遺産分割審判|遺産分割審判書に従わないと強制執行?手続きの流れなども解説

「話し合いではどうしても遺産の分配方法について意見がまとまらない」「相手が主張を譲らない、こちらも譲れない」
遺産分割で相続人間の意見が対立すると、ほとんどの場合は遺産分割協議や遺産分割調停で話し合って解決することになります。ですが、調停手続きを利用しても全員が合意できない場合は、遺産分割審判で問題の解決を図ることになります。
ところで、遺産分割審判とはどういった手続きかご存知でしょうか。広く一般的な手続きではないため、遺産分割調停や裁判との違いについて漠然としている方もいらっしゃるかと思います。
そこでこの記事では、遺産分割審判とはどういった手続きか、という点をテーマに弁護士が解説させていただきます。遺産分割審判とは何か、調停や裁判とはどういった点に違いがあるのか、といった基本から、手続きの流れについても、審判例などをまじえながら詳しくご説明いたします。
審判書の内容には必ず従わなければならないのか、といった疑問にもお答えしておりますので、遺産分割審判を利用する可能性がありましたら、ぜひ最後までご一読いただければと思います。
目次
遺産分割審判
1.遺産分割審判とは
1-1.遺産分割審判とは
遺産分割審判とは、裁判所が最終的な判断を下し、遺産の分け方を決定する手続きです。共同相続人間で遺産分割の協議が調わないとき、または協議をすることができないときに、家庭裁判所が裁量によって遺産の分割を行います(民法第907条2項)。
(遺産の分割の協議又は審判)
民法第907条2項 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
遺産分割審判において裁判所は、相続財産や相続する権利の種類及・性質、各相続人の年齢・職業・心身の状態や生活の状況、その他一切の事情を基準として分割方法などを決定します(民法第906条)。
(遺産の分割の基準)
民法第906条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
原則として裁判所は、法定相続分を特別受益や寄与分で修正し算出した「具体的相続分」を前提に審判を下します。ですが、相続開始から10年を経過後に遺産分割があった場合は、具体的相続分で考慮した特別受益や寄与分は考慮せずに、画一的な法定相続分によって遺産分割が行われます(民法第904条の3)。相続開始から10年という長い時間が経っていると、特別受益や寄与分を主張するにも証拠が散逸していることが多く、遺産分割が円滑に進まないと考えられているためです。
(期間経過後の遺産の分割における相続分)
民法第904条の3 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
ただし、10年が経過する前に家庭裁判所に遺産分割請求をした場合や、やむを得ない事由により遺産分割請求ができなかった場合などは、特別受益や寄与分を考慮する具体的相続分によって遺産分割が行われる可能性があります。
以上のような遺産分割審判の性質に関しては、例えば次のとおり判示している裁判例があります。
「家庭裁判所が民法九〇六条に則り、遺産に属する物または権利の種類および性質、各相続人の職業その他一切の事情を考慮して、当事者の意思に拘束されることなく、後見的立場から合目的的に裁量権を行使して具体的に分割を形成決定し、その結果必要な金銭の支払、物の引渡、登記義務の履行その他の給付を付随的に命じ、あるいは、一定期間遺産の全部または一部の分割を禁止する等の処分をなす裁判」
(最高裁判所昭和41年3月2日決定)
裁判所が「当事者の意思に拘束されることなく」と示すとおり、遺産分割審判に関しては、家庭裁判所の裁量権が調停と比較しても大きいです。そのため、全ての相続人の主張が完全に反映された結果とはならず、納得いかない結果になることもあります。
1-2.遺産分割審判の効力
遺産分割審判が確定することによって、共同相続人間の権利義務関係を具体的に形成・確定させることになります。
また、金銭の支払いや相続財産の引渡し等を命じる審判内容は「執行力のある債務名義」としての効力を持ちますので、支払や引き渡しが履行されない場合に強制執行が可能となります。強制執行については本記事で後述いたしますので、ぜひこのままご一読いただければと思います。
そして、以上のような遺産分割審判の性質については、次のような裁判例(遺産分割の審判に対する即時抗告事件)があります。
裁判所は、遺産分割審判について「遺産分割の審判は相続財産を構成する財産を分割の基準に従い相続分に応じて、現物分割あるいは債務負担の方法により共同相続人に分割し金銭の支払、物の引渡、登記義務その他の給付を命ずる形成的裁判であり、これによって相続財産に関し共同相続人間に権利義務の関係を具体的に確定し、また金銭の支払、物の引渡、登記義務の履行を命ずるときは債務名義として執行力を有するものであるから、審判主文は確定された法律関係ないしは給付の内容が一見して明らかなように具体的に特定されねばならないことはいうまでもない。」と述べた上で、被相続人の所有であった家屋と敷地について、それぞれ別個の相続人に分割するため「敷地使用権付」などと表示した原審判の主文の書き方は、「敷地使用に関し新たな権利関係を設定したものとするならば、それが使用貸借であるか、賃貸借であるか、期間、賃料額その他の諸条件を掲示して内容を明らかにしなければならないこというまでもない。(中略)原審判は主文に掲げるところが特定せず不当であるから取消を免れない。」として、原審判を取消し差し戻しとしました。
(福岡高等裁判所昭和43年6月20日決定)
このように、遺産分割審判は、単なる共有状態の解消にとどまらず、強制執行を可能にする強力な形成的効力を持っている法的手続きであることから、審判によって確定された法律関係や給付の内容が一見して明らかであるように、具体的かつ明確に特定されなければならないとされています。
2.遺産分割審判と調停・協議の違い
さて、上で少し触れましたが、遺産分割審判と遺産分割調停とでは、裁判所の関与の程度をはじめとして、さまざまな違いがあります。
また、相続人同士で行う「遺産分割協議」では、そもそも家庭裁判所の関与はありません。遺産分割協議では、相続人全員が合意すれば協議成立となり、具体的相続分や法定相続分によって遺産分割する審判と比較し、当事者が合意した柔軟な割合や分割方法で遺産を分割できます。
遺産分割調停は、家庭裁判所の調停委員を交えて、話し合いによる解決を目指す手続きです。そのため、相続人全員が合意しなければ調停成立とはなりません。遺産分割調停と遺産分割審判の主な特徴の違いをまとめますと、下表のとおりになります。
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遺産分割調停 |
遺産分割審判 |
|---|---|---|
|
目的 |
話し合いによる解決を目指す |
裁判官による決定 |
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調停委員の関与 |
あり |
なし |
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相続人の同席 |
相続人同士が顔を合わせる必要はない |
通常は相続人全員が同席 |
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合意 |
必要 |
不要 |
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期間 |
比較的短い |
比較的長い |
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費用 |
比較的少なくて済む |
比較的多くなる |
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精神的な負担 |
比較的少ない |
比較的大きい |
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相続人の関係 |
悪化を避けられる可能性がある |
悪化する可能性が高い |
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法的拘束力 |
なし |
あり |
遺産分割調停については、こちらの関連記事もあわせてご覧ください。
遺産分割審判の流れ
1.遺産分割審判の流れ
それでは、遺産分割審判の流れを確認していきましょう。
1-1.調停不成立により審判に移行する
遺産分割は「審判事項」とされているため、必ず遺産分割調停を先行させなければならないという「調停前置主義(家事事件手続法第257条)」の適用はありませんが、実務上は遺産分割調停を先行させていることが一般的です(家事事件手続法第274条1項)。
(付調停)
家事事件手続法第274条1項 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件についての訴訟又は家事審判事件が係属している場合には、裁判所は、当事者(本案について被告又は相手方の陳述がされる前にあっては、原告又は申立人に限る。)の意見を聴いて、いつでも、職権で、事件を家事調停に付することができる。
そのため、通常は遺産分割調停が不成立となった際に、遺産分割審判に移行することになります。このとき、遺産分割調停から遺産分割審判へは自動的に移行するため、別途審判の申立てをする必要はありません(家事事件手続法第272条)。
(調停の不成立の場合の事件の終了)
家事事件手続法第272条 調停委員会は、当事者間に合意(第二百七十七条第一項第一号の合意を含む。)が成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合には、調停が成立しないものとして、家事調停事件を終了させることができる。ただし、家庭裁判所が第二百八十四条第一項の規定による調停に代わる審判をしたときは、この限りでない。
2 前項の規定により家事調停事件が終了したときは、家庭裁判所は、当事者に対し、その旨を通知しなければならない。
3 当事者が前項の規定による通知を受けた日から二週間以内に家事調停の申立てがあった事件について訴えを提起したときは、家事調停の申立ての時に、その訴えの提起があったものとみなす。
4 第一項の規定により別表第二に掲げる事項についての調停事件が終了した場合には、家事調停の申立ての時に、当該事項についての家事審判の申立てがあったものとみなす。
1-2.管轄の家庭裁判所から呼出状が届く
前述のとおり遺産分割調停から遺産分割審判へと移行すると、当事者には家庭裁判所から「呼出状」が送付されます。この呼出状には、審判の日時と場所、期日に持参すべき書類などが記載されています。
遺産分割審判が行われる管轄の裁判所は、「相続開始地を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法第191条1項)」あるいは「当事者間の合意で定めた家庭裁判所(家事事件手続法第66条1項)」ですが、実際には遺産分割調停が行われた裁判所で遺産分割審判も行われることが一般的です。
(管轄)
家事事件手続法第191条 遺産の分割に関する審判事件は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
2 前項の規定にかかわらず、遺産の分割の審判事件(別表第二の十二の項の事項についての審判事件をいう。以下同じ。)が係属している場合における寄与分を定める処分の審判事件(同表の十四の項の事項についての審判事件をいう。次条において同じ。)は、当該遺産の分割の審判事件が係属している裁判所の管轄に属する。(合意管轄)
家事事件手続法第66条 別表第二に掲げる事項についての審判事件は、この法律の他の規定により定める家庭裁判所のほか、当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属する。
2 民事訴訟法第十一条第二項及び第三項の規定は、前項の合意について準用する。
1-3.審判期日が開かれる
家庭裁判所が指定した第1回審判期日に、裁判所へ出頭します。調停とは異なり、審判では全員が同じ部屋に集められるため、申立人と相手方は同席して遺産分割方法についての審理が行われます。裁判官は、直接当事者の陳述を聴取し(家事事件手続法第68条1項)、事実の調査や証拠調べを行うこととされています。
(陳述の聴取)
家事事件手続法第68条1項 家庭裁判所は、別表第二に掲げる事項についての家事審判の手続においては、申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが明らかなときを除き、当事者の陳述を聴かなければならない。
紛争性の高い遺産分割審判は通常、1回の期日で終わりません。審判期日は、通常は1ヶ月から2ヶ月程度の間隔で設定され、数回に渡って開かれます。5回以内に審判が下されることが多いです。相続人はこの間、必要に応じて追加の証拠の提出等が求められるため、適宜対応していくことになります。
1-4.遺産分割審判書の送付
以上のとおり数回に渡って期日が行われ、審理が終結したときは、裁判所は速やかに「審判日」を定めなければならないとされています(家事事件手続法第72条)。
(審判日)
家事事件手続法第72条 家庭裁判所は、前条の規定により審理を終結したときは、審判をする日を定めなければならない。
遺産分割審判においては、特段の事情がない限り、審理の終結した日から2ヶ月以内に審判日が指定されることが一般的です。審判日には、裁判官がこれまでの審理内容を踏まえて下した結論(審判)を、相当と認める方法によって告知します(家事事件手続法第74条)。
(審判の告知及び効力の発生等)
家事事件手続法第74条 審判は、特別の定めがある場合を除き、当事者及び利害関係参加人並びにこれらの者以外の審判を受ける者に対し、相当と認める方法で告知しなければならない。
2 審判(申立てを却下する審判を除く。)は、特別の定めがある場合を除き、審判を受ける者(審判を受ける者が数人あるときは、そのうちの一人)に告知することによってその効力を生ずる。ただし、即時抗告をすることができる審判は、確定しなければその効力を生じない。
3 申立てを却下する審判は、申立人に告知することによってその効力を生ずる。
4 審判は、即時抗告の期間の満了前には確定しないものとする。
5 審判の確定は、前項の期間内にした即時抗告の提起により、遮断される。
審判日に当事者が裁判所に来庁して審判書を受け取ることもできますが、来庁は義務ではないため、実務上は裁判所から審判書の謄本が送達されることによって審判の告知が行われます。
審判書が送達され、相続人のいずれもが審判に対して即時抗告を行わない場合、または即時抗告が棄却された場合、審判は確定します。相続人は、確定した審判の内容に従って、各自の相続手続きを進めていくことになります。
1-4.遺産分割審判に不服がある場合は即時抗告
遺産分割審判の結果に不服がある場合、裁判所の決定に対して即時抗告を行うことができます。即時抗告とは、裁判所の審判について、上級裁判所である高等裁判所に対し取消や変更を求める手続きで、審判書を受け取った日から2週間以内に行う必要があります(家事事件手続法第86条)。
(即時抗告期間)
家事事件手続法第86条 審判に対する即時抗告は、特別の定めがある場合を除き、二週間の不変期間内にしなければならない。ただし、その期間前に提起した即時抗告の効力を妨げない。
2 即時抗告の期間は、特別の定めがある場合を除き、即時抗告をする者が、審判の告知を受ける者である場合にあってはその者が審判の告知を受けた日から、審判の告知を受ける者でない場合にあっては申立人が審判の告知を受けた日(二以上あるときは、当該日のうち最も遅い日)から、それぞれ進行する。
即時抗告の申立書には、不服の内容と審判の取消または変更を求める理由を明記して提出します。
即時抗告の手続きは複雑であり、適切に手続きを進めていくためには専門的な法的知識が欠かせません。説得力のある主張書面の作成などは経験とノウハウが必要ですので、不服がある場合は、弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
2.遺産分割審判の期間
前述のとおり、遺産分割審判の期日は1ヶ月から2ヶ月程度の間隔で開かれ、5回以内に審判が下されることが一般的です。そのため、遺産分割審判の申立てから終結までの期間は6ヶ月から1年以内が目安とされています。
参考:令和6年 司法統計年報 3家事編「第45表 遺産分割事件数―終局区分別審理期間及び実施期日回数別―全家庭裁判所」(裁判所)
3.遺産分割審判と訴訟
3-1.遺産分割審判は訴訟に移行する?
遺産分割の方法については、審判で最終的な結論が出されるため、訴訟に移行することはありません。そして先に述べたように、審判の結果に不服がある場合は、即時抗告をすることで高等裁判所で再度審理してもらうこととなります。
それでは、遺産分割においてどういった場合に訴訟が活用されるのでしょうか。
遺産分割における訴訟についてですが、その前提となる事実(相続人の範囲、相続財産の範囲、遺言の有効性等)に争いがある場合は審判内で確定させることができないため、それぞれについて訴訟を利用することが想定されます。例えば、下表のような争点については遺産分割審判ではなく、訴訟を提起することが考えられるでしょう。
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争いの内容 |
訴訟の種類 |
説明 |
|---|---|---|
|
遺産の範囲に争いがある場合 |
遺産確認訴訟 |
被相続人の財産が隠されている疑いがある場合や、他人名義で保有していた可能性のある財産が遺産に含まれるべきかを確定させる訴訟。 |
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相続人の範囲に争いがある場合 |
相続人の地位不存在確認訴訟 |
特定の相続人が相続人の地位にあるかないかの争いについて、その地位の不存在の確定を求める訴訟。相続欠格を理由とする相続人の地位不存在確認や、養子縁組の無効による地位不存在確認等が該当する。 |
|
遺言の有効性を争う場合 |
遺言無効確認訴訟 |
遺言書の形式不備や偽造、変造などを理由に、遺言の無効を主張する訴訟。 |
|
遺産分割協議の取り消しや無効を主張する場合 |
遺産分割協議無効確認訴訟 |
既に行われた遺産分割協議の無効や取り消しを争う訴訟。無効が認められると、遺産分割がやり直しとなる。 |
|
遺産が使い込まれた場合 |
損害賠償請求訴訟・不当利得返還請求訴訟 |
相続人の一部が遺産を不正に使用した場合などに、遺産の返還や損害賠償を求める訴訟。 |
|
遺留分が侵害された場合 |
遺留分侵害額請求訴訟 |
法定相続人の遺留分が侵害された場合、不足分の金銭を補償してもらう権利を争う訴訟。 |
3-2.遺産分割の審判と判決の違い
民事訴訟の確定判決には「既判力」が認められることに対し、遺産分割審判における前提事項の判断には原則として既判力が認められないとされています。
既判力とは、「確定した終局判決の内容である判断に対する通用力をいい、紛争の蒸し返しを許さないもの」(中本 敏嗣「元裁判官が語る 判決書からみた民事裁判―裁判官の思考と弁護士の訴訟活動―(新日本法規出版・2024年)」10頁)とされています(民事訴訟法第114条1項)。
(既判力の範囲)
民事訴訟法第114条 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
2 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。
遺産分割審判において、相続人の範囲や相続財産の範囲といった、前提となる実体法上の権利関係(前提事項)について判断が下されても、これに既判力は生じないのです。
そのため、遺産分割の審判の確定後に別途訴訟を提起して不服を申し立てた場合は、相続人は前提事項の存否について争うことができます。そして、判例も、後の判決によって遺産分割審判で判断された前提事項が否定された場合には、先行する審判はその限度で効力を失うとしています。
「家庭裁判所は、かかる前提たる法律関係につき当事者間に争があるときは、常に民事訴訟による判決の確定をまつてはじめて遺産分割の審判をなすべきものであるというのではなく、審判手続において右前提事項の存否を審理判断したうえで分割の処分を行うことは少しも差支えないというべきである。けだし、審判手続においてした右前提事項に関する判断には既判力が生じないから、これを争う当事者は、別に民事訴訟を提起して右前提たる権利関係の確定を求めることをなんら妨げられるものではなく、そして、その結果、判決によつて右前提たる権利の存在が否定されれば、分割の審判もその限度において効力を失うに至るものと解されるからである。このように、右前提事項の存否を審判手続によつて決定しても、そのことは民事訴訟による通条の裁判を受ける途を閉すことを意味しない」
(最高裁判所昭和41年3月2日決定)
このため、遺産分割審判は確定した後も訴訟によって覆される可能性があるのです。
一方で、審判も判決も、強制執行の債務名義として機能するという点では共通しています。
遺産分割審判に従わないとどうなる?
ところで、遺産分割審判に従わない場合はどうなってしまうのでしょうか。
1.罰則はある?
遺産分割の審判に記載された命令に従わない場合に、それによって直ちに懲役や罰金といった刑事罰が科されることはありません。
ただし、前述のとおり強制執行は可能とされていますし、支払いや物の引き渡しなどを受ける側(債権者)が家庭裁判所に対して履行勧告(家事事件手続法第289条1項)や履行命令(家事事件手続法第290条1項)を申し立てることが可能とされています。
(義務の履行状況の調査及び履行の勧告)
家事事件手続法第289条1項 義務を定める第三十九条の規定による審判をした家庭裁判所(第九十一条第一項(第九十六条第一項及び第九十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により抗告裁判所が義務を定める裁判をした場合にあっては第一審裁判所である家庭裁判所、第百五条第二項の規定により高等裁判所が義務を定める裁判をした場合にあっては本案の家事審判事件の第一審裁判所である家庭裁判所。以下同じ。)は、権利者の申出があるときは、その審判(抗告裁判所又は高等裁判所が義務を定める裁判をした場合にあっては、その裁判。次条第一項において同じ。)で定められた義務の履行状況を調査し、義務者に対し、その義務の履行を勧告することができる。(義務履行の命令)
家事事件手続法第290条1項 義務を定める第三十九条の規定による審判をした家庭裁判所は、その審判で定められた金銭の支払その他の財産上の給付を目的とする義務の履行を怠った者がある場合において、相当と認めるときは、権利者の申立てにより、義務者に対し、相当の期限を定めてその義務の履行をすべきことを命ずる審判をすることができる。この場合において、その命令は、その命令をする時までに義務者が履行を怠った義務の全部又は一部についてするものとする。
履行勧告はあくまで「勧告」ですので、強制的に支払わせる法的強制力はありませんが、裁判所が申立てを認めて履行命令を出した際に、正当な理由なく従わない場合には、10万円以下の過料に処せられる可能性があります(家事事件手続法第290条5項)。
家事事件手続法第290条5項(第三項において準用する場合を含む。)の規定により義務の履行を命じられた者が正当な理由なくその命令に従わないときは、家庭裁判所は、十万円以下の過料に処する。
2.不動産なども強制執行が可能になる
遺産分割の審判の内、「金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずる審判」については、執行力のある債務名義(民事執行法第22条3号)と同一の効力を有することから(家事事件手続法第75条)、単純執行文の付与を受けずに強制執行することができます。
(審判の執行力)
家事事件手続法第75条 金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずる審判は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。
つまり、別途訴訟をすることなく強制執行の手続きをすることが可能となるのです。
例えば、審判で命じられた金銭の支払いがされない場合には、債務者の預貯金や給与の差押え、不動産の競売などによって、強制的に金銭の回収を図ることができます。
金銭ではなく不動産の引渡しを命ずる審判に基づく強制執行の場合は、①執行官が債務者による不動産の占有を解いて債権者に占有を取得させる方法(直接強制、民事執行法第168条1項)や、②債務者に対して、履行しない場合に一定の金銭(制裁金)の支払いを命じることで、自発的な義務の履行を促す方法(間接強制、民事執行法第173条1項)による強制執行が挙げられます。
遺産分割審判に関するQ&A
Q1.遺産分割審判と調停の違いを教えてください。
A:遺産分割審判と遺産分割調停の最大の違いは、「当事者の合意」によらない点です。遺産分割調停は調停委員を介して相続人同士が話し合い、全員が合意することによって調停が成立するため、比較的当事者が納得のいく結果となることが多いです。一方で、遺産分割審判は裁判官が審判を下すため、当事者の主張が認められないこともあり、全員が納得できる結果を得られるとは限りません。
Q2.遺産分割審判を欠席した場合、どのようなリスクがありますか?
A:遺産分割審判を欠席すると、裁判官に自分の主張を伝える機会を失い、審理が自分の不在のまま進行してしまうリスクがあります。これにより、不利な結果になる可能性が高まります。また、和解の提案を受ける機会も失う可能性があります。
遺産分割審判の期日に出席できない場合は、まず家庭裁判所の担当書記官に連絡し、出席できない理由を説明して、期日の変更を依頼してみましょう。また、電話での参加が可能な場合もあるため、その可能性についても相談してみるとよいでしょう。
Q3.遺産分割審判を有利に進めるためのポイントは何ですか?
A:遺産分割審判を有利に進めるためのポイントは、法的に効果的な主張と、その事実を証するための効果的な証拠の選別です。感情的な対立や遺産分割と直接関係のないことを主張するのではなく、裁判官の判断を受ける場であることを意識し、戦略的に対応することが重要です。
まとめ
この記事では、遺産分割審判について弁護士が詳しく解説させていただきました。
遺産分割審判は、相続人間で遺産分割に合意が得られない場合に、裁判所が最終的な判断を下す法的手続きです。当事者の合意によらず裁判官が客観的に判断しますので、適切な主張をし、主張を裏付ける証拠を揃えなければ、希望どおりの結果を得ることは難しいです。そのため、遺産分割審判について正しく理解しておき、実際に審判になった場合は、不備・不足のないよう対応していくことが重要です。
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この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。






