亡くなった人の預金が少額の場合も手続きが必要?ゆうちょ銀行の簡易手続き方法も

相続手続き

更新日 2024.10.02

投稿日 2024.07.05

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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亡くなった人の預金が少額の場合、その後の手続きに戸惑うことも多いでしょう。遺族にとって、相続手続きは精神的にも負担が大きく、特に預金額が少ない場合、その手間が見合わないと感じることもあります。

しかし、たとえ少額であっても、適切な手続きを行わなければ、将来的にトラブルの原因となる可能性があります。

そこで、この記事では、亡くなった人の預金が少額の場合に必要な手続きや、ゆうちょ銀行で利用できる簡易手続き方法について解説します。

目次

亡くなった人の預金が少額の場合も相続手続きは必要?

預金が少額であればそのまま放置してもいい?

亡くなった人の預金が少額であっても、通常の預金と同様に相続手続きをするのが通常です。

故人の預金残高が少額である場合、相続手続きを行うかどうかは、その手間や費用を考慮して総合的に判断する必要があります。まず、故人の口座がまだ凍結されていない状態であれば、特に急いで手続きを行う必要はありません。このような状況では、口座をそのまま放置することも一つの選択肢となり得ます。

相続手続きには、戸籍謄本や住民票などの公的書類の取得が必要となりますが、これには時間や費用がかかります。預金残高が非常に少ない場合、これらの手続きにかかるコストが残高を上回る可能性があり、その場合には相続手続きを行わないことも検討すべきです。

さらに、最後の取引から10年が経過した口座は「休眠口座」となり、その中の預金は公益活動に活用されることになっています。このため、残高が少ない口座を放置しておくことで、間接的に公益に貢献することもできます。ただし、休眠口座になった後でも、正しい手続きを行えば預金を引き出すことは可能です。

このように、亡くなった人の預金が少額の場合でも、相続手続きを行うかどうかは、手間や費用、公益への貢献など、様々な要素を考慮して決定する必要があります。状況に応じて、適切な選択をすることが重要です。

少額の預金をそのままにするとどうなる?注意すべき点

ただし、このような判断をする際には、いくつかの点に注意が必要です。一部の銀行では、一定期間利用されていない銀行口座に対して口座管理手数料を徴収する場合があります。

また、口座をそのままにしておくと、将来的に預金の払い戻しを受けたい場合に手続きが煩雑になる可能性があります。

銀行口座は残高がゼロでも凍結される

故人の預金口座は、銀行が死亡を把握すると残高の多少に関係なく凍結されます。これは、故人の口座を通じた不正な取引を防ぐための措置です。

したがって、たとえ残高がゼロであっても、口座の正式な解約や凍結解除には相続手続きが必要になります。

手続きの方法については後ほど詳しく解説します。

亡くなった人の預金が少額の場合も手続きが必要なケースは?

相続税の申告が必要な場合は残高ゼロであっても手続きを

被相続人の預金残高がゼロである場合でも、相続手続きが必要なケースがあります。特に注意が必要なのは、被相続人の財産全体が相続税の基礎控除額を超える場合です。この場合、相続税の申告が必要になり、残高ゼロの口座であっても税務署への申告が求められます。

相続税の申告には、被相続人の全財産を正確に報告する必要があります。そのため、「残高が無い」という事実を証明するために、残高ゼロの残高証明書を銀行から取り寄せることが必要になる場合があります。

また、通帳の記帳が長期間行われていなかったり、通帳を紛失していたりする場合には、過去5年間の取引明細を銀行から取り寄せる必要があるかもしれません。

相続人が複数いる場合

故人の預金が少額であっても、相続人が複数いる場合には遺産分割協議の手続きが必要になります。相続人同士で話し合い、誰がどのくらいの金額を相続するかを明確に決定することが大切です。

この過程で作成される遺産分割協議書は、相続に関する合意内容を正式に記録する重要な書類です。相続人全員がこの協議書に署名または記名押印することによって、合意内容が正式に確定されます。

たとえ預金残高が少額であっても、遺産分割協議を省略することは避けるべきです。相続人間でのトラブルを防ぎ、将来的な紛争のリスクを減らすためにも、正式な手続きを行うことが推奨されます。また、遺産分割協議書は、金融機関に預金の引き出しや口座名義の変更を行う際にも必要となることがあります。

亡くなった人の預金が少額の場合の手続き方法

①亡くなった人の全財産を調べる

亡くなった人の預金が少額であっても、相続手続きを始める前に、まずは故人の全財産を調査することが重要です。遺言書や財産目録がある場合はそれらを参考にしますが、それらの情報が必ずしも正確で完全であるとは限りません。特に休眠口座のように、故人自身が忘れていたり記録が不明瞭な財産が存在する可能性があります。

故人のキャッシュカードや通帳、銀行からの郵送物などを確認することで、隠れた資産や見落としていた預金口座がないかチェックします。全財産の把握は、遺産分割や相続税申告の基礎となるため、丁寧かつ慎重に行うことが望ましいです。

②銀行へ名義人が死亡したことを連絡する

亡くなった人の預金が少額であっても、その事実を銀行に正式に通知することが重要です。

銀行への連絡は、できるだけ早めに行うことが推奨されます。口座が凍結されることで、故人名義の預金が不正に引き出されるリスクを減らすことができます。また、銀行によっては、死亡の通知を受け取った後に、相続手続きに関する具体的な指示や必要な書類について案内してくれることがあります。

③必要書類を銀行に提出する

亡くなった人の預金が少額であっても、その口座の凍結を解除し、相続手続きを完了するためには、必要な書類を銀行に提出する必要があります。この段階では、故人の死亡を証明する書類と相続人が決定したことを示す書類が中心となります。

具体的には、以下のような書類が必要になることが一般的です:

  • 故人の死亡が記載された戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 遺産分割協議書(相続人全員の署名または記名押印が必要)
  • 相続人の身分を証明する書類(運転免許証、パスポートなど)
  • 印鑑証明書(遺産分割協議書に押印した印鑑のもの)

これらの書類を銀行に提出することで、口座の凍結解除や預金の引き出しが可能になります。書類の提出は、直接銀行の窓口に出向くか、郵送で行うことができますが、直接窓口に出向いた方が迅速な対応が期待できる場合もあります。

なお、必要な書類や手続きの詳細は、金融機関によって異なる場合があります。そのため、事前に銀行に問い合わせて、具体的な手続き方法や必要な書類について確認しておくことが重要です。また、手続きに際しては、相続人全員の合意が必要となる場合があるため、相続人同士で十分なコミュニケーションを取ることが望ましいです。

亡くなった人の預金の解約方法については、以下の記事に詳しく解説していますので参照してください。

ゆうちょ銀行は預金が少額の場合、簡易手続きが可能

ゆうちょ銀行では、貯金総額が100万円以下の場合、簡易相続手続(代表相続人が1人で解約払戻しをする手続き)が認められています。

ゆうちょ銀行の預金が少額の場合、簡易手続きを利用して、葬儀費用などの支払いにスムーズに対応できることを覚えておいてください。

ゆうちょ銀行の預金残高の合計が100万円以下の場合に利用可能

ゆうちょ銀行では、亡くなった方が保有していた口座の預金残高の合計が100万円以下である場合、簡易な相続手続きを利用することができます。この制度は、少額の預金については手続きを簡略化し、迅速に対応することを目的としています。

簡易手続きの対象となるかどうかの判定は、通常貯金、定期貯金、総合口座など、故人が保有していたすべてのゆうちょ銀行の口座の残高を合計して行います。例えば、故人が通常貯金口座に50万円、定期貯金口座に40万円を保有していた場合、その合計は90万円となり、簡易手続きの対象となります。

一方で、合計残高が100万円を上回る場合には、簡易手続きを利用することはできず、通常の相続手続きを行う必要があります。この場合、相続人はより詳細な書類の提出や手続きが求められることになります。

ゆうちょ銀行の簡易手続きの流れ

  1. 最寄りのゆうちょ銀行の窓口に行く: まず、相続人または代表者が故人が保有していたゆうちょ銀行の口座に関する情報を持って、最寄りのゆうちょ銀行の窓口に行きます。
  2. 残高の確認と判断: 窓口の担当者が故人の口座の残高を調べ、その合計が100万円以下であるかどうかを判断します。この段階で残高が100万円を超えている場合は、簡易手続きは利用できず、通常の相続手続きが必要となります。
  3. 簡易手続きの実施: 残高が100万円以下であると判断された場合、相続代表人は「貯金等相続手続請求書」に必要事項を記入します。この請求書には、相続代表人が1人で記入するだけで済み、相続人全員の実印や印鑑証明書の提出は不要です。

通常の相続手続きでは、相続人全員の実印を押す必要があるため、全員が一同に会するか、書類を郵送するなどの手間がかかります。しかし、ゆうちょ銀行の簡易手続きでは、このような手間が省けるため、相続人にとっては時間と労力を節約することができます。

簡易手続きの必要書類

ゆうちょ銀行の預金が少額の場合で、簡易手続きを行う際に、必要となる書類は以下のとおりです。

  • 貯金等相続手続請求書
  • 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
  • 被相続人と代表相続人の関係性が分かる戸籍謄本
  • 被相続人の通帳や証書
  • 代表相続人の印鑑証明書
  • 代表相続人の実印
  • 代表相続人の本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなど)

簡易手続きの場合は、代表相続人が1人で手続きを行うことができます。

そのため、他の相続人が知らない間に解約手続きを行うことも可能です。しかし、以下のような点に注意が必要です。

預金が少額であっても相続手続き前の預金の引き出しには注意

勝手に預金を引き出してはいけない│相続トラブルに発展する可能性がある

預金が少額であっても、相続手続きを進める際には慎重に行う必要があります。特に、相続人が複数いる場合、一人の代表相続人が単独で手続きを進めることはトラブルの原因となることがあります。

一般的に、相続手続きでは、全ての相続人の同意が必要とされます。しかし、ゆうちょ銀行のように簡易手続きを設けている金融機関では、代表相続人一人が手続きを行うことが可能です。この場合、他の相続人が事情を知らないまま解約や払い戻しが行われると、勝手に手続きを進めたと誤解され、相続人間のトラブルに発展する恐れがあります。

ゆうちょ銀行の簡易手続きでは、解約や払い戻し自体に問題はありませんが、他の相続人に十分な説明を行わないと、後の手続きがスムーズに進まなくなる可能性があります。たとえ全体から見ればわずかな金額であっても、相続全体の流れを考えると、全ての相続人に状況を説明し、了解を得ながら進めることが重要です。

相続放棄できなくなる

引き出しを行うことで、相続が単純承認されたとみなされる場合が多く、これにより故人の借金や負債も相続対象となってしまうからです。

相続放棄を検討している場合、つまり故人の負債が多い場合や不要な土地などの管理が難しい場合は、口座からお金を引き出す前に、法的な相談を行うことが重要です。一度引き出しを行ってしまうと、相続放棄ができなくなる可能性があるためです。

ただし、例外的なケースとして、亡くなった方の葬儀費や墓石代などの必要経費に関しては、相続放棄が認められることがあります。このような場合には、支出を証明する領収書や明細書をしっかりと保管しておくことが必要です。これらの書類は、後の相続手続きで重要な証拠となるため、紛失しないよう注意しましょう。

総じて、預金が少額であっても、相続手続き前の引き出しには慎重な対応が求められます。相続に関する法的な知識を持ち、適切な判断を行うことが重要です。不明な点がある場合には、専門家に相談することをお勧めします。

預金が少額の場合で負債が多いときは相続放棄の検討を

被相続人が保有している銀行口座の預金が少額で、さらにそれを上回るローン負債などの負債が多い場合、相続放棄を検討することが賢明です。負債の総額が預金を上回っている状況では、相続を受け入れることで結果的に負債を負うことになりかねません。

また、たとえ預金が負債を上回っている場合でも、その差額が小さい場合には同様に相続放棄を検討する価値があります。相続手続きには、凍結された銀行口座の解除や相続財産の分配など、時間と手間を要する作業が伴います。これらの手続きを行うには、すべての共同相続人の合意を得る必要があり、さまざまな書類を準備して銀行に提出しなければなりません。

特に、故人の財産に特別な感情がない場合、手間をかけて相続手続きをすることは、時間の無駄になるかもしれません。

相続放棄をすると、故人の負債も預金も受け取らずにすむため、手続きがスムーズに終わります。ただし、相続放棄には期限があるので、早めに専門家に相談して、適切な判断をすることが大切です。

預金が少額の場合は生前に解約を

預金が少額の場合、口座の所有者が亡くなる前に預金を引き出しておくと、相続開始後の手続きが不要となります。生前に全額を引き出せば、金融機関での相続手続きを避けることができます。これは、特に預金が少ない場合に、手間と時間を節約する方法として有効です。

口座の所有者自身が引き出しに行けない場合、委任状を使って他の人に引き出しを依頼することも可能です。ATMでの引き出しは委任状が不要ですが、1日の引き出し限度額に注意が必要です。例えば、ゆうちょ銀行では初期設定で50万円までとなっていますが、この限度額は変更することができます。

一方、窓口での引き出しには限度額が設定されていませんが、本人以外が引き出す場合は委任状が必要になります。委任状は金融機関で入手できるほか、ウェブサイトからダウンロードできる場合もあります。

さらに、本人が認知症などで委任状を作成できない場合には、保佐や後見の制度を利用することも検討できます。これらの制度を利用すれば、法的に正式な代理人が指定され、口座からの引き出しなどが可能になります。

総じて、預金が少額の場合は、生前に解約を検討することで、相続時の手続きを簡素化できる可能性があります。しかし、このような対応を取る場合には、事前に適切な計画と準備が必要です。

亡くなった人の預金が少額の場合の相続手続きに関するQ&A

Q: 亡くなった人の預金が少額の場合、そのまま放置するとどのような問題が生じますか?

A: 預金残高が少額の場合でも、解約手続きを放置するといくつかの問題が生じる可能性があります。まず、相続税申告が必要な場合、たとえ数百円の残高であっても漏らすことができず、残高証明書を取得する必要が出てきます。この残高証明書の取得費用は、預金残高よりも高くなることが多いです。

また、多くの取引通帳がある場合、相続後に預金の解約手続きをする相続人の負担が非常に大きくなります。さらに、放置された預金口座は休眠口座と呼ばれ、長期間放置されると、それらの資金が公益目的で活用される場合もあります。

したがって、生前から使用していない預金口座の整理を行うことをお勧めします。

Q: ゆうちょ銀行で亡くなった方の貯金額が100万円以下の場合、簡易手続きを利用するメリットは何ですか?

A: ゆうちょ銀行で亡くなった方の貯金額が100万円以下の場合、簡易手続きを利用することができます。

代表となる相続人が「貯金等相続手続請求書」に必要事項を記入し、払い戻しを受けるだけというシンプルな流れで手続きが完了するため、非常に簡単です。また、すべての相続人の印鑑証明書や署名押印が不要なため、手間や時間の負担が大幅に軽減されます。

さらに、ゆうちょ銀行の簡易手続きを利用することで、口座凍結解除までの日数も短縮されるため、スムーズに手続きを進めることができます。

このように、ゆうちょ銀行の簡易手続きは相続手続きの負担を減らし、効率的に進めるための便利な方法です。

Q:亡くなった方の預金が少額の場合、相続手続き前に預金を引き出す際のリスクはどのようなものがありますか?

A: 亡くなった方の預金が少額であっても、相続手続き前に預金を引き出す際には以下のリスクがあります:

  1. 相続トラブルの可能性: 相続人が複数いる場合、代表相続人が単独で預金を引き出すと、他の相続人が事情を知らずにトラブルに発展する恐れがあります。特に簡易手続きを設けている金融機関では、他の相続人への十分な説明が必要です。
  2. 相続放棄ができなくなる: 引き出しを行うことで、相続が単純承認されたとみなされる場合が多く、故人の借金や負債も相続対象となってしまうリスクがあります。亡くなった方の葬儀費や墓石代などの必要経費に関しては、相続放棄が認められる場合がありますが、支出を証明する領収書や明細書は保管しておく必要があります。

Q: 亡くなった人の預金が少額である場合でも、どのような状況で相続手続きが必要ですか?

A: 亡くなった人の預金が少額であっても、以下のような状況で相続手続きが必要となります。

  1. 相続税の申告が必要な場合: 被相続人の財産全体が相続税の基礎控除額を超える場合、相続税の申告が必要になります。この場合、残高ゼロの口座であっても、税務署への申告が求められ、「残高が無い」という事実を証明するために、残高ゼロの残高証明書の取得が必要になることがあります。
  2. 相続人が複数いる場合: 故人の預金が少額であっても、相続人が複数いる場合には遺産分割協議の手続きが必要になります。相続人同士で話し合い、誰がどのくらいの金額を相続するかを明確に決定し、遺産分割協議書に署名または記名押印することで、合意内容が正式に確定されます。

まとめ

亡くなった方の預金が少額であっても、相続手続きは必要です。預金額に関わらず、正式な手続きを行うことで将来的なトラブルを回避できます。ゆうちょ銀行では、預金残高が100万円以下の場合、簡易手続きを利用できるため、手間を減らすことが可能です。

しかし、相続放棄を検討する際や、他の相続人がいる場合には、適切な相談や協議が必要になります。最終的には、故人の財産と負債の全体像を把握し、遺族全員で納得のいく解決策を見つけることが重要です。

相続に関する手続きや疑問点がある場合は、専門家に相談することをお勧めします。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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