相続登記を自分でやった|所有権移転登記を自分でやってみたら大変だった?費用は?弁護士が解説

相続した不動産の名義を変更する相続登記の申請は、不動産を相続した人が法務局で行うのが基本です。相続登記申請の手続きを専門家に依頼する方もいらっしゃいますが、必要書類を揃えて不備の無い相続登記申請書を作成できれば、専門家に依頼せずとも比較的簡単に自分で進めることができます。
とはいえ、「不動産のことはよく分からない」、「相続登記を自分でやった人の体験談を読んだら大変そうだった」などという意見も耳にします。
そこでこの記事では、「不動産の相続登記申請を自分でやったら何が大変なのか」に焦点を当てて、自分でやった場合にどのようなトラブルが生じ得るのか、あるいは反対にどういった点が良かったのか、具体的に見ていきたいと思います。
これから相続登記を自分でやろうとご検討中の方にとって、本記事が少しでもご参考になりましたら幸いです。
目次
相続登記を自分でやったら
それではさっそく、不動産の相続登記申請を自分でやったら何が大変だったのか、どういったトラブルがあったのかを、具体的に見ていきましょう。
1.相続する不動産の情報を調べるのが大変だった
遺産分割協議を終えていざ相続登記をしようとなったら、相続登記申請書を作成しなければなりません。相続登記申請書は法務局での手続きで必ず提出する書類で、名義変更する不動産について、「不動産の所在、地番、地目、地積、家屋番号、種類、構造、床面積」といった情報を正確に記載する必要があります。この不動産の情報を調べるのが大変だった、という声は珍しくありません。
例えば、亡くなった父親名義の実家に一緒に住んでいた長女が、不動産を相続することになりました。実家と実家が建つ土地のみ相続するのだと思っていた長女ですが、固定資産税の課税明細書を確認したところ、土地の欄に複数の地番が記載されており、把握していなかった土地が見つかったのです。
自分が知らない父親名義の不動産が他にもあるかもしれないと思った長女は、まずは父親が所有していた不動産を確認することにしました。親名義の不動産を探すこと自体が初めてだったため、長女は「固定資産税の課税明細書に記載されているもので全部じゃないか。」と思っていたそうです。ですが、不安に思いインターネットで調べたところ、固定資産税が非課税となる不動産は課税明細書に記載されないため、正確に把握するためには「名寄帳(固定資産課税台帳)」を取得しなければならないことを知ったといいます。
名寄帳は市役所で取得することができました。ですが、その名寄帳にはあくまでその市内にある不動産しか表示されないため、複数の自治体に不動産が点在する場合は、それぞれの役所で名寄帳を取得する必要があります。長女は、母親や親戚に確認し、不動産の「権利証(登記済証)」や「登記識別情報通知」の有無などを確認して、全ての不動産の情報を調査し終えるのに約3ヶ月かかったそうです。
なお、令和8年2月2日より、「所有不動産記録証明制度」が始まりました。所有不動産記録証明制度とは、特定の人物の名義となっている不動産を一覧にして証明書として交付する制度です。これによって、相続人が被相続人名義の不動産を確認することが簡単になり、登記漏れを防止することが期待されます。
交付申請は、全国の法務局(登記所)でできるほか、郵送やオンラインによる電子申請も可能です。検索条件1件につき、1通あたり1,500円程度の手数料がかかりますが、網羅的に検索することができるため、従来に比べ相続人の不動産調査の負担が軽減したのではないでしょうか。
参考:所有不動産記録証明制度について(法務省)
2.どの情報源を信頼すべきか迷った
昨今はインターネットが普及し、広く一般の人が知りたい情報を自身で調べることが容易になりました。
不動産の相続登記申請についても、さまざまな解説ページがあります。弁護士や司法書士といった専門家が書いたものから、金融機関や不動産会社が掲載しているもの、「自分で調べて実際に相続登記をした体験談」といっ個人のブログ記事など、情報は豊富です。
それだけに、どの情報源が正しいのか、自身にとって適した解説はどれになるのか、かえって悩んでしまう人も多いようです。
ホームページによっては、原則や大まかな概要だけ書いてあり、例外や特殊なケースについてまで細かく説明していない、といったこともあります。また、数年前の古い記事には相続登記が義務化される以前の情報が残っていたり、登録免許税の免税措置の期限が古いまま掲載されていたりすることもあります。
相続人の人数、遺産分割協議の有無、遺言書の有無、不動産の種類、共有持分の有無などによって、相続登記申請の手続きは少しずつ異なります。インターネット上の説明だけを鵜呑みにせず、情報が現在の制度に対応しているかを確認し、複数の情報を検討した上で、適切に進めていくことが重要です。
3.法務局の相続登記の案内が複雑
不動産の相続登記の手続きについては、法務局が「相続登記ガイドブック」という案内書をホームページに掲載しています。ガイドブックには制度の概要や申請に関する詳細な説明のほかに、相続登記申請書や収入印紙を貼付する書式などもあるため、このガイドブックをうまく活用すればスムーズに相続登記を完了できるでしょう。
しかし、相続登記ガイドブックは203ページとページ数が膨大で、「全て丁寧に確認することが不可能だった。相続登記申請が初めてだったので、その取っ掛かりとして手早く必要な情報だけを得たかった。」と振り返っていた方もいらっしゃいました。
参考:相続登記ガイドブック(法務局)
法務局の案内自体が不親切というわけではありません。制度上必要な情報は整理されていますし、ホームページにはさまざまなケースごとの書式も掲載されています。ですが、それゆえに「得たい情報にすぐに辿り着く」ことができずに、苦心したようです。
たとえば、相続人が妻と子ども2人で、話し合いによって妻が不動産を取得したケースがありました。この場合、遺産分割協議による相続登記の書式を使う必要がありますが、「法定相続人である被相続人の配偶者と子が遺産相続するケースだから、使う書式は法定相続分による相続だろう。」と、別のケース向けの書式を使ってしまったようです。
また、手続きを簡単に調べたときには「相続登記」と記載があったため、正式な名称である「所有権移転登記申請書」という書式を使う必要があるとしばらくは気付けなかったというお話も伺いました。
相続登記申請の手続きはさまざまなケースに応じて異なるため、その案内はどうしても複雑なものになってしまいがちです。このような情報量の多さそのものが負担になってしまうこともあるようです。
4.課税明細書や戸籍謄本等の見方が分からない
相続登記を自分でする場合、固定資産税の課税明細書や課税明細書をはじめ、戸籍謄本や除籍謄本、改製原戸籍、住民票、登記事項証明書など、普段あまり見る機会のない書類を確認することになります。戸籍謄本や住民票であれば遺産相続以外でも利用する機会がありますが、たとえば「戸籍の附票」などは日常生活の中でも滅多に使うことがないため、戸籍謄本との違いや相続登記申請における必要性、取得方法に困惑された方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ご相談の中でも多いのが、「固定資産税の課税明細書を見て、どの金額を登録免許税の計算に使えばよいのか分からなかった。」、「課税明細書のや戸籍謄本の見方が分からなかった。」といったものです。
たとえば固定資産税の課税明細書を見てみると、「評価額」、「固定資産税課税標準額」、「新築軽減相当税額」、「固定資産税課税相当税額」といった項目があります。不動産によって複数の項目に金額が明記されていることもあるため、相続登記申請書を作成しようとして「どの金額を使うの?」と混乱してしまう人も少なくありません。
戸籍謄本等も、被相続人によっては平成、昭和、大正、と遡っていく必要があります。戸籍が電子化される前は手書きで作成されており、今では市町村合併でなくなってしまった地名が書かれていることも多いです。戸籍謄本等の情報を正確に理解できず、後から戸籍謄本の不足を指摘された、という人もいます。
相続登記申請を自分でやるにあたっては、こうした苦労もあるようです。
5.何度も仕事を休んで法務局に足を運んだ
不動産が1筆だけ、相続人が1人だけ、といったシンプルなケースでは、相続登記申請をしてスムーズに完了することも多いです。一方で、不動産や相続人の数が多いケースになると、必要な書類や記載事項が増える分、申請書や提出書類に不備が出てしまうことがあります。訂正や再提出を求められた結果、法務局に結果として何度も足を運ぶことになってしまい、日常生活や仕事に支障が生じた、といった方もいらっしゃいました。
たとえば、登記簿謄本に記録された住所と被相続人の最後の住所が違うため、申請時に提出していた書類だけでは足りず、戸籍の附票による証明を求められた、といったケースがありました。被相続人が登記名義人本人であることを確認するためには、登記簿上の住所と死亡時の住所が同じであること、違う場合には最後の住所までつながりがあることを証明しなければなりません。そういった証明が必要なケースであること、そのためにどういった書類が必要なのかを申請前に知ることができていれば、最初に戸籍の附票も提出してスムーズに相続登記を完了できていたかもしれない、とおっしゃっています。
また別のケースでは、「記載する名前は存命の相続人だけでいいと思っていたので、既に亡くなっていた法定相続人の名前を書かなかったところ、記載を求められた。」といったこともありました。そして、その亡くなった相続人を追記したのとあわせて、戸籍謄本等も追加で取り寄せることになり、「修正自体は複雑ではないが、手続きを完了できたと思ったのに手間と費用のかかる作業が増えてしまったことで、かえって負担になってしまった。」そうです。
法務局は平日の日中に開庁しているため、特に会社員等にとっては、開庁時間内に再度法務局へ行かなければならないのは、時間的にも仕事に関しても負担となるでしょう。
書類の不備や追加資料の提出を求められる可能性があることも念頭に置き、事前に法務局の無料相談等を活用して、なるべく一度の手続きで完結させられるよう準備することが重要です。
6.書類収集から手続きの完了まで半年かかった
以上のような手間や苦労の重なる中で、相続登記申請に必要な書類を集めてから実際に登記申請の手続きを完了するまでに、半年以上かかってしまった、というケースも見受けられます。
相続登記は、書類を1回集めて終わるとは限りません。取得した戸籍を確認した結果、さらに古い戸籍が必要になることもありますし、法務局に書類を提出後、新たに追加で提出を求められることもあります。申請書を作成するにも時間が必要ですし、補正への対応にも時間を取られるため、仕事や家事・育児と並行して進める場合には、想定以上に長期化こともあるため、注意しましょう。
相続登記を自分でやった場合の費用
自分で相続登記を行う場合、専門家に依頼する費用がかからないため、基本的には① 登録免許税、② 必要書類の取得費用等の実費が発生します。
登録免許税は、不動産の登記申請時に納める税金で、不動産評価額に基づいてその税額が決まります。税率は0.4%(1000分の4)が基本ですので、たとえば不動産評価額が6,000万円の場合、登録免許税は「6,000万円 × 0.4% = 240,000円」となります。
なお、登録免許税は非課税になることもあるため、免税措置を適用できるかどうかについても事前に確認しておくようにしましょう。
そして、戸籍謄本等や登記簿謄本、固定資産評価証明書、印鑑証明書、住民票の写しといった必要書類を交付申請する費用も必要です。枚数や申請方法によっても手数料が変わります。また、法務局へ行く場合の交通費といった実費も生じます。
最低でも数千円~数万円程度を目安に、余裕を持って考えておくと安心です。
その他、相続登記申請にかかる費用については、こちらの関連記事にて詳しくご説明しておりますので、ぜひあわせてご覧ください。
相続登記を自分でやってみたら良かったこと
さて、以上のとおり、相続登記を自分でやった場合に大変だったことをご紹介してまいりました。ですが、大変なことだけではありません。自分で相続登記申請をしたという方の中には、「自分でやってみて良かった。」とおっしゃっている方もいらっしゃいます。
1.専門家へ依頼する費用を節約できた
相続登記申請を自分ですることで、司法書士や弁護士といった専門家へ依頼する費用を節約することができます。士業と呼ばれる専門家に依頼する場合、安価でも数万円から、事案によっては数十万円の報酬が必要になることもあるため、専門家への報酬を抑えることができるのは大きなメリットです。
相続人同士で争いがなく、不動産や相続人の関係性がシンプルな場合には、必要書類も比較的揃えやすいので、自分で登記申請することを検討してみてはいかがでしょうか。
2.自分のペースで進められた
専門家等との相談・打合せの日程調整をする必要がないため、自分の都合に合わせて相続登記申請を進めることが可能です。関係者が多くなればなるほど、互いのスケジュールを合わせるのは大変ですが、自分一人で手続きをするのであれば、自分のペースで動くことができます。
日程調整以外にも、必要書類を送付したり、専門家とやり取りしたりする必要があります。もちろん、専門家に依頼することで得られるメリットもありますが、手続きの負担自体がそこまで重いものでなければ、日程調整や連絡といった手間がかえって負担となってしまう可能性もあるでしょう。
近年は、戸籍謄本や住民票などの公的書類の交付申請や、相続登記の申請手続き自体もオンラインで済ませることができます。そのため、平日は仕事でなかなか準備する暇がないといった方でも、インターネット環境があれば平日の夜や土日に準備を進めることができます。
自分の生活リズムに合わせて無理なく相続登記申請をできるという点では、自分で相続登記申請をするのは大きなメリットがあるのです。
3.戸籍謄本等の見方が分かるようになった
相続登記申請を自分でやったという人の中には、こんな方がいらっしゃいました。
「兄弟が多いため、その後も遺産相続で相続登記する機会が何度かあるだろうと考えた。時間に余裕があったので、せっかくだから自分でやってみようと思いました。」
最初は、戸籍謄本等に書かれている本籍、転籍、除籍などの意味を一つひとつ調べながら、市区町村役場の担当者に聞くなどして、書類の見方を確認していったそうです。固定資産税の課税明細書もこの機会に初めて見たため、「最初はどの金額が相続登記申請に必要になるのか分からなかったが、ホームページの解説を何度も読んで理解できました。」とおっしゃっていました。
相続登記申請を無事に完了させた頃には、どの戸籍を見れば家族関係が分かるのか、次にどの戸籍を取り寄せればよいのかがスムーズに理解できるようになり、登記事項証明書や固定資産税の課税明細の見方にも慣れ、不動産の情報を確認する流れも分かるようになったそうです。
その結果、次に兄弟の1人を被相続人とした遺産分割が発生したときに、その知識と経験がとても役立ったようです。
なお、自分で不動産の相続登記申請をする場合の手順やメリット、注意点などについては、こちらの関連記事にて解説しておりますので、ぜひご参照ください。
相続登記を自分でやった【Q&A】
Q1.相続登記を自分でやったら、どういったことが大変でしょうか?
A:相続登記を自分でする場合、相続登記の対象となる不動産を正確に把握すること、相続登記申請書を記載するのに必要な情報を入手・理解すること、に苦心していらっしゃる方が多い印象を受けます。また、固定資産税の課税明細書や戸籍謄本等の公的書類を取得するのに手間がかかることや、書類の見方が分からないことで躓いてしまい、相続登記申請を完了させるまでに時間がかかった、といったケースも見受けられます。
法務局のホームページ等には丁寧な案内がありますが、情報量や専門用語の多さから、知りたい情報を適切に得ることができないということもあるようです。
Q2.相続登記を自分でやったら費用を抑えることはできますか?
A:相続登記申請を自分で行えば、司法書士や弁護士などの専門家へ依頼する報酬を節約できるため、費用を抑えられる可能性が高いです。自分で申請する場合に生じる費用は、基本的に登録免許税と実費(書類取得費用や交通費)だけなので、比較的安価に抑えることが期待できます。
もっとも、専門家に依頼することで、必要書類の交付申請や提出書類の作成、法務局での対応といった申請にかかる手続きを全て一任できるため、自分で相続登記申請するかどうかは単に費用面だけで考えず、さまざまな事情を検討して決めることが望ましいです。
Q3.相続登記を自分でやって良かったことは何ですか?
A:相続登記を自分でやって良かったこととしては、「費用を最小限に抑えられたこと」のほか、「将来発生する遺産相続に向けて知識を得ることができた」、「自分のペースでゆっくり落ち着いて相続登記を進めることができた」といった意見を見受けます。
まとめ
本記事では、「相続登記を自分でやった」ら大変な点は何なのか、反対に良かった点はあるのか、といったことについて弁護士が解説させていただきました。
必要な書類の収集や手続き、法務局での対応等、実際に苦労したという方は少なくありません。ですが、時間に余裕を持って落ち着いて準備を進めることで、日頃登記手続きに馴染みのない方でも、相続登記申請を自分で完了させることは可能です。
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この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。






