令の発令においては、「親族等」が15歳以上である場合はその親族等の同意が必要で、親族等が15歳未満の場合は、その親族等の法定代理人の同意が必要となります。

親族等への接近禁止命令が発令される場面としては、たとえば、配偶者や元配偶者が被害者の親族等の住宅に無理やり入り込み、「被害者の居場所を明かさなければ殴るぞ」など激しい言葉を投げかけるといった状況が想定されます。

こうした状況で、被害者が親族等を守るため、あるいは仲介するために配偶者や元配偶者と対面せざるを得なくなったとき、被害者が再び相手方からDV被害を受ける恐れがあります。そのような事態を避けるために、親族等に対する接近禁止命令を利用することが想定されています。

5.退去命令

5つ目の保護命令が退去命令です。

退去命令は、相手方に対して2ヶ月間、被害者と一緒に生活している住宅から出て行くことと、その住宅の近辺をはいかいすることを禁止する保護命令です(DV防止法10条1項2号)。

DV防止法10条1項2号
命令の効力が生じた日から起算して2ヶ月間、被害者と共に生活の本拠としている住居から退去すること及び当該住居の付近をはいかいしてはならないこと。

禁止命令に違反した場合どうなる?罰則は?

上記の接近禁止命令等に違反した場合、罰則が定められています。

接近禁止命令等に違反した場合の罰則の内容は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金です(DV防止法第29条)。

DV防止法第29条
保護命令(前条において読み替えて準用する第10条第1項から第4項までの規定によるものを含む。次条において同じ。)に違反した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

接近禁止命令の申し立て方法・手続きの流れ

さて、以上の接近禁止命令ですが、発令までの具体的な手続きの流れと必要書類、費用については、次の通りとなります。

申し立て方法・流れ

1.警察など専門機関へDV被害を相談する

DV(家庭内暴力)被害を受けた場合、まず警察や女性相談センター、DV相談支援センターなどの専門機関に相談します。

専門の相談員がDV被害の状況を聞き取り、必要な支援や保護措置の提案を行います。また、法的な手続きのアドバイスや弁護士の紹介なども行われます。

2.裁判所へ申し立てる

専門機関に相談した後、接近禁止命令を求める場合は、被害者が裁判所に接近禁止命令の申し立てを行います。

接近禁止命令の申し立てには、被害の詳細や加害者の行為、命令を求める理由などを記載した書類が必要となります。必要に応じて、弁護士に相談することをおすすめいたします。

3.裁判所で申立人の面接を行う

申し立てを受けた裁判所は、申立人の面接を行います。この面接では、裁判官が申立人に被害の状況や加害者の行為について直接質問を行い、事実関係を確認します。

面接の内容は、接近禁止命令の発令を判断するための重要な根拠となります。

4.裁判所で相手方の審尋を行う

申立人の面接の後、裁判所は相手方(加害者)に対しても審尋(しんじん)を行います。審尋とは、当事者や利害関係人に対して、書面もしくは口頭で意見を陳述する機会を与える手続きです。

審尋では、加害者の立場から事情を聞き、申立人の主張との整合性や事実関係を検証します。加害者が審尋に出頭しない場合でも、裁判所は警察や相談機関から入手した書面や証拠に基づいて判断を行います。

なお、接近禁止命令の目的や性質上、裁判所での手続きは迅速に行われるため、申立人の面接から1週間~10日以内に審尋が行われることが一般的です。

5.接近禁止命令の発令を決定する

申立人と相手方の双方からの情報をもとに、裁判所は接近禁止命令の発令の有無を判断します。

相手方が裁判所に出頭し審尋した場合には、その場で接近禁止命令が言い渡され、直ちに効力が発生することになります。

一方、相手方が出頭せずに、書面等で審尋が行われた場合には、接近禁止命令の決定も書面で相手方に対して伝えられることになるため、相手方に接近禁止命令の決定書が送達されることで、接近禁止命令の効力が生じることになります。

申し立てに必要な書類

接近禁止命令の申し立てには、原則として次の書類が必要になります。

  • 申立書(配偶者暴力等に関する保護命令申立書)
  • 戸籍謄本(原本)
  • 住民票(原本)
  • 身体的暴力や生命等に対する脅迫を受けたことなどを客観的に証明する証拠(写真、診断書、陳述書等)

申立書には、当事者(申立人と相手方)の氏名と住所、発令してほしい保護命令の内容、身体的暴力や脅迫をいつどこで受けたかといったDV・脅迫行為の詳細、生命や身体に重大な危害を受ける恐れがある事情などを記入します。

申立書の書式は、裁判所によってはホームページからダウンロードして入手することができます。記入方法や内容の書き方に悩んだら、弁護士にご相談いただくこともおすすめです。

申立手続きにかかる費用

接近禁止命令等の保護命令を申し立てる際には、原則として以下の申立手数料が必要です。

  • 収入印紙代1000円
  • 郵便切手

なお、郵便切手代については、郵便切手と枚数の内訳、合計金額が指定されています。

裁判所によって金額や内訳が異なりますので、事前に申立てを行う裁判所に問い合わせて確認するようにしてください。

接近禁止命令の申し立ての要件・注意点

配偶者・元配偶者や内縁関係であることが必要です

接近禁止命令は、申し立てるための要件が厳格に規定されています。

申し立てが可能な対象者は、法律上の婚姻関係にある配偶者や元配偶者、事実婚の関係にある夫婦や事実婚を解消した元夫婦、同棲している恋人や同棲していた恋人に限られます。

そして、このような関係性の相手から、身体的暴力を受けたり、「死ね」、「殺す」といった命にかかわる脅迫を受けたりした場合、または将来的に身体的暴力を受けて生命や身体に深刻な害が及ぶ可能性が高いこと、も要件のひとつです。

また、婚姻期間中や同棲期間中に、生命や身体に深刻な害が及ぶ身体的暴力や脅迫を受けたこと、も必要です。したがって、身体的暴力をともなわない場合(精神的DVなど)は要件に該当しませんし、恋人であっても同棲していない場合は「同棲期間中に被害を受けた」という要件を満たさないため、申立人の対象とはなりません。

期間の延長をするには

接近禁止命令の効力の期間は、発令の日から6ヶ月です。6ヶ月が経過してしまった後は接近禁止命令を出してもらえないのか、と不安に思われるかもしれませんが、接近禁止命令は再度申し立てて、効力の生じる期間を延長することが可能です。

新たに申立て書類や証拠等を準備して、接近禁止命令の申し立てを行います。なお、実質は期間の延長ですが、手続きとしては接近禁止命令の延長ではなく、新たな接近禁止命令の申し立てとして扱われることになります。

相手方からの脅威が引き続き生じる可能性が高い場合には、接近禁止命令の期間を延長させることが重要です。また、最初の接近禁止命令の効力が失効する日から、再度接近禁止命令を申し立てて効力が発生するまでの間に日数が空いてしまわないよう、接近禁止命令の申し立てのタイミングには気を付けましょう。

取り下げや取り消しはできる?

接近禁止命令の取り下げ

接近禁止命令の申し立てをした後に、相手方から身体・生命を害される恐れがなくなったような場合は、接近禁止命令の申し立てを取り下げることが可能です。

実際に、令和2年度の司法統計「第90表 配偶者暴力等に関する保護命令既済事件数―終局区分別」を見ると、1855件ある接近禁止命令の申し立てのうち、307件が取り下げという結果になっています。

接近禁止命令の取り消し

接近禁止命令を発令した後に、相手方から身体・生命を害される恐れがなくなったなどの状況の変化によって、接近禁止命令が必要でなくなることもあります。

そうした場合は、接近禁止命令の取り消しが可能です。ただし、接近禁止命令の取り消しをしたい人が申立人か相手方によって、求められる要件が異なります(DV防止法第17条1項)。

(保護命令の取消し)
DV防止法第17条1項
保護命令を発した裁判所は、当該保護命令の申立てをした者の申立てがあった場合には、当該保護命令を取り消さなければならない。第10条第1項第1号又は第2項から第4項までの規定による命令にあっては同号の規定による命令が効力を生じた日から起算して3ヶ月を経過した後において、同条第1項第2号の規定による命令にあっては当該命令が効力を生じた日から起算して2週間を経過した後において、これらの命令を受けた者が申し立て、当該裁判所がこれらの命令の申立てをした者に異議がないことを確認したときも、同様とする。

接近禁止命令の申立人が取り消したい場合であれば、上記条文に「保護命令を発した裁判所は、当該保護命令の申立てをした者の申立てがあった場合には、当該保護命令を取り消さなければならない。」とある通り、裁判所に対し接近禁止命令の取り消しを申し立てることで、いつでも取り消すことが可能です。

一方で、接近禁止命令を発令された相手方が接近禁止命令を取り消したいという場合は、「命令が効力を生じた日から起算して3ヶ月を経過した後において(中略)、これらの命令を受けた者が申し立て、当該裁判所がこれらの命令の申立てをした者に異議がないことを確認したときも、同様とする。」とある通り、①接近禁止命令の効力が生じた日から3ヶ月が経過しており、②接見禁止命令の申立人の異議がないこと、の2つの要件を満たす必要があります。

そして、接近禁止命令の取り消しには、申立人・相手方のどちらが取り消しをする場合でも、通常、収入印紙代500円と郵便切手代がかかります。

郵便切手代については、申し立てるのが接近禁止命令の申立人か相手方かによって金額が異なりますので、必要な費用の詳細については、申し立てをした裁判所に確認してください。

接近禁止命令に関するQ&A

Q1.裁判所の発令する保護命令には具体的に何がありますか?

裁判所の発令する保護命令には、次の5つの命令があります。

  • 接近禁止命令
  • 電話等禁止命令
  • 子への接近禁止命令
  • 親族等への接近禁止命令
  • 退去命令

Q2.接近禁止命令とはどういう命令ですか?

接近禁止命令とは、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)」の規定に基づく保護命令のひとつです(DV防止法第10条1項1号)。配偶者や元配偶者からのつきまといや、住宅・職場などの生活圏をはいかいすることを禁止する命令です。

Q3.接近禁止命令の手続きの流れを教えてください。

DV被害を受けた場合、まずは警察や専門機関に相談し、裁判所に接近禁止命令の申し立てを行います。裁判所での手続きは迅速に行われ、裁判所は申立人の面接を行い、加害者に対しても審尋を実施します。その後、双方の情報を基に接近禁止命令の発令を決定します。

配偶者からのDVのお悩みは弁護士にご相談ください

この記事では、配偶者や元配偶者からの身体的暴力や脅迫を回避する手段として、接近禁止命令について弁護士が解説させていただきました。

接近禁止命令の申し立て準備に時間を割く余裕がないという方や、必要書類や証拠の揃え方に不安がある方は、ぜひ弁護士法人あおい法律事務所の弁護士にご相談ください。

弁護士にご相談いただければ、接近禁止命令の手続きとあわせて、相手方との離婚の交渉等もご依頼いただけます。

まずはお気軽に、当法律事務所の初回無料相談をご利用ください。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。

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