遺族年金と自分の年金両方もらえるの?65歳以降は両方受給可能なケースも

相続手続き

更新日 2024.10.01

投稿日 2024.07.05

監修者:弁護士法人あおい法律事務所

代表弁護士 雫田雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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「遺族年金と自分の年金両方もらえるの?」と疑問に思う方は多いでしょう。配偶者を亡くして遺族年金を受給している場合、自分の年金受給年齢になったとき、遺族年金と自分の年金両方もらえるのか気になるのは当然です。実際、65歳以降、遺族年金と自分の年金を両方受給できるケースがあります。

遺族年金と自分の年金の関係性を理解するためには、各年金制度の仕組みや受給要件を把握することが重要です。この記事では、「遺族年金と自分の年金両方もらえるの?」という疑問に答えるために、両者の受給条件や受給方法について詳しく説明します。遺族年金と自分の年金両方もらえるのかを知ることで、将来の経済的不安を軽減し、安心して年金生活を迎えるための準備を進める一助となるでしょう。

目次

もらえるのは1人1年金が原則

日本の公的年金制度では、「1人1年金」の原則があります。これは、支給事由が異なる複数の年金を受給できる場合、どちらか1つを選択する必要があるというものです。たとえば、遺族年金を受給している人が、自分の老齢年金を受け取る年齢に達したとき、両方の年金を同時に受給することはできません。

公的年金は大きく分けて遺族年金、老齢年金、障害年金の3種類があります。遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金があり、老齢年金には老齢基礎年金、老齢厚生年金、特別支給の老齢厚生年金があります。障害年金も同様に、障害基礎年金と障害厚生年金に分かれています。

これらの年金は、それぞれ基礎年金と厚生年金の2階建て構造になっています。基礎年金は全ての20歳以上60歳未満の人が加入する国民年金制度から支給され、厚生年金は会社員や公務員が加入する年金制度から支給されます。

年金を受給する際には、支給事由が異なる年金、例えば遺族年金と老齢年金の両方を同時に受け取ることはできません。そのため、遺族年金を受け取っている人が老齢年金を受給できる年齢になった場合、どちらか一方の年金を選択する必要があります。

具体的な例として、遺族厚生年金を受け取っている人が特別支給の老齢厚生年金を受け取れる年齢になった場合、どちらの年金を受け取るかを選ばなければなりません。また、同じ支給事由の年金でも、2つ以上の基礎年金や厚生年金を同時に受け取ることはできません。例えば、配偶者の死亡により遺族厚生年金を受給している人が、子供の死亡によって新たに遺族厚生年金を受給する場合、どちらか一方を選ぶ必要があります。

遺族年金と自分の年金両方もらえるケース

65歳以降は遺族年金と自分の老齢年金の両方を受給できる

がある場合、「1人1年金」の原則が適用されます。つまり、この期間中は遺族年金か老齢年金のどちらか一方を選択しなければなりません。

しかし、65歳以降になると状況が変わります。この場合、遺族年金と自分の年金の両方を受給することが可能になります。ただし、両方の年金を同時に受給するためには特定の条件があり、それまでの働き方が影響を与えることになります。

つまり、60歳から64歳まではどちらか一方の年金を選択しなければならない一方、65歳以降は条件を満たせば両方の年金を同時に受け取ることができるということです。この違いを理解し、自分に合った年金の選択をすることが重要です。

①専業主婦(主夫)や個人事業主の場合│遺族厚生年金と国民年金(基礎年金)を一緒に受給できる

専業主婦・主夫や個人事業主として働いていた方が該当します。これらの方は、自身の老齢厚生年金を受給する資格がないため、遺族年金と老齢基礎年金の組み合わせが主な選択肢となります。

具体的には、配偶者が会社員や公務員であった場合、遺族厚生年金を受け取ることができます。そのうえで、遺族基礎年金と老齢基礎年金のいずれかを選択することが可能です。

ただし、遺族基礎年金を受給するためには、子供がいることや子供の年齢が要件となります。子供がいない場合や、65歳の時点で子供が成人している場合などは、遺族基礎年金を受給できないため、老齢基礎年金を選択する必要があります。このように、子供の有無や年齢によって選択肢が変わる点に注意が必要です。

年金の種類

遺族年金

老齢年金

厚生年金

 

国民年金(基礎年金)

※△:どちらか一方を選択

②会社員や公務員として働いていた場合│遺族厚生年金と老齢基礎・老齢厚生年金を一緒に受給できる

過去に会社員や公務員として働いた経験がある方は、遺族年金と老齢年金の両方を受給できる特別なケースがあります。これは、老齢厚生年金に遺族厚生年金の額を上乗せする制度が存在するためです。この制度により、複数の年金を受給することができます。

具体的には、65歳以降に自分の老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取ることができます。その上で、亡くなった配偶者が会社員や公務員であった場合、遺族厚生年金も受給可能です。ただし、遺族厚生年金のうち、自分の老齢厚生年金に相当する部分の金額は支給が停止されます。

したがって、遺族厚生年金と老齢厚生年金の合計額がそのまま支給されるわけではありません。

65歳以降に配偶者が亡くなった場合、遺族厚生年金の支給額は以下の2つの金額のうち、大きい方となります。

  1. 遺族厚生年金の年金額
  2. 遺族厚生年金の3分の2と、自分の老齢厚生年金の2分の1を足した金額

自分の老齢厚生年金の額が大きい場合、この2つの金額を比較し、より高い金額が支給されます。

年金の種類

遺族年金

老齢年金

厚生年金

国民年金(基礎年金)

 

※遺族厚生年金の額が老齢厚生年金の額を上回る部分のみ受給できます。

遺族厚生年金の受給金額などについて詳しくは、下記記事を参照してください。

亡くなった人が会社員や公務員でなかった場合はどちらかを選択

遺族年金と老齢年金の両方を同時に受給できるのは、特定の条件を満たした場合のみです。これまで紹介したパターン以外では、遺族年金か老齢年金のどちらか一方を選択して受給することになります。

具体的には、亡くなった配偶者が会社員や公務員ではなかった場合、基本的には遺族厚生年金の対象にはなりません。このため、遺族年金と老齢年金の両方を受け取ることができず、どちらか一方を選ばなければなりません。

例えば、配偶者が自営業者や専業主婦(主夫)であった場合、遺族厚生年金を受給することはできません。この場合、遺族基礎年金か老齢基礎年金のどちらかを選択することになります。ただし、遺族基礎年金の受給には子供の有無やその年齢といった条件があり、これを満たさない場合は老齢基礎年金を受け取ることになります。

ただし、配偶者が亡くなったときに会社員や公務員ではなくても、他の要件を満たすことで遺族厚生年金を受給できる場合もあります。例えば、配偶者が過去に一定期間以上会社員や公務員として働いていた場合、その期間に基づいて遺族厚生年金が支給されることがあります。この場合、条件が整えば遺族年金と老齢年金の両方を受け取ることが可能です。

以下では、遺族年金か自分の老齢年金かどちらかを選択しなければならない場合に、どのように選択すべきかについて解説します。

遺族年金と自分の老齢年金はどちらを選ぶべき?

亡くなった人が会社員や公務員として働いたことがない場合、遺族厚生年金を受給することはできません。

この場合、遺族基礎年金を受給できる可能性がありますが、遺族基礎年金と老齢年金は一緒に受給することはできないため、いずれかを選択する必要があります。

そこで、どのようなことを考慮して選択するべきかを解説いたします。

受給金額で決める

遺族厚生年金を受給できない場合、遺族年金として受け取るのは遺族基礎年金のみとなります。この場合、遺族基礎年金と老齢基礎年金のどちらか一方、より金額の大きい方を選択して受給します。

遺族基礎年金と老齢基礎年金の受給額を比較する場合、次のような計算になります。令和6年4月分からの遺族基礎年金の年額は816,000円に加えて、子供の人数に応じた加算額があります。

子どもの加算額は以下の通りです。

1人目および2人目の子ども

各234,800円

3人目以降の子ども

各78,300円

一方、令和6年4月分からの老齢基礎年金の年額は816,000円です。

この場合、遺族基礎年金と老齢基礎年金の額を比較し、大きい方を選択して受給します。遺族基礎年金には子供の加算があるため、多くの場合、遺族基礎年金の方が高くなるでしょう。

遺族基礎年金の受給金額や受給要件について詳しくは下記記事を参照してください。

自分が会社員や公務員として働いた経験がある場合

自分が会社員や公務員として働いた経験がある場合は、老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金も受け取ることができます。この場合、自分の年金としては老齢基礎年金+老齢厚生年金を受給でき、遺族年金としては遺族基礎年金が受給できます。この両者を比較して、金額が大きい方を選択して受給します。

税金を考慮した手取り金額で決める

遺族年金と老齢年金の受給に関しては、税金の扱いが異なります。遺族年金は全額非課税となるため、受給額に対して税金がかかりません。そのため、遺族年金の手取り額は実際に受け取る金額が多くなる場合があります。

一方、老齢年金については雑所得として課税対象となります。公的年金に係る雑所得の計算には控除額が設定されており、基礎控除と併せて一定金額までは所得税が発生しません。具体的には、60歳から64歳までの人が年金を受給した場合、年間108万円以下であれば所得税はかかりません。65歳以上の人の場合、年間158万円以下であれば所得税はかかりません。

この控除額を超える年金を受給した場合や他に所得がある場合は、所得税が発生します。しかし、扶養控除など他の所得控除を適用することで、さらに非課税となる金額が高くなることもあります。したがって、受給者自身の状況に応じて、どの年金を受け取るのが最も有利かを検討することが重要です。

遺族年金と障害年金はどちらが得?両方もらえるケースは?

遺族年金と障害年金のどちらが得かは、人によって異なるため、個別に判断する必要があります。

遺族基礎年金と障害基礎年金の金額は同じです。遺族厚生年金の支給金額は、死亡した方が本来受け取るはずだった老齢厚生年金の4分の3となります。

一方、障害年金については、受給者が障害基礎年金のみ受け取る場合と、障害厚生年金も受け取る場合があります。障害基礎年金と遺族厚生年金を比べると、遺族厚生年金の方が金額が大きくなることが多いです。

しかし、障害厚生年金を受け取る場合は、障害基礎年金に加えて障害厚生年金が支給されます。障害厚生年金の支給額は、厚生年金保険料の支払額や期間によって異なりますが、年150~200万円以上になることが一般的です。

遺族厚生年金と障害厚生年金のどちらの額が大きくなるかは、個々の状況によります。そのため、具体的な金額を知りたい場合は、年金事務所で確認することをお勧めします。

  • 遺族年金 > 障害年金の場合:この場合、障害年金を申請しても、遺族年金のみを受け取ることになります。両方を同時に受給することはできません。そのため、障害年金よりも遺族年金の方が金額が大きい場合は、急いで障害年金を申請する必要はありません。
  • 遺族年金 < 障害年金の場合:この場合は、できるだけ早く障害年金の申請を行い、障害年金を受け取るようにしましょう。

遺族厚生年金の方が得な場合も事前に遺族年金の申請を

遺族年金の方が高額であっても、事前に障害年金を申請しておくことが有利な場合があります。これは、65歳以上になると遺族年金の額が大幅に減少するためです。

65歳以上になると老齢年金の受給が可能となり、老齢年金が優先されるため、遺族年金の額が減少します。このため、65歳以上では以下のどちらかの受給パターンになります。

  1. 老齢基礎年金+老齢厚生年金(老齢厚生年金が遺族厚生年金より高額な場合)
  2. 老齢基礎年金+老齢厚生年金+遺族厚生年金(遺族厚生年金が老齢厚生年金より高額な場合、その差額分のみ)

障害者の年金受給について

障害者の場合、多くは低所得者に該当し、障害者となった後に国民年金保険料を納付していないことが多いです。障害年金1級・2級の受給者は法定免除により国民年金保険料の納付義務がありませんが、この場合、老齢基礎年金の計算は「国民年金保険料を2分の1だけ支払った」として行われます。そのため、老齢基礎年金の額は満額納付の場合よりも少なくなります。

一方、障害年金1~2級を受け取っている人は、障害基礎年金の受給が可能です。障害基礎年金2級は「国民年金保険料を満額支払った場合と同じ額」が支給され、障害年金1級の場合はその1.25倍の額が支給されます。これにより、老齢基礎年金よりも障害基礎年金の方が有利となります。

65歳以上の年金受給選択肢

障害厚生年金と遺族厚生年金の両方を受け取れる場合、65歳以上では以下の選択肢があります。

  1. 障害基礎年金+障害厚生年金
  2. 障害基礎年金+遺族厚生年金
  3. 障害基礎年金+老齢厚生年金

これにより、老齢基礎年金を選ぶよりも有利な条件で年金を受け取ることができます。

「遺族年金と自分の年金両方もらえるの?」に関するQ&A

Q: 65歳以降に遺族厚生年金と老齢年金の両方を受給できる条件は何ですか?

A: 65歳以降に遺族厚生年金と老齢年金の両方を受給することは可能ですが、特定の条件を満たす必要があります。

  1. 老齢基礎年金のみ受給する場合:国民年金に加入しており、保険料の納付済期間が10年以上である場合、老齢基礎年金が支給されます。この場合、遺族厚生年金も引き続き受給できます。
  2. 老齢厚生年金の受給額が遺族厚生年金より少ない場合:遺族厚生年金の受給額が老齢厚生年金より高い場合、その差額分が支給されます。老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を受給することも可能です。

このように、遺族厚生年金と老齢年金の同時受給は可能ですが、具体的な条件を確認することが重要です。

Q: 特別支給の老齢厚生年金と遺族厚生年金を同時に受給できるのですか?

A: 特別支給の老齢厚生年金と遺族厚生年金は同時に受給することはできません。特別支給の老齢厚生年金とは、男性は昭和36年4月1日以前、女性は昭和41年4月1日以前に生まれた人が、60歳から65歳までの期間に受給できる年金です。この特別措置は、過去の年金制度改正に伴う不利益を補うために設けられました。

特別支給の老齢厚生年金を受ける場合は、遺族厚生年金とどちらかを選択する必要があります。どちらの年金が有利かをよく確認し、最適な選択を行うことが重要です。

Q: 中高齢寡婦加算を受給している場合、65歳以降も老齢年金と併用して受給できますか?

A: 中高齢寡婦加算は、遺族基礎年金が受給されない妻を対象とした救済制度です。遺族基礎年金は18歳未満の子供や、障害者手帳の1級・2級と認定された20歳未満の子供がいる妻に支給されますが、中高齢寡婦加算はこれらの要件を満たさない場合に適用されます。

中高齢寡婦加算は、亡くなった夫が20年以上厚生年金に加入していた場合で、妻が40歳以上65歳未満の時に支給されます。ただし、この加算は65歳で支給がストップし、老齢年金との併用はできません。したがって、65歳以降は中高齢寡婦加算は受給できず、老齢年金のみの受給となります。

Q: 遺族年金と老齢年金のどちらを選ぶべきか、選び方のポイントは何ですか?

A: 遺族年金と老齢年金のどちらを選ぶかを決める際には、受給額と税金の違いを考慮することが重要です。以下のポイントを参考にして選択しましょう。

  1. 受給額の比較:遺族年金と老齢年金の受給額を比較します。例えば、老齢年金が老齢基礎年金のみの場合、一般的には遺族基礎年金の方が高額になることが多いです。また、老齢年金が老齢基礎年金だけか、老齢厚生年金も含まれるかを確認します。老齢厚生年金がある場合は、その上乗せ分も考慮しましょう。
  2. 税金の違い:遺族年金は非課税であるため、税金がかかりません。一方、老齢年金は課税対象となります。老齢年金は64歳までは108万円以上、65歳以上は158万円以上で課税対象になります。受給額が多くても、世帯の総所得によって税額が変わることに注意しましょう。

これらのポイントを考慮して、受給額と税金のバランスを見ながら、どちらの年金を受け取るかを決めることをおすすめします。

まとめ

今回の記事では、遺族年金と自分の年金が両方受け取れるかどうかについて詳しく解説しました。亡くなった配偶者が厚生年金の加入者であれば、自分が国民年金であっても、厚生年金であっても受給資格があれば、遺族年金と老齢年金の両方を受給することが可能です。

しかし、配偶者が自営業などで国民年金のみ加入していた場合は、遺族年金と自分の年金のどちらか一方を選択しなければなりません。選択が必要な場合は、受給額と税金の違いを考慮して、最適な選択をすることが重要です。

また、遺族年金を含めた相続手続き全般については、司法書士や弁護士などの専門家に相談することも一つの方法です。専門家の助けを借りることで、複雑な手続きもスムーズに進めることができます。

遺族年金と自分の年金の受給に関する情報を理解し、賢く選択することで、安心して年金生活を送ることができるでしょう。

この記事を書いた人

弁護士法人あおい法律事務所
代表弁護士

雫田 雄太

略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。

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