亡くなった人の預金をおろすには?死亡後凍結された銀行口座から引き出す方法

相続手続き

更新日 2024.10.31

投稿日 2024.07.05

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

弁護士法人あおい事務所の相続専門サイトをご覧いただき、ありがとうございます。当サイトでは、相続に関する法的な知識を分かりやすくお届けしております。皆様のお悩みの解消に少しでもお役立ちできましたら幸甚です。

亡くなった人の預金をおろすには、どのような手続きが必要なのでしょうか。故人の死亡に伴い、その銀行口座は通常、金融機関によってただちに凍結されます。これにより、生前に予定していた入院費用や葬儀費用の支払いが困難になる場合があります。そんな状況で、支払いに充てるために亡くなった人の預金をおろすには、どのような手段があるのでしょうか。また、故人の預金を引き出す際には、どのような注意点があるのでしょうか。

この記事では、亡くなった人の預金をおろすための具体的な方法と、その際の注意点について解説します。亡くなった人の預金をおろすには、適切な手続きを踏むことが重要です。

 

目次

死亡届を出しても銀行口座は凍結されない

死亡届とは、故人の戸籍を抹消するために必要な届出書です(戸籍法86条以下)。この届出は、故人の死亡を知った日から7日以内に行う必要があります。死亡届の提出は、相続手続きを開始する上での重要な第一歩ですが、この段階ではまだ故人の銀行口座には影響を及ぼしません。

銀行口座の凍結は、金融機関が口座名義人の死亡を把握した場合に発生します。この凍結により、口座からの預金引出しや振込みなどの操作が不可能になります。

しかし、重要な点は、死亡届の提出自体が銀行に直接通知されるわけではないため、死亡届を提出しただけでは口座が凍結されることはないということです。口座凍結のトリガーは、金融機関が独自に死亡情報を確認した場合に限られます。

口座凍結されるのは銀行が死亡を確認した時点

役所から金融機関に死亡届の提出について連絡はありません。

では、どのように銀行は口座名義人が亡くなったことを知るのでしょうか。

金融機関は、口座名義人の死亡情報を以下のような方法で入手し、その情報を基に口座を凍結します。

  • 相続人等からの直接的な通知: 相続人や遺族が故人の死亡を金融機関に直接報告することで、情報が伝わります。
  • 残高証明書の取得申請: 相続手続きの一環として、相続人が故人名義の口座に関する残高証明書を金融機関に申請する際、死亡情報が提供されます。
  • 公的な情報源: 特に著名人の場合、新聞の訃報欄やオンラインのお悔やみ情報を通じて、金融機関が死亡情報を得ることがあります。
  • 葬儀情報: 地域社会における葬儀の告知や看板などを通じて、金融機関が間接的に死亡情報を知る場合もあります。

口座に預けられたお金は、口座名義人が亡くなると、相続財産の一部となります。そのため、相続人が誰であるか明確になるまで、銀行は口座を凍結する措置をとります。もし複数の相続人が存在する場合、一方が勝手に預金を引き出してしまうと、遺産を巡る争いの原因となりかねません。

このようなトラブルを避けるため、銀行は口座の凍結を行うのです。

口座凍結前に亡くなった人の預金をおろすには?おろしたらどうなる?

故人のキャッシュカードを持ち、暗証番号を知っている相続人は、理論上、口座が凍結される前にATMを使って預金を引き出すことができます。実際に、被相続人の葬儀代やその他未払い金の支払のために相続人が亡くなった方の口座から複数回にわたってお金を引き出すケースは珍しくありません。

しかし、口座凍結前に預金をおろしたらいくつかのリスクを伴います。例えば、一度でも預金を引き出すと、相続放棄の選択肢が失われる可能性があります。また、故人の資産を相続人の一人が勝手に引き出すことは、他の相続人との間でのトラブルの火種となり得ます。

相続トラブルが発生する可能性がある

被相続人が亡くなった場合、その財産は遺産分割が完了するまで、すべての相続人の共有財産となります。法定相続人であっても、勝手に故人の銀行口座からお金を引き出すことは、原則として許されません。しかし、葬儀費用のように相続人全員が負担すべき支払いがある場合、実際にはこのような行為が行われることもあります。

ただし、口座からお金を引き出し、個人的に使用してしまうと、他の相続人との間でトラブルが発生する可能性があります。相続人間のトラブルを防ぐため、故人の銀行口座は基本的にそのままにしておくのが望ましいです。支払いのためにどうしてもお金が必要な場合は、領収書を残して支払い内容が明確になるようにすることが重要です。

また、被相続人の預金口座は遺産分割協議の対象となるため、勝手に引き出して使用することは許されません。お金を引き出す前には、他の共同相続人の同意を得ることが必要です。

葬儀費用など遺産から支出しても構わないものにお金を使った場合は、領収書を保管して、個人的な使用ではないことを証明できるようにしておくべきです。

相続放棄ができなくなる

故人の預金を引き出し、自分のために使用してしまうと、法的には「単純承認」とみなされることがあります。単純承認が成立すると、もし後に被相続人に多額の債務があることが判明しても、相続放棄する権利を失うことになります。このため、葬儀費用など相続財産から支出しても問題ないものに限ってお金を使用することが重要です。

引き出したお金の使途を証明するのは難しいため、トラブルの原因となりやすいです。特に、被相続人の負債について不明な点がある場合は、預金を引き出すことは避けるべきです。相続放棄を検討している場合はなおさら、慎重な対応が求められます。

相続人が一度でも故人の財産を利用すると、相続放棄の選択肢がなくなり、予期せぬ負債を背負うリスクが生じることを念頭に置く必要があります。

口座凍結後に亡くなった人の預金をおろすには?

金融機関が口座名義人の死亡を知ると、その口座は凍結されます。しかし、故人名義の口座に生活費が入っており、預金が引き出せないと生活に困る場合もあります。このような緊急の状況では、遺産分割協議の完了を待つことができません。

そこで、「仮払い」という制度を利用して、凍結された口座から一定額の預金を引き出すことが可能です。これにより、葬儀費用や生活費の支払いに対応できます。

相続手続きが完了すれば、預金残高の払い戻しを受けることができます。ここでは、亡くなった人の預金を口座凍結後におろすための方法として、「仮払いを受ける方法」と「相続手続きにより払い戻す方法」の2つの手段を説明します。

仮払いを受ける方法│葬式費用など必要な資金を遺産分割前に引き出せる

口座凍結後に亡くなった人の預金をおろすには、仮払い制度を利用する方法があります。

仮払い制度とは、遺産分割協議が整う前に、一定金額まで預金を引き出すことができる制度です。

相続人全員の同意による払い戻し

凍結された銀行口座からの仮払いを受けるためには、相続人全員の認知と同意が必要です。これは、個人名義の財産が法的には相続人全員の共有財産と見なされるためです。金融機関も、相続人間のトラブルを避けるため、全員の同意を求めます。

しかし、実際には、特に遠方に住む相続人がいる場合など、全員からの同意書を得るのは容易ではありません。このような状況では、仮払いの手続きが複雑になり、時間と労力がかかることが予想されます。

相続人全員の同意がない場合の払い戻し│銀行窓口で仮払い申請を

2019年7月1日から、相続人全員の同意書がなくても、凍結された銀行口座から仮払いを受けることが可能になりました。この制度により、相続人は銀行の窓口で単独で仮払いの申請を行うことができ、他の共同相続人の同意を得る必要がなくなりました。ただし、引き出し可能な金額には上限が設けられています。

預金引き出し上限金額=死亡時の預貯金残高×1/3×仮払いを申請する相続人の法定相続分
※ただし、1金融機関あたりの預金引き出し上限金額は150万円

上記の仮払いの上限額は「金融機関ごと」に設定されているため、もし複数の銀行に預金口座がある場合、各金融機関からの出金可能額がそれぞれの上限額までとなります。その結果、全体としての出金可能な金額が増加する可能性があります。

例えば、ある個人が銀行口座に1500万円を預けており、法定相続人が配偶者1人と子供2人の場合、仮払いの上限額の計算は次のようになります。

配偶者については、1500万円×1/3×1/2 = 250万円と計算されます。しかし、1金融機関からの預金引き出し上限が150万円であるため、配偶者は最大150万円までの仮払いを受け取ることができます。

子供1人あたりの計算では、1500万円×1/3×1/4 = 125万円となります。この場合、上限の150万円を下回るため、子供1人あたり125万円の仮払いが可能です。

引き出された預金は、改めて遺産分割の対象として考慮され、分割されます。このようにすることで、相続人の中で誰かが遺産分割協議前に預金を引き出した場合でも、不公平が生じないようにします。

なお、仮払い申請手続きの主な必要書類は下記のとおりです。取引先の銀行により、必要書類が異なる場合があるので、詳しくは取引の銀行にお問い合わせください。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本、改正原戸籍)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 仮払い申請者の印鑑証明書

家庭裁判所に申し立てる

預貯金の払戻し制度において、設定された上限額を超える金額を引き出したい場合、家庭裁判所に「預貯金債権の仮分割の仮処分」を申請し、認可を受ける必要があります。この仮処分が認められると、口座が凍結されていても預貯金の全額または一部を引き出すことが可能になります。ただし、仮払いを求める具体的な理由が必要であり、不当な理由では認められません。

なお、仮払いの申立てには、遺産分割調停(または審判)の申し立てが先行している必要があります。そのため、遺産分割の調停が長期化することが予想され、仮払いが必要となる場合に、家庭裁判所への申立てが有効でしょう。

相続手続きにより払い戻す方法

口座名義人が亡くなり口座が凍結されると、故人の名義での口座利用は再び可能になりません。この状況で行えるのは、仮払いの申請や相続手続きを通じての名義変更、または預金の払い戻しのみです。銀行は誤った人に払い戻さないよう、相続手続きの際には様々な書類を要求します。以下に、一般的なケースごとに必要な書類を示します。

  • 遺言書がある場合
  • 遺言書がないが遺産分割協議書がある場合
  • 家庭裁判所の調停証書・審判書がある場合

なお、必要な書類は銀行によって異なる場合があるため、手続きを行う前には預金のある銀行に確認することが重要です。また、払い戻しには、必要書類の提出後1~2週間ほどかかります。

遺言書がある場合の必要書類

遺言書
・検認調書または検認済証明書(公正証書遺言以外の場合)
・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
・預金を相続する人の印鑑証明書など

遺言書がないが遺産分割協議書がある場合の必要書類

・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の印鑑証明書
・遺産分割協議書など

家庭裁判所の調停証書・審判書がある場合

・家庭裁判所の調停調書謄本または審判書謄本
・預金を相続する人の印鑑証明書など

 なお、ゆうちょ銀行の場合は他の銀行とは異なり、相続確認表の提出が必要です。まず、ゆうちょ銀行に口座を持っている名義人が亡くなったことを相続確認表で申し出る必要があります。この手続きは、窓口または相続Web案内サービスを通じて行えます。

相続確認表が受領されると、ゆうちょ銀行から「必要書類のご案内」が郵送されてきますので、その内容に応じて必要書類を収集してください。詳しくは以下の記事を参照してください。

相続手続きにより銀行口座の凍結を解除する流れ

預金口座の凍結を解除するには、以下の2つの方法のいずれかを銀行で行う必要があります。

  1. 故人が使用していた口座の名義を変更し、自分の名義で引き継ぐ。
  2. 口座を解約し、預金を払い戻してもらう。

銀行へ名義人が亡くなったことを知らせる

まず、故人名義の銀行口座を保護するために、故人が亡くなったことを銀行に連絡し、口座の凍結を依頼します。これは、遺産相続手続きを進めるための最初のステップです。

口座が凍結されていない場合、相続人が口座番号とパスワードを知っていれば勝手に資金を引き出すことが可能になり、これが遺産争いの原因となることがあります。そのため、故人が亡くなったら迅速に銀行に連絡し、口座の凍結を行うことが重要です。

連絡は、故人が利用していた銀行の支店窓口または相続事務センターに電話で行います。この際に、口座の名義人が亡くなったことを伝えます。口座はこの時点で凍結されるため、注意が必要です。

銀行からは手続きの案内や必要書類についての情報が提供されます。場合によっては来店を求められることもありますが、電話での案内や資料の郵送で対応してくれる場合もあります。手続きに不安がある場合は、直接窓口での案内を受けることをお勧めします。

必要書類の準備と提出

相続手続きを進めるためには、銀行によって異なる一連の必要書類を準備し、提出する必要があります。自筆遺言書がある場合は、まず家庭裁判所に提出して検認を受けることが重要です。遺言書がない場合は、相続人間で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成することをおすすめします。

故人の死亡を証明するためには、除籍謄本と、生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍謄本が必要となります。出生地と現住所が異なる場合は、生まれた地域の役所から戸籍謄本を取り寄せる必要があります。さらに、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書も用意してください。

これらの書類を銀行に提出する際は、書類に不備がないか注意深く確認しましょう。不備があると受理されない可能性があります。また、銀行によっては書類の原本が必要な場合と、コピーで受け付けてくれる場合がありますので、事前に銀行に確認しておくと良いでしょう。

手続きの完了

必要書類を全て提出した後、通常2~3週間程度で手続きが完了します。手続きの結果は、故人の口座の取り扱いによって異なります。

  • 名義変更の場合: 故人の口座を引き継ぐ場合、名義が変更された通帳を受け取ります。これにより、新しい名義人として口座を利用することができるようになります。
  • 解約して払戻しを受ける場合: 口座を解約し、預金を払い戻す場合、相続人が指定した銀行口座に払戻し金が振り込まれます。同時に、故人名義の解約済み通帳が郵送されてきます。

いずれの場合も、手続きが完了したことを示す書類や通帳を受け取ったら、内容を確認し、問題がないか確かめましょう。これで、相続手続きによる銀行口座の凍結解除が完了し、故人の預金に関する相続が正式に終了します。

銀行口座の凍結解除にかかる費用

銀行口座の凍結解除自体に銀行が手数料を請求することは一般的にありません。しかし、解除手続きに必要な書類の取得には費用が発生します。具体的には、戸籍謄本は1通あたり450円、改製原戸籍(除籍謄本)は750円、印鑑証明書は300~400円程度がかかります。これらの費用は、全体として数千円程度で済むことが一般的です。

さらに、弁護士や司法書士などの専門家に手続きを代行してもらう場合には、別途報酬が発生します。

銀行口座の凍結解除を弁護士や司法書士に依頼する際の費用は、事務所ごとに異なります。報酬の基準は統一されておらず、各事務所が自由に設定することが一般的です。通常、口座凍結解除の依頼は、相続手続き全体の一部として行われることが多いため、単独での依頼は珍しく、費用の相場も事務所によって大きく変わります。

弁護士の場合、相続財産全体の手続きを依頼すると、20万円前後の着手金に加え、相続財産の数%を報酬として加算することが多いです。ただし、口座凍結解除のみの場合は、5万~10万円程度で依頼できることもあります。

相談料が無料の事務所もあるため、まずは複数の事務所に相談して見積もりを比較し、信頼できる弁護士や司法書士を選ぶことが重要です。

亡くなった人の預金の引き出し・解約しない方が良いケース

亡くなった人の預金に関する手続きについて解説してきました。まず、口座が凍結された際に慌てることなく対処する方法として、仮払いの申請があります。これにより、葬儀費用や生活費など、必要な支出に迅速に対応することが可能です。

また、相続手続きを通じて預金を払い戻すプロセスも重要です。これは、遺産分割が完了した後に行われ、故人の財産が正しく相続人に分配されることを保証します。

しかし、すべてのケースで故人の銀行口座に手をつけるべきではありません。特に、相続放棄を考えている場合や、預金残高が少ない場合は、口座をそのままにしておくことが望ましいとされます。

相続放棄を検討している場合

相続財産の検討を行い、プラスの財産よりもマイナスの財産(借金など)が多いことが明らかになった場合、相続放棄を考えることがあります。

ここで注意が必要なのは、故人の預金を引き出したり、口座を解約したりする行為が、相続を承認したとみなされる可能性があるということです。このような行為を行うと、後から相続放棄をすることができなくなるおそれがあります。

したがって、相続放棄を検討している場合は、故人の預金に手をつける前に、まずは相続放棄の手続きを検討し、相続放棄の承認(単純承認)にならないように注意することが重要です。相続放棄の手続きは、故人の死亡を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要がありますので、迅速に対応することが求められます。

預貯金の残高が少ない場合

故人の口座残高が少額の場合、口座の解約手続きにかかる手間や費用を考慮すると、そのまま放置しておくことも一つの選択肢です。特に、銀行がまだ故人の死亡を把握していない状態であれば、口座は凍結されずに残ったままとなります。

また、最後の取引から10年以上経過した口座は「休眠口座」となり、休眠口座内の預金(休眠預金)は一定の手続きを経て、民間の公益活動に活用されることになっています。このため、残高が少ない口座を放置することで、結果的に公益への寄付として活用される可能性もあります。もちろん、休眠口座になった後でも、適切な手続きを行えば預金の引き出しは可能です。

亡くなった人の預金を引き出す際の注意点│トラブルを防ぐために

速やかに遺産分割協議をする

遺言書が存在しない場合、故人の預金を含む遺産の分割には相続人全員の合意が必要となる遺産分割協議が行われます。この協議は相続人の意見が一致するまで時間がかかることがあり、協議の長期化は相続人にとって利益になることは少ないです。

早期に遺産分割協議を成立させるためには、相続人同士の円滑なコミュニケーションが鍵となります。相続人が協力し合い、合意点を見つけることができれば、遺産分割協議をスムーズに進めることができます。遺産分割協議が成立すれば、故人の預金についても迅速に払い戻しを受けることが可能となります。

また、相続人間で意見が対立し合意に至らない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることも一つの手段です。専門家である弁護士や司法書士に相談し、適切なアドバイスを受けることも有効です。相続はデリケートな問題が多いため、早期に専門家に相談することでスムーズな解決につながることがあります。

勝手に預金をおろさない│領収書や明細書を保管しておく

仮払い制度により、他の相続人に知らせずに故人の預金から一定額を引き出すことが可能になりました。しかし、この仮払いを受けた金額が実際に故人のため、または相続に関連する目的で使われたのかについては、トラブルの元になり得ます。

故人の預金を引き出す場合、他の相続人にその事実を隠さずに伝えることが重要です。情報を隠してしまうと、後から「隠れた貯金の引き出しがないか」「生前の不正な引き出しがあったのではないか」と疑われる可能性があります。

このような疑念は相続人間のトラブルを招く原因となり得るため、貯金の引き出しや使用目的については透明性を持って早めに共有することが望ましいです。信頼関係を維持し、円滑な遺産分割を目指しましょう。

さらに、支出に関しては領収書や明細書をきちんと保管しておくことが求められます。これらの書類は、他の相続人や遺族に対して、故人の遺産が私的な目的で使われていないこと、また相続放棄の際に「財産の使用」に該当しないことを証明する重要な証拠となります。また、相続税の申告時には、これらの書類が控除額の根拠としても役立ちます。

証拠が不足すると、相続人間でのトラブルだけでなく、相続税の控除に関しても加算税や延滞税の支払いなどのリスクが生じる可能性があるため、十分な注意が必要です。

生前におろした預金の使い道に注意

故人が生前に銀行口座から預金を引き出した場合、その使用目的には十分注意が必要です。普通預金の引き出しや定期預金の解約も同様に、資金の使途が問われることになります。

例えば、故人が生活費として預金を引き出した場合は、通常問題ありません。故人のために資金を使用したならば、それは相続財産とはみなされず、トラブルの原因にはなりません。

故人が亡くなる前に預金を引き出して使った場合、その使途には注意が必要です。つまり、故人のお金を自分のために使ったことに対して、相続人から賠償を求められる可能性があるということです。

このような状況は、相続トラブルのきっかけとなることが多いため、故人の資金を使用する際は十分に注意し、できる限り他の相続人とのコミュニケーションを取りながら進めることが重要です。

相続税は必ず納付する

相続が発生しても、すべてのケースで相続税がかかるわけではありません。実際には、国税庁の調査によると、日本全国で相続税が関係するのは約8%のケースに限られます。これは、多くの相続が基礎控除額の範囲内で完結するため、非課税となるケースが多いからです。

基礎控除額の計算式は「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」です。つまり、相続人が多ければ多いほど、非課税となる可能性が高まります。

もし基礎控除額を超える相続が発生した場合、相続税が課税されます。この税金は必ず納付しなければならず、納付を怠ると重いペナルティが科されます。具体的には、本来納めるべき税額に対して40%の加算税が課せられることがあります。さらに悪質な場合には、罰金刑の対象となる可能性もあります。

したがって、相続が発生した場合は、専門家に相談して相続税の有無を確認し、必要な税金は正確に納付することが重要です。適切な対応を行うことで、将来的なトラブルを回避できます。

「亡くなった人の預金をおろすには?」に関するQ&A

Q: 亡くなった人の預金を口座凍結前におろしてもいいのでしょうか?

A: 亡くなった人の預金を口座凍結前に引き出すことは、金融機関が死亡を把握していなければ技術的に可能ですが、この行為にはリスクが伴います。まず、他の共同相続人との間でトラブルが発生する可能性があります。被相続人の預金口座は遺産分割の対象であり、勝手に引き出して使用することは原則として許されません。引き出したお金を葬儀費用など遺産から支出しても構わないものに使った場合でも、領収書を保管して証明できるようにしておく必要があります。

また、遺産から引き出したお金を自分のために使ってしまうと、相続を単純承認したことになり、後に負債がプラスの財産を上回ることが判明しても相続放棄ができなくなるため注意が必要です。

したがって、亡くなった人の預金を口座凍結前に引き出す際には、これらのリスクを十分に考慮し、必要であれば他の共同相続人の同意を得るなどの対策を講じることが重要です。

Q: 故人の口座から他の相続人の許可なしに預貯金を引き出す際のルールと注意点は何ですか?

A: 民法改正により、相続人は他の相続人の許可なく故人の口座から預貯金を引き出すことが可能になりました。引き出し可能な金額は「故人の預貯金×3分の1×その相続人の法定相続分」で計算されます。

ただし、1つの銀行につき引き出し上限は150万円です。上限を超える額を引き出す場合は、家庭裁判所に申請し、引き出しの許可を得る必要があります。

引き出しに必要な書類は、亡くなった方の戸籍謄本、除籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、引き出しをする相続人の印鑑証明書の4点です。他の相続人の許可は必要ありませんが、遺産争いを防ぐために事前に相談しておくと良いでしょう。

また、引き出したお金の使用目的や用途をメモに記録しておくと、将来的なトラブルを回避するのに役立ちます。

Q: 故人の預金が死後に違法に引き出された場合、どのように対処すれば良いですか?

A: 故人の預金が死後に違法に引き出された場合、まず遺産分割協議で解決を図る方法があります。令和元年7月1日施行の相続法改正により、預金を引き出した相続人以外の全ての相続人が合意すれば、遺産分割協議、調停、審判の中でこの問題をまとめて解決できるようになりました(民法906条の2第1項)。

合意が得られない場合や改正相続法が適用される前の相続については、不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を起こして解決を図ることができます。いずれの場合も、専門家の助言を得ることが重要です。

詳しくは、以下の記事も参照してください。

まとめ

亡くなった人の預金をおろすためには、適切な手続きを踏む必要があります。故人の銀行口座は死亡が確認されると凍結されるため、生前の入院費用や葬儀費用などの支払いに影響が出ることがあります。遺言書がある場合は、その指示に従って預金の引き出しを行いますが、遺言書がない場合は、遺産分割協議を通じて相続人間で合意を形成する必要があります。

民法の改正により、相続人は他の相続人の許可なく一定額の預貯金を引き出すことが可能になりましたが、引き出し上限額や必要書類に注意が必要です。引き出したお金の使途は明確にしておくことが重要であり、遺産争いを防ぐために他の相続人とのコミュニケーションも欠かせません。

最終的に、亡くなった人の預金をおろす際には、法的な観点から適切な対応を取ることが求められます。相続に関する手続きは複雑であり、不安や疑問がある場合は、専門家である弁護士や司法書士に相談することをお勧めします。適切なアドバイスを受けることで、スムーズかつ適切に相続手続きを進めることができます。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。