相続登記を自分でする方法│手続きの流れや必要書類の集め方など

相続手続き

更新日 2024.08.09

投稿日 2024.06.11

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

弁護士法人あおい事務所の相続専門サイトをご覧いただき、ありがとうございます。当サイトでは、相続に関する法的な知識を分かりやすくお届けしております。皆様のお悩みの解消に少しでもお役立ちできましたら幸甚です。

不動産の名義変更(「相続登記」)は、相続が発生した際に欠かせない手続きです。しかし、相続登記を自分で行うことは、多くの時間と労力を要し、細心の注意を払わなければ、登記漏れなどの失敗につながることもあります。

そこでこの記事では、相続登記を自分で行う際のデメリットや注意点を始め、具体的な手続きの流れや必要書類の集め方について詳しく解説します。また、どのような状況で専門家に依頼するべきかも、弁護士のアドバイスを交えてご紹介。自分で相続登記に挑む前に、ぜひこの記事を参考にして、準備万端で臨んでください。

目次

相続登記は自分でできるのか?

そもそも相続登記とは│土地や建物の名義変更手続き

相続登記とは、亡くなった人が所有していた不動産の名義を相続人に移転する手続きのことを指します。不動産の所有者情報は、法務局に保管されている登記簿に記録されており、所有者が亡くなった場合、相続人が自ら法務局に申請して名義変更を行う必要があります。

たとえば、亡くなった父親から長男に不動産が引き継がれる場合、長男は地元の法務局に相続登記を申請し、父親の名義から自分の名義に変更する必要があります。

2024年4月1日からは、相続登記が義務化され、相続の事実を知った日から3年以内に登記を完了させなければならないように法律で定められています。相続登記を怠ると、不動産の所有権に関する権利関係が複雑化し、将来的に売却や担保設定などの手続きが困難になることがあります。

さらに、不動産が相続人全員の共有財産となるため、一部の相続人が経済的な困難に陥ると、その不動産が差し押さえられるリスクも生じます。

このように、相続登記は不動産を安全に管理し、権利を確実に行使するために不可欠な手続きです。自分で相続登記を行う場合は、必要な書類の準備や手続きの流れを正確に理解し、期限内に適切に対応することが重要です。

自分で相続登記できるケース

相続登記を自分で行うことは、専門家に依頼するよりもコストを抑えることができますが、その選択は一定の条件を満たす場合にのみ適切です。以下に、自分で相続登記を行うのが適切な主なケースを詳しく解説します。

相続関係が複雑でない場合

まず、相続関係がシンプルな場合です。これは、例えば被相続人の配偶者と子供だけが相続人であるなどのケースを指します。こうした状況では、相続に関連する書類の収集や作成が比較的シンプルになり、マニュアルに従って手続きを進めることができます。

時間を確保できる場合

次に、平日の昼間に時間を確保できる場合も重要です。相続登記には、法務局や市役所への複数回の訪問が必要となることがあります。これらの機関の営業時間は基本的に平日の8時30分から17時15分までですので、これに対応できる時間的な余裕がある人には自分で行う方法が向いています。

粘り強く対応できる場合

最後に、役所や法務局と粘り強く対応できることも必要です。特に相続関係がやや複雑になる場合、必要な戸籍の収集や申請に必要な書類の準備には相当な労力と時間が要求されます。

さらに、書類に不備があった際には、法務局や役所からの指摘に対応するため、具体的な手続きや対処方法を確認するために彼らとのコミュニケーションが必要になります。これには根気強さと、法的手続きに関する一定の知識が求められます。

自分で相続登記できないケースと専門家に依頼するメリット

相続登記は、家族の状況や財産の構成によっては、非常に複雑になることがあります。こうした状況では専門的な知識と経験が必要とされるため、司法書士に依頼することが適切です。以下に、司法書士に相続登記を依頼することをお勧めする複雑なケースを示します。

兄弟姉妹が相続人になる場合や家族関係が複雑な場合

相続人に子どもがおらず、兄弟姉妹のみが相続人である場合、相続人を特定する作業は非常に複雑になります。まず、被相続人の子や親の有無、兄弟姉妹の人数、亡くなった兄弟姉妹の子どもの有無など、多岐にわたる点を確認する必要があります。さらに、家族構成に離婚や再婚、異父母兄弟、認知子、養子縁組といった複雑な要素が加わると、相続人の確定作業はさらに緻密な調査を要求されます。

このような状況下では、戸籍謄本を広範囲にわたって取得し、それらの詳細なチェックが必要となります。誤った解釈により法定相続人を間違えて特定してしまうと、手続きの遅延や書類の再提出、実印の再取得など、時間と労力の無駄が生じる可能性があります。このようなリスクを考慮すると、相続関係が複雑な場合には経験豊富な司法書士に相続登記を依頼することが賢明です。

相続人同士の仲が悪い場合

相続登記を進めるには、相続人全員の協力が必須であり、全員の署名や捺印が含まれた遺産分割協議書の作成が求められます。しかし、相続人同士の間に亀裂がある場合、これらの協力を得ることは非常に困難です。相続人間の関係が悪いと、利害が対立し情報共有や手続きの進行がスムーズに行われない可能性が高まります。

このような状況で相続登記を進めるための有効な解決策は、司法書士や弁護士などの専門家に依頼することです。専門家は第三者として中立的な立場から介入し、適切なアドバイスや調停を行うことができます。これにより、相続人間の感情的な衝突を避けつつ、法的な観点から最も適切な手続きを推進することが可能になります。

特に、相続人間で意見の対立が激しい場合、専門家は中立性を保ちながら全員の意見を調整し、合意形成を促す役割を果たします。また、必要に応じて法的手段を取ることも検討されるため、相続手続きの進行が保障されます。相続人同士の仲が悪い場合には、こうした専門家の介入が、相続登記を円滑に進めるための鍵となるでしょう。

相続登記をせずに放置していた不動産がある場合

相続登記はこれまで義務ではなかったため、数世代にわたって放置され、古い名義のままの不動産が少なくありません。親が亡くなり不動産の名義を確認した際に、名義が数世代前のご先祖様のままというケースも珍しくなく、このような状況では相続登記を行う際に複雑な手続きが必要です。

特に、名義が明治や昭和の初期に最後に更新された不動産の場合、戦前の旧民法の規定を理解しながら、その名義人から現在までの全ての相続人を特定し、彼ら全員から委任状や遺産分割協議書への捺印を受ける必要があります。これは膨大な労力を必要とし、また専門的な知識が求められるため、非常に難易度が高いです。

このような場合、自分で手続きを行うことは困難を極めます。相続人が多岐にわたるため、誰が法定相続人であるかの特定から始めなければならず、さらには過去の法律に基づく手続きの解釈や適用が必要になります。したがって、放置されてきた不動産の相続登記には、経験豊富な司法書士の協力を得ることが推奨されます。

不動産のみが主要な遺産など特殊な相続の場合

相続において主要な遺産が不動産のみの場合、単純な等分割は困難です。このような状況では、「換価分割」と「代償分割」の二つの方法が考慮されます。換価分割は不動産を売却し、その売却金を相続人間で分ける方法です。一方、代償分割は特定の相続人が不動産を継承し、その代わりに他の相続人に法定相続分に相当する金銭を支払う方法です。

これらの分割方法を選択する際には、遺産分割協議書の記載方法に細心の注意が必要です。不適切な記載があると、贈与税の課税対象となるリスクが生じる可能性があります。また、相続登記の手続きにおいても、税務上の問題や法的な細部を正確に把握し、適切な手続きを行う必要があります。

このように、不動産のみを遺産として扱う場合には、専門的な知識と経験が必要です。そのため、専門家である税理士や司法書士の助言やサポートを得ることが推奨されます。これにより、税法の遵守はもちろん、法的な問題を未然に防ぎながら、円滑かつ公正な遺産分割を実現することが可能となります。

対象の不動産が遠方にある場合

相続登記は、その不動産が位置する地域の法務局で行う必要があります。特に不動産が遠方にある場合に多大な労力と費用を要することがあります。

初めて提出する相続登記の書類は、通常、不備があるため一度での申請通過は難しいです。不備が指摘された場合、修正して再提出する必要があり、これには法務局への再訪問や郵送でのやり取りが必要になるため、遠方だとその手間はさらに増大します。直接の提出が困難であれば、オンラインでの申請も可能ですが、これには専用のシステムが必要であり、一般の人々にはアクセスが難しいことがあります。

このような状況で非常に便利なのが、司法書士に相続登記を依頼することです。司法書士はオンライン申請を含むさまざまな手続きに精通しており、国内のどの地域に所在する不動産に関しても適切にサポートしてくれます。住居地と不動産所在地が異なる場合、または手続きの不安や時間的な制約がある場合に、司法書士への依頼は、手続きをスムーズに進めるだけでなく、時間と費用を節約する効果的な選択肢となります。

不動産の名義変更を急ぐ場合

相続した不動産を売却する際には、その不動産の名義がすでに相続人に変更されている必要があります。不動産売却の意向がある場合、特に不動産関連の業者からの売却の働き掛けを受けている場合には、相続登記は迅速に行われなければなりません。また、相続税の納税資金を確保するためや、銀行融資を受ける際に不動産を担保とする場合も、登記が完了している必要があります。

相続税は被相続人が亡くなってから10カ月以内に申告と納税が必要です。この期限内に相続登記を完了させないと、税金の納付や融資の受け入れが困難になるため、スピーディな手続きが求められます。

このような状況では、日常の忙しさや手続きの複雑さを考慮すると、司法書士に相談や依頼をすることが非常に効果的です。司法書士は相続登記に関する専門知識を持っており、必要な書類の準備から申請までのプロセスを迅速に進めることができます。これにより、時間的な制約や手続きの煩雑さに対処しつつ、適切なタイミングでの登記完了を確実にすることが可能です。

相続登記で自分で行うメリット│費用を節約できる

相続登記を自分で行うことの最大のメリットは、専門家への報酬支払いを節約できる点にあります。相続登記に必要な費用は大きく三つに分けられます。

第一に登録免許税、第二に戸籍謄本などの取得費用、そして第三に専門家への報酬です。登録免許税や戸籍謄本の取得費用は、専門家に依頼する場合でも自分で手続きする場合でも変わらず必要となる実費ですが、専門家への報酬は自分で登記を行うことで削減できる唯一のコストです。

相続登記を業務として行うことができるのは弁護士と司法書士のみであり、特に司法書士に依頼するのが一般的です。司法書士への報酬は自由化されており、相続登記の場合は一般的に5万円から15万円程度が目安とされています。この報酬は、登記申請のみの依頼か、戸籍謄本の取得や遺産分割協議書の作成などの付随業務を含むかによって変動します。必要書類を自分で揃え、登記申請のみを依頼する場合は、より低い報酬で依頼が可能です。

このように、相続登記を自分で行うことで、専門家に支払う報酬を節約し、手続きの総費用を最小限に抑えることができます。ただし、自分で手続きを行うには、登記に関する知識と手続きの流れを正しく理解している必要があるため、事前にしっかりと学習し、準備を整えることが重要です。

相続登記で自分で行うデメリット│決して簡単な手続きではい!

時間と労力がかかる

相続登記は、不動産の権利関係を公示するための重要な制度であり、その手続きは法律によって厳格に規定されています。この手続きは、必要書類の収集から申請書の正確な記入に至るまで、多くの緻密な作業を要求されます。特に自分で相続登記を行う場合、いくつもの役所を訪れる必要があるほか、法務局への複数回の訪問も必要となります。

具体的には、戸籍謄本や遺産分割協議書など、相続登記に必要な書類を集めるために、被相続人の出生から死亡に至るまでのすべての戸籍を収集しなければなりません。これは、特に家族が遠方に転籍していた場合、追跡が難しくなり、手続きの難易度が高まります。また、申請書の記入には法律的な知識が必要であり、細部にわたる正確さが求められるため、間違いがあると全ての手続きをやり直す必要が出てきます。

実際に、自分で全ての手続きを行おうとしたが、書類の不備や手続きの間違いで申請が却下されるケースは珍しくありません。このような経験は、多くの時間と労力を浪費させるだけでなく、手続きにおける精神的なストレスも大きいものとなります。

したがって、相続登記を自分で行う場合は、その複雑さと煩雑さを理解し、十分な準備と知識が必要です。多くの場合、時間や労力を考慮すると、専門家に依頼することが、より確実で効率的な選択肢となるでしょう。

登記漏れのリスクがある

相続登記を自分で行う際の一つの大きなデメリットは、「登記漏れ」の発生リスクです。登記漏れとは、亡くなった人が所有していた不動産の一部を見逃してしまうことを指します。特に一戸建ての敷地内にある道路後退部分や私道、またはマンションの共用部分など、目立たない持分が登記から抜け落ちることがあります。これらの部分は、日常生活では問題なく使用しているため、所有していることを意識していないケースが多いです。

法務局では、申請書に記載されている物件のみ登記を行うため、申請者が亡くなった人が所有していたすべての不動産を正確に把握していなければ、登記漏れが発生します。このような漏れがあると、将来的に不動産を売却したり、建て替えなどの大きな取引を行う際に問題が発生する可能性があります。たとえば、売却時や契約時に買主や業者から登記漏れを指摘され、取引が停滞することも考えられます。

また、登記漏れがあった場合、すべての相続人の協力を得て再度登記を行う必要がありますが、相続人間の関係が悪いと協力が得られないこともあり、売却や再建築が困難になることがあります。

このような状況を避けるためにも、相続登記は専門的な知識を持つ司法書士に依頼することが推奨されます。司法書士は所有権の全体像を把握し、適切な登記を完了させるために必要なサポートを提供することができます。自分で手続きを進める場合に比べて、時間と労力を節約し、登記漏れのリスクを大幅に減少させることが可能です。

相続登記の手続きを自分でする際の注意点

必要な戸籍謄本を不足なく収集する

相続登記を行う際には、亡くなった人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本が必要となります。これには除籍謄本や改製原戸籍も含まれ、亡くなった人の生涯にわたる家族関係や本籍地の変遷を網羅的に追う必要があります。特に、亡くなった人が生涯に渡って転籍を繰り返していた場合や、結婚や離婚などで何度も本籍地が変わっている場合は、これらの戸籍を正確に収集することが重要です。

戸籍謄本を集める作業は、亡くなった人の最初の本籍地から始め、その後のすべての転籍先を辿りながら必要な書類を収集することになります。本籍地が頻繁に変わっていると、多くの市区町村の役場を訪れる必要があり、このプロセスは非常に時間がかかり、複雑なものになり得ます。また、戸籍謄本を取得する際には各役所で手数料が発生するため、その費用も考慮に入れる必要があります。

このような状況を適切に管理するためには、計画的に行動することが必須です。亡くなった人の家族構成や本籍地の変遷に関する情報を事前にリストアップし、どの役所に何の書類を求めに行く必要があるかを明確にすると良いでしょう。不足があれば相続登記は完了できないため、全ての必要書類が揃っていることを確認してから登記申請を行うことが大切です。

この戸籍謄本の収集作業の複雑さを考慮すると、多くの人々は専門家の助けを借りることを選択しますが、自分で行う場合は十分な準備と確認が求められます。

登記簿の住所と死亡時住所は一致している必要がある

相続登記を行う際、登記簿に記載されている本人と死亡した被相続人が同一人物であることを証明するためには、登記簿上の住所と被相続人の死亡時の住所が一致している必要があります。この住所の一致が確認できない場合、追加の証明書類を用意する必要が生じます。

住民票の除票に以前の住所が記載されている場合、この問題は容易に解決できますが、被相続人が生前に複数回住所を変更していた場合には、その移動履歴を繋ぐ戸籍の除附票や改製原附票を取得することが求められます。これらの書類は、被相続人の過去の住所変更の履歴を追いかけ、各段階での住所を証明するために不可欠です。

相続登記を自分で進める場合、まずは登記簿謄本を取得して、記載されている住所を確認しましょう。その後、必要に応じて被相続人の戸籍謄本や除附票などを集め、登記簿上の住所と死亡時の住所が一致することを証明できるように準備を進めます。この手続きは複雑で時間がかかることが多いため、十分な時間を確保して計画的に行うことが重要です。

私道やマンションの共用部分の持分を確認する

相続登記を行う際、不動産に関する所有権の確認は重要なステップですが、一戸建ての敷地やマンションの専有部分だけでなく、私道や共用スペースなどの持分にも注意が必要です。これらの部分はしばしば見落とされがちですが、不動産全体の価値に影響を与える重要な要素です。

  1. 私道の持分
    特に一戸建ての敷地の隣にある私道の場合、この土地へのアクセス権や保守の責任が持分によって分かれています。相続登記を行う際には、敷地だけでなく隣接する私道の持分も確認し、適切に登記する必要があります。
  2. マンションの共用部分
    マンションの場合、各住戸の所有者はその専有部分のみならず、廊下や集会所、エレベーター、屋上などの共用部分にも一定の持分を持っています。これらの共用部分は全体の利便性や快適性を支えるため、その権利関係を明確にしておくことが重要です。

期限内に完了させないと罰則がある

2024年4月1日からの新規制により、相続で不動産を受け取った場合、その事実を知った日から3年以内に相続登記を完了させることが法律で義務付けられています。この期限を過ぎると、10万円以下の罰金が課される可能性があるため、期限内に手続きを終わらせることが非常に重要です。

相続登記には多くの書類が必要であり、特に相続する不動産の数が多かったり、亡くなった人が生前に何度も引っ越しをしていた場合、必要な戸籍謄本や不動産登記簿等を揃えるだけでも大きな労力と時間が必要です。こうした状況では、手続きが予想以上に長引くことがあります。

このように、手続きに時間がかかることを見越して、相続事実を知ったらできるだけ早めに登記の準備を開始することが推奨されます。早期に手続きを始めることで、予期せぬ遅延に対処しやすくなり、期限内にすべての登記を完了させることができます。また、登記を早期に行うことで、不動産の権利関係が明確になり、将来的なトラブルを防ぐことにもつながります。

自分で相続登記を行う場合は、必要書類のリストアップから始め、各書類がどこでどのように取得できるかを事前に確認しておくことが重要です。可能であれば、手続きの進め方や書類の具体的な記入方法について専門家のアドバイスを求めることも検討しましょう。

相続登記を自分でする際の手続きの流れ

相続登記の手続きを自分でする場合のやり方と手順について解説していきます。

①相続不動産を調査する

相続登記を行う前の基本的なステップとして、まず被相続人が所有していた不動産を特定することが重要です。相続不動産の調査を行う上で主要な資料が、固定資産税の納税通知書に添付されている「固定資産税課税明細書」です。

この課税明細書には、課税対象者である被相続人が所有している不動産の情報が記載されています。この明細を確認することで、どの不動産が相続財産として考慮されるべきかが初めて明らかになります。被相続人が所有する全ての不動産を見逃すことなく確認するためには、この書類の確認が第一のステップとなります。

万が一、課税明細書が手元にない場合は、不動産の「名寄帳」を利用すると良いでしょう。名寄帳とは、個人が所有している不動産のリストをまとめたもので、各市区町村の役場で取得できます。名寄帳にアクセスすることで、課税明細書と同様に被相続人が所有していた不動産を網羅的に把握することが可能です。

②戸籍などの必要書類を収集する

相続登記を行うには、申請に必要な様々な添付書類を事前に集める必要があります。このステップは、相続手続きにおいて非常に重要で、適切な書類がなければ手続きを進めることができません。主に必要とされる書類は次の通りです。

【相続登記の必要書類】

 必要書類

書類の取得先

登記申請書

法務局

法務局ホームページからもダウンロード可

不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)

法務局

被相続人の出生から死亡までの⼾籍謄本及び除籍謄本 

被相続⼈の本籍地の市区町村役場など

被相続⼈の住⺠票の除票または戸籍の附票

被相続⼈の最後の住所地の市区町村役場(⼾籍の附票は被相続⼈の本籍地の市区町村役場)

相続人全員の⼾籍謄本または抄本

各相続⼈の本籍地の市区町村役場

不動産を相続する人の住民票

相続人の居住地の市町村役場

固定資産税納税通知書または固定資産税評価証明書 

土地や建物の所在地の市町村役場

 遺産分割協議書

 相続人全員で押印・署名のうえ作成

 相続人全員の印鑑証明書

 相続人の居住地の市町村役場

遺言書(自筆証書遺言の場合は検認済証明書)

※遺言により取得した場合

相続登記には主に3つのケースあり、それぞれで必要な書類が異なります。ケース別の詳しい相続登記の必要書類については、下記記事で詳しく解説していますので、こちらを参照ください。

相続登記の必要書類は?一覧表でご紹介!有効期限や綴じ方も

③遺産分割協議を行い遺産分割協議書を作成する

不動産の相続が複数の相続人による共有となると、権利関係が複雑化し、将来的なトラブルの原因ともなり得ます。そうした状況を避けるため、相続人間で遺産分割協議を行い、できれば一人の相続人に不動産の権利を集約させることが推奨されます。

遺産分割協議は、法律で定められた各相続人の法定相続分を基に行いますが、これはあくまで目安であり、相続人全員の合意があれば自由に変更可能です。

この協議で、具体的に誰がどの不動産やその他の遺産を相続するかを決定します。この過程は全員の意見が反映されるよう配慮が必要で、合意に至るためにはしばしば何回もの話し合いが必要になることもあります。

協議がまとまったら、その結果を遺産分割協議書に記載し、すべての相続人が署名と捺印を行います。この書類は相続登記の申請に不可欠であり、分割の内容が正確に反映されていることを確認する必要があります。

さらに、遺産分割協議書を公正証書として作成する選択肢も考慮されることがあります。公正証書にすることで、文書の法的な強制力が増し、将来的なトラブルを防ぐ効果が期待できます。

遺産分割協議は感情が絡むことも多いため、公平かつ冷静に進めることが重要です。必要に応じて専門家の助言を求めることも適切な選択です。

④申請書を作成する

申請書は法的な手続きの核となる書類であり、その内容は法律に基づいて正確に記載される必要があります。申請書を自分で作成する場合、以下のポイントに注意して進めましょう。

まず、申請書の作成は、法務局や法務局で入手できる記載例を参考にすることが推奨されます。これにより、形式や記載内容の間違いを防ぐことができます。さらに、書類作成に不安がある場合は、法務局を訪れて登記官と直接相談することも可能です。登記官は申請内容に関して具体的なアドバイスを提供でき、正確な申請書の作成を支援します。

申請書はA4サイズの用紙にパソコンまたは手書きで記載し、書類が複数ページにわたる場合や記載内容に訂正が必要な場合は、適切に訂正印を押してください。訂正箇所は明確にし、「1字削除」「2字加筆」といった形で訂正内容を記載することが求められます。

注意点として、申請書の内容は初回の受付時には詳細なチェックが行われないため、後に書類の不備や間違いが発見されると、修正要求や再提出が必要になることがあります。このような状況を避けるためにも、申請前には内容を十分に確認し、必要な場合は専門家の意見を求めることも検討しましょう。

最後に、申請書の様式と内容は相続の状況やケースによって異なるため、自筆証書遺言、公正証書遺言、遺産分割協議、法定相続など、特定のシナリオに応じた書式を選ぶことが重要です。

申請書の様式と記載例については法務局のホームページ「不動産の所有者が亡くなった」から、自分に当てはまる形式を選択し、参照してください。

⑤管轄の法務局に申請する

相続登記は、相続する不動産が位置する地域を管轄する法務局で申請を行います。申請をする際は、前段階で収集した必要書類と適切に準備された申請書を提出することが求められます。申請内容に不備がなければ、通常、登記は約2週間で完了します。

登記が完了すると、申請者は「登記識別情報通知」を受け取ることになります。これはかつての権利証に相当する重要な書類で、不動産の所有者が変更されたことを証明し、具体的な登記情報を含んでいます。この書類は、将来的な不動産取引や証明作業に必要となるため、安全な場所に保管することが重要です。

申請の際には、返信用封筒を添付しておくと便利です。これにより、登記完了後、登記識別情報通知を郵送で受け取ることが可能になり、法務局に再度足を運ぶ必要が省けます。また、登記完了の予定日以降には、直接法務局へ行って書類を受け取ることもできます。

相続登記の自分で申請する方法には3つのやり方がある

相続登記の申請方法は大きく3つに分かれており、それぞれの方法には独自の利点と注意点があります。選択する申請方法によって、必要な準備や手続きの流れが異なるため、事前にそれぞれの特性を理解しておくことが重要です。

持参する

法務局に直接出向いて申請を行う方法です。この方法の最大の利点は、窓口で軽微なミスがあった場合に担当者が直接訂正を助けてくれることです。ただし、法務局が遠方にある場合には移動に時間とコストがかかります。申請には、使用した印鑑、身分証明書、必要に応じて補正指示書などを持参する必要があります。

郵送申請

遠方に住んでいる場合や、直接法務局に行く時間が取れない場合に便利です。申請書類は書留郵便以上で送る必要があり、書類に間違いがあった場合、訂正のために直接訪問が必要になることがあります。このため、訂正印や捨印を事前に集めておくことが推奨されます。登記完了後の書類は、返送用封筒を同封することで郵送で受け取ることができます。

ホームページからオンライン申請する

最近導入されたばかりのこの方法は、自宅やオフィスから直接申請が可能で、手続きの進行状況をオンラインで確認できるため非常に便利です。ただし、オンライン申請を行うためには専用のソフトウェアの導入や電子証明書の取得が必要となります。これらの準備には時間とコストがかかる可能性がありますが、距離的な制約を感じている場合には特に有効な選択肢です。

相続登記を自分でする場合の費用

戸籍など必要書類の取得費用

相続登記を進めるにあたって、多くの証明書や書類が必要となります。これらの書類は主に市役所や区役所で発行されますが、それぞれに発行手数料が必要です。これらの費用は、一見すると1通あたり大きな額ではないかもしれませんが、必要な書類の数が増えるにつれて、総額では大きな費用負担になることがあります。

主な証明書とその手数料は以下の通りです。

  • 戸籍謄本(戸籍全部事項証明書):450円/1通
  • 除籍謄本(除籍全部事項証明書):750円/1通
  • 改製原戸籍謄本:750円/1通
  • 戸籍の附票の写し:300円/1通
  • (除)住民票の写し:200~300円/1通(自治体により異なる)
  • 印鑑証明書:200~300円/1通(自治体により異なる)
  • 固定資産評価証明書:200~400円/1通(自治体により異なる)

例えば、配偶者と子が法定相続人となる一般的な相続の場合、5~10通程度の戸籍謄本やその他の書類が必要になることが一般的です。相続人が多かったり、被相続人が生前に複数回本籍地を変更していたりする場合、さらに多くの戸籍謄本が必要になる可能性があります。このため、手数料の総額が予想以上に高くなることがあります。

さらに、本籍地が遠方にある場合は、その役所までの交通費が必要になるか、郵送での請求を行う場合には郵送費も考慮する必要があります。

登録免許税

不動産の相続登記を申請する際には、登録免許税が発生します。この税額は、不動産の固定資産税評価額の0.4%に基づいて計算されます。例えば、固定資産税評価額が1,000万円の不動産の場合、登録免許税は4万円となります。相続登記を行う前に、この税額を把握し、準備しておくことが大切です。

さらに、土地の相続登記においては特定の条件下で登録免許税の免税措置が利用可能です。この免税措置には主に以下の二つのケースが該当します。

  1. 多重相続が発生した土地
    前回の相続発生時に土地の相続登記が行われず、その後再び相続が発生した場合、その土地の登録免許税が免除されます。この特例は建物には適用されません。相続登記申請書には「租税特別措置法第84条の2の3第1項の非課税適用」と明示する必要があります。
  2. 固定資産税評価額が100万円以下の土地
    土地の固定資産税評価額が100万円以下の場合、登録免許税が免除される特例があります。こちらも建物には適用されず、申請書には「租税特別措置法第84条の2の3第2項の非課税適用」と記載する必要があります。

自分でせずに専門家に依頼する場合の費用は

相続登記を専門家、特に司法書士に依頼する場合、その報酬は手続きの複雑性や不動産の数によって異なります。一般的に、自宅の土地と建物の相続登記であれば、報酬は約10万円程度が相場とされています。これは比較的シンプルなケースでの標準的な費用です。

不動産が複数ある場合や、不動産の所在地が異なる場合は、報酬がさらに高額になることがあります。これは、複数の不動産に関してそれぞれ登記手続きを行う必要があるため、作業量が増えるからです。また、不動産が離れた場所にある場合は、その地域の法務局へのアクセスに追加の手間や交通費がかかるため、これらのコストも報酬に反映される可能性があります。

専門家に依頼する場合の費用は、不動産の状況や相続の複雑さによって大きく変動するため、実際に司法書士と契約する前に見積もりを取得し、どのようなサービスが含まれているのかを明確にしておくことが重要です。

相続登記を自分でする方法に関するQ&A

Q: 相続登記を自分で行うことのメリットは何ですか?

A: 相続登記を自分で行う最大のメリットは、司法書士などの専門家に支払う報酬を節約できることです。相続登記には登録免許税や戸籍謄本などの取得費用がかかりますが、これらは専門家に依頼しても自分で行っても同じ金額がかかります。

しかし、専門家への報酬は自分で相続登記を行うことにより節約可能です。専門家への通常の報酬は5万円から15万円程度ですが、これを節約することができれば、全体の費用を大幅に抑えることが可能となります。ただし、手続きの複雑さや必要書類の準備には注意が必要です。

Q: 2024年3月1日から始まる戸籍謄本の広域交付制度とは何ですか?

A: 2024年3月1日から開始される戸籍謄本の広域交付制度は、本籍地以外の市区町村役場でも戸籍謄本や除籍謄本を請求できるようになる制度です。これにより、本籍地が遠方にある場合でも、居住地近くの市区町村役場で必要な戸籍の謄本を取得することが可能となります。

この制度は、本人が直接市区町村の窓口に訪問して請求する必要があります。郵送や代理人を通じての広域交付の請求は認められておらず、この方法での請求を希望する場合は、従来通り本籍地の市区町村役場に対して行う必要があります。この新しい制度は、相続手続きなどで必要な戸籍謄本をより容易に入手できるようにすることを目的としています。

Q: 相続登記の手続きにはどのようなパターンがありますか?

A: 相続登記には主に次の3つのパターンがあります。

  1. 遺言内容に従って相続するパターン: 被相続人が遺言を残している場合、その遺言に記載されている指示に従って財産を分割します。公正証書遺言を除く他の形式の遺言は、家庭裁判所での検認が必要です。遺言の内容に相続人全員が納得していない場合、遺産分割協議によっても財産を分けることが可能です。
  2. 遺産分割協議によって相続するパターン: 遺言書が存在しない場合や、相続人全員が遺言書に反対する場合は、相続人が話し合いによって財産の分割を決定します。この過程を遺産分割協議と呼び、合意に達した内容は遺産分割協議書に記載し、不動産の相続登記にも使用します。この書類には相続人全員の署名と実印の捺印が必要です。
  3. 法定相続分どおりに相続するパターン: 遺言書がなく、遺産分割協議も行われない場合、民法に定められた法定相続分に従って財産が分けられます。法定相続分は相続人の相続順位に応じて定められており、相続人の構成によってその割合は異なります。法定相続分による分割では、遺産分割協議書は必要ありませんが、不動産が共有となる場合、その後の活用や売却には共有者全員の同意が必要となります。

各パターンで求められる書類や手続きが異なるため、相続が発生した場合はまず遺言の有無を確認し、適切なパターンを選択することが重要です。

まとめ│相続登記は自分でせずに専門家へ相談がおすすめ

相続登記を自分でする方法について、この記事では手続きの流れや必要書類の集め方を詳しく説明してきました。自分で相続登記を行うことは、費用を節約できる一方で、多くのデメリットや注意点が存在します。

相続登記は、法的な手続きが複雑であり、精神的にも負担が大きい作業です。特に大切な人を失った後にすぐにこのような手続きに取り組むのは、心身ともに大きなストレスとなることが少なくありません。

そのため、手続きに自信がない、時間的な余裕がない、または迅速に手続きを完了させたいという場合には、専門家である司法書士に依頼することを強くお勧めします。司法書士に依頼することで、手続きの正確性が保証され、多くの心理的、時間的負担から解放されます。この記事が、相続登記を検討している方々にとって有益な情報を提供し、より適切な選択をする手助けになれば幸いです。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。