遺産分割とは?遺産の分け方と手続きの流れ│相続との違いも

遺産分割

更新日 2024.10.04

投稿日 2024.01.25

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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遺産分割とは、亡くなった人が残した財産を相続人の間で分配する手続きのことです。相続人同士の価値観の違いや、財産への強い思い入れなどにより、相続人が感情的になり、遺産分割の手続きはしばしば複雑化することがあります。
また、遺産には家や土地といった不動産、預貯金や株式などの金融資産、そして思い出の品や家具など、様々な種類の財産があります。そのため、遺産を分ける方法も一つではなく、遺産の種類や状況に応じて、適切な分配方法を選択する必要があります。

さて、この記事では、遺産分割の方法や手続きの流れについて、弁護士が詳しく解説させていただきます。遺産分割においては、亡くなった人の意思を尊重しつつ、相続人全員が納得できる解決策を見つけることが重要です。この記事が、遺産分割をスムーズに進めるための一助となれば幸いです。

目次

遺産分割とは

「遺産分割」とは、亡くなった人の財産について、誰がどのくらい相続するかを決める手続きです。この遺産分割の手続きは主に2つあり、遺言書に基づいて遺産を分ける「遺言執行」の方法と、相続人全員で協議を行い、必要に応じて法的手続きを進める方法があります。

遺産分割の2つの方法について、もう少し詳しく見ていきましょう。

まず、「遺言執行」とは、遺言書に記載された指示に基づいて、財産を分割する手続きです。例えば、亡くなった人が遺言で「弟Aには家1を、弟Bには家2を渡す。」などのように、特定の人に特定の不動産を渡すと指定している場合は、その遺言書の記載内容の通りに遺産が分配されることになります。遺言執行による遺産分割においては、亡くなった人の最終的な意思が尊重され、遺産が分配されます。

こうした一方で、遺言書がない場合や、遺言で全財産の分配を指定しきれていない場合も少なくありません。このような場合、亡くなった人の財産は、法律によって自動的に相続人全員が共有する状態となります。財産を共有している状態では、個人が自由に使うことができず、たいへん不便です。この共有状態を解消するために、通常は相続人同士で協議を行い、話し合いで遺産分割の問題を解決します。そして、話し合いがまとまらないときには、裁判所の調停や審判の手続きを利用して解決します。

このように、遺産分割は、亡くなった人の意思を尊重しつつ、相続人の関係性や相続財産の種類など、様々な要素を考慮して、なるべく相続人全員が納得する形で行うことが理想的です。

遺産分割と相続との違い

「遺産分割」と「相続」は、どちらも遺産を引き継ぐことを意味するため、同じことを意味するのでは?と思われるかもしれません。ですが、法律上は、遺産分割と相続は別のものとして、次の通り明確に使い分けされています。

  • 遺産分割:遺産の分け方を相続人全員で決めること
  • 相続:被相続人の財産や権利・義務などを受け継ぐこと

分かりやすく言いますと、「亡くなった人の財産、権利、義務などを引き継ぐこと」が「相続」という手続きで、この相続手続きを行う方法の一つとして「遺産分割」の手続きがあるのです。

相続とは

相続とは前述の通り、「亡くなった人の財産、権利、義務などを引き継ぐこと」です。これにより、亡くなった人が持っていたさまざまな財産や地位が相続人に移ります。

相続の対象となる財産には、銀行の預金、不動産、株式、自動車などの財産だけでなく、賃貸契約の地位、損害賠償の請求権といった権利や義務も含まれます(プラスの財産)。さらに、このようなプラスの財産だけでなく、亡くなった人が残した借金や滞納家賃といった債務、税金の支払い義務などのマイナスの財産も、相続の対象財産として受け継ぐことになります。

相続における遺産分割の役割

そして、この相続手続きを行うための一つの方法が、遺産分割になります。遺産分割は、相続人が複数いる場合に、それらの財産をどう分配するかについて決める手続きのことを指します。

つまり、遺産分割は相続の一部であると同時に、実際に遺産の分配を行うにあたって、とても重要な手続きといえるのです。

相続が始まると、亡くなった人の財産は最初にすべての相続人の共有となります。この共有状態では、相続人それぞれが遺産の持ち分に応じた権利を持ちますが、その財産を活用したり処分したりするには、他の共有者全員の同意が必要です。例えば、故人が残した預貯金を解約しようとした場合、一人の相続人が単独で解約することはできず、全相続人が預貯金の解約に同意しなければならないのです。

遺産分割は、この共有状態を解消し、どの相続人がどの財産を受け継ぐかを具体的に決める手続きです。相続人全員が話し合い、合意に達するまでは、遺産は相続人全員で共有している状態が続きます。遺産分割の手続きをすることによって、個々の相続人に特定の財産が法的に分配されることになるため、遺産の共有状態が解消され、各人が自由に自分が受け継いだ遺産を活用したり処分したりすることができるようになるのです。

それでは、相続において重要な手続きである遺産分割について、遺産を分割するための具体的な分け方を見ていきましょう。

遺産分割の方法│4つの分け方を詳しく解説

遺産分割をする方法としては、「現物分割、換価分割、代償分割、共有分割」の4つの代表的な方法があります。

分割方法

説明

現物分割

遺産をそのままの形(現物)で相続人間で分配する方法

代償分割

一部の相続人が遺産を受け取る代わりに、他の相続人にその価値に相当する現金を支払う方法

換価分割

遺産を売却し、その売却から得られる金銭を相続人間で分配する方法

共有分割

遺産を分割せず、相続人全員が共同で所有する方法

この通り、遺産分割には主に4つの方法がありますが、遺産の種類(例えば不動産や預貯金など)、相続人の数や関係性、そして各相続人の要望などに応じて、最も適した方法を選ぶことが重要です。
それでは、4つの分割方法について、より詳しく見ていきましょう。

現物分割

「現物分割」は、遺産をそのままの形(現物)で、相続人間で分配する方法です。この方法は、預貯金や現金など、物理的に分割可能な財産に対して特に有効です。実際に、預貯金や現金などは、現物分割の方法で分割されることが一般的です。また、土地の場合にも、分筆して各相続人がその一部を取得するという形で、現物分割による分配が行われることがあります。

このように現物分割は、相続人それぞれが特定の財産を引き継ぎたい場合に適しています。例えば、ある相続人が特定の不動産を引き継ぎたい、別の相続人が株式を継承したいというような状況では、各相続人が望む財産をそのまま受け取ることができます。

しかし、現物による分割ができるのは、物理的に分割が可能な遺産に限られます。

例えば2000万円の現金を4人の相続人で分割する場合、物理的に現金500万円ずつ分割できるので、現物分割の方法によって遺産分割することができます。
一方で、一戸建てのような建物を4人で分けたくとも、物理的に建物を4つに分けることはできません。また、土地に関しても分筆による現物分割が現実的でないことが多いです。特に、共有者が多い場合は、分筆すると土地が細分化されてしまい、不動産の価値を下げてしまう恐れがあります。

そのため、現物分割が適さないこのような場合は、他の分割方法を選ぶ必要があります。

代償分割

「代償分割」とは、一部の相続人が遺産を取得し、その代わりに他の相続人に代償金を支払う方法です。この方法は特に、建物などの物理的に分けることが不可能・困難な遺産や、高額資産に適しています。代償分割を行うことで、物理的な分割が難しい遺産を処分せずに活用することが可能となります。

例えば、土地は理論上は現物分割が可能ですが、場合によっては分筆によって土地が細分化されてしまい、使い勝手が悪くなってしまうことがあります。この場合、ある相続人が土地全体を取得し、他の相続人にはその土地の価値に見合った金額を支払う形で遺産分割を行えば、土地を不必要に細分化することなく相続できますし、土地を相続しなかった相続人も、金銭という形で自身の土地相続分が補われるため、公平に遺産が分割されたといえるのです。

このように代償分割を行う際には、遺産の価値を適切に評価することで、公平に遺産が分配されるよう配慮することが非常に重要です。

また、この代償分割による方法は、現物を相続する相続人に一定の資産や支払い能力が必要です。なぜなら、その相続人は、本来の相続分以上の遺産を受け取ることで、自身の相続分の超えた分について、他の相続人に現金で支払う必要があるからです。

換価分割

「換価分割」とは、財産を売却し、その売却から得られる金銭を相続人間で分配する方法です。この方法は代償分割と同じく、物理的に分割ができない場合、または分割によって遺産の価値が下がる場合に適しています。一般的な換価分割の対象としては、不動産や未公開株式などがあります。
換価分割を行う際には、財産を売却するため、遺産そのものを手放す必要があります。ですが、売却によって得られた代金を、相続人間で公平に分割することが可能です。

換価方法としては、一般的には遺産を任意に売却して現金化するのですが、家庭裁判所に申し立てて換価してもらうこともできます。ただし、土地や建物などを売却する際には、相続人全員に譲渡による所得税と住民税が課税されることになるため、税金の影響により手元に残る金額が減少する点に注意が必要です。

共有分割

「共有分割」とは、遺産を分割せず、相続人全員が共同で所有する方法です。土地や建物などの不動産を複数の相続人が引き継ぎたい場合に、この方法が選ばれることがあります。共有分割の方法によって遺産分割を行う主な利点は、相続手続きが基本的に登記手続きのみで済むことです。

一見すると手間も少なく簡単そうですが、共有分割には次のようなデメリットもあります。

まず、共有状態にした遺産を利用・処分する際には、その遺産を共有している人全員の同意が必要となります。そのため、例えば相続人全員で共有している不動産を売却する際や賃貸に出す際には、相続人全員が「不動産を売却すること」や「不動産を賃貸に出すこと」について合意していなければ、不動産の売却等の処分ができないのです。

そして、共有状態にある遺産の利用な処分などについて、共有者間で「土地を売るべきだ。」「土地を貸すべきだ。」などと意見が対立すると、トラブルが発生しやすいというデメリットもあります。

そのため、共有分割は短期的には手軽な方法かもしれませんが、長期的に考えると、相続手続きが終わった後も相続人間でトラブルが起こる可能性が高いことを、遺産分割時に考慮しておく必要があります。遺産分割の方法を選ぶ際には、共有分割ではなく、なるべくその他の3つの方法から最適なものを選択することをお勧めいたします。

遺産分割の手続きの流れ

次に、遺産分割の手続きの流れについて、順に詳しく解説していきます。大まかな流れについては、下の図の通りです。

 

遺産分割手続きの流れ

 

遺言書の有無を確認

相続が発生した際、遺産分割の手続きを進める前に、まず、亡くなった人が遺言書を残しているかどうかを確認する必要があります。遺言書があるかないかによって、遺産分割の方法や遺産分割の対象となる財産が大きく変わります。
一般的には、遺言書は以下のような場所に保管されています。

 

  • 被相続人の自宅:金庫や鍵付きの引き出し。
  • 法務局:自筆証書遺言の保管制度を利用している場合。
  • 金融機関:貸金庫や遺言信託。
  • 公証役場:公正証書遺言や秘密証書遺言。

また、遺言書の種類によって、必要な手続きが異なります。

遺言書の種類

必要な手続き

自筆証書遺言/秘密証書遺言

家庭裁判所での検認が必要

公正証書遺言

作成者の公証人が所属する公証役場に連絡(原本は公証役場に保管)

遺言書が見つからない場合

最寄りの公証役場に問い合わせて全国の公証役場で保管されている公正証書遺言を検索

さらに、遺言書の作成や保管を専門家に依頼している可能性もあるため、亡くなった人と付き合いのあった弁護士や税理士にも確認すると良いでしょう。遺言書の有無を確認し、遺言書が存在する場合は、その内容に基づいて遺産分割を進めます。遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議をする必要があります。

遺言書がある場合│基本的には遺言に従って遺産分割を行う

遺言書がある場合、基本的にはその遺言の内容に従って遺産分割を行います。遺言書には亡くなった人の最終的な意思が記載されているため、亡くなった人の意思が最も尊重される遺産分割の方法なのです。遺言書に遺言執行者が指定されている場合は、この人が遺言に基づいて遺産分割を進めます。

ただし、遺言書の記載内容に不足がある場合は、相続人全員による遺産分割協議が必要になります。例えば、亡くなった人には土地と建物と預貯金という遺産があるのに、遺産の一部である預貯金についてのみ分配を指定していて、全ての遺産についての分配を指定していない場合には、預貯金以外の土地や建物について、相続人間での協議が必要になるでしょう。あるいは、遺産を特定せずに、「長男の相続分は3分の1、二男の相続分は3分の2とする。」といったように、相続分だけを指定している場合もあります。この場合は、どの遺産についてどういった分割方法で遺産分割するか、話し合わなければなりません。なお、全ての相続人が合意すれば、遺言書の内容とは異なる方法で遺産を分割することも可能です。

一方で、遺言書が無効である場合もあります。遺言書が法的な要件を満たしていない、内容が不明確である、遺言内容が公序良俗に反している、など遺言の内容に不備がある場合、作成された遺言書は無効になる可能性があります。また、遺言者が重度の認知症で、遺産分割の内容や結果を十分に理解できないなど、遺言者に遺言能力がない場合も、遺言書が無効であると判断される可能性があります。
遺言書が無効であると判断された場合は、相続人全員で新たに遺産分割協議を行う必要があります。

このように、遺言書がある場合は基本的にその内容で遺産分割を行うことになりますが、特定の状況においては相続人全員の遺産分割協議が必要となることがあります。遺言書の内容と有効性を慎重に確認し、必要に応じて適切な手続きを行うことが重要です。

遺言書がない場合│遺産分割協議を行う

遺言書がない場合、または遺言書で分割方法が指定されていない場合や遺言書が無効である場合などには、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。この協議は、相続人全員が参加して遺産の分配方法について話し合い、相続人全員が合意することで成立します。

なお、法定相続人の中に、代襲相続人、包括受遺者、認知された子などがいる場合も、必ず参加が必要であり、1人でも欠けると合意が成立したことにはなりません。

法定相続分と異なる割合での遺産分割も、相続人全員の合意があれば問題ありません。ただし、遺産分割協議が一度成立すると、全員の同意がない限り、遺産分割協議のやり直しはできない点に注意が必要です。
遺産分割協議で合意が成立したら、その内容を遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名押印して締結します。この協議書は、不動産の相続登記手続きや相続税の申告、金融機関での相続手続きなどで必要になります。将来的なトラブルを避けるためにも、遺産分割協議書は必ず作成しておくことをお勧めいたします。

以上の通り、遺言書がない場合の遺産分割手続きは、相続人全員が協力して遺産分割協議を行う必要があります。そして、遺産分割協議で合意が成立したら、遺産分割協議書を作成し、分割内容を明確にしておくことが重要です。

協議が成立しない場合は家庭裁判所に判断してもらう│調停や審判で決定

遺産分割について相続人間での協議が成立しない場合や、遺産分割協議を行うことが難しい場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。以下はその手続きの概要です。

申立先

相続人の一人の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定めた家庭裁判所

必要書類

・申立書(原本と相手方人数分の写し)
・亡くなった人の全戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本含む)
・相続人全員の住民票または戸籍附票
・遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書、預貯金通帳の写し等)

調停では、調停委員が仲介して遺産分割について話し合いを進めます。裁判官の提示する調停案に全ての相続人が同意すれば、調停が成立し、同意した内容で調停調書が作成されます。

調停で相続人全員が合意できずに調停不成立に終わった場合、家庭裁判所は審判によって遺産分割の方法を決定します。審判手続きは、調停手続きから自動的に移行するため、新たに審判の申立手続きを行う必要はありません。審判では、遺産分割調停の経過や、提出された資料などを総合的に考慮して、法定相続分を基準に各相続人が取得する遺産額を決定します。

なお、遺産分割の協議や調停は「話し合い」と「合意」が前提となるため、相続人の意向が反映されますが、審判では家庭裁判所が強制的に遺産分割の方法を決めることになるため、必ずしも相続人全員が納得できる結果が得られるとは限らないことを気に留めておくようにしましょう。

遺産分割の注意点

相続人の確定に時間がかかる場合がある

遺産分割を行う前に、そもそも誰が相続人であるかをはっきりと確定しておく必要があるのですが、相続人の確定は時間がかかる場合があります。一般的に、被相続人(亡くなった人)の配偶者と子供が相続人となることが多いのですが、相続放棄が行われたり、相続人が一見して明らかでない複雑な家族構成であったりした場合、相続人の特定にはさらなる時間と労力が必要となることが少なくありません。

例えば、被相続人に子供がおらず、さらに直系尊属(父母や祖父母など)がすでに他界している場合に、被相続人の兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっていると、その子供たち(甥や姪)が代襲相続により相続人となる可能性があります。

このような複雑な状況では、戸籍謄本の取得や相続関係説明図の作成など、相続人を特定するための詳細な調査が必要になります。これらの手続きは複雑で時間がかかるため、相続手続きを具体的に進める前に、多くの時間を要する可能性があります。

遺産分割においては、相続人全員の合意が必要であるため、相続人の正確な特定は遺産分割を円滑に進める上で非常に重要です。そのため、相続が発生した場合は、できるだけ迅速に相続人の特定作業に取り組むようにしましょう。戸籍謄本の取得や相続関係説明図の作成など、煩雑で時間のかかる手続きは、法律の専門家である弁護士にお任せしていただくこともご検討ください。

特別受益や寄与分に関する意見の対立

遺産分割において、「特別受益」と「寄与分」に関する対立も少なくないため、事前に正しい知識を身につけておくことが重要です。

特別受益とは、相続人の中に被相続人(亡くなった人)から生前に特別な利益を受けた者がいる場合、その利益分を考慮して遺産を公平に分けるための制度です。結婚資金、住宅購入資金、教育資金など、相続人が被相続人から生前に受けた贈与や、遺言によって、特定の相続人に財産が贈与されていた場合(遺贈)などが対象になります。
特定の相続人が生前に大きな贈与を受けた場合、遺産分割の際にそれを考慮しないと、結果的にその相続人が他の相続人よりも多くの財産を得ることになってしまうため、他の相続人との間に不公平が生じる可能性があります。そのため、特別受益を受けた相続人は、その利益を相続分から差し引く必要があり、結果として他の相続人の相続分が相対的に増えることになります。

寄与分とは、相続財産の維持や増加に特別に貢献した相続人に対して、その貢献度を相続分に反映させる制度です。相続財産の維持や増加への特別の貢献とは、例えば、長期間の介護や看護、財産管理、被相続人の事業への貢献などが考えられます。こうした貢献度が考慮されると、相続財産から寄与分を控除した残額を基に相続人全員の相続分が計算され、寄与が認められた相続人は、相続分に控除額を加えた形で遺産を受け取ることになります。そのため、寄与分の認められた相続人の相続分が増え、他の相続人の分が減る可能性があるのです。

遺産分割協議において、こうした特別受益や寄与分を主張する相続人がいる場合は、意見が対立して協議が成立しないケースも見られます。
このような状況で意見が対立した場合は、相続人同士での解決が難しいため、家庭裁判所に調停を申し立てることが有効な解決策となるでしょう。

遺産に不動産がある場合│適切な評価と分割後の手続き

遺産に不動産がある場合は、不動産の性質上、特に注意が必要です。
なぜかというと、不動産には「市場価値」があり、公平な遺産分割を行うためには、不動産の市場価値を適切に評価することが重要だからです。

不動産の価値を適切に評価するためには、市場価値に基づいて正確な評価がなされることが必須ですので、通常は不動産鑑定士などの専門家に査定してもらい、不動産の評価額を正確に算出することになります。適切な評価が行われなければ、不公平な遺産分割につながる恐れがありますので、注意が必要です。

また、不動産の相続の際には、税務面でも注意が必要です。不動産の分割や所有権移転には、相続税だけでなく、贈与税や不動産取得税、登録免許税などの税金も生じます。税理士や司法書士、不動産鑑定士などの専門家に相談しながら進めることが、税務リスクを避け、円滑な相続を実現するために重要です。

相続税の申告期限までに遺産分割を│税負担を軽減できる

遺産分割を税務上有利に進めるためには、相続税の申告期限内に分割を確定させることが重要です。
相続開始から10ヶ月以内(遅くとも3年以内)に遺産分割協議を確定させると、相続税が減額され、税負担を軽減できる場合があるからです。この期限内に遺産分割を確定させると、例えば以下のような相続税の軽減制度の適用を受けられる可能性があります。

制度の種類

内容

配偶者の税額軽減

相続した財産が「法定相続分まで」または「1億6000万円まで」の場合、課税されませんが、遺産分割が未了の場合はこの軽減を受けられません。

小規模宅地等の特例

土地を相続する場合には、居住用では240㎡、事業用では400㎡までの土地について、評価額を50%~80%減額できますが、未分割の状態ではこの特例を受けられません。

その他の軽減制度

・非上場株式についての相続税の納税猶予
・農地等の相続税の納税猶予
・物納
※未分割状態ではこれらの制度が適用されません。

相続税をできるだけ低くするためにも、遺産分割は、なるべく申告期限までに(遅くとも3年以内に)相続人間の話し合いで解決したいものです。

遺産分割に関するQ&A

Q: 遺産分割協議がまとまらない場合、どうすればよいですか?

A: 遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることができます。この手続きでは、中立的な第三者(調停員)が相続人間の意見の調整を試み、解決に導きます。調停が不成立の場合は、家庭裁判所が審判によって法的に遺産分割の方法を決定します。

Q: 遺産分割において、特別受益や寄与分はどのように扱われますか?

A: 特別受益は、相続人が被相続人から生前に受けた贈与分を相続財産に加算し、その分を差し引いて相続分を調整します。寄与分は、相続人が被相続人の財産の維持や増加に特別に貢献した場合、その貢献度を考慮して相続分を増やします。どちらも公平な遺産分割のために考慮される要素です。

Q: 遺言書が存在する場合、遺産分割はどのように行われますか?

A: 遺言書がある場合、その内容に基づいて遺産分割が行われます。遺言書は亡くなった人の最終的な意思を反映するため、通常は遺言に記載された指示に従います。ただし、全ての相続人が合意すれば、遺言書の指示と異なる分割を行うことも可能です。遺言書に遺言執行者が指定されている場合、その人が遺産分割を進めます。

Q: 遺産分割で不動産を取り扱う際の注意点は何ですか?

A: 不動産は物理的に分割が難しいため、代償分割、換価分割、共有分割などを検討する必要があります。そして、代償分割や換価分割をするためには、不動産の市場価値を正確に評価することが重要です。これは、不動産の価値を適切に把握しないと、相続人間で不公平な分割が生じる可能性があるためです。また、不動産の所有権移転には法的な登記手続きが伴い、相続税や登録免許税がかかるため、税金の負担にも注意が必要です。

Q: 遺産分割協議書はどのように作成しますか?

A: 遺産分割協議書は、相続人全員が遺産の分割に関して合意した内容を正式に記録する文書です。この文書には、分割する財産の詳細、各相続人が受け取る遺産の具体的な内容などを記載します。当事者である相続人間で作成することも可能ですが、将来的なトラブルを防ぐためにも重要な書類ですので、法律の専門家である弁護士のアドバイスを受けながら慎重に作成することをお勧めいたします。

まとめ

遺産分割は、亡くなった人が残した財産(遺産)を相続人で分け合うという、相続の具体的な手続きです。本記事でもご説明した通り、遺産分割は主に遺言書によって行うか、遺産分割協議によって行うことになります。相続人間の話し合いでは問題が解決できない場合は、調停や審判といった裁判所の手続きを利用することも可能です。

遺産相続は、相続人だけで行うこともできますが、時には相続人の見落としや、遺産分割の際に感情的な対立が起こることがあります。これによって、手続きはより複雑となり、スムーズに進まない可能性があります。

相続手続きをスムーズに進め、将来的なトラブルを防ぐためにも、複雑な遺産分割を相続人だけでしようとせずに、弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。弁護士は遺産相続に必要な全ての手続きを代行するだけでなく、遺産分割協議で依頼者の代理人として他の相続人と話し合いを行い、依頼者が相続で不利にならないよう、適切に対応いたします。
当法律事務所では、初回の法律相談を無料で行っておりますので、ぜひお気軽にお問合せください。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。