遺言書の検認│裁判所への申立手続きの流れや終わったらどうするかを解説
自筆証書遺言の場合、遺言書を家庭裁判所に提出し、相続人全員の立ち会いのもとで開封し内容を確認することが法律で義務付けられています。この手続きを「遺言書の検認」といいます。
しかし、遺言書の検認が必要な状況や、検認に立ち会えない場合の対処法などについて疑問や不安を抱える方も少なくありません。そこで、この記事では遺言書の検認の必要性、手続きの流れ、そして検認が終わった後の流れなどについて弁護士が詳しく解説します。遺言書の検認手続きを理解し、適切に進めることで、相続に伴うトラブルを未然に防ぎ、遺産分割を円滑に進めることができます。遺言に関する知識を深めることで、安心して相続手続きを進めることができますので、ぜひ最後までご一読ください。
目次
遺言書の検認とは?
遺言書の検認とは、わかりやすくいうと、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。
これは、遺言書の保管者や発見者が、遺言者の死後に家庭裁判所に提出し、相続人の立ち会いのもとで遺言書の内容を確認することを指します。
遺言書の検認について、民法1004条にて以下のように定められています。
第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
(e-Gov法令検索「民法1004条」)
また、家庭裁判所のホームページでは、検認について次のように説明されています。
(引用:裁判所HP(遺言書の検認)
検認の主な目的は以下の2つです。
- 相続人に対して遺言書の存在と内容を知らせること。
- 遺言書の偽造や変造を防止すること。
また、注意すべき点として、遺言書は家庭裁判所で開封しなければならず、自宅などで勝手に開封してはいけません。検認を受けずに遺言書を勝手に開封した場合、遺言書そのものが無効になるわけではありませんが、他の相続人から偽造・変造を疑われるリスクや、金融機関や不動産の名義変更手続きが行えないなどのリスクが生じます。
効力を確定させる手続きではない
遺言書の検認は、遺言書の存在と内容を確認し、偽造や改ざんを防止するための手続きです。しかし、この手続きが完了したからといって、その遺言書が法的に有効であると確定するわけではありません。検認はあくまで遺言書の現状を確認するものであり、その効力を判断する手続きではないのです。
なぜ検認が効力を確定しないのか
検認手続きでは、家庭裁判所が遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名などを確認します。しかし、これらの確認事項は遺言書が偽造や改ざんされていないことを確かめるためのものであり、遺言書自体が法律的に有効かどうかを判断するものではありません。
例えば、遺言書が自筆証書遺言の場合、手書きであること、日付が明記されていること、署名があることなどの要件を満たしていない場合、後に遺言書の効力が否定される可能性があります。また、遺言内容が法的要件を満たしていない場合も同様です。
遺言書の内容や形式が法的要件を満たしているかどうかは、後に行われる別の手続きで確認されます。そのため、検認が完了しても、遺言書の効力について異議がある場合は、相続人が裁判所に申し立てることができます。
遺言書の検認が必要なケースと不要なケース
遺言書の検認が必要な場合と不要な場合をまとめると以下のとおりです。
遺言書の種類ごとの検認の要・不要
遺言書の種類 |
検認の必要性 |
特徴 |
---|---|---|
自筆証書遺言(本人が保管などの場合) |
必要 |
遺言者が全文を手書きで作成し、自身で保管。偽造や改ざんのリスクがあるため、家庭裁判所での検認が必要。 |
自筆証書遺言(法務局の保管制度を利用) |
不要 |
法務局に預けて公的に保管されるため、偽造や改ざんのリスクが低く、検認手続きが不要。 |
秘密証書遺言 |
必要 |
内容を秘密にしたまま公証役場で存在を証明。遺言書の保管は遺言者自身が行うため、偽造や改ざんのリスクがある。 |
公正証書遺言 |
不要 |
公証人が作成し、公証役場で保管されるため、偽造や改ざんのリスクが極めて低く、検認手続きが不要。 |
それぞれについて以下で詳しく解説していきます。
自筆証書遺言と秘密証書遺言は遺言書の検認が必要
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、遺言書の検認が必要です。自筆証書遺言とは、遺言者が全文を手書きで作成する遺言書のことです。作成後は遺言者自身が保管するため、偽造や改ざんのリスクが存在します。そのため、遺言者の死後、家庭裁判所に提出し、相続人全員の立ち会いのもとで開封し内容を確認する必要があります。この手続きを通じて、遺言書の内容が改ざんされていないことを確認し、相続人に遺言の存在と内容を知らせることが目的です。
秘密証書遺言は、遺言書の内容を秘密にしたまま、公証役場でその存在のみを証明してもらう形式の遺言書です。公証人と2人の証人が遺言書の存在を証明しますが、内容については確認しません。遺言書の保管は遺言者自身が行うため、こちらも偽造や改ざんのリスクがあります。そのため、秘密証書遺言も家庭裁判所での検認が必要です。遺言書の本文はパソコンで作成しても良いですが、署名は直筆でなければなりません。
ただし、法務局で保管された自筆証書遺言書は検認が不要
法務局で保管された自筆証書遺言は、検認が不要です。2020年から始まった「自筆証書遺言書保管制度」により、遺言者が自筆証書遺言を法務局に預けることができるようになりました。この制度を利用すると、遺言書は公的に保管されるため、偽造や改ざんのリスクが低減され、検認手続きが不要となります。法務局に保管された遺言書は、遺言者の死後に相続人が直接法務局に遺言書の写しを請求することができるため、遺産分割手続きを迅速かつスムーズに進めることが可能です。
この制度は、遺言書の法的効力を確保しつつ、相続手続きを簡略化するために設けられています。
「自筆証書遺言書保管制度」について、詳くは下記記事を参照してください。
公正証書遺言は検認が不要│勝手に荷風しても問題ない
家族が残した遺言書が公正証書遺言であれば、検認が不要です。すぐに開封しても何ら問題はありません。
公正証書遺言は、公証役場の公証人によって作成される遺言書で、法的な効力がほぼ確実です。公証人が遺言者の意思を確認し、2人の証人が関与しているため、偽造や改ざんのリスクが非常に低いとされています。
公正証書遺言の原本は公証役場に保管され、遺言者の死後、相続人は公証役場で遺言書の内容を確認することができます。公的な保管が行われているため、家庭裁判所での検認手続きを経る必要がなく、遺産分割手続きが迅速に進められます。
公正証書遺言について、詳しくは下記記事を参照してください。
遺言書の検認をしないとどなる?
相続手続きを進められない
遺言書の検認を行わないと、相続手続きを進めることができません。被相続人の銀行口座や証券の名義変更、解約、相続登記などの手続きを進める際には、検認済証明書を提出する必要があります。検認済証明書とは、遺言書の検認が完了したことを証明する書類です。この証明書がなければ、金融機関や不動産登記所などで相続手続きを進めることができません。
具体的には、不動産の名義変更、預貯金の払い戻し、預金口座の名義変更、株式の名義変更などの手続きには検認済証明書が必要です。遺言書が検認されていないと、これらの手続きを行うことができず、相続財産の分配が滞ってしまいます。
さらに、遺言書の内容を確認しなければ、相続人が「相続放棄をするか」や「遺留分侵害額請求をするか」といった重要な判断をすることもできません。検認手続きを通じて遺言書の内容を明確にすることは、相続人が適切な行動を取るためにも必要不可欠です。
検認せずに開封すると過料が科される可能性も
遺言書の検認を行わずに自筆証書遺言や秘密証書遺言を開封してしまうと、違法行為とみなされることがあります。具体的には、遺言書を検認せずに勝手に開封すると、5万円以下の過料が科される可能性があります。
第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
(e-Gov法令検索「民法1005条」)
検認手続きを行わずに開封してしまうと、他の相続人から疑念を抱かれるだけでなく、法律的な罰則を受けるリスクもあるため、必ず家庭裁判所での検認を経てから遺言書を開封するようにしましょう。
遺言書の検認に期限はない
遺言書の検認には特定の法定期限は設けられていませんが、遺言者の死亡を知った後は「遅滞なく」家庭裁判所に提出し、検認を請求することが求められています(民法1004条)。これは、遺言書の内容を早期に明確にし、偽造や変造を防止するための措置です。
遺言書を発見したり保管していた場合、可能な限り速やかに検認手続きを開始することが推奨されています。検認手続きを怠ると、相続手続き全般に影響が出る可能性が高まります。具体的には、相続放棄や遺留分侵害額請求、さらには相続税の申告・納付といった重要な手続きに影響を及ぼします。
相続手続きの期限一覧
手続きの種類 |
期限 |
説明 |
---|---|---|
相続放棄 |
相続開始があったことを知った日から3カ月以内 |
相続放棄は、相続するか否かを決定する重要な手続きで、期限内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。 |
遺留分侵害額請求 |
相続開始と遺留分侵害を知った日から1年以内 |
遺留分侵害が発生した場合、遺留分権利者はこの期間内に侵害額を請求することができます。 |
相続税の申告・納付 |
相続開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内 |
相続税の申告・納付は、期限内に税務署に対して正確に行う必要があります。 |
遺言書の検認を怠ることで、これらの期限に間に合わず、相続人間のトラブルや法的リスクが生じる可能性があります。検認手続きには申立から完了までに数週間から2カ月程度かかることが一般的です。そのため、遺言者の死亡後、できるだけ早く家庭裁判所に検認を申し立てることが重要です。
遺言書の検認に法定期限はありませんが、相続手続き全体のスムーズな進行とトラブル回避のためには、迅速な検認手続きが強く求められます。検認を早期に行うことで、相続人全員が安心して相続手続きを進めることができるようになります。
検認の申立て手続きの流れ
申立人の条件と申立て先の家庭裁判所
遺言書の検認は、誰でも申立てられるわけではありません。検認の手続きを進めるためには、特定の条件を満たした申立人が必要です。検認の申立てができるのは以下の人です。
遺言書の保管者 |
遺言者の遺言書を正式に保管している人。親族に限らず、介護者や友人が保管している場合も含まれます。保管者は速やかに検認の申立てを行う必要があります。 |
遺言書を発見した相続人 |
遺言者の遺言書を見つけた相続人。通常は遺言者の子供や配偶者など。遺言書を見つけた相続人は、その遺言書の内容に基づいて相続手続きを進めるため、家庭裁判所に検認の申立てを行う必要があります。 |
申立て先の家庭裁判所は、遺言者にとって最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。基本的には遺言者の住民票が登録されている現住所を基準にします。遺言者の住民票が登録されている市区町村を管轄する家庭裁判所に、必要な書類を揃えて申立てを行うことが求められます。
家庭裁判所の管轄エリアは、家庭裁判所のホームページで確認できます。
①必要書類を準備する
遺言書の検認を家庭裁判所に申し立てる際には、いくつかの書類が必要となります。
必要書類一覧
書類名 |
説明 |
---|---|
遺言書(自筆または秘密証書遺言) |
検認を受ける遺言書そのもの。自筆証書遺言や秘密証書遺言が該当。 |
遺言者の戸籍謄本 |
遺言者の出生から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改正原戸籍)。遺言者の身元確認のために必要。 |
相続人全員の戸籍謄本 |
相続人全員の戸籍謄本。相続人の身元確認と相続関係を明確にするために必要。 |
検認の申立書 |
家庭裁判所に提出する正式な申立書類。裁判所のホームページ「遺言書の検認の申立書」から入手可能で、事前に記入しておくとスムーズ。 |
当事者目録 |
申立てに関わる当事者の情報を記載した目録。これも裁判所のホームページ「遺言書の検認の申立書」から入手できる。 |
収入印紙 |
検認の申立書に貼付する。遺言書1通につき800円分の収入印紙が必要。 |
郵便切手 |
相続人への連絡用。必要な額や種類は家庭裁判所によって異なるため、事前に確認して準備する。 |
なお、法定相続情報一覧図を事前に作成して法務局で保管している場合、戸籍謄本の代わりにこの一覧図を提出することができます。法定相続情報一覧図は、相続人の関係を図示したもので、相続手続きを簡略化するための便利な書類です。
また、上で挙げた必要書類は一般的に必要となる書類です。相続人の状況によっては、追加で必要となる戸籍謄本等がありますので、詳しくは家庭裁判所ホームページ「遺言書の検認」を参照してください。
②申立書を作成する
申立書と当事者目録は裁判所の公式サイトからダウンロード可能です。事前にこれらの書類を入手し、必要事項を記入しておくことで、申立て当日に余計な手間を省くことができます。裁判所のホームページ「遺言書の検認の申立書」では、申立書の記載例も掲載されていますので、作成する際は参考にしてください。
③家庭裁判所に「遺言書の検認」を申立てる│郵送も可
まず、遺言書の検認を申し立てる申立人を決めます。検認当日に立ち会う必要があるため、検認に立ち会うことが可能な人を申立人に選ぶことが重要です。ただし、相続人全員が立ち会う必要はなく、立ち会えない相続人がいても問題ありません。
検認の申立ては、遺言者の最後の居住地を管轄する家庭裁判所に行います。なお、家庭裁判所の窓口に行かなくても、郵送で申立てを行うことが可能です。
④相続人全員に遺言書検認期日通知書が届く
遺言書の検認を家庭裁判所に申し立てると、他の相続人に対して検認期日の通知が行われます。この通知は「遺言書検認期日通知書」として相続人全員に送付されます。
遺言書検認期日通知書は、検認の手続きがいつ行われるかを相続人に知らせるための重要な書類です。この通知書が送付されることで、相続人は家庭裁判所での検認手続きに立ち会うことができ、遺言書の内容を直接確認する機会が与えられます。検認期日には、遺言書の内容や形状、署名などが確認され、遺言書が偽造や改ざんされていないことを公式に確認します。
検認を申し立てる前に、他の相続人に対して検認を申し立てることを事前に伝えておくと、手続きがよりスムーズに進みます。相続人同士で事前に連絡を取り合うことで、検認期日への理解と協力が得やすくなります。また、遺言書の存在を知らなかった相続人にとっても、事前の連絡があることで突然の通知に驚くことなく対応できるでしょう。
⑤検認期日│遺言書の開封に立ち会う
検認期日には、家庭裁判所において申立人、立ち会う相続人、裁判所の職員が集まり、遺言書の開封を行います。この手続きは、遺言書の内容を公式に確認し、偽造や改ざんを防止するための重要なステップです。所要時間はおよそ10分から15分程度です。
検認期日当日の流れ
- 家庭裁判所に集合 検認期日には、申立人と立ち会う相続人が家庭裁判所に出頭します。裁判所の職員も同席し、手続きを進めます。なお、申立人以外の相続人が立ち会えなくても手続きに支障はありません。
- 遺言書の開封 家庭裁判所で遺言書が開封されます。遺言書の形状、署名、日付、加除訂正の状態などが確認され、遺言書が偽造や改ざんされていないことを確認します。
検認期日に必要な持ち物
検認期日に必要な持ち物は以下の通りです。
持ち物 |
説明 |
---|---|
開封前の遺言書(原本) |
検認手続きを行う遺言書そのものです。 |
検認期日通知書など一式 |
裁判所から送られてきた検認期日を通知する書類一式を持参します。 |
身分証明書(運転免許証など) |
申立人および立ち会う相続人の身分を証明する書類です。 |
印鑑(認印) |
署名が必要な場合に備えて印鑑を持参します。 |
収入印紙150円分 |
「検認済証明書」を発行するための手数料として必要です。 |
なお、検認期日に立ち会えなかった相続人には、後日、家庭裁判所から検認の終了通知が送付されます。これにより、全ての相続人が遺言書の検認が完了したことを知ることができます。
⑥検認済証明書を申請する
遺言書の検認が終わったら、次に家庭裁判所に「検認済証明書」を申請して遺言書に添付してもらいます。検認済証明書は、検認が完了したことを公式に証明する書類であり、これがないと相続手続きが進められません。不動産の登記や銀行での預金払い戻しなど、多くの相続手続きにおいて、検認済証明書が必要となります。例えば、相続による不動産の名義変更を行う際や、遺言書に記載された預金を払い戻す際に、検認済証明書が添付されていないと手続きを受け付けてもらえません。
検認手続きにかかる期間
遺言書の検認を家庭裁判所に申し立ててから検認期日までの期間は、一般的に1~2カ月程度です。この期間は、家庭裁判所の業務状況や各相続人への通知手続きなどによって多少の変動があります。
また、検認の申し立てを行うためには、多くの戸籍謄本や必要書類を揃える必要があります。遺言者の出生から死亡時までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本などを収集するのには時間がかかります。これらの書類の準備には、通常1カ月程度かかることがあります。
したがって、遺言書を発見してから検認の手続きを終えるまでには、全体で2~3カ月程度かかると見ておくのが良いでしょう。
遺言書の検認は申立人以外は欠席しても問題ない
遺言書の検認が家庭裁判所に申し立てられた場合、家庭裁判所は相続人全員に検認期日を通知します。しかし、相続人全員が検認期日に出席する義務はありません。申立人を除く相続人は、検認期日に欠席してもペナルティや罰則はなく、遺言書の検認手続き自体が中断されることもありません。
検認期日に出席するかどうかは、各相続人の判断に委ねられています。相続人全員が揃っていなくても、家庭裁判所での遺言書の検認手続きは問題なく進められます。欠席することを家庭裁判所に事前連絡する必要もありません。また、相続人本人が出席できない場合は、弁護士を代理人として出席させることも可能です。
ただし、申立人だけは特別な役割を担っており、検認期日に遺言書の原本や必要書類を持参・提出する必要があります。そのため、申立人は必ず検認期日に出席しなければなりません。
検認期日を欠席するデメリット
相続人が検認期日に欠席しても、ペナルティはありませんが、いくつかのデメリットがあります。最大のデメリットは、遺言書の内容を確認するタイミングが遅れることです。検認期日に出席することで、遺言書の内容を直接確認できるため、相続手続きを迅速に進めることが可能です。遺言書を早めに確認したい場合は、検認期日に出席することが望ましいでしょう。
どうしても都合がつかない場合は、弁護士に代理出席を依頼することも一つの選択肢です。代理人が出席することで、遺言書の内容を速やかに把握し、相続手続きを遅滞なく進めることができます。
検認済通知書が送られてこない場合
遺言書の検認手続きが完了すると、家庭裁判所から相続人に対して検認済通知書が送付されることになっています。しかし、検認済通知書が送られてこない場合には、いくつかの理由が考えられます。
1. 検認手続きが完了していない場合
まず、検認手続き自体がまだ完了していない可能性があります。遺言書の検認手続きは、申立てから検認期日の設定、検認の実施、そして検認済証明書の発行までに一定の時間がかかります。通常、検認手続きが完了するまでには1〜2カ月程度かかることが一般的です。そのため、手続きがまだ進行中である可能性があります。検認手続きの進行状況については、家庭裁判所に問い合わせることで確認することができます。
2. 郵送の遅延や配送上の問題
検認手続きが完了している場合でも、検認済通知書が郵送の遅延や配送上の問題で届かないことがあります。この場合も、家庭裁判所に連絡を取り、検認済通知書の発送状況を確認することが重要です。郵便局の配送状況や家庭裁判所の発送手続きに問題がないかを確認しましょう。
検認当日に立ち会わなかった相続人に対しては、後日、家庭裁判所から検認済通知書が発送されます。もし検認済通知書が届かない場合には、家庭裁判所に問い合わせて、検認調書のコピーを取り寄せることができます。検認調書は、検認手続きの詳細を記録した書類であり、検認済通知書が届かない場合の代替として使用することができます。
遺言書の検認が終わったら?その後の手続きの流れ
①遺言書の内容を確認する
遺言書の検認が終わったら、まず最初に行うべきステップは「遺言書の内容を確認する」ことです。この確認作業は、遺言書に記載されている相続財産が全て網羅されているかどうかを確認するために非常に重要です。
全ての相続財産が記載されているか確認
遺言書に全ての相続財産が記載されているかを確認しましょう。遺言書に記載された財産には、不動産、預貯金、株式、貴金属などが含まれます。この段階で、全ての財産が記載されていることが確認できれば、次のステップに進むことができます。
遺言書に全ての相続財産が記載されていない場合
もし遺言書に全ての相続財産が記載されていない場合は、相続手続きを進める前に遺産分割協議を行う必要があります。遺言書に記載されていない財産については、相続人全員で協議し、分割方法を決定します。
例えば、遺言書に不動産は記載されているが預貯金が記載されていない場合、預貯金の分割方法について相続人間で合意を得る必要があります。この協議は、遺言書に記載されている財産の相続手続きにも影響を与えるため、慎重に進めることが重要です。
②遺言執行者を確認する
遺言書の検認が完了したら、次に行うべきステップは「遺言執行者を確認する」ことです。
遺言執行者とは、遺言者の意思を実現するために指定される人物であり、遺言書に記載された内容を具体的に実行します。遺言執行者の主な役割には、以下のようなものがあります。
- 遺言書に記載された財産の分配
- 不動産の名義変更
- 銀行口座の解約や預貯金の分配
- 遺言書に記載された特定の指示の実行(例:寄付の実行など)
遺言執行者が指定されている場合、遺言書の本文にその旨が記載されています。具体的には、次のような形で記載されます。
「この遺言書の執行者として、〇〇を任命する。」
遺言執行者が明確に記載されている場合、その人物が遺言書の内容を実行する責任を負います。
③財産目録を作成する
遺言書の検認が完了し、遺言執行者が確認されたら、次に行うべきステップは「財産目録を作成する」ことです。
財産目録とは、遺言者が残した全ての財産を一覧にまとめたものです。この目録には、土地、建物、預貯金、株式、債券、その他の資産が含まれます。財産目録を作成することで、相続人が受け取るべき財産の内容と場所が明確になり、相続手続きを円滑に進めることができます。
遺言執行者は、遺言書の内容を実現するために、相続財産の管理やその他遺言の執行に必要な一切の行為を行う権限を持っています。そのため、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が遺言書をもとに財産目録を作成します。
遺言執行者が指定されていない場合や、遺言執行者が相続人の一人である場合、実情として財産目録が作成されないこともあります。しかし、相続人全員で協力し、財産の詳細を把握する必要があります。財産目録を作成することで、相続財産の分配が明確になり、後々のトラブルを防ぐことができます。
④各種相続手続きを進める
遺言書に記載されている財産に基づき、各相続人はそれぞれの相続手続きを進めます。
相続した財産の種類と行う手続き |
相続手続きを行う場所 |
---|---|
不動産の相続登記 |
法務局 |
預貯金の解約・名義変更 |
銀行 |
株・投資信託の解約・名義変更 |
証券会社 |
生命保険の保険金の請求・解約・契約者変更 |
生命保険会社 |
自動車の名義変更(移転登記) |
運輸支局 |
自筆証書遺言の場合、相続手続きを進める際に検認済証明書が必要となります。検認済証明書とは、検認が終わったことを証明する家庭裁判所から受け取る書類で、遺言書の原本と裁判官による証明書が綴られて割印されたものです。相続手続きを行う際には、必ずこの検認済証明書を持参するようにしましょう。
遺言書の検認後でも異議申し立てはできる?
遺言書の検認が完了した後でも、異議申し立てを行うことは可能です。検認手続きは、遺言書の内容や形式が法的に有効であることを証明するものではなく、あくまで遺言書が存在し、その内容が確認されたことを示す手続きです。したがって、遺言書の内容に不服がある場合には、検認後でも異議を申し立てることができます。
遺言書に対する異議申し立ての理由
異議申し立ての理由は様々ですが、主なものには以下のようなケースがあります:
- 遺言能力の欠如 遺言者が遺言書を作成した時点で、認知症などにより遺言能力がなかった場合です。この場合、遺言書は無効と主張することができます。
- 遺言書の形式不備 遺言書が法律で定められた形式要件を満たしていない場合も、無効と主張することが可能です。例えば、自筆証書遺言であれば全文が手書きでなければなりません。
- 遺留分の侵害 遺留分とは、法定相続人が最低限相続する権利のことです。遺留分が侵害されている場合、その分を請求することができます。
異議申し立ての手続きは、相続人同士の話し合い、調停、訴訟といった段階を経て進められます。異議申し立てには専門的な知識が必要となるため、法律の専門家に相談することをお勧めします。
遺言書の検認手続きは弁護士にご相談を
遺言書の検認手続きは、相続人にとって重要でありながらも手間と時間がかかる作業です。弁護士に依頼することで、多くのメリットがあります。
必要書類の収集
検認手続きには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本など多くの書類が必要です。被相続人が何度も転籍していた場合や相続人が多い場合は、書類収集にかなりの時間がかかります。弁護士に依頼すれば、書類収集を迅速に行ってもらえます。
家庭裁判所への申し立て
家庭裁判所への申立てには正確な書類の提出が必要です。弁護士は法的知識と経験を活かして、手続きを確実に行います。これにより、手続きのミスを防ぐことができます。
検認後のサポート
検認後も、相続手続きは続きます。弁護士に依頼することで、不動産の相続登記、預貯金の解約・名義変更、株式の名義変更などの手続きをスムーズに進めることができます。弁護士からのアドバイスや手続きの代行により、相続手続きの負担が軽減されます。
遺言書の検認手続きは、弁護士に依頼することで多くのメリットがあります。必要書類の収集や家庭裁判所への申し立てを弁護士に任せることで、手間と時間を大幅に削減できます。また、検認後の相続手続きについてもアドバイスを受けたり、代行を依頼したりすることができるため、相続手続きをスムーズに進めることが可能です。費用はかかりますが、その分相続手続きのストレスを軽減し、確実に進めることができます。自分で手続きできるか不安な方や、手間や時間をかけたくない方は、ぜひ一度弁護士に相談してみると良いでしょう。
遺言書の検認に関するQ&A
Q: 遺言書が複数ある場合はどうすればよいですか?
A: 遺言書が複数見つかった場合、全ての遺言書について検認手続きを行う必要があります。検認手続きは、遺言書の効力を判断するものではなく、遺言書の存在と内容を公式に確認するための手続きです。そのため、どの遺言書が有効であるかを判断するためには、まず全ての遺言書を検認する必要があります。
検認手続きでは、家庭裁判所が遺言書の状態や内容を確認し、偽造や変造が行われていないことを確認します。しかし、どの遺言書が最も新しく、法的に有効であるかを判断することはできません。このため、全ての検認手続きが完了した後に、遺言書の内容を比較し、どの遺言書が最も有効であるかを改めて確認する必要があります。
複数の遺言書がある場合、最新の日付の遺言書が一般的には優先されますが、内容や形式に不備がある場合は無効となる可能性があります。遺言書の有効性について詳しく知りたい場合や判断が難しい場合は、専門家に相談することをお勧めします。
Q: 検認の申立を忘れていたらどうなりますか?
A: 遺言書の検認には法定の期限はありませんので、遺言書を発見後速やかに検認を申し立てれば問題はありません。しかし、検認の申立を遅らせると、すべての相続手続きが遅延する可能性があります。これにより、遺産の有効活用ができなくなるだけでなく、相続税の申告・納付期限に間に合わない可能性も出てきます。特に相続放棄や限定承認の手続きは、相続開始から3ヶ月以内に行わなければならないため、早急な対応が求められます。
また、検認の遅延は金銭的な損失を引き起こすだけでなく、相続人同士の争いを招くリスクもあります。検認を行わないと、遺言書の内容が公式に確認されず、相続手続きが進められません。これにより、遺言書の内容を巡って相続人間でのトラブルが発生する可能性があります。
したがって、遺言書を発見した場合は、できるだけ早めに検認を申し立てることが重要です。速やかな検認手続きにより、相続手続きを円滑に進め、金銭的な損失や相続人間の争いを未然に防ぐことができます。
Q: 検認を受けた遺言書は有効とみなされますか?
A: 検認を受けた遺言書が必ずしも有効であるとは限りません。検認手続きは、遺言書の有効性を判断するものではなく、遺言書の状態や内容を保存するための手続きに過ぎません。そのため、検認を受けた遺言書でも無効になる可能性があります。遺言書が本当に有効かどうかを確認するには、「遺言無効確認調停」や「遺言無効確認訴訟」を家庭裁判所に申し立てる必要があります。これにより、遺言書の有効性について正式に判断が下されます。相続人間で遺言書の有効性に疑義がある場合は、これらの法的手続きを検討することが重要です。
Q: 遺言書の検認は申立人以外は欠席しても問題ないですか?
A: はい、申立人以外の相続人が検認期日に欠席しても問題ありません。検認手続きは、申立人が遺言書の原本や必要書類を家庭裁判所に持参・提出することで進行します。相続人全員の出席は義務ではなく、欠席してもペナルティはありません。
欠席することで遺言書の内容を確認するタイミングが遅れることがデメリットですが、どうしても都合がつかない場合は弁護士に代理出席を依頼することもできます。代理人が出席することで、遺言書の内容を速やかに把握し、相続手続きを円滑に進めることができます。
まとめ
この記事では、検認の申立てから手続きの流れ、そして検認が終わった後の具体的な手続きについて解説しました。
検認を申し立てる際には、被相続人の戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本など、必要な書類をしっかりと準備しましょう。検認が完了した後は、遺言執行者の確認や財産目録の作成を行い、各相続人が不動産の相続登記や預貯金の解約などの手続きを進めます。
また、手続きに不安がある場合や手間を省きたい場合は、弁護士に相談することをお勧めします。弁護士は書類の収集から検認手続き、相続手続きの代行までサポートしてくれます。
遺言書の検認とその後の手続きを正確に理解し、スムーズに進めるために、この記事を参考にしていただければ幸いです。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
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