遺産相続とは?法定相続人の範囲や順位、相続割合など基本的知識を解説

遺産相続

更新日 2024.10.30

投稿日 2024.06.11

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

弁護士法人あおい事務所の相続専門サイトをご覧いただき、ありがとうございます。当サイトでは、相続に関する法的な知識を分かりやすくお届けしております。皆様のお悩みの解消に少しでもお役立ちできましたら幸甚です。

家族や親族の死によって遺産相続を始めようとしても、何から手を付けて良いか分からない、という方も多いかと思います。そこで、この記事では「遺産相続とはどういった手続きなのか」をテーマに、弁護士が解説させていただきます。

遺産相続は、まずは法定相続人の範囲や順位、相続割合を把握することから始まります。誰が相続人で、どのくらいの遺産を受け取ることになるのかを確認しなければ、具体的な遺産相続の手続きを進めていくことができません。

また、遺言があるケースと遺言がないケースでは、その手続きも異なるため注意が必要です。

そして、遺産相続の手続きに欠かせない、相続時の税金についても正確に知っておきましょう。税金をしっかりと算定しないと、将来的に大きく損をしてしまう可能性もあるのです。

こういった手続きを、親族が亡くなり慌ただしい中、法律で決まっている期限内に済ませなくてはいけないため、遺産相続にはかなりの労力を必要とします。

ですので、いざ遺産相続が始まったときに困らないよう、この記事で遺産相続について必ず知っておきたい基本知識をおさえておきましょう。

遺産相続でお困りの方にとって、本記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。

目次

遺産相続とは?

遺産相続とは、ある人が亡くなった際に、その人が持っていた全ての財産や権利、義務が法的に特定の人々に引き継がれることを指します。この遺産相続手続きにおいて、亡くなった人のことを「被相続人」といい、財産を引き継ぐ人のことを「相続人」といいます。遺産相続のことを単に「相続」と呼ぶことが一般的です。

相続の開始時期である「死亡」の定義

ところで、遺産相続には開始する時期が決められていることをご存知でしょうか。現実的には、葬儀などを終えてから親族で集まって始まることが多いのでしょうが、日本においては民法第882条で「相続は死亡によって開始する。」と定められています。

「死亡によって開始する」とは、被相続人が死亡した瞬間に、その人の持っていた財産や権利、義務が相続人に法的に引き継がれるという意味です。

なお、遺産相続の開始時期の原因となる「死亡」についてですが、民法第882条の「死亡」という用語に含まれるものは、老衰や病死といった自然死や、事件や事故による死だけではありません。具体的には、「失踪宣告」と「認定死亡」という、法的な意味での「死亡」も含まれています。

失踪宣告とは、一定期間行方不明になっている者に対し、法律上死亡したものとみなすために家庭裁判所が行う宣告のことです。具体的には、行方不明者の生死が7年間分からない場合(民法第30条1項)や、天災や事故などで行方不明になり生死が1年間分からない場合(民法第30条2項)などが、失踪宣告に当たります。実際の生死は分からないものの、法的には死亡したものとみなされることになるのです。

認定死亡とは、事故や災害などで明確な死亡確認ができない場合に、その人の死亡が確実と認められる場合に適用される制度です。「水難、火災その他の事変によって死亡した者がある場合には、その取調をした官庁又は公署は、死亡地の市町村長に死亡の報告をしなければならない。」(戸籍法第89条)とある通り、こちらは家庭裁判所での手続きを経ずに、市町村で手続きが行われます。

どの死亡のケースでも、法的に死亡が認定されることによって相続が開始されます。失踪宣告や認定死亡は、相続の開始時期や手続きに大きく影響を与えるため、こうした特殊なケースでは専門家の助言を受けることが望ましいです。

遺産相続の遺産分割手続きは遺言が最優先で進められます

さて、被相続人の死亡によって相続が開始すると、相続人全員が被相続人の財産を共同で所有する「共有」状態になります。この共有状態を解消し、各相続人が個別に財産を受け取るために、遺産分割の手続きを進めていかなければなりません。

遺産分割の手続きは、まず、被相続人が遺言書を残しているかどうかを確認し、遺言の内容が有効であれば、これが最優先されることになります。遺言書には、特定の財産を特定の相続人に渡すように指示が記されており、この指示は法的に強い効力を持ちます。遺言によって財産の分配が明確に決定されている場合、それに従って遺産分割が行われます。

遺言書が存在しなかったり、遺言書に記載されていない財産があったりと、遺言書だけでは遺産分割を行えない場合は、相続人同士で遺産分割協議を行うことになります。遺産分割協議では、相続人全員の合意が必要なので、相続人それぞれの要望や法定相続分を考慮しながら、話し合いを進めていきます。

話し合いでは合意に至らない場合、裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。調停では、裁判所が指名した調停委員が間に入り、冷静に話し合いが行われます。調停でも合意に達しない場合は、最終的には訴訟によって遺産分割を行うことになります。

遺産相続の対象になる「相続財産」にはプラスの財産とマイナスの財産があります

遺産相続の対象になる財産のことを「相続財産」といいますが、この相続財産とは、被相続人が亡くなった時点で有していた全ての財産を指します。具体的には、現金、銀行預金、不動産、株式や債券などの有価証券、自動車や美術品のような動産、そして著作権や特許権などの知的財産権も含まれます。また、被相続人が生前に権利を有していた保険金の受取権や退職金の請求権も、相続財産として考慮されます。

金銭的価値のあるものは全て相続財産になると思われるかもしれませんが、法律で明確に相続財産から除外されているものもあります。例えば、特定の生命保険金の受取権や、使用貸借における借主の地位といった個人的な権利の性質を持つものは、相続財産には含まれません。

相続財産を正確に把握することは、遺産分割をしっかりと適正に実施するために不可欠です。被相続人の財産の全容を知ることで、相続人間での紛争を防ぎ、手続きを円滑に進めることが可能となります。そのためには、被相続人の死亡前後に財産目録を作成し、どの財産が相続に含まれるのかを明確にすることが大切となります。

そして、相続財産はプラスの財産だけではなく、マイナスの財産も相続財産になります。

プラスの財産とは、現金、不動産、株式などの価値を持つ資産のことを指します。一方、マイナスの財産とは、被相続人が亡くなる時点で残された借金や未払いの税金などの負債を指します。

相続財産と聞くと、プラスの財産に目が行きがちですが、マイナスの財産も承継することになりますので、注意が必要です。もし、マイナスの方が大きい場合には、相続しないという選択も考えるべきでしょう。

プラスの財産

種類

現金

紙幣、硬貨

預貯金

銀行預金、郵便貯金

有価証券

株式、債券、投資信託

不動産

土地、建物

貴金属

金、銀、プラチナ

美術品

絵画、彫刻、骨董品

自動車、オートバイ

家具・家電

テレビ、冷蔵庫、洗濯機

権利

著作権、特許権、商標権

その他

生命保険金、退職金、慰謝料

マイナスの財産

種類

借金

銀行からの借金、消費者金融からの借金

負債

不払いの賃料、損害賠償金

未納税金

所得税、住民税

その他

葬儀費用

遺産相続の対象とならない財産

上でも少し触れましたが、個人の身分に関わる権利や義務、個人的な性質を持つ財産、そして一部の特定の財産については、遺産相続の対象財産にはなりません。そのため、遺産相続の手続きで相続人に分配されることはないのです。

一身専属的な権利義務

生活保護受給権、国家資格、親権、扶養義務など、その性質上、個人に固有のものであり、他人に譲渡や相続ができないものは、相続財産に含まれません。

生命保険金と死亡退職金

生命保険金や死亡退職金については、被相続人が直接の受取人となっている場合を除いて、民法上の相続財産には含まれません。なお、税法上は「みなし相続財産」として扱われ、相続税の計算において課税対象となることがありますので、注意が必要です。

香典、弔慰金、葬儀費用

これらは葬儀に関連する費用や受け取りであり、遺産としての性質を持たず、通常、遺産分割の対象外とされます。

祭祀関連の財産

墓地、墓石、仏壇、祭具、系譜などの祭祀に関連する財産は、遺産分割の対象とはなりません。これらは通常、特定の家族成員や祭祀主催者が承継しますが、民法上の相続財産としては扱われません。

遺産を相続するのは法定相続人または受遺者

次に、遺産相続の対象となる人について見ていきましょう。

遺産相続の権利者は、大きく「法定相続人」と「受遺者(じゅいしゃ)」の二つに分けられます。

法定相続人とは、民法により自動的に相続人となる人のことです。法定相続人には、被相続人の配偶者、子ども、両親、そして兄弟姉妹が含まれます。法定相続人は、特に遺言がない場合において、被相続人の財産を法律上決められた相続分に従って分けることが可能です。

受遺者とは、被相続人が遺言によって明確に指名した遺産の受取人のことです。遺言書が存在する場合、その内容は法定相続人の権利より優先されるため、遺言書に記載された指示に従って遺産が分配されます。遺言書による指定がない場合は、自動的に法定相続人が遺産を相続することになります。

遺言書の有無によって遺産の相続方法が次の通り大きく変わるため、遺言書の存在を確認し、その内容を理解することが遺産相続をスムーズに進めるための鍵となります。

遺言書がある場合は受遺者が遺産を受け取る

遺言書が存在する場合、その内容が最優先されることになります。遺言によって具体的に遺産の受取人(受遺者)が指名されている場合、指定された受遺者は遺言に記述された通りに遺産を受け取る権利があります。この受遺者は、民法で定められた法定相続人である必要はなく、被相続人が遺言で自由に選んだ人物も受遺者となることができます。

ただし、遺言による遺産の分配がある場合でも、法定相続人の遺留分の権利を侵害してはなりません。遺留分とは、法定相続人が最低限受け取るべき遺産の割合のことで、遺言によって「全ての遺産を第三者に渡す」など極端に不公平な分配とならないよう、最低限の相続分を保障する制度です。もし遺言が遺留分を侵害する内容であった場合、法定相続人は遺留分侵害額請求をすることが可能です。

遺言書がない場合は法定相続人が受け取る

遺言書が存在しない場合、または遺言書による指定がない財産がある場合、日本の民法に定められた法定相続人が遺産を受け取ることになります。法定相続人には、配偶者、直系卑属(子や孫)、直系尊属(父母や祖父母)、兄弟姉妹が含まれます。これらの相続人には、法律によって定められた明確な相続の順位があります。

相続順位と法定相続人の範囲

相続順位

相続人の範囲

 

 

常に相続人となる

配偶者

法律上の婚姻関係にある配偶者のみが相続人となります。事実婚や内縁の関係にある配偶者は含まれません。

第一順位

直系卑属(子、孫)

子がいる場合は子が相続人となります。子が亡くなっている場合、その子(孫)が代襲相続人として相続権を持ちます。

第二順位

直系尊属(父母、祖父母)

子がいない場合、父母や祖父母が相続人となります。

第三順位

兄弟姉妹及びその代襲相続人

兄弟姉妹が亡くなっている場合、その子どもが代襲相続人として相続権を持ちます。

もし先順位の相続人が1人でも存在すれば、後順位の相続人は相続人にはなれません。また、養子も実子と同等の相続権を有します。

遺産相続では、配偶者は順位にとらわれず、常に相続人となります。このため、配偶者は他の親族と遺産を共有するか、または他に相続人がいなければ全遺産を相続することになります。一方で、配偶者以外の相続人の相続権は、配偶者がいるかどうかによっても影響を受けることになります。

最も優先的に相続人となるのは、子どもや孫といった直系卑属(被相続人から見て下の世代に当たる人)です。直系卑属が生存している限り、他の親族は相続権を持ちません。子が亡くなっていた場合、その子の子ども(孫)が代襲相続として相続権を継承します。

子や孫がいない場合は、次の順位者である直系尊属(被相続人よりも上の世代に当たる人)が相続人となります。これには、被相続人の父母や、場合によっては祖父母が含まれます。

直系卑属や直系尊属がいない場合にのみ、兄弟姉妹とその代襲相続人(兄弟姉妹の子ども)が、相続人となります。兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、その子どもたちが相続権を持つことになります。

法定相続人が誰かは戸籍謄本で調べる

相続が発生した際、誰が法定相続人であるかを確認するためには、被相続人の戸籍謄本の収集が不可欠です。戸籍謄本は、被相続人の出生から死亡に至るまでの家族関係の記録ですから、法定相続人の範囲とその順位を明確にすることができます。

戸籍謄本を収集する際には、まず最新の戸籍謄本を取得することから始めます。これには、被相続人の最終的な住所地の市町村役場での交付申請手続きが必要です。次に、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍の除籍謄本と改製原戸籍を集めることで、相続人が誰であるかを一貫して追跡します。

戸籍謄本には、被相続人の直系親族、配偶者、そしてその他の重要な家族関係が記されているため、相続人を正確に特定することができますし、相続人の権利や相続の順位を決定する上で、これらの公式文書が法的な証拠としても機能します。

遺産相続の3つの方法と手続きの流れ

さて、遺産相続の前提となる相続人や相続財産についてご理解いただけましたら、次に遺産相続の方法と手続きの流れを見ていきましょう。

遺産相続の3つの方法

遺産相続には、「単純承認」、「限定承認」、「相続放棄」の3つの方法があります。被相続人が残した財産の内容や相続人の事情に応じて、適切な方法を選びましょう。

  1. 単純承認
    これを選ぶと、故人が残したプラスの財産(資産)だけでなく、マイナスの財産(負債)も全て引き継ぐことになります。この方法には法的な手続きの期限が特に設けられていません。
  2. 限定承認
    故人の債務が存在するが、その全額が不明な場合に選ぶ方法です。これを選ぶと、故人のプラスの財産の範囲内でのみ債務を負担します。限定承認を行う場合、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に手続きを完了させる必要があります。
  3. 相続放棄
    故人が多額の債務を残していた場合に適しています。この選択をすると、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がないことになります。同様に、この手続きも相続の開始を知った日から3ヶ月以内に行う必要があります。

限定承認や相続放棄を行う場合、必要な書類を揃えて家庭裁判所で申立てを行う必要があります。これらの手続きを怠ると、自動的に単純承認したとみなされるため、注意が必要です。

遺産相続の手続きの流れ

遺遺産相続は、自治体への死亡届の提出から始まり、相続人の特定、遺産の調査、そして遺産分割協議など、さまざまな手続きが含まれます。手続きの中には、法律上期限が設けられているものもあるため、何をいつまでに完了させる必要があるのか、把握しておくことが重要です。

そこで、以下に、法律上の期限が決められている手続きと、期限はないが速やかにすべき手続きをご紹介いたします。ですが、あくまて一般的なケースに基づいている情報ですので、全ての状況に当てはまるわけではありません。具体的な相続の状況に応じて、必要な手続きを選択し、適切なタイミングで進めていくことが求められます。

期限がある手続き

  1. 死亡届の提出
    国内で亡くなった場合は、亡くなった事実を知った日から7日以内に最寄りの役場に死亡届を提出する必要があります。国外亡くなった場合は死亡事実を知った日から3ヶ月以内に死亡届を提出します。
  2. 国民健康保険・介護保険の資格喪失手続き、国民年金・厚生年金の受給停止手続き
    これらは死亡日から14日以内に行う必要があります。これにより、不要な保険料の支払いを停止し、年金の支払いを調整します。
  3. 相続放棄または限定承認
    相続を放棄するか、限定承認(債務の限度内でのみ相続を受けること)を選択する場合、死亡の事実を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申請する必要があります。
  4. 準確定申告
    故人が生前に確定申告が必要だった場合、死亡の事実を知った翌日から4ヶ月以内に税務署に準確定申告を行う必要があります。
  5. 相続税の申告・納付
    死亡の事実を知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告と納付を完了させる必要があります。
  6. 生命保険の請求
    生命保険金の請求は権利発生から3年以内に行う必要があります。3年を過ぎると請求権が消滅するため、注意が必要です。
  7. 相続登記の手続き
    2024年4月1日から、「相続の開始とその所有権の取得を知った日から3年以内」の相続登記が義務付けられます。

期限がある遺産相続の手続きについては、下記記事で詳しく解説していますので、参照してください。

期限はないが速やかにするべき手続き

期限の決められている手続きの他にも、以下のような、具体的な期限が決められていない手続きもあります。

  1. 相続人の確定
    相続人を明確にするためには、故人の出生から死亡までの戸籍謄本を集める必要があります。この作業は3ヶ月以内に行うのが望ましいとされていますが、法的な義務ではありません。
  2. 遺言書の有無の確認
    遺言書が存在するかどうかの確認も重要です。遺言書には故人の最終意志が記されており、相続の進め方に大きな影響を与えます。
  3. 相続財産の確認
    故人が残した資産(プラスの財産)と負債(マイナスの財産)の全体像を把握することが必要です。これにより、相続税の計算基礎や遺産分割の基準が決まります。
  4. 遺産分割協議および協議書の作成
    相続人間で遺産の分割について合意を形成し、その内容を遺産分割協議書にまとめます。これはできるだけ早めに行うべきです。
  5. 取引金融機関の手続き
    銀行口座の解約や名義変更など、金融機関との取引に関する手続きを進めます。

その他必要な遺産相続の手続きなどについては、下記記事で詳しく解説していますので、本記事とあわせてご一読ください。

なお、遺産相続が円滑に進むよう、生前にエンディングノートを用意しておくこともお勧めです。

エンディングノートとは、被相続人が自分の死後に向けて残す、自身の希望や財産状況、葬儀に関する指示などをまとめたノートです。エンディングノートは法的拘束力がないため、遺言書のように相続に直接影響を与えるものではありません。しかし、家族が被相続人の意向を尊重し、遺産分割や葬儀の準備をスムーズに進めるための参考資料として、非常に有用なのです。

被相続人が事前に準備をしておくことで、相続人は迷うことなく、落ち着いて必要な手続きを進めることができるようになるでしょう。

遺産を相続する割合は?どのように分割するのか

遺産相続の手続きを進めるにあたって、相続人の間でもめごととなりやすいのが、相続割合についての問題です。

遺言書がある場合の相続割合

遺言書による財産指定が存在する場合、通常はその内容に従って遺産が分配されます。遺言書では、具体的な財産や相続人ごとの相続分が指定されていることが多いです。

ですが、遺言書での指定が法定相続人の遺留分を侵害している場合、その部分は法的に保護され、遺言による指定は調整されることがあります。

本記事でも前述いたしましたが、遺留分とは、一定の相続人に対して法律で認められている、最低限の相続財産を取得できる権利のことです。遺言書の内容にかかわらず、相続人は遺留分を侵害されることはありません。

遺留分の権利が認められる相続人は、配偶者、子、および直系尊属(父母や祖父母など)です。これらの相続人は、被相続人の財産に対して一定の割合を最低限受け取る権利を持っています。

遺留分の具体的な割合は、相続人の構成によって次の通り異なります。

  • 配偶者と子がいる場合は遺産の2分の1
  • 配偶者のみがいる場合は遺産の3分の1
  • 子のみがいる場合は遺産の3分の1
  • 父母のみがいる場合、または直系尊属が複数いる場合は遺産の3分の1

もし遺言書の内容がこれらの遺留分を侵害している場合、遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求権を行使することができます。これにより、他の相続人に対して遺留分の補填を求めることができます。

また、遺言書の内容に不満がある場合や、より適切な遺産の分配が可能だと相続人全員が合意する場合には、遺言書に書かれていない部分に関して遺産分割協議を行うこともできます。この協議には全相続人の同意が必要であり、協議を通じて新たに合意に基づいた遺産の分配方法が設定されます。

遺言書がない場合は法定相続分に基づいて遺産を分配する

法定相続分とは、民法で定められた、相続人が取得できる遺産の割合のことです。被相続人に遺言書がない場合、遺産分割はこの法定相続分に基づいて行われます。

相続人の状況

配偶者の法定相続分

子や孫など直系卑属の法定相続分

親や祖父母など直系尊属の法定相続分

兄弟姉妹の法定相続分

配偶者と子ども

2分の1

2分の1(※)

配偶者と親

3分の2

3分の1(※)

配偶者と兄弟姉妹

4分の3

4分の1(※)

配偶者のみ

全て

子どもや孫のみ

全て(※)

親や祖父母のみ

全て(※)

※同じ順位の相続人が複数人いる場合は、法定相続分をさらに人数で均等に分けることになります。

(法定相続分)
第900条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
(引用:民法900条

法定相続分は、相続財産の分配における基本的な指針とされますが、これは絶対的なルールではありません。相続人の間で合意があれば、遺産分割の割合を自由に決定することが可能です。

ただし、相続人が自由に遺産分割を決定できるとしても、遺留分を請求された場合は応じなければなりませんので、注意しておきましょう。

遺産相続でかかる税金

遺産分割の手続きが終わったら、最後に税金の申告と納付を行うことになります。相続税は金額が大きくなりがちなので、いくら用意しておけば大丈夫なのか心配な方もいらっしゃるかと思います。ここで簡単に、相続税について確認しておきましょう。

遺産相続が行われると、遺産の総額に応じて相続税が課される場合があります。相続税の計算は複雑で、単に遺産の総額から算出するのではなく、さまざまな控除を適用した上で、金額を算出します。

基礎控除、配偶者控除、未成年者控除、障碍者控除、さらには相次相続控除など、相続税における控除にはさまざまな種類があるため、自身のケースで該当するものを適切に適用し計算することが重要です。

相続税がかかるのは基礎控除額を超えた場合

それでは、控除の中でも基本的な「基礎控除」について、具体的に知っておきましょう。

相続税の基礎控除額とは、相続税が課税される前に控除できる金額のことです。相続財産から基礎控除額を差し引いた額が課税対象となります。

基礎控除額は、以下の式で計算されます。

基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

相続財産が基礎控除額を超える場合、課税対象となる額に対して相続税が課税されます。相続税率は、課税対象額によって累進課税方式で適用されます。(国税庁ホームページ「相続税の税率」)

ここで重要なのは、基礎控除額の計算においては、相続放棄をした人も含めて計算するという点です。

また、法定相続人に養子がいる場合、実子がいれば養子は1人まで、実子がいなければ2人までを、法定相続人として計算に含めることができます。

この基礎控除額を超える遺産がある場合にのみ、相続税の申告と納付が必要になります。ですので、遺産の総額を正確に把握し、適切な控除を適用して課税価格を計算することが重要です。相続税の計算や申告には複雑なルールが多いため、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

課税対象となる遺産相続財産の計算方法

課税価格とは、相続税を計算する際の基本となる金額です。この金額には、相続人が受け継いだ財産に加えて、「みなし財産」も含まれます。みなし財産とは、法律上は被相続人が直接所有していたわけではないが、相続税の計算においては相続財産とみなされる財産のことをいいます。

みなし財産には、例えば、生命保険金があります。生命保険金は、被相続人が契約者または被保険者であった保険契約に基づいて、相続人が死亡時に受け取る保険金です。法律上は保険契約者が保険金を直接所有していたわけではありませんが、亡くなったことで相続人が受け取るため、みなし財産として相続税の対象となります。

さらに、課税価格には、死亡前7年間に受けた生前贈与の価額も加算されます。これらの価額から、非課税財産、債務、葬式費用などを差し引いた純資産価額が課税価格となります。

具体的には、次の算式により課税価格が算出されます。

各相続人の課税価格=純資産価額+相続開始前7年以内の生前贈与の財産価額各相続人の課税価格=純資産価額+相続開始前7年以内の生前贈与の財産価額

ここでの純資産価額は、次のように計算されます。

純資産価額=(相続又は遺贈により取得した財産の価額+みなし相続等により取得した財産の価額−非課税財産の価額+相続時精算課税制度の対象となる生前贈与の財産価額)−債務及び葬式費用の額

こうして算出された課税価格が基礎控除額を超えた場合に、相続税が課されることになるのです。

 

相続税の計算が済んだら、相続税の申告を行います。相続税の申告も、内容に抜け漏れのないように注意してください。

相続税を支払う過程で、無申告加算税や延滞税などのペナルティが課されるリスクを避けるためには、正確な申告が重要です。申告や計算を自分でするのが難しい場合には、専門家の助けを借りることも検討してみてください。相続問題に精通している弁護士や、税務に強い税理士に相談することで、適切な申告支援や税金計算の助言を受けることができます。

遺産相続に関する相談は弁護士へ

遺産相続はトラブルが起きやすい

相続争いが起こると一般に想像されるのは、富裕層の大きな財産が絡むようなケースですが、実際には一般家庭や中間層でも頻繁に発生しています。

令和3年の最高裁判所事務総局による司法統計年報によると、家庭裁判所で扱われた遺産分割の事案は6,934件にのぼります。その中で、遺産総額が1,000万円以下の事案が2,279件、1,000万円超から5,000万円以下の事案が3,037件と報告されており、5,000万円以下の事案が全体の約76%を占めています。

このデータからも明らかなように、相続争いは遺産の額の多寡に関わらず生じる問題なのです。

相続争いを防ぐためには、遺産相続が誰にでも起こり得る身近な問題であると認識し、適切な対策や準備を事前に考えておくことが重要です。遺言書の作成や相続計画の事前準備など、生前に対策をしておくとともに、相続人だけでは解決できそうにないトラブルが生じた際には、弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

弁護士に相談・依頼するメリット

相続問題は複雑で、感情的になってしまうと、より問題は複雑化してしまいます。スムーズに遺産分割を進めていくためには、専門的な知識と経験を持つ弁護士に相談することが非常に有効です。弁護士が介入することで、相続に関する協議が円滑に進み、問題が効果的に解決することが期待できます。

弁護士は法的な観点からアドバイスを提供し、適切な遺産分割協議を行います。もし協議だけで問題が解決しない場合、弁護士は調停や審判を通じて、より有利な条件での解決を目指すサポートを行うことができます。これにより、遺産分割が公正かつ適切に行われる確率が高まります。

相続問題に直面した際には、早期に法律の専門家に相談することで、不安やトラブルを最小限に抑え、スムーズな解決につながる可能性があります。相続が発生した場合は、迅速に対応することが重要ですので、適切なアドバイスとサポートを求めるために、信頼できる弁護士の選定をお勧めします。

弁護士に依頼するメリットについて、詳しくは下記記事を参照してください。

遺産相続に関するQ&A

Q: 遺言書がない場合、遺産相続はどのように進められますか?

A: 遺言書がない場合、遺産は民法に定められた法定相続分に従って相続人に分割されます。主な法定相続人は故人の配偶者、子供、両親であり、これらの相続人がいない場合は兄弟姉妹が相続人となります。相続人が特定された後、相続人全員で遺産分割協議を行い、各自の相続分を決定します。協議が困難な場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。

Q: 遺産相続で不動産が含まれる場合、どのように遺産相続すれば良いですか?

A: 不動産の相続には、相続人全員の同意のもとで不動産の名義変更を行う必要があります。名義変更の手続きには、不動産登記簿謄本や相続関係を証明する戸籍謄本などが必要です。また、相続税の申告においても不動産の評価額が重要となるため、専門家による適切な評価を受けることが推奨されます。

Q: 生前贈与を受けた場合、相続時にどのように扱われますか?

A: 生前贈与を受けた場合、その贈与は相続開始前7年以内のものであれば、相続財産として扱われることがあります。これは相続税の課税価格に加算されるため、相続税計算に影響を与える可能性があります。相続人は生前贈与の詳細を正確に記録し、必要に応じて相続税申告の際に反映させる必要があります。

まとめ

この記事では、遺産相続の基本的な知識、法定相続人の範囲や順位、相続割合について解説させていただきました。

遺産相続は複雑な場合が多く、遺言書の確認、財産の調査から始まりますが、これらは専門的な知識が必要なことも多いです。トラブルを未然に防ぐためには、相続に関する適切な理解が不可欠です。

本記事の解説が、少しでもお役に立てましたら幸いです。

遺産相続は、相続人間での遺産分割に納得がいかない場合や、遺言書の内容に異議がある場合など、様々な問題が生じることがあります。このような状況で自力で解決するのが困難な場合や、特定の問題に直面した場合には、お気軽に弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。弁護士は遺産相続に関する法的なアドバイスを提供するだけでなく、依頼者の代理として他の相続人との交渉を行い、依頼者の利益を最大限に守るよう、適切にサポートいたします。

問題を抱えている場合や不安な点がある場合は、法律の専門家である弁護士に早めにご相談いただくことが、安心して遺産相続を進めるための鍵となります。遺産相続に関しては一つ一つのケースが独自の特性を持っているため、専門家の意見を聞くことで、より適切な対応が可能になります。

弁護士法人あおい法律事務所では、困った時にお気軽にご相談いただけるよう、初回の法律相談を無料とさせていただいております。当ホームページのWeb予約フォームや、お電話からでもお問合せいただけますので、まずは一度、ご相談ください。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。