相続争いはなぜ起こる?よくある遺産相続トラブルの事例と対処法
「兄弟と相続でもめて大変だった」などといった話を聞くと、「我が家も相続人が何人かいるけど、大丈夫かな・・・?」と不安な気持ちになってきますよね。
相続人が複数いたり、相続する財産が莫大なものであったり、複数いる相続人のうち一人が故人を長年に渡って介護していたりすると、相続についての争いが起こってしまいかねません。
そこで本記事では、相続争いになってしまう要因を具体的にご紹介し、相続争いを未然に防ぐための対処法について、弁護士が詳しく解説させていただきます。
相続においては、身内であるという気安さから、つい感情的になってしまう面があり、一度争いに発展してしまうと収拾するのは非常に困難です。
ですので、相続争いを生じさせる要因を知っておき、事前に争いを回避できるよう、本記事をご参考にしていただければ幸いです。
目次
富裕層だけじゃない!相続争いは一般家庭でも
さて、相続争いと聞くと、どういったイメージをお持ちでしょうか。
ドラマでよく目にする相続争いは、莫大な遺産をめぐって相続人たちが口論を繰り広げている・・・といったものが典型ですよね。皆さまの中にも漠然と「富裕層のもめごと」といった印象があるかと思います。
ですが、現実の相続争いは富裕層に限らず、相続する遺産総額が5,000万円以下の一般家庭などでも、相続争いが起こるケースは非常に多いのです。
令和3年の最高裁判所事務総局の司法統計年報によると、家庭裁判所で取り扱われた遺産分割の事案は6,934件にのぼります。
そのうち、遺産総額が1,000万円以下の事案が2,279件、1,000万円超から5,000万円以下の事案が3,037件と、5,000万円以下の事案が全体の約76%を占めています。
このことから、遺産の額の多い・少ないに関係なく、相続争いが起こることがわかります。むしろ、富裕層よりも、一般家庭や中間層の方が、相続争いが起こりやすいと言えるでしょう。
なお、「遺産総額が5,000万円以下の一般家庭」といいましたが、これは明確に定義されている区分ではありません。「一般家庭」という言葉は、明確な数値基準がないため、多くの場合は家計の平均的な資産規模を指す漠然とした表現です。例えば、遺産総額が5,000万円以下であれば、多くのケースでは「一般家庭」に分類される可能性が高く、遺産総額が1億円を超える場合は、富裕層に分類されることが多いです。
以上の通り、一般家庭にしろ富裕層にしろ、円満な遺産相続を実現するためには、相続争いは誰にでも起こる身近な問題として認識し、対策や対処法を考えておくことが重要です。
相続争いが起こる主な原因7つ
どの家庭にも起こり得る相続争いですが、具体的にはどういったことが原因で、相続争いが起こってしまうのでしょうか。次に、相続争いが起こる主な原因を7つご紹介いたします。
①相続人同士の仲が悪い・疎遠である
日頃から良い感情を持っていない相手や、対して親しくもない間柄の人とは、意見の対立が起きやすいものです。そのため、相続人同士の関係が悪かったり、日頃の関係が疎遠だったりすると、遺産分割の話し合いで意見が対立しやすく、相続の話し合いをスムーズに進められません。
仲が悪かったり疎遠だったりすると、相手への配慮を欠き、お互いが相手の意向を理解しづらく、相手への不信感が生まれやすくなってしまいます。良い感情を持てない相手に財産を渡したくない、と思ってしまうのも無理はありません。
②遺産のほどんとが不動産
相続する遺産のほとんどが不動産である場合にも、相続争いが起きやすいです。
不動産の分割方法を考えてみてください。現金や預貯金は、「兄に200万円、妹に300万円」などと物理的に分割ができますが、不動産については「実家の建物と土地を兄妹で物理的に半分ずつ」といった分け方ができません。不動産を相続人間で共有するか、誰か一人が不動産を相続する、といった分割方法になるため、不動産の分割方法を原因として、相続争いが生じやすいのです。
分割方法が決まったとしても、不動産の評価方法や、不動産の評価額の決め方に関して争いとなることもあります。
また、不動産を取得する人が、その不動産にかかる税金を支払うための資金や、不動産を取得する代わりに他の相続人に支払う代償金を準備できない場合は、やむを得ずその不動産を売却しなければならない、という問題も発生します。
どのため、相続する遺産に不動産が多いと、相続人間で争いが起きやすくなるため、注意が必要です。
③寄与分の有無
被相続人の財産形成や維持に特別な貢献をした相続人には、「寄与分(きよぶん)」が認められます(民法第904条の2)。
寄与分とは、相続において、亡くなった人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人に対して、その貢献度に応じて、通常の法定相続分に加えて多くの財産を受け取ることを認める制度です。被相続人の事業を手伝って大きく発展させた場合や、長期間に渡って被相続人の介護をした場合などに、この寄与分が認められることがあります。
寄与分が認められる相続人としては嬉しい一方で、その寄与分によって自分の相続分が減ってしまうことになる他の相続人にとっては、快く認めるのは難しいかもしれません。
そのため、他の相続人が介護による寄与分を認めないことが多く、これが相続争いの原因となってしまうのです。また、たとえ寄与分を認めたとしても、寄与した人に相続分をいくら上乗せすべきかについて、相続人間で争いになるケースもあります。
④遺言書の内容が不公平
遺言書は亡くなった人の最後の意思を書いたものですから、なるべく尊重されるのが理想です。ですが、この遺言書の内容をきっかけに、相続人間で争いに発展することが少なくありません。
例えば、遺言書に「長男に全ての遺産を渡す」と記載されていると、他の兄弟姉妹にとっては、「自分たちも等しく故人の子供なのに、どうして長男だけが贔屓されるんだ。」と不満を抱いてしまうでしょう。
遺言書では遺産をもらえなかった他の相続人は、遺留分侵害額請求を行う可能性もあります。話し合いでの請求に応じなければ、訴訟にまで発展してしまう可能性もあります。
⑤高額な生前贈与
生前贈与とは、被相続人が生前に特定の相続人に財産を贈与することです。
全ての相続人が生前贈与に同意していれば問題はありませんが、他の相続人に知らせず、ある相続人だけに贈与が行われていた場合は要注意です。他の相続人は、「自分たちも含めて分配されるはずだった無断で減らされた。」と不満に思い、この生前贈与を原因として相続争いになってしまう可能性があります。
特に、高額な贈与がなされていた場合、他の相続人の遺留分が侵害され遺留分侵害額請求される可能性もあります。
⑥遺産の内容が不透明
遺産に関する財産目録が存在しない場合など、遺産の内容が不透明だと、「隠している財産があるのでは?」「誰かがこっそり相続して隠しているのでは?」と相続人間で疑心暗鬼に陥ってしまう可能性があります。
また、相続手続きが完了した後に新たな財産が見つかるケースもあり、相続手続きがやっと終わったと思っても、また相続争いが勃発してしまうこともあります。
⑦相続人に再婚した配偶者や内縁の配偶者がいる
被相続人が再婚していたり、内縁の配偶者がいるなどすると、家族構成が複雑となり相続争いが起こる可能性が高まります。
内縁の配偶者には相続権は認められていませんが、遺言書で遺産の一部を内縁の夫や妻に残すよう指定している場合もあります。このような遺言書があると、法律上の配偶者や親族は反発し、相続を巡る争いが複雑化することが考えられます。
よくある遺産相続トラブルの事例と対処法!
こうした事情が原因となって、さまざまな遺産相続のトラブルが発生します。以下に、よくある遺産相続トラブルの事例と対処方法を7つご紹介いたします。
事例① 相続割合でもめている
相続争いでよく見られるのは、相続割合でもめるケースです。
特に、兄弟姉妹間の相続争いでは、例えば長男が「すべての遺産を自分が取得する!」など理不尽な相続割合を主張し、他の兄弟姉妹がこれに反発する、といったパターンが少なくありません。
日本では、明治時代以降の家督制度の名残りによって、主に長男を優先して家と財産を相続させる風潮がありました。そのため、現在でも長男が家を継ぐという考えで、全ての遺産を長男が受け取るべきだと主張するケースが見受けられるのです。
ですが、現在の民法では家督制度が廃止されており、長男が遺産全てを相続すべきという考え方は法律上存在しません。もし相続人間でこのような争いが起きたら、以下の対処方法を取ることが考えられます。
対処方法
①法定相続分について説明する
遺言書がない場合は、民法で定められた相続割合(法定相続分)に従って遺産分割を行う必要があります。(民法第900条)
ですので、もし長男や長女が「第一子がすべて相続するべきだ。」と主張しても、そのような考え方はなく、法律の相続分に基づいて遺産分割をすべきであると冷静に説明しましょう。
法定相続分については、下記記事で詳しくご説明しておりますので、ぜひご参照ください。
②遺産分割調停・審判を申し立てる
法定相続分について説明しても、なお相手が理不尽な主張を続ける場合や、冷静な話し合いが難しい場合には、裁判所に遺産分割調停や遺産分割の審判を申し立てることも検討してください。
遺産分割調停では調停委員が相続人たちの間に入り、解決案を提示して、相続人同士の話し合いで解決を図ります。遺産分割調停で解決しない場合は、裁判官が遺産分割審判にて判断を下します。
遺産分割調停や遺産分割の審判によって解決するまでの期間は、争いの具体的な内容や各相続人の事情によっても異なりますが、おおよそ半年から1年程度になります。
申し立てに必要な書類は、相続人の状況や遺産の状況によって変わるため、詳細は管轄の裁判所のホームページなどをご確認ください(参考:裁判所ホームページ「遺産分割調停 」)。
事例② 不動産の分割方法でもめている
不動産の分割方法について意見が対立するケースも多数あります。不動産の分割方法には以下の4つの方法がありますが、どの方法で分割するかは、相続人間で話し合って決める必要があります。
分割方法 |
概要 |
メリット |
デメリット |
---|---|---|---|
現物分割 |
一人の相続人が不動産全体を相続します。 |
簡単に分割できる。 |
他の相続人が不公平だと感じる可能性がある。 |
代償分割 |
不動産を取得する相続人が他の相続人に代償金を支払います。 |
不動産の所有権が一人に集中するため、管理が容易になる。 |
不動産を取得する相続人に支払い能力が必要。 |
換価分割 |
不動産を売却し、得られた現金を分割します。 |
現金で分割するため、相続人間の不公平感を軽減できる。 |
不動産という資産が失われるため、反対意見が出やすい。 |
共有分割 |
複数の相続人で不動産を共有します。 |
不動産を保持することができる。 |
不動産の管理・売却についてトラブルになりやすい。 |
不動産の分割方法については、下記記事で詳しく解説させていただいておりますので、ぜひ本記事とあわせてご覧ください。
対処方法
①遺言書を作成する
不動産相続の分割方法に関する争いを避けるための対処法は、被相続人が生前に相続人としっかりと話し合い、そこで合意した内容を遺言にして残しておくことです。これにより、相続人間の意見の食い違いを事前に解消しておくことができます。
ただし、遺言書の作成にあたっては、以下のポイントに注意してください。
- 遺留分を侵害しない
遺言で定められた遺産分割の方法が、遺留分(民法第1042条)を侵害していないことを確認してください。遺留分とは、一定の相続人が最低限受け取るべき相続分のことで、遺言よりも優先されます。遺留分を侵害していた場合、他の相続人から遺留分侵害額請求(民法第1046条)が行われ、結局トラブルが長引くことになってしまいかねません。 - 出来るだけ公平な分割を
特定の相続人に不動産を相続させる場合でも、他の相続人が不公平だと感じないよう、残りの財産の分配に配慮する必要があります。例えば、実家を長男に相続させる場合、他の兄弟には相応の現金や株式等を相続させるか、生命保険金を遺すなどして、兄弟間のバランスを取ることが大切です。
②遺産分割調停を申し立てる
話し合いで不動産の分割方法が決まらない場合は、裁判所に遺産分割調停を申し立てて解決を図ることが一つの方法です。調停では、調停委員が間に入って双方の意見を聞き、妥協案を提示して解決を図ります。調停で合意に至れば、その内容がで遺産分割をすることになります。
ただし、不動産の売却を要求する相続人がいる場合などで、調停から審判に移行する際には注意が必要です。
調停で解決できない場合は審判に進み、裁判官が遺産分割方法を指定します。この際、不動産の強制売却命令が下される可能性があります。不動産が競売にかけられると、一般的な売却よりも手間や費用がかかり、売却価格も低くなる傾向があります。そうしたリスクがあることを念頭に置き、なるべく話し合いでの解決を試みていただくことをお勧めいたします。
事例③ 土地の評価方法でもめている
土地の評価にあたっては、主に以下の3つの評価方法があります。どの評価方法を採用するかは、相続人同士で話し合って決定する必要があります。
- 固定資産税評価額
- 相続税路線価
- 実勢価格
なぜ土地を評価することでもめるのかというと、土地の評価額によって、相続人の遺産分割の割合が大きく変わってくるため、意見の対立が生じやすいのです。
例えば、相続税の申告においては「相続税路線価」を使用するのが一般的ですが、相続人が「実勢価格」や「固定資産税評価額」と比較した場合、評価額の差が大きいため、特に不動産を現金化する際に不公平感を抱くことがあります。土地の評価方法によって、評価額が大きく異なることがあるため、適切な評価方法を相続人間で事前に話し合うことが重要になってくるのです。
対処方法
①弁護士など法律の専門家に相談する
土地の評価には専門的な知識が必要となるため、弁護士や税理士などの専門家に意見を聞くことをお勧めいたします。専門家は、土地の評価に関する知識や経験が豊富にあるため、客観的に評価額を算定することができます。
事例④ 生前贈与を受けた人がいる
相続人の中に、被相続人から生前に金銭や不動産を受け取っていた人がいる場合、遺産分割の際に「特別受益」が問題となることがあります。
特別受益とは?
特別受益とは、相続人の中に、亡くなった人から生前に特別な利益を受けた者がいる場合、その利益分を考慮して遺産を公平に分けるための制度です。
特定の相続人が被相続人から生前に財産を受け取っていた場合、法定相続分に従って分割するだけでは不公平が生じる可能性があります。そのため、特別受益のあった相続人は、受け取った財産を遺産に「持ち戻して」から分割することになり、この制度を「特別受益の持ち戻し」といいます。遺産の前渡しと見なされる生前贈与や遺贈、死因贈与などが持ち戻しの対象となります。
なぜ特別受益がトラブルになるかというと、特定の人が受け取った財産が、特別受益に該当するかどうかの判断が難しいからです。
例えば、大学の学費や留学費用などが、特別受益になるケースがあります。
相続人Aの子供が国立大学に、相続人Bの子供が私立大学に、それぞれ被相続人から学費の支援を受けて進学したとしましょう。加えて、Bの子供は被相続人から海外留学の資金も受け取っているとします。
一般的に、私立大学の学費は国立大学に比べて高額であることが多いです。そのため、私立大学の学費や留学費用について支援を受けていた場合、その支援額が特別に大きいと判断され、相続分の公平性を保つために「特別受益」として計算される可能性があるのです。
特別受益に該当するかどうかは、生前に受けた支援の金額が、その家族の経済状況なども考えて高額であるか、または他の相続人が受けた支援額を大きく超えるものであるか、といった点を基準に判断されます。そのため、私立大学の学費であっても、扶養の範囲内とみなされ、特別受益ではないと判断される場合もあります。
このように、特別受益にあたるかどうかは専門的な知識が必要となるため、相続人同士の話し合いでは、解決しない可能性が高いのです。
特別受益のトラブルについては、下記記事も参考にしていただければと思います。
対処方法
①バランスを考慮して生前贈与を行う
生前贈与を行う際には、相続人全員に不公平感が生じないよう、バランスを考慮することが重要です。特定の相続人へ多額の贈与をするなど、偏った財産の分配はせず、相続人間の不公平感を最小限に抑えるよう心がけましょう。
②生前贈与を記録しておく
生前贈与が行われた事実について相続人間で争いが起きないよう、贈与契約書などの書類を作成して、「誰が誰に」「何を」「何のために」「いくら」贈与したのかを明確に記録しておくことが大切です。これにより、後に生じかねないトラブルを未然に防ぐことができます。
また、生前に他の相続人に贈与の理由などを説明し、合意を得ておけばより安心です。
③遺産分割調停を申し立てる
それでも遺産分割協議において争いが生じてしまった場合は、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てることも検討しましょう。
特別受益に該当するかどうかについては、相続についての知識が豊富な専門家でなければ、判断するのが難しいです。遺産分割調停であれば、第三者である調停委員と裁判所が解決案を提示してくれるため、特別受益の該当性や公平な遺産分割について、適切に判断してもらうことが期待できます。
事例⑤ 寄与分を主張する人がいる
被相続人の生前に同居をして介護を行っていた相続人がいる場合や、被相続人の事業の拡大に貢献した相続人がいる場合、一定の要件を満たせば遺産分割の際に「寄与分」が考慮されます。これは、介護による被相続人の財産の維持や増加に貢献したという理由で、法定相続分よりも多くの財産を受け取ることが認められる制度です。
しかし、寄与分が認められるかどうか、また寄与分の金額をいくらにするかについては、相続人同士で話し合って決める必要があります。寄与分の認定や、金額については専門的な知識が必要となり、相続人同士の話し合いでは、解決しない可能性が高いです。
対処方法
①寄与分の成立要件を満たしているか確認する
寄与分を認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与があること
- 寄与行為の結果として被相続人の財産の維持又は増加させていること
これらの要件を満たしていない場合は、寄与分を主張することはできません。
また、寄与分の成立要件を満たしていることを証明する資料も必要です。
②「寄与分を定める処分調停」を申し立てる
遺産分割協議において、相続人間で話し合いがまとまらない場合は、「寄与分を定める処分調停」を申し立てます。
寄与分が成立するかどうかや、その金額については一般の人が判断し計算するのが難しいため、専門家に判断してもらうようにしましょう。
「寄与分を定める処分調停」の手続き方法については、裁判所のホームページ「寄与分を定める処分調停」を参照してください。
また、下記記事を参照ください。
事例⑥ 遺言書の内容が不公平である
遺産相続において、被相続人は自分の財産を自由に処分する権利を持っています。
しかし、被相続人の残した遺言が相続人にとって不公平な内容であった場合、遺言書は相続トラブルの原因となってしまうことがあります。
例えば、遺言で全財産を法定相続人でもない第三者に渡すことが記載されていたり、法律で定められた最低限の相続分である「遺留分」を無視した内容になっている場合は、本来遺産を相続するはずの相続人が不満に思い、トラブルになってしまいかねません。
特に、被相続人の子である兄弟姉妹のうち、特定の1人だけに全ての遺産を相続させるなど、過度に偏った内容の遺言が残されていると、他の相続人の遺留分を侵害することになり、相続争いの火種となってしまいます。
対処方法
①遺言書作成の際に遺留分について配慮する
被相続人が生前に取り得る対処方法としては、遺言書を作成する際に、遺留分についてきちんと配慮した内容にすることです。
遺留分は、相続人が最低限受け取るべき財産の割合を保障する制度であり、この遺留分を守るためには、遺言の内容にも配慮が必要です。
遺言書を作成する際は、相続人全員の意見を聞き、相続人それぞれの立場や希望を理解し、偏りのない公平な内容にすることを心がけましょう。
遺言書の作成や内容に不安がある場合は、弁護士に相談しましょう。弁護士は相続に関する法的知識と豊富な経験を持っておりますので、遺留分を侵害する内容となっていないか、遺言書の内容の適切性をチェックできます。また、遺言書の正式な書式や手続きについてもアドバイスを受けることができるため、法的にも有効な遺言書を作成することが期待できます。
なお、遺留分については、下記関連記事にて詳しく解説しておりますので、あわせてご一読ください。
②遺留分侵害額請求をする│不公平な遺言により遺産を取得できなかった場合
遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害された相続人が、自分の遺留分を取り戻すために行う請求手続きです。この請求により、相続人は遺留分を侵害した相続人から遺留分に相当する金銭を受け取ることができます。
請求手続きの方法
- 遺留分の計算
まず、自分の遺留分がいくらであるかを計算します。遺留分の割合は、相続人の数や続柄によって異なります。 - 侵害額の確定
遺言書に基づく相続分と自分の遺留分との差額を算出し、侵害された金額を確定させます。 - 請求の通知
侵害額を受け取るべき相続人や遺言の執行者に対して、遺留分侵害額請求の意思を内容証明郵便で通知します。 - 協議または訴訟
相続人間の協議による解決を図りますが、話し合いで合意に至らない場合は、裁判所に調停を申し立てて遺留分を請求します。調停でも合意に至らない場合は、訴訟を提起することになります。
遺留分侵害額請求について、詳しくは下記記事をご参照ください。
事例⑦ 遺言書の有効性でもめている
遺言書の内容に不満を抱くケースもあれば、そもそも遺言書が無効であるとしてトラブルになるケースもあります。
遺言書の効力が認められない場合、遺言書に基づく遺産分割は無効となり、法定相続による分割が行われることになります。遺言書の効力が認められないケースとしては、以下の表のようなものが考えられます。
形式の要件を満たしていない |
自筆証書遺言 |
全文が自筆で書かれていない |
日付または署名がない |
||
押印がない(実印・認印は問わない) |
||
修正箇所がある場合の訂正方法が不適切 |
||
複数の原本が存在する |
||
公正証書遺言 |
証人2人の署名または記名押印がない |
|
証人になれない人が立ち合いをした |
||
遺言者の能力がない |
未成年者(15歳未満) |
|
認知症や精神障害により判断能力を欠いていた |
||
錯誤や強迫によって意思表示をした |
||
その他 |
偽造された遺言書 |
|
故意に破損された遺言書 |
||
内容が不明確な遺言書 |
||
複数存在する遺言書の内容が矛盾している |
遺言書が有効か無効かで争いになった場合、実際には、遺言書の有効性を相続人だけで判別するのは難しいため、相続人同士では解決に至らず、相続手続きが長引いてしまうことも少なくありません。
遺言書の有効性が確定しないと、以降の相続手続きが滞ってしまうため、遺言書の作成や有効性の検証の際は、専門家である弁護士に相談することをお勧めいたします。
対処方法
①遺言無効確認の訴訟を提起する
自分では遺言書の有効性について判断が難しいが、無効かを確認したい、といった場合は、遺言無効確認の訴訟を提起することが考えられます。
例えば、遺言書の作成に際して遺言者の意思能力が疑われる場合や、遺言書の形式が法律で定められた要件を満たしていない場合などに、遺言が法的に無効であると主張する相続人が、家庭裁判所に対して遺言の無効を確認してもらうために、遺言無効確認の訴訟を提起します。
訴訟の提起には、遺言書のコピー、遺言者の死亡証明書、相続関係を証明する書類など、関連する証拠資料が必要となります。遺言無効確認訴訟では、遺言が無効であることを主張する側がその理由を立証する必要がありますので、証拠集めが重要です。
ところで、相続のような親族間のもめごとは、なるべく当事者間の意思で決めるべき事柄についての争いなので、「まずは話し合いで解決を試みるべき」という考えから、まずは調停を申し立てて、調停で解決しない場合にのみ訴訟に進むことと考えられています(調停前置主義)。ですが、この遺言無効確認の場合は、遺言の有効性に関する問題は法的な判断が必要であり、調停での話し合いでの解決が難しいため、調停を申し立てることなく訴訟から始めることができるとされています。
裁判所が遺言が無効であると認めた場合、その遺言は最初から存在しなかったものとみなされ、遺産分割は遺言がなかった場合と同じ扱いになります。そのため、遺言による分割ではなく、法定相続分に基づいた遺産分割か、遺産協議による遺産分割が行われることになります。
相続争いは弁護士に相談を
相続争いは疲れるもの
家族や親族の間で、遺産の分割や相続に関する意見の食い違いが生じると、互いに感情的になりやすく、たとえ円満な関係だったとしても、一気に悪化することも少なくありません。
特に、相続の話し合いが長引けば長引くほど、過去のわだかまりや相手自身への不満が噴出し、問題はますます複雑化してしまいます。結果、次のような負担を抱え、精神的にも肉体的に疲れてしまうのです。
①精神的な負担
- 愛する家族との争いは、精神的に大きなストレスとなります。
- 感情的になりやすく、冷静な判断が難しくなります。
- 長期間にわたる争いは、精神的な疲労を蓄積させます。
- 解決の見通しが立たないことで、不安や焦燥感に駆られることがあります。
②肉体的な負担
- 遺産分割協議や手続きに多くの時間と労力が必要です。
- 長期にわたるストレスで睡眠不足や食欲不振など、体調を崩しやすくなります。
- 争いが長引くことで、仕事など日常生活に支障をきたすこともあります。
③時間と労力の浪費
- 遺産分割協議や裁判所手続きに多くの時間と労力が必要です。
- 調停は平日に行われるため仕事や家事などに支障をきたすこともあります。
自分一人で相続争いに対処するのは難しい
法律的な知識がないまま自分で問題を解決しようとしても、適切な遺産分割を行うことができません。特に、法定相続分や遺産の評価、寄与分や特別受益の考慮など、専門的な知識が必要なケースでは、正しい知識がないことで、不利な条件での遺産分割を受け入れてしまうリスクがあります。
また、家族間での意地の張り合いが起こることも相続争いの特徴です。お互いに譲歩することが難しくなると、合意に至るまでの時間が長引き、財産が有効に活用されずに放置されるというデメリットも生じてしまいます。
こうした事態に陥るのを回避し、スムーズに遺産分割を進めていくためにも、自分一人で相続争いに対処しようとせず、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
弁護士に依頼するメリット
メリット①弁護士の介入で冷静かつ客観的な判断が可能になる
相続争いについて弁護士に依頼するメリットの一つは、問題解決に向けて、冷静かつ客観的な支援を受けられることです。親族間のもめごとは、お互いの関係が近いからこそ、不信感や感情的な対立が生じやすい傾向があります。そうした状況の中で、弁護士が中立的な立場から介入することで、双方の意見を客観的に分析し、法律に則った解決策を提示することができます。
特に、兄弟間での争いでは、感情が先行してしまい、冷静な判断が難しくなることがあります。この点、弁護士は感情に流されず、法的な観点から冷静にアドバイスしてくれます。これにより、後悔することなく、適切な意思決定を行うことができます。
また、弁護士が代理人として介入することで、相続人同士が直接顔を合わせることなく、弁護士を通じて自分の意思を相手に伝えたり、遺産分割協議を進めることができます。これにより、感情的な対立を避け、スムーズに相続手続きを進めることができます。
メリット②相手方の理不尽な主張に対抗できる
相手方の理不尽な主張に対抗し、依頼者の正当な権利を守ることができます。
例えば、兄が一方的に全遺産を相続すると主張しているような場合でも、弁護士の助けを借りれば、他の兄弟も自分たちの権利を主張して、適切な相続分の財産を得ることが期待できます。
また、「長男に全遺産を相続させる」という遺言書が存在するような場合も、遺留分侵害額請求を行うことによって、他の兄弟が最低限受け取るべき遺産を確保することができます。
弁護士は遺留分の計算を正確に行うことができるので、相続人が適正な遺留分を確保できるようサポートします。さらに、遺留分侵害額請求を行う際には、弁護士が代理人となることで、相続人同士の感情的な対立を避け、冷静に交渉を進めることができるでしょう。
メリット③調停、審判、訴訟を代理人としてサポートしてくれる
遺産分割に関する交渉が決裂し、調停や審判、訴訟といった裁判手続きが必要になった場合、この手続きを自身で行うことは難しく、多大な時間と労力が必要となります。
弁護士に依頼することで、弁護士が代理人として裁判所への対応や必要な書類の作成を行います。これにより、相続に関わる手続きの負担を大幅に軽減することができるでしょう。
メリット④有利な解決を目指してもらえる
弁護士は法律の専門家として、依頼者の利益を第一に考え、協議や調停、訴訟などの手続きを適切に進めます。その結果、依頼者が自分で対応するよりも、より有利な条件で解決できる可能性が高くなります。
特に、相続に強い弁護士が相手方との交渉や調停・訴訟などの裁判手続きを行うことで、依頼者の権利と利益を守りつつ、最善の解決策を見つけ出すことができます。
相続争いでは譲歩することも重要?負けるが勝ちのケースも
相続争いは、感情的な対立が生まれやすく、泥沼化しやすい問題です。ですが、必ずしも「勝ち負け」にこだわる必要はありません。すべての争点について自分の主張を押し通そうとするのではなく、場合によっては、相手に譲歩することで、より良い結果を得られるケースもあります。
相続争いが長引けば、心身の疲労や経済的な負担が増し、家族関係も深刻なダメージを受けることが少なくありません。時には、裁判や調停での争いに発展し、多額の弁護士費用や時間を費やすことになります。そのような事態を避けるために、譲歩することが有効な解決策となる場合があります。譲歩とは、相手の立場を理解し、必要な妥協点を見つけることです。結果として、争いを早期に解決し、家族関係の修復や資産の合理的な分配が実現することがあります。
また、譲歩することで、相続に関する全体のバランスを保ち、他の相続人との和解を促すことができる場合もあります。
時には「負けるが勝ち」という選択も重要です。短期的には譲歩した側が不利益に見えるかもしれませんが、長期的には家族関係の維持や精神的な安定を得られる点で大きな利益があると言えるでしょう。争いが長引くと、次のようなリスクもあるため、こうしたデメリットを考慮し、適切な妥協点を見つけることが肝心です。
相続が長引くリスク
相続争いは、時間と労力、そして精神的な負担を伴うものです。長期化すればするほど、家族関係の悪化や経済的な損失など、さまざまなリスクが生まれます。
- 相続財産を使えず、不動産の固定資産税がかかるうえ、評価額が下がることもあります。
- 相続人の一人が亡くなると新たな相続人が登場し、相続がさらに複雑化します。
- 相続放棄や相続税の申告期限に間に合わないリスクもあります。
- 心身の疲弊や時間の浪費、相続人同士の絶縁など、精神的な負担も大きくなります。
譲歩するときのポイント
こうしたリスクを避けるためには、次の3つのポイントを心がけ、早期解決を目指しましょう。
- 長期的な視点を持つ
目の前の利益よりも、将来的な利益や関係性を重視することが重要です。相続争いが長期化すると、時間と労力だけでなく、精神的なストレスも蓄積してしまいます。一部譲歩して早期に解決することで、これらの負担を軽減できます。
相続争いが解決しないと、財産が長期間凍結されることになってしまいます。早期に妥協点を見つけることで、財産を有効に活用し、経済的な損失を防ぐことができるでしょう。 - 相手の立場を理解する
相手の要求や立場を理解することで、相手もこちらに歩み寄ってくれるケースもあります。双方にとって受け入れられる妥協案を見つけやすくなります。 - 弁護士に依頼する
専門家のサポートを受けることで、適切な解決策を見つけやすくなります。弁護士は法的知識と経験を活かして、遺産分割の交渉や手続きを進めてくれます。
相続争いに関するQ&A
Q: 相続でのトラブルはどのような原因で起こることが多いですか?
A: 相続争いが起こる主な原因は以下のとおりです。
- 相続人同士の仲が悪い・疎遠である: 関係が悪いと遺産分割で意見が対立しやすく、疎遠だとお互いの意向を理解しづらくなります。
- 遺産の大部分が不動産: 不動産は分割が困難で、評価方法や評価額の決め方で争いが生じやすいです。
- 寄与分(介護負担)の有無: 献身的な介護を行った相続人が「寄与分」を主張すると、他の相続人がこれを認めないことで争いが生じます。
- 遺言書の内容が不公平: 遺言書に不公平な内容が記載されていると、遺留分侵害額請求などの争いが起こります。
- 高額な生前贈与: 特定の相続人だけに行われた高額な贈与があると、他の相続人が不公平だと感じて争うことがあります。
- 遺産の内容が不透明: 財産目録がないなど遺産の内容が不透明だと、相続人間で不信感が生まれやすくなります。
- 相続人に再婚した配偶者や内縁の配偶者がいる: 家族構成が複雑になると、相続を巡る争いが複雑化します。
Q: 相続トラブルを弁護士に相談するメリットは何ですか?
A: 相続トラブルを弁護士に相談するメリットは以下のとおりです。
- 労力や時間の節約: 弁護士に協議や調停を依頼することで、自分で対応する必要がなくなり、相続争いに割かれていた労力や時間を他のことに使うことができます。
- ストレス軽減: 弁護士に相続争いの対応を全面的に任せることで、相手方と直接話し合いをする必要がなくなります。また裁判所の対応も代理でしてもらえるので、ストレスが大幅に軽くなります。
- 相手の無理な主張の排除: 相手が法的に通らない無茶な主張をしている場合、弁護士が根拠を持って主張を退けることができます。
- 有利な条件での解決: 弁護士は依頼者の利益のために活動し、法的な知識と専門ノウハウを活用して協議や調停、審判を進めるため、有利な条件で解決する可能性が高まります。
- 調停や審判への安心な対応:弁護士に依頼すれば、調停に同席のうえ代理で主張を行い遺産分割協議を進めてくれたり、審判になった場合の書面作成や資料の準備、提出などを任せることができて安心です。
Q: 相続争いに強い弁護士の選び方は?
A: 遺産相続案件に熱心に取り組んでいて実績のある弁護士を選びましょう。すべての弁護士が相続法に詳しいわけではありませんので、実績や取扱分野などを、法律事務所のホームページや弁護士検索サイトなどでチェックしましょう。
また、弁護士との相性も重要です。合わない弁護士に依頼すると、コミュニケーションの不和によりストレスが増大する可能性があります。初回無料相談ができる法律事務所も多くありますので、実際に面談して信頼できると感じられる弁護士に依頼しましょう。
まとめ
遺産相続は、しばしば家族間や親族間の争いの原因となります。
相続人同士の関係が悪い場合や遺産が不動産である場合、遺言書の内容が不公平である場合など、さまざまな理由でトラブルが発生する可能性があります。こうした相続は、精神的なしこりを残すだけでなく、時間や労力、さらには財産そのものも浪費することになりかねません。
トラブルを未然に防ぐためには、遺産の全容を把握し、公正な遺言書を作成することが重要です。また、もし争いが起こってしまった場合は、弁護士に相談することで、迅速かつスムーズに解決することができます。弁護士は法的知識と経験を活かして、依頼者の利益を最大限に守り、有利な条件での解決を目指してくれます。
相続トラブルは、誰もが遭遇する可能性のある問題です。早めに対策をしておくためにも、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。