死亡した人の預金をおろしたら罪になる?死後、勝手に預金を引き出したら違法?

遺産相続といえば、一般的なのは預貯金の相続です。ところで、死亡した人の預金をおろす場合に、法的な問題を引き起こす可能性があることをご存知でしょうか?
死亡した人の預金をおろすという行為は、適切なタイミングと方法で行わなければ、実は多くのリスクやトラブルを伴うのです。
たとえば、遺産分割協議の成立前か成立後か、他の共同相続人が同意しているのかしていないのか、引き出した金額は法定相続分の範囲内か、といった点で、問題が生じる可能性があるのです。
そこでこの記事では、死亡した人の預金をおろす場合に、どういうやり方であれば適切で、何をしてしまうと罪になるのか、といった点について弁護士が解説させていただきます。
死亡した人の預金をおろす際には、法律に基づいて、適切に対応することが重要です。この記事を少しでもご参考にしていただければと思います。
目次
死亡した人の預金をおろしたら罪になる?
1.死後の預金の引き出しは違法?
被相続人の死後、相続人が勝手に預金を引き出すことは違法なのでしょうか。
もちろん、遺産分割協議で正式に誰がいくら預金を相続するか、といったことが決まっている場合の預金の引き出しは、問題になることはありません。適切に遺産分割が行われた結果の預金の引き出しですから、銀行所定の手続きで被相続人の口座を解約し、自身の取り分を自己の口座に振り込んでもらえば、預金の相続は終了です。
問題となるのは、遺産分割協議が成立する前に、相続人が無断で預金を引き出すような行為です。他人の口座から勝手に預金を引き出すわけですから、「窃盗じゃないのか?」と思われるかもしれません。
ですが、死亡した人の預金を無断でおろした際の刑事責任について、一般的には、刑事罰の対象となる可能性は低いとされています。これは、日本においては親族間で発生した財産に関するトラブルは、基本的に当事者間で解決するべきという考え方が根強いためです。
そのため、たとえば親族間で窃盗や横領に相当する行為があったとしても、警察が介入することは少ないのが実情です(親族相盗例)。こういった点から、直ちに刑事責任に問われることはない、といえるでしょう。
ですが、刑事責任に問われることはないとしても、他の共同相続人との関係において、民事上の責任は別問題です。
そのため、こういった他の共同相続人の法定相続分を侵害するような預金の引き出しがあった場合は、民事上の責任が生じる可能性があるのです。
2.勝手に引き出すとどうなるのか
2-1.民事上の賠償責任が生じる
死亡した人の預金を引き出した結果、他の共同相続人の法定相続分を侵害した場合、どのような民事上の責任が発生するのでしょうか。考えられるものとしては、① 不当利得の問題、② 不法行為による損害賠償責任、の2つがあります。
前提として、普通預金・通常貯金・定期預金(定期積金を含む)といった預金は、被相続人の死亡によって、遺産分割の対象となる財産になります(最高裁判所平成28年12月19日決定)。そのため、相続開始後の預貯金は、遺産分割が終了するまでは相続人全員が共有している状態に置かれるのです。
したがって、相続人の一人が他の共同相続人の同意なく預金を払い戻す行為は、原則としてこの準共有状態にある権利を侵害するものとなり、返還もしくは損害賠償の責任が生じることとなります。
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不当利得の返還義務
不当利得とは、ある者が法律上の原因なく利益を受け(受益)、そのために他人に損失を及ぼした場合に、その利益を受けた者(受益者)に対し、その利益を保持することができる者へと利益を返還する義務を負わせる制度です(民法第703条)。
(不当利得の返還義務)
民法第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。ほかの相続人が受け取るべきだった預金に関しては、法律上の原因のない利得が生じている状態ですので、不当利得の返還義務が発生する可能性があるのです。
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不法行為による損害賠償
意図的に、または不注意によって他人の権利を侵害した場合、その損害を賠償する責任を負います(民法第709条)。遺産相続においても、他の共同相続人の権利を侵害する形で預金を引き出した場合、損害賠償責任が問われることがあります。
(不法行為による損害賠償)
民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。不法行為責任が成立するためには、① 故意または過失、② 権利侵害(または法律上保護される利益の侵害)、③ 損害の発生、④ 因果関係、の4つの要件を満たす必要があります。特定の相続人による預金の引き出し行為が、この4要件を満たして他の相続人の法的利益を侵害しているかが判断されることになります。
実際に、裁判例においても、遺産分割協議を経ずに被相続人名義の貯金を全額払い戻した行為に対し、法定相続分を基準とした賠償責任が認められています(徳島地方裁判所平成30年10月18日判決)。
以上のとおり、無断で預金の引き出しが行われた場合、侵害を受けた他の共同相続人は、預金をおろした相続人に対して「自己の法定相続分」に従った不当利得返還請求または損害賠償請求をすることができます。このことは、判例でも次のとおり明示されています。
相続財産中に可分債権があるときは、その債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、共有関係に立つものではないと解される。したがって、共同相続人の1人が、相続財産中の可分債権につき、法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には、当該権利行使は、当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから、その侵害を受けた共同相続人は、その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるものというべきである。
(最高裁判所平成16年4月20日判決)
亡くなった人の無断で預金を引き出す行為は、刑事罰の対象にはならない可能性が高い一方、上述のような民事責任を負う可能性があります。そのため、相続人間でトラブルが発生しないよう、慎重に対応する必要があるのです。
2-2.相続放棄や限定承認ができなくなるリスクも
また、預金を引き出した人が、相続放棄や限定承認をできなくなる、というリスクもあります。これは、預金の引き出し行為や、引き出した預金の使い道によって、相続を単純承認したとみなされる場合があるためです。
通常、相続人は相続が発生した後、財産を相続するか相続放棄するかを選択できます。しかし、預金を引き出して使用した場合、その行為が相続財産の消費とみなされると、相続財産を無制限に相続することを承認したものとみなされ(単純承認)、その結果、相続放棄や限定承認ができなくなってしまうのです。
もし、被相続人に借金がある場合、単純承認は遺産を無制限に相続することになるため、当然その借金も相続することになります。
そのため、遺産分割協議が成立してから、遺産分割協議書を用いて適切に相続手続きを進めることが大切なのです。
ですが、被相続人の死亡で口座が凍結されたことで、生活費に困る・葬儀費用が出せない、といった事態になることもあるかと思います。遺産分割協議の成立を待てない場合には、銀行に対して仮払い制度を利用して一定額の払い戻し請求をするか、裁判所に対して預貯金債権の仮分割の仮処分を請求することを検討しましょう。
具体的な手続き方法については、こちらの関連記事にて詳しく解説しておりますので、本記事とあわせてぜひご一読いただければと思います。
3.生前に故人の預金をおろしていたら罪になる?
銀行は口座名義人の死亡を把握すると、その故人の銀行口座を凍結します。不正な預金の引き出し等を防止するためです。そのため、「生活費や葬儀費用などのために、生前のうちに預金を引き出しておこう」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
口座名義人本人の意思が確認できれば、生前に預金を引き出すことに問題ありません。家族が代理で預金を引き出す場合でも、本人の意思が明確であれば、使途についても自由です。
しかし、本人の意思が不明瞭な場合や、本人が認知症等で状況を理解していない場合には、口座から勝手に預金を引き出したとみなされ、他の相続人から使い込みを疑われ、親族との関係が悪化することも考えられますし、他の相続人から不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求を受けるリスクもあります。
後見人による死後の預金引き出し
さて、以上のとおり、相続人による故人の預金の引き出しについて確認してきましたが、ここで後見人による預金の引き出しについても確認しておきたいと思います。
後見人(成年後見人)とは、認知症、知的障害、精神障害などの精神上の障害により、事理を弁識する能力(判断能力)が不十分な人を支援・保護するために、家庭裁判所が選任する人のことです。特定の親族が必ず選任されるものでもなく、弁護士や社会福祉法人などの法人が選任されることや、複数人の成年後見人が選任されることもあります。
成年後見人の職務には、成年被後見人の預貯金の管理や年金の受領、税金や社会保険料の支払い、不動産等の管理・処分といった財産管理も含まれますが、これは成年被後見人の存命中に限らず、成年被後見人が死亡した場合でも、一定の要件を満たす場合に限り「死後事務」を行うことが認められています(民法第873条の2)。
(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限)
民法第873条の2 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)
ただし、「相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為」や「相続財産に属する弁済期が到来している債務の弁済」、「死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為」については、必ず家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法第873条の2但書)。
そのため、成年後見人が被後見人の死亡後に預金を引き出す行為は、民法第873条の2に基づく家庭裁判所の許可がある限り認められるのです。したがって、この許可を得ずに勝手に成年後見人が預金を引き出して消費したり着服したりした場合には、民事上の責任だけでなく、刑事上の業務上横領罪が成立する可能性があります。
なお、成年後見人の場合、口座名義人本人と親族関係にあったとしても、「親族相盗例」の考え方が適用されることはなく、実刑を含む処罰の対象となります。
実際の裁判例でも、「親族相盗例の趣旨及び成年後見制度の趣旨・実態等にかんがみれ、家庭裁判所の選任・監督の下に被後見人の財産を占有・管理する成年後見人が犯した業務上横領罪については、たとえ被後見人との間に刑法255条が準用する同法244条1項ないし2項所定の親族関係があったとしても、親族相盗例の準用はないというべきである。」と明示されています(仙台高等裁判所秋田支部平成19年2月8日判決)。
なお、業務上横領罪に該当した場合の法定刑は、10年以下の拘禁刑です(刑法第253条)。
(業務上横領)
刑法第253条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。
そして、刑事責任だけでなく、民事上の損害賠償責任等も負う可能性があります。
それでは、死後の事務処理を担っていた者が預金を引き出した裁判例を1つ確認しておきましょう。
被相続人から生前に被相続人名義の通帳と印鑑を受け取り、被相続人の葬儀等と、統合失調症により入退院を繰り返している被相続人の子の世話をすることを委託された者が、相続人に無断で、被相続人の子名義の預金口座から払戻しを受けて支出した事案です。
この事案では、預金からの正当な支出として認められる額については事務管理となる、とされた一方で、租税公課、家屋改築修理費、交際接待費、水道光熱費などに費消した分については、事務管理者は本人の利益に最も適合する方法によって事務の管理をしなければならないのであるから、自らのために費消することは許されないとして、正当な支出額を差し引いた836万円余りについては、不法行為として賠償責任を負うとされました。
(高松高等裁判所平成22年8月30日判決)
他の相続人が違法に引き出していた時の対処法
それでは、他の共同相続人が勝手に被相続人の預金を引き出していた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
1.遺産分割協議で請求する
他の相続人が故人の預金を使い込んでいた場合には、遺産分割協議で請求することも可能です。民法では、相続人全員の合意が得られた場合、すでに処分されてしまった相続財産に関しても、存在するものとして遺産分割を行うことができると規定されています(民法第906条の2)。
(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
民法第906条の2 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
このため、使い込まれた預貯金も含めて遺産分割協議を行うことが可能です。さらにこの場合は、使い込みをした相続人の同意は不要とされています。
使い込んだ本人が事実を認めない場合や返還に応じない場合は、遺産分割調停を検討しましょう。家庭裁判所で調停委員を交えた話し合いを通じて、冷静な話し合いが可能となります。ただし、遺産分割調停はあくまで話し合いによる合意を前提としているため、相手が合意しなければ調停不成立に終わり、訴訟を検討する必要も生じます。
そのため、相続人による預金の引き出しが発覚した際には、まず弁護士にご相談いただき、遺産分割協議や調停での話し合いによる解決を目指していただければと思います。
2.損害賠償請求・不当利得返還請求を行う
当事者間の話し合いや遺産分割調停で解決できない場合には、本記事でご紹介した、預金の使い込みによる損害賠償請求や不当利得返還請求を行うことも検討しましょう。
遺産分割調停とは異なり、損害賠償請求や不当利得返還請求を行う際には、家庭裁判所ではなく地方裁判所に申し立てを行います。
注意しなければならないのは時効です。損害賠償請求については、損害および加害者を知ってから3年以内、もしくは不法行為の時から20年以内に請求を行う必要があります(民法第724条)。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
民法第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
不当利得返還請求については、一般債権の規定に従い、「権利を行使できることを知った時から5年」または「権利を行使できる時から10年」以内に請求を行う必要があります(民法第166条1項)。
(債権等の消滅時効)
民法第166条1項 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
相続人同士で預金の使い込みについてトラブルになり、裁判で争う場合、当事者だけで解決するのは困難なケースが多いです。そのため、なるべく早めに法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
死亡した人の預金をおろした罪【Q&A】
Q1.死亡した人の親族がその預金を引き出した場合、刑事上の罪に問われることはありますか?
A:死亡した人の同居親族がその預金を引き出したとしても、一般的には窃盗罪や横領罪などの刑事上の犯罪として罪に問われることはありません。これは、「親族相盗例」という考え方で、家庭内の財産上の問題については、なるべく警察が介入せずに親族間での解決を図るべき、という意図に基づきます。
ただし、死亡した人との関係性・間柄によっては、親族相盗例が適用されない可能性もあります。例えば、親族以外の第三者が代理で引き出す場合や、相続人以外で死亡した人と同居していない親族が引き出す場合は、基本的に親族相盗例が適用されないでしょう。
また、刑事上の責任を問われないとしても、民事上の責任が問われる可能性はあります。他の相続人が受け取るべき預金まで勝手に引き出して自分のものにしてしまうと、他の相続人から不当利得返還請求や損害賠償請求される場合もあるため、注意が必要です。
Q2.死亡した人の預金の引き出しで気を付けることは?
A:死亡した人の預金を引き出す際、他の共同相続人の同意もないのに法定相続分を超えて引き出すと、トラブルに発展することがあります。そのため、まずは他の共同相続人全員から同意を得ることが重要です。その上で、引き出した預金を何に使うのか、使途を明確にしておき、明細書や領収書などはしっかり管理しておきましょう。
Q3.被後見人が亡くなった後、後見人は被後見人の預金を引き出せますか?
A:原則として、被後見人の死後の預金の引き出しは、家庭裁判所の許可が必要な死後事務に該当します。そのため、被後見人の預金を無断で引き出すことはできません。必ず家庭裁判所の許可を得て行わなければ、業務上横領の罪に問われる可能性があるため、注意が必要です。
まとめ
本記事では、死亡した人の預金を引き出すことがどういった罪に問われる可能性があるかについて、弁護士から解説させていただきました。
遺産相続が開始すると、故人の銀行口座は凍結されていますから、基本的には適切な手続きを経なければ預金を引き出すことはできません。ですが、銀行が口座を凍結させる前に預金を引き出してしまうケースなどもあるでしょう。
そのため、相続人や後見人が故人の預金を引き出すことで、どういった場合に法的問題が生じるかをおさえておき、もし共同相続人が無断で預金を引き出した場合には、適切に対処することが重要です。
被相続人の預金の引き出しに関して不明点やお悩みがありましたら、法律の専門家である弁護士にご相談いただければと思います。弁護士法人あおい法律事務所では、弁護士による法律相談を初回無料で行っております。ご予約は当ホームページのWeb予約フォームやお電話にてお受けしておりますので、ぜひお気軽にお問合せください。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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