相続した不動産を売却する流れとかかる税金│特別控除など税金を抑える方法も
相続した不動産を売却する際には、様々な手続きや税金の問題が絡んできます。特に不動産の売却は、単純な取引ではなく、相続税や譲渡所得税など、複数の税金が関係してくるため、注意が必要です。また、特別控除や特例の適用があれば、税金を抑えることも可能です。
この記事では、相続した不動産を売却する流れと、かかる税金についてわかりやすく解説します。さらに、税金を抑える方法も紹介していきますので、相続不動産の売却を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
相続した不動産を売却するまでの手順
土地を相続する際の手続きの流れは以下の通りです。
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人を確定する
- 相続財産を確定する
- 遺産分割協議で遺産の分割方法を決める
- 名義変更を行う
- 相続税の申告・納付を行う
- 不動産を売却する
- 確定申告をする
それぞれについて、以下で詳しく解説していきます。
①遺言書の有無を確認する
相続が始まったら、まず遺言書があるか確認することが大切です。遺言書があれば、その指示に従って遺産を分けます。遺言書がなければ、法律で定められた相続人が遺産分割協議を行います。
遺言書には「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」の3つの種類があります。自筆証書遺言と秘密証書遺言は、開封する前に家庭裁判所で検認する必要があります。これは、被相続人が自ら書いた遺言書を確認するためです。一方、公正証書遺言は公証役場に保管されているため、検認は不要です。
②相続人を確定する
法定相続人を確定します。法定相続人とは、民法によって定められた、被相続人の財産を引き継ぐ権利を持つ親族のことです。被相続人との続柄によって、優先順位が決まっています。
被相続人の配偶者は、常に法定相続人となります。その他の親族には、相続の優先順位があり、第一順位は直系血族(子供、孫など)、第二順位は直系尊属(親、祖父母など)、第三順位は兄弟姉妹の順に定められています。この順位に従って、相続人が決定されます。
③相続財産を確定する
相続財産には、「プラスの財産」だけでなく、「マイナスの財産」も含まれます。プラスの財産とは、不動産、預貯金、有価証券、保険金などの価値がプラスになるものです。一方、マイナスの財産とは、借金やローン残債、被相続人の葬儀費用など、相続人が負担しなければならないものを指します。
不動産の所有状況を確認するためには、市区町村役場で「名寄帳」の交付を申請します。また、預貯金や有価証券の情報は、被相続人が利用していた金融機関に問い合わせることで確認できます。借金やローンの情報は、契約書や取引明細書を確認することで把握できます。これらの情報をもとに、相続する全財産を記載した財産目録を作成しましょう。
④遺産分割協議で遺産の分割方法を決める
相続財産の調査と法定相続人の確定が完了したら、次は法定相続人全員で遺産分割協議を行います。遺産分割協議では、相続人が何をどれだけ相続するかを話し合います。
特に不動産が相続財産に含まれる場合、その分割方法には注意が必要です。不動産は物理的に分けることができないため、どの相続人がどの部分を取得するか、具体的な分割方法を決める必要があります。不動産の分割方法には、現物分割、共有分割、代償分割、換価分割の4つがあります。
相続人の人数や属性、被相続人が残した財産の内容に応じて、適切な分割方法を話し合います。全員が合意に達したら、その内容を「遺産分割協議書」に記載し、署名と捺印を行いましょう。この協議書は、後々のトラブルを防ぐためにも、非常に重要な書類となります。
分割方法 |
概要 |
メリット |
デメリット |
---|---|---|---|
換価分割 |
相続不動産を売却して現金に換え、その現金を相続人で分割する方法。 |
相続財産の保有が不要な場合に適しており、売却手続きがスムーズになる。 |
適切な時期や価格での売却が必要。 税金や手数料などの追加費用がかかる。 |
現物分割 |
金銭や不動産を現物のまま相続人それぞれが相続する方法。 |
相続不動産を共有名義にしなくて良い。 |
相続財産の内容によっては均等に分割しづらい。 |
代償分割 |
特定の相続人が相続不動産を所有する代わりに、他の相続人に金銭を支払う方法。 |
均等に遺産を分割できる。 |
代償金を自己資産で支払う能力が求められる。 |
共有分割 |
相続不動産を相続人の共有名義で分割する方法。 |
土地・建物の形状をそのままに、共同名義で所有できる。 |
売却・改築時に共有名義人全員の同意が必要。売却予定がある場合はおすすめできない。 |
⑤不動産の名義変更を行う
遺産分割協議で相続不動産の取得者が決まった後、法務局で相続登記を行う必要があります。相続登記とは、不動産の名義を亡くなった被相続人から生きている相続人に変更する手続きです。正式には「相続による所有権移転登記」と呼ばれます。
相続不動産を売却する場合、相続登記は欠かせません。なぜなら、不動産の所有者が自分であることを証明し、対外的に示さなければならないからです。被相続人の名義のままの不動産は、法的に売却することができません。
相続登記を行うためには、遺産分割協議書、相続人の戸籍謄本や住民票など様々な書類が必要です。手続きは複雑なため、不動産登記に詳しい弁護士や司法書士に依頼することをおすすめします。登記が完了すれば、相続人は正式な不動産の所有者となり、売却などの処分が可能になります。
⑥相続税の申告・納付を行う
相続財産の総額が基礎控除額(「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」)を超える場合には、相続税の申告と納税が必要となります。一方、相続財産の総額が基礎控除額内であれば、申告は不要です。
相続税の課税対象金額は、プラスの財産(不動産や預貯金など)からマイナスの財産(借金や葬儀費用など)を差し引いた額からさらに基礎控除額を引いた金額となります。
土地を相続した場合は「小規模宅地等の特例」が利用できることがあります。この特例は、一定の要件を満たす相続人が不動産を取得した場合に相続税を最大80%節税できる特例でう。ただし、「相続税の申告期限まで相続不動産を保有する」必要があります。特例を適用する場合は、相続税の申告期限を過ぎるまで不動産を売却しないようにしましょう。
ただし、配偶者が不動産を取得した場合は、この保有期間の要件は適用されません。
⑦不動産を売却する
相続した不動産を売却するには、いくつかの方法があります。
一つは、知人や親族に直接売却する個人売買です。この方法は、仲介手数料がかからないため、コストを抑えられるメリットがあります。ただし、契約内容の確認や手続きの進め方について、十分な知識がないと難しいでしょう。
もう一つの方法は、不動産会社に仲介を依頼して売却する方法です。この場合、不動産会社が売買の仲介を行い、売却活動や価格交渉、契約手続きなどをサポートしてくれます。仲介手数料が発生しますが、専門的な知識やノウハウを活用できるため、スムーズな売却が期待できます。
さらに、不動産会社に買取を依頼して売却する方法もあります。この場合、不動産会社が直接買い取るため、売却までの時間が短く、確実な売却が可能です。ただし、仲介に比べて買取価格は低くなる傾向があります。
不動産会社に依頼して売却する場合、まずは不動産査定を受けます。査定では、不動産の現状を見て、売却予想額の見積もりを行います。不動産査定は名義変更が完了する前でも受けられるため、スムーズな売却を目指す場合は、早めに査定依頼をすると良いでしょう。
査定から不動産の引き渡しまでは4~5ヶ月ほどはかかると想定しておきましょう。
⑧確定申告をする
不動産を売却して譲渡所得が生じた場合、売却した翌年の2月16日から3月15日までに確定申告を行い、必要な税金を納税する必要があります。この際、税金を軽減するための特例や特別控除の適用申請も確定申告時に行います。
換価分割で不動産を売却した場合でも、譲渡所得があれば、相続不動産を取得した相続人全員が確定申告と納税を行う必要があります。たとえ相続登記の時点で代表者1人の名義であったとしても、売却代金の分配を受け取った時点で、全員が「不動産の売却をした」とみなされるためです。
譲渡所得税には、税金を大幅に軽減できる特例や特別控除があります。これらを適用することで、税金が0円になることもありますが、特例を適用しても確定申告は必要です。条件を満たす場合は、相続人がそれぞれ忘れずに申請しましょう。
なお、確定申告は複雑な場合が多いので、不明点があれば税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
相続した不動産を売却した際にかかる税金
相続した不動産を売却すると以下のような税金がかかります。
- 譲渡所得税
- 登録免許税
- 印紙税
それぞれについて詳しく解説いたします。
譲渡所得税
不動産を売却した際に利益が出た場合、その利益に対して所得税と住民税がかかります。これらの税金を合わせて「譲渡所得税」と呼びます。譲渡所得税が課税されるのは、原則として、不動産の購入価格よりも売却価格が高い場合です。
譲渡所得税の計算は以下の式で行います。
ここで、「収入金額」とは売却によって得た金額のことを指します。
「取得費」とは、不動産を購入した際の価格やその際にかかった手数料、相続時に支払った登記費用などを合算した金額です。ただし、遺産分割に伴う訴訟費用や弁護士費用は含まれません。
「譲渡費用」には、不動産売却のために直接かかった費用(仲介手数料や測量費など)が含まれますが、修理費や維持管理費は含まれません。
特別控除額は、不動産の種類や売却の理由によって異なりますが、相続した不動産を売却する場合、最大3,000万円が控除されることがあります。これについては、後ほど詳しく解説いたします。
課税譲渡所得金額に適用される税率は、不動産を所有していた期間によって異なります。なお、所有期間とは、被相続人が所有を開始してから売却した年の1月1日までの期間です。
種類 |
所有期間 |
税率 |
内訳 |
---|---|---|---|
短期譲渡所得 |
5年以下 |
39.63% |
所得税: 30.63% + 住民税: 9% |
長期譲渡所得 |
5年を超える |
20.315% |
所得税: 15.315% + 住民税: 5% |
譲渡所得税について詳しくは、国税庁のホームページ「土地や建物を売ったとき」を参照ください。
印紙税
不動産売買契約を締結する際には、契約書に印紙税がかかります。印紙税は、契約書に記載された契約金額に応じて、段階的に増加する税金です。例えば、相続した実家を5000万円で売却する場合、契約書には3万円の印紙税が必要となります。
契約金額 |
軽減税額 (令和6年3月31日まで) |
本則税額 (令和6年4月1日以降) |
---|---|---|
1万円未満 |
0円(非課税) |
0円(非課税) |
10万円以下 |
200円 |
200円 |
10万円超50万円以下 |
200円 |
400円 |
50万円超100万円以下 |
500円 |
1,000円 |
100万円超500万円以下 |
1,000円 |
2,000円 |
500万円超1,000万円以下 |
5,000円 |
1万円 |
1,000万円超5,000万円以下 |
1万円 |
2万円 |
5,000万円超1億円以下 |
3万円 |
6万円 |
1億円超5億円以下 |
6万円 |
10万円 |
5億円超10億円以下 |
16万円 |
20万円 |
印紙税の支払いは、金融機関での手続きではなく、郵便局などで購入した印紙を契約書に貼り付け、消印することで完了します。契約書を売主と買主の双方で保管する場合、契約書ごとに印紙税が必要です。つまり、契約書を2部作成した場合、印紙税は2倍となります。
節税のためには、契約書の正本を1部だけ作成し、印紙を貼り消印した後、そのコピーを作成する方法が一般的です。この方法を用いることで、印紙税の支払いを1回分に抑えることができます。
かかった税金は相続人全員で支払う
相続不動産の売却に関連する税金は、原則として、相続人全員がそれぞれ負担します。例えば、換価分割のように財産を現金化して分割する場合、代表者が相続登記を行い、登録免許税や印紙税を立て替えることがありますが、これらの費用は最終的に相続人全員で分担することになります。
また、譲渡所得税についても、相続人それぞれが自分の受け取った売却益に対して確定申告を行い、納税する必要があります。たとえ自身が売却の主導権を持っていなかったとしても、相続人として受け取った売却益があれば、確定申告は必須です。
相続不動産を売却する時に適用できる特別控除│3年以内に売却を
相続によって取得した土地や建物を売却し、利益が出た場合、譲渡所得税がかかります。しかし、特定の条件を満たせば、下で挙げるような特例を利用して税金を軽減できる可能性があります。
- 空き家を売却した場合の3,000万円特別控除
一定の条件を満たす空き家を売却した場合、譲渡所得から3,000万円を控除できる特例です。 - 居住用財産(マイホーム)を売却した場合の3,000万円特別控除
自宅などの居住用財産を売却した場合、譲渡所得から3,000万円を控除できる特例です。 - 取得費加算の特例
譲渡所得税の計算時に、相続税額に基づいて算出された一定の金額を取得費に加えることができる特例
これらの特例を適用するためには、「相続から3年以内に売却すること」という条件が設けられています。(③は相続税の申告期限から3年以内。)
つまり、相続不動産を売却する場合、3年以内に売却することが税金を抑える上でおすすめです。
これらの特例をうまく活用して、税金の負担を軽減しましょう。
①空き家を売却した場合の3,000万円特別控除
被相続人が1人で住んでいた不動産が空き家になった場合、それを売却する際には最大3,000万円の譲渡所得の特別控除を利用できる可能性があります。
この特例は、相続した空き家を売却した際の利益(譲渡所得)から3,000万円を控除できる制度で、令和9年12月31日まで適用されます。
譲渡所得が3,000万円以下の場合は、譲渡所得税をゼロにすることが可能です。
ただし、この特別控除を受けるためにはいくつかの条件を満たす必要があります。主な要件は以下のとおりです。
- 1981年5月31日以前に建築された家屋であること。
- 区分所有建物(マンション)ではない建物であること。
- 相続の直前に被相続人が1人で居住していた家屋であること。
- 売主が相続や遺贈でその不動産を取得していること。
- 相続開始日から3年以内に譲渡すること。
- 売却代金が1億円以下であること。
- 相続時から譲渡時まで事業用、貸付用、居住用に利用していないこと。
- 建物が一定の耐震基準に適合していること。
- 親子や夫婦など売主の親族等への売却でないこと。
さらに、売却が令和6年1月1日以降の場合は、売却後に耐震リフォームを実施したり、空き家を取り壊したりしても特例が適用されます。
空き家に係る譲渡所得の特別控除を適用するには、これらの条件を満たす必要があるため、事前に確認しておくことが重要です。適用が可能であれば、大きな節税効果が期待できます。
この特例について、詳しい要件や手続き内容については、国税庁のホームページ「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」に記載されていますので、こちらをご覧ください。
②居住用財産(マイホーム)を売却した場合の3,000万円特別控除
マイホームとして使用していた不動産を売却する際には、最大3,000万円の譲渡所得の特別控除を利用できる可能性があります。
この特別控除は、例えば夫婦がマンションに住んでいて片方が亡くなった場合や、親子が一戸建てに住んでいて親が亡くなった場合など、様々な事情で住んでいた不動産を売却したいときに適用される特例です。この特例は、転居した場合でも転居から3年後の12月31日まで適用され、不動産を長期間所有していても短期間所有していても利用できます。
ただし、この特別控除を受けるためにはいくつかの条件を満たす必要があります。主な要件は以下のとおりです。
- 売却の前年や前々年にこの特例を適用していないこと。
- 空き家になった日から3年後の12月31日までに売却すること
- 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。
- 売却の年、その前年及び前々年に他の特定の居住用財産に関する特例を適用していないこと。
売却する不動産が「居住用不動産」としての要件を満たしているかが重要なポイントです。売主が売却直前までその不動産に実際に住んでいた場合は、通常、この要件を満たすとみなされます。
一方で、例えば親から相続した実家を売却する場合でも、相続人(売主)が相続後に一度も住んでいない状態、つまり空き家のままだった場合には、この特別控除の適用は受けられません。
この特例について、詳しい要件や手続き内容については、国税庁のホームページ「マイホームを売ったときの特例」に記載されていますので、こちらをご覧ください。
③取得費加算の特例│申告期限から3年以内に不動産売却を
「取得費加算の特例」とは、相続によって取得した不動産を売却する際に、譲渡所得税の計算で取得費に相続税額の一部を加算できる特例です。これにより、課税譲渡所得金額が少なくなり、譲渡所得税の節税につながります。
先に説明したように、相続によって取得した土地や建物を売却し、利益が出た場合、譲渡所得税がかかります。この譲渡所得の計算式は次のとおりです。
ここで、「取得費加算の特例」を適用すると、取得費に相続税額の一部が加算されます。したがって、特例適用後の譲渡所得の計算式は以下のようになります。
この特例を適用するためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 相続や遺贈により財産を取得した者であること。
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること。
- その財産を、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること。
相続税の申告期限は、相続開始の翌日から10ヶ月です。したがって、相続開始から3年10ヶ月以内に相続不動産を売却すれば、この特例を受けることができます。
特例を適用することで、相続税額を取得費に加算できるため、譲渡所得税の負担を軽減できる可能性があります。
この特例について、詳しい要件や手続き内容については、国税庁のホームページ「相続財産を譲渡した場合の特例」に記載されていますので、こちらをご覧ください。
空き家を売却した場合の3,000万円特別控除と重複して適用できない
「相続税の取得費加算の特例」と「空き家を売却した場合の3000万円特別控除」は重複して適用することができません。
つまり、相続人が被相続人が単独で住んでいた建物及びその土地を相続し、その後に空き家となった不動産を売却した場合、両方の特例の適用条件を満たしているとしても、どちらか一方の特例を選択して適用する必要があります。
したがって、空き家譲渡の3,000万円特別控除と相続税の取得費加算の特例の両方が適用可能な状況にある場合は、どちらの特例を適用するかを慎重に検討する必要があります。どちらの特例を適用するかは、売却する不動産の状況や相続人の税務上の状況などに応じて異なるため、専門家に相談することをお勧めします。
相続した不動産をすぐに売却するメリット│タイミングは3年以内
土地や建物を相続したものの使い道がなく困る方もいらっしゃるかと思います。そのような場合は、そのまま持っていても固定資産税や管理費がかかってしまうため、できるだけ速やかに売却をした方がよいでしょう。
相続した不動産をすぐに売却すると特例を利用できるなど大きなメリットがあります。ここでは、主なメリットを3つ紹介いたします。
特例を利用することで税金を節税できる
上で紹介した特例を適用することことができれば、譲渡所得税を大幅に節税することができます。ただし、「相続から3年以内に売却すること」という条件が設けられています。(③は相続税の申告期限から3年以内に売却。)
そのため、売却に関する手続きを含めた準備期間も考慮し、早めに行動を開始することが重要です。売却手続きには、不動産会社の選定、価格査定、契約書の作成など多くのステップがあり、想定外に時間がかかってしまう可能性もあります。そのため、相続が始まったら速やかに売却計画を立てて、スムーズに売却できるように早めに行動を起こしましょう。
特例の適用条件や手続きについて詳しくは、弁護士や税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
固定資産税などの維持費の支払がかからない
相続した不動産を所有していると、固定資産税や建物の保険料、マンションの場合は維持管理費や修繕積立金、戸建ての場合は定期的な修繕費など、さまざまな維持費が発生します。これらの費用は、不動産を長期間所有していると大きな負担となってきます。
一方で、相続した不動産をすぐに売却することで、これらの維持費の支払いを免れるメリットがあります。特に固定資産税は、毎年1月1日時点での所有者に課税されるため、売却をすぐに行うことでその年の固定資産税を支払わずに済む可能性があります。
また、相続した不動産を利用する予定がない場合は、維持費がかかるだけでなく、時間が経つにつれて不動産の価値が低下する可能性もあります。そのため、使う予定がない不動産は、資産価値の低下を防ぐためにも、すぐに売却するのがよいでしょう。
ただし、売却をする際は市場価格や相続税などを考慮し、出来るだけ適切なタイミングを見極めるようにしましょう。
トラブルを回避できる
不動産は分割しにくい財産のため、感情的な問題を引き起こすケースが多いです。特に不動産の共有分割を選択した場合、管理や利用に関する意見の相違がトラブルの原因となることがあります。相続した土地をすぐに売却し、得られた利益を相続人間で分配することで、共有分割に伴うトラブルを避けることができます。
また相続した不動産は、所有者としての管理責任があります。草刈りや修繕、固定資産税の支払いなど、管理や維持には手間と費用がかかります。これらの責任を果たすことが難しい場合や、相続人間で管理方法に意見が分かれる場合、トラブルの原因となることがあります。すぐに売却することで、新たな所有者に責任が移りますのでトラブルを回避することができます。
相続した不動産を売却するうえで知っておきたい注意点
相続人の間で話し合いを十分に行う
相続した不動産を売却する際には、相続人全員の合意が必要なので相続人の間で十分な話し合いをしておきましょう。時に、売却価格や売却時期、売却方法などについて事前に合意を得てから進めるのがよいでしょう。
例えば売却価格については、市場価格を参考にしつつ、相続人の意見を尊重し、全員が納得のいく価格の下限などを考えておきます。また、売却時期は、不動産市場の状況や相続人の事情を考慮して適切なタイミングを選ぶことが大切です。
売却方法にも注意が必要で、不動産会社による仲介や買取など複数の選択肢があります。それぞれの方法のメリット・デメリットを理解したうえで、相続人全員で合意した方法を選びましょう。また、相続した不動産、特にマンションの売却は複雑な場合が多いため、不動産会社や弁護士、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
不動産査定は複数の会社に依頼する
相続した不動産を売却する際は、複数の会社に不動産査定を依頼するようにしましょう。相続人がその不動産の所在地に詳しくない場合や、相場を把握していない場合が多いため、慎重に査定することが重要です。一つの会社だけでなく、複数の会社に査定を依頼することで、より適切な売却価格を見極めることができます。
また、相続不動産の売却は、相続税の納税や特例を利用するための期限が設けられています。そのため、期限内にスムーズに売却するためには、売却に慣れた不動産会社を選ぶことが重要です。不動産会社には特性が異なるため、相続不動産の売却に強い会社を見極めることがポイントとなります。賃貸仲介が主業の会社や、特定の不動産タイプの取り扱いに特化した会社など、会社ごとに特性が異なるため、相続不動産の売却に適した会社を選ぶことが大切です。
不動産査定を複数の会社に依頼し、それぞれの会社の特性や提案を比較することで、適切な価格での売却を目指しましょう。
不動産を単独登記にした場合は贈与税に注意する
相続した不動産を売却する際には、換価分割という方法があります。換価分割には「共同登記型」と「単独登記型」の2種類があります。
共同登記型は、相続人全員が共有で不動産を持ち、共有の状態で売却する方法です。この場合、売却時には共有者全員の同意が必要となります。この場合法定相続に基づいて不動産を分割します。
一方、単独登記型は、特定の相続人が一時的に不動産を単独所有し、その後、売却して得た現金を他の相続人に分配する方法です。単独登記型は、意思決定がスムーズで、相続人が遠方にいる場合などに便利です。
ただし、単独登記型で注意すべき点は、特定の相続人が売却して得た現金を他の相続人に分配する際に、その行為が贈与とみなされないようにすることです。贈与とみなされると、贈与税が発生する可能性があります。
これを避けるためには、遺産分割協議書に「換価分割目的で遺産を取得すること」を明記しておく必要があります。こうすることで、現金の分配が遺産分割の一環として認められ、贈与とはみなされなくなります。
相続した不動産の売却に関するQ&A
Q: 相続した不動産を売却した際にかかる「譲渡所得税」とは何ですか?
A: 譲渡所得税とは、不動産の売却によって生じた利益(譲渡所得)に対してかかる税金です。譲渡所得は、売却価格から取得費(相続時の評価額など)や譲渡費用(仲介手数料など)を差し引いた金額です。
譲渡所得税は所得税と住民税から構成され、売却した不動産の所有期間によって税率が異なります(短期譲渡所得と長期譲渡所得)。また、特定の条件を満たす場合、税額の軽減や特別控除が適用されることがあります。
Q: 相続した不動産をすぐに売却するメリットは何ですか?
A: 相続した不動産をすぐに売却するメリットには、以下のような点があります。
①維持費が節約できる
不動産を保有していると、固定資産税や管理費、修繕費などの維持費が発生します。すぐに売却することで、これらの維持費の支払いを避けることができます。
②相続税の負担を軽減できる
相続した不動産を売却して現金化することで、相続税の支払いに充てることができます。また、不動産の価値が相続税評価額より低い場合には、売却によって損失を計上し、相続税の負担を軽減することも可能です。
③相続トラブルの回避
不動産の相続は、相続人間で意見が対立するケースが多くあります。すぐに売却して利益を分配することで、相続トラブルを回避し、円滑な遺産分割を行うことができます。
④市場価値の変動リスク回避
不動産市場は変動が激しいため、保有し続けることで価値が下落するリスクがあります。すぐに売却することで、市場価値の変動リスクを回避することができます。
⑤資金の有効活用
不動産を売却して得た資金は、他の投資や事業、生活資金などに有効活用することができます。特に、相続人が不動産を利用する予定がない場合には、すぐに売却して資金化する方がメリットが大きいでしょう。
相続した不動産をすぐに売却するかどうかは、相続人の状況や不動産市場の状態、税金の問題などを総合的に考慮して決定することが重要です。必要に応じて、不動産専門家や税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
Q: 相続した親の家に住む場合と住まない場合で、どのような税金特例の違いがありますか?
A: 相続した親の家に住む場合、マイホームの売却と同じ扱いとなり
- 居住用財産(マイホーム)を売却した場合の3,000万円特別控除(マイホームを売ったときの特例)
- 所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例(マイホームを売ったときの軽減税率の特例)
- 特定の居住用財産の買換え特例(特定のマイホームを買い換えたときの特例)
- 居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(マイホームを買換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例))
- 居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
など、複数の節税特例が利用可能です。
一方、相続した親の家に住まない場合、取得費加算の特例や相続空き家の3,000万円特別控除など、利用できる特例が限られます。
Q: 相続した親の家に住んでいない場合、どのような税金特例が利用できますか?
A: 相続した親の家に住んでいない場合、利用できる税金特例には「取得費加算の特例」と「相続空き家の3,000万円特別控除」があります。「取得費加算の特例」は、相続税を納税した人が利用でき、譲渡所得の計算時に取得費に相続税額を加算できる特例です。「相続空き家の3,000万円特別控除」は、一定の要件を満たした戸建てを売却する場合に利用できる特例です。
まとめ
活用予定のない不動産を所有していると、固定資産税や修繕費などの維持費がかかり続けます。不動産売却によって発生する譲渡所得税や登録免許税、印紙税などの税金も高額になりがちなためできるだけすぐに売却する方がよいでしょう。売却する際は、特別控除や特例が活用できないか検討し相続税や所得税の節税をしましょう。
また、相続した不動産を売却する際には、複数の不動産会社に査定を依頼し、適切な売却価格を見極めることが大切です。また、相続人間で十分な話し合いを行い、全員の同意を得ることも重要です。不動産売却に伴う税金や特例の適用条件について不安がある場合は、弁護士や税理士などの専門家に相談してください。
この記事では、相続した不動産を売却する流れと、かかる税金について解説しました。さらに、特別控除など税金を抑える方法も紹介しました。
相続に関する問題は非常に複雑であり、特に相続した不動産の売却には様々な法的知識が必要となります。大きなトラブルを回避するためにも、相続した不動産の手続きについて、まずは弁護士にご相談ください。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。