遺言書の効力が及ぶ範囲│遺言の内容は絶対か?有効期限や無効になるケース

遺言

更新日 2024.08.06

投稿日 2024.08.06

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

弁護士法人あおい事務所の相続専門サイトをご覧いただき、ありがとうございます。当サイトでは、相続に関する法的な知識を分かりやすくお届けしております。皆様のお悩みの解消に少しでもお役立ちできましたら幸甚です。

原則として、遺言書が有効であれば、その内容に基づいて遺産が分配されます。しかし、遺言書が有効であることが前提であり、法定の要件を満たさない場合、その効力は認められません。遺言書の効力がどこまで認められるのか、どのような条件で有効とされるのかについても知っておくことが重要です。

さらに、意に沿わない遺言書が見つかった場合の対処方法についても理解が必要です。この記事では、遺言書の効力の範囲、有効期限、そして無効となるケースについて詳しく解説します。効力の及ぶ範囲を理解し、無効とならないように注意して遺言書を作成することで、遺産分配の際にトラブルを避け、円滑な手続きを進めることができるでしょう。

目次

遺言書は法的な効力を持つ

遺言書は、遺言者の最終意思を法的に効力ある形で示す公式な文書です。これは、遺書とは異なり、家族へのメッセージ以上の法的効果を持ちます。たとえば、遺書に「妻に全財産を譲る」と書かれていても、それ自体には法的効力はありません。しかし、遺言書に同じ内容が記されていれば、その指示は法的に有効となり、遺産分配に影響を及ぼします。

遺言書には普通方式と特別方式があり、一般的には普通方式が用いられます。普通方式には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。

①自筆証書遺言

自筆証書遺言は遺言者自身が全文、日付、氏名を自筆し、押印するもので、他人の代筆やパソコンでの作成は無効です。ただし、財産目録は自筆でなくても構いません。また、2020年から法務局で自筆証書遺言を保管するサービスが開始され、これを利用すれば家庭裁判所の検認手続きが不要になります。

②公正証書遺言

一方、公正証書遺言は、遺言者が証人2人の立ち会いのもとで口述した内容を公証人が筆記し、遺言者と証人が署名・押印することで作成されます。この形式は無効となる可能性が低く、紛失や偽造のリスクも少ないため、安全性が高いです。特別方式の遺言は、死期が迫っている場合や伝染病隔離者、在船者など特殊な状況下で認められるもので、普通方式では間に合わない場合に用いられます。

遺言書の効力はその形式や内容によって左右されるため、適切な手続きと法律の要件を満たすことが重要です。遺言書が有効であれば、遺産分配において遺言者の意思が尊重され、法的効力を持つことになります。

遺言書の内容は法定相続分よりも優先される

一般的に、相続は民法が定める法定相続分に基づいて行われると思われがちですが、それは誤解です。実際には、遺言書がある場合、その内容が優先されます。遺言書が存在しない場合に限って、法定相続分の規定が適用されるのです。これは、遺言者の意思を最大限に尊重するためです。

遺言書には、相続分の指定だけでなく、遺産分割の方法や相続人の資格を失わせる(廃除)ことも記載できます。また、子を認知することや未成年後見人を指定することも可能です。これらの事項を含む遺言書は、法律上の遺言として認められ、法的効力を持ちます。しかし、「死後は家族みんなで仲良く過ごしてほしい」や「葬儀は○○でやってくれ」などといった内容は、法的には効力を持ちません。

遺言書の効力が及ぶ事項│遺言できる行為の内容

①相続分の指定(民法902条1項)

遺言書は、遺言者が自身の財産を誰にどれだけ相続させるかを自由に指定できる重要な法的文書です。相続において、民法は各相続人の取り分を「法定相続分」として定めていますが、遺言書を作成することで遺言者はこれを変更することが可能です。たとえば、特定の相続人に多くの財産を与えたい場合や、第三者に財産を譲りたい場合など、遺言書によって柔軟に遺産の分配を指定できます。

遺言書の効力は強力ですが、絶対的ではありません。相続人には「遺留分」と呼ばれる最低限の取り分が保証されており、遺言書であっても遺留分を侵害することはできません。遺留分は法定相続人(配偶者や子供など)に保障された権利であり、これを侵害する遺言書の内容は、相続人から遺留分減殺請求を受けることがあります。たとえば、配偶者と子供が1人いる場合、配偶者と子供にはそれぞれ1/4の遺留分があります。遺言書に「全財産を愛人に渡す」と書かれていても、遺留分を侵害するため、その内容がすべて実行されることはありません。

また、遺言書で相続分の指定を第三者に委託することも可能です。これにより、遺言者が信頼する第三者に遺産分割の裁量を任せることができます。しかし、この場合でも遺留分の規定を無視することはできず、第三者が遺産を分配する際には遺留分を考慮する必要があります。

(遺言による相続分の指定)
第九百二条 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。
(e-Gov法令検索「民法902条」)

②遺産分割方法の指定と禁止(民法908条)

遺言書は、遺産の取り分を指定するだけでなく、具体的な遺産分割の方法についても明確に指示することができます。これにより、相続の際の混乱や争いを避け、遺言者の意思をより正確に実現することが可能となります。

遺言書で指定できるのは遺産の取り分だけではありません。たとえば、遺産の1/2を配偶者に相続させるといった割合を示すのではなく、自宅を配偶者に、預金を子供にといった具体的な財産の相続先を特定することも可能です。このように、具体的な財産を指定することで、相続手続きをスムーズに進めることができます。

具体例として、不動産が相続財産に含まれている場合、遺産の取り分だけを指定すると、不動産を売却して現金化しなければならないケースが生じることがあります。しかし、遺言書で「自宅は配偶者に相続させる」と明示することで、その必要がなくなり、相続人間のトラブルを避けることができます。遺産分割の具体的な指示を行うことは、遺言書の効力を最大限に活用するための重要なポイントです。

遺産分割の禁止

さらに、遺言書では相続人同士が遺産分割協議を行うことを禁止することも可能です。これは、相続開始時のトラブルを避けるための冷却期間を設けたい場合や、相続時点で相続人の中に未成年者がいる場合などに有効です。たとえば、遺産分割協議が親族間での争いを引き起こす恐れがある場合、遺言書に遺産分割の禁止条項を設けることで、一定期間その協議を行わないようにすることができます。

ただし、遺産分割の禁止は永久に続けることはできません。法律上、その期間は最大でも5年を超えない範囲で指定する必要があります。仮に遺言書に禁止期間が明示されていない場合は、自動的に5年間の禁止として効力を持つことになります。このように、遺産分割の禁止を適用することで、相続開始直後の不必要な争いや混乱を避けることができ、相続人間の関係を保つための措置として活用できます。

(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第九百八条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
2 共同相続人は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。
3 前項の契約は、五年以内の期間を定めて更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。
4 前条第二項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。
5 家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて前項の期間を更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。
(e-Gov法令検索「民法908条」)

③遺贈│法定相続人出ない人への遺産の分配(民法964条、 986条~1003条)

通常、遺言者の財産は配偶者や子供などの法定相続人が相続しますが、遺言書を作成することで、愛人やお世話になった人、孫など、法定相続人以外の人物に財産を遺贈することが可能です。

たとえば、「自分の全財産を慈善団体に寄付する」や「長年お世話になった友人に自宅を遺贈する」といった具体的な指示を遺言書に記載することができます。

(包括遺贈及び特定遺贈)
第九百六十四条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
(e-Gov法令検索「民法964条」)

しかし、この遺言書の効力には一定の制限があります。相続人には「遺留分」という最低限の取り分が保証されており、遺言書が遺留分を侵害する内容であっても、遺言書自体は無効にはなりませんが、相続人は遺留分侵害額請求権(旧遺留分減殺請求権)を行使することができます。

④非嫡出子の認知(民法781条2項)

非嫡出子とは、婚姻していない女性との間に生まれた子供を指します。生前にこの子供を認知していない場合、非嫡出子は法定相続人とはならず、遺産を受け取る権利がありません。

遺言書を作成することで、生前に認知していなかった非嫡出子を認知することが可能となります。これにより、非嫡出子は法定相続人としての地位を得て、他の相続人と同様に遺産を相続する権利が認められます。遺言書に「私は、非嫡出子である○○を認知し、相続人とする」と明記することで、法的にその効力が発生します。

非嫡出子を認知した場合、その子供は法定相続分を受け取る権利を持つようになります。これは、嫡出子(婚姻関係にある夫婦の子供)と同じ相続権を持つことを意味します。

(認知の方式)
第七百八十一条 認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。
2 認知は、遺言によっても、することができる。
(e-Gov法令検索「民法708条」)

⑤相続人の廃除(民法893条)

遺言書は、遺産分配に関する遺言者の意思を示すだけでなく、特定の相続人を相続人としての地位から廃除するための手段としても有効です。相続人の廃除とは、遺言者が生前にその相続人から虐待や重大な侮辱を受けるなど、相続させたくないと判断した場合に、その相続人から相続権を剥奪する行為です。

相続人の廃除は、遺言者が生前に家庭裁判所へ申立てて行うこともできますが、遺言書に記載して遺言によって実行することも可能です。

遺言書で相続人の廃除を実現するためには、遺言執行者の選任が必要です。遺言執行者は、遺言書に記載された内容を法的に実行する役割を担います。

(遺言による推定相続人の廃除)
第八百九十三条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
(e-Gov法令検索「民法893条」)

相続人の廃除が認められた場合、その相続人は法定相続人としての地位を失い、遺産を受け取る権利も失います。たとえば、虐待を行った子供が相続人から廃除された場合、その子供は遺産を相続する権利がなくなります。しかし、廃除された相続人には遺留分も認められないため、遺産分配に関する一切の権利を失うことになります。

⑥未成年後見人の指定(民法839条1項)

親権者が遺言者だけの場合、遺言者が亡くなると未成年者は親権者を失います。そこで、遺言書で未成年後見人を指定しておくことが重要です。未成年後見人は、子供が成人するまでの間、財産管理や監護・教育に責任を負うため、慎重な人選が求められます。遺言書には、「私の子供○○の後見人として△△を指定する」と明記します。

さらに、後見人を監督する未成年後見監督人も指定するのが一般的です。後見監督人は後見人の行動を監視し、未成年者の権利を保護する役割を担います。

第八百三十九条 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。
(e-Gov法令検索「民法839条」)

⑦遺言執行者の指定(民法1006条)

遺言書では、遺言執行者を指定することが可能です。遺言執行者とは、遺言者に代わり遺言内容の実現に向けてさまざまな手続きを行う人を指します。遺言執行者の選任は必須事項ではありませんが、指定することで遺言を確実に実現できる可能性が高まります。遺言執行者には「未成年者」や「破産者」以外であれば誰でもなることが可能です。

遺言執行者の役割は多岐にわたり、遺産の分配や相続人への通知、財産の管理などを行います。特に「相続人の廃除」や「非嫡出子の認知」、「特定遺贈」を指定する場合には、必ず遺言執行者を指定する必要があります。これは、これらの行為が法的に複雑であり、確実に実行されるためには専門的な知識と能力が求められるためです。

また、遺言執行者には報酬が支払われることが一般的ですが、その内容も遺言書に明記しておくと良いでしょう。

(遺言執行者の指定)
第千六条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
(e-Gov法令検索「民法1006条」)

⑧生命保険金の受取人の変更(保険法44条)

通常、生命保険の受取人を変更するには契約変更の手続きが必要ですが、平成22年4月1日以降に締結された契約については遺言書によって変更が認められています。ただし、すべての契約で変更が可能というわけではないため、事前に保険会社に確認することが重要です。

遺言書で受取人を変更する場合、その遺言内容を保険会社に通知する必要があります。保険会社が遺言書の内容を知らなければ、元の受取人に生命保険金が支払われてしまう恐れがあるからです。

⑨生前贈与していた場合の遺産の処理方法

特定の相続人に対して生前贈与を行っていた場合、その相続人は特別受益者と見なされます。特別受益は遺産の前渡しと解釈されるため、遺産分割を計算する際にその分を持ち戻すことが一般的です。

例えば、特別受益者Aが本来受け取るべき相続分が2,000万円であり、すでに1,000万円の生前贈与を受けていた場合、持ち戻し後の相続分は1,000万円となります。このように、特別受益は法定相続分から差し引かれて計算されます。

しかし、遺言書によって特別受益の持ち戻しを免除する旨を記載することも可能です。遺言書に「特別受益者Aに対する生前贈与を持ち戻さない」と明記することで、特別受益者Aは持ち戻しを免除され、本来の相続分である2,000万円をそのまま受け取ることができます。これにより、遺言者の意志を尊重し、特定の相続人に対してより多くの遺産を与えることができます。

遺言書の効力の期限は?効力が生じる期間

遺言書には法定された有効期限は存在しません。一度作成された遺言書は、新しい遺言書が作成されない限り、原則として永続的に有効です。遺言書は遺言者が亡くなった時点から効力を発生し、その効力は遺言者の死後に限定されます。したがって、遺言書は遺言者が生存している間には効力を持ちませんが、遺言者が亡くなった後は、いつ作成されたものであっても、法的要件を満たしていれば有効となります。

ただし、遺言書が古い場合や状況が変わった場合、内容が現状にそぐわなくなることがあります。例えば、遺言書に記載された財産がすでになくなっていたり、指定された相続人が先に亡くなっていたりする場合です。こうした場合には、定期的に遺言書の内容を見直し、必要に応じて更新することが推奨されます。遺言書の更新は、遺言者の意思を正確に反映し続けるために重要です。

公正証書遺言の場合、公証役場での保管期間は原則20年とされていますが、特別な事由がある場合や遺言者が生存している場合は、その保存義務が続くことがあります。遺言書の保管方法や更新に関して不明な点があれば、専門家に相談することをお勧めします。

勝手に開封しても効力はなくならない│ただし罰金の可能性あり

遺言書を検認せずに開封してしまった場合でも、その効力が失われることはありません。しかし、秘密証書遺言や法務局の保管制度を利用していない自筆証書遺言は、開封前に家庭裁判所の検認手続きを受ける必要があります。検認手続きは、遺言書の存在や内容を確認し、遺産相続の公正さを保つための重要な手続きです。

もし誤って遺言書を開封してしまった場合には、正直にその旨を家庭裁判所に申告し、速やかに検認手続きを受けましょう。遺言書の効力自体は失われませんが、開封したことに対して法律で5万円以下の罰金が課せられる可能性があります。

遺言書は絶対か?

遺言書の効力が及ばないこと

遺言書に記載して効果が及ぶ範囲は上記で挙げた事項のみです。そのほかの事を記載したとしても、法的効力が及ぶことはありません。

例えば、以下に記載するような事項は、たとえ遺言書に記載したとしても法的効力は及びません。

身分行為に関する事項

遺言書には、「養子縁組を結ぶ」や「配偶者との婚姻関係を解消する」などの身分行為に関する内容を記載しても、これらは法的には効力を持ちません。養子縁組や離縁、結婚、離婚といった事項は、遺言書ではなく、生前に法的手続きを経て行う必要があります。

付言事項について

遺言書には、法的効力を持たない「付言事項」を記載することができます。付言事項とは、遺産分配以外の遺言者の思いや希望を伝えるための項目です。これには以下のような内容が含まれます。

 

  • なぜ特定の相続人に多くの遺産を渡すのか、その理由
  • 葬儀や法要についての希望
  • 家族への感謝の気持ち
  • 死後の家業の継承についての希望
  • 遺体の処置方法についての希望(例:臓器提供など)

 

これらの付言事項は法的拘束力を持ちませんが、遺言者の思いを家族に伝える手段として有効です。家族がその思いを尊重し、実現しようと努力することで、遺言者の意向が反映されることが期待されます。たとえば、相続分を指定した理由を明確にすることで、相続人間の誤解や争いを防ぐ効果があります。

自筆証書遺言が無効になるケース│有効と認められるためには書き方に注意

自筆証書遺言は、民法968条に定められた5つの要件を満たさない場合、無効になります。以下に具体的なケースを挙げて解説します。

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
(e-Gov法令検索「民法968条」)

1. 遺言者本人が全文を自署していない場合

遺言書は遺言者自身が全て手書きで作成する必要があります。一部でも他人が代筆したり、手を添えて補助したりした場合、無効となります。ただし、財産目録はパソコンで作成しても問題ありません。

2. 明確な日付が記載されていない場合

遺言書には明確な作成日付を記載する必要があります。「◯年◯月吉日」など特定できない日付では無効です。日付は「✕✕年✕✕月✕✕日」と具体的に記載しましょう。

3. 氏名が正しく記載されていない場合

遺言者本人の氏名をフルネームで記載しないと無効となる可能性があります。苗字や名前のみ、またはニックネームでは遺言者が特定できないため無効です。

4. 印鑑が不鮮明な場合

遺言書には遺言者本人の印鑑を押す必要があります。不鮮明な印鑑は無効となります。認印でも構いませんが、実印を使用することが望ましいです。

5. 訂正や変更のルールを守っていない場合

遺言書の訂正や変更は、民法が定めたルールに従わなければなりません。訂正箇所の指示、訂正の付記、署名、印鑑が必要です。これらのルールを守らない場合、訂正部分が無効となり、状況によっては遺言全体が無効になることもあります。

有効な遺言書の書き方については、下記記事で詳しく解説しております。あわせてご覧ください。

「遺言書の書き方と例文│自筆証書遺言が無効にならないための作成方法」

公正証書遺言が無効になるケース

公正証書遺言は、無効になるリスクが少ないとされていますが、以下のようなケースでは無効となる可能性があります。

1. 遺言能力がなかった場合

遺言者が認知症などで遺言内容を理解できない状態で作成された遺言は無効です。公証人は常に遺言者の認知症の確認をするわけではないため、相続人が遺言能力を争うことがあります。この場合、病院のカルテや介護記録などを基に遺言能力が判断されます。

2. 証人が不適格だった場合

公正証書遺言には証人が2人以上必要です。未成年者、推定相続人、遺贈を受ける者、その配偶者や直系血族は証人になれません。これらの不適格者が証人となった場合、遺言は無効です。

3. 口授が欠けていた場合

遺言者は公証人に口頭で遺言の趣旨を述べる必要があります。病気などで発話が困難な場合、うなずくだけでは口授と認められず、遺言は無効となる可能性があります。口がきけない人は、筆談や通訳を通じて意思を伝えることで口授に代えることができます。

4. 詐欺、強迫、錯誤があった場合

詐欺や強迫によって作成された遺言は取り消すことができます。これらの事実を立証するのは遺言者の死後では困難ですが、相続人がこれを主張することがあります。

5. 公序良俗に反する場合

公序良俗に反する内容の遺言は無効です。例えば、配偶者がいるのに他の交際相手に全財産を遺贈する遺言などは、公序良俗違反として無効とされる可能性があります。

遺言書の内容を覆すにはどうすればよい?

遺言者本人が遺言書の内容を覆す方法

遺言書を作成した後に事情が変わる場合、遺言者はその内容を撤回することができます。遺言の撤回は、前の遺言を撤回する新しい遺言を作成することが原則です。たとえば、最初に公正証書遺言を作成し、後に自筆証書遺言を作成しても構いません。遺言を全て撤回することも、一部のみ撤回することも可能です。

また、特定の行為により遺言が撤回されたとみなされる場合もあります。二つの遺言が内容的に抵触する場合、抵触部分について前の遺言は撤回されたとみなされます。例えば、A不動産を最初の遺言では長男に、次の遺言では次男に相続させるとした場合、次の遺言の内容が優先されます。また、遺言の対象となる財産を生前に処分した場合も、その部分の遺言は撤回されたとみなされます。

さらに、遺言者が生前に遺言書を故意に破棄した場合、その遺言は撤回されたとみなされます。ただし、公正証書遺言の正本や謄本を破棄しても、公証役場に保管されている原本は有効です。このため、確実に遺言を覆すためには、新しい遺言書を作成する方法が最も安全です。

相続人が遺言書の内容を覆す方法

遺言書が無効だと感じた場合、それを確定するためにはいくつかの対処法があります。以下は、その具体的な手順です。

ステップ1: 他の相続人の意見を確認する

まず、遺言書が無効ではないかと思ったら、他の相続人に意見を確認しましょう。全員が無効と考えている場合は、裁判手続きをせずに遺言書を無効とし、相続人全員で改めて遺産の分け方を協議することができます。この場合、話し合いで合意に達すれば、その内容で遺産分割を行います。

しかし、一人でも反対者がいる場合は次のステップに進む必要があります。

ステップ2: 調停を申し立てる

遺言書の有効性について相続人間で意見が対立し、話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停は、相手方となる相続人の住所地の家庭裁判所で行います。家庭裁判所では調停委員が間に入り、各当事者から意見を聞いて、有効か無効かの助言を行います。調停で全員が納得すれば、無効という結論に達することができます。

調停は、裁判官1人と2人の調停委員で構成され、柔軟な話し合いが行われます。しかし、調停で解決しない場合は、次のステップに進みます。

ステップ3: 遺言無効確認訴訟を起こす

調停でも話し合いがまとまらない場合は、遺言書が無効であることを確認する「遺言無効確認訴訟」を提起する必要があります。この訴訟は、専門的な知識が必要なため、弁護士に依頼することが推奨されます。弁護士は証拠を集め、遺言書の無効を立証するための法的手続きを行います。

遺言無効確認訴訟では、遺言書が無効である理由を具体的に立証しなければなりません。たとえば、遺言者の遺言能力が欠けていた、遺言書が法的要件を満たしていない、詐欺や強迫があったなどの理由が挙げられます。

有効な遺言書の内容に納得できない場合の対処法│遺留分侵害額請求を

遺言書は遺言者の意思を尊重する重要な文書ですが、その内容が法定相続人の遺留分を侵害する場合があります。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の相続分のことです。遺言書により遺留分が侵害されても、遺言書そのものが無効になるわけではありません。遺留分の侵害を主張するためには、相続人自身が家庭裁判所に対して遺留分侵害額請求を行う必要があります。

例えば、配偶者と子供がいる人が「愛人にすべての財産を相続させる」という遺言書を遺して亡くなった場合、配偶者と子供は遺留分を請求することで、各自が遺産総額の1/4を受け取る権利があります。この遺留分侵害額請求を行うことで、遺言書の内容に納得できない場合でも、最低限の相続分を確保することができます。

遺留分侵害額請求の手続きは、家庭裁判所に対して行います。まずは遺留分を侵害された相続人が、自らの意思でこの権利を主張する必要があります。請求が認められると、侵害された遺留分に相当する金額を相続人に支払う義務が発生します。

遺留分は自動的に確保されるものではないため、相続人自身が積極的に行動することが重要です。請求期限があり、相続開始を知った時から1年以内、または相続開始から10年以内に行う必要があります。遺留分侵害額請求を行うことで、遺言書の効力に関係なく、法定相続人の最低限の権利を守ることができます。

遺言書の有効性に疑問がある場合は弁護士に相談を

遺言書の有効性を弁護士に確認してもらう

遺言書が有効か無効かを判断するのは、一般の方には難しいことが多いです。自筆証書遺言の場合、法的な要件を満たしていない場合や、遺言者が認知症の状態で作成した場合など、無効となるケースがあります。弁護士に相談することで、遺言書が法的に有効かどうかを正確に判断してもらえます。これにより、不利な遺産相続を避けることができます。

弁護士が仲裁して遺言書の有効性を争う

遺言書の有効性に疑問がある場合、まずは相続人同士で話し合いを行います。しかし、話し合いで合意に達しない場合は、法的手続きが必要です。弁護士は、無効原因を法的観点から説明し、相続人全員の同意を得る手助けをします。また、遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟を提起する場合にも、弁護士のサポートが役立ちます。弁護士は証拠収集や法的手続きの進行をスムーズに行い、無効原因を証拠に基づいて立証します。

法的手続きへの対応を一任できる

相続問題が法的手続きに発展した場合、弁護士のサポートは非常に重要です。裁判では、遺言書の無効を証明するための証拠が必要です。弁護士のアドバイスにより、必要な証拠を効率よく収集し、法廷での主張を強化することができます。弁護士は法律の専門知識を駆使して、相続人の権利を守るための最善の策を講じます。

遺言書の効力に関するQ&A

Q: 遺言書の効力を確保するためには、どのように保管すれば良いですか?

A: 遺言書の効力を確保するためには、安全で見つけやすい場所に保管することが大切です。遺言者が亡くなった後に遺言書が見つからず、内容が実行されなければ、遺言書を残した意味がなくなります。以下の方法で遺言書を保管することをお勧めします:

 

  1. 貴重品入れに保管: 遺言書の原本を自宅の貴重品入れなど、すぐに見つけられる場所に保管する。
  2. 信頼できる人物に預ける: 税理士や弁護士など、信頼できる人に遺言書を預けておく。
  3. 家族に伝える: 公正証書遺言の場合、遺言書の存在を家族に伝えておくことで、遺言書が確実に見つかり、実行されやすくなります。

 

公正証書遺言以外の遺言書は、家庭裁判所での検認手続きが必要です。遺言書を検認せずに開封すると、発見者に5万円以下の過料が課されることがあります。これを防ぐため、遺言書と一緒に「検認手続きを受けるように」というメモを添えて保管すると良いでしょう。

さらに、2020年7月10日から、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が始まりました。この制度を利用すると、家庭裁判所での検認手続きが不要になります。また、法務局では遺言書の原本に加え、電子データとしても保管されるため、遺言者や相続人がいつでも閲覧や写しの請求が可能です。

遺言書の効力を確保するためには、安全で確実な保管方法を選ぶことが重要です。上記の方法を活用して、大切な遺言書がきちんと見つかり、実行されるようにしましょう。

Q: 遺言書に「特定の相続人にすべての遺産を相続させる」と書かれていた場合、他の相続人はどうすれば良いでしょうか?

A: 遺言書に特定の相続人に全財産を渡すと書かれていると、他の相続人は納得できないことがあります。そのような場合には、遺留分を主張することができます。遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に保障されている最低限の相続分のことです。

例えば、遺言書で長男に全ての財産を相続させると書かれていても、他の兄弟姉妹は「遺留分」を主張して、長男に対してその分の金銭を請求することができます。これは「遺留分侵害額請求」と呼ばれ、お金で最低限の相続分を確保する方法です。

さらに、遺言書の内容に関係なく、相続人全員が合意すれば別の方法で遺産を分割することも可能です。例えば、遺言書に「長男に全財産を相続させる」と書かれていても、長男を含む全ての相続人が同意すれば、兄弟姉妹で遺産を均等に分けることができます。

不公平な遺言書が出てきた場合は、まず相続人同士でよく話し合いをしましょう。それでも合意に至らない場合は、遺留分侵害額請求を検討しましょう。

Q: 法的効力のある遺言書を作成するためにはどうすれば良いですか?

A: 法的効力のある遺言書を作成するためには、民法で定められた作成上のルールを守り、安全に保管することが重要です。この2つの要件を満たすためには、「公正証書遺言」を作成することをおすすめします。公正証書遺言は、遺言者が公証人の前で口述し、その内容を公証人が書面化する方法です。この方法により、遺言書作成のルールを確実に守ることができ、遺言書の原本は公証役場で安全に保管されます。

他の方法として、直筆証書遺言を作成して法務局で保管する方法や、自宅で保管する方法もありますが、公正証書遺言に比べると法的要件を満たすことや保管の安全性が劣ります。そのため、確実に法的効力を持つ遺言書を作成したい場合は、公正証書遺言が最も適しています。

まとめ

遺言書は、遺言者の最終意思を法的に示す重要な文書であり、その効力は遺産相続に大きな影響を与えます。遺言書の効力が及ぶ範囲は広く、遺産分配の指示、相続人の指定、未成年後見人の指名など多岐にわたります。しかし、遺言書が無条件に有効となるわけではありません。法的要件を満たさない場合や遺留分を侵害する内容の場合、遺言書の効力が制限されることがあります。

また、遺言書には有効期限がなく、一度作成された遺言書は新しい遺言書が作成されない限り、原則として永続的に有効です。ただし、状況の変化により遺言内容が現状にそぐわなくなることもあるため、定期的な見直しが推奨されます。

遺言書が無効となるケースには、自筆証書遺言が法的要件を満たしていない場合や、遺言者が遺言能力を欠いている場合、証人が不適格である場合、口授が欠如している場合、詐欺や強迫、錯誤がある場合、公序良俗に反する場合などが含まれます。公正証書遺言であっても、これらの条件に違反すると無効になる可能性があります。

遺言書の効力を最大限に活用し、確実に意図を反映させるためには、法的要件を満たすことが不可欠です。弁護士に相談することで、遺言書の有効性を確保し、相続トラブルを未然に防ぐことができます。遺言書の作成や見直しにおいては、専門家である弁護士の助言を得ることが最善の策と言えるでしょう。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。