不動産の相続手続きと必要書類│相続税や評価方法についても解説!
不動産の相続は複雑な手続きや様々な書類が必要となるため、多くの方が戸惑うことがあります。この記事では、不動産を相続する際の手続きの流れや必要な書類、さらには相続税の計算方法や不動産の評価方法についても詳しく解説します。
不動産を相続した際の手続きの流れを把握しておくことで、実際に相続が発生した場合でも安心して対応できるようになります。
また、不動産は分割するのが難しいた遺された兄弟間でトラブルになるケースが多くあります。生前にできる対策などについても解説していますので、将来のトラブルを防ぐための参考にしてください。
目次
不動産を相続するまでの手続きの流れ
不動産を相続する際の手続きの流れは以下の通りです。
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人を確定する
- 相続財産を確定する
- 遺産分割協議で遺産の分割方法を決める
- 名義変更(不動産の相続登記)を行う
- 相続税の申告・納付を行う
それぞれについて、以下で詳しく解説していきます。
①遺言書の有無を確認する
まず最初に遺言書があるかどうかを確認することが重要です。遺言書があれば、その内容に基づいて相続手続きを進めます。遺言書には、土地や家屋などの不動産を含む財産の分配方法や、誰に何を相続するかなどが記載されています。そのため、不動産の所有者が亡くなった際には、まず遺言書がないかを確認する必要があります。
遺言書が見つからない場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、不動産を含む財産の分配方法を決定します。
また、遺言書が見つからなかったが、後に遺言書が発見された場合は、遺言書の内容が優先されるため、既に進めていた手続きが無効になる可能性があります。このような事態を避けるためにも、遺言書の有無をまず確認し、内容を把握しておくことが大切です。
②相続人を確定する
次に相続人を確定させます。遺言書がない場合、被相続人の財産は法律で定められた範囲の親族によって相続されます。そのため、まずは亡くなった人の戸籍謄本や除籍謄本を取得し、家系図を作成することで、誰が相続人となるのかを正確に特定する必要があります。
相続人は、通常、配偶者、子供、親、兄弟姉妹など、被相続人と血縁関係または婚姻関係にある人々です。これらの相続人の中で、相続の順位や割合が法律で定められています。
相続人が確定した後は、相続人全員で遺産分割協議を行い、不動産を含む財産の分配を決定します。もし新たな相続人が後から発覚した場合、すでに行われた遺産分割協議をやり直す必要があるため、最初の段階で正確に相続人を把握するようにしましょう。
③相続財産を確定する
次に相続財産を確定します。まず、相続人は被相続人の財産を網羅的に把握する必要があります。これには、不動産、預貯金、株式、生命保険金、自動車、貴金属、美術品など、被相続人が所有していたすべての財産が含まれます。
不動産の場合は、相続する土地や家屋がどこにあり、いくつあるのかを正確に把握しなければなりません。そのためには、固定資産税評価証明書や名寄帳などの書類を用いて、所有不動産を確認します。また、市区町村役場では被相続人の名前で登録されている不動産の一覧「名寄せ」を確認することもできます。相続人が把握していない不動産がある場合も多く、例えば自宅の近隣の私道の持分や把握しきれていない農地などを、被相続人が所有していた可能性があります。
財産目録を作成する際には、不動産の場合は権利証や登記識別情報通知、固定資産税の納税通知書などで確認し、預貯金の場合は通帳や残高証明書で亡くなった時点の残高を確認します。その他の財産についても、可能な限り詳細にリストアップし、相続財産の全体像を把握することが大切です。
④遺産分割協議で遺産の分割方法を決める
遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。遺産分割協議は、相続人が一人でも欠けた状態で行われると無効となるため、必ず全員の参加が必要です。遺産分割協議では、相続財産である不動産、預貯金などを誰が引き継ぐかを含めて、その内容を遺産分割協議書にまとめます。この協議書には、相続人全員が署名し、実印で押印する必要があります。
不動産の分割方法にはいくつかの選択肢があり、分割方法によって相続登記の方法や相続税の金額にも影響が出ます。相続人全員が納得する方法を話し合いましょう。
⑤名義変更を行う
遺産分割協議で土地や家屋などの不動産をそれぞれ誰が相続するのか決まれば、その後名義変更を行います。相続人間で話がまとまったとしても、法務局に名義人の変更届けを行わなければ、不動産は被相続人の名義のままとなります。そのため、被相続人から相続人への名義変更「相続登記」を行う必要があります。
相続登記は、不動産の所在地を管轄する法務局にて手続きを行います。
なお、法改正により、2024年4月から相続登記が義務化されます。相続登記を怠った場合には、過料を科されるなどのデメリットが生じるため、必ず手続きするようにしましょう。
⑥相続税の申告・納付を行う
相続税は、不動産を含む遺産の総額が基礎控除額「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」を超える場合に発生します。相続税が発生するかどうかを確認するためには、まず被相続人の財産の総額を把握し、基礎控除額と比較する必要があります。
相続税の申告と納付の期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。この期限内に申告や納付が行われないと、追徴課税や罰則が科せられる可能性があるため、すぐに申告手続きを進めて納付するようにしましょう。
相続した不動産の4つの分割方法
不動産の遺産分割の方法は以下の4つです。遺産分割協議でどのように分割するか、相続人全員が納得する方法を決めます。
現物分割│不動産をそのまま分割する
現物分割は、相続財産をそのままの形で各相続人に分割する方法です。例えば、預貯金を長男、有価証券を長女、実家を次男に渡すように、各種財産を相続人ごとに分けます。この方法のメリットは、手続きがシンプルでわかりやすく、思い入れのある財産をそのまま残せる点です。しかし、デメリットとして、法定相続分に従って公平に分けるのが難しい場合があります。特に、一人の相続人が土地や家を相続すると、他の相続人の取得分が少なくなり、不公平感が生じやすいです。
不動産に関しては、法定相続分通りに平等に分割することも可能ですが、分割によって売却が困難になったり、活用が難しくなるというデメリットがあります。
したがって、現物分割を選択する際には、財産の種類や相続人の状況を考慮し、不公平感が生じないよう配慮することが重要です。
換価分割│不動産を売却して売却金を分割する
換価分割は、相続財産を売却して現金化し、その金額を基に相続人間で分割する方法です。特に、相続財産の大部分が不動産の場合に適しています。
この方法のメリットは、現金に換えることで公平な分割がしやすくなることです。たとえば、不動産が3,000万円で売れた場合、相続人が子ども3人とすると、1人あたり1,000万円ずつ分配することができます。
しかし、デメリットとしては、不動産の売却には時間と費用がかかり、また、相続人の中にその不動産に住んでいる人がいる場合や、すぐに買い手が見つからない物件の場合は、売却自体が困難になる可能性があります。
換価分割について詳しくは、下記記事を参照してください。
代償分割│不動産を相続した人が他の相続人へ金銭を支払う
代償分割は、特定の相続人が不動産を単独で相続し、他の相続人に対してその代償として金銭を支払う方法です。この方法は、分割が困難な土地や家屋などの財産に適しており、特定の相続人がその財産の取得を強く希望する場合に有効です。
たとえば、父親が残した土地と家屋が4,000万円の価値がある場合、長男がその不動産を相続し、母と次男にそれぞれ2,000万円と1,000万円の代償金を支払うことになります。
この方法のメリットは、特定の相続人が財産を保持できることと、現金での分割が可能なことです。
一方で、代償金を支払う相続人には相応の資金力が必要となり、また、代償金の額の算定には公平な評価が必要となるため、紛争の原因となることもあります。
代償分割について詳しくは、下記記事を参照してください。
共有分割│不動産を複数の相続人の共有名義とする
共有分割は、不動産を相続人全員で共有する方法です。この方法では、不動産を実際に分割せず、相続人それぞれが一定の持分を持つことになります。たとえば、父親が残した土地を、母、長男、長女の3人で共有する場合、それぞれが1/2、1/4、1/4の持分を持つことになります。
共有分割のメリットは、相続人間の公平性を保ちやすいことです。一方で、デメリットとしては、将来的に不動産を売却したい場合や利用方法を変更したい場合に、共有者全員の同意が必要となるため、意見の相違がトラブルの原因となりやすい点が挙げられます。また、次の世代への相続が発生した場合、権利関係がさらに複雑化する可能性があります。
不動産を相続したら相続登記を│2024年4月から義務化
不動産の名義人が亡くなった場合、相続人は相続登記を行う必要があります。相続登記とは、被相続人の名義から相続人の名義に不動産の所有権を移転する手続きのことです。
2024年4月1日からは、相続登記が義務化されます。相続発生から3年以内に相続登記を行わないと、10万円以下の罰金が科される可能性があるため、注意が必要です。相続が発生した場合は、速やかに不動産の相続手続きをするようにしましょう。
相続の方法によって、登記の手順や必要な書類が異なります。大きくわけて次の3つの相続の方法があります。
遺言書による相続
被相続人が遺言書を残していた場合、その内容に従って相続登記を行います。
公正証書遺言でなかった場合(自筆証書遺言)は、相続登記手続きの前に家庭裁判所で検認手続きをする必要があります。ただし、法務局で保管していた自筆証書遺言の場合は検認が不要です。
遺産分割協議による相続
相続人全員で遺産分割協議を行い、不動産の分配方法を決定した場合、その協議書の内容に基づいて相続登記をします。遺産分割協議は相続人全員で行う必要があり、一人でも欠けたり、合意しなかったりすると成立しません。
法定相続分による相続
遺言書がなく遺産分割協議も行わなかった場合、遺産分割協議がまとまらなかった場合には法定相続人全員が法律に定められた法定相続分に従って不動産を相続します。そのため、相続人全員の共有名義にする相続登記を行います。
ただし、不動産を共有名義にすると、売却したい場合や利用方法を変更したい場合に、共有者全員の同意が必要となるため、意見の相違がトラブルの原因となります。また、次の世代への相続が発生した場合、権利関係がさらに複雑化する可能性があります。
不動産を共有する際は、他の方法がないか十分に検討するようにしましょう。
以下では、それぞれの相続の方法における相続登記手続きの必要書類を解説いたします。
不動産の相続手続きの必要書類
不動産の相続手続き、すなわち相続登記の手続きに必要な書類について3つのパターンに分けて解説します。相続登記は以下のような必要書類を準備し、登記申請書と併せて管轄の法務局に提出します。
遺言による相続の必要書類
遺言で指定されて相続した場合(遺贈を受けた場合)の相続登記について、詳しくは法務局HP「登記申請手続のご案内(遺贈による所有権移転登記/相続人に対する遺贈編)」に記載されていますので、そちらを参照ください。
遺言により遺贈を受けた場合の相続登記手続きに必要な書類は以下のとおりです。
必要書類 |
取得場所 |
取得費用 |
備考 |
---|---|---|---|
遺言書 |
ー |
ー |
ー |
検認調書または検認済証明書 |
被相続人の死亡時の住所を管轄する家庭裁判所 |
遺言書1通につき収入印紙800円分 |
公正証書遺言や法務局で保管されていた自筆証書遺言の場合は不要。 |
被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本および除籍謄本 |
被相続人の本籍地の市区町村役場 |
1通450円 除籍謄本・改製原戸籍謄本は1通750円 |
遺言者が亡くなったことを証明するために必要。 |
被相続人の住民票の除票または戸籍の附票 |
被相続人の死亡時の住所地の市区町村役場 |
1通200円~400円 |
被相続人の登記簿に記載されている住所から死亡時の住所との繋がりを証明。 |
不動産を相続する人の戸籍謄本または抄本 |
相続する人の現在の本籍地の市区町村役場 |
1通450円 |
相続人が不動産を相続することを証明するために必要。 |
不動産を相続する人の住民票 |
相続する人の住所地の市区町村役場 |
1通200円~400円 |
不動産を相続する人の現在の住所を証明するために必要。 |
固定資産評価証明書など(固定資産税評価額が分かるもの) |
不動産の所在地の税務署または市区町村役場 |
ー |
不動産の価値を証明。固定資産税納税通知書のコピーでも可。 |
遺言による相続登記は、遺産分割協議や法定相続分に基づく登記に比べて、必要となる戸籍謄本の数が少なくて済む点が特徴です。この方法では、主に「遺言者が亡くなり、遺言の効力が発生したこと」と「不動産を継承する人が相続人であること」の2点を証明するための戸籍謄本が必要です。
そのため、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を集める必要はなく、また、不動産を相続しない相続人の戸籍謄本を添付する必要もありません。
遺産分割協議による相続の必要書類
遺産分割協議により不動産を相続した場合の相続登記について、詳しくは法務局HP「登記申請手続のご案内(遺産分割協議編)」に記載されていますので、そちらを参照ください。
遺産分割協議により不動産を相続する場合の相続登記手続きに必要な書類は以下のとおりです。
必要書類 |
取得場所 |
取得費用 |
備考 |
---|---|---|---|
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本および除籍謄本 |
被相続人の本籍地の市区町村役場 |
1通450円 |
相続人と被相続人との関係を証明し、相続人全員が明確にするために必要。 |
被相続人の住民票の除票または戸籍の附票 |
被相続人の死亡時の住所地の市区町村役場 |
1通200円~400円 |
被相続人の最終住所や本籍地を証明するために必要です。 |
相続人全員の戸籍謄本または抄本 |
相続人の現在の本籍地の市区町村役場 |
1通450円 |
相続人が生存していることの証明。 |
不動産を相続する人の住民票 |
相続する人の住所地の市区町村役場 |
1通200円~400円 |
不動産を相続する人の現在の住所を証明するために必要。 |
遺産分割協議書 |
相続人が作成 |
ー |
遺産分割協議の内容と相続人全員の合意を証明するために必要。 |
相続人全員の印鑑証明書 |
相続人の住所地の市区町村役場 |
1通300円 |
遺産分割協議書に押印した実印を証明するために必要。 |
固定資産評価証明書など(固定資産税評価額が分かるもの) |
不動産の所在地の税務署または市区町村役場 |
ー |
不動産の価値を証明。固定資産税納税通知書のコピーでも可。 |
遺産分割協議を通じて不動産の相続人が決定した場合、遺産分割協議に基づく相続登記を行う必要があります。この登記手続きでは、遺産分割協議書に加え、法定相続人全員の印鑑証明書を提出する必要があります。これは、相続人全員が合意した遺産分割が有効に行われたことを証明するためです。
さらに、被相続人の全生涯にわたる戸籍謄本(除籍謄本や改製原戸籍を含む)と、不動産を相続しない相続人も含めた全相続人の戸籍謄本が必要となります。
これにより、相続人の範囲を確認することができます。
法定相続分による相続の必要書類
遺産分割協議により不動産を相続した場合の相続登記について、詳しくは法務局HP「登記申請手続のご案内(法定相続編)」に記載されていますので、そちらを参照ください。
遺産分割協議により不動産を相続する場合の相続登記手続きに必要な書類は以下のとおりです。
必要書類 |
取得場所 |
取得費用 |
備考 |
---|---|---|---|
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本および除籍謄本 |
被相続人の本籍地の市区町村役場 |
1通450円 |
相続人と被相続人との関係を証明し、相続人全員が明確にするために必要。 |
被相続人の住民票の除票または戸籍の附票 |
被相続人の死亡時の住所地の市区町村役場 |
1通200円~400円 |
被相続人の最終住所や本籍地を証明するために必要です。 |
相続人全員の戸籍謄本または抄本 |
相続人の現在の本籍地の市区町村役場 |
1通450円 |
相続人が生存していることの証明。 |
相続人全員の住民票 |
相続する人の住所地の市区町村役場 |
1通200円~400円 |
不動産を相続する人の現在の住所を証明するために必要。 |
固定資産評価証明書など(固定資産税評価額が分かるもの) |
不動産の所在地の税務署または市区町村役場 |
ー |
不動産の価値を証明。固定資産税納税通知書のコピーでも可。 |
法定相続分による相続なので、遺産分割協議書や印鑑証明書なども不要です。相続人全員が不動産を共有することになるので、相続人全員の住民票が必要となります。
不動産を相続したら支払う費用と税金
必要書類の取得にかかる費用
相続登記の手続きには上記のように様々な必要書類の取得必要がかかります。例えば、戸籍謄本(1通450円)や住民票(1通300円~400円)印鑑証明書(1通300円)などです。
弁護士や司法書士に依頼した場合の手数料
相続登記手続きは弁護士や司法書士に依頼することができます。内容の複雑さや相続人の数、不動産の個数によって手数料は変動しますが、一般的な費用の相場は10万円前後です。
登録免許税
不動産を相続し相続登記をする際は、「登録免許税」という税金を支払わなければなりません。税額の計算方法は、
不動産の固定資産税評価額×0.4%
です。
固定資税評価額は「固定資産評価証明書」や「固定資産税課税明細」に記載されており、この評価額は1,000円未満を切り捨てて計算されます。また、登録免許税自体も100円未満を切り捨てて計算されます。
相続税
不動産を相続すると、相続税が発生することがあります。相続税とは、被相続人が残した財産を引き継ぐ際に、その財産の価値に応じて課税される税金です。不動産は財産の中でも特に価値が高いため、相続税の額も大きくなる可能性があります。
ただし、相続税には基礎控除が設けられており、基礎控除額を超える部分にのみ相続税が課税されます。つまり、相続する財産の総額が基礎控除額以下であれば、相続税は発生しません。
相続税の計算について、以下でさらに詳しく解説します。
不動産を相続した際の相続税の計算
①正味の遺産総額を計算する
相続税を計算する際には、まず「正味の遺産総額」を求める必要があります。この正味の遺産総額は、被相続人が残したプラスの財産からマイナスの財産と非課税財産を差し引いたものです。具体的な計算式は以下の通りです。
正味の遺産総額 = プラスの財産 − (マイナスの財産 + 非課税財産)
プラスの財産には、現金や預貯金、不動産、株式などの資産が含まれます。また、相続開始前3年以内に受けた贈与や、相続時精算課税制度を利用した贈与もプラスの財産に加えられます。さらに、死亡保険金や死亡退職金も、みなし相続財産としてプラスの財産に含めることになります。
一方、マイナスの財産は、被相続人が抱えていた借金や未払いの金額などの債務を指します。非課税財産には、葬儀費用や仏壇仏具、墓石の購入費用などが含まれ、これらは正味の遺産総額から差し引かれます。
②基礎控除額を計算する
相続税の基礎控除額の計算式は以下のとおりです。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
③課税遺産総額を計算する
相続税が課税される部分を課税遺産総額といい、計算式は以下のとおりです。
課税遺産総額:正味の遺産総額-基礎控除額
正味の遺産総額より基礎控除額が大きい場合は、相続税はかかりません。
④相続税の総額計算
相続税の計算においては、まず相続人それぞれが負担すべき税額を求める前に、法定相続分に従って相続財産を分割し、相続税の総額を算出します。たとえば、配偶者と子供2人が相続人である場合、法定相続分では配偶者が1/2、子供それぞれが1/4ずつの割合で相続します。
この法定相続分に基づいて各相続人の取得財産額を算出した後、相続税の総額を計算します。
⑤各相続人の相続税額を計算する
実際に相続する財産の割合に基づいて、各相続人が負担する税額を計算します。まず、各相続人が取得した正味の遺産額の割合に応じて、先に算出した相続税の総額を分配します。この割合は、法定相続分や遺産分割協議に基づいて決定されます。
次に、各相続人に割り当てられた相続税額から、特定の控除が適用される場合はその控除を行います。例えば、配偶者控除や未成年者控除が該当する場合、これらの控除によって実際に支払う相続税額が減少します。これにより、最終的に各相続人が支払うべき相続税額が確定します。
不動産の相続税評価額の計算方法
相続税を正確に計算するためには、まず相続される財産の価値を適切に評価することが必要です。現金や預貯金の評価は比較的容易ですが、それ以外の財産、特に不動産のような土地や家屋の評価は専門的な知識が必要となることが多いです。不動産の場合、場所による価値の違いや、現地での測量が必要な場合もあります。
そのため、不動産の評価は、相続税に詳しい弁護士や税理士に依頼することが一般的です。
ここでは、一般的な不動産の相続税評価額の算出方法を土地・建物に分けて解説します。
土地の評価方法
土地の相続税評価額の計算方法は、「路線価方式」と「倍率方式」の2つの方法があります。
路線価方式
路線価とは、土地が面する道路に応じて定められる1㎡あたりの土地価格のことで、国税庁が公開している路線価図や評価倍率表を通じて確認できます。(国税庁HP:「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」)
この路線価を用いて土地の評価額を求める方法が、路線価方式です。
計算式は非常にシンプルで、「路線価 × 土地の面積」で求めることができます。たとえば、路線価が5万円、土地の面積が100平方メートルの場合、相続税評価額は次のように計算されます。
5万円 × 100平方メートル = 500万円
なお、奥行きの長い土地などは評価額が下がります。このような場合は「奥行価格補正率」を掛けて評価額を減額します。
倍率方式
倍率方式とは、路線価が設定されていない地域にある土地の相続税評価額を算出する方法です。この方式では、土地の「固定資産税評価額」に「倍率」を掛けることで、相続税評価額を求めます。
固定資産税評価額とは、市町村から毎年送られてくる「固定資産税課税明細書」に記載されている金額です。この明細書の土地の「価格」欄に記された額が、固定資産税の評価額になります。
例えば、固定資産税評価額が1,000万円で、倍率が1.1の土地を相続した場合、相続税評価額は次のように計算されます。
1,000万円 × 1.1 = 1,100万円
倍率は地域や土地の特性によって異なるため、正確な評価額を求めるには適切な倍率を適用する必要があります。倍率に関する情報は国税庁のホームページで確認することができます。(国税庁HP:「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」)
土地評価額の計算方法については、下記記事でも詳しく解説しております。あわせてご覧ください。
家屋の評価方法
家屋の相続税評価額は、固定資産税評価額をそのまま使用します。固定資産税評価額は、市町村から送付される固定資産税課税明細書に記載されています。手元に固定資産課税明細書がない場合は市区町村役場の窓口で確認しましょう。
建物評価額の調べ方と計算方法については、下記記事で詳しく解説しております。あわせてご覧ください。
相続した不動産の活用方法
売却のメリットと注意点
相続した不動産を売却することには、いくつかのメリットがあります。
まず、売却により得た資金を相続人間で公平に分配することが可能です。換価分割により不動産を現金化し、相続人それぞれのニーズに合わせて利用することができます。
2つ目は、相続税の納税資金を確保することができます。特に、高額な不動産を相続した場合は、売却することで資金調達ができるので、相続後も安定した生活ができます。また、売却することで固定資産税の支払からも免れることができます。
ただし、売却に先立ち、相続登記を完了させる必要があります。
遺言書がない場合は、相続人全員での遺産分割協議や遺産分割協議書の作成が必要となり、手続きに時間がかかることがあります。また、登記が完了しても、実際に売却が成立するまでには時間がかかる場合があります。
特に、売却代金を相続税の納税資金として利用する場合は、相続発生から10ヶ月以内の申告期限に注意が必要です。この期限を逃すと、遅延税が課される可能性があるため、売却を迅速に進める必要があります。
賃貸のメリットと注意点
相続した不動産の活用方法は、その特性や状況に応じて多岐にわたります。例えば、親が住んでいた一戸建てが空き家となった場合、そのまま賃貸物件として貸し出すことが一つの選択肢です。この方法なら、大規模なリフォームや建て替えにかかる費用を抑えることができ、また、新たなローンを負担する必要もありません。
また、入居者のいるアパートやマンションを相続した場合は、そのまま賃貸経営を継続することで安定した副収入を得ることが可能です。このように、相続した不動産を賃貸として活用することで、収益を得ることができます。
しかし、相続後の収益性を考慮しながら公平な分割を行うことが重要であり、相続人間での合意形成が求められます。また、将来的な収益見込みを正確に把握するためには、不動産市場の動向や物件の状態を踏まえた専門的な知識が必要となります。収益見積もりが難しい場合は、早めに弁護士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
不動産の相続に関するQ&A
Q: 不動産の相続手続きは自分で進めることができますか?
A: 不動産の相続手続きを自分で進めることは可能ですが、必要な書類の取得や書類作成には多くの手間と一定の法律知識が必要です。また、遺産分割協議書や登記申請書の作成には法律知識が必要です。
さらに、相続人同士が疎遠や不仲な場合、遺産分割協議がまとまらないことがあります。相続関係が複雑で紛争が予想される場合は、無理に自分だけで進めようとせず、弁護士に相談することをおすすめします。
Q: 不動産を相続した場合に相続税を減らす方法はありますか?
A: 相続税を減らすためには、特例制度を活用するようにしましょう。特に、「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額の軽減」を活用すれば大幅に相続税を引き下げることができます。
- 小規模宅地等の特例
この制度を利用すると、相続した土地の評価額を最大80%まで減らすことができます。ただし、この特例を適用するには一定の条件を満たす必要があります。体的な適用条件や手続きについては、弁護士や税理士など専門家にご相談ください。 - 配偶者の税額の軽減
この特例は、被相続人の配偶者が相続した財産に適用され、相続税評価額が1億6,000万円(または法定相続分)までの場合、相続税が免除されます。例えば、配偶者が1億5,000万円の財産を相続した場合、この特例により相続税は不要となります。ただし、この特例を受けるためには申告が必要です。
Q: 不動産の相続トラブルを回避するための生前対策は何ですか?
A: 不動産の相続トラブルを回避するための生前対策として、以下の二つが考えられます。
- 遺言書の作成
遺言を作成しておくことをおすすめいたします。遺言によって自身の意思を明確に示しておくことで、相続人間の争いを防ぐことができます。また、遺言には法的効果があるため、相続手続きがスムーズに進むなどのメリットがあります。 - 生前贈与の活用
土地を生前贈与することも有効な対策です。暦年贈与を活用すると、毎年一定額以下の財産を贈与することで、贈与税の非課税枠を利用して贈与税を節約することができます。生前贈与を行う際には、贈与する土地の評価額や贈与税の計算方法、非課税枠の活用方法などに注意が必要です。
まとめ
不動産の相続には、戸籍謄本の取得から始まり、遺産分割協議書の作成、相続登記の申請に至るまで、多くの手続きが必要です。
これらの手続きは複雑で時間がかかるため、弁護士など専門家への相談をおすすめいたします。
また、相続税の申告においては、特例の適用可否によって税額が大きく変動することがあります。相続手続きや税務申告に関する専門的な知識が必要となるため、弁護士や税理士への相談をご検討ください。
さらに、相続した土地の名義変更は2024年4月から義務化されるため、期限内に手続きを完了させる必要があります。手続きの概要や必要書類の準備に時間を確保できない場合は、弁護士や司法書士に名義変更手続きを依頼することを検討しましょう。
不動産の相続に関しては、早めの対策と適切な専門家への相談が、スムーズな手続きと税負担の軽減につながります。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。