遺産分割調停とは│家庭裁判所への申立てからの流れや費用、期間を解説
遺産分割調停とは、被相続人が残した財産の分割について、相続人間で意見がまとまらない場合に、家庭裁判所に申立てを行い、中立的な第三者である調停委員の介入を通じて、話し合いによる解決を図る手続きです。
相続は、人生でそう何度も経験するものではありません。そのため、突然相続の手続きを行うことになった時、何から手をつけてよいのか迷われる方も多いでしょう。特に、相続人間で意見が対立すると、感情的になりがちで、一向に解決に向かわないことも多々あります。相続人同士の話し合いで解決できないときは、遺産分割調停を家庭裁判所に申立てて分割方法を決めることになります。
この記事では、遺産分割調停を申し立てるにあたって知っておくべき基礎知識、遺産分割調停申立てから調停が成立するまでの流れ、必要となる費用や期間などについて、弁護士がわかりやすく解説させていただきます。
目次
遺産分割調停とは
遺産分割調停とは、被相続人の遺した財産について相続人同士で意見が合わずに対立した際、家庭裁判所に申し立てをして、公平かつ中立的な立場の調停委員が間に入り、当事者間の紛争の解決を目指す手続きです。
調停の大きな特徴は、裁判所が直接判断を下す裁判とは異なり、当事者双方が自らの意思で合意に至ることを目指している点にあります。
遺産分割調停では、「調停委員」が非常に重要な役割を果たします。調停委員は、当事者から詳細な事情を聞き出し、必要に応じて資料の提出を求めたりして、紛争の背景や各当事者の立場を把握します。場合によっては、遺産に関する専門的な鑑定を実施することを促すなどして、妥当な分割方法を検討します。
その上で、双方がどのような分割を望んでいるのかを把握し、公平な解決策を提示するなどして、当事者同士が合意できるよう手助けをするのが調停なのです。
遺産分割の概要については、家庭裁判所のホームページ「遺産分割調停」に記載されていますので、参考にしてください。
遺産分割調停に至るまでの流れ│まずは相続人全員で遺産分割協議を
遺産分割調停を申し立てる前に、まずは相続人全員による遺産分割協議を行うことになります。遺産分割においては、被相続人の意思や、相続人それぞれの事情・被相続人との関係性、遺産が形成された経緯など、さまざまな事情が考慮されることになります。そのため、いきなり裁判所での手続きによって結論を出すよりも、まずは当事者同士の話し合いで合意を形成する方が望ましいのです。
なお、被相続人が遺言書を遺していた場合は、その指示に従って遺産が分割されます。しかし、遺言がないか、または遺言の内容が全財産の分割に関して明確に記載されていない場合、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要です。遺産分割協議で相続人全員の意見が一致して合意に至れば、裁判手続きは不要でトラブルなく解決することができます。この時、合意内容を記載した遺産分割協議書を作成し、相続手続きを進めていくことになります。
しかし、相続人間で意見が合わず、協議が決裂する場合があります。そのような状況では、次なる解決策として遺産分割調停を検討することになります。
遺産分割調停のメリット
遺産分割調停のメリットは、一言でいうと、感情的な対立を避けながら、公平かつ効率的に遺産分割の問題を解決できる点にあります。
公正で中立的な調停委員が話し合いを仲介することで、以下のような具体的なメリットがあるのです。
冷静な話し合いができる
調停では、相続人同士が直接顔を合わせることなく、調停委員を通じて意見を交換することができます。これは、調停委員がまず相続人Aの意見を聞いた後、別の場で相続人Bの意見を聞くなど、同じ空間で相続人同士が対話することがないように配慮されているためです。
対立する当事者が直接話し合わなくてすむため、冷静かつ客観的な話し合いが可能になります。これにより、相続人は互いの立場を理解しながら、効率的な話し合いができ、感情の行き違いによるトラブルを防ぐことができます。
また、相続人同士の話し合いは、お互いの主張をぶつけ合うことで長期化するケースも少なくありません。争点が多いケースでも、調停委員が仲介してくれることで、問題解決までスムーズに話を進めることが期待できるのです。
公平な解決策を提案してもらえる
調停委員は、公平かつ中立的な立場から解決策を提案して調整を試みます。相続人らと利害関係のない第三者である調停委員が中立的な立場で関与することで、当事者間の感情的な対立や偏見を排除し、公平な分割を提案してもらえるのも、遺産分割調停のメリットです。
具体的には、調停委員は法的な知識や実務経験に基づいて、相続人全員の権利や事情を考慮しながら、合理的かつ妥当な解決策を提案します。例えば、相続人の一人が他の相続人よりも不当に不利な扱いを受けることがないよう、相続分や分割方法について法的根拠に基づいた提案がなされます。この過程により、当事者が納得しやすい解決策が示され、公平な分割を実現することが期待されます。
また、調停委員は各相続人の個別の状況や希望も十分に考慮するため、単に法律に従った形式的な解決ではなく、各当事者にとって実質的に公平な結果が得られるよう工夫された提案が行われる点も特徴です。
そして、最終的には裁判官の意見を仰ぐことができるので、法律的に公平な解決を目指すことができます。
遺産分割調停のデメリット
遺産分割調停には前述の通り大きなメリットがありますが、一方でいくつかのデメリットも存在します。
時間の制約があり、長期化する可能性がある
調停は裁判所の調停室で行われるため、基本的に裁判所が開庁している平日の昼間に期日が設定されます。平日の夜間や土日は裁判所が開いておりませんから、調停期日に出席するためには、働いている人は仕事を休まなければなりませんし、小さい子供がいる場合は託児についても調整しなければなりません。
さらに、当事者、調停委員、裁判所のスケジュールの調整が必要となるため、次の期日が開かれるまでに時間がかかってしまうことも珍しくありません。一般的に調停は1か月に1回程度開かれ、結果が出るまでには通常1年、場合によっては2年以上かかることもあります。
しっかりと法的な主張をしなければならない
当事者同士の話し合いでは、全員が納得すればどのような内容の遺産分割でも可能です。
しかし、遺産分割調停は、調停委員や裁判官のもとで話し合いが進められるため、法的に正しくない主張は「そんなことは認められない」と退けられる可能性が高いです。正しく法的な主張を伝えることができなければ、不利な内容で調停を成立させられてしまうことも珍しくありません。
調停は当事者全員の意見を聞き、全員が納得する解決を目指すためためのものです。法的な主張をすることに不安がある方は、必ず弁護士に相談するようにしましょう。
遺産分割調停の流れ│申立てから調停成立・不成立までの手続きの流れ
以下では、遺産分割調停の申立てから、調停成立または不成立までの流れを順に説明していきます。
家庭裁判所へ提出する必要書類を準備する
申立て手続きの際には、以下のような必要書類を家庭裁判所に提出する必要があります。
〇 郵便切手
〇身分関係資料
①相続人が配偶者・子・親の場合
被相続人の出生時(被相続人の親の除籍謄本又は改製原戸籍等)から死亡までの連続した全戸籍 謄本
②相続人が(配偶者と)兄弟姉妹の場合
被相続人の父母の出生時(被相続人の父方祖父母及び母方祖父母の除籍謄本又は改製原戸籍等)から被相続人の死亡までの連続した全戸籍謄本
③相続人のうちに子又は兄弟姉妹の代襲者(おいめい)が含まれる場合
①②のほかに、本来の相続人(子又は兄弟姉妹)の出生から死亡までの連続した全戸籍謄本
・ 相続人全員の現在の戸籍謄本(3か月以内の原本)
・ 被相続人の住民票の除票(原本)
・ 相続人全員の住民票(3か月以内の原本)
〇遺産目録記載の不動産についての資料
・登記事項証明書(3か月以内の原本)、固定資産評価証明書(3か月以内の原本)
〇遺産目録記載の不動産以外のその他の遺産についての証拠資料
・預貯金の残高証明書写しまたはは通帳、証書の写し
・株式の残高証明書写し
・自動車の登録事項証明書の写し又は車検証写し
(参考:「遺産分割手続の申立てに必要な書類について」)
管轄の家庭裁判所に申立て手続きを行う
調停を行う裁判所を「管轄」といいますが、裁判所の管轄は、事件の内容や当事者の居住地などによって決まるため、「職場に近い裁判所に申し立てよう。」などと自由に決めることはできません。基本的に、以下の2つの内、いずれかの裁判所が管轄の家庭裁判所になります。
- 相手方のうちの1人の住所地の家庭裁判所
- 当事者全員が合意して定めた家庭裁判所
なお、管轄の裁判所は裁判所ホームページ「裁判所の管轄区域」に掲載されておりますので、管轄を調べる際にはご覧ください。
調停期日の当日は、申立て先の裁判所に出頭する必要があるので、特に相続人が複数いる場合などは、どの家庭裁判所に申立てれば調停をスムーズに進められるかを考慮し、話し合いで調停を行う裁判所を決めるのが望ましいでしょう。
調停委員の選任と調停期日の指定
遺産分割調停の申立てが受理されると、家庭裁判所が担当する裁判官および調停委員を決定します。
調停委員会は、裁判官1名と調停委員2名、合わせて3名で構成されます。
調停委員の選任後、家庭裁判所が初回の調停期日を決定します。調停期日は、申立て後およそ1~2か月以内に指定されることが一般的です。調停期日は、裁判所の開庁時間である月曜日から金曜日(祝日・年末年始を除く)の午前10時から午後5時の間で指定されます。
調停期日が決定すると、調停期日通知書として、申立人及び相手方の相続人全員に郵送されます。この通知書は、申立てから約2~4週間後に届き、受領した相続人は調停期日に向けて準備を始めることになります。
遺産分割調停期日の詳細な流れ
①待合室で待機する
期日通知書に、当日の待機場所である待合室等が指定されていますので、そこで待機します。待合室は申立人用と相手方用の2つがあり、他の申立人や相手方がいる場合は同室で待機することになります。
②遺産分割調停の手続き・内容説明
調停期日が始まると、通常は、まず遺産分割調停の手続きとその内容に関する説明が行われます。調停の進め方や期待される結果についての理解を深める機会となります。
③調停室で個別面談
その後、遺産分割調停の話し合いが始まります。調停委員との話し合いは専用の「調停室」で行われ、申立人と相手方の相続人が、それぞれ個別に調停委員と面談します。
まず身分証明書を提示して、申立人や相手方の本人確認が行われます。確認後、提出済みの事情説明書や答弁書に基づいて話を進めます。提出書類のコピーを持参しておくと、話し合いがスムーズに進められるでしょう。
原則として、申立人と相手方は交代で調停室に入り、自分の意見を調停員に伝えます。調停委員を介して話し合いが進められるため、申立人と相手方が直接対面して調停を行うことは基本的にありません。
④その期日に合意した内容と次回の課題の確認
調停委員と相続人の面談の時間が終了すると、調停委員はその期日に合意できた内容、次回期日以降に解決すべき課題について確認し、話し合いの続きを行う次回の期日を決めます。各相続人が次回までに準備すべき点についても確認されます。
遺産分割調停は、話し合いによって解決を目指す手続きですので、強制的に結論を決められることはありません。もっとも、繰り返し期日を重ねた結果として、なかなか調停委員からの提案を断りにくいということはあるかもしれません。調停委員や裁判所からの提案に不安や疑問の残る場合は、「でも裁判所の提案だから正しいはずだ。」と曖昧なまま納得しようとせず、必ず弁護士に事前に相談するようにしましょう。
調停期日を繰り返す
遺産分割調停が1回の期日で終わることは、ほとんどありません。そのため、何度か裁判所に通って、合意に向けた話し合いを行う必要があります。調停委員の信頼を損ねるような言動は避ける必要があるため、たとえ仕事で忙しいとしても、調停期日に無断で遅刻や欠席することのないよう注意しましょう。
調停成立│合意に至れば調停調書を作成する
遺産分割調停で、相続人間での話し合いが合意に至った際は、「調停調書」が作成されます。
調停調書は、遺産分割に関する合意内容が詳細に記載された書面で、調停で決められた合意内容を基に裁判所が作成します。この書面は、遺産分割協議書と同じ効力を持つので、新たに遺産分割協議書を作成する必要はありません。
相続人は調停調書を使って、名義変更、預金の払い戻し、不動産の登記変更など、相続財産に関する一連の手続きをスムーズに進めることが可能です。
調停不成立│遺産分割審判へ移行
遺産分割調停で当事者間での話し合いがまとまらない場合には、調停不成立という結果になります。
不成立かどうかの判断は、調停委員が行います。不成立と判断されると、調停手続きは終了し、自動的に審判手続きへと移行します。
審判手続きでは、調停とは異なり、裁判官が当事者から提出された書類や様々な資料をもとに事実関係を検討し、遺産分割の方法を決定します。つまり、審判手続きでは、調停のように当事者の意思を尊重した話し合いは行われないのです。
調停はあくまでも話し合いであったため、手続きも内容も比較的柔軟に行われますが、審判では当事者の主張立証、法律に基づいて厳格に判断されます。
遺産分割審判について、調停との違いや手続き方法など、詳しくは下記記事で解説しております。ぜひあわせてご覧ください。
遺産分割調停の進め方│話し合う内容と順序
①相続人の範囲の確定
まず、相続人の範囲を確定します。戸籍謄本などを用いて、誰が相続人であるかを確定し、遺産分割協議の当事者を明確にします。養子縁組や婚姻など相続権の有無に争いがある場合は、別に家庭裁判所に人事訴訟を提起する必要があります。
②遺産の範囲の確定
次に、遺産目録および財産に関する添付書類を基に、遺産の範囲を確定します。もし遺産目録に記載されていない遺産が存在すると主張する場合は、その主張を支持する証拠を提出する必要があります。
③遺産の評価の確定
その後、遺産分割の対象となる財産の価値を算定します。不動産や非上場会社株式など、評価が難しい財産については、鑑定人による鑑定を行うこともあります。この際、調停の申し立て費用とは別に、鑑定費用がかかります。
④特別受益と寄与分の確定
さらに、法定相続分や指定相続分(被相続人の遺言によって指定された相続分)を基準に、特別受益や寄与分などを考慮して、各当事者が取得する財産の割合を決めます。
⑤遺産分割方法の確定
最後に、期日で話し合った結果をもとに、各当事者が取得する財産の具体的な内容を記載した遺産分割案を作成します。遺産分割案に相続人全員が合意すれば調停が成立し、合意内容を記載した調停調書が作成されることになります。
遺産分割調停の期間はどのくらい?
さて、以上のような流れで行われる遺産分割調停ですが、申立てから終結までに要する期間はどれくらいなのでしょうか。
ケースによっても異なりますが、調停は通常、月に1回程度のペースで開かれ、各期日では1時間から2時間程度の話し合いが行われます。最初の調停期日は申立てから約1~2か月後に設定され、その後は大体1か月ごとに調停期日が設けられます。
遺産分割調停の期日の回数に関しては、司法統計「遺産分割事件数―終局区分別審理期間及び実施期日回数別―全家庭裁判所」(令和元年度)によると、一般的な回数は6回から10回とのことです。
そして、遺産分割調停の申立てから、その成立もしくは不成立までには、多くの場合、平均して約1年程度の期間がかかるといわれます。
ただし、これはあくまで平均的な期間であり、実際には数回の期日で合意でき半年以内に解決する場合もありますし、複雑なケースで争点も多い場合に3年以上かかることもあります。
遺産分割調停の期間は、相続人間の意見の対立の激しさ、遺産の範囲や評価に関する合意の難易度などによって変わります。したがって、遺産分割調停をスムーズに進めるためには、準備をしっかりと行い、情報を出来るだけ早く正確に伝え、それをもとに意見を交わすことが重要です。
遺産分割調停にかかる費用
遺産分割調停の手続きを進めるにあたっては、手数料などの費用がかかります。遺産分割調停の申立てを検討する際には、これらの費用がかかることを考慮しておきましょう。
費用の種類 |
費用の概算 |
説明 |
---|---|---|
申立費用 |
1,200円 |
申立書に貼付する収入印紙の費用。 |
予納郵券 |
数千円程度 |
連絡用の郵便切手として裁判所に事前に納付。 |
必要書類の取得費用 |
数千円~数万円程度 |
戸籍謄本や不動産登記簿謄本などの公的書類取得費。 |
不動産鑑定費用 |
20~60万円程度 |
不動産の価値評価に鑑定人を依頼する際の費用。 |
弁護士費用 |
数十万円~数百万円程度 |
相談料、着手金、成功報酬、日当、実費など、弁護士への支払い。 |
遺産分割調停を有利に進めるには
調停委員には真摯に対応する
遺産分割調停を有利に進める上で、調停委員に対する礼儀正しい態度も大切です。
調停委員は公正と中立性を保ちつつ、当事者の意見を聞きますが、礼儀正しく、誠実な対応をすることで、より良い心象を与えることができます。
具体的には、調停委員に対して以下の点を心掛けましょう。
- 相手の質問に対しては、真摯に回答することで、誠意を示します。
- 無礼な態度や強引な主張を避け、敬意を持って接し、冷静に対応します。
- 相手の悪口を控え、調停委員の指示には適切に反応し、理解を示します。
このように調停委員とコミュニケーションをとることで、信頼性を強めることができ、気持ちに寄り添った解決へとつながるかもしれません。
もっとも、調停委員は、法律のプロではないことが多く、法的に間違ったことを言ってしまうとか、意図せず不公平な対応になってしまうこともあります。その時には、しっかりと意見して、法的に適正な手続きを進めてもらうようにしましょう。
自分の主張を整理して明確に伝える
遺産分割調停の期日に、何の準備もせずに出席することは避けるようにしましょう。準備不足は、緊張や感情的な発言につながり、調停委員に対する印象を悪くする原因になります。また、主張したいことを十分に伝えられないリスクもあります。
調停では、自分の主張を明確に、かつ冷静に伝えることが重要です。遺産分割に関わる話はお金の問題が多く、自分の本音を話すことに対して、恥ずかしさや躊躇を感じるかもしれません。しかし、自身の要求や立場をはっきりと調停委員に伝えることで、調停委員が解決策を見出しやすくなり、自分が望む遺産を確保することにもつながります。
具体的な準備としては、自分が伝えたいポイントや主張をメモ書きにして整理しておくと良いでしょう。これにより、調停期日においても、ポイントを明確に伝え、話をスムーズに進めることが可能になります。
相手方の意見も理解し譲歩することも必要
調停手続きは、裁判や審判とは異なり、基本的に話し合いによって解決を図るものです。そのため、申立人と相手方の双方が納得することで初めて調停が成立します。相手方の主張や立場を理解し、可能な限り譲歩できる部分については柔軟な姿勢を示すことが、調停をスムーズに進めるためには不可欠です。
相手方の意見を聞き、時には譲歩することは、調停委員に対して好印象を与えるだけでなく、相手方からの歩み寄りの姿勢を引き出すことが期待できます。こちらが譲歩の姿勢を見せることで、相手も自身が譲れる部分について考え直すきっかけになり、双方が納得できる解決に繋がります。
そのためには、自分の主張の中で譲れるポイントと譲れないポイントを明確に区別し、優先順位をつけておくことが大切です。そうすることで、調停の場で冷静に自分の立場を主張しつつ、相手方の提案に対しても柔軟に対応できるようになるでしょう。
法的知識をもとに主張する
遺産分割や相続に関わる問題では、単に個人の希望を述べるだけでは不十分です。調停委員や裁判官に納得してもらうためには、法律に基づいた主張を行う必要があります。
具体的には、法定相続分、寄与分、特別受益など、相続問題に関する基本的な知識を身につけ、自分の主張が法律的に妥当であることを立証する必要があります。
当法律事務所のコラムでも、弁護士が分かりやすく解説しておりますので、ぜひご一読ください。
客観的な証拠を提示する
遺産分割調停では意見が対立することが一般的です。相手方の主張を否定したいのであれば、客観的な証拠が不可欠です。客観的な資料や証拠を用いて、相手方の主張のどの部分が矛盾しているのかを具体的に指摘することが必要です。
特に、遺産の評価や分割方法などについては、「楽だから全て売却して現金化しよう。」などの単なる主張だけでは、相手や裁判所を納得させることができません。主張を裏付ける客観的な資料があるのであれば、積極的に提出しましょう。
遺産分割調停は弁護士に依頼を│メリットと弁護士費用
メリット①申立て手続きを代行してもらえる
弁護士は遺産分割調停の申立てや必要書類の収集や作成などの手続きを代行してくれます。これにより、個人で行う場合に比べて、時間や労力を大幅に節約することができます。
法律に詳しくない人が、日常生活を営む中で調停に必要な書類を不備なく準備するのは、かなり大変です。弁護士に依頼すれば、煩雑な手続きにかかるストレスを軽減でき、準備にかかる時間も節約することができるため、日常生活への影響も最小限におさえられることでしょう。
メリット②代理人としてサポートしてくれる
遺産分割調停の期日には弁護士が同席し、法的根拠に基づいて依頼者の主張や要望を説明してくれます。
調停で自分の主張を述べるには、法的知識が不可欠です。弁護士が代理人として、法的知識と経験をもとに相手方への交渉や調停員への説明を行うことで、依頼者の希望に寄り添ったスムーズな解決が可能となります。
メリット③早期解決と心理的負担の軽減
弁護士は、調停委員に対して自分の意見をどのように伝えれば説得力があるかを熟知しています。また、主張の根拠となる資料の選定と準備を行うことで、調停を有利に進めることができます。弁護士の専門知識と経験により、無駄な話し合いを避け、効率的に調停を進めることが可能です。効率よく進めることで、調停期間を短縮し、早期に解決を図ることができます。
遺産分割調停は、時に数か月から数年に及ぶ長期間にわたることがあり、心身にかかるストレスは計り知れません。弁護士は、依頼者の最大の味方となって、全面的にサポートしてくれるでしょう。
弁護士に依頼した時の弁護士費用
こうしたメリットのある弁護士への依頼ですが、弁護士に依頼するにはいくらかかるのか、費用について不安な方もいらっしゃるかと思います。一般的には、遺産分割調停の手続きを弁護士に依頼する際にかかる費用は、以下の表の通りです。
費用の種類 |
費用の相場 |
説明 |
---|---|---|
相談料 |
30分で5,500円程度 |
弁護士に相談する際にかかる費用です。当法律事務所のように、初回無料相談を行っている事務所も多くあります。 |
着手金 |
22万~66万円程度 |
弁護士に業務を依頼した際に払う初期費用です。固定金額で設定している場合と、相続財産の額に基づいて一定の率を掛けて計算される場合もあります。 |
報酬金 |
経済的利益の4%~16%程度 |
成功報酬として弁護士に支払う費用です。弁護士に依頼したことで得られた金額(経済的利益)に応じて計算されるのが一般的です。 法律事務所によって報酬金の計算方法は異なりますので、初回相談時に確認しておくようにしましょう。 |
実費 |
数千円~数万円程度 |
遺産分割調停に必要な諸費用です。交通費や郵便代など。 |
日当 |
1日あたり3万円~5万円程度 |
遠方への出張が必要ば場合などに発生する費用です。 |
遺産分割を弁護士に依頼すると、上で挙げた以外にも様々なメリットがあります。下記記事で、メリットと費用についてさらに詳しく解説しております。あわせてご覧ください。
遺産分割調停に関するQ&A
Q: 遺産分割調停とは具体的にどのような手続きですか?
A: 遺産分割調停は、遺産分割協議で相続人間の意見が合わない場合に利用される家庭裁判所の手続きです。申し立てが行われると、裁判所は調停委員会を組織し、相続人全員が参加する調停期日を設定します。調停期日には、相続人それぞれの主張を聞き、調停委員が中立的な立場から意見の調整を試み、双方が納得する遺産分割案を導き出すことを目指します。合意に至らない場合は、調停不成立となり、審判や訴訟へと移行することがあります。
Q: 遺産分割調停申立てに必要な書類は何ですか?
A: 遺産分割調停を申し立てる際には、以下の書類が一般的に必要となります。
申立書、相続人全員の戸籍謄本(相続関係を証明)、被相続人の戸籍謄本及び除籍謄本(被相続人の死亡を証明)、相続財産目録、遺言書がある場合はそのコピーが必要です。これらの書類を準備し、申し立て時に家庭裁判所に提出します。提出した書類に不足や不備があると手続きが遅れるため、事前に確認が必要です。
Q: 遺産分割調停の期間はどれくらいかかりますか?
A: 遺産分割調停の期間はケースによって大きく異なりますが、一般的には調停申し立てから約1年程度はかかるとされています。しかし、相続財産の内容や相続人間の意見の対立度合いによっては、数か月で解決する場合もあれば、複雑なケースでは3年ほどかかることもあります。
Q: 調停不成立後の遺産分割審判や訴訟とは何ですか?
A: 調停不成立の場合、相続人は家庭裁判所に遺産分割審判を申し立てることができます。審判は、裁判官が直接遺産分割の方法を決定する手続きで、調停よりも強制力を持ちます。また、審判に満足できない場合などでは、相続人は民事訴訟を起こすことも可能です。訴訟では、裁判所が提出された証拠や主張を基に、最終的な遺産分割の決定を下します。
Q: 遺産分割調停にかかる費用はどれくらいですか?
A: 遺産分割調停にかかる費用には、申立費用、予納郵券代、必要書類取得費用などがあり、これらは数千円から数万円程度となります。弁護士に依頼する場合の費用は、相談料、着手金、報酬金、実費、日当などが含まれ、依頼する弁護士の方針や相続財産の価値に応じて、数十万円から数百万円と幅広いです。事前に弁護士との契約内容を確認し、費用について明確にしておくことが重要です。
まとめ
遺産分割調停は、被相続人が残した遺産の分割方法について相続人間で意見が合わない時に、家庭裁判所に申し立てを行い、中立的な調停委員を介して合意に至ることを目指す手続きです。
自分の望みを出来るだけかなえたい場合や、出来るだけストレスを減らしスムーズに解決したい場合は、弁護士に依頼することをお勧めいたします。弁護士は全ての手続きを代行することができ、専門的な知識に基づいた主張や交渉のサポート、調停手続きにかかる心理的負担の軽減など、多くのメリットがあります。また、調停期日においても、適切な資料の準備から調停委員や相手方との交渉まで、遺産分割調停を有利に進めるために、全面的に支援することができます。
調停が不成立となった場合には、遺産分割審判や訴訟へと移行しますが、これにはさらに時間と費用がかかる可能性があります。そのため、遺産分割調停での解決を目指すことが望ましいでしょう。
相続人同士ではなかなか話がまとまらず、長期化するケースも多いです。弁護士による適切な準備と交渉力で、遺産分割調停をスムーズに進め、相続人全員が納得できる解決策を見出すことが期待できます。
遺産分割協議がまとまらずお困りの方は、ぜひ一度、弁護士法人あおい法律事務所にご相談ください。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。