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悪意の遺棄とは離婚原因?具体例や慰謝料請求の方法を弁護士が解説

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。
1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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悪意の遺棄とは、配偶者が意図的に家族を放棄し、経済的、精神的な支援をしないことを意味しています。

この行為は、夫婦関係において深刻な問題を引き起こし、最終的には離婚の原因となったり、慰謝料を請求する原因となったりすることがあります。

離婚裁判において、悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料を請求する場合、具体的な事実を客観的に証明するために証拠が重要になります。

そこでこの記事では、悪意の遺棄の定義や関連する法律といった基本的な知識に加え、悪意の遺棄の具体例、離婚請求や慰謝料請求の方法などについて、弁護士が詳しく解説させていただきます。

配偶者が一方的に別居を始めてしまい、生活費を支払ってもらえないなどの状況にあってお困りの方にとって、この記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。

目次

悪意の遺棄の意味とは

悪意の遺棄とは法定離婚事由のひとつ(民法770条1項2号)

 

悪意の遺棄とは法定離婚事由のひとつ(民法770条1項2号)

 

悪意の遺棄とは、法定離婚事由(民法770条1項各号)のひとつです。

日本の民法では、離婚裁判で離婚請求をする場合、民法770条1項各号に定められた離婚理由(法定離婚事由)がなければ、離婚が認められません。そして、その民法770条1項各号の法定離婚事由とは、次の5つの離婚理由です。

(裁判上の離婚)
民法770条1項 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

上記の民法770条1項2号に規定された「配偶者から悪意で遺棄されたとき。」のことを、悪意の遺棄というのです。

そして、悪意の遺棄の「悪意」ですが、「夫婦関係が破綻することを分かっている、意図していること」を意味しており、「遺棄」とは、正当な理由なく民法752条の同居義務・協力義務・扶助義務を怠ることを意味しています。

(同居、協力及び扶助の義務)
民法752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

この民法752条の3つの義務について、詳しく見てみましょう。

1.同居義務

夫婦である限り、共に生活することが求められます。これが、同居義務です。

夫婦が別居に同意している場合や、仕事の都合や実家への一時帰宅など正当な理由がある場合は除かれますが、以下のような正当な理由のない同居の拒否は、同居義務違反とみなされることがあります。

  • 生活や仕事に支障をきたすほど頻繁に家出をする。
  • 配偶者が自宅に帰りにくい環境を作る。
  • 不倫相手の家に長期に渡って滞在し、自宅に帰らない。
  • 配偶者の家族との不仲を理由に実家に戻る。

2.協力義務

夫婦は互いに支え合い、結婚生活を維持する責任があります。

たとえば以下のような、夫婦関係が破綻するほど配偶者を困らせたり、迷惑をかけたりするような行為は、協力義務違反と判断される可能性があります。

  • 働く能力があるにもかかわらず、理由なく就労しない。
  • 病気の配偶者を放置し、介護をしない。

3.扶助義務

夫婦はお互いに支援し合い、同等の生活水準を保つことが求められます。ただし、夫婦それぞれの収入や生活状況が異なるため、経済的な分担を2分の1ずつにしろ、という意味ではなく、収入の多い方は少ない方に対し、自分と同等の生活水準で生活できるよう扶助しなければならない、という意味です。

この扶助義務に違反するケースとしては、次のような場合が考えられます。

  • 配偶者が収入を得ていないことを知りながら、生活費を渡さない。
  • 単身赴任中や別居中に生活費を送金しない。

このような、同居義務・協力義務・扶助義務を怠る行為を「悪意の遺棄」と言うのです。

なお、同居しないことや協力・扶助しないことについて、正当な理由がある場合は、その行為は悪意の遺棄とはみなされません。

たとえば、仕事上やむを得ない単身赴任での別居や、就職活動をしていて仕事がない間働かないこと、出産・子育てのために実家に戻ること、配偶者のDVやモラハラ、不倫などに耐えられなくなった場合の別居などは、同居しないことや就労しないことに「正当な理由」があるため、悪意の遺棄には該当しないと考えられています。

離婚するのに必要な4つの要件

さて、以上の夫婦の義務に違反したことを理由として、民法770条1項2号の悪意の遺棄で離婚請求が認められるためには、次の4つの要件を満たしている必要があります。

  1. 同居・協力・扶助義務に違反していること
  2. 正当な理由がないこと
  3. 夫婦の合意がないこと
  4. 夫婦関係が破綻することの認識あるいは認容

必要な要件①同居・協力・扶助義務に違反していること

悪意の遺棄が認められるためには、配偶者が夫婦としての基本的な義務である同居・協力・扶助義務を放棄していたことが必要です。

こうした行為を離婚裁判において証明するための証拠については、後ほど詳しくご紹介させていただきます。

必要な要件②正当な理由がないこと

悪意の遺棄が認められるためには、配偶者の行為が正当な理由なく始まったことを立証する必要があります。たとえば、仕事の都合で一時的に別居する、病気の親を介護するために実家に戻るなどの正当な理由がある場合は、悪意の遺棄とはみなされません。

しかし、配偶者が自分の都合や利益のために一方的に家庭を放棄し、夫婦としての義務を無視する場合は、正当な理由がないと判断される可能性があります。

必要な要件③夫婦の合意がないこと

悪意の遺棄の成立要件として、夫婦の合意がなく行為が始まったことも重要です。

夫婦がお互いに合意のもとで別居をすることになったり、生活費を負担しなくていいとなったりした場合は、悪意の遺棄とはみなされません。

しかし、一方の配偶者がもう一方の意向を無視し、勝手に義務を放棄した場合、夫婦の合意がなかったとみなされ、悪意の遺棄として認定される可能性があります。

必要な要件④夫婦関係が破綻することの認識あるいは認容

前述した通り、悪意の遺棄の「悪意」は「夫婦関係が破綻することを分かっている、意図していること」を意味しています。そのため、悪意の遺棄が成立するためには、単に同居しない・家事や育児をしないというだけでなく、そうした行為をすることによって夫婦関係が破綻することを認識していた、あるいは認容していたことが必要になります。

たとえば、配偶者が家庭を放棄し、長期間連絡を取らない場合や、不倫関係を持ち続けるなどの行為は、夫婦関係の破綻を認識し、それを受け入れているとみなされる可能性があります。このような行為は、夫婦としての絆や信頼を根本から損なうものであり、裁判において悪意の遺棄と認定される重要な要素となるのです。

悪意の遺棄の具体例

以上が悪意の遺棄の意味や離婚請求における悪意の遺棄の要件になります。説明だけですとイメージがつきにくいので、悪意の遺棄の具体例をいくつか見ていきましょう。

悪意の遺棄の例①理由も無く同居を拒否し、自宅を出てアパートでひとり暮らしをしている

理由も無く同居を拒否し、自宅を出てアパートでひとり暮らしをしている夫婦であるにもかかわらず、特に問題がないのに自宅を出て一人でアパートに住むことは、同居義務を放棄していると見なされます。この行為は、夫婦としての共同生活を放棄している、典型的な悪意の遺棄の具体例です。

悪意の遺棄の例②頻繁に家出を繰り返している

家出を繰り返す行為は、夫婦として安定した共同生活を送ることを拒否するものです。家出をされた配偶者が同居を求めても、理由もなくこの行為を繰り返すのであれば、悪意の遺棄と判断されることになるでしょう。

悪意の遺棄の例③生活費を配偶者に渡さない

配偶者に生活費を渡さないことは、扶助義務の放棄であり、これも典型的な悪意の遺棄の具体例です。特に、配偶者が専業主婦であったり、病気のために就労できず経済的な困難に直面しているような場合、生活費を渡さない行為は、明らかな扶助義務違反であり、悪意の遺棄となる可能性が高いです。

悪意の遺棄の例④配偶者を自宅から追い出して鍵を変えてしまった

自宅から配偶者を追い出し、鍵を変える行為は、配偶者の居住権を奪い、同居義務を完全に放棄しているとみなされる行為です。これは、夫婦としての共同生活を意図的に破壊している行為とみなされ、悪意の遺棄に該当すると考えられます。

悪意の遺棄の例⑤家を出て浮気相手の自宅で生活している

夫婦の一方が、自分の家を離れて不倫相手と一緒に暮らすことは、夫婦関係を深刻に損なう行動です。こうした行為も、悪意の遺棄の典型例とされています。

悪意の遺棄の例⑥健康なのに働かず就職活動もしない

健康な状態でありながらも働かず、就職活動もしない行為は、経済的な協力義務を放棄しているとみなされます。夫婦としての生計を支える責任を果たさず、配偶者に経済的な負担を強いることは、悪意の遺棄に該当する可能性があります。

悪意の遺棄の例⑦家事や育児を放棄して自分は遊んでいる

夫婦の一方が、家事や子供の世話をせずに自分の趣味や娯楽にばかり時間を費やす場合、これは協力義務を放棄していることになります。特に、そういった状況の中で、配偶者から協力を求められているのに、何度もこれを無視して協力義務に違反するような場合、悪意の遺棄とみなされることになるでしょう。

悪意の遺棄の例⑧別居中の婚姻費用を支払ってくれない

夫婦が別居している間でも、婚姻費用の支払い義務は続きます。

婚姻費用とは、夫婦およびその子供の生活費や教育費など、婚姻生活を維持するために必要な費用のことです。別居中に一方の配偶者が婚姻費用の支払いを拒否する場合、これは扶助義務を放棄しているとみなされ、悪意の遺棄となる可能性があります。

特に、支払いを拒否することで相手方が経済的な困難に陥るような場合は、その行為が悪意の遺棄と認定される可能性が高くなります。

悪意の遺棄を理由に慰謝料を請求できる?

夫婦関係を破綻させる悪意の遺棄は、その行為によって配偶者に精神的な苦痛を与えるものです。そのため、民法709条の「不法行為」に該当します。

(不法行為による損害賠償)
民法709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
不法行為である悪意の遺棄をした有責配偶者は、その悪意の遺棄によって他方の権利や利益を侵害し、精神的苦痛を与えているため、これによって生じた損害を賠償しなければなりません。

つまり、配偶者から悪意の遺棄という不法行為によって損害を被った方は、有責配偶者に対して悪意の遺棄を原因とする慰謝料を請求することが可能となります。

慰謝料を請求する方法

悪意の遺棄を理由に慰謝料を請求する場合の一般的な流れは、次の通りです。

  1. 悪意の遺棄を客観的に証明できる証拠を収集する。
  2. 話し合い(離婚協議)で慰謝料を請求する。
  3. 内容証明郵便を送付し請求する。
  4. 調停手続きの中で慰謝料を請求する。
  5. 裁判手続きの中で慰謝料を請求する。

悪意の遺棄を理由に慰謝料を請求する場合、まずは悪意の遺棄を客観的に証明できる証拠を収集します。連絡が取れなくなったことや、生活費を渡してもらえなかったことなどを、客観的に見て理解してもらえる証拠が必要です。

そして、まずは夫婦間の話し合いで慰謝料を請求します。離婚する場合は離婚協議の中で慰謝料を請求することが一般的です。また、離婚しない場合でも、慰謝料を請求することは可能です。

話し合いに応じてもらえない場合、内容証明郵便を送付して慰謝料を請求する方法があります。内容証明郵便は書式に決まりがあったり、適切な内容を記載する必要があります。そのため、内容証明郵便で悪意の遺棄の慰謝料を請求する場合は、まずは弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。

話し合いや内容証明郵便での慰謝料請求にも応じてもらえなかった場合、次に取り得る方法として考えられるのは調停手続きによる慰謝料請求です。離婚請求をする離婚調停の中で、悪意の遺棄に基づく慰謝料の支払いもあわせて求めることもできますし、離婚調停とは別に、慰謝料の支払いを求めるために慰謝料請求の調停を申し立てることも可能です。

調停で合意に至らない場合は、裁判手続きに移行します。裁判では、離婚裁判の中で悪意の遺棄の慰謝料の支払いを求めることができるほか、離婚裁判とは別に、慰謝料請求を目的とした民事訴訟を別途起こすこともできます。いずれの場合も、裁判所が悪意の遺棄の事実と慰謝料の額を判断し、支払いを命じることになるため、裁判所に悪意の遺棄を認めてもらえるよう、証拠が重要になってきます。

同居義務違反や協力義務違反・扶助義務違反を証明する証拠が重要です

悪意の遺棄を理由に慰謝料を請求する場合、結果を左右するポイントとなってくるのが、悪意の遺棄を証明できる証拠の有無です。

具体的には、同居義務違反や協力義務違反、扶助義務違反があったことを証明できる証拠が必要となります。

LINEやメールのやりとり、電話の通話記録など、配偶者とのやり取りの記録は重要な証拠になります。たとえば、家を出て行った理由を問いただしても返答がないかったり、子どもが寂しがっているので戻ってきてほしいと伝えても無視されたことなどのやり取りが記録に残っていれば、同居義務違反の裏付けとなります。

配偶者が生活費を提供していたかどうかを示す通帳の記録や、支払いの停止を示す証拠は、扶助義務違反を証明するために重要です。生活費の振り込みが突然止まったり、一定期間支払われていないことを示す記録があれば、これも有力な証拠となります。

また、配偶者が無断で家を出て行ってしまった場合、別居の合意がなかったことを証明する証拠として、「別居しよう」という提案に対する返答のメッセージなども重要です。

無断で別居を始めてしまったことの原因に、配偶者以外の異性との不貞行為がある場合、そうした不貞行為の証拠も有効です。不貞行為自体も法定離婚事由(民法770条1項1号)であるため、悪意の遺棄とあわせて、不貞行為があったことを理由に慰謝料を請求することができます。

こうした悪意の遺棄を証明するための証拠を、ひとりで集めるのは手間がかかりますし、精神的にもストレスになるでしょう。

慰謝料請求の実績のある弁護士にご相談いただけますと、こうした証拠の収集もサポートしてもらえるため、弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。

消滅時効の完成に注意しましょう

なお、この悪意の遺棄に基づく慰謝料請求は、いつでもできるわけではありません。
不法行為による損害賠償請求には、民法724条の規定による消滅時効と、民法724条の2に基づく消滅時効が存在します。

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
民法724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1.被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
2.不法行為の時から20年間行使しないとき。

(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
民法724条の2 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。

すなわち、生命や身体を害するような悪意の遺棄の行為を受けた場合には、「被害者や法定代理人が損害および加害者を知った時から5年間」か「不法行為の時から20年間」の、いずれか早く経過する期間の時効が適用されることになります。

そして、生命や身体を害するような行為ではない悪意の遺棄の被害を受けた場合には、「被害者や法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間」か「不法行為の時から20年間」の、いずれか早く経過する期間の時効が適用されることになるのです。

つまり、状況によっては悪意の遺棄の被害を受けてから3年経過してしまうと、慰謝料の請求ができなくなってしまう恐れがあります。

こうした消滅時効の完成による慰謝料請求権の喪失を防ぐためには、内容証明郵便の送付や調停・裁判の申し立てが有効です。
たとえば、最も手軽な方法は内容証明郵便の送付による「催告」です(民法150条1項)。

(催告による時効の完成猶予)
民法150条1項 催告があったときは、その時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

内容証明郵便を相手方に送付し、慰謝料を支払うように催告することで、内容証明郵便の到達から6ヶ月間、消滅時効の完成が猶予されることになります。

また、民法147条1項の規定により、慰謝料を請求する調停や裁判を申し立てることによっても、時効の完成を猶予させたり、更新させたりすることができます。

(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
民法147条1項 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6ヶ月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
1.裁判上の請求
2.支払督促
3.民事訴訟法第275条第1項の和解又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停
4.破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加

慰謝料の請求は、消滅時効の完成によって請求する権利を失うこともあるため、法律の専門家である弁護士にお早めにご相談いただくことをおすすめいたします。

慰謝料の相場の金額は?別居期間や行為の内容によります

悪意の遺棄を原因とする慰謝料の相場の金額については、悪意の遺棄の行為の態様や、被害を受けていた期間の長短など、さまざまな事情によって変動します。

そのため、相場の金額もやや幅が広く、悪意の遺棄による慰謝料の相場は50万円から300万円程度と考えられています。

配偶者の悪意の遺棄によって、苛酷な状況に置かれたり、悪意の遺棄の内容がひどければ、300万円を超えることもあり得るでしょう。

なお、具体的には次のような事情があれば、慰謝料が高額になる可能性があると考えられます。

  • 悪意の遺棄が長期間に渡ったり、多数回に及んでいた場合。
  • 悪意の遺棄の内容が悪質で、与えた損害が著しく多大である場合。
  • 夫婦の間に未成熟の子供がいる場合。
  • 悪意の遺棄に該当すると自覚してあえて行為を行い、反省の態度も見られないような場合。

悪意の遺棄の裁判例

それでは最後に、悪意の遺棄に関する裁判例をご紹介いたします。

事案の概要

本件は、妻(原告)が、被告である夫に対し、夫の不貞行為、悪意の遺棄、暴行等により婚姻関係が破綻したとして、離婚と離婚に伴う慰謝料2000万円の支払いを求めた事案です。

これに対し夫は、夫婦の婚姻関係が破綻した原因は妻の浪費や家事を怠ったことにあるとして、離婚と離婚に伴う慰謝料2000万円の支払いを求め反訴を提起しました。

そして、この事案において、次のような事実があったと認定されています。

  • 妻が税金対策として受け取っていた理事報酬について、受領後に一部を返還する取り決めをしていたが、妻がこの取り決めを守らず理事報酬を返還しなかった。この際のやり取りが原因で夫婦仲が悪くなり、夫は度々、「夫婦間の約束が守られなければ離婚する」というようになった。
  • 妻と夫は、各自が自らの名義のクレジットカードを複数所有しており、それぞれが自らの名義のカードを使用することとなっていたが、妻は、夫名義のカードを継続的に使用していた。そのことに気づいた夫から、カードの使用を止めるよう求められ、また既払額についての返還を求められたが、妻は返還を拒否して口論となった。
  • 夫婦が口論になって二人とも床に倒れ込んだことがあった。
  • 夫は妻以外の異性と交際を始め、週5回程度、マンションに宿泊するようになったが、それ以外の日は自宅に泊まることもあった。
  • 夫は妻以外の異性と交際を始めた後も、妻と夫婦の子供と一緒に家族旅行をした。

裁判所の判断

上記の認定された事実に対して、裁判所は次の通り判断をしています。

 

まず、理事報酬の返還を巡るやり取りを原因として、夫婦仲が悪化したことについては、「一応の解決をみたようであり、また、その後も原告と被告が同居していること」から、理事報酬の返還の問題それ自体が婚姻関係の破綻を招来したということはできない、と述べました。

また、夫は妻が家事を怠り、浪費したと主張しましたが、この主張については、妻が家事を家政婦に任せて自らは一切行わなかったとまでは認めらないこと、宝飾品の購入等の事実はあるが、夫の収入が数千万円であったことなどからすると、それが婚姻関係の破綻を招くような浪費であるとまでは認められない、と判断しました。

さらに、クレジットカードの利用の問題は、家計の分担に関わるものにとどまることからすると、夫が妻以外の異性と交際を始めた時点では、婚姻関係が修復不能な程度に破綻していたということはできず、「婚姻関係は、被告(夫)が不貞に及ぶとともに、その後原告(妻)と別居したことによって、完全に破綻に至ったものと認めるのが相当である。」として、婚姻関係の破綻の原因は妻ではなく夫にあると判断しました。

そして、夫婦が口論になって二人とも床に倒れ込んだことがあったことについては、夫が妻に殴る等の暴行を加えたとまでは認められないとし、夫から暴行を受けたという妻の主張を否定しました。

なお、妻と夫の収入は3倍以上の違いがあったものの、妻が夫名義のカードを利用して買い物をしていたことや歯科医院を営んでいることに照らし、夫が妻に対して妻と子供の生活費を手渡ししていなかったとしても、それをもって悪意の遺棄と評価することはできないとし、婚姻関係破綻の原因としては夫の不貞行為だけを認定しました。
(東京家庭裁判所令和2年6月1日判決)

ご紹介したこの裁判例では、結果的に離婚請求と慰謝料の請求は認められました。

ただし、夫の不貞行為が慰謝料請求の根拠として認定されているものの、生活費を手渡さなかったという行為だけでは悪意の遺棄に該当しない、と判断しています。

本件では生活費という名目で現金を手渡していなかったとしても、妻が夫名義のクレジットカードを利用できたため、実質は妻が自由に使えるお金を十分に受け取っていたと判断されたのでしょう。

そのため、悪意の遺棄があったことは認められていません。

この裁判例の通り、単純に生活費を手渡していないから悪意の遺棄になる、というのではなく、さまざまな事情を総合的に判断し、悪意の遺棄の該当性を厳格に見ていくことになるのです。

Q&A

Q1.悪意の遺棄とはどういう意味ですか?

悪意の遺棄とは、配偶者が一方的に家庭から離れ、夫婦や家族としての責任や義務を果たさず、精神的・経済的支援をしないといった行為を指します。この行為は、夫婦としての婚姻生活における義務違反とみなされ、離婚裁判において離婚請求が認められる理由のひとつになります。

Q2.悪意の遺棄の具体例を教えてください。

悪意の遺棄の具体例としては、以下のようなケースが挙げられます。
たとえば、配偶者が勝手に家を出て行き、別居先の住所も知らせず長期間連絡を取らない場合や、専業主婦で収入がない配偶者に対して生活費を一切渡さず、夫婦や家族として一切協力しないといった場合があります。

Q3.悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料を請求することはできますか?

悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料を請求することは可能です。
悪意の遺棄は、民法上の離婚原因(法定離婚事由)のひとつとして認められているため、悪意の遺棄の被害を受けた配偶者は、裁判を通じて離婚や慰謝料の請求を行うことができます。しかし、離婚や慰謝料の請求が認められるためには、悪意の遺棄があったことを証明できなければならないため、弁護士へご相談いただくことをおすすめいたします。

配偶者の家出や別居のお悩みは弁護士にご相談ください

悪意の遺棄は、配偶者が意図的に夫婦としての義務を放棄し、結婚生活を破綻させる行為です。

夫婦の義務には、同居・協力・扶助の3つの義務があり、これはたとえ別居中であっても、法律上夫婦である限り、この義務が生じます。たとえば、離婚の話し合いを進めるために夫婦が別居していたとしても、扶助の義務があるため、収入の多い方は他方配偶者の生活費(婚姻費用)を支払わなければならないのです。
こうした夫婦の義務に違反する行為が悪意の遺棄に該当すると認められると、離婚や慰謝料の請求が可能となります。

悪意の遺棄を原因とする離婚請求や慰謝料の請求においては、悪意の遺棄を客観的に証明するための証拠が重要です。また、慰謝料の請求には時効という請求期限があるため、配偶者の悪意の遺棄の行為を認識したら、なるべく早めに行動しましょう。

本記事で解説させていただいた悪意の遺棄と離婚の問題については、正しい法律の知識を持っていることが非常に重要です。

ですので、おひとりで悩まずに、ぜひ弁護士にお悩みをご相談いただければと思います。配偶者が生活費を支払ってくれなくなったり、無断で家を出て行ってしまったといったときには、お早めに弁護士にお問合せください。

当法律事務所では初回の法律相談が無料となっております。対面だけでなく、電話相談も可能となっておりますので、まずはお気軽にご予約いただければと思います。

この記事を書いた人

雫田 雄太

弁護士法人あおい法律事務所 代表弁護士

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

 

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。

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