土地は借地、家は持ち家の相続|借地に建てた家、処分や立ち退きはどうなる?弁護士が解説

相続することになった持ち家が、実は借地の上に建っていた——そんなケースも珍しくはありません。借地に関する権利「借地権」もその経済的価値があることから遺産相続の対象となりますので、家を引き継ぐことになった相続人は通常、借地についても引き継ぐことになるでしょう。
ですが、遠方にある実家を管理しきれず、解体処分したい、という人もいるかもしれません。あるいは家を売却したいという場合もあるかと思います。こうしたときに、借地である土地に関する権利はどのようになるのでしょうか。
そこでこの記事では、土地は借地で家は持ち家という場合の遺産相続について、弁護士がわかりやすく解説させていただきます。前提となる借地権のルールや、この場合の遺産相続の流れと注意点、借地に建てた家の解体や売却といった処分方法についても、詳しくご説明いたします。
また、借地として貸していた土地を自由に使うために、地主が立ち退きを要求することも考えられます。立ち退きについての法的な基礎知識に加え、交渉における争点やポイントなども解説いたします。
借地やその上に建てた持ち家を遺産相続する方にとって、本記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。
目次
土地は借地、家は持ち家
1.土地は借地で家は持ち家の場合の遺産相続
1-1.その土地の借地権も遺産相続の対象
借地権とは、土地の所有者でなくても、その土地を一定期間使用し、その上に建物を所有することができる権利のことです。安定して長期的にその土地を利用することのできる、価値の高い財産権とされています。
また、遺産相続が開始すると、相続人は被相続人の一身に専属する権利を除いて、被相続人の財産に属した一切の権利義務を当然かつ包括的に承継することになります(民法第896条)。借地権は一身専属的な権利ではないため、包括承継の対象となります。
(相続の一般的効力)
民法第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
以上のことから、借地権も遺産相続の対象となるため、相続人は借地権を相続する場合、適切に手続きを進めることが重要なのです。
1-2.借地権とは
借地権の相続について見ていく前に、借地権について簡単に確認しておきましょう。
借地権とは、第三者の土地を建物を所有する目的で使用する権利のことです。借地権は、土地を建物や工作物、樹木などを所有する目的で使用する権利(物権)である「地上権」と、建物を所有する目的で第三者の土地を使用する権利(債権)である「賃借権」という2つの権利に分類されます。
地上権が設定されているかどうかは、土地の登記簿(登記事項証明書)の権利部乙区に「地上権設定」という記載があるかどうかで確認できます。一方、賃借権は登記されないのが通常なので、登記事項証明書には記載がありませんが、土地の賃貸借契約書にその内容が記載されています。
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項目 |
地上権 |
賃借権 |
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権利の種類 |
物権 |
債権 |
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建物の譲渡や増改築 |
承諾不要 |
地主の承諾が必要 |
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登記義務 |
あり |
なし(登記自体は可能) |
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抵当権設定 |
可 |
不可 |
なお、借地権に関しては法改正があり、1992年(平成4年)8月1日に現在の借地借家法が施行されました。そのため、1992年8月1日より前に設定された借地権については、改正前の旧借地法の規定が適用されることになります。
ですので、借地権は現行の借地借家法による「普通借地権」と「定期借地権」に加え、旧借地法が適用される「旧法借地権」の3つに大別することができます。
旧法と現行法による借地権は、建物を所有することを目的とした権利である点は共通していますが、借地権の存続期間や契約更新後の存続期間に違いがあります。
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旧法借地権(旧借地法による)
旧借地法に基づく借地権は、堅固建物の所有を目的とする場合と、堅固でない建物(非堅固建物、普通建物)の所有を目的とする場合とで、借地権の存続期間が異なっていました。契約に定めがない場合、堅固建物(石造、コンクリート造等)は60年、非堅固建物(木造等)は30年が原則で(旧借地法第2条1項)、存続期間を定める場合も堅固建物は原則30年、非堅固建物は原則20年が最短期間でした(同条2項)。
また、契約更新後の存続期間については、更新の回数に関わらず一律で、堅固建物は30年、非堅固建物は20年とされていました(旧借地法第5条)。
堅固建物と非堅固建物の区別の基準が明確ではないことや、耐用年数が必ず建物の種類に対応しているわけではないことなどから、建物の種類による区別が難しくなっていました。そのため法改正が行われましたが、施行日以前に設定された借地権については、現在でも旧借地法の規定が適用されます。
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普通借地権(借地借家法による)
新借地借家法に基づく借地権では、旧借地法による建物の種類による存続期間の区分がなくなり、存続期間は原則30年となっています(借地借家法第3条)。また、契約の更新が可能で、更新後の存続期間は、最初の更新は20年、それ以降の更新は原則10年とされています。契約でこれより長い期間を定めることも可能です(借地借家法第4条)。
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定期借地権(借地借家法による)
借地借家法に基づく借地権のうち、一定の期間が満了した際に契約の更新がなく、土地が確実に地主に返還される借地権が定期借地権です。建物の用途を問わない一般的な定期借地権の存続期間は原則50年(借地借家法第22条)、事業の用に供する建物の所有を目的とする事業用定期借地権等の存続期間は「30年以上50年未満」もしくは「10年以上30年未満」(借地借家法第23条)、建物譲渡特約付借地権に関しては「借地権設定後30年以上経過した日に、地主が建物を相当の対価で買い取ることで借地権を消滅させる」こと(借地借家法第24条)とされています。
2.「土地は借地、家は持ち家」の相続手続き
それでは、借地に持ち家が建っている場合の「借地権」の相続手続きについて、流れで確認していきましょう。
2-1.借地権を相続する旨を地主に連絡する
借地権の相続手続きをする旨を、まずは地主に伝えましょう。
とはいえ、法的に地主への連絡義務はありません。地主の承諾を得る必要もありませんし、地主に対して承諾料や名義書換料などを支払う必要もありません。これは、「相続」であって、賃貸人の承諾が必要な「借地権の譲渡(民法第612条)」ではないからです。
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
民法第612条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
ですが、地主との良好な関係を維持するためにも、「借主が亡くなったので借地権を相続する」旨を地主に伝えておくことが望ましいです。その後に売却や建て替えの相談が必要になった場合などには、地主の承諾が必要となることもありますので、地主と良好な関係を維持できるように連絡を入れておくことをお勧めいたします。
なお、地主から「借主が死亡したのであれば土地を返してほしい」と要求されても、これに応じる必要はありません。相続人が被相続人と同居していたかどうかや、相続後にその持ち家に住むかどうかにかかわらず、相続人は引き続き借地権に基づいてその土地を利用する権利を有します。
包括承継ではなく、遺言によって特定の相手に借地権を引き継がせる「遺贈」の場合は、地主の承諾が必要です。特に、遺贈によって借地権を引き継ぐ人(受遺者)が法定相続人以外の第三者である場合や、遺言の文言に「遺贈する」と明記されている場合には、民法第612条1項の「借地権の譲渡」にあたるため、地主の承諾が必要とされています。
なお、地主が承諾しない場合にも、借地権者は裁判所に対して地主の承諾に代わる許可の申し立てをすることができます。
そして、裁判所の許可や地主からの承諾を得る際には、承諾料や名義書換料の支払いが必要となることが一般的です(借地借家法第19条1項)。承諾料の相場は借地権価格の10%程度で、承諾料を誰が負担するかは、原則として遺言の定めに従うことになります。遺言書に明記されていない場合は、その遺言者が「受遺者に借地権を確実に取得させる」ことを意図している以上、その費用は遺産(相続財産)全体から支払うことが遺言者の合理的な意思に合致すると考えられています。
2-2.借地権が登記されている場合は借地権の名義変更をする
一般的な土地の所有権を相続する際には、法務局での相続登記が必要となります。一方で、借地権についてはその借地上にある建物について借地人名義で所有権保存もしくは移転の登記をすることで、第三者への対抗要件を備えたことになります(借地借家法第10条)。
(借地権の対抗力)
借地借家法第10条 借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。
2 前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。
ですので、借地権そのものに関する登記がなされているケースはそもそも多くはありません。一般的には、借地上の建物についてのみ名義変更をすることになるでしょう。
なお、例えば融資の担保として使用されていた場合などには、借地権が登記されていることもあります。土地の登記事項証明書を確認して登記してあれば、建物だけでなく借地権についても名義変更をしましょう。
2-3.持ち家の名義変更をする
借地権の登記の有無にかかわらず、借地上に建てられた持ち家については、名義変更が必要となります。
持ち家を借地権者の名義で登記しておくことにより、第三者に対して借地権を主張できるようになります。万が一持ち家の名義変更を怠っていると、土地が第三者の手に渡った際に借地権を主張できなくなる可能性がありますので、借地上の建物の名義人は、必ず土地の借主(借地権者)と一致させておきましょう。
加えて、2024年(令和6年)4月1日からは、不動産の相続登記が義務となっています(不動産登記法第76条の2第1項)。
(相続等による所有権の移転の登記の申請)
不動産登記法第76条の2第1項 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
相続が発生した場合は、速やかに持ち家の名義変更手続きを行うようにしましょう。
名義変更手続きは法務局で行いますが、一般的に以下のような書類が必要です。
- 遺産分割協議書または遺言書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票もしくは戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 借地権の相続人の住民票(遺産分割協議書を提出する場合)
- 固定資産税評価証明書
また、名義変更の手続きに際して、戸籍謄本等の取得費用、建物の名義変更の際の登録免許税(固定資産税評価額 × 0.4%)、借地権の名義変更の際の登録免許税(固定資産税評価額 × 0.2%)といった費用も必要となります。
2-4.相続税を支払う
相続登記を終えても、厳密にはまだ終わりではありません。前述のとおり、財産権である借地権は相続税の課税対象となる相続財産ですから、借地権を相続したらその借地権の評価額に応じて相続税を支払う必要があります。
なお、借地であれば必ず借地権の評価額(相続税評価額)が発生するとは限りません。相続税申告において「借地権」として評価されるためには、借地借家法上の保護を受ける「建物所有を目的とする」権利であることが要件となります。具体的には、地主に対して通常の地代を支払う「賃貸借契約」である必要があります。無償または固定資産税程度の極めて低額な地代しか支払っていないような場合は「使用貸借」とみなされ、借地権の評価額はゼロとなるためです。
借地権の相続税評価額の計算について、詳しくはこちらの関連記事にて解説しておりますので、本記事と合わせてぜひご覧ください。
3.「土地は借地、家は持ち家」の場合のメリット・デメリット
次に、「土地は借地、家は持ち家」の場合の遺産相続におけるメリットとデメリットについて確認しておきましょう。
3-1.メリット
3-1-1.借地権には経済的価値がある
借地人は、借地権に基づいて土地を使用収益することで利益を得ます。また、借地借家法により借地人の法的利益(最短存続期間の保護、期間の更新制度、相当賃料の保障など)は手厚く保護されています。不動産取引市場においては、借地の需給関係によっては本来の借地権価格以上の価格で取引されることもあります。
このように、常に高額な経済的価値が認められるわけではありませんが、借地権は経済的価値のある財産権なのです。そのため、借地権は遺産相続や売却の対象になります。
3-1-2.借地権者には土地の固定資産税・都市計画税がかからない
土地の固定資産税や都市計画税の納税義務者は、原則として土地の所有者(地主)です。そのため、借地権者は土地を使用・収益しながらも、土地の固定資産税や都市計画税を支払う必要はありません。もっとも、賃貸借契約においては、借地人は固定資産税分を含めた金額で賃料を支払い、地主は受け取った賃料の中から固定資産税を納付するという形が一般的です。
ただし、100年を超える地上権を設定している場合には、借地人自身が納税義務者となります(地方税法第343条1項)。
(固定資産税の納税義務者等)
地方税法第343条1項 固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する。
3-1-3.所有権を得るより安価で手に入る
借地権は、土地を借りる権利である「借地権」と、土地の所有者が借地人に土地を貸している状態の土地所有権である「底地権」に大別されます。つまり、土地の完全な所有権から「底地権」の価値の分を控除したものが「借地権」の価値ということになります。そのため、一般的には土地の所有権そのものを取得するよりも、底地権がない分、安価に取得することが可能とされています。
3-2.デメリット
3-2-1.地代の支払いが必要
土地の使用の対価として、地代の支払いが発生します。新規に借地権を設定する際の地代は、原則として当事者の合意により自由に定められることになります。土地に対する租税(固定資産税・都市計画税等)や、その他の公課(下水道受益者負担金等)の増減、土地価格の上昇や低下、インフレ・デフレ等の社会経済の状況の変化、類似の土地の地代等との比較といった要素により、地代の金額は増減することもあります。
地代の支払いを怠ると債務不履行として契約解除となる可能性があるため、注意が必要です。
3-2-2.承諾料や更新料の支払いが発生することがある
第三者への借地権の譲渡や、借地上の建物の建て替えや増改築の際には、地主の承諾が必要です。それに加え、承諾料を支払わなければなりません。
また、契約を更新する際に、更新料の支払い義務が生じる可能性もあります。
3-2-3.借地権付き建物の買い手がつきにくい
上述のとおり、第三者への譲渡に際して地主の承諾と承諾料の支払いが必要であることや、地主が裁判所へ申し立てることで第三者への売却を阻止して自ら買い取る「介入権」を行使できること、建替えに際しても地主の承諾が必要となることなど、建物の所有者としての権利行使が制約されることが多いことから、一般に流通性が高くなく、買い手がつきにくいという実状があります。
借地に建てた家の処分
遺産相続した借地や建物を手放したい場合、さまざまな方法が考えられます。以下で、主な5つの方法をご紹介いたします。
1.契約解除し更地として地主に返還する
実家を相続することになっても、必ずしも居住するとは限りません。「遠方に自宅があるので実家に住む予定もないし、土地を返還したい。」というケースもあるかと思います。
借地権者の都合で地主に土地を返還する場合、借地契約では「原状回復義務」が規定されていることが一般的です。そのため、借地を単に引き渡すのではなく、持ち家を解体して借地を更地にしてから返還する必要があります。そして、更地にする際の建物の解体費用は、原則として借地権者が負担することになります。
解体費用は数百万円かかることもありますので、支払いが難しいと思われるかもしれません。こうした場合は、地主に借地権を買い取ってもらう(譲渡)ことで、その売却益で解体費用をまかなうことが可能です。地主への賃借権の譲渡に関しては、譲渡承諾料は生じません。
この場合、例えば借地権の評価額が1,000万円で、建物の解体費用が200万円かかるとすると、売却益と解体費用を相殺した上で、借地権者は800万円を得ることになります。
また、土地だけでなく建物も買い取りたい、という地主もいるでしょう。この場合は建物を解体する必要がありませんから、借地権と建物の買い取り費用や支払い方法などを交渉することになります。
2.借地と底地を同時に売却する
借地を返したいというタイミングで、地主も借地を手放したいと思っていることもあるかもしれません。
そのような場合は、借地と底地を同時に売却することも検討しましょう。借地権付きの不動産という権利の制約を解消した上で、土地を最も価値の高い「更地」の状態で市場に出すことになるため、それぞれを単独で売るよりも高値で売却できる可能性があります。しかし、売却価格を分配する際にトラブルになりやすいので、地主と事前に十分に話し合っておくことが重要です。
通常、売却益の分配は「借地権割合」が目安となりますが、地主の取り分が少なくなる場合、「本来の土地の所有者だったのに、なぜ自分の方が少ないんだろう。」と不満が生じることがあります。例えば、借地権割合が60%の場合、土地の売却益が1000万円だったとすると、売却益の配分は借主が600万円、地主が400万円となります。地主が納得しない可能性もあるため、事前に「借地権割合で分配する。」旨を明記した書面で約束を交わすなど、対策をしておくとよいでしょう。
3.借地権付きの建物を第三者に貸し出す
借地権付きの建物を第三者に貸し出すという方法も考えられます。この場合、地主の承諾は必要ありません。立地が良い場合や、賃貸需要があるエリアの場合には、合理的な手段となるでしょう。
ただし、借地権付き建物を貸し出す際に、修繕やリフォームが必要になる場合があります。雨漏りや外壁の崩落部分の修繕など、建物の通常の維持管理の範囲内であれば、地主の承諾は必要ありません。ですが、建物の増改築や大規模なリフォームをする場合には、地主の承諾が必要となるので注意が必要です。
4.借地権付きの建物を第三者に売却する
あるいは、賃貸するのではなく、第三者に借地権付きの建物を売却することも一つの方法です。ただし、第三者に借地権を売却する際には、地主からの承諾を得て譲渡承諾料を支払う必要があります。
また、地主が正当な理由がないにもかかわらず承諾してくれない場合には、裁判所に対して地主の承諾に代わる許可(代諾許可)を申し立てることも可能です(借地借家法第19条1項)。
第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがないと判断されれば、通常は借地権価格の10%程度の承諾料の支払いを条件として、売却が許可される可能性があります。
5.相続放棄をする
借地権の売却や借地権付き建物の賃貸などが難しく、建物の解体費用を支払えないような場合には、相続放棄も視野に入れましょう。
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産を一切相続しないことを意味します。借地権付き建物だけでなく、預貯金や株式といった他の財産も相続できなくなりますが、相続した借地権付き建物の管理義務がなくなり、処分方法について検討する必要もなくなります。
なお、相続放棄すると原則として撤回できません。また、自分以外の親族が相続人になるため、自身の親や兄弟などに負担がかかるおそれもあります。
借地権付き建物の他にも、プラスの財産が一定程度ある場合は、解体費用をまかなえることもありますので、相続放棄は慎重に検討しましょう。相続放棄すべきか判断が難しい場合や、相続放棄の期限が迫っている場合は、なるべく早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
借地の地主から立ち退きを要求されたら
地主が借地を別の用途で使用したいときなど、土地の明け渡しを要求することもあります。ですがその上に建てた持ち家に住んでいる借地人としては、要求どおりに立ち退くことは簡単ではありません。
それでは、借地からの立ち退きを要求されたら、どのように対処すればよいのでしょうか。
1.立ち退き要求と正当事由
前提として、当初の期間が満了した際に借地権者が更新を請求した場合には、借地上に建物が存在する限り、従前と同一の条件による契約が更新されたものとみなされます(借地借家法第5条1項、同第2項)。そして、地主が更新を拒絶したい場合には、借地権者の更新請求や土地の使用継続に対して遅滞なく異議を述べる必要があります(借地借家法第6条)。
(借地契約の更新請求等)
借地借家法第5条 借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。
2 借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項と同様とする。(借地契約の更新拒絶の要件)
借地借家法第6条 前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。
「異議を述べる」ためには、「正当の事由があると認められる」ことが必要です。正当事由の有無については、地主と借地権者それぞれの土地の使用の必要性、借地に関する従前の経過、土地の利用状況、立ち退き料の申し出など、個々の事情を総合的に考慮して判断することになります。そのため、「土地を使う予定はないが、なんとなく明け渡してほしいと思った。」といった理由では更新を拒絶することは認められないでしょう。
それでは、地主からの立ち退き要求について、参考となる判例をご紹介します。
地主自身やその家族が土地を使用する必要性が、借地人の必要性を上回ると判断された事例です。
原告である地主は高齢で、主に次女の収入に頼る生活をしていました。土地と所有建物とその敷地以外には資産を持っていないため、今後の生活の安定を考え、建物と自宅を取り壊して土地を駐車場として活用する計画を立てました。周辺は店舗や事務所が並ぶ地域であり、駐車場としての利用も現実的と考えられています。
借地権者である被告が使用している建物は改築や修繕が行われており、比較的良好な状態である一方、原告の居住する自宅は老朽化が進み、修繕が必要な状態です。そして、建物は被告自身が利用するのではなく、第三者に無償で貸し出され、宿泊施設として利用されていました。利用客は、月平均3~4名程度です。
以上のような事実を総合的に考慮して、裁判所は地主側の「明け渡しを求める正当な事由」があることを以下のとおり認めました。
以上認められる事実を総合して正当事由の有無を検討すると、まず、本件土地を自ら使用する必要性は、原告において被告に勝るというべきである。原告はその年齢及び経済状態からいって本件土地を利用することが唯一の生活安定の方途であると認められるのにひきかえ、被告にとっては、その取得時のいきさつからして必ずしも本件土地の必要性が高かったとは言えず、現在も同様と考えられ、また将来の布教所としての必要性についても、必ずしも本件土地に執着しなければならないほど切迫した事情を見出すことはできない。
更に、本件建物と一棟をなしている原告所有建物は相当老朽化していること、また、被告の本件土地に係る出費及び隣接する被告所有建物の効用の減少については、別途建物買取請求権の行使によりこれを補うべきものであることもあわせ考慮すると、結局本件更新拒絶の意思表示には正当の事由があるものと認めるのが相当である。
(東京地方裁判所昭和59年7月10日判決)
2.立ち退き料の相場は?
また、地主が更新を拒絶するにあたって、立ち退き料の支払いが正当事由のあることを補完する要素となります。
立ち退き料の金額は個々のケースにより異なりますが、借地人が土地の明渡しにより被る「通常生ずべき損害相当額」を基礎とし、地主側の土地使用の必要性に応じて調整されることが一般的です。地主側の必要性が強い場合には立ち退き料は安くなり、反対に地主側の必要性が低い・正当事由が不十分な場合には、その不十分を補うために立ち退き料が高額になる傾向が見られます。
3-1.居住用建物の立ち退き料
居住用の建物の場合、立退料は100万円~200万円程度になることが一般的です。その内訳は主に以下のとおりです。
- 引越し費用(10~30万円)
- 仲介手数料、礼金など
- 新居との家賃差額の補填分(1~3年分)
- 迷惑料、慰謝料
東京などの都市部では高額になりやすく、一方で地方の場合は低めになる傾向です。
3-2.事業用物件の立ち退き料
事業用物件の場合の立ち退き料には、営業休止補償や固定費補償、顧客損失補償、移転費用、迷惑料などが含まれるため、居住用建物の場合よりも高額になる傾向があります。また、事業によっても相場は大きく異なります。主な例を挙げますと、下表のようになります。
| 業種 | 金額相場 | 賃料換算 |
| 飲食店 | 500万円~4,000万円程度 | 62~100ヶ月分 |
| 小売店 | 300万円~500万円程度 | |
| 事務所 | 300万円~600万円程度 | 約30ヶ月分 |
| 美容院 | 800万円~3,000万円程度 | 80~150ヶ月分 |
| クリニック | 5,000万円~2億円程度 | 250~400ヶ月分 |
この他にも、立ち退き料不要となった倉庫や、700万円~1,000万円の立ち退き料が認められたバー、6,450万円の支払いが命じられた印刷業のケースなどもありますので、個々の事情に応じて金額は大きく変動します。
3.立ち退きを要求されたら
以上のとおり、地主側の立ち退き要求が認められるためには、正当な事由のあることが必要です。そのため、立ち退きを要求された場合、まずは地主側の「土地使用の必要性」と自身の必要性を比較・精査することが重要となります。地主側の必要性が不十分であれば立ち退きを拒絶し、契約の更新を主張することで、立ち退きを免れることも期待できます。
もし立ち退きに応じる場合でも、適切な額の立ち退き料を支払うよう交渉するとともに、建物を買い取ってもらうよう交渉してみましょう。契約違反による解除(地代滞納など)、定期借地権、双方の合意による契約の終了を除き、借地権者は建物買取請求権を行使し、地主に建物の買取を求めることが可能です(借地借家法第13条)。建物買取請求権を行使すると、借地権者の一方的な意思表示により、地主の承諾を必要とせず、建物について時価を売買代金とする売買契約が成立したのと同一の法律効果が生じます。
(建物買取請求権)
借地借家法第13条 借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
2 前項の場合において、建物が借地権の存続期間が満了する前に借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは、裁判所は、借地権設定者の請求により、代金の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
3 前二項の規定は、借地権の存続期間が満了した場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。
なお、地主が立ち退きを要求できるタイミングは、契約更新の際が一般的です。契約期間満了の6ヶ月から1年前に立ち退きの交渉が行われることが一般的です。そのため、立ち退きを求められたら、まず契約内容を確認して自身の権利を正しく把握しましょう。そして、弁護士に相談し、立ち退きたくない場合はその交渉を、やむを得ず立ち退く場合は立ち退き料の交渉を依頼することをお勧めいたします。
交渉がスムーズにいかない場合は、調停や訴訟も検討することになるでしょう。
「土地は借地、家は持ち家」に関するQ&A
Q1.借地権を相続する際の注意点は?
A:借地権を相続する際には以下の点に注意が必要です。
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借地権の経済的価値を理解する
土地の価値が高いエリアでは、借地権も高く取引されることがあります。地主からの返還要求に応じる前に、借地権の価値を十分に把握しましょう。
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借地上の建物の名義変更を速やかに行う
相続が発生したら、相続登記を速やかに行い、借地上の建物の名義変更を行いましょう。名義変更が遅れると、地主が土地を第三者に売却した場合、借地権を主張できなくなる可能性があります。
-
地代の支払いを怠らない
相誰が借地権を相続するか決まっていない期間も、地代の支払いを怠らないようにしましょう。相続人の誰かが代表して地代を支払い、遺産分割協議が整ったときに相続人間で精算するとよいでしょう。地主との良好な関係を維持するためにも、地代の支払いは重要です。
Q2.借地権を相続した際、地主から承諾料を要求された場合はどう対処すればよいですか?
A:借地権を相続した際、地主から承諾料を要求されるケースがあります。法的には借地権の相続に承諾料(名義変更料)の支払いは不要です。ただし、少額の名義変更料(契約書変更の事務手数料など)が要求された場合などには、支払うことで地主とのトラブルを回避できる可能性もあるため、ケースバイケースで判断することがお勧めです。
なお、遺言書による遺贈で借地権を受け継ぐ場合は、地主の承諾と名義変更料の支払いが必要となりますので、注意が必要です。
Q1.借地権を相続した際に地主から立ち退き(土地の返還)を要求された場合、どのように対処すればよいですか?
A:借地権を相続した際に地主から立ち退きを要求された場合、まずは地主が提示する正当事由を確認することが重要です。単なる借地権の相続は立ち退き要求の正当事由には該当しませんので、急いで立ち退きに応じる必要はありません。こうしたトラブルが生じた場合は、弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
ただし、地代の支払いを怠ったといったトラブルが生じた場合や、定期借地契約の更新時には立ち退きが必要になる可能性があります。そのため、遺産相続時には借地に関する契約内容を十分に確認するようにしましょう。
まとめ
この記事では、借地権とその借地上の持ち家を遺産相続する場合について、弁護士が解説させていただきました。
借地の相続や売買などの取引は、その権利関係が何かと複雑になりがちです。疑問や不安を抱えたまま進めることのないよう、なるべく早い段階で弁護士にご相談いただければと思います。
弁護士法人あおい法律事務所では、弁護士による法律相談を初回相談料無料で行っております。事務所にお越しいただいてのご相談だけでなく、お電話でもお話をお伺いさせていただきますので、ぜひお気軽にご利用ください。法律相談のご予約は、当ホームページのWeb予約フォームやお電話にてお受けしております。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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