相続財産清算人とは?│相続財産管理人との違いや選任手続きの流れ・費用
相続財産清算人とは、相続人がいない場合に被相続人の財産を管理・処分するために選ばれる人のことです。この役割の人は、以前は「相続財産管理人」と呼ばれていましたが、令和5年4月1日の民法改正で「相続財産清算人」に変更されました。
相続財産清算人の主な仕事は、債権者や受遺者への支払い、特別縁故者への財産分与など、法律に基づいた手続きを行うことです。ただし、相続財産清算人を選ぶには、利害関係人や検察官が家庭裁判所に申し立てをし、選任の条件を満たす必要があります。
この記事では、相続財産清算人と相続財産管理人の違い、選任の流れ、必要な費用について説明します。相続人がいない場合の対処法について知りたい方は、ぜひこの記事をご覧ください。
目次
相続財産清算人とは
相続財産清算人は、相続人がいない場合や、相続人がいても全員が相続を放棄した場合に、相続財産の管理・清算を行うために選任される人です。
主な役割は以下のとおりです。
- 債権者や受遺者への弁済(民法第957条)
- 特別縁故者への財産分与(民法第958条の2)
- 残余財産の国庫帰属(民法第959条)
(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
第九百五十七条 第九百五十二条第二項の公告があったときは、相続財産の清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、二箇月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、同項の規定により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間内に満了するものでなければならない。
引用:e-Gov 「民法957条」(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の二 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
引用:e-Gov 「民法958条の2」(残余財産の国庫への帰属)
第九百五十九条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。
引用:e-Gov 「民法959条」
相続財産清算人の選任は、利害関係人(例えば、被相続人の遺言で指名された受遺者や、特別な関係のある人)または検察官が家庭裁判所に申立てることで行います。
申立てを受けた家庭裁判所は、その内容を審査し、適切な人を相続財産清算人として選任します。通常、専門知識を持つ弁護士や司法書士が選ばれることが多いですが、申立てを行った当事者が候補者を推薦することも可能です。
ただし、家庭裁判所の審査を経て、必ずしも推薦された候補者が選任されるとは限りませんので、その点には注意が必要です。
(相続財産の清算人の選任)
第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。
引用:e-Gov 「民法952条」
相続財産管理人と相続財産清算人の違い
民法改正により「相続財産管理人」から「相続財産清算人」へ名称変更│2023年4月1日施行
2023年4月1日より施行された民法改正により、従来の「相続財産管理人」は「相続財産清算人」に名称変更されました。
この法改正は、相続財産の清算手続きにおける効率化を目指したもので、従来必要だった3回の官報公告を同時または並行して行えるように改正されました。これにより、権利関係の確定に必要な最低期間が、従来の10カ月から6カ月へと短縮されることになりました。
また、民法改正に伴い、新たな役職として「相続財産管理人」という制度が設けられました(民法第897条の2)。相続財産管理人は、相続財産の保存行為を行うことができるほか、性質を変えない範囲内での利用や改良を目的とする行為も行うことができます。
(相続財産の保存)
第八百九十七条の二 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は第九百五十二条第一項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。
引用:e-Gov 「民法897条の2」
改正後の相続財産管理人と相続財産清算人の違い
2023年4月1日に施行された民法改正により、従来の相続財産管理人は相続財産清算人へと名称が代わり、新たな「相続財産管理人」が新設され、2つは明確に区別されています。
以下の表に、改正後の両者の違いを詳細にまとめます。
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相続財産管理人 |
相続財産清算人 |
選任の申立て時期 |
相続開始後、以下の場合を除きいつでも可能 ・相続人が1人で単純承認をしたとき ・相続人が複数いて遺産分割が完了したとき ・相続財産清算人が選任されているとき |
相続人の有無が明らかでないときのみ選任可能
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役割と権限 |
・相続財産の管理のみを行う |
・相続財産の管理 ・相続人や債権者などを捜索するための公告 ・債権者がいる場合の弁済 |
この改正により、相続財産管理人は、相続財産の管理に特化した役割を担い、相続財産清算人は、財産の管理だけでなく、相続人や債権者の捜索や弁済といった、より広範な責任を負うようになりました。
相続財産清算人の権限│「保存行為・管理行為」「処分行為」の2つ
相続財産清算人の役割は、相続財産や相続人を調査し、借金などの債務が存在する場合はそれを債権者に支払い、清算することです。また、特別な縁故がある人がいる場合には、その人への財産分与の手続きを進めます。最終的に、相続財産を引き継ぐ人がいない場合には、財産は国に帰属させます。このようにして、相続財産清算人の任務は完了します。
相続財産清算人は、他人の財産を扱う責任重大な役割を担っています。そのため、勝手な判断で財産を扱うことは許されません。
彼らが持つ権限は①「保存行為・管理行為」②「処分行為」の大きく2つに分けられます。
以下でそれぞれについて詳しく解説いたします。
「保存行為・管理行為」
保存行為・管理行為とは、相続財産の状態を変えずに維持・利用することを指します。
相続財産清算人は、これらの行為を裁判所の許可を得ることなく、自らの判断で行うことができます。目的は、相続財産を適切に保護し、その価値を維持することにあります。
例えば、以下のような行為を許可なくすることができます。
不動産の相続登記
不動産の売買を行う前に、その不動産の登記名義を相続財産法人名義に変更しなければなりません。被相続人が生前に購入したものの名義変更をしていない場合も、速やかに手続きを行います。これは不動産を管理するための行為にあたります。
預貯金の払い戻し・解約
預金の払い戻しや口座の解約は、散在する預金を一箇所に集め、管理を効率化するための保存行為です。このため、家庭裁判所の許可は必要ありません。一方で、銀行預金を元本保証のある国債などに変更する場合は、家庭裁判所の許可が必要となります。
既存の債務の履行
すでにある債務の返済は、新たな負担を生じさせるものではなく、当然支払うべきものであるため、相続財産管理人が行うことができる行為です。そのため、相続財産管理人は、被相続人の生前の看護費用や葬祭料などの支払い請求を受けた際には、自身の判断で支払いを行うことが可能です。
「処分行為」
処分行為とは、相続財産の形を変える行為のことです。
処分行為を行うには、家庭裁判所の許可が必要となります。処分行為を行う時には、家庭裁判所に権限外行為許可の申し立てをする必要があります。
例えば、以下のような行為が処分行為にあたります。
不動産の売却
相続財産管理人は、現金や預貯金だけでは被相続人の借金の債権者への支払いが不足する場合、債務の継続履行のために不動産を売却し、その資金で借金を返済することができます。
家財備品の処分
家具や家電など価値のある家財道具の処分は、家庭裁判所の許可が必要です。しかし、本や雑貨など価値が低い物品は、管理の負担を軽減するため、相続財産清算人が独自の判断で処分することができます。
墓地、納骨費用や永代供養費用などの支払い
被相続人のための墓地・納骨費用や永代供養費用の支出は、相続財産の処分行為に該当します。そのため、これらの費用の支払いを行うには、家庭裁判所の許可が必要です。相続財産管理人は、家庭裁判所から許可された特定の金額や内容に基づいて、これらの費用を支出することになります。
相続財産清算人を選任する前提条件
相続財産清算人を選任する前提条件として次の2つが挙げられます。
- 相続人がいない場合
- 相続人全員が相続放棄した場合
それぞれについて、わかりやすく解説します。
①相続人がいない場合
相続財産清算人の選任は、被相続人に法定相続人が一人もいない場合に必要となります。
法定相続人とは、法律で定められた順番により財産を相続できる人々のことを指します。具体的には、以下の人々が法定相続人に該当します。
- 配偶者は常に相続人
- 次のうち、最上位の人
第1順位:被相続人の子ども(子どもが既に亡くなっている場合は孫)
第2順位:被相続人の父母(両親が亡くなっている場合は祖父母)
第3順位:被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥や姪)
これらの法定相続人が一人も存在しない場合、相続財産を管理・清算するために相続財産清算人を選任する必要があります。
②相続人全員が相続放棄した場合
相続放棄をした人は、法律上、最初から相続人ではなかったとみなされます(民法第939条)。
このため、相続人全員が相続放棄をすると、その時点で相続人がいなくなります。このような状況では、相続財産を管理・清算する人がいなくなるため、相続財産清算人の選任が必要になります。
被相続人が多額の借金を抱えており、相続財産の総額がマイナスになるケースがあります。この場合、相続人全員が相続放棄を選択することが一般的です。このような場合にも、相続財産清算人を選任し、相続財産の管理・清算を行う必要があります。
相続放棄を選択したとしても、すぐに相続財産の管理責任がなくなるわけではありません。もし相続人全員が相続放棄をした場合でも、相続財産清算人が実際に管理を開始するまでの間は、最後に相続放棄を選択した相続人が財産の管理を続ける必要があります。(民法940条1項)
具体的には、この相続人は、相続財産を自分の財産と同じように管理しなければなりません。相続財産清算人が選任されるまでの期間に、適切な管理を怠り、財産に損害を与えた場合は、債権者から損害賠償を請求される可能性があります。
つまり、相続放棄を選択したからといって、直ちに財産管理の責任から解放されるわけではないので注意が必要です。
遺言で遺言執行者が指定されている場合は選任不要
相続人がいない場合でも、遺言が存在し遺言執行者が指定されているときは、相続財産清算人の選定は必要ありません。この場合、遺言執行者が遺言を実行するので、受遺者は遺贈を受け取ることが可能です。
また、遺言で遺言執行者が指定されていなくても、受遺者は家庭裁判所に遺言執行者の選任を申請することで、遺贈を受けることができます。
しかし、遺言に相続債務の支払いに関する記述がない場合で、相続債権者が債権の支払いを請求する場合には、相続財産清算人の選任が必要となります。この場合、相続債権の支払いを受けるためには、相続財産清算人の選任申請を行わなければなりません。
相続財産清算人を必要とするケース
上で解説したような前提条件を満たしたうえで、かつ次のようなケースでは相続財産清算人の選任が必要となります。
①債権者が債権を回収したい場合
相続財産清算人の選任が必要な主なケースは、債権者が債権を回収したい場合です。
被相続人に債権を持っていた債権者は、相続人がいれば、遺産から債務の支払いを受けることが期待できます。
しかし、相続人がいない場合、債務の支払いをしてくれる人がいないことになります。このような状況では、債権者は遺産から直接債権を回収することも裁判を起こすこともできません。
このため、債権者が相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申立てて、財産の管理・清算をしてくれる人を立てなければなりません。相続財産清算人が選任されると、債権者はその人に債権の請求を行い、必要な支払いを受けることができます。
②相続放棄をした人が相続財産の管理義務を免れたい場合
相続放棄をした人でも、相続放棄をした際に所有していた相続財産については、その後も管理する義務があります。(民法第940条)
しかし、管理者不在の財産を継続して管理することは負担であり、空き家などのように放置するよりも処分した方が適切な財産もあります。
このような場合、相続財産の管理や処分の権限を持つ相続財産清算人を家庭裁判所に申し立てることが一つの解決策です。相続財産清算人が選任されれば、相続財産の管理や処分をその人に任せることができ、相続放棄した人の管理義務はなくなります。
③特別縁故者が相続財産を受け取りたい場合
特別縁故者とは、相続人がいない場合に、特別に相続財産を引き継ぐ権利を持つ人のことをいいます。例えば、被相続人と生計を同じくしていた内縁関係の人や、法的な養子縁組を行っていないが実際には養子と同等の関係にある人、療養介護をしていた人などが該当することがあります。
法定相続人がいない場合に、特別縁故者が相続財産を受け取るためには、特別縁故者は家庭裁判所に「特別縁故者に対する財産分与」の申立てを行う必要があります。
この申立てが認められれば、特別縁故者は法定相続人ではないにもかかわらず、被相続人の財産を受け取ることができます。しかし、この申立てを行うためには、被相続人の財産を管理し、財産分与の手続きを進める人が必要になります。
特別縁故者が相続財産を受け取るには、以下の流れで手続きをする必要があります。
①相続財産清算人の選任:
まず、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てます。この清算人が相続人を捜索するための公告を行います。
②審判申立て:
公告期間が終了した後、3か月以内に特別縁故者として相続財産分与の審判を家庭裁判所に申し立てます。
相続財産清算人が選任され、財産の管理が開始されると、特別縁故者は財産分与の申立てを行うことができるようになります。特別縁故者が被相続人の財産を引き継ぐためには、まず相続財産清算人を選任する手続きを行いましょう。
相続財産清算人が選任されるまでの流れ
相続財産清算人を選任してもらうためには、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続財産清算人の選任申立て」を行う必要があります。
管轄の家庭裁判所は、裁判所ホームページ「裁判所の管轄区分」をご覧ください。
以下では、相続財産清算人の選任申立てをすることができる人や必要書類、選任されるまでの手続きの流れをわかりやすく解説していきます。
また、裁判所ホームページ「相続財産清算人の選任」でも手続きの概要について解説されていますので参照してください。
相続財産清算人の選任の申立人│「利害関係人」と「検察官」のみ
相続財産清算人の選任申立てができるのは、「利害関係人」と「検察官」のみです。
「利害関係人」とは、被相続人と法律上の利害関係がある関係にある人のことです。例えば以下のような人がこれにあたります。
- 被相続人の債権者
- 特別縁故者(内縁の妻、事実上の養子など)
- 特定遺贈の受遺者(遺言で財産をもらう人)
- 遺言執行者
- 被相続人と財産を共有している人(不動産の共有者など)
- 被相続人の財産を管理している人(相続放棄した元相続人など)
- 成年後見人
検察官が相続財産清算人の選任を申し立てるケースは、相続財産に価値がありながら、その財産を引き継ぐ利害関係者がいない場合です。また、他の利害関係者からの申立てもないことが条件です。
国としては、このような相続財産を国庫に戻したいと考えますが、そのためには相続財産清算人の選任が必要です。財産を国庫に帰属させるために、国家公務員である検察官が選任の申立てを行うことができるようになっています。
申立書と必要書類を準備する
相続財産清算人の選任申立ての際は、申立書と一緒に必要な添付書類を揃えて提出する必要があります。
申立書は、裁判所ホームページ「相続財産清算人の選任の申立書」に書式と記入例がありますのでこちらをご覧ください。
また申立書とあわせて財産目録も作成します。財産目録の書式も上記裁判所ホームページに掲載されていますので、ダウンロードして作成してください。
また、他にも相続人がいないことを明らかにできる戸籍謄本等が必要です。状況によって必要となる書類が異なりますので、書類を準備する前に弁護士または裁判所に確認するようにしましょう。
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子ども(およびその代襲者)で死亡している人がいる場合、その子ども(およびその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 代襲者としての甥姪で死亡している方がいる場合、その甥又は姪の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 財産を証する資料(不動産登記事項証明書、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類など)
- 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証明する資料(戸籍謄本、金銭消費貸借契約書き写しなど)
- 財産管理人の候補者がある場合にはその住民票又は戸籍附票
申立て手続きの費用
相続財産清算人の選任申立の手続きには、以下の費用が必要です。
- 収入印紙 800円
- 連絡用郵便切手 1,000〜2,000円(金額や内訳は裁判所によって異なります)
- 官報公告費用 5,075円
- 戸籍謄本取得費用 1,000〜5,000円程度(取得する書類の数によって異なります)
家庭裁判所による審理・選任
「利害関係人」や「検察官」からの申立てを受けて、家庭裁判所は相続財産を適切に管理する人を「相続財産清算人」として選任します。選任の際、家庭裁判所は被相続人との関係、利害関係の有無、相続財産の内容などを慎重に検討します。
場合によっては、弁護士や司法書士など清算業務に適した専門家が選ばれることもあります。しかし、申立人の利害関係が不適切であると判断されたり、相続財産清算人の選任が不要と判断されたりした場合には、申立てが却下されることがあります。
なお、この時場合によっては家庭裁判所から予納金を納付するよう求められることがあります。予納金については、以下で詳しく解説いたします。
予納金とは?相続財産清算人への報酬
相続財産清算人への報酬は、通常は遺産から支払われます。しかし、遺産が少なくて遺産から報酬を支払うことができない場合は、相続財産清算人の選任申立人が費用を負担しなければなりません。
相続財産管理人の報酬は、被相続人の親族が選任された場合は報酬がなく、弁護士や司法書士等が選任された場合は、管理の手間や難易度に応じて月額1万円から5万円ぐらいの報酬が、裁判所によって決められます。
予納金とは、相続財産清算人が必要とする経費や相続財産清算人への報酬のために、申立人が事前に支払う金額のことです。相続財産清算人は、相続財産の管理以外にも、債権者への支払いや各種経費が発生します。このような費用や報酬を予納金から支払います。
予納金が余った場合は返還されるため、無駄に消費される心配はありません。
予納金の金額の相場│払えない場合は法テラスに相談を
予納金の相場は20万円から100万円程度と幅広く、具体的な金額は裁判所が事案に応じて決定します。
予納金は原則として、申し立て後1か月以内に支払う必要があります。
予納金が支払えない場合は、50万円を限度に、法テラスの民事法律扶助を受けられる可能性があります。扶助を受けたい場合は、法テラスに確認してください。(法テラスHP)
相続財産清算人選任後の流れ
①相続人への相続権主張の催告
相続財産清算人が選任されると、まず官報にその事実や、相続人に対して相続権を主張するよう呼びかける内容が掲載されます(民法第952条)。官報は政府が発行する公式な機関紙で、この公告は6か月以上継続されます。
この公告期間内に相続人が現れた場合は、その相続人に財産が渡され、手続きは終了となります。
民法の改正前は、相続債権者や受遺者への請求申出の催告の後に相続権の主張の催告を行っていましたが、民法の改正により、相続財産清算人の選任と同時に行うよう変更されました。これにより、手続きがより効率的に進むようになりました。
②相続債権者・受遺者への請求申出の公告・催告
相続財産清算人が選任された後は相続債権者や受遺者に対して、請求の申し出をするよう公告を行う必要があります(民法第957条第1項)。もし相続債権者や受遺者が既に特定されている場合は、公告に加えて、個別にも催告を行う必要があります(民法第957条第2項、第927条第3項)。
この公告期間は最低2か月以上で、先に行った相続権主張の公告期間内に終了しなければなりません。
③相続債権者・受遺者への弁済
相続債権者や受遺者への公告が終了した後、相続財産清算人は被相続人の財産を使って、まず相続債権者に対して弁済を行い、次に受遺者に対して弁済を行います。もし弁済によって被相続人の財産が全て使い果たされた場合、その時点で手続きは終了となります。
④特別縁故者への財産分与
相続人が現れず①の公告期間が終了した場合、被相続人の特別縁故者は、残った相続財産を全てまたは一部受け取る権利があります(民法第958条の2)。ただし、特別縁故者が財産を受け取るためには、公告期間終了後3ヵ月以内に家庭裁判所に財産分与の申し立てを行う必要があります。
特別縁故者へ財産分与をした後に残った財産は、国庫へ帰属します(民法第959条)。
⑤共有者への共有持分の帰属
相続財産の中に共有持分となっている不動産などがある場合、共有持分の財産は相続財産の分配から除外され、他の共有者のものとなります(民法第255条)。
⑥国庫帰属と管理終了の報告
相続財産の手続きが全て完了しても、なお財産が残っている場合には、その残りの財産は国庫に帰属します(民法959条)。国庫帰属手続きが完了した後、相続財産清算人は家庭裁判所に対して管理の終了を報告する報告書を提出します。この報告書の提出をもって、相続財産の清算手続きは正式に終了となります。
相続財産清算人に関するQ&A
Q: 相続財産清算人とは何ですか?
A: 相続財産清算人とは、相続人の代わりに財産を管理・清算する人のことを指します。通常、財産の管理は相続人や包括受遺者が行いますが、相続人が明らかでない場合や相続人全員が相続放棄を選択した場合など、適切な財産管理を行うためには相続財産清算人が必要となります。相続財産清算人は、家庭裁判所によって選任され、被相続人の財産管理・清算を行います。
Q: 相続財産清算人と相続財産管理人の違いは何ですか?
A: 相続財産清算人と相続財産管理人の違いは主に以下の点にあります。
①選任の時期
相続財産管理人は、相続開始後、次の場合を除いていつでも選任が可能です。
- 相続人が1人で単純承認をした場合。
- 相続人が複数いて、相続財産の全部について遺産分割が行われた場合。
- 相続財産清算人が選任されている場合。
相続財産清算人の選任は、相続人の有無が明らかでない場合に限られます。
②役割と権限
相続財産管理人は、相続財産の管理のみを行います。
相続財産清算人は、相続財産の管理に加えて、相続人や債権者などを捜索するための公告を行い、債権者がいる場合には弁済を行います。
民法改正により、相続財産清算人の制度が導入され、改正後の相続財産管理人は相続財産の管理に限定された権限を持つようになりました。
Q: どのようなケースで相続財産清算人の選任が必要ですか?
A: 相続財産清算人の選任が必要となる主なケースは以下の通りです。
- 被相続人に対して債権を持っている債権者が債権の回収をしたいが、相続人がいない場合。
- 相続放棄をした人が相続放棄時に占有していた相続財産の管理を他の人に任せたい場合。
- 特別縁故者が相続財産を受け取りたいが、相続人がいない場合。
Q: 予納金とは何ですか?また、予納金は誰が支払いますか?
A: 予納金とは、相続財産清算人の経費や報酬のために、申立人が事前に納めるお金のことです。相続財産清算人には、相続財産の管理や債権者への支払い、専門家への依頼費用など、様々な経費が発生します。相続財産が少ない場合、費用や報酬の不足が懸念されるため、予納金が必要になることがあります。予納金の金額は事案によって裁判所が決定し、20万円〜100万円程度と幅広いです。余った予納金は返金されます。
まとめ
この記事では、「相続財産清算人」という制度について説明しました。相続人がいない場合や、相続人が相続を放棄した場合には、相続財産清算人がその財産を管理し、債権者への支払いなどを行います。
また、民法改正により、従来の「相続財産管理人」は「相続財産清算人」へと名称が変わりました。それに伴う「相続財産清算人」と「相続財産管理人」との違いについても解説しました。
相続財産清算人の選任申立て手続は複雑で、多くの書類を準備する必要があります。そのため、専門家である弁護士に依頼して確実に手続きするようにしましょう。
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この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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