代償分割とは?代償金の決め方・遺産分割協議書の書き方・相続税の計算方法
代償分割とは、遺産分割の際、不動産など分割困難な財産について、一部の相続人がその財産を取得し、他の相続人にその価値に相当する代償金を支払う方法です。
この制度は遺産の公平な分配を実現するための重要な手段でありますが、代償金の額の算定には不動産等の正確な評価が必要です。
評価方法や代償金額に関する意見の不一致は、しばしば相続人間でのトラブルの原因となります。代償分割の合意が成立した場合、その内容を遺産分割協議書に正確に記載し、法的な効力を持たせることが重要です。
また、代償分割は相続税の計算にも影響を及ぼすため、税務上の理解も不可欠です。
この記事では、代償分割の基本から代償金の決め方、遺産分割協議書の書き方、相続税の計算方法に至るまで、詳しく解説します。
目次
代償分割とは
代償分割とは、相続が発生した際に、遺産をどのように分けるか決める方法の一つです。遺産には、現金や株式のように分けやすいものもあれば、不動産のように分割しにくいものもあります。代償分割は、この分割しにくい財産、例えば不動産を一人の相続人が取得し、その代わりに他の相続人にその財産の価値に相当するお金や他の財産(「代償財産」)を渡す方法です。
この際の「代償」とは、「代わりに支払う」という意味です。つまり、不動産を取得する相続人が、他の相続人に対して、その不動産が持つ価値に見合ったお金や他の財産を「代わりに支払う」ことを指します。
例えば、相続財産として市場価値が5,000万円の不動産と、3,000万円の預貯金が遺されたとします。これを2人の相続人が分割する場合を考えます。
仮に、1人の相続人が不動産全体を引き継ぐことになった場合、その価値は5,000万円です。もう1人の相続人が3,000万円の預貯金を引き継いだとしても、不動産を受け取った相続人との間で2,000万円の価値の差が生じます。このような場合に代償分割を活用します。
不動産を引き継ぐ相続人は、もう1人の相続人に対して、この2,000万円の差額を補填するために1,000万円を代償金として支払うことになります。これにより、1人が5,000万円の不動産を受け取り、もう1人が4,000万円(3,000万円の預貯金と1,000万円の代償金)を受け取ることになり、全体として公平な遺産分割を行うことができます。
このように代償分割では、不動産などの分割しにくい財産を引き継ぐ相続人が、他の相続人に対してその価値の差額を金銭で補填することで、遺産の公平な分割を実現することができます。
なお、遺産分割には4つの分割方法があります。どの方法で遺産を分割するかは相続人同士の話し合いで決定します。
他3つの分割方法について、下で簡単に解説いたします。
代償分割以外の遺産分割の方法
遺産分割には4つの方法がありますが、それぞれメリットとデメリットがあります。
分割方法 |
概要 |
メリット |
デメリット |
---|---|---|---|
代償分割 |
一部の相続人が遺産の一部(例えば不動産)を取得し、他の相続人にその価値に相当する代償金を支払う方法。 |
・分割しにくい財産の取扱いが容易になり、公平な分配を実現できる。 ・不動産などの財産を現物のまま残せる。 ・相続税を軽減できる。 |
・代償金の決め方が難しく、相続人間でもめやすい。 ・代償金の支払いには現金が必要となるため、資金調達が必要。 ・贈与税が発生することがある |
現物分割 |
遺産をそのままの形(現物)で相続人間で分ける方法。 |
・財産に対する個人的な愛着を考慮できる。 ・売却や評価の手間が省け、処理が比較的簡単。 |
・ 遺産の価値が均等に分配されない場合が多く、平等な分割が難しい。 ・物理的に分割不可能な財産の場合、相続人全員の同意を得るのは難しい。 |
換価分割 |
遺産を売却して現金化し、その現金を相続人間で分ける方法。 |
・遺産の価値を等しく分けることが容易。 ・現金化により、各相続人がその資金を自由に利用できる。 |
・市場価格の変動リスクがあり、適切な時期や価格での売却が必要。手間がかかる。 ・税金や手数料などの追加費用がかかる |
共有分割 |
遺産を相続人全員の共同所有とする方法。 |
・売却したくない場合や、家族で遺産を共有したい場合に適している。 ・費用や手間がかからない |
・共有による運用や管理の決定で意見の不一致が生じやすい。 ・将来的に分割を望む場合、共有者全員の合意が必要となる。 |
以上のように、各分割方法にはそれぞれのメリットとデメリットがあり、相続財産の状況や各相続人のニーズに合わせて最適な方法を選択する必要があります。
次に、代償分割のメリットとデメリットについてより詳しく解説していきます。
代償分割のメリット
代償分割のメリットとして、以下の4つが挙げられます。
- 公平な遺産分割ができる
- 不動産などの財産を売却せずそのまま残せる
- 不動産の共有名義を避けられる
- 相続税の負担を軽減できる
これについて、以下でわかりやすく解説していきます。
公平な遺産分割ができる
遺産には、金銭や預貯金のように簡単に分けられる財産もあれば、家や土地のように分割が難しい財産もあります。全員が納得する方法で遺産を分けることは、相続人間での争いを避けるためにも非常に重要です。
代償分割では、不動産などの分割しにくい財産を取得したい相続人が、財産を取得する代わりにその財産の価値に相当する金銭や他の財産を他の相続人に支払います。
これによって、相続人全員が法定相続分に応じた遺産を取得することが可能になります。
不動産などの財産を売却せずそのまま残せる
家族が長年住んできた家や土地など、思い出の詰まった不動産は単純に金銭価値だけでは測れない思い出や歴史を持っています。換価分割では、売却して現金化することになるため、せっかくの財産を失うことになります。また現物分割では不動産を細分化することになるため、価値を損ねてしまいます。
代償分割では、相続人の一人がその不動産を取得し、他の相続人に対してその価値に相当する代償を支払うことになります。この方法により、家や土地を売却する必要がなくなり、財産を手もとに残しておくことができます。また、不動産の価値は変動するため、手もとに置いておくことで適切なタイミングで売却することができることもメリットのひとつです。
不動産の共有名義を避けられる
共有分割によって不動産などの財産が複数の相続人によって共有される場合、共有名義となります。共有名義には、管理や将来の売却、利用に関して相続人間で意見の対立が生じる恐れがあります。例えば、ある相続人が後に売却したいと思っても、共有名義人の税員の同意がない限り売却できません。このような状況は、家族間の関係を悪化させる原因となります。
代償分割することで、家は一人の相続人の単独名義となり、その相続人が自由に管理、利用することが可能となります。
相続税の負担を軽減できる
代償分割により土地を手もとに残しておくと相続税の負担を軽減できるケースがあります。
例えば、被相続人と同居していた相続人が自宅を相続する場合など、一定の要件を満たせば小規模宅地等の特例が適用されることがあります。この特例により、自宅敷地の評価額が最大で80%まで減額され、結果として相続税の負担が大幅に軽減されます。
重要な点は、この減額特例が適用されるかどうかは、相続する人ごとに判断されるということです。したがって、特例の要件を満たす相続人が自宅を単独で相続することで、全体としての相続税負担を減少させることが可能になります。
同様に、貸付事業用宅地や事業用宅地を相続する場合にも、小規模宅地等の特例が適用されることがあり、これによって土地の評価額が最大で80%減額されるため、相続税が軽減されます。
また、農地を相続した場合には、「農地の納税猶予」の制度を利用できることがあります。この制度を利用すると、農地に対する相続税の支払いを猶予されるため、短期間に大きな現金を用意する必要がなくなり、相続税の負担軽減が見込めます。
代償分割のデメリット
代償分割のメリットとして、主に以下の3つが挙げられます。
- 代償金の計算でもめやすい
- 代償金を払えない場合は選択できない
- 贈与税や所得税が発生する可能性がある
これについて、以下でわかりやすく解説していきます。
代償金の計算でもめやすい
代償分割では、特定の財産(多くの場合不動産)を取得する相続人が、他の相続人に対して支払う代償金の金額を決定する必要があります。この代償金の金額をどのように算出するかで、相続人間でもめやすいという点が大きなデメリットです。
不動産などの財産の評価額は、その価値をどのように評価するかによって大きく異なります。一般的に、不動産の評価には主に以下の二つの方法があります。
- 公示価格(時価): 地価公示法に基づいて公表される、全国の都市計画区域内等に設定された標準地の正常な価格。この価格は市場での取引価格を反映しており、不動産の「時価」として広く認識されています。
- 相続税評価額: 国税庁や各税務署で公表されている、相続税の計算に使用される価格。公示価格の約80%が目安とされることが多いです。
どの評価方法を採用して金額を計算するかについて、相続人間でなかなか折り合いがつかないケースが多いです。
代償金を支払う側(不動産を取得する相続人)は、評価額を低く見積もって代償金の負担を減らしたいと考えがちです。一方で、代償金を受け取る側の相続人は、評価額を高くしてより多くの代償金を受け取りたいと考えます。このような相違が、代償金を計算する際にもめる原因となります。
相続人同士で評価額について折り合いがつかない場合、税理士や不動産鑑定士などの専門家に評価を依頼することが一つの解決策です。専門家による客観的な評価を受けることで、納得いく形で代償金を計算できるでしょう。
相続税評価額の計算方法については、下記記事で詳しく解説しておりますので参照してください。
代償金を払えない場合は選択できない
代償金は、相続する財産の価値が高いほど、その額も大きくなります。
相続人が代償金を用意するだけの資力がなければ、そもそも代償分割は選択できません。
代償金を一度に支払うことが難しい場合は、他の相続人に分割払いの了承を得ることも一つの方法ですが、未払いが生じた場合には相続人間でトラブルが発生する可能性があります。
代償財産は現金以外に、相続人が所有する不動産などを活用することも可能ですが、この場合は贈与とみなされ、贈与税の支払いが必要になることがあります。
代償金を払えない場合は、不動産を売却する換価分割を選択するなど、代償分割以外の遺産分割方法を検討する必要があります。
換価分割について詳しくは、下記記事で解説しておりますので、参照してください。
贈与税や所得税が発生する可能性がある
代償分割をする場合に、予期せぬ税金が発生することがありますのでご注意ください。
例えば、以下のようなケースでは贈与税や譲渡所得税がかかる可能性があります。
- 贈与税が発生するケース:
・支払うべき代償金代以上の金銭や代償財産を渡した場合、その超過分に対して贈与税がかかる可能性があります。
・遺産分割協議書に代償分割の記載がなかった場合、代償金が全額贈与とみなされるリスクがあります。 - 所得税が発生するケース:
・現金以外の財産(例えば、他の不動産)を代償財産として渡した場合、その財産の譲渡により所得税がかかる可能性があります。
代償分割によりかかる税金については、後ほどさらに詳しく解説いたします。
代償分割すべきケース
代償分割を選択した方がよいケースは以下のような場合です。
- 遺産を平等に分配したいと考える場合
- 遺産が不動産のみで構成される場合
- 一つの財産を特定相続人に集中させたい場合
- 自宅を継ぎたい同居の相続人がいる場合
- 次世代への事業継承が必要な場合
- 事業関連不動産の継承を計画している場合
遺産を平等に分配したいと考える場合
相続人間で公平に遺産を分けたい場合におすすめです。代償分割によって、財産の価値に見合った代償金を支払うことで、相続人それぞれが公平に財産を受け取ることができます。
遺産が不動産のみで構成される場合
遺産が不動産のみで、現金や預貯金など他の現物分割しやすい財産がない場合、代償分割によって不動産を特定の相続人が相続し、他の財産を代償金として支払うことで各相続人が公平に財産を受け取ることができます。
一つの財産を特定相続人に集中させたい場合
分割が困難な不動産や事業などを特定の相続人が引き継ぎ、遺産をそのまま残しておきたい場合には代償分割がおすすめです。代償分割で財産を特定の相続人が相続し、他の相続人へは代償金で補償します。
自宅を継ぎたい同居の相続人がいる場合
被相続人と同居していた相続人が自宅を引き継ぎたい場合、代償分割によってその相続人が自宅を単独で相続し、他の相続人に対してその価値に見合う代償を支払うことができます。これにより、その家で生活を続けることができ、他の相続人も代償金を受け取れるため遺産の公平な分配が可能となります。
次世代への事業継承が必要な場合
家族経営の事業などを引き継ぐ場合も代償分割がおすすめです。ある相続人が会社を引き継ぐために自社株を相続したい場合、その他の会社を引き継がない相続人に対して代償金を支払います。
これによって、事業用の不動産や資産を失うことなく、他の相続人にも公平な遺産分割が可能となります。
代償金の決め方
代償金とは代償分割で支払う金銭のこと
相続する財産が主に土地や建物のように分割が難しいもので構成されている場合、兄弟間で遺産をどのように分ければ誰にも不公平が生じないかが問題になります。不動産のような財産を直接引き継ぐ代わりに、他の相続人に渡すその財産の価値に相当する金銭のことを「代償金」と呼びます。
代償金の金額の決め方│不動産の評価方法に注意
代償金の金額を決定するためには、不動産の正確な評価が不可欠です。
不動産の評価方法には主に「相続税路線価」「公示地価」「固定資産税評価額」「時価」の4つの方法があります。
遺産分割に際しては「時価」、つまり不動産が実際に市場で取引される価格を基準にするのが一般的です。時価は、不動産会社による査定を通じて明らかにします。
評価方法 |
説明 |
---|---|
固定資産税評価額 |
公示価格の約70%に設定されており、固定資産税を計算する際の基準として用いられます。建物の場合は「固定資産税評価額×1.0」が相続税評価額となります。 |
相続税路線価(土地) |
公示価格の約80%とされ、特に相続税や贈与税の計算する際の土地の評価に用いられます。毎年7月に価格が変動します。市場価格の中間値に近く、代償金を決める際にもよく用いられます。 |
公示価格 |
国土交通省によって発表される価格で、不動産の時価、つまり市場での実勢価格をおおむね反映しています。毎年3月に価格が変動します。 |
実勢価格(時価) |
実際の不動産取引における売買価格を指し、不動産会社に査定を依頼するなどして明らかにします。 |
代償金の決め方に関するルールは特にありませんが、代償分割においては、相続人間で代償金の金額について合意に至る必要があります。
評価額が高いと代償金が高額になるため、代償金を支払う相続人は低い評価額を望み、受け取る相続人は高い評価額を望みます。そのため、評価額を決める際はトラブルになりやすいので注意が必要です。
遺産分割協議では、原則として「遺産分割時の時価」を用いて不動産の評価額を決めますが、相続人が一致して合意すれば、相続税路線価や固定資産税評価額を使用することも可能です。
相続人間で代償金の額について合意に至らない場合は、家庭裁判所の調停や審判を通じて金額を決定する方法もあります。調停では裁判所が仲介して、相続人同士で合意できるよう意見を調整して解決を試みます。調停でも解決できず審判に移行した場合は、家庭裁判所が公正な判断を下し、具体的な分割方法が定めれます。
代償分割を選択する際は、不動産の評価方法に注意し、全ての相続人が納得できるような代償金の計算をすることが重要です。
評価額に基づいて代償金の金額を決定
評価額が確定すれば、その基準に基づいて代償金の計算を行うことができます。
不動産を取得したい相続人は、評価された不動産の価値に基づいて、他の相続人に対して法定相続分に足りない分を補填する形で代償金を支払います。代償金の支払いが完了すれば、代償分割は正式に完了します。
代償金の決め方の注意点
代償金の決め方には明確なルールが存在しないため、代償分割を行う際には相続人間での十分な話し合いが必要です。
主に、不動産など分割しにくい財産の評価額と相続人の法定相続分を基に代償金額を決定しますが、全員の合意があれば、原則的な計算方法に従わなくても構いません。
つまり、完全に平等になるような金額の代償金を支払わなくても相続人全員が合意すれば、その金額で代償分割が成立します。
例えば、父親の遺した2,500万円の土地を長男が相続し、次男が500万円の現金を相続するケースを考えます。本来ならば長男は次男に1,000万円の代償金を支払う必要がありますが、長男の手元に十分な資金がなく700万円しか用意できない場合、その金額で次男が了承すれば700万円で合意に至ることが可能です。
ただし、相続人全員の合意のもとで決定された場合でも、その金額によっては贈与税が発生することがありますので注意が必要です。
たとえば、不動産を取得する相続人が他の相続人に対して支払う代償金が、法定相続分に応じた計算額を大きく超過していた場合などは、その差額が贈与とみなされる可能性があります。
税金のことを考慮すると、相続財産の総額と相続人の法定相続分に基づいて、大きく逸脱しないように慎重に計算することが重要です。
代償財産とは│支払いは現金以外でもよい
代償財産とは、遺産分割の際に、家や土地のような分けにくい財産を一人の相続人が単独で引き継ぐために、他の相続人に公平を保つ目的で提供される財産のことです。この時、特定の財産を手に入れる相続人は、その財産と同等の価値がある何かを他の相続人へ渡します。この時、この「同等の価値がある何か」は現金だけでなく、他の財産でも良いとされています。
例えば、兄弟が遺産を分け合うケースを考えましょう。長男が家族の家を相続する一方で、長男には代償金に相当する現金がない場合、自身が所有する別の土地や株式を次男に提供することで、代償分割を行うことが可能です。この場合、土地や株式が代償財産となり、次男はこれを受け取ることで長男が家を単独で相続することを認めることになります。
代償財産を使用する際の注意点は、代償財産の価値を正確に評価することです。また、提供される財産が将来的に贈与税の対象とならないよう、遺産分割協議書には代償財産の詳細とその評価額を明記することが重要です。
また、現金以外の代償財産を渡す場合は、譲渡とみなされて譲渡所得税が課税される恐れもあります。これについては後で詳しく解説します。
代償分割をする場合の遺産分割協議書の書き方
遺言書がある場合は、遺言にの内容のとおりに遺産分割がされますが、遺言書がない場合は相続人全員による遺産分割協議が必要です。
遺産分割協議では、相続人全員が集まり相続財産の分け方について話し合い、合意した内容を遺産分割協議書として書面に残します。遺産分割協議書は相続手続きにおける様々な場面で必要となりますので必ず作成しましょう。
作成する際は、遺産分割協議書に代償分割に関する詳細(代償財産の種類、金額、支払期限など)を正確に記入することで、後日、その支払いが贈与と誤解されて贈与税が課税されずに済みます。
遺産分割協議書に代償分割の記載がない場合、税務当局は代償金の支払いを贈与とみなす可能性があり、その結果、不必要な贈与税が課税される恐れがあります。
代償分割をする際は、必ず遺産分割協議書にその旨を記載するようにしましょう。
以下は記載例です。参考に遺産分割協議書を作成してください。
遺産分割協議書
本籍 静岡県静岡市〇〇区〇〇
最後の住所 静岡県静岡市〇〇区〇〇
被相続人 〇〇○○(令和〇年〇月〇日死亡)
□□□□(以下「甲」という。)及び△△△△(以下「乙」という。)は、被相続人の遺産について、本日、遺産分割協議を行い、本書のとおり合意した。
1.甲は、次の不動産を取得する。
(土地)所在○○区○○台○丁目
地番○番○
地目宅地
地籍○○.○㎡
(建物)・・・・・・
2.甲は、乙に対し、令和〇年〇月〇日限り、前項の遺産取得の代償として各●●●万円を、乙の指定する口座(●●銀行○○支店普通預金、口座番号○○○○、口座名義△△△△)に振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。
3.この遺産分割協議書に記載した遺産以外に、新たに被相続人の遺産が発見されたときは、甲及び乙はその分割方法について協議する。
以上のとおり、相続人全員による遺産分割が成立したので、本協議書を2通作成し、署名押印のうえ各自1通保管する。
令和〇年〇月〇日
【甲】 住所
氏名 実印
【乙】 住所
氏名 実印
代償分割するときの相続税の計算方法
代償分割を行う場合の相続税の計算方法ですが、通常の場合と大きく変わりはありません。
ただし、相続人それぞれの課税価格を計算する際は注意が必要です。代償分割の対象となった不動産をどのように評価したかによって、相続税の計算方法は2つありあます。
相続税評価額をもとに代償金を決めた場合
- 代償金を支払った人の課税価格
課税価格=相続または遺贈により取得した現物の財産の価格(相続税評価額)ー代償金の額 - 代償金を受け取った人の課税価格
課税価格=相続または遺贈により取得した現物の財産の価格(相続税評価額)+代償金の額
時価をもとに代償金を決めた場合
- 代償金を支払った人の課税価格
課税価格=相続税評価額―代償金の額×(相続税評価額÷代償分割時の時価) - 代償金を受け取った人の課税価格
課税価格=相続税評価額+代償金の額×(相続税評価額÷代償分割時の時価)
具体例①相続税評価額をもとに計算した場合の課税価格
相続人が長男と次男の二人だった場合を考えます。長男が相続を通じて、相続税評価額が8,000万円の不動産を手に入れることになりました。その代償として、次男に4,000万円の代償金を支払うケースを想定します。
この状況で、相続税の計算は次のようになります。
- 長男の課税対象金額: 不動産の相続税評価額8,000万円ー代償金4,000万円=4,000万円
- 次男の課税対象金額: 代償金4,000万円
具体例②時価をもとに計算した場合の課税価格
相続人が長男と次男の二人だった場合において、長男が相続税評価額が8,000万円、市場の時価が1億円の不動産を手に入れることになりました。その代償として、次男に4,000万円の代償金を支払うケースを想定します。
この状況では、相続税の計算は次のようになります。
- 長男の課税対象金額: 不動産の相続税評価額8,000万円ー代償金4,000万円×(8,000万円÷時価1億円)=4,800万円
- 次男の課税対象金額: 代償金4,000万円×(8,000万円÷1億円)=3,200万円
代償分割で贈与税や譲渡所得税がかかる場合がある?!
代償分割では原則として贈与税は課税されない
代償分割は遺産分割の方法のひとつであり、特定の財産を相続する代わりに、その価値に見合った金額を他の相続人に支払う方法です。そのため、債権債務の相殺と見なされ、贈与とは異なり原則として贈与税は課税されません。
しかし、いくつかのケースでは贈与税が課税される可能性があるため、注意が必要です。
まず、遺産分割協議書に代償分割の内容が適切に記載されていない場合、贈与とみなされるリスクがあります。
そのため、遺産分割協議書には「相続人甲が不動産を取得する代わりに、相続人乙に金額○○万円を支払う」といった具体的な表現で、代償分割があったことを明確に記載することが重要です。
また、相続した財産の価値よりも代償金が多い場合にも贈与税が課税されることがあります。例えば、相続人の一人が時価1,000万円の土地を相続し、別の相続人に1,500万円の代償金を支払う場合、500万円の超過分に関しては贈与とみなされ、その部分に対して贈与税が課税されます。これは、相続財産の価値を超える金額を支払っていることから、相続ではなく経済的利益の移転ととらえることができるためです。
代償分割では譲渡所得税が課税される場合がある
代償分割を行うとき、現金ではなく不動産を代償財産として渡したときは、譲渡所得税が課税される可能性があります。
譲渡所得税とは、土地や建物などの資産を譲渡した時に得られた利益に対して課される税金のことです。
代償分割の対象となる不動産の取得価格よりも分割時の時価が上回ると、その価格差が利益としてみなされて、結果として譲渡所得税の対象となります。
例えば、相続財産が、土地が9,000万円、現金が2,000万円で遺産分割の結果、長男がその土地を、次男が現金をそれぞれ相続することになったとします。
その代わり、長男が自分が所有している別の土地を次男への代償として渡すことになったとします。この所有地の取得費は3,000万円、市場での時価は3,500万円、所有していた期間は8年です。
長男がこの所有地を3,500万円で次男に提供することで、双方が受け取る遺産の価値は5,500万円と均等になります。しかし、長男にとっては3,000万円で購入した土地を3,500万円で譲渡したことになるため、500万円の利益(譲渡所得)が発生したと見なされます。この利益に対して譲渡所得税が課されることになります。
代償分割に関するQ&A
Q1: 代償分割のメリットは何ですか?
A1: 代償分割のメリットとして、以下の4つが挙げられます。特に、不動産などの分割しにくい財産を公平に分割したい場合に有効です。
- 公平な遺産分割ができる
- 不動産などの財産を売却せずそのまま残せる
- 不動産の共有名義を避けられる
- 相続税の負担を軽減できる
Q2: 代償金のデメリットは何ですか?
A2:代償分割の主なデメリットとして、以下の3つが挙げられます。最も顕著なのは、代償金の決め方について、相続人間での意見が異なることが多くトラブルになりやすいことです。
- 代償金の計算でもめやすい
- 代償金を払えない場合は選択できない
- 贈与税や所得税が発生する可能性がある
Q3: 代償分割の際、現金以外の財産を代償財産として使用することは可能ですか?
A3: はい、可能です。代償分割では、相続人間での合意があれば、現金だけでなく不動産や株式などの他の財産を代償財産として使用することができます。ただし、現金以外の財産を使用する場合は、譲渡所得税が発生する可能性があるため、税務上の影響を事前に確認することが重要です。
Q4: 代償分割で代償金を支払う際に贈与税が課税されるケースは?
A4: 代償分割は債務の清算とみなされるため、通常は贈与税が課税されません。しかし、代償金の額が相続財産の価値を超えた場合や、遺産分割協議書に代償分割の内容が明確に記載されていない場合には、贈与税が課税されるリスクがあります。
まとめ
代償分割は、不動産など分割しにくい財産があるときに、財産を平等に分配する一つの方法です。
ただし、代償金の決め方に関して、不動産の評価方法などで意見が対立するケースも多くあります。
相続人同士で意見が合わない場合や、トラブルが起こっている場合は弁護士に相談することを強くおすすめします。弁護士は遺産分割に関する専門知識を持っており、適切なアドバイスを受けることができます。特に、遺産分割の話し合いやトラブルの解決は、弁護士にしか対応できない問題です。
相続人同士だけで話し合いを進めると、知識不足により話が進まなかったり、意見が合わないことがあるのは当然です。しかしこれが原因で、相続人同士の関係性が悪化することもあり得ます。第三者である弁護士を交えることで、話し合いに明確な方向性を持たせ、スムーズかつ公平な遺産分割を実現することが可能になります。代償分割を検討している方は、まずはお早めに弁護士にご相談ください。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。