遺言書がある場合の相続手続きの流れ│遺産分割協議や遺留分との関係も

遺言

更新日 2024.10.01

投稿日 2024.08.06

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

弁護士法人あおい事務所の相続専門サイトをご覧いただき、ありがとうございます。当サイトでは、相続に関する法的な知識を分かりやすくお届けしております。皆様のお悩みの解消に少しでもお役立ちできましたら幸甚です。

遺言書がある場合の相続は、遺言書がない場合とは異なり、遺産の分割や手続きの流れが特別なものになります。遺言書には、被相続人の意思が具体的に示されているため、その内容に基づいて相続が進められることになります。しかし、遺言書の内容がすべての相続人の意向に沿うとは限りません。特に、法定相続人が遺留分を主張する場合や、遺産分割協議が必要になるケースでは、遺言書がある場合でも複雑な手続きが求められることがあります。

この記事では、遺言書がある場合の相続手続きの具体的な流れについて詳しく解説し、遺産分割協議や遺留分との関係についても触れます。これにより、遺言書がある場合の相続手続きがどのように進行するのか、また相続人がどのような対応を取るべきかについて、理解を深めていただけることでしょう。遺言書がある場合の相続は、手続きの手順を正しく理解し、適切に進めることが重要です。

目次

遺言書がある場合の相続手続きの流れ

①遺言書の存在を確認し、他の相続人に知らせる

遺言書がある場合の相続手続きの最初のステップは、遺言書の存在を確認することです。被相続人が遺言書を作成していた場合、その内容をすべての相続人に知らせる義務があります。これは、相続人間での公平性を保つために重要です。もし遺言書の存在を故意に隠すと、相続欠格とみなされて相続権を失う可能性があるため、注意が必要です(民法891条5号)。

第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
(e-Gov法令検索「民法891条5号」)

被相続人が遺言書を誰にも相談せずに作成していた場合は、まず遺品を調べて遺言書が存在するかどうかを確認します。自筆証書遺言や秘密証書遺言は、通常、被相続人の手元で保管されています。一方、公正証書遺言の場合、被相続人が正本を保管し、原本は公証役場で保管されています。公証役場での保管により、遺言書の紛失や改ざんのリスクが低くなります。

また、自筆証書遺言が法務局の保管制度を利用している場合、遺言書保管所から遺言書が保管されている旨の通知が届くことがあります。これにより、相続人は速やかに遺言書の存在を把握することができます。

②遺言書の種類を確認する

遺言書がある場合の相続手続きの次のステップは、見つかった遺言書の種類を確認することです。遺言書の種類によって、相続手続きの進め方が異なりますので、まずは封筒の外観をチェックしましょう。遺言書の種類は主に公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3つに分けられます。

公正証書遺言は、「遺言公正証書」という表題があり、公正役場の名前が記載されています。これが確認できた場合、封筒を開けて内容を確認して問題ありません。公正証書遺言は、遺言書がある場合の相続手続きにおいて、最も信頼性が高く、検認手続きも不要です。

一方、自筆証書遺言と秘密証書遺言は、それ以外の形式です。特に秘密証書遺言は件数が少ないため、見つけた遺言書が自筆証書遺言であることが多いです。これらの遺言書は、法務局で保管されていない限り、家庭裁判所での検認手続きが必要です。検認手続きが終わる前に封筒を開けることは禁止されており、違反すると相続権を失う可能性があります。

また、遺言書が封印されている場合には、家庭裁判所で開封する必要があります。これも同様に、自分で開封しないよう注意が必要です。

「自筆証書遺言書保管制度」を利用して法務局で保管してもらっている自筆証書遺言は、破棄・隠匿・改ざん等のリスクがないため、検認は不要です。

③遺言書の検認を家庭裁判所に申立てる│公正証書遺言以外は検認が必要

遺言書がある場合の相続手続きにおいて、自筆証書遺言または秘密証書遺言が見つかった場合は、まず家庭裁判所に検認の申立てを行う必要があります。検認とは、家庭裁判所が遺言書を開封し、その状態や内容を確認する手続きで、遺言書の偽造や変造を防止するために行われます。この検認が済むと「検認済証明書」が発行され、裁判所で検認を受けたことが証明されます。

検認の流れは以下の通りです。まず、検認の申立てを行います。申立てが受理されると、裁判所から相続人全員に対して検認期日の通知が届きます。この通知は、相続人全員に検認が行われる日時を知らせるもので、申立人以外の相続人は欠席しても問題ありません。

検認期日には、出席した相続人全員と裁判所の職員の立ち合いのもと、遺言書が開封されます。この手続きには約15分程度かかります。検認が完了すると、裁判所の案内に従って検認済証明書の発行申請を行います。この証明書がないと、相続手続きの最終段階である遺産の分割手続きが行えないため、必ず取得するようにしましょう。

検認手続きは通常、申立てから証明書を受け取るまでに約2~3ヶ月かかります。

遺言書の検認手続きの流れや必要書類などについては、下記記事で詳しく解説しております。該当する方は、あわせてご覧ください。または、家庭裁判所ホームページ「遺言書の検認」を参照してください。

④遺言執行者が指定されている場合は手続きを任せる

遺言書がある場合の相続手続きにおいて、遺言書の中で遺言執行者が指定されている場合、その者が相続財産の移転などの手続きをすべて行う役割を担います。

遺言執行者の権利義務や職務内容については、民法1007条以下で詳細に規定されています。具体的には、遺言書に記載された財産の管理や分配、債務の処理、相続税の支払いなど、多岐にわたる職務を遂行します。これにより、相続人間のトラブルを防ぎ、遺言者の意思が正確に反映されるようにする役割を果たします。

遺言執行者として指定された場合、まずは遺言書の内容をよく理解し、法的な義務を遂行するための準備を行います。もし対応方法がわからない場合や不安がある場合は、弁護士に相談することをお勧めします。弁護士は遺言執行者としての具体的な手続きや法的アドバイスを提供し、円滑に相続手続きを進めるサポートをしてくれます。

⑤遺産分割協議をする(相続人・受遺者の全員が同意した場合)

遺言書がある場合の相続手続きにおいて、遺言書の内容に沿った遺産分割が基本ですが、相続人と受遺者全員が同意すれば、遺言書とは異なる内容で遺産分割を行うことも可能です。受遺者とは、遺言によって特定の財産を贈与される人を指し、民法986条1項に基づき遺贈を放棄することが認められています。

もし受遺者全員が遺言書の内容に納得しない場合や、相続人全員と話し合って別の遺産分割方法に同意した場合、受遺者全員が遺贈を放棄したものとみなされます。この場合、相続人全員の合意に基づいて遺産分割協議を行うことができます。

遺産分割協議を行う際は、全員が同意することが重要です。具体的には、遺産の分配方法や相続税の負担などについて話し合い、全員が納得する形で合意を形成します。

なお、遺産分割協議を行った場合は、各種相続手続きにおいて「遺産分割協議書」が必要になります。必ず作成するようにしましょう。

遺産分割協議書の書き方などについては、下記記事で詳しく解説しております。あわせてご覧ください。

このように、遺言書がある場合の相続においても、相続人と受遺者全員が同意すれば柔軟な対応が可能です。

その他遺産分割協議が必要になるケース

他にも、以下ような状況では相続人間での協議が必要です。

  • 受遺者が相続放棄した場合
    遺言で長男が自宅を相続することになっていたが、長男が相続放棄を選択した場合、誰がその自宅を受け取るかを相続人全員で話し合う必要があります。相続放棄が行われた相続分について新たな分配方法を決めます。
  • 遺言書に記載されていない財産がある場合
    遺言書に不動産についての記載はあるが、預金口座や株式については触れられていない場合、これらの財産を誰が受け取るかを相続人全員で話し合い決める必要があります。遺言書に記載されていない財産も遺産分割協で分配します。
  • 遺言書で相続割合のみを指定している場合
    遺言書に「財産は長男に6割、次男に4割」と相続割合だけが記載されている場合、具体的に誰がどの財産を取得するかを相続人全員で協議して決めます。例えば、不動産や預貯金、株式などを具体的にどう分けるかを決定します。
  • 遺言書が無効である場合
    遺言書が形式的な要件を満たしていないため無効と判断された場合、遺言書の内容に基づく相続はできず、全財産が相続人全員の共有財産となります。この場合、改めて遺産分割協議を行い、公正な分配方法を決めます。

これらのケースでは、遺言書がある場合でも、相続人全員での話し合いが必要です。

⑥預金の名義変更手続き│銀行に必要書類を提出

被相続人が取引していた銀行や証券会社などの金融機関には、解約(払い戻し)や名義変更の手続きが必要です。明確な期限はありませんが、預金を相続する人が確定したら出来るだけ速やかに手続きを行いましょう。

金融機関によって要求される書類は異なることがありますが、通常は、相続人全員の署名と印鑑が押された「相続手続き依頼書」が求められます。

また、遺言書、遺産分割協議書、家庭裁判所の調停調書・審判書の有無によって、預金の相続手続きに必要となる書類が異なります。以下に遺言書がある場合の相続における必要書類をご紹介します。

ただし、金融機関によって必要書類は異なりますので、必ず取引先の銀行にお問い合わせのうえお手続きください。

遺言書がある場合の必要書類

・遺言書
・検認調書または検認済証明書(公正証書遺言以外の場合)
・遺言書情報証明書(自筆証書遺言保管制度を利用した場合)
・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
・預金を相続する人の印鑑証明書など
・遺言執行者の印鑑証明書(遺言執行者がいる場合)
・遺言執行者の選任審判書謄本(遺言執行者がいる場合)

遺言書がある場合の相続以外の場合の必要書類や、手続きの流れについては、下記記事で詳しく解説しております。

⑦不動産の名義変更手続き(相続登記)

被相続人が不動産を所有していた場合は、不動産の名義変更手続き「相続登記」が必要です。

相続登記は2024年4月1日より義務化され、不動産を取得したことを知ってから3年以内に手続きをしないと、10万円以下の過料対象となることがあります。

登記せずに時間が経過すると、二次相続や三次相続が発生した際に権利関係が複雑化し、さらに手続きが複雑になる可能性があります。

そのため、遺言や遺産分割協議によって不動産の権利関係が明らかになった時点で、速やかに相続登記を行うようにしましょう。

遺言書がある場合は以下の必要書類を準備します。

手続き先

不動産の所在地を管轄する法務局

必要書類

登記申請書
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、住民票除票または戸籍附票
・不動産を相続する人の戸籍謄本
・遺言書
・不動産を相続する人の印鑑証明書
・固定資産評価証明書
・検認調書または検認済証明書(公正証書遺言以外の場合)
・遺言書情報証明書(自筆証書遺言保管制度を利用した場合)
・遺言執行者の印鑑証明書(遺言執行者がいる場合)
・遺言執行者の選任審判書謄本(遺言執行者がいる場合)

費用

登録免許税 不動産固定資産税評価額の0.4%

相続登記の手続きは複雑ですので、専門家である弁護士や司法書士に依頼することを検討してください。

相続登記の手続きについて詳しくは下記記事を参照してください。

⑧相続税申告と納付

遺言書がある場合の相続手続きの最終段階として、相続税の申告と納税が必要です。遺言書に基づいて財産が分配された場合でも、相続税の申告期限は相続開始日から10ヶ月以内と決まっています。相続した遺産の総額が基礎控除額を超える場合、この期限内に申告と納税を行わなければなりません。

相続人全員が遺言書に基づかずに新たな分割方法で遺産分割協議を行った場合も、協議で決定した内容に基づいて財産を分配し、それぞれが相続税の申告・納税を行います。この際、協議内容が全員の同意を得ていることが重要です。

遺産分割協議がまとまらない場合でも、申告期限までに暫定的な金額で相続税の申告・納税をする必要があります。期限を過ぎてしまうと、加算税や延滞税が課されることがありますので、注意が必要です。

相続税の申告と納税は、専門的な知識が求められる複雑な手続きです。そのため、弁護士や税理士に依頼することを強くお勧めします。

遺言書がある場合の相続でも、遺留分が侵害されていたら遺留分侵害額請求を

遺言書がある場合の相続では、被相続人の意思が尊重される一方で、遺留分という法定相続分の最低限の保証があります。遺留分は、相続人の権利を守るために法律で定められたものです。たとえば、遺言書に「全て長男に相続させる」と記載されていた場合でも、他の相続人はその内容に納得しない場合、遺留分侵害額請求をすることができます。

遺留分は、亡くなった人の兄弟姉妹には認められていませんが、それ以外の相続人にはこの権利が保証されています。たとえば、兄弟がいる場合、他の兄弟は長男に対して遺留分の請求を行うことが可能です。遺留分侵害額請求を行うことで、法定相続分に基づいた最低限の財産を確保することができます。

遺留分侵害額請求は法的に認められた権利であり、遺留分を侵害された相続人はこれを主張することで相続財産の一部を取り戻すことができます。しかし、遺留分の計算は財産の正確な評価が必要であり、複雑な手続きが伴います。そのため、自分で手続きを行うことも可能ですが、弁護士に相談することを強くお勧めします。弁護士は財産の評価や遺留分侵害額の計算をサポートし、正確で迅速な対応が可能です。

遺言書がある場合の相続において、遺留分が侵害されていると感じた場合には、早めに遺留分侵害額請求を検討することが重要です。

遺言書がある場合の相続に関するQ&A

Q: 公正証書遺言がある場合も相続手続きに遺産分割協議書は必要ですか?

A: 公正証書遺言がある場合、基本的には遺産分割協議書は不要です。公正証書遺言は、公証人という法律の専門家が作成するもので、その証明力や執行力が高いため、遺言に記載された内容に従って財産を分ければ問題ありません。公正証書遺言には具体的な財産の分け方が明記されているため、通常は遺産分割協議を行う必要がなく、遺産分割協議書を作成する必要もありません。

ただし、相続人全員が遺言の内容に同意しない場合や、遺言書が無効である場合などには、相続人全員で遺産分割協議を行い、新たな遺産分割協議書を作成することも可能です。

Q: 遺言書の内容に納得できない場合、どのように対応すればよいですか?

A: 遺言書の内容に納得できない場合、まず相続人全員で話し合い、全員の実印を押した遺産分割協議書を作成することで、遺言書に沿わない遺産分割を行うことが可能です。ただし、相続人全員の同意が必要であり、一人でも同意しない場合はこの方法は取れません。また、遺留分が侵害されている場合には、遺留分侵害額請求を行うことで法的に一定の相続分を請求することができます。この請求には、「相続の開始および遺留分侵害を知ったときから1年以内」または「相続開始から10年以内」に行う必要があります。

さらに、遺言書の内容に相続分が侵害されていないものの不満がある場合は、家庭裁判所を通じて遺産分割調停を申立てる方法もあります。これにより、公正な分割方法についての調停を試みることができます。これらの手続きは法的な知識が必要となるため、弁護士に相談することをお勧めします。

まとめ

遺言書がある場合の相続手続きは、遺言書の内容を確認することから始まり、遺産の分配や相続税の申告まで多岐にわたります。まず、遺言書の存在を確認し、他の相続人に知らせることが重要です。その後、遺言書の種類を確認し、必要に応じて家庭裁判所に検認の申立てを行います。遺言執行者が指定されている場合は、その者が中心となって手続きを進めます。

また、遺言書があっても相続人全員が同意すれば、遺言内容とは異なる遺産分割協議を行うことができます。特に、遺言書に記載されていない財産や遺言が無効である場合には、改めて協議が必要です。さらに、遺言書の内容が遺留分を侵害している場合、相続人は遺留分侵害額請求を行う権利があります。

遺言書がある場合の相続手続きでは、法的な手続きや税務申告が関わるため、専門家のサポートを受けることが推奨されます。遺言書に基づいた相続を円滑に進めるために、法律事務所の助けを借りることで、複雑な手続きを確実に行うことができます。正確な手続きを踏むことで、相続人全員が納得のいく形で遺産を分配し、円満な相続を実現しましょう。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。