遺族厚生年金【徹底解説】遺族厚生年金とは?支給額はいくら?受給要件なども

一家の大黒柱が亡くなった場合に、残された家族の生活を支えるための重要な制度が「遺族厚生年金」です。
遺族厚生年金を受給するには、亡くなった方の年金加入期間や報酬額といった支給要件を満たす必要があります。また、受給者となる遺族も無制限ではなく、その範囲や優先順位が法律によって定められています。
そして、基本的な支給要件だけでなく、他の年金制度との併給の可否もあるため、申請の際に困ることのないよう、遺族厚生年金について事前に確認しておくことが重要です。
そこでこの記事では、遺族厚生年金の基本的な概要、支給の要件や対象となる人の範囲、支給額の計算方法といった制度全般について、弁護士が詳しく解説させていただきます。遺族厚生年金について、本記事が少しでもご参考となりましたら幸いです。
目次
遺族厚生年金
1.遺族厚生年金とは
遺族厚生年金とは、「遺族基礎年金」と並ぶ遺族年金の1つです。遺族基礎年金は国民年金に加入していた方が亡くなった場合に支給される公的年金ですが、遺族厚生年金は会社員や公務員として厚生年金保険に加入していた方が亡くなった場合に支給される公的年金です。
生計を支えていた一家の中心である被保険者が死亡した場合に、その遺族が経済的不安に陥ることのないよう、将来に向けて長期にわたり、遺族の生活の安定を図る目的で制定された制度です。その支給要件等は、厚生年金保険法に定められています。
以下で、具体的に確認していきましょう。
2.遺族厚生年金の要件
2-1.遺族厚生年金の受給権者と保険料納付の要件
遺族厚生年金の受給権者については、次の5つのいずれかに該当する場合に、その者の遺族に支給する、と定められています(厚生年金保険法第58条)。
(受給権者)
厚生年金保険法第58条 遺族厚生年金は、被保険者又は被保険者であつた者が次の各号のいずれかに該当する場合に、その者の遺族に支給する。ただし、第一号又は第二号に該当する場合にあつては、死亡した者につき、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二に満たないときは、この限りでない。
一 被保険者(失踪の宣告を受けた被保険者であつた者であつて、行方不明となつた当時被保険者であつたものを含む。)が、死亡したとき。
二 被保険者であつた者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であつた間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して五年を経過する日前に死亡したとき。
三 障害等級の一級又は二級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が、死亡したとき。
四 保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が二十五年以上である者が、死亡したとき。
2 前項の場合において、死亡した被保険者又は被保険者であつた者が同項第一号から第三号までのいずれかに該当し、かつ、同項第四号にも該当するときは、その遺族が遺族厚生年金を請求したときに別段の申出をした場合を除き、同項第一号から第三号までのいずれかのみに該当し、同項第四号には該当しないものとみなす。
これに関して、短期要件の遺族厚生年金と長期要件の遺族厚生年金に大別することができます。
被保険者が死亡した場合に、死亡者によって生計維持されていた遺族の生活を保障するために支給するという遺族厚生年金は、短期要件の遺族厚生年金になります。これに対し、老齢厚生年金を受給していた者が死亡した場合に、その遺族に老齢厚生年金額の一部に相当する額を支給するものが、長期要件の遺族厚生年金です。
上記のうち、厚生年金保険法第58条1項1号~3号は短期要件の遺族厚生年金で、厚生年金保険法第58条1項4号は長期要件の遺族厚生年金となります。
さて、受給の要件を簡単にまとめますと、次の5つのいずれかの場合に遺族厚生年金を受給することができる、ということになります。
- 厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
- 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
- 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
ただし、どの条件に当てはまる場合かによって、保険料の納付期間の要件もあるため、注意が必要です。
上記の① 厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき、および② 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき、については、「死亡日の前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あること」が必要です。例えば、被保険者期間が20歳から死亡日のある月の前々月までの240ヶ月あった場合、そのうち保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が160ヶ月以上であれば、納付要件を満たしていることになります。
ただし、死亡日が令和8年3月末日までの場合で、死亡した方が65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければ保険料の納付要件を満たすものとされています。
また、上記の④ 老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき、および⑤ 老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき、については、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある方に限られます。
2-2.寡婦年金との併給はできない
ところで、生計維持者の死亡に伴い遺族の生活を保障する給付金として、寡婦年金という制度もあります。夫が死亡した場合、残された妻が遺族厚生年金と寡婦年金の両方の受給資格を得る可能性がありますが、この場合は両方を併給することはできず、どちらか一方を選択しなければなりません(国民年金法第20条1項)。
(併給の調整)
国民年金法第20条1項 遺族基礎年金又は寡婦年金は、その受給権者が他の年金給付(付加年金を除く。)又は厚生年金保険法による年金たる保険給付(当該年金給付と同一の支給事由に基づいて支給されるものを除く。以下この条において同じ。)を受けることができるときは、その間、その支給を停止する。老齢基礎年金の受給権者が他の年金給付(付加年金を除く。)又は同法による年金たる保険給付(遺族厚生年金を除く。)を受けることができる場合における当該老齢基礎年金及び障害基礎年金の受給権者が他の年金給付(付加年金を除く。)を受けることができる場合における当該障害基礎年金についても、同様とする。
これは、公的年金制度は1人1年金の原則」があるためです。遺族厚生年金や寡婦年金の他にも、公的年金には障害年金や老齢年金など様々な年金制度がありますが、異なる種類の年金を同時に受給することは、基本的にはできません。2つ以上の年金の受給権が発生した場合は、どちらか一方の年金を選択することになるのです。この場合、年金事務所に「年金受給選択申出書」を提出することによって、選択しなかった方の年金の支給を停止することになります。
なお、公的年金制度は「2階建て」の構造になっており、同じ種類の年金であれば、基礎年金と厚生年金を組み合わせて受け取ることができます。例えば、老齢基礎年金と老齢厚生年金、障害基礎年金と障害厚生年金、遺族基礎年金と遺族厚生年金については、それぞれ同時に受給することが可能です。
また、特例として異なる種類の年金を同時に受給できる場合もあります。例えば、65歳以上で老齢基礎年金を受給している方が新たに遺族厚生年金の受給権を得た場合、老齢基礎年金と遺族厚生年金を合わせて受け取ることが可能です。
詳しくは、年金事務所で確認するようにしましょう。
3.遺族厚生年金をもらえる人
続いて、遺族厚生年金の受給対象者について確認していきましょう。
遺族厚生年金の受給対象者は、「死亡した方によって生計を維持されていた人々」と定められています。したがって、遺族であれば誰でも受け取れるわけではなく、「生計を維持されている」という条件を満たす必要があります。この「生計の維持」については、日本年金機構で次のように説明されています。
「生計を維持されている」とは、原則次の要件をいずれも満たす場合をいいます。
1.生計を同じくしていること。(同居していること。別居していても、仕送りをしている、健康保険の扶養親族である等の事項があれば認められます。)
2.収入要件を満たしていること。(前年の収入が850万円未満であること。または所得が655万5千円未満であること。)
出典:年金用語集 さ行 生計維持(日本年金機構)
つまり、生計維持と収入要件という2つの条件を満たしている場合に、遺族厚生年金を受給することができるのです。
遺族厚生年金をもらえる人の2条件
- 生計を同じくしていること
同居していることまたは、別居しているが仕送りを受けている、健康保険の扶養親族であるなどの事情があること。 - 収入要件
前年の収入が850万円未満、または所得が655万5,000円未満であること。
そして、上の条件に当てはまる場合でも、さらにその「遺族」の中で優先順位が定められています(厚生年金保険法第59条)。
(遺族)
厚生年金保険法第59条 遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者又は被保険者であつた者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母(以下単に「配偶者」、「子」、「父母」、「孫」又は「祖父母」という。)であつて、被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時(失踪そうの宣告を受けた被保険者であつた者にあつては、行方不明となつた当時。以下この条において同じ。)その者によつて生計を維持したものとする。ただし、妻以外の者にあつては、次に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。
一 夫、父母又は祖父母については、五十五歳以上であること。
二 子又は孫については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるか、又は二十歳未満で障害等級の一級若しくは二級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと。
2 前項の規定にかかわらず、父母は、配偶者又は子が、孫は、配偶者、子又は父母が、祖父母は、配偶者、子、父母又は孫が遺族厚生年金の受給権を取得したときは、それぞれ遺族厚生年金を受けることができる遺族としない。
3 被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時胎児であつた子が出生したときは、第一項の規定の適用については、将来に向つて、その子は、被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時その者によつて生計を維持していた子とみなす。
4 第一項の規定の適用上、被保険者又は被保険者であつた者によつて生計を維持していたことの認定に関し必要な事項は、政令で定める。
具体的には、以下の遺族のうち、最も優先順位の高い方が受給することになるのです。
-
配偶者(夫は妻の死亡時に55歳以上、妻は年齢制限なし)・子ども(18歳未満、または20歳未満で障害等級1級または2級の障害を持つ場合)
さらに以下の優先順位があります。
1.子どものいる妻、または子どものいる55歳以上の夫
2.子ども
3.子どものいない妻、または子どものいない55歳以上の夫 -
亡くなった人の父母(死亡時に55歳以上)
-
亡くなった人の孫(18歳未満、または20歳未満で障害等級1級または2級の障害を持つ場合)
-
亡くなった人の祖父母(死亡時に55歳以上)
それでは、以下で遺族厚生年金の受給者について詳しく見てみましょう。
3-1.配偶者
遺族厚生年金の受給資格者の中で、最も優先されるのは配偶者です。
配偶者のうち、「妻」は自身の年齢に関係なく遺族厚生年金を受給することができます。
ただし、夫の死亡時に30歳未満であり、かつ子どもがいない場合は、5年間の有期給付となります。これは、18歳未満の子を有しない30歳未満の妻は、一般的に自ら就労して所得を得ることができることから、本来は遺族厚生年金の支給対象とする必要性が少ないと考えられるものの、夫が死亡した後の生活を調整する必要から、5 年間だけ遺族厚生年金を支給することとなっているためです。
一方、「夫」が遺族厚生年金を受給できるのは、妻の死亡時に55歳以上である場合です。さらに、55歳以上であってもすぐに支給が開始されるわけではなく、原則として夫が60歳になってから支給が始まります。
ただし、例外として、妻の死亡時に55歳以上の夫が遺族基礎年金もあわせて受給できる場合には、60歳未満であっても遺族厚生年金を受給することが可能です。
厚生年金保険法における「配偶者」には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者(いわゆる事実婚の配偶者)も含まれます(厚生年金保険法第3条2項)。
厚生年金保険法第3条2項 この法律において、「配偶者」、「夫」及び「妻」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。
さらに、戸籍上の配偶者がいる上での内縁関係の配偶者(重婚的内縁関係)については、法律上の婚姻関係が「事実上の離婚状態(実体を失い形骸化し、固定化して近い将来解消される見込みがない状態)」にあるときに限り、遺族厚生年金の受給権者になり得ると考えられています。
3-2.子ども
次に優先して受給者となるのは、子どもです。遺族厚生年金については、18歳に到達する年度の末日(3月31日)までの子ども、または20歳未満で障害等級1級または2級の障害を持つ子どもが受給対象となります。
子どもは配偶者と同様に第一順位の受給資格者ですが、配偶者よりは優先順位が低いです。そのため、妻もしくは55歳以上の夫と、子どもの両方がいる場合には、子どもではなく妻もしくは55歳以上の夫が優先して受給することになります。
3-3.父母や祖父母
配偶者や子がいない場合に限り、死亡当時に55歳以上だった父母や祖父母も、遺族厚生年金の受給対象となります。
ただし、支給開始時期に注意が必要です。被保険者の死亡時に父母や祖父母が55歳以上60歳未満の場合、年金の支給は60歳から始まります。つまり、55歳で受給資格を得た場合でも、実際に年金を受け取るのは60歳からとなります。
遺族厚生年金はいつまで受給できるのかについては、こちらの関連記事でも詳しく解説しております。本記事とあわせて、ぜひご覧ください。
4.遺族厚生年金の請求
遺族厚生年金を受け取るためには、「生計を維持していた人が亡くなった翌日から5年以内」に行わなければなりません。この5年間の期限を過ぎると、年金を受け取る権利である「基本権」が時効を迎えてしまいます。
手続きを5年以内に行えば、過去に受け取っていなかった未支給分もさかのぼって受給することができます。また、期限内に手続きを行うのが難しい場合には、その理由を書面に記載して申立てをすることで、時効を停止させ手続き期限を延ばすことができる場合もあります。
とはいえ、生活を安定させるための重要な制度ですから、なるべく早く準備を整えて申請をすることが大切です。
遺族厚生年金の受給要件を満たしている場合、以下の流れで申請手続きを行います。
- 死亡届の提出
まず、亡くなった方の死亡届を市町村役場に提出します。 - 資格喪失届または年金受給権者死亡届の提出
次に、亡くなった方の資格喪失届または年金受給権者死亡届を提出します。亡くなった方が在職中であった場合は、その勤め先に資格喪失届を提出します。年金受給者であった場合は、年金事務所に年金受給権者死亡届を提出します。 - 必要書類の提出
最後に、以下のような必要書類を年金事務所または年金相談センターへ提出します。- 基礎年金番号通知書または年金手帳等
- 戸籍謄本(記載事項証明書)または法定相続情報一覧図の写し
- 世帯全員の住民票の写し
- 死亡者の住民票の除票
- 請求者の収入が確認できる書類
- 子の収入が確認できる書類
- 死亡診断書(死体検案書等)のコピーまたは死亡届の記載事項証明書
- 受取先金融機関の通帳等(本人名義)
必要書類は請求を行うケースによって異なりますので、事前に年金事務所や年金相談センターで確認するようにしてください。
また、こちらの関連記事もあわせてご覧いただければと思います。
遺族厚生年金の金額はいくら?
1.遺族厚生年金の計算方法
それでは、実際の計算を見ていきましょう。
本記事で遺族厚生年金には短期要件と長期要件の2つがあるとお伝えしましたが、短期要件と長期要件では、年金額の計算も異なってきます。
例えば、短期要件の遺族厚生年金の場合は、死亡した者の厚生年金の加入期間が300月(25年)未満であっても、300月加入したとみなされて年金額が計算されます(厚生年金保険法第60条1項1号但書)。
(年金額)
厚生年金保険法第60条1項 遺族厚生年金の額は、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める額とする。ただし、遺族厚生年金の受給権者が当該遺族厚生年金と同一の支給事由に基づく国民年金法による遺族基礎年金の支給を受けるときは、第一号に定める額とする。
一 第五十九条第一項に規定する遺族(次号に掲げる遺族を除く。)が遺族厚生年金の受給権を取得したとき 死亡した被保険者又は被保険者であつた者の被保険者期間を基礎として第四十三条第一項の規定の例により計算した額の四分の三に相当する額。ただし、第五十八条第一項第一号から第三号までのいずれかに該当することにより支給される遺族厚生年金については、その額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が三百に満たないときは、これを三百として計算した額とする。
一方で、長期要件の遺族厚生年金の額は、死亡した者の実際の厚生年金の被保険者期間に応じて計算されることになります。
なお、例えば、厚生年金に25年以上加入しており、被保険者である者が死亡した場合には、「厚生年金の被保険者が死亡したこと。(厚生年金保険法第58条1項1号)」と「老齢厚生年金の受給権者又は25年要件を満たす者が、死亡したこと。(厚生年金保険法第58条1項4号)」の2つに当てはまります。このような、短期要件と長期要件の両方に該当するときは、遺族が申し出ない限り、短期要件に該当すると考えられています(厚生年金保険法第58条2項)。
厚生年金保険法第58条2項 前項の場合において、死亡した被保険者又は被保険者であつた者が同項第一号から第三号までのいずれかに該当し、かつ、同項第四号にも該当するときは、その遺族が遺族厚生年金を請求したときに別段の申出をした場合を除き、同項第一号から第三号までのいずれかのみに該当し、同項第四号には該当しないものとみなす。
実際には、有利な方の金額が支給されているというのが実状のようです。
1-1.遺族厚生年金の基本額の計算方法
それではまず、遺族厚生年金の基本額の計算方法を確認しましょう。
遺族厚生年金の年金額は、亡くなった方の厚生年金加入期間と報酬額に基づいて計算されます。具体的には、亡くなった方が受け取るはずだった老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4が遺族厚生年金として支給されます。計算方法は以下の通りです。
まず、老齢厚生年金の報酬比例部分を計算します。この部分は、平成15年3月以前の加入期間(A)と平成15年4月以降の加入期間(B)に分かれます。
具体的には、AとBを足して、3/4を掛けた金額が遺族厚生年金の年金額となります。
平成15年3月以前の加入期間(A)の計算式は以下の通りです。なお、この場合の平均標準報酬月額とは、平成15年3月以前の各月の標準報酬月額を再評価率で現在価値に再評価し、その総額を加入期間の月数で割ったものです。
一方で、平成15年4月以降の加入期間(B)の場合の計算式は以下の通りになります。この場合の平均標準報酬額とは、平成15年4月以降の各月の標準報酬月額と標準賞与額を再評価率で現在価値に再評価し、その総額を加入期間の月数で割ったものです。
1-2.老齢厚生年金の報酬比例部分による計算方法
65歳以上で老齢厚生年金(退職共済年金)を受け取る資格がある方が、配偶者の死亡により遺族厚生年金を受け取る場合、老齢厚生年金と遺族厚生年金の両方を同時に受給することができます。
だだし、年金額の計算方法には特別な規定があり、老齢厚生年金が優先的に支給されます。以下の2つの額を比較し、高い方が遺族厚生年金として支給されます。
- 亡くなられた方の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4(①)
- ①の額の2/3 と ご本人の老齢厚生年金の額の1/2 の合計
例えば、亡くなられた方の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4が60万円、ご本人の老齢厚生年金の額が50万円の場合で計算してみましょう。
①は60万円なので、②の計算式は「(60万円 × 2/3) + (50万円 × 1/2)」となり、「40万円 + 25万円 = 65万円」となります。
この場合、①よりも②の方が高いため、②の65万円が遺族厚生年金として支給されます。一方で、本人の老齢厚生年金相当額は支給停止となります。
また、平成19年4月1日以前に遺族厚生年金の受給資格があり、かつその時点で65歳以上(昭和17年4月1日以前生まれ)の方については、遺族厚生年金の額は常に①の額になります。
2.受給権者が妻である場合の加算制度
遺族厚生年金には、夫を亡くした妻に対して特別な加算給付の制度が設けられています。一つは「中高齢寡婦加算」で、もう一つは「経過的寡婦加算」です。
2-1.中高齢寡婦加算
中高齢寡婦加算は、特定の条件を満たす妻に対して、40歳から65歳になるまでの間、年額612,000円が遺族厚生年金に加算される制度です。この加算は、以下のいずれかに該当する場合に適用されます。
- 夫が亡くなった時点で妻が40歳以上65歳未満であり、生計を同じくしている18歳未満の子ども(または20歳未満で障害等級1級または2級の障害を持つ子ども)がいない場合
- 遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子のある妻(40歳に到達した当時、子がいるため遺族基礎年金を受けている)が、子が18歳到達年度の末日に達した(障害の状態にある場合は20歳に達した)等のため、遺族基礎年金を受給できなくなった場合
この制度は、老齢厚生年金の受給権者または受給資格期間を満たしている夫が亡くなった場合で、夫の厚生年金保険の被保険者期間が20年以上である場合に適用されます。また、特例により、20年未満でも共済組合などの加入期間を除いた老齢厚生年金の受給資格期間を満たしている場合も含まれます。
2-2.経過的寡婦加算
経過的寡婦加算は、特定の条件を満たす妻に対して遺族厚生年金に加算される制度です。この加算は、以下のいずれかの条件を満たす場合に適用されます。
- 昭和31年4月1日以前に生まれた妻が65歳以上で遺族厚生年金の受給権が発生した場合
- 中高齢寡婦加算を受けていた昭和31年4月1日以前生まれの妻が65歳に達した場合
65歳になると中高齢寡婦加算が終了しますが、経過的寡婦加算が代わりに支給されるため、年金額の急激な減額を防ぐことができます。
経過的寡婦加算の額は、昭和61年4月1日から60歳に達するまで国民年金に加入した場合の老齢基礎年金の額と合わせて、中高齢寡婦加算と同額程度になるように設定されています。これにより、65歳以降も安定した年金受給が続けられるようになっています。
なぜ?遺族厚生年金は支給停止されることも
ところで、遺族厚生年金には、「失権」や「支給停止」という制度があります。遺族厚生年金の制度の趣旨が「死亡した者の遺族の生活の安定を図る」ことにあるため、補助の必要がなくなった場合には支給する必要もなくなる、と考えられているためです。
以下では、どういった場合に失権や支給停止となるのかを確認しておきましょう。
1.遺族厚生年金の受給権を失権する場合
失権とは、遺族厚生年金の受給資格を完全に失うことを意味します。失権となると、その資格を復活させることはできません。一度失権してしまうと、遺族厚生年金を再び受け取ることはできなくなります。遺族厚生年金の受給権が失権する理由は複数あり、いずれかの条件に該当すると遺族厚生年金を受け取る権利が完全に失われることとなります(厚生年金保険法第63条)。
(失権)
厚生年金保険法第63条 遺族厚生年金の受給権は、受給権者が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、消滅する。
一 死亡したとき。
二 婚姻(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)をしたとき。
三 直系血族及び直系姻族以外の者の養子(届出をしていないが、事実上養子縁組関係と同様の事情にある者を含む。)となつたとき。
四 離縁によつて、死亡した被保険者又は被保険者であつた者との親族関係が終了したとき。
五 次のイ又はロに掲げる区分に応じ、当該イ又はロに定める日から起算して五年を経過したとき。
イ 遺族厚生年金の受給権を取得した当時三十歳未満である妻が当該遺族厚生年金と同一の支給事由に基づく国民年金法による遺族基礎年金の受給権を取得しないとき 当該遺族厚生年金の受給権を取得した日
ロ 遺族厚生年金と当該遺族厚生年金と同一の支給事由に基づく国民年金法による遺族基礎年金の受給権を有する妻が三十歳に到達する日前に当該遺族基礎年金の受給権が消滅したとき 当該遺族基礎年金の受給権が消滅した日
2 子又は孫の有する遺族厚生年金の受給権は、次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、消滅する。
一 子又は孫について、十八歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了したとき。ただし、子又は孫が障害等級の一級又は二級に該当する障害の状態にあるときを除く。
二 障害等級の一級又は二級に該当する障害の状態にある子又は孫について、その事情がやんだとき。ただし、子又は孫が十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるときを除く。
三 子又は孫が、二十歳に達したとき。
3 父母、孫又は祖父母の有する遺族厚生年金の受給権は、被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時胎児であつた子が出生したときは、消滅する。
簡単にまとめますと、以下のような場合です。
- 受給者が死亡したとき
- 受給者が婚姻したとき
- 受給者が養子になったとき(受給者が直系血族及び直系姻族以外の養子になった場合)
- 受給者が離縁によって親族関係を終了した場合
- 子どもや孫が18歳の誕生日を迎えた年度末(3月31日)を過ぎたとき(ただし、障害等級1級または2級の場合は20歳まで)
- 子どものいない30歳未満の妻が、遺族厚生年金の受給権を取得してから5年経過したとき
- 子どものいる30歳未満の妻が、遺族基礎年金の受給権を失ってからさらに5年経過したとき
失権の条件は非常に複雑で、受給者の状況によって異なります。たとえば、婚姻によって受給権を失った場合、その後離婚しても再度遺族厚生年金を受給することはできません。このように、一度失権すると受給権は復活しません。
受給権の失権に関する疑問や不安がある場合は、年金事務所に直接問い合わせてご相談いただくことをおすすめいたします。
2.一時的に支給停止する場合
一方で、支給停止とは、遺族厚生年金の支給が一時的に停止されることを指します(厚生年金保険法第64条~同法第68条)。
失権とは異なり、状況が変われば支給停止が解除され、再び遺族厚生年金を受け取ることが可能です。例えば、一定の収入を超えた場合や公的扶助を受けた場合などが該当しますが、こうした状況が変われば再び支給が再開される可能性もあるのです。具体的には、次のようなケースが該当します。
- 労働基準法で定められた遺族補償が行われるとき
労働基準法に基づく遺族補償が行われる場合、遺族厚生年金は死亡日から6年間支給停止となります。この期間中は、遺族補償が優先されるためです。 - 受給権を持つ夫、父母または祖父母が60歳未満のとき
夫、父母、祖父母が受給権を持っていても、60歳未満の場合は支給が停止されます。60歳に達すると支給停止が解除され、年金の受給が開始されます。 - 受給権者の所在が1年以上明らかでないとき
受給権者の所在が1年以上確認できない場合も支給が停止されます。所在が明らかになった時点で支給が再開されます。
このように、遺族厚生年金には支給停止となる条件がいくつかありますので、それぞれの状況に応じて適切に対応することが重要です。
遺族厚生年金は非課税
遺族年金は非課税なので、遺族厚生年金を受給しても、所得税、住民税、相続税などの税金は課税されません。遺族厚生年金をはじめとして、国民年金法、厚生年金保険法、恩給法、旧船員保険法、国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法、私立学校教職員共済法、旧農林漁業団体職員共済組合法に基づいて支払われる遺族年金や遺族恩給は非課税とされています。
なお、老齢遺族年金や老齢厚生年金は、収入としてみなされて所得税の課税対象となります。
遺族厚生年金は非課税ですので、遺族厚生年金のみについては確定申告も必要ありません。ただし、遺族厚生年金や上記の年金・恩給以外で所得がある場合は、確定申告が必要になります。確定申告が必要な場合でも、遺族厚生年金を収入額に加える必要はありません。
遺族厚生年金に関するQ&A
Q1.遺族厚生年金の受給対象者とその優先順位はどのようになっていますか?
A: 遺族厚生年金を受給できるのは、被保険者によって生計を維持されていた配偶者、子、父母、孫、祖父母です。遺族が複数名いる場合には、最も優先順位が高い遺族が遺族年金を受給することになります。
-
配偶者(夫は妻の死亡時に55歳以上、妻は年齢制限なし)・子ども(18歳未満、または20歳未満で障害等級1級または2級の障害を持つ場合)
さらに以下の優先順位があります。
1.子どものいる妻、または子どものいる55歳以上の夫
2.子ども
3.子どものいない妻、または子どものいない55歳以上の夫 -
亡くなった人の父母(死亡時に55歳以上)
-
亡くなった人の孫(18歳未満、または20歳未満で障害等級1級または2級の障害を持つ場合)
-
亡くなった人の祖父母(死亡時に55歳以上)
Q2.遺族厚生年金の支給額はいくら?
A: 遺族厚生年金の支給額は、亡くなった方の厚生年金の加入期間や報酬額に基づいて計算されます。基本的には、亡くなった方が受け取るはずだった老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4の金額が支給されます。
支給額の計算方法は次の通りです。
- 平成15年3月以前の加入期間
平均標準報酬月額 × 7.125/1,000 × 加入期間の月数 - 平成15年4月以降の加入期間
平均標準報酬額 × 5.481/1,000 × 加入期間の月数
これらの合計額の3/4が遺族厚生年金として支給されます。
また、特定の条件を満たす場合、例えば、40歳以上で子どもがいない妻には「中高齢寡婦加算」が適用され、65歳まで年額612,000円が加算されます。さらに、遺族基礎年金と併せて受給する場合や、他の特例が適用されるケースもありますので、詳しい支給額については年金事務所に確認することをおすすめいたします。
Q3.65歳以上の場合、遺族厚生年金の支給額はどのように計算しますか?
A: 65歳以上で老齢厚生年金(退職共済年金)を受け取る資格がある方が、配偶者の死亡により遺族厚生年金を受け取る場合、年金額の計算方法には特別な規定があります。具体的には、以下の2つの額を比較し、高い方が遺族厚生年金として支給されます。
- 亡くなられた方の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4
- ①の額の2/3とご本人の老齢厚生年金の額の1/2の合計
また、平成19年4月1日以前に遺族厚生年金の受給資格があり、かつその時点で65歳以上(昭和17年4月1日以前生まれ)の方については、遺族厚生年金の額は常に①の額となります。
まとめ
本記事では、遺族厚生年金について弁護士が解説させていただきました。
遺族厚生年金は、会社員や公務員として厚生年金保険に加入している被保険者が死亡した際に、その遺族に支給される年金です。遺族厚生年金年金は、主に配偶者や子どもなど、被保険者の収入で生計を維持していた遺族にとって大きな経済的支えとなる重要な制度です。実際に遺族厚生年金を申請する場合にスムーズに手続きができるよう、制度の基本をきっちりおさえておいていただければと思います。
遺族厚生年金の受給額は、亡くなった方の生前の収入や厚生年金の加入期間によって異なり、計算方法は非常に複雑です。具体的には、亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4が支給されます。65歳以上の場合は、亡くなった方の老齢厚生年金の3/4と、①の額の2/3とご本人の老齢厚生年金の額の1/2の合計額を比較し、高い方が支給されます。
手続きに関しては、関連記事にて詳しく解説しておりますので、本記事とあわせてぜひご覧いただければと思います。
遺族厚生年金をはじめとする公的年金の受給に関してお悩みがありましたら、弁護士法人あおい法律事務所にご相談いただければと思います。当法律事務所では、弁護士による法律相談を初回無料で行っております。当ホームページのWeb予約フォームやお電話にてお問合せいただけますので、ぜひお気軽にご利用ください。
この記事を書いた人
略歴:慶應義塾大学法科大学院修了。司法修習終了。大手法律事務所執行役員弁護士歴任。3,000件を超える家庭の法律問題を解決した実績から、家庭の法律問題に特化した法律事務所である弁護士法人あおい法律事務所を開設。静岡県弁護士会所属。
家庭の法律問題は、なかなか人には相談できずに、気付くと一人で抱え込んでしまうものです。当事務所は、家庭の法律問題に特化した事務所であり、高い専門的知見を活かしながら、皆様のお悩みに寄り添い、お悩みの解決をお手伝いできます。ぜひ、お一人でお悩みになる前に、当事務所へご相談ください。必ずお力になります。






