公正証書遺言とは?作成方法や費用│自分で依頼する手順をわかりやすく解説

遺言

更新日 2024.08.06

投稿日 2024.08.06

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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「公正証書遺言」は、その信頼性と法的効力の高さから、多くの人に選ばれています。公正証書遺言は、公証人が関与することにより、遺言の内容が法律に則り正確に記載されるため、無効となるリスクが極めて低いという大きなメリットがあります。

公正証書遺言、遺言者が自身の意志を明確に反映させることができる一方で、作成には一定の手続きと費用がかかることも事実です。そこで、本記事では、公正証書遺言の基本的な特徴、費用の詳細、作成方法の手順をわかりやすく解説します。さらに、自分で公証人に依頼する際の具体的なステップや、注意すべきポイントについても詳しく説明します。安心してご自身の遺志を残すために、ぜひ参考にしてください。

目次

公正証書遺言とは?公証役場で公証人が作成する遺言書

公正証書遺言とは、公証人が遺言者の意思を文書にまとめ、公正証書として作成する遺言書の形式です。この方法は、遺言内容の改ざんや紛失のリスクが低く、安全確実な遺言書の作成方法として広く利用されています。

遺言者は、公証役場で公証人に対して遺言の内容を口述します。公証人はその内容を詳細に聞き取り、正確に文書化します。この際、遺言者は署名捺印するだけで、他に何も書く必要はありません。

公証人が遺言書の作成を全て代行するため、書式や法律の不備を心配する必要がなく、確実に有効な遺言書を残すことができます。公正証書遺言は、法的効力が強く、遺族間のトラブルを防ぐために非常に有効な手段です。

公証役場とは?

公証役場とは、公証人が公正証書やその他の法律文書を作成するための役所のことです。法務省管轄の施設であり、全国各地に設置されています。公証役場には、遺言者や関係者が訪れて、公正証書遺言を含むさまざまな公正証書の作成手続きを行います。

公証人とは?

公証人とは、法務大臣に任命された法律専門家で、公正証書の作成を担う公務員です。公証人は、遺言書や契約書などの文書が法律に則って作成されるように、中立かつ公正な立場で監督します。公証人になるためには、高い法律知識と豊富な実務経験が求められます。通常、裁判官や検察官、法務局長などの法律の専門職を長く務めた者が、公募を経て法務大臣により任命されます。このため、公証人が作成する公正証書は非常に信頼性が高く、法律的にも強い効力を持つのです。

公証書遺言の作成には証人が2人必要

公正証書遺言を作成する際には、証人の存在が欠かせません。法律では、公正証書遺言を作成する際に、二人以上の証人が立ち会うことが必要とされています。証人は、遺言が遺言者本人の自由な意思によるものであり、正しく作成されたことを確認する役割を担います。

証人は次の要件を満たす必要があります。

  1. 未成年者でないこと
    未成年者は証人になることができません。これは、未成年者が遺言の内容を十分に理解し、責任を持って証言する能力がないと考えられているためです。
  2. 利害関係がないこと
    遺言の内容に影響を与える立場にある人は証人になれません。具体的には、遺言者の家族や財産を受け取る予定の人(推定相続人や受遺者)、その配偶者や直系血族(両親、子供、孫など)は証人になることができません。また、公証人の配偶者や近親者、公証役場の職員も証人にはなれません。これにより、証人が公平で中立な立場を保つことができます。

証人の役割は、遺言者が自分の意思で遺言を作成していることを確認し、公正証書遺言が正しく作成されたことを保証することです。証人は、遺言者が公証人に対して遺言の内容を口述する際に立ち会い、その内容が正確に記録されたことを確認します。その後、証人は遺言書に署名捺印します。

証人が立ち会うことで、後日遺言の内容が争われた場合でも、証人の証言により遺言の有効性が立証されやすくなります。証人を選ぶ際には、上記の条件を満たす人を選び、その役割や責任について十分に説明し、了承を得ることが重要です。

公正証書遺言の作成方法│自分で手続きをする場合

公正証書遺言を作成する際、遺言者が自分で公証役場に依頼する方法と、弁護士や行政書士などの専門家を通して依頼する方法があります。

法律で具体的な手順が定められているわけではありませんので、専門家に依頼する場合は、その手順は依頼先の専門家によって異なります。しかし、自分で手続きを行う場合には、一般的な手順が存在します。この記事では、遺言者が自分で公正証書遺言を作成する際の具体的な手順を紹介し、スムーズに進めるためのポイントや注意点についても詳しく解説します。

①遺言内容のメモ書きを作成する

公正証書遺言を作成するための第一歩は、遺言内容のメモ書きを作成することです。これにより、公証役場での手続きがスムーズに進みます。以下のポイントに注意して具体的にメモ書きを作成しましょう。

1.遺言の目的と全体の概要を明確にする

遺言を作成する理由や目的を考え、その概要を簡単に書き出します。たとえば、「財産を子どもたちに平等に分ける」「特定の財産を特定の人に遺贈する」など、自分の希望を整理します。

2.財産の詳細をリストアップする

遺言に含める財産を具体的にリストアップします。以下のように、財産の種類ごとに整理して書き出します。

  • 不動産(住所や地番、登記情報など)
  • 預貯金(銀行名、支店名、口座番号など)
  • 株式や証券(銘柄、数量、証券会社名など)
  • 動産(自動車、貴金属、美術品など)
  • その他(生命保険の受取人指定、債権など)

3.相続人や受遺者を明確にする

相続人や受遺者の氏名、住所、続柄を明確に記載します。特に、特定の財産を誰に遺贈するかについて詳細に書きます。

  • 「自宅の不動産は長男○○に遺贈する」
  • 「預金は妻○○と二女○○に平等に分ける」

4.遺言執行者を指定する

遺言の内容を実行するための手続きを行う「遺言執行者」を指名します。遺言執行者は、遺言の内容を確実に実行してくれる信頼できる人物や専門家を選びましょう。

②公証人との相談

まず、公証役場に電話をかけて、相談日時を予約します。予約当日には、事前に作成した遺言内容のメモを持参します。このメモをもとに、公証人に遺言の詳細や希望を説明します。具体的な希望や分配方法について明確に伝えることが重要です。

公証人との相談は、1回で終わる場合もあれば、複数回にわたることもあります。公証人は、遺言内容が法律に則っているかを確認し、必要な書類について指示を出します。相談は無料ですが、公証役場では個別の遺産分割や具体的な財産分配のアドバイスは行っていません。これらの相談が必要な場合は、別途弁護士や司法書士に相談してください。

相談の際に、公証人から戸籍謄本などの必要書類について説明されます。これらの書類を後日用意し、公証役場に提出する必要があります。この段階では、証人の立会いは必要ありません。

③必要書類を収集する

公正証書遺言を作成するためには、いくつかの重要な書類を準備する必要があります。これらの書類を事前に揃えておくことで、公証人との打ち合わせがスムーズに進みます。

以下に、具体的な必要書類を表でまとめました。

必要書類一覧

書類名

説明 

印鑑登録証明書

遺言者本人の3か月以内に発行されたもの

身分証明書

運転免許証、旅券、マイナンバーカード、住民基本台帳カード(有効期間内)

戸籍謄本・除籍謄本

遺言者と相続人との続柄が分かるもの

相続人以外の受遺者の住民票

財産を相続人以外の人に遺贈する場合

法人の登記事項証明書

財産を法人に遺贈する場合、その法人の登記事項証明書または代表者事項証明書

不動産の登記事項証明書

不動産を相続する場合

固定資産評価証明書

不動産の評価額を示すもの

預貯金通帳のコピー

預貯金を相続する場合

証人予定者の情報メモ

証人の氏名、住所、生年月日、職業を記載したもの

なお、公証役場によっては必要書類が異なる場合もありますので、事前に足を運ぼうとしている公証役場で確認することをお勧めします。

④証人2人を依頼する

公正証書遺言を作成する際には、2名以上の証人が必要です。ただし前述したように、証人は誰でもいいわけではありません。以下のような人は証人になれないため、注意が必要です。

証人になれない人

  • 未成年
  • 推定相続人および受遺者並びにこれらの配偶者および直系血族
  • 公証人の配偶者、4親等以内の親族、書記および使用人

証人を依頼する際に、適切な相手が見つからない場合や遺言内容を知られたくない場合には、次のような方法があります。

  1. 法律の専門家に依頼する
    弁護士や司法書士などの法律の専門家に証人を依頼することができます。費用はかかりますが、専門家に依頼することで、手続きの正確性と信頼性が高まります。
  2. 公証役場で証人を紹介してもらう
    公証役場では、証人を紹介してもらうこともできます。この場合、証人1人あたりの費用(手数料)は公証役場によって異なりますが、通常は10,000円前後です。

⑤作成日の予約と必要書類の持参または郵送

公証人、遺言者、そして証人の都合の良い日時を調整し、予約を取ります。

必要書類は、郵送するか直接公証役場に持参してください。公証人は、事前に戸籍謄本やその他の書類を確認し、遺言書の作成に問題がないかをチェックします。事前に必要書類の確認をしてもらうことで、作成当日に確実に手続きを進められます。

⑥遺言公正証書案の作成と修正

公証人は、遺言者が提出したメモや必要書類をもとに、遺言公正証書の草案を作成します。この草案は、遺言者の意思を正確に反映したものです。作成された草案は、メールなどの方法で遺言者に提示されます。これにより、遺言者は自宅でじっくりと内容を確認することができます。

遺言者が草案を確認し、修正したい箇所があれば、その旨を公証人に伝えます。公証人はそれに従って遺言公正証書の草案を修正します。これを、遺言者が完全に納得するまで繰り返します。

最終的に、遺言者の希望通りに修正された遺言公正証書(案)が確定します。

⑦公証役場へ出向いて遺言書を作成する

公正証書遺言を作成するのは、基本的に公証役場で行われます。決定した作成日に、遺言者と証人2名以上が公証役場に出向きます。ただし、健康上の理由などで公証役場に出向けない場合には、公証人に自宅や病院などへの出張を依頼することも可能です。

当日の手続きは以下の流れで進行します。

遺言者が遺言内容を口頭説明

遺言当日には、遺言者が公証人と証人2名の前で、遺言の内容を口頭で伝えます。この時点で、公証人は遺言者の判断能力を確認し、遺言の内容が遺言者の真意であることを確認します。

遺言公正証書の読み聞かせと確認

公証人は、事前に準備した遺言公正証書の原本を、遺言者と証人2名に読み聞かせるか、または閲覧させます。これにより、遺言の内容に誤りがないかを確認します。もし内容に誤りがあれば、その場で修正することも可能です。

署名と押印

遺言の内容に間違いがない場合、遺言者と証人2名が遺言公正証書の原本に署名し、押印します。遺言者が署名や押印をすることができない場合には、代筆者が署名を行うことも可能です。この詳細については、後に解説する「公正証書遺言のメリット」を参照してください。

その後、公証人も遺言公正証書に署名し、押印します。公証人は、証書が法律に従って正しく作成されたことを付記します。これで公正証書遺言が正式に完成します。

公正証書遺言の作成と費用の精算

公正証書遺言は、原本と正本、謄本の3通が作成されます。原本は公証役場に保管され、正本と謄本が遺言者に渡されます。最後に、公正証書遺言の作成費用を精算して手続きが完了します。

このようにして、公正証書遺言の内容が確定し、法律的に有効な遺言書が完成します。遺言者が自分の真意を自由に述べられるようにするため、利害関係者はこの手続き中に席を外すことが求められます。

公正証書遺言の見本

法務省ホームページ「自筆証書遺言及び公正証書遺言の作成例」に公正証書遺言の見本が掲載されています。こちらを参照ください。

公正証書遺言の見本

公正証書遺言の作成を弁護士家に依頼する場合の手続きの流れ

弁護士に依頼する場合、まずはご自身で相続人の名前や主な相続財産、具体的な財産の分配方法をメモに書き出します。その後、当事務所に電話をして相談日時を予約してください。

公証役場に直接依頼する場合と大きな流れは変わりませんが、弁護士と相談しながら公正証書遺言を作成することで、遺産分割時のトラブルを避けるための最適なアドバイスを受けることができ、スムーズに進めることができます。

遺言書の内容が決まったら、弁護士が戸籍謄本などの必要書類を準備し、公証人と打ち合わせを行います。通常、依頼を受けた弁護士が証人の一人として立ち会うため、自分で探す必要がある証人は1人だけで済みます。また、弁護士が公証役場とのスケジュール調整も行うため、手続きが効率的に進みます。

公正証書遺言の作成当日の手順は、公証役場に直接依頼する場合と同じです。遺言者が遺言内容を口述し、公証人がそれを筆記し、読み上げて確認します。その後、遺言者と証人が署名・押印し、公証人も署名・押印して遺言公正証書が完成します。

弁護士にサポートを依頼することで、複雑な遺産分割や多くの相続人が関わる場合でも、法的な問題を適切に解決し、確実に遺言を残すことができます。公正証書遺言の内容に迷いがある場合や法的な疑問がある場合は、当事務所の弁護士にご相談ください。

遺言書を弁護士に依頼するメリットや費用相場などについては、下記記事で詳しく解説しております。遺言書作成を検討されている方はぜひご覧ください。

遺言書作成を弁護士に依頼するメリットと費用の相場

公正証書遺言を作成する際にかかる費用

公正証書遺言を作成する際の手数料は、遺言に記載する財産の価格によって異なります。公証人に支払う手数料は、財産の額に応じて定められており、相続を受ける人ごとに手数料を合算して算出します。

公正証書遺言の費用については、下記記事で詳しく解説しております。詳細に知りたい方は下記の記事をご覧ください。

公正証書遺言の作成費用│公証役場や証人への手数料、専門家の報酬はいくら?

公正証書遺言の手数料一覧

目的の価額

手数料 

100万円以下

5,000円

100万円を超え200万円以下

7,000円

200万円を超え500万円以下

11,000円

500万円を超え1,000万円以下

17,000円

1,000万円を超え3,000万円以下

23,000円

3,000万円を超え5,000万円以下

29,000円

5,000万円を超え1億円以下

43,000円

1億円を超え3億円以下

43,000円 + 超過額5,000万円ごとに13,000円加算

3億円を超え10億円以下

95,000円 + 超過額5,000万円ごとに11,000円加算

10億円を超える場合

249,000円 + 超過額5,000万円ごとに8,000円加算

(引用:日本公証人連合会「Q7.公正証書遺言の作成手数料は、どれくらいですか?」)

手数料を計算する際の注意点

1. 財産価額ごとの手数料

まず、財産の相続または遺贈を受ける人ごとにその財産の価額を算出し、以下の基準表に当てはめて対応する手数料額を求めます。この手数料額を合算して、遺言全体の手数料を算出します。

2. 遺言加算

相続財産が1億円以下の場合、上記の基準表で算出された手数料額に1万1,000円が加算されます。これを「遺言加算」といいます。

3. 文書の枚数による手数料

遺言公正証書は通常、原本、正本、および謄本を各1部作成します。原本は公証役場で保管され、正本と謄本は遺言者に渡されます。原本の枚数が4枚(横書きの場合は3枚)を超える場合、超過する1枚ごとに250円の手数料が加算されます。また、正本および謄本の交付には、1枚あたり250円の手数料が必要です。

4. 出張手数料と追加費用

遺言公正証書を作成する場所によっても手数料が変わります。例えば、遺言者が病床にある場合や、高齢や病気のために公証役場に行けない場合には、公証人が病院や自宅などに出張して遺言を作成することができます。この場合、通常の手数料に加えて、公証人の日当や交通費が必要となります。また、病床で作成する場合には、手数料が50%加算されることがあります。

5. その他の費用

公正証書遺言の作成費用には、他にも様々な要素が影響することがあります。具体的な手数料の算定に際して、特別な事情や追加の手続きが必要になる場合がありますので、不明な点や特別な条件については、公証役場に直接問い合わせることをお勧めします。

手数料以外にかかる費用

公正証書遺言を作成する際には、公証役場への手数料のほかに、以下のような追加費用がかかる場合があります。これらの費用も考慮に入れて、準備を進めましょう。

1. 必要書類の取得費用

遺言作成には、戸籍謄本や印鑑証明などの書類が必要です。これらの取得費用は、1,000円から5,000円程度かかります。具体的な費用は、遺言者と相続人との関係や人数によって異なります。

2. 証人への日当

公正証書遺言の作成には、2名以上の証人が必要です。適当な証人が見つからない場合、公証役場で証人を紹介してもらうことも可能ですが、その際には証人への日当として1名あたり約10,000円が必要です。

3. 専門家への作成代行費用

弁護士や行政書士などの専門家に公正証書遺言の作成を依頼する場合、作成代行費用がかかります。一般的には、10万円から20万円程度の費用が必要です。

公正証書遺言のメリット

①無効になる心配がない

公正証書遺言は、自筆証書遺言と比べて、非常に安全で確実な遺言方法です。公正証書遺言を作成する公証人は、裁判官、検察官、弁護士としての長年の経験を持つ法曹資格者や、法律事務に長く携わってきた専門家で、正確な法律知識と豊富な実務経験を備えています。

このため、複雑な内容の遺言であっても、法的にきちんと整理され、適切に作成されます。さらに、公証人が作成する公正証書遺言は、法律に基づいて行われるため、形式的な不備で遺言が無効になる心配がありません。

②自分で書く必要がない│署名・押印ができなくても作成できる

公正証書遺言の大きなメリットの一つは、遺言者が自分で手書きする必要がないことです。自筆証書遺言では、財産目録を除いて全文を自分で手書きする必要があります。そのため、体力が弱っていたり、病気で手書きが困難な場合には、自筆証書遺言を作成するのが難しくなります。

しかし、公正証書遺言では、遺言者が手書きする必要がありません。公証人に依頼することで、遺言内容を口述し、公証人がそれを文書にまとめます。これにより、手書きが困難な方でも確実に遺言を残すことができます。

さらに、公正証書遺言では、遺言者が署名できない場合でも問題ありません。公証人が遺言公正証書に「病気のため」などの理由を記載し、公証人の職印を押捺することで、遺言者の署名に代えることができます。これにより、遺言者が署名できなくても、遺言が法的に有効になります。

また、遺言者が押印することもできない場合には、公証人が遺言者の意思に従って、遺言者の面前で代わりに押印することも認められています。このように、公正証書遺言は、遺言者の体調や状況に柔軟に対応できるため、安心して遺言を作成することができます。

③公証人の出張が可能

公正証書遺言の大きなメリットの一つは、公証人が出張してくれることです。これは特に、遺言者が高齢で体力が弱っている場合や、病気で公証役場に行けない場合に非常に便利です。

遺言者が公証役場に出向くのが難しい場合、公証人が遺言者の自宅や老人ホーム、介護施設、病院などに出張して、公正証書遺言を作成してくれます。これにより、遺言者は自分がいる場所で安心して遺言を作成することができます。

④遺言の検認が不要

検認とは、相続人に遺言書の存在を明らかにし、偽造や改ざんを防ぐための手続きです。自筆証書遺言の場合、遺言者が亡くなった後に遺言書の保管者や発見者が家庭裁判所に遺言書を提出し、相続人の立ち会いのもとで内容を確認する必要があります。この手続きには時間がかかることがあり、相続手続きを開始するまでに遅れが生じることがあります。

しかし、公正証書遺言の場合は、作成時にすでに法的な有効性が確認されているため、家庭裁判所での検認が不要です。これにより、遺言者が亡くなった後、すぐに相続手続きを開始することができます。

⑤公証役場で原本が保管される

公正証書遺言の大きなメリットの一つは、遺言書の原本が公証役場に安全に保管されることです。これにより、遺言書が紛失する心配がなく、遺言書が破棄されたり、隠されたり、改ざんされたりするリスクも全くありません。

さらに、日本公証人連合会では、平成26年以降に作成された全国の公正証書遺言の原本について、電磁的記録(PDF形式)を作成し、二重に保存するシステムを構築しています。これにより、震災などの災害で遺言書の原本や正本、謄本が全て滅失した場合でも、復元が可能です。

公正証書遺言のデメリット

①費用がかかる

公正証書遺言を作成するには、手数料がかかります。財産の価額に応じて手数料が変わるため、高額な財産を含む遺言を作成する場合、費用がかなり高くなることがあります。また、公証人の出張費用や専門家への依頼費用も加わるため、全体的な費用負担が大きくなる可能性があります。

②作成に時間がかかる

公正証書遺言を作成するには、証人の準備や公証役場での手続きに時間がかかります。予約の取りづらさや、公証人とのスケジュール調整、必要書類の収集などに時間を要するため、急いで遺言を作成したい場合には対応が難しいことがあります。

③公証人と証人に遺言内容を知られる

公証人と証人2名が立ち会うため、遺言の内容がこれらの第三者に知られることになります。特に、家族内の微妙な問題や個人的な内容を含む遺言では、この点が気になるかもしれません。

一方で、自筆証書遺言は、自分以外の誰にも知られずに作成することが可能です。これに対し、公正証書遺言は公証人と証人2名が関与するため、遺言の内容が少なくとも3人に知られることになります。

しかしながら、公証人と証人には守秘義務が課せられており、遺言の内容を外部に漏らさない義務があります。このため、遺言内容が外部に漏れることは通常ないと考えられます。

公正証書遺言と自筆証書遺言はどちらを作成するべき?

遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類がある

遺言にはいくつかの種類がありますが、一般的に使われているのが「普通方式遺言」です。この普通方式遺言には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つがあります。

自筆証書遺言とは

自筆証書遺言とは、遺言者が自分で全文を手書きして作成する遺言書のことです。この方法は、遺言者が自分一人で簡単に作成できるため、費用がかからず、いつでも作成・修正できるのが特徴です。遺言書の内容や日付、署名もすべて手書きで行い、押印をする必要があります。

秘密証書遺言とは

秘密証書遺言とは、遺言の内容を他人に知られないようにしつつ、遺言書の存在を公的に証明できる遺言の方法です。遺言者が遺言書を自書または他人に書いてもらい、署名・押印します。その後、遺言書を封筒に入れ、封をした状態で、公証人と証人の前で手続きを行います。

公正証書遺言と自筆証書遺言の違い

公正証書遺言と自筆証書遺言には、さまざまな違いがあります。それぞれの特徴を表でまとめた上で、具体的な違いについてわかりやすく解説します。

 

公正証書遺言

自筆証書遺言 

無効となる危険性

公証人が関与するため、法律的に不備がなく無効になる危険性が低い

法律的に不備があると無効になる可能性が高い

字が書けない場合

公証人が代筆し、署名できなくても作成可能

全文を自書する必要があり、手が不自由だと作成困難

本人確認

公証役場に出頭(事情に応じて公証人の出張が可能)

不要(自筆証書遺言保管制度を利用する場合は法務局に出頭)

検認手続の要否

検認手続が不要

家庭裁判所で検認手続が必要(法務局保管制度利用時は不要)

証人の要否

証人2名が必要

証人は不要

保管上の危険性

公証役場で保管されるため安全

自宅で保管すると紛失や改ざんの危険がある(自筆証書遺言保管制度を利用すれば法務局で保管されるため安全)

費用の有無

作成に手数料が必要(相談は無料)

作成費用は不要(自筆証書遺言保管制度利用時は手数料3,900円が必要)

公正証書遺言と自筆証書遺言の違いについては、法務局ホームページでもまとめられていますので下記ページも参照してください。

参考:法務局ホームページ「自筆証書遺言と公正証書遺言の違い

なお、自筆証書遺言保管制度については下記記事で解説しております。あわせてご覧ください。

自筆証書遺言保管制度とは?法務局に遺言書を預けるデメリットはある?

公正証書遺言を作成する際は遺留分にも注意

公正証書遺言を作成する際には、遺留分にも十分注意する必要があります。遺留分とは、法定相続人に保障された最低限の取り分のことで、遺留分権利者が遺産の一定割合を確保できるよう法律で定められています。配偶者や子供、直系尊属などの法定相続人には遺留分が認められていますが、被相続人の兄弟姉妹には遺留分はありません。

遺留分について詳しくは下記記事を参照してください。

遺留分とは?最低限の遺産を請求できる相続人の範囲や割合と請求方法

公正証書遺言を作成する際に遺留分を考慮しないと、遺留分を侵害された遺留分権利者が、遺留分侵害額請求をする可能性があります。

遺留分を侵害している相続人や受遺者は、遺留分に相当する金額を遺留分権利者に支払う義務を負います。場合によっては、遺留分を侵害している財産が不動産の場合、その不動産を売却して金銭を準備する必要が生じることもあります。

したがって、公正証書遺言を作成する際には、遺留分を侵害しないよう注意することが重要です。遺言の内容を決定する前に、弁護士に相談することで、遺留分を考慮した上で円満に相続が進むような遺言内容にすることができます。公正証書遺言を作成する際は、遺留分にも配慮し、弁護士の助言を活用することを強くおすすめします。

公正証書遺言に関するQ&A

Q: 公正証書遺言とはどのようなものですか?

A: 公正証書遺言とは、遺言者が公証人と証人2名の前で遺言の内容を口頭で伝え、公証人がそれを文章にまとめた遺言書のことです。遺言者が遺言の内容を告げた後、公証人はそれが遺言者の真意であることを確認し、文章にまとめます。次に、公証人が作成した文章を遺言者と証人2名に読み聞かせ、または閲覧させ、内容に間違いがないことを確認します。その後、遺言者と証人2名が署名・押印し、公正証書遺言として正式に作成されます。民法では「証人二人以上」と定められていますが、通常、証人は2名で行われます。

Q: 公正証書遺言の証人は誰に依頼すればよい?

A: 公正証書遺言を作成するためには、証人2名の立会いが必要です。遺言者が自分の真意を確認し、手続きが適切に行われたことを証明するための重要な役割を担います。証人は遺言者側で手配することができますが、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 未成年者は証人になれません。
  2. 推定相続人(遺産を相続する可能性がある人)は証人になれません。
  3. 遺贈を受ける者(遺産を受け取る予定のある人)は証人になれません。
  4. 推定相続人および遺贈を受ける者の配偶者や直系血族も証人になることができません。

適切な証人が見つからない場合には、公証役場で証人を紹介してもらうことも可能です。このサービスを利用する際は、手数料が発生する場合がありますので、事前に公証役場に確認してください。

Q: 公正証書遺言はいつまで保管してもらえる?

A: 公正証書遺言は、公証役場で非常に長期間保存されます。公証人法施行規則第27条では、公正証書の保存期間は原則として20年と定められています。しかし、遺言公正証書は「特別の事由」に該当するため、さらに長期間保存されることが一般的です。

具体的には、遺言者の死亡後50年間、または証書作成後140年間、もしくは遺言者の生後170年間のいずれか長い期間保存されます。

Q: 親が亡くなりました。公正証書遺言が作成されているかどうかを調べることができますか?

A: はい、亡くなった方の公正証書遺言が作成されているかどうかを調べることができます。平成元年以降に作成された公正証書遺言については、日本公証人連合会が管理する遺言情報管理システムで検索可能です。このシステムでは、全国の公証役場で作成された遺言公正証書の情報(作成公証役場名、公証人名、遺言者名、作成年月日など)を確認できます。

遺言公正証書の有無や保管場所を検索するためには、お近くの公証役場に申し出る必要があります。遺言検索の申出は無料で行えますが、秘密保持のため、相続人などの利害関係者のみが申請可能です。

まとめ

公正証書遺言を作成する際には、手数料がかかることや、証人2名の立会いが必要であることなどの注意点がありますが、その分、遺言の無効リスクを避けることができ、検認手続きが不要であるため、相続手続きがスムーズに進むという大きなメリットがあります。また、遺言書の原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配もありません。

公正証書遺言は、自分自身でも作成可能ですが、手続きが複雑であるため、専門家に依頼することでより確実に作成できます。

弁護士にサポートを依頼することで、複雑な遺産分割や多くの相続人が関わる場合でも、法的な問題を適切に解決し、確実に遺言を残すことができます。公正証書遺言の内容に迷いがある場合や法的な疑問がある場合は、当事務所の弁護士にご相談ください。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。1,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。