遺族年金がもらえないケース│受給条件や対処法もあわせて解説!

相続手続き

更新日 2024.07.05

投稿日 2024.07.05

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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家計を支えていた家族が亡くなった際、遺族年金は生活の支えとなる大切な収入源です。。しかし、手続きを進めたものの「遺族年金がもらえない」と言われることがあり、これがさらなる不安を引き起こすことも少なくありません。

遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があり、それぞれ受給対象者や金額が異なります。遺族基礎年金は子のいる配偶者または子が対象で、遺族厚生年金はもっとも優先順位の高い人のみが受給可能です。保険料の未納や年収の一定以上、65歳以上の人など、受給要件を満たさないと年金をもらえないケースも存在します。

この記事では、遺族年金がもらえないケースやその具体的な条件、もらえない場合の対処法について解説します。

目次

遺族年金がもらえないのでは?と不安な方!まずは受給条件をチェック

遺族年金は、国民年金や厚生年金に加入していた人が亡くなった際に、残された家族が受け取ることができる年金です。この遺族年金には2種類あり、一つは国民年金から支給される「遺族基礎年金」、もう一つは厚生年金から支給される「遺族厚生年金」です。

どちらの年金を受け取れるか、あるいは両方を受け取れるかは、亡くなった方の年金の加入状況によって決まります。遺族基礎年金は主に子のいる配偶者や子自身が対象となり、遺族厚生年金は最も優先順位の高い遺族が対象となります。これにより、残された家族が経済的に困窮しないように支援する仕組みが整えられています。

遺族基礎年金の受給条件は?もらえる人は?

遺族基礎年金を受給するには、まず亡くなった方が以下のいずれかの条件を満たしている必要があります。

1.国民年金の被保険者である間に死亡した場合
2.国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方が日本国内に住所を有している間に死亡した場合
3.老齢基礎年金の受給権者であった方が死亡した場合
4.老齢基礎年金の受給資格を満たした方が死亡した場合
(参照:日本年金機構HP「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」

その上で、亡くなった方によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」が受給対象となります。

ここでいう「子」とは、以下のいずれかに該当する場合を指します。

  1. 子のある配偶者
  2. 子(18歳未満、または20歳未満で障害等級1級または2級の障害を持つ場合)

遺族厚生年金の受給条件は?もらえる人は?

遺族厚生年金を受給するには、まず亡くなった方が以下のいずれかの条件を満たしている必要があります。

1.厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
2.厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
3.1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡したとき
4.老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
5.老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
引用:日本年金機構HP「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)

その上で、遺族厚生年金を受けることができる遺族は、死亡当時、死亡した人によって生計を維持されていた以下の遺族のうち、最も優先順位が高い人です。

体的には、以下の遺族のうち、最も優先順位の高い方が受給することになります。

第一順位
 ・配偶者(夫は妻の死亡時に55歳以上、妻は年齢制限なし)
 ・子ども(18歳未満、または20歳未満で障害等級1級または2級の障害を持つ場合)
 第一順位の中でも、さらに以下の優先順位があります。
 1.子どものいる妻、または子どものいる55歳以上の夫
 2.子ども
 3.子どものいない妻、または子どものいない55歳以上の夫
第二順位
亡くなった人の父母(死亡時に55歳以上)
第三順位
亡くなった人の孫(18歳未満、または20歳未満で障害等級1級または2級の障害を持つ場合)
第四順位
亡くなった人の祖父母(死亡時に55歳以上)

なお、遺族厚生年金を受給できる妻は中高齢寡婦加算が上乗せされるケースがあります。

まず、夫が亡くなった時に40歳以上65歳未満であり、生計を共にする子どもがいない場合です。または、遺族基礎年金を受給していたが、子どもが成長して年齢条件を超えたために受給できなくなった場合です。このどちらかの条件を満たすと「中高齢寡婦加算」が上乗せされます。この加算額は年額61万2,000円です。

さらに、遺族年金は老齢年金とは異なり、非課税となります。

遺族年金がもらえないケースとは?なぜもらえない?

上記のような受給条件を満たす場合であっても、遺族年金をもらえないケースがあります。

①保険料が未納の場合

遺族年金をもらえないケースの一つに、保険料が未納の人があります。国民年金保険料が未納の場合、遺族年金は受け取れません。会社員や公務員は、毎月の給与から厚生年金保険料が自動的に支払われるため、未納になる心配はありません。しかし、自営業やフリーランスの場合、自分で国民年金保険料を納める必要があり、未納になることも考えられます。

遺族年金をもらうためには、以下の「保険料の納付要件」を満たしている必要があります。

  • 亡くなった日の前々月までの保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上であること。
  • 亡くなった日が2026年3月末日までの場合、亡くなった方が65歳未満で、亡くなった日の前々月までの直近1年間に保険料未納がないこと。

この要件を満たさないと遺族年金は受け取れません。

保険料の支払いが厳しい場合でも、未納にせず「免除」を受けていれば、その期間も年金の加入期間とみなされます。未納のまま放置せず、早めに年金事務所に相談することが重要です。これにより、将来の遺族年金の受給を確保できます。

②別居中で生計同一でない・年収が850万円を超える場合

遺族基礎年金をもらえないケースの一つに、生計維持関係がない場合があります。亡くなった方と遺族の間に生計維持の関係が成り立っていないと、遺族基礎年金は受け取れません。受給対象者は、亡くなった時に一緒に生活していて、前年の年収が850万円以下であることが必要です。

  • 生計を同じくしていること:同居していることまたは、別居しているが仕送りを受けている、健康保険の扶養親族であるなどの事情があること
  • 収入要件:前年の収入が850万円未満、または所得が655万5,000円未満であること

もし遺族の年収が850万円を超える場合、収入が十分にあると判断され、生計を維持していたとみなされません。ただし、別居していても、健康保険の扶養家族に入っている場合には、同じ生計を維持していると認められます。

③遺族基礎年金がもらえない場合│子どもがいない

子どもがいない場合、遺族基礎年金を受け取ることはできません。遺族基礎年金は「子のある配偶者」または「子」に支給される年金で、子どもがいない場合は対象外となります。この「子」とは、18歳の誕生日を迎える年度の3月31日までの子ども、または障害年金の障害等級1級または2級に該当する20歳未満の子どもを指します。

遺族基礎年金は、子どもを育てるための経済的支援を目的としています。そのため、子どもがいない場合は支給されません。もし亡くなった方が会社員や公務員で、その遺族に受給対象となる子どもがいない場合には、遺族厚生年金のみが支給されることになります。

④遺族厚生年金がもらえない場合│優先順位が低い

遺族厚生年金を受給できる人には優先順位があります。「配偶者」「子」「父母」「孫」「祖父母」などが対象となり、以下の順序で優先されます。

  1. 子のある配偶者
  2. 子のない配偶者
  3. 父母
  4. 祖父母

この中で、最も優先順位が高い人だけが遺族厚生年金を受け取ることができます。例えば、子のある配偶者がいれば、その下の順位の人は受給できません。

④遺族厚生年金がもらえない場合│夫が55歳未満など年齢要件を満たさない

また、受給には年齢などの条件もあります。夫や父母、祖父母は亡くなった時点で55歳以上でなければならず、実際に受給を開始できるのは60歳からです30歳未満の子のない妻は5年間のみの給付となります。そして、子の条件は遺族基礎年金と同じです。

さらに、夫に子どもがいて遺族基礎年金を受給できる場合、55歳以上であれば60歳を待たずに遺族厚生年金を受給できます。

⑤配偶者が再婚した場合

「子のある配偶者」は遺族年金の受給対象ですが、この条件は婚姻していない場合に限られます。もし遺族年金の支給が開始した後に再婚すると、支給が停止され、もらえなくなります。

遺族年金を受け取る権利が無くなった場合には、迅速に対応が必要です。権利を失効した日から、遺族基礎年金の場合は14日以内、遺族厚生年金の場合は10日以内に「遺族年金失権届」を提出する必要があります。これを怠ると手続きが遅れ、問題が生じる可能性があるため、注意が必要です。

⑥離婚した元配偶者はもらえない

離婚した元配偶者が遺族年金を受け取ることは、原則としてできません。遺族年金の制度は、故人と生計を共にしていた遺族を対象としており、離婚によって法的な配偶者関係が終了しているため、元配偶者は遺族年金の受給資格を失います。

ただし、例外として、元配偶者が故人から養育費を受け取っていた場合や、故人との間に未成年の子どもがいる場合は、その子どもが遺族年金を受け取ることができる可能性があります。この場合、子どもが遺族年金の受給資格を持つとされています。

⑦遺族基礎年金を受給していた人が亡くなった場合・65歳未満の場合

日本の年金制度では、障害厚生年金を受給していた方が亡くなった場合、その遺族は遺族年金を受け取ることが可能です。これは、亡くなった方が厚生年金に加入していたため、遺族がその保険給付を受ける権利を持つからです。

一方で、障害基礎年金を受給していた方が亡くなった場合、遺族年金を受け取る制度は存在しません。障害基礎年金は、国民年金の一環として支給されるもので、厚生年金に加入している会社員や公務員などには適用されないため、遺族年金の対象外となります。

65歳未満の場合、障害基礎年金と遺族厚生年金の併給は原則として認められていませんが、65歳以上になると特例として併給が可能になる場合があります。この場合、障害基礎年金を受け取っていた方が配偶者の死亡によって遺族厚生年金を受け取る権利を得ることができます。

遺族年金がもらえない場合の対処法

遺族年金がもらえない場合でも、他の制度で遺族が給付金を受給できる場合があります。以下の3つの対処法を紹介いたします。

寡婦年金│夫が死亡した妻のみが受給できる

寡婦年金は、夫が亡くなった場合に妻に支給される年金です。寡婦年金を受け取るためには、夫と妻それぞれに特定の要件があります。

まず、夫の要件は以下の通りです。夫が国民年金の第1号被保険者または任意加入被保険者として、保険料を10年以上納付していることが必要です。

次に、妻の要件についてです。妻は10年以上継続して婚姻関係にあること(内縁関係も含まれます)、そして夫によって生計を維持されていたことが求められます。この条件を満たす場合、夫が亡くなった際に妻が60歳から65歳になるまでの間、寡婦年金を受け取ることができます。

寡婦年金の金額は、夫の第1号被保険者期間を基に計算された老齢基礎年金の4分の3となります。

死亡一時金

死亡一時金は、亡くなった方と生計を共にしていた遺族に対して、一度だけ支給される金銭のことです。この制度には、亡くなった方と遺族それぞれに特定の要件があります。

まず、亡くなった方の要件です。国民年金の第1号被保険者または任意加入被保険者として、国民年金保険料を36月以上納めていることが必要です。また、亡くなる前に老齢基礎年金や障害基礎年金を受給していないことも条件となります。

次に、死亡一時金を受給できる遺族の要件です。受給対象となる遺族は、亡くなった方と生計を共にしていた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹です。

死亡一時金の金額は、亡くなった方が国民年金保険料を納付した月数によって決まります。最低限の36月以上納付していた場合は12万円が支給され、最長の420月以上の場合には32万円が支給されます。このように、死亡一時金の金額はそれほど大きくありません。

また、死亡一時金と寡婦年金はどちらか一方しか受け取れないため、通常は寡婦年金を選ぶ方が有利です。ただし、老齢基礎年金の繰り上げ受給などで寡婦年金を選択できない場合は、死亡一時金を受け取ることができます。このような場合には、忘れずに死亡一時金を申請するようにしましょう。

労災保険の補償

労災保険の補償は、労働者が仕事中や通勤中に負傷したり病気になったりした場合に給付される保険制度です。すべての労働者を雇用する事業所は、業種や規模、雇用形態に関係なく、この保険に加入することが義務付けられています。

もし、労働災害が原因で労働者が亡くなった場合、遺族は「遺族補償年金」「遺族補償一時金」「葬祭給付」を受け取ることができます。これらの給付額は遺族の人数や状況によって異なりますが、遺族特別給付金として一律300万円を受け取ることができます。

遺族年金がもらえないケースに関するQ&A

Q: 遺族基礎年金がもらえないのはどのような場合ですか?

A: 遺族基礎年金がもらえないケースはいくつかあります。主なものとしては以下の通りです。

  1. 子の要件を満たさない場合: 遺族基礎年金の受給対象となる子どもがいない場合や、年齢要件を満たしても生計を維持されていると認められない場合です。例えば、子どもが結婚して別の世帯を持っている場合は、生計を維持されているとはみなされません。
  2. 収入条件を満たさない場合: 亡くなった人と一緒に生活していても、収入が850万円未満、または所得が655万5,000円未満でなければ遺族基礎年金を受け取れません。
  3. 配偶者が再婚した場合: 配偶者が再婚すると、その時点で遺族基礎年金の支給が停止されます。

Q: 遺族厚生年金がもらえないのはどのような場合ですか?

A: 遺族厚生年金がもらえないケースには以下のようなものがあります。

  1. 生計維持の要件を満たさない場合: 亡くなった人に生計を維持されていなかった場合、遺族厚生年金は受け取れません。また、受給者の収入金額が一定の基準を超えている場合も対象外となります。
  2. 配偶者が再婚した場合: 遺族基礎年金と同様に、配偶者が再婚すると支給が停止されます。
  3. 夫の年齢要件を満たさない場合: 妻が亡くなった場合、夫が遺族厚生年金を受給するためには、夫の年齢が55歳以上である必要があります。さらに、実際に支給が開始されるのは夫が60歳になってからです。

Q: 保険料納付の要件を満たさない場合、遺族年金はどうなりますか?

A: 保険料納付の要件を満たさない場合、遺族基礎年金や遺族厚生年金を受給できないことがあります。具体的には、以下のような条件が該当します。

  1. 保険料納付期間が不十分: 年金の保険料を納付した期間が、国民年金加入期間の3分の2以上なければ、遺族年金を受給することができません。
  2. 直近1年間の未納: 令和8(2026)年3月末日までは、死亡した人が65歳未満の場合、死亡した日の直近1年間に未納がなければ受給できます。しかし、過去に未納期間が多くある場合は、遺族年金を受給できないことがあります。

Q: 専業主婦や夫の扶養範囲内で収入を調整している妻が亡くなった場合、遺族年金はもらえない?

A:働いていない妻や夫の扶養範囲内で収入を調整している妻が亡くなった場合でも、国民年金加入者であれば家族に遺族基礎年金が支給されます。遺族基礎年金は年収によって金額が増減することはありません。

専業主婦が亡くなった場合に支給される遺族年金には、以下の2種類があります

  1. 18歳までの子どもがいる場合
  2. 年金加入期間が25年以上あり、厚生年金加入期間がある場合

ただし、保険料を適切な期間支払っていないなど、受給要件を満たさない場合は支給されません。

Q: 妻が再婚した場合、遺族年金はもらえない?

A: 妻が再婚すると、遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給権は両方とも消滅します。これにより、妻はこれらの年金を受け取ることができなくなります。しかし、子どもが18歳到達年度の末日(3月31日)を過ぎるまでは、遺族厚生年金が子どもに対して支払われます。

さらに、妻が再婚しない限り、妻と同居している子どもの遺族基礎年金と遺族厚生年金は支給停止されますが、妻が再婚することで、この支給停止事由が解除されます。ただし、母と生計を同一にしている場合は、子どもの遺族基礎年金は支給停止となります。

なお、夫と死別後、再婚せずに旧姓に戻る場合は、遺族年金の受給権は消滅しません。その際は、氏名変更届を提出する必要があります。

まとめ

遺族年金は、大切な家族が亡くなった際に生活を支える重要な制度ですが、受給条件を満たさないと支給されないケースもあります。

この記事では、遺族年金がもらえない代表的なケースについて詳しく解説しました。保険料の未納、生計維持関係の欠如、子どもの有無、優先順位の低さ、再婚などが主な理由です。これらの条件を理解し、適切な対処を行うことが大切です。

万が一、遺族年金がもらえない場合でも、寡婦年金や死亡一時金など、他の補償制度を検討することができます。遺族年金の受給に関する疑問や不安がある場合は、専門家に相談し、正確な情報を得ることをお勧めします。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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