遺言書がある場合の相続手続きの流れ│遺産分割協議や遺留分との関係も

遺言

更新日 2026.09.28

投稿日 2024.08.06

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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遺言書がある相続では、遺言書がない場合と比べて、遺産の承継方法や手続の進め方が異なります。遺言書には、被相続人の意思が具体的に示されているため、その内容に基づいて相続が進められることになります。しかし、遺言書の内容がすべての相続人の意向に沿うとは限りません。特に、法定相続人が遺留分を主張する場合や、遺産分割協議が必要になるケースでは、遺言書がある場合でも複雑な手続きが求められることがあります。

この記事では、遺言書がある場合の相続手続の流れや、遺産分割協議・遺留分との関係などを解説します。この記事が、制度を正しく理解し、適切に手続きを進めていくための一助となれば幸いです。

目次

遺言書がある場合の相続手続きの流れ

①遺言書の存在を確認し、他の相続人に知らせる

遺言書がある場合の相続手続きの最初のステップは、遺言書の存在を確認することです。遺言書を保管している人または発見した相続人は、被相続人の死亡を知った後、遅滞なく家庭裁判所に提出して検認を経る必要があります(公正証書遺言などを除きます)。遺言書の存在は、相続手続に関係する人へ速やかに共有しましょう。なお、遺言書を故意に隠匿する行為は、相続欠格事由に該当する可能性があります(民法891条5号)。

第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
(e-Gov法令検索「民法891条5号」)

遺言書の所在が分からない場合は、自宅内の保管場所、貸金庫、法務局の遺言書保管所の利用の有無などを確認します。自筆証書遺言や秘密証書遺言は遺言者が保管していることが多い一方、公正証書遺言の原本は公証人が保管します。遺言者が正本または謄本を保管している場合もあります。

自筆証書遺言書保管制度を利用している場合には、遺言者が指定した人に対し、遺言書が保管されている旨の通知が届くことがあります。通知を受けた人は、遺言書情報証明書の請求など、必要な手続を確認しましょう。

②遺言書の種類を確認する

遺言書を発見した後は、その遺言書の種類を確認する必要があります。

遺言書の方式によって、必要な手続は異なります。表題や作成経緯を確認し、必要に応じて公証役場や法務局へ照会したうえで、「公正証書遺言」、「自筆証書遺言」、「秘密証書遺言」のいずれに当たるかを判断しましょう。

公正証書遺言は、公証人が作成する遺言であり、遺言公正証書であることや公証役場名・公証人名の記載から確認できる場合があります。公正証書遺言は検認を要しませんが、遺言書の方式に迷う場合や封印がある場合は、自己判断で開封せず、専門家または家庭裁判所に確認しましょう。

公正証書遺言以外の遺言書については、法務局で保管されていた自筆証書遺言に係る遺言書情報証明書がある場合を除き、家庭裁判所で検認を受ける必要があります。封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人等の立会いのもとで開封しなければなりません。家庭裁判所外で開封した場合は、5万円以下の過料の対象となることがありますが、直ちに相続権を失うわけではありません。

また、遺言書が封印されている場合には、家庭裁判所で開封する必要があります。これも同様に、自分で開封しないよう注意が必要です。

法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した遺言書は、紛失や改ざんなどのリスクを抑えられます。相続開始後に遺言書情報証明書の交付を受けた場合は、家庭裁判所での検認は不要です。

③遺言書の検認を家庭裁判所に申立てる│公正証書遺言以外は検認が必要

遺言書がある場合の相続手続きにおいて、自筆証書遺言または秘密証書遺言が見つかった場合は、まず家庭裁判所に検認の申立てを行う必要があります。検認とは、相続人に遺言書の存在と内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名などを明確にし、偽造・変造を防止するための手続です。封印のある遺言書は、検認期日に家庭裁判所で開封されます。なお、検認は遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。

検認の申立ては、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。申立てが受理されると、裁判所から相続人全員に対して検認期日の通知が届きます。

検認期日には、出席した相続人等の立会いのもと、裁判官が遺言書を検認します。申立人以外の相続人は、検認期日に出席しなくても差し支えありません。期日の所要時間や申立てから検認済証明書の取得までの期間は裁判所や事案によって異なるため、申立先の家庭裁判所に確認しましょう。

検認が終わった後、遺言を執行するためには、遺言書に「検認済証明書」を付ける必要があります。検認済証明書は、裁判所の案内に従って申請し、取得しましょう。

遺言書の検認手続きの流れや必要書類などについては、下記記事で詳しく解説しております。該当する方は、あわせてご覧ください。または、家庭裁判所ホームページ「遺言書の検認」を参照してください。

④遺言執行者が指定されている場合は手続きを任せる

遺言書で遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者は、相続財産の管理や名義変更など、遺言の内容を実現するために必要な手続を行います。

遺言執行者の権利義務や職務内容については、民法1007条以下で詳細に規定されています。遺言執行者は、遺言書に記載された財産の管理や名義変更など、遺言の執行に必要な手続を行います。

遺言執行者に指定された人は、まず遺言書の内容と手続の範囲を確認し、就任を承諾するかを検討します。就任後に対応方法で迷う場合は、争いの有無や手続の内容に応じて、弁護士、司法書士または税理士に相談しましょう。弁護士は遺言執行者としての具体的な手続きや法的アドバイスや、円滑に相続手続きを進めるサポートを提供してくれます。

⑤遺産分割協議をする(相続人・受遺者の全員が同意した場合)

遺言書の内容に沿って手続を進めるのが原則です。ただし、相続人、受遺者その他の利害関係人の意思が一致し、遺言執行者の有無や遺言の内容にも問題がない場合には、遺言と異なる分割を検討できることがあります。受遺者とは、遺言により遺贈を受ける人をいいます。遺贈には、特定の財産を対象とする特定遺贈と、財産の全部または一定の割合を対象とする包括遺贈があります。受遺者は、遺言者の死亡後、遺贈を放棄することができます。

受遺者が遺贈を放棄する場合や、遺言と異なる分割を希望する場合は、遺言の内容、遺贈放棄の意思表示、残余財産に関する定めを確認する必要があります。相続人だけで判断せず、関係者全員の権利関係を整理したうえで対応を検討しましょう。

遺産分割協議を行う際は、全員が同意することが重要です。遺産分割協議では、誰がどの財産を取得するかを具体的に決めます。相続税について内部的な負担方法を取り決めることはできますが、各人の申告・納税義務は税法上の取扱いに従って判断されます。

遺産分割協議を行った場合は、不動産登記や金融機関の手続などで遺産分割協議書の提出を求められることがあります。後の手続に備え、合意内容を明確にした遺産分割協議書を作成しておくことが重要です。

遺産分割協議書の書き方などについては、下記記事で詳しく解説しております。あわせてご覧ください。

このように、遺言書がある場合の相続においても、相続人と受遺者全員が同意すれば柔軟な対応が可能です。

その他遺産分割協議が必要になるケース

このほか、以下のような状況では、相続人間での協議が必要になることがあります。

  • 受遺者が遺贈を放棄した場合
    遺言で長男に自宅を相続させる旨が記載されていても、長男が相続放棄をした場合には、その自宅の帰属を改めて検討する必要があります。遺言に予備的な定めがあるか、他の財産を含めて遺産分割協議が必要かを確認しましょう。
  • 遺言書に記載されていない財産がある場合
    遺言書に不動産についての記載はあるが、預金口座や株式については触れられていない場合、これらの財産を誰が受け取るかを相続人全員で話し合い決める必要があります。遺言書で承継先が定められていない財産については、相続人全員で遺産分割協議を行い、分配方法を決めます。
  • 遺言書で相続割合のみを指定している場合
    遺言書で各相続人の取得割合のみが指定され、具体的に誰がどの財産を取得するかが定められていない場合には、相続人全員で遺産分割協議を行い、各財産の取得者を決めます。例えば、不動産や預貯金、株式などを具体的にどう分けるかを決定します。
  • 遺言書が無効である場合
    遺言書が無効であることが確定した場合や、関係者間で無効に争いがない場合には、遺言書の内容に基づく承継はできません。この場合、遺産は共同相続人間の遺産共有となるため、相続人全員で遺産分割協議を行い、分配方法を決めます。

これらのケースでは、遺言書がある場合でも、相続人全員での話し合いが必要です。

⑥預金の名義変更手続き│銀行に必要書類を提出

被相続人が取引していた銀行や証券会社などの金融機関には、解約(払い戻し)や名義変更の手続きが必要です。明確な期限はありませんが、預金を相続する人が確定したら出来るだけ速やかに手続きを行いましょう。

金融機関によって必要書類は異なります。遺言書の内容や遺言執行者の有無によっては、相続人全員の署名・押印を要しない場合もあるため、取引先の金融機関に確認しましょう。

また、遺言書、遺産分割協議書、家庭裁判所の調停調書・審判書の有無によって、預金の相続手続きに必要となる書類が異なります。以下に遺言書がある場合の相続における必要書類をご紹介します。

遺言書がある場合の必要書類

・遺言書
・検認調書または検認済証明書(公正証書遺言以外の場合)
・遺言書情報証明書(自筆証書遺言保管制度を利用した場合)
・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
・預金を相続する人の印鑑証明書など
・遺言執行者の本人確認書類・印鑑証明書など(金融機関から求められた場合)
・遺言執行者選任審判書謄本(家庭裁判所により遺言執行者が選任された場合)

ただし、金融機関によって必要書類は異なりますので、必ず取引先の銀行にお問い合わせのうえお手続きください。

遺言書がある場合の相続以外の場合の必要書類や、手続きの流れについては、下記記事で詳しく解説しております。

⑦不動産の名義変更手続き(相続登記)

被相続人が不動産を所有していた場合は、不動産の名義変更手続き「相続登記」が必要です。

相続登記は2024年4月1日から義務化されました。原則として、不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記を申請する必要があり、正当な理由なく義務に違反した場合は、10万円以下の過料の対象となることがあります。なお、義務化前に開始した相続にも経過措置があるため、相続開始時期に応じた期限を確認しましょう。

登記せずに時間が経過すると、二次相続や三次相続が発生した際に権利関係が複雑化し、さらに手続きが複雑になる可能性があります。

そのため、遺言や遺産分割協議によって不動産の権利関係が明らかになった時点で、速やかに相続登記を行うようにしましょう。

遺言書に基づく相続登記で必要となる書類は、遺言の内容、取得者の立場、遺言執行者の有無などによって異なります。一般的に以下のような書類が必要となる場合があります。

手続き先

不動産の所在地を管轄する法務局

必要書類

・登記申請書
・被相続人の死亡が確認できる戸籍、被相続人の住民票除票または戸籍の附票
・不動産を相続する人の戸籍謄本、印鑑証明書
・遺言書
・固定資産評価証明書
・検認調書または検認済証明書(公正証書遺言以外の場合)
・遺言書情報証明書(自筆証書遺言保管制度を利用した場合)
・遺言執行者の資格を証する書類(遺言書で指定されている場合は遺言書、家庭裁判所により選任された場合は選任審判書謄本など)
・その他、登記の内容に応じて法務局から求められる書類

費用

登録免許税:原則として、固定資産税評価額の0.4%

相続登記の手続きは複雑ですので、専門家である弁護士や司法書士に依頼することを検討してください。

相続登記の手続きについて詳しくは下記記事を参照してください。

⑧相続税申告と納付

相続手続では、遺産の規模や取得内容によって、相続税の申告・納付が必要となる場合があります。相続税の申告・納付が必要な場合、その期限は、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。相続税の課税価格の合計額が基礎控除額を超えるときは、期限内に申告・納付を行う必要があります。

相続人全員が遺言書に基づかずに新たな分割方法で遺産分割協議を行った場合も、協議で決定した内容に基づいて財産を分配し、それぞれが相続税の申告・納税を行います。この際、協議内容が全員の同意を得ていることが重要です。

遺産分割協議が申告期限までにまとまらない場合でも、期限内に相続税の申告・納付を行う必要があります。この場合、原則として民法上の相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして税額を計算します。

相続税の申告と納税は、専門的な知識が求められるため、弁護士や税理士に依頼することを強くお勧めします。

遺言書がある場合の相続でも、遺留分が侵害されていたら遺留分侵害額請求を

遺言書がある場合でも、一定の相続人には遺留分が認められています。遺言によって遺留分が侵害されたときは、遺留分権利者が、受遺者または受贈者に対して遺留分侵害額請求を行うことができます。たとえば、遺言書に「全て長男に相続させる」と記載されていた場合でも、他の相続人はその内容に納得しない場合、遺留分侵害額請求をすることができます。

遺留分が認められるのは、原則として配偶者、子およびその代襲者、直系尊属です。兄弟姉妹には遺留分は認められません。遺留分侵害額請求を行うと、侵害額に相当する金銭の支払を求めることができます。

遺留分を侵害された遺留分権利者は、受遺者または受贈者に対し、侵害額に相当する金銭の支払を請求できます。請求には期間制限があるため、相続の開始と遺留分侵害を知ったときから1年以内、または相続開始から10年以内に、遺留分侵害額請求を行う必要があります。しかし、遺留分の計算は財産の正確な評価が必要であり、複雑な手続きが伴います。そのため、自分で手続きを行うことも可能ですが、弁護士に相談することを強くお勧めします。弁護士は財産の評価や遺留分侵害額の計算をサポートし、正確で迅速な対応が可能です。

遺言書がある場合の相続において、遺留分が侵害されていると感じた場合には、早めに遺留分侵害額請求を検討することが重要です。

遺言書がある場合の相続に関するQ&A

Q1.公正証書遺言がある場合も、相続手続きに遺産分割協議書は必要ですか?

A1. 公正証書遺言により、誰がどの財産を取得するかが具体的に定められている場合は、原則として遺産分割協議書は不要です。ただし、遺言書に記載のない財産がある場合や、遺言と異なる分割を検討する場合は、別途、相続人全員による遺産分割協議が必要となる場合があります。

Q2.遺言書の内容に納得できない場合、どのように対応すればよいですか?

A2. 遺言と異なる分割を希望する場合は、相続人、受遺者その他の関係者の権利関係や、遺言執行者の有無を確認したうえで対応を検討します。ただし、相続人全員の同意が必要であり、一人でも同意しない場合はこの方法は取れません。

遺留分が侵害されている者がいる場合、その者は遺留分侵害額請求を行うことができます。遺留分侵害額請求は、相続の開始と遺留分侵害を知ったときから1年以内、または相続開始から10年以内に行う必要があります。

一方、有効な遺言が全財産の承継先を定めている場合、遺言内容への不満だけを理由に遺産分割調停で分割内容を変更することはできません。

これらの手続きは法的な知識が必要となるため、弁護士に相談することをお勧めします。

まとめ

遺言書がある場合の相続手続きは、遺言書の内容を確認することから始まり、遺産の分配や相続税の申告まで多岐にわたります。まず、遺言書の存在を確認し、他の相続人に知らせることが重要です。その後、遺言書の種類を確認し、必要に応じて家庭裁判所に検認の申立てを行います。遺言執行者が指定されている場合は、その者が中心となって手続きを進めます。

また、遺言書があっても相続人全員が同意すれば、遺言内容とは異なる遺産分割協議を行うことができます。特に、遺言書に記載されていない財産や遺言が無効である場合には、改めて協議が必要です。さらに、遺言書の内容が遺留分を侵害している場合、相続人は遺留分侵害額請求を行う権利があります。

遺言書がある場合の相続手続きでは、法的な手続きや税務申告が関わるため、専門家のサポートを受けることが推奨されます。遺言書に基づいた相続を円滑に進めるために、法律事務所の助けを借りることで、複雑な手続きを確実に行うことができます。正確な手続きを踏むことで、相続人全員が納得のいく形で遺産を分配し、円満な相続を実現しましょう。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。