遺産分割協議成立申立書|100万円以下の自動車の相続で遺産分割協議書の代わりになる!

遺産分割

更新日 2025.12.16

投稿日 2024.01.25

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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被相続人の自動車を相続する場合、そのまま使うか売却するかに関係なく、まずは名義変更して自分が車の所有者になる必要があります。

この際に、自動車の査定額が100万円以下の場合、「遺産分割協議成立申立書」という書類を使うことで、名義変更の手続きを効率的に進めていけるのです。

そこでこの記事では、「遺産分割協議成立申立書」とは何か、どういった目的で使われるのか、基本的なことを解説いたします。名称の似ている「遺産分割協議書」との違いや使い分けについても、しっかり確認しておきましょう。

そして、100万円以下の車の名義変更について、遺産分割協議成立申立書を使った具体的な手順や必要書類について説明します。遺産分割協議成立申立書の書き方や入手先についても、記入例をまじえて解説させていただきましたので、ぜひ最後までご覧いただければと思います。

自動車の相続手続きで本記事が少しでもご参考になりましたら幸いです。

目次

遺産分割協議成立申立書

1.遺産分割協議成立申立書とは

遺産分割協議成立申立書とは、相続した自動車の名義変更の手続きにおいて、遺産分割協議書の提出を省略することができる書類です。

通常、車の名義変更を行う際には、「遺産分割協議書」を提出する必要があります。遺産分割協議書を提出することで、名義変更をする相続人が、他の共同相続人の合意によって真に車の相続人となったことを証明するためです。

遺産分割協議書を作成するためには、相続人全員で遺産分割について話し合いをし、署名押印をする必要があります。そのため、相続人が多い場合や、相続人が遠方に住んでいる場合などに、遺産分割協議書を作成するのにたいへんな手間と時間がかかることも珍しくありません。

一方で遺産分割協議成立申立書は、車を相続する人の署名・捺印だけで作成することができます。相続人全員が署名・押印するという手間を省くことができるため、たいへん便利な書類なのです。

ですが、車の相続手続き全般で遺産分割協議成立申立書が使えるわけではありません。具体的には、以下の通り、限定的なケースにおいて有効とされています。

2.査定額100万円以下の自動車の相続で使える

「遺産分割協議書」の代わりに「遺産分割協議成立申立書」での手続きが認められているのは、車の査定額が100万円以下の場合です。

遺産分割協議成立申立書とは

車の査定額が100万円以下の場合は、遺産分割協議書または遺産分割協議成立申立書の、どちらかで名義変更の手続きを進めることができます。

通常、査定額が100万円以下の自動車は、財産としての経済的価値が低いと考えるのが自然です。価値が低い財産の相続手続きについてまで、遺産分割協議書の作成を求めるとなると、労力に見合わないのです。
そのため、100万円以下の自動車については手続きを簡素化できるよう、遺産分割協議成立申立書による名義変更が認められているのです。

なお、車の査定額が100万円以上の場合や、車以外の財産の名義変更(預貯金や土地・建物など)には、遺産分割協議成立申立書を使うことはできません。この場合は、遺産分割協議書を作成する必要があります。

3.すぐに売却・廃車したい時に便利

車の所有者が亡くなった場合は、名義変更しない限り、売却も廃車手続きも行うことができません。したがって、売却や廃車手続きを検討している場合も、原則として遺産分割協議書の提出が必要となります。

この点、査定額100万円以下の自動車の名義変更には遺産分割協議成立申立書を利用できるため、「少額なので早く配車したい、売却を済ませたい」といった場合に、手続きを迅速に進められるのでたいへん便利なのです。

100万円以下の自動車の相続

1.遺産分割協議成立申立書以外の必要書類

100万円以下の車を相続した場合は、遺産分割成立申立書を利用した名義変更手続きが可能です。名義変更手続きは、遺産分割成立申立書と査定書のほかに、車検証や被相続人の戸籍謄本などの必要書類を揃えて、管轄の運輸局に提出します 。

100万以下の普通自動車を名義変更する場合の必要書類は、下表の通りです。

必要書類 目的 入手方法
遺産分割協議成立申立書 相続人全員が自動車の名義変更に同意していることを証明する書類です。 自分で作成
被相続人の戸籍謄本 被相続人と自動車を相続する人の戸籍謄本が必要です。相続関係を証明し、正確な相続権を明らかにするために提出します。 本籍地の市区町村役場
自動車を相続する人の戸籍謄本 本籍地の市区町村役場
自動車を相続する人の印鑑証明書 手続きを行う相続人の印鑑が登録されていることを証明するための書類です。発行から3か月以内のものが必要です。 相続人の住所地の市区町村役場
車検証(自動車検査証) 被相続人名義の自動車について、車両の詳細な情報が記載されている公的な書類です。 運輸支局・軽自動車検査協会
車庫証明書 自動車を保管する場所が適切であることを証明する書類です。新しい所有者の住所に応じたものが必要となります。 警察署
査定額を証明する書類 自動車の査定額が100万円以下であることを示す証明書です。 ディーラー・日本自動車査定協会
委任状 名義変更の手続きを他の人に依頼する場合に必要な書類で、代理権を証明するためのものです。 委任者と受任者とで作成

2.査定書の入手方法

遺産分割協議成立申立書は、車の価格が100万円以下であることが条件です。そのため、査定額が100万円以下であることを証明する必要があります。

査定価格の証明のために有効なのは、「査定書」です。
この場合の査定書とは、査定士の資格を持つ専門家や、その資格を持つスタッフを擁する自動車販売店から発行される、公式な査定書をいいます。

自動車の市場価格などは一般的な中古車販売店のホームページで閲覧することもできますが、こういった情報のコピーなどの簡易的な資料は、査定価格として認められていません。

査定書を入手するには、主に2つの方法があります。

一つは、車の査定を専門で行っている一般財団法人である「日本自動車査定協会」に依頼する方法です。軽自動車は約5,500円、普通自動車の場合はおおよそ1万円の手数料がかかりますが、査定書を発行してもらえます。

他にも、車買取事業者やディーラーでの無料査定が考えられます。こちらは基本的に無料で査定してもらえますが、査定書の発行をしてもらえないこともあるため、注意が必要です。

3.提出前の注意点

次に、遺産分割協議成立申立書の注意点をおさえておきましょう。

3-1.ローンの残額に注意

相続する自動車にローンが残っている場合があります。基本的に、自動車を相続する人がローンを支払っていくことになります。自動車を売却する場合は売却益でローンを返済することも視野に入れておきましょう。
ローンがあるかは、クレジットカードの利用明細や郵便物、通帳の取引履歴などを確認して調べるのが一般的です。

3-2.自動車の保険の名義に注意

相続した自動車を乗って使うのであれば、任意保険(損害保険)の名義も変更する必要があります。
具体的な手続きや必要書類は、保険会社に確認してください。保険の名義変更の際には、遺産分割協議書の提出を求められる可能性もあるため、事前に確認しておくと安心です。

3-3.「陸運局」は統合されて「運輸局」に

ところで、自動車の名義変更手続きは「運輸局」で行いますが、運輸局ではなく「陸運局」の名称で馴染みのある方も少なくないかと思います。

「陸運局」は現在も広く使われている呼称ですが、実際には存在しない組織です。というのも、陸運局はかつて存在した運輸省の行政機関だったのですが、2001年の中央省庁再編による国土交通省の発足にともない、陸運局から「運輸局」へと変わったのです。

遺産分割協議成立申立書の書き方

さて、遺産分割協議成立申立書の使い方を確認したところで、作成方法を見ていきましょう。
遺産分割協議成立申立書には、被相続人の情報、車の詳細情報、相続人の一覧やその同意の旨などを記載することになります。以下で、書式の入手方法から書き方までを確認していきたいと思います。

1.遺産分割協議成立申立書の書式ダウンロード

遺産分割協議成立申立書は、国土交通省のホームページで入手することが可能です。また、最寄りの運輸支局の窓口で直接もらうこともできます。

参考:各種様式(関東運輸局)

管轄の運輸支局等は、事前にこちらで確認しておきましょう。

参考:全国運輸支局等のご案内(自動車検査登録総合ポータルサイト)

 

2.遺産分割協議成立申立書の書き方【記入例】

遺産分割協議成立申立書サンプル

 

  1. (自動車の表示)
    車検証の登録番号と車台番号
    車検証に記載されている、自動車の一意の識別番号を記入します。これにより、該当する自動車が特定されます。
  2. 被相続人の氏名と死亡年月日
    被相続人(亡くなった人)のフルネームと、被相続人が亡くなった正確な日付を記載します。
  3. 車の相続人が決定した日付
    車の新しい所有者が正式に決定された日を記載します。
  4. 各相続人が遺産分割協議成立申立書による申請に同意した日付
    遺産分割協議成立申立書によって自動車の名義変更をすることについて、相続人全員が同意した日付を記入します。
  5. 遺産分割協議成立申立書の提出日
    遺産分割協議成立申立書を提出する予定の日付、または実際に提出した日付を記載します。
  6. 運輸局と運輸支局名
    手続きを行う場所として、運輸局やその下部組織である運輸支局の名称を書きます。
  7. 車を相続する人の氏名と実印
    車の新しい所有者となる人の氏名を記入し、実印で押印します。

作成の際には、記入例を参考にすると安心です。
例えば、下の記入例は東北運輸局福島運輸支局(国土交通省)のホームページに掲載されているものとなります。

遺産分割協議成立申立書

引用:自動車の登録 申請様式(国土交通省)

車検証や被相続人の戸籍謄本等を確認して、正確に記入しましょう。

遺産分割協議成立申立書に関するQ&A

Q1.遺産分割協議成立申立書とは何ですか?

A:遺産分割協議成立申立書とは、相続した自動車の名義変更の手続きにおいて、遺産分割協議書の提出を省略することができる書類です。被相続人が所有していた車の名義変更を行う場合、特にその車の査定額が100万円以下のときに、遺産分割協議成立申立書を利用することで、遺産分割協議書の提出が不要となります。遺産分割協議書は、作成するために相続人全員の署名押印が必要となるため、そうした手間やかかる時間を省くことが可能となるのです。

Q2.車の査定額が100万円を超える場合は使用できますか?

A:いいえ、遺産分割協議成立申立書は、査定額が100万円以下の車の名義変更手続きにおいてのみ使えます。100万円を超える場合には、遺産分割協議書の提出が必要となります。

Q3.遺産分割協議成立申立書の提出先はどこですか?

A:遺産分割協議成立申立書は、最寄りの運輸支局に提出する必要があります。提出先の詳細については、各都道府県の運輸支局のホームページや窓口に掲載されていますので、あらかじめ確認しておきましょう。

まとめ

査定額100万円以下と、比較的少額な自動車を相続する場合、遺産分割協議成立申立書があれば、遺産分割協議書を作成する手間や時間を省略することができます。

この記事では、そんな遺産分割協議成立申立書について、具体的な用途や書き方などを弁護士がご説明させていただきました。これから自動車を相続する方、迷われている方にとって、本記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。

また、弁護士法人あおい法律事務所では、遺産相続に関するお悩みについて、弁護士による法律相談をお受けしております。
法律相談は初回無料で行っておりますので、ぜひお気軽にご利用いただければと思います。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。