被相続人の兄弟姉妹には遺留分がない?│遺言書によって遺産を渡さない方法とは

遺産分割

遺留分

更新日 2024.10.02

投稿日 2024.01.25

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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ご自身の兄弟姉妹が亡くなられたとき、どのくらいの財産がもらえるのか、よく分からないといった方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
被相続人(亡くなった人)の兄弟姉妹は、法定相続人になることはできますが、遺留分の権利は認められていません。また、兄弟姉妹の子(甥・姪)にも、遺留分はありません。

「遺留分」とは、遺言者の意思によっても奪われない相続分のことをいい、兄弟姉妹以外の相続人である配偶者、子供、直系尊属(被相続人の父母、祖父母)には、遺留分が存在します。
したがって、被相続人が、「全財産を妻に相続させる」「全財産を○○へ寄付する」などといった遺言を遺していた場合、被相続人の兄弟姉妹は遺留分を請求できないため、財産をもらうことができません。

被相続人から財産をもらいたい場合は、遺言書にその旨記載してもらう必要があります。
本記事では、相続における兄弟姉妹の遺留分について解説します。

目次

被相続人の兄弟姉妹には遺留分がない!│子供(甥・姪)は?

被相続人の兄弟姉妹には遺留分がない

被相続人の兄弟姉妹には、遺留分がありません。民法第1042条では、遺留分について、以下の通り定められています。

(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

遺留分とは、遺言者の意思によっても奪われない相続分のことをいい、兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分が存在します。

兄弟姉妹の子供(甥・姪)にも遺留分はない

兄弟姉妹の子供(甥・姪)にも、遺留分はありません。
そもそも、甥や姪の親である、被相続人の兄弟姉妹に遺留分が認められないのですから、その子供である甥・姪にも遺留分はありません。

配偶者、子、直系尊属(被相続人の父母、祖父母)には遺留分がある

遺留分の権利を持つのは、兄弟姉妹を除く法定相続人、すなわち、配偶者、子供、直系尊属(被相続人の父母、祖父母)といった相続人ということになります。
遺留分を有する人のことを遺留分権利者といい、遺留分を侵害する遺贈や贈与があった場合、遺留分権利者は、受遺者または受贈者に対し、遺留分侵害額を請求することができます。
兄弟姉妹やその子供(甥・姪)には、この遺留分侵害額を請求する権利がありませんので、注意しましょう。

兄弟姉妹が法定相続人になっても遺留分は認められない

兄弟姉妹は、法定相続人(民法で定められた被相続人の財産を相続できる人)になることはできます。
例えば、被相続人に配偶者、子供や孫、親や祖父母がおらず、兄弟姉妹がのみの場合や、兄弟姉妹以外の法定相続人が全員相続放棄した場合は、兄弟姉妹が法定相続人になります。

しかし、兄弟姉妹が法定相続人になったとしても、遺留分は認められないのです。
原則として、遺言は法定相続分より優先されますので、遺言書の内容次第では、被相続人の兄弟姉妹がまったく財産をもらえない可能性があります。

兄弟姉妹に遺留分が認められないのはなぜ?

被相続人の兄弟姉妹に遺留分の請求が認められない理由は、被相続人の親や子どもに比べて、比較的つながりが浅いことが理由として考えられます。
相続が発生(被相続人が死亡)すると、配偶者は必ず相続人となります(民法第890条)。そして、配偶者以外の人は、「被相続人に近しい人」から、以下の順序で配偶者と一緒に相続人になります。

  • 第1順位:子(民法第887条)※子が既に死亡しているときは、その者の直系卑属(子や孫など)
  • 第2順位:父母や祖父母などの直系尊属(民法第889条)
  • 第3順位:兄弟姉妹(民法第889条)

つまり、被相続人に、子や孫、親や祖父母がすべていない場合でなければ、兄弟姉妹は法定相続人になれません。法定相続人になる方の中では、「被相続人との関係が遠い」のです。
兄弟姉妹は、子供の頃は一緒に過ごすものの、大人になるとそれぞれが自立していることが多く、法定相続人としての順位が最後に位置付けられています。

このような「被相続人との関係の遠さ」が、兄弟に遺留分が認められていない理由のひとつでしょう。
また、兄弟姉妹の場合、配偶者や子と比べて、被相続人と生計が別であるケースが多いというのも、兄弟に遺留分が認められていない理由のひとつとして考えられます。
そもそも遺留分とは、残された遺族の生活を保障することが目的であるからです。

「遺留分とは」について、詳しくは下記記事で解説しております。あわせて参照してください。

配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合の遺留分は?│ケース別に解説

配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合の遺留分│子なし・両親なし

被相続人に子供がおらず、両親が既に亡くなっているなど、法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合、遺留分はどうなるのでしょうか。
被相続人に配偶者がいても、子供や孫、親や祖父母がおらず、兄弟姉妹がいる場合には、兄弟姉妹が法定相続人になります。
この場合の法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。

一方で、兄弟姉妹が相続人だとしても、法律上、兄弟姉妹には遺留分の請求が認められていません。
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合、遺留分の合計は遺産の2分の1ですが、遺留分の権利を配偶者と兄弟姉妹で分け合うことが不要ですので、配偶者の遺留分は遺産の2分の1となります。

【具体例】遺産の合計額が4000万円の場合│相続人:配偶者と兄弟姉妹

 

遺産の合計額が4000万円の場合│相続人:配偶者と兄弟姉妹

 

  • 配偶者の法定相続分:1500万円
  • 兄弟姉妹の法定相続分:500万円
  • 配偶者の遺留分:2000万円
  • 兄弟姉妹の遺留分:0円

このようなケースで、被相続人が遺言書で「遺産を全て配偶者に渡す」と記載していた場合、兄弟姉妹には遺留分の権利がありませんので、遺産を取得できなくなります。
また、被相続人が遺言書で「遺産を全て愛人に渡す」と記載していた場合、配偶者には遺留分の権利があるため、愛人に対して遺留分を請求をすることができます。一方で、兄弟には遺留分がありませんので、愛人に対して遺留分の請求をすることができません。

兄弟姉妹のみが相続人の場合の遺留分│配偶者なし・子なし、独身など

妻に先立たれて妻も子供もいない場合や、ご自身が独身の場合はどうなるのか考えてみましょう。
相続人が兄弟姉妹のみである場合、兄弟姉妹の法定相続分は遺産の全てです。
兄弟が複数人いる場合は、遺産の全てを兄弟の数で割ります。

一方で、法定相続人が兄弟姉妹のみの場合であっても、兄弟姉妹に遺留分がないことに変わりはありません。

【具体例】遺産の合計額が4000万円の場合│相続人:兄弟姉妹のみ

  • 兄弟姉妹の法定相続分:4000万円
  • 兄弟姉妹の遺留分:0円

このようなケースで、仮に、被相続人が遺言書で「遺産を全て愛人に渡す」と記載していた場合、兄弟には遺留分が認められないので、愛人に対して遺留分の請求をすることができません。

遺留分を渡さなくていい方法とは?│遺言書の活用

遺言を遺せば兄弟姉妹に遺産を渡さなくていい

兄弟姉妹に遺産を渡したくない場合の対策には、次のようなものがあります。

  1. 財産を兄弟姉妹以外に相続させる旨の遺言を遺す。
  2. 財産を特定の団体などに寄付する遺言を遺す。

1.財産を兄弟姉妹以外に相続させる旨の遺言を遺す。

1つ目は、財産を兄弟姉妹以外に相続させる旨の遺言を遺す方法です。
例えば、「全財産を妻に相続させる」といった遺言など、相続財産を兄弟姉妹以外に相続させる旨を遺言として遺しておけば、その兄弟姉妹に対して遺産を渡さなくて済みます。
被相続人の兄弟姉妹は遺留分を請求する権利がありませんので、遺言の作成により、兄弟姉妹の相続分をなしとすることが可能です。

2.財産を特定の団体などに寄付する遺言を遺す。

2つ目は、財産を特定の団体などに寄付する遺言を遺す方法です。
遺言において指定をすれば、相続人以外の福祉団体や研究機関など、特定の団体などに被相続人の遺産を渡すことができます。
配偶者も子もいない場合や、独身の場合で、兄弟姉妹に遺産を渡すのではなく、全額を寄付したいと考える人もいるでしょう。
このような場合には、法定相続人以外の特定の団体などに寄付する遺言を遺して、兄弟姉妹に財産を渡さないといった方法をとることもできます。

遺言と遺留分の関係

遺言の内容は、法定相続分や遺産分割協議に優先します。
遺言書は亡くなった方の最後の意思表示であるため、優先度が非常に高いのです。
このように、遺留分を認めない方法として、「遺言」は大きな役割を果たします。
以下では、具体例を用いて、遺言によって兄弟姉妹に遺産を渡さない方法について解説します。

【具体例】
被相続人には子がおらず、両親もすでに他界している。配偶者と兄がおり、この2人が法定相続人となっている。被相続人によって遺言書が正式に残されており、配偶者に全遺産を渡す旨の内容を記載していた。

この場合、法定相続人は被相続人の配偶者と被相続人の兄の2人ということになり、遺言がない場合は、法定相続分として配偶者が3/4、弟が1/4の遺産を受け取れることになります。

しかし、今回の例では、遺言書が残されていたため、被相続人の遺言どおり、全遺産を妻が相続することになります。遺言書は、法定相続分を無視した相続であっても有効となるからです。
被相続人の兄弟姉妹には遺留分を請求する権利がありませんので、このような遺言書が遺されていたとしても、兄は遺産について何の権利も主張することはできません。

遺言書がない場合のリスク

配偶者と兄弟姉妹の関係はいわば他人ですから、上記の例のように、配偶者と兄弟姉妹との相続については比較的争いが起きやすいといえます。
遺言が遺されてない場合は、相続人である配偶者と兄弟姉妹が遺産分割協議で話し合いをする必要があります。
配偶者と兄弟姉妹の関係性が悪いと、遺産分割協議の段階で揉めることも想定されます。

遺言書があっても兄弟姉妹が納得しない場合

兄弟姉妹が遺留分制度の理解をしておらず、自身の兄弟が亡くなれば当然遺産を受け取れる立場にあると思っているような場合など、正式な遺言書が遺されていたとしても、遺言によって遺産を受け取れなかった兄弟姉妹が不満に思ってトラブルになることがあります。
場合によっては、遺言の有効性を争って訴訟を提起してくるかもしれません。

遺留分のない兄弟姉妹が遺産をもらえない場合│対処法は?

兄弟姉妹が遺産をもらえない場合の対処法

兄弟姉妹は相続人になることはできても、遺留分を請求できないことがわかりました。
以下では、遺留分ではないものの、兄弟姉妹が遺産もらうための方法をご紹介します。

  • 対処法①│遺言書の無効を主張する
  • 対処法②│寄与分を請求する
  • 対処法③│遺言を遺してもらう

対処法①│遺言書の無効を主張する

本来は相続人に該当するはずが、遺言によって財産がもらえない場合、「遺言書無効」を主張ができるかどうか検討しましょう。
前項で説明した通り、被相続人が遺言書を遺していた場合、遺産分割は遺言の内容に沿って行われるのが原則です。
ただし、遺言の有効性に疑義が生じる場合は、無効となることがあります。
遺言書が無効となるケースには、次のようなものがあります。

自筆証書遺言の場合

  • 遺言者の氏名の記載がない
  • 日付の記載がない
  • 押印がない
  • 加筆・修正の方法が適切でない
  • 遺言の記載内容が不明確

公正証書遺言の場合

  • 遺言作成当時の遺言者に遺言能力がない
  • 証人になれない人が立ち合いしていた場合

遺言書の無効を主張する場合には、まず家庭裁判所へ「遺言無効確認調停」を申し立てます。調停で結論が出ず、不成立となった場合は、地方裁判所へ「遺言無効確認訴訟」を提起することになります。
遺言書の無効の判断や手続きは、専門家でないと対処することが難しいケースが多いため、弁護士に依頼されることをおすすめします。

対処法②│寄与分を請求する

相続人には、相続分のほかに、「寄与分」という取り分があり、相続分に加えられることがあります。「寄与分」とは、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした人が、本来の相続分とは別に寄与分を相続財産の中から取得できる制度です。
寄与分は、民法で次の通り定められています。

(寄与分)
第九百四条の二 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

寄与分が認められるケースには、次のようなものがあります。

寄与分が認められるケースの例

  • 被相続人に事業資金を提供したことによって、被相続人が倒産を逃れることができた。
  • 長期療養中の被相続人の看護に努めたことで、被相続人が看護費用の支出を免れた。

兄弟姉妹の立場であっても、被相続人の財産の維持または増加に「特別の寄与」をしたことが認められれば、相続時に「寄与分」を主張することができます。

寄与分について詳しく知りたい方は、下記記事を参照してください。

対処法③│遺言を遺してもらう

兄弟姉妹に財産を遺してもらう方法として、被相続人の生前に、兄弟姉妹に相続させる財産を具体的に示した遺言を作成してもらう方法があります。

ただし、既に説明した通り、遺言の内容が被相続人の妻や子供の遺留分を侵害するものである場合、妻や子供から遺留分を請求され、遺言の内容が覆されるケースがあります。
妻や子供から遺留分が請求された場合、兄弟姉妹は、一度受け取った遺産から、遺留分に相当する金額を妻や子供に対して支払わなければなりません。

このように、兄弟姉妹の取り分が多すぎると、他の相続人から不満が出てトラブルに発展するリスクがあるため、以下のような対策を講じておくとよいでしょう。

  • 兄弟に渡す財産は、妻や子供よりも低い額に設定する。
  • 被相続人の生前に、遺言の内容に不満がないかどうか、相続人全員に確認をしておく。

遺留分と兄弟に関するQA

Q.被相続人の兄弟姉妹や子(甥・姪)に遺留分はありますか?

被相続人の兄弟姉妹には、遺留分がありません。また、兄弟姉妹の子(甥・姪)にも遺留分はありません。
遺留分の権利を持つのは、兄弟姉妹以外の法定相続人である配偶者、子供、直系尊属(被相続人の父母、祖父母)です(民法第1042条)。

Q.妻と兄弟姉妹が相続人の場合の遺留分はどうなりますか?

兄弟姉妹が相続人に含まれていたとしても、法律上、兄弟姉妹には遺留分の請求が認められていません。
したがって、遺留分の権利を配偶者と兄弟姉妹で分け合うことが不要となり、配偶者の遺留分は遺産の2分の1となります。
このような場合に「全財産を妻に相続させる」「全財産を○○に寄付する」などといった遺言が遺されていた場合、兄弟姉妹は財産をもらうことができません。

Q.兄弟姉妹に遺産を渡さなくていい方法はありますか?

兄弟姉妹に遺産を渡したくない場合の対策には、次のようなものがあります。

  1. 財産を兄弟姉妹以外に相続させる旨の遺言を遺す。
  2. 財産を特定の団体などに寄付する遺言を遺す。

被相続人の兄弟姉妹は遺留分を請求する権利がありませんので、遺言の作成により、兄弟姉妹の相続分をなしとすることが可能です。
また、法定相続人以外の特定の団体などに寄付する遺言を遺して、兄弟姉妹に財産を渡さないといった方法をとることもできます。

まとめ

被相続人の兄弟姉妹や、その子供である甥・姪には、遺留分の権利がありません。
遺留分の目的は、遺族の生活保障にあるとされていますので、被相続人との関係の遠い兄弟姉妹は、立場としては弱くなっています。

兄弟姉妹に遺留分がないことは法律で定められていますが、意外と知られていないため、兄弟姉妹が遺言の無効性を主張してきたり、トラブルに発展することもあります。
このようなトラブルを回避するために、生前から兄弟姉妹と十分なコミュニケーションを図っておくことが大切でしょう。

生前にあらかじめ対応策を検討したい場合や、兄弟姉妹が絡む遺留分のトラブルにお困りの場合は、相続に強い弁護士に相談されることをおすすめします。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。